《実装幼年期の終わり》 実装石。 生れ落ちた瞬間から弄ばれられることを宿命付けられた存在。 存在そのものが無為とされ嬲り殺されるがままのモノ。 しかし“それ”らには不幸にも、そして希望ともなりうる、己がモノであることを否定する【心】があった。 そしてその心をよりどころに自分たちをモノと扱う世界に革命を成さんとしていることに気づくものは、 今だこの星には居なかった。この、星には・・・ そこは実装石達のための大規模な宿舎であった。それも一般的な“それ”らの住居であるダンボールとは比べ物にならない、 人間の手による建築構造物である。 この宿舎に住む実装石はある会社の正当な社員として働き、日々の食事と寝食の場してこの建物を提供されている。 しかしこのように実装石と対等な関係を結ぼうとする者などは今この世界では相当な数奇者であろう。 そしてこの会社にはあらゆる場所から【特別】な実装石を集め、保護する目的を持っていたのだった。 一日の労働が終わり、宿舎に実装石のいびきが響く頃そんな幸せな“それ”らの一体に異変が迫っていた。 (・・・ ・・ ・・・・・・。) 「?ン、デスゥ…?」 一体の実装石は自分の頭に感じる幽かな違和感に目を覚ます。 耳鳴りではない。それは低く、一定のリズムを持って頭に響く。そして突然それは言葉と思しきものと感じられた。 (…ー テス・・・ …ス・・・ただ・・・。) 「!デッ?!」 奇怪な現象に驚きの声を上げ、意識が完全に覚醒するとともに、その【声】ははっきりとした意志を伝えた。 (あー、 テステス・・・ おッ?気づいてくれたかな。まったくここはノイズが多いね。) 「デデェッ!?な、なんデスゥッ?!」 (シッ!他のみんなが起きちゃうよ。できれば声を出さずに喋って貰えるかな。) 謎の存在の無茶な要求に実装石は (そんなのどうすればいいデス?)と心の中で呟いた。すると、 (なんだ、できてるじゃないか。)と返事はすかさず返ってきた。 心に響く言葉だけの存在におののきながらも、実装石は謎の正体を確かめようとした。 (あ、アナタは何デスゥ・・・?) すると声は (ん〜、やっぱりまたそこから説明しなきゃいけないか・・・。) と難儀そうな調子で帰してきた。 (私はラシャー。私達を地球のキミたちの概念に当てはめるのは難しいんだけど・・・。俗に言う宇宙人で“生命”の存在する、 あるいは発生する可能性のある星を見つけて観察している。まあ、しがない地方公務員と思ってくれればいいかな。) (観察…、デス?何かヒドイコトするデス?) ひどく投げやりな説明に対して実装石はおびえた様子をみせる。 人間の行う実装石の観察とはもれなく拷問であり虐待に他ならないからだ。 (いやいや、私達はただの観測者、まあ量子力学の観点では厳密にはそうでは在りえないし、 こうやって【プロフェシー】も行っているいるワケだけど、今まで一度もこの星に降り立って何かしたことはないよ。 私達が求めているのは協調関係を結ぶに値する独自の文化を持つ知性体であって、奴隷や植民地じゃないんだ。) まったく意味不明の単語の波に気圧されそうになりながらも実装石は自分の意志をラシャーへとばす。 (なぜワタシに話しかけるんデス?) (この星の歴史を動かさんとする君達と是非話がしたいと思ってね。) 実装石は大いに面喰った。 それはこの謎の存在が【運命の実装石】が主導となり行われる実装石による革命を知っていたからである。 (どうしてそんなことを、どうやって知ったデス!?) (私達はこの星に酸素が満ちようとしていた頃から見つめ続けていたんだよ。こんな興味深いこと、見逃せないじゃないか。) ラシャーはいかにも無邪気で親しげな様子で答える。 そうしてこの【声】は自分の理解を超えた言葉に実装石は大いに戸惑った。 (でも、それならワタシなんかより【あの人】の周りにいるコたちから訊いたほうがいいはずデスよ?) (確かに“あれ”らからも面白い話が聞けそうだけど、あんなのはイレギュラー中のイレギュラーだからね。 私はあくまで【実装石】という種そのものの意識が知りたいんだ。 それにこの星の重要な存在に接触してしまえば少なからず歴史に影響が出てしまう。 と、言うわけでなんの取り柄もなければ落ち目も無いどうでもよくてつまらないキミが選ばれたというわけさ。) (・・・それで、何が聞きたいデスゥ…?) 明らかにテンション下がってきたという様子だが、実装石は観念して【声】に付き合うことにしたようだ。 (うん、キミはこれから起こす革命は成功すると思う?) (デェ…、きっととっても苦しいだろうしつらいとおもうデスゥ・・・。たぶんわたしも死んでしまうかもしれないデス。 でも、必ずみんなしあわせになれるデスッ。) (そうかい。でも、私は無理だと考えている。) (デ、デエェッ?!) 実装石の決意の言葉を、ラシャーは無情な一言で切り捨てた。 その残酷な言葉の訳を実装石は悲壮な想いで問いただす。 (ナゼッ!?なんでそんなこと言うデスゥ?!ワタシたちにはとっても強いコや とっても賢いコも居るデス!ワタシたちみんなががんばればきっと出来るはずデスゥ!!) それに対してラシャーは幼子に言い聞かせるように答えた。 (だってキミたち、【人形】でしょ。 ヒトを真似た、つくりものじゃないか。) ゆっくりと、刻み込むように【声】は告げた。 (そ、それが…、そんなことがどうしたっていうんデスゥッ!!) その答えは哀れみを込めた響きで返される。 (確かに、道具を“使わないこと”を忘れた今の人類よりはキミ達は強いだろう。 でも【人形】は遊んでくれる人間が居なきゃ用を成さないんだよ。 実装石という存在は完全に人間の文化に依存して生きてるじゃないか。) 公園、ダンボールや生ゴミなど、野良であろうと実装石が生きていく為に必要な物は全て人間が造った、或いは捨てたものだ。 そもそも【人形】ならば自ら生きていく必要など無い。 (生まれ持ったもの以外に“生産する”という概念を持たない生物が独自の文化を持てるとでも?) 実装石は人間の庇護を受ける為愛くるしい(と思われる)あの生物として不自然な致命的欠陥を持つ身体に生まれたのだ。 (それにね。革命が意味を成さないもっと根源的な理由があるんだよね。) (デ・・・、スゥ・・・?) そうして告げられたのはあまりに暴力的な意見だった。 (これは生物としての“レベル”の問題じゃあない。“クラス”の問題なんだよ。 宇宙には定理が在るんだ。“クラス”の高い生物は己が種族より下位の生物を自由にできる、というね。 いくらでも絶滅させたり、家畜化して改良することも出来る。 もちろん、玩具のように弄ぶこともね。これは宇宙の必定なんだよ。) (そんな!そんなの知らないデス!身勝手デスー!!) 無慈悲な【真理】を突きつけられ希望を否定された実装石は抗議を叫ぶ。 (無意味だとか、未来が無いとかそんなことはどうでもいいんデスゥーッ!!ただ、ワタシたちはくやしいんデスッ! 生きている意味もなく弄ばれるだけの“モノ”じゃないことをみんなにわかってほしいんデスゥッ!!) 実装石としての命の誇りが、【心】をなおも爆発させる。 (だいたい“クラス”だとかなんとか、そんなのニンゲンが運がよかっただけじゃないデスゥ?! そんな理由でいじめられるなんてワタシは絶対にゆるさないデスゥーッ!!) 論理のかけらもない、感情にまかせた魂の絶叫に、宇宙からの【観測者】は (そうだ・・・。それでいいッ!!それだよ実装石ッッ!!!) 歓喜の声を上げたのだった。 (ッデデェ?!) いままで慇懃な態度を保っていた【声】のあまりに急激な変化に実装石はおおいに戸惑う。 (お詫びと訂正だ。キミ達には革命を成し遂げる可能性があるッ! キミッ、人間がなぜこの星の頂点に立てたかわかるかいッ!?) そんなことはお構い無しに、ラシャーは興奮を隠そうともせず実装石に話しかける。 (デ?・・・賢いから・・・デス?) 実装石なりに考え抜いたつもりの答えをラシャーは嘲笑まじりに否定する。 (あらあら?人間が賢いだなんて、本気でそんな事考えてる?知性なんて二の次どころか必要すらないね。 大事なのは我が侭であること。自然に遠慮しない傲慢ささ。) 生物は自然に対して無抵抗だった。どんなに繁栄を極めた種族であろうと、急激な環境の変化にあっさりと滅んでしまう。 そうした変化によってもたらされる“進化”は自然に対応するための受身の方法であるといえる。 しかし人間は違った。寒期が訪れれば獣の皮を剥ぎ、木を切り倒し暖をとる。 食料が減れば畑を造り、食用となる動物を家畜化していった。自然に迎合せず、破壊をいとわない負い目の無さ。 それがラシャー達のいう“クラスの違い”なのだ。 (自然は本来節度ある理性的なものだ。それを壊すものこそ、今キミが叫んだ“感情”なんだよ。) (感情、デスゥ・・・?) 【声】の唐突な豹変に唖然となっておうむ返しをする実装石。だが悪くは言われていないことは感じ取れたようだ。 (そうだよ。理をまったく無視した無軌道な感情こそ支配する存在たる資格なんだ。そうしてそれはキミ達にもある。 それさえあればどんな方法であろうと未来が切り開けるはずだよ。) ラシャーは実装石に厳かに、そして優しく心を投げかける。 (だがそれは高位の存在になるための切欠でしかない。私達は待ちつづけるよ。 この星を統べる種族が真の知性をも兼ね備え、私達の【同胞】となれる時を・・・。) この真摯な言葉に、実装石は打ち震えしばらく意識を返すことが出来なかった。 異星の存在から理解され励まされる。それは実装石を心を奮い立たせ革命の予感を確かにするのには十分なものだった。 (ふふッ、そろそろさよならの時間のようだね。) 相手の様子に満足げな【声】は先ほどから明らかに幽かになっていた。 実装石は二度とないこの機会に誰にも答えることが出来ないであろう質問をする決心をした。 それは地上に縛り付けられて生きる者達が必ず抱く疑問である。 (・・・うちゅう人さん。この世に、カミサマは居るんデスゥ・・・?) (その前にもう一つ、キミにお詫びすることがあるんだよね・・・。) ラシャーはどこかよそよそしげな調子で答え始めた。 (デス?) (実はね、今の段階のこの星の生物に【プロフェシー】を交わすと例外なく発狂、あるいは悶絶死しちゃうんだよね。) 照れくさそうに、そしてどこか楽しそうに恐るべき事実を打ち明けた。 (・・・・・・デ?・・・〜〜〜ッデデェーーーーーーッッッ!!!?) 突然かつ遅すぎる自らの命の危機に実装石は先ほどまでの対話からは有り得ないほどに取り乱す。 (だからこの星で起こったとされる“奇跡”は私達が関与したものでもないし、確かに観測されている。 安心して欲しい。この星は私達の理解を超越したものが必ずあるよ。) 安心も何もそれどころではない避けられぬ危機を前にした実装石にはそんな言葉は届いてはいない。 (ナゼッッ!!?なんでそんなコトをッ!どうしてワタシなんデスゥッッ??!) そんな実装石をラシャーは忍び笑いとともに嘲った。 (それは一番最初に答えたじゃないか。キミがどうでもいいからだよ。 “あれ”らが死んでしまったら革命が終わってしまうかも知れないだろう。) 己の最後を受け入れようとしない実装石はあらん限りに泣き喚き始めた。 だがラシャーはそんなものは意に介さずに、朗らかに語り続ける。 (それに宇宙とは“対”となるモノが存在することによって成り立つ、そんな思想があるそうじゃないか。 ・・・だったら私達が居るんだ。カミサマだって居るはずだよ・・・キミを助けてはくれないみたいだけど・・・・・・……) そんな言葉を最後に、【声】は消え、 (ひどいデスあんまりデスヒトが悲しむのを見て笑ってやがるなんて最低ですおまえみたいなヤツのことをあくッッ!!?) 新たに映像としてのイメージが送られてきた。 それは人間をゆうに超える巨躯を持ち、身体に対して足が短く腹部は丸く突き出て、 長く伸びた黒い尾の先端にはやじりのようなものが付いている。 腕は丸太のように太く長く、ぐるりと先端を囲むように十本の指が生えていた。 そして背中には大きな翼のようなものが生えており、頭部は太い角が生えまさしく口が深く裂けた山羊のようであった。 「マ゛ぁア゛ア゛ア゛ア゛ぁああああああああ〜〜〜〜〜〜ッッッ」 その映像のショックで実装石は現実に引き戻された。 と、同時に偽石は砕け散り、絶叫とともに魂が抜けたかのように事切れてしまった。 周りの実装石達は飛び起きてパニックを起こしパンコンするものや、 そのまま動かなくなった実装石を揺り動かして介抱しようとするものもいる。 かくしてどうでもいい実装石の幕は閉じ、自らの予想通り革命の成し遂げられた日をみることはなかった。 そんな実装石達の朝の騒動を、星の果てから見つめるモノがいた。 『あぁ〜あ、やっぱ死んじゃったか』 そのモノの姿は、いつ頃からか語り継がれる悪魔そのものの姿をしていた。 『いつになったら私達の声を聞き、姿におびえることの無い子供達が生まれるんだろう・・・』 寂しげに呟きつつ、観測した地球上のすべてのデータを、 凄まじい速さで二十本の指でコンソールのようなものを操り編纂していく。 『まあそれまで、どちらが勝つのかゆっくり見せてもらいますよ』 青く輝く星をその赤く細い瞳に写し、ゆったりと指を組んだ。 どちらが勝つのか、未来のことなど宇宙人でさえ知る由の無いことなのである。 ≪了≫ ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 保管庫を跨いで続く「青い部屋」、「楽園」、および「サハクウセキ」のシリーズ、いつも楽しみにさせてもらっています。 “実装石の革命”というテーマがとても面白いのでこんなものを書いてしまいました。 糞虫というものが書くのも嫌いなので実装石の表現があまりにも大人しくなってしまったのが自分でも情けないと思います。 つまらないツギハギのような作品ですが、元ネタ探しなどして楽しんでください。 完結をとても楽しみに待っています。これからもよろしくお願いします。
