託児改革 もうすぐ冬。 気温はどんどん下がり、公園を根城とする実装石達も、いよいよ生活が厳しくなってきた。 特に、子供が多い家族の場合はそれだけ越冬が困難になる。 中には自分の子供を食料の備蓄と考えている親も居るが、愛情深い親にはそんな割り切り など出来はしない。 そのため、なんとか子供達だけでもまともな環境で冬を過ごせるようにと「託児」行為に走る。 言うまでもなく、これは人間に子供を託して飼い実装にさせてしまおうという目論みだ。 これは実際は成功率が低く、仮に飼い実装になれたとしても、せいぜい虐待派のオモチャに されるのが関の山という危険極まりないものだ。 しかし当の親にとっては、寒さと飢えで死ぬよりはまだ生存の可能性が残されているように 思えるわけで、その結果「どうしても避ける事が出来ない」行為のように思えてしまう事が多々ある。 だがそれ以前に、実装石達にとっては「託児行為そのものの失敗率の高さ」の方が重大な 問題だった。 コンビニから出て来た人間の買い物袋の中に、子供を投げ込む。 これは、本来腕力のない実装石にとっては難しい行動だ。 託児を行う親実装は、人間に気に入ってもらうために出来るだけ賢い子を選ぶ傾向がある。 しかし、そんな子供達のほとんどは飛距離が足りずアスファルトに激突したり、袋から落下 したりして緑と赤の染みと化してしまう。 これでは、まるで愛情を込めて賢い仔をわざわざ間引いているようなものだ。 ここN潟県N市C公園の実装石コミュニティでは、そんな託児行為の根源的問題の解決を 真剣に議論していた。 もちろん、議論と言っても実装石レベルの、であるが。 ここに、一匹の成体実装がいる。 名前はモモ。 元飼い実装だった経歴を持つ、コミュニティの知恵袋的存在だ。 この実装石はかなり賢かったがそれだけではなく、他の者と違って「発明」にも長けていた。 発明と言ってもちょっと変わったアイデアを提供するという程度なのだが、それでも コミュニティ内では充分役立っており、重宝されていた。 この日も、託児問題改善を主張したある成体実装に招かれ、モモは集会場に使われている 公衆トイレの屋根の上にやって来た。 問題定義。 どうやって確実に仔実装を人間の袋に投入するか これに対して、モモはあっさりと回答を出して皆を驚かせた。 モモが用意したものは、どこかのゴミ捨て場で拾ってきた何本かのプラスチック製の筒。 直径は様々で、長さも色々ある。 モモは、これを使えば遠投力は格段に向上し、託児成功率は目覚しく上昇する筈だと主張 した。 早速行われる実験。 公園の公衆禿裸奴隷アカの目を拾った絵の具で赤く染め、強制出産させる。 「「「「テッテレー♪」」」」 モモは、2メートルほど離れた木の枝に吊るしたビニール袋の中に、次々とアカの産み出した 蛆実装を投げ込んでいく。 「レピャアァァッッ……チベッ?!?!」 「ピャアァァッ!! ペチャッ!!」 プチュッ、プチュッ! 「ああああ!! ワタシの赤ちゃんガァァッッ!!!」 パキン! 実装石にしては、実に画期的なアイデアだった。 モモの提案は、コミュニティ内で即座に認知される。 そしてその日の夜から、早速行動を開始する者達が出て来た。 ■■■ 「いいデスか、お前はニンゲンさんの所で大人しく素直にするデスよ。 絶対にニンゲンさんを困らせてはいけないデス。 わかりましたデスね?」 「わかったテチュ。 ママ、今まで本当にありがとうございましたテチュ。 ワタチ、ニンゲンさんの所で一生懸命頑張って、ニンゲンさんの癒しになりたいテチュ♪」 「がんばるデスよ。 お前はワタシの最後の仔、自慢の仔デス。 必ず幸せになって欲しいデス。 …じゃあ、準備するデスよ」 「ハイテチュ!」 この親実装は、公園に近いコンビニの脇に待機していた。 脇と言っても、他の実装石が託児する時のように、ゴミ箱の傍に立っているわけではない。 入り口から数メートル離れた駐車場、そこに停められている車の陰に潜んでいたのだ。 手にしているのは、長さ20センチほどのプラスチックの筒。 生後一週間ほどの賢い仔実装に説明を加えると、これを筒の中に詰め込む。 筒の直径は仔実装の身体より若干大きいため、出ようと思えばいつでも出てこれる。 しかし覚悟を決めた仔実装は、筒の中で腕を突っ張り、じっとしていた。 真剣な表情を湛えて、前方にある筒の出口を睨んでいる。 数分後。 人間が出て来た。 こちらに気付いてはいない。コンビニ袋も自然体で構えている。 託児しろと言ってるような、隙ありすぎの体勢だ。 親実装は、成功を確信した。 「いくデスよっ!」 「テチュ!」 タッタッタッ… 親実装は走り出す。 スピードが乗って来る。手にした筒を後方にかざし、思い切り前方に振り回す! 加速力と遠心力が、筒の中の仔実装の身体に作用する。 「 ど っ せ い ! 」 ブンッ! ぷぴょっ! 「テチャアァァァァァ…………」 ヒュウゥゥゥゥゥゥン……… 筒から高速で飛び出した仔実装は、親実装の想像を超えるスピードで人間目掛けて飛んで いく。 恐らく、従来の「仔投げ」の数倍以上の加速がついているのだろう。 仔実装は、路面に落下する事なく、人間の許へと到着した。 「チベッ?!」 べちゃっ 『エッ? ……う、うわぁぁぁっ、なんだこれぇぇっっ?!?!』 「デ…?」 超スピードで飛んだ仔実装は、頭から真っ直ぐに人間の腕に激突し、上着に見事な緑赤の 華を咲かせた。 「デ…デデ?!」 『くそおぉぉっ、お前かアッ!! 俺にウンコ投げつけたのはっっ!!』 「ち、違うデスっ! い、今のは、ワタシの子供が…!」 『昨日クリーニングから戻ってきたばかりだってぇのに! この糞蟲があっ!!』 「デ?!」 ぐしゃあっ!! 哀れ、親実装は男の靴の裏で一生を終えてしまった。 苦しい冬を乗り越える努力をしなくて済むようになったせいか、親実装の死に顔はとても 穏やかだった。 ——多分。 ■■■ その後、「筒に入れた仔実装を遠心力で遠くへ投げ飛ばす」野良実装が多発し、地域住民 は甚大な被害を受けることになる。 もちろん、その被害内容は「服や買った物が汚される」というものだった。 中には仔実装が顔に命中したというケースもあった。 保健所はこれを深刻に受け止め、大規模な一斉駆除を行った。 数週間後。 同じく、C公園。 ここには、一斉駆除で生き残った実装石達が、あらたな問題を検討していた。 遠投作戦は親実装側に特殊な技量が必要となり、長時間の練習と「弾」が求められる。 ただでさえ大幅に仲間と奴隷が死んでしまった以上、そのように消耗を激化させる策は やはり使えない。 そんな意見の下、モモにはあらたな託児法の考案が依頼された。 だがモモは、またもすぐに答えを出した。 絵の具で、禿裸奴隷ムラサキに強制出産させる。 「「「テッテレー♪」」」 モモは、拾ってきたひもを生まれた蛆実装に巻き付ける。 そして、公衆トイレの下に袋を持った成体実装を待機させる。 屋根の上から、スルスルと蛆実装を垂らすモモ。 「レピャァァァッ!! 高いレフ怖いレフチビっちゃうレフ!!」 パキン! スルスル…ぽふっ 蛆実装は、恐怖で自壊してしまったものの、無事袋の中に収まった。 「ああああ!! ワタシの赤ちゃんガァァッッ!!!」 パキン! モモの画期的アイデアは、コミュニティ内で即座に認知された。 そしてその日の夜から、早速行動を開始する者達が出て来た。 ■■■ 「いいデスか、お前はニンゲンさんの所で大人しく素直にするデスよ。 絶対にニンゲンさんを困らせてはいけないデス。 わかりましたデスね?」 「わかったテチュ。 ママ、今まで本当にありがとうございましたテチュ。 ワタチ、ニンゲンさんの所で一生懸命頑張って、ニンゲンさんの元気の素になりたいテチュ♪」 「がんばるデスよ。 お前はワタシの最後の仔、自慢の仔デス。 必ず幸せになって欲しいデス。 …じゃあ、準備するデスよ」 「ハイテチュ!」 この親実装は、なんとコンビニの屋根の上で待機していた。 このコンビニの建物のすぐ脇には傾いて伸びている木があり、成体実装ならなんとか上る 事ができる。 公園のトイレの屋根にも同じ理屈で上れるため、この親実装も、特に苦労なく移動できた。 手にしているのは、長さ数メートルのタコ糸を束ねたもの。 生後一週間ほどの賢い仔実装に説明を加え、これを身体に縛り付ける。 糸は途中で少しだけ噛み千切られており、親実装が強く振るとプチッと千切れるようになって いる。 覚悟を決めた仔実装は、真剣な表情を湛えて、眼下を睨んでいる。 「では、行くデス!」 するするする… 親実装は、糸を伸ばして仔実装を降ろしていく。 そして、ある程度の高さで止め、人間が出てくるのを待つ。 数分後、自動ドアの開く音が聞こえた。 「今デスッ!」 ぶん… 紐を振り、仔実装を振り子のように揺らす。 視界から微妙に外れているのか、前方に意識を向けているOLは、吊るされた仔実装に 気付かない。 揺られた振動で、仔実装の糸がさらに千切れる。 ここで糸が見事切れれば、間違いなく仔実装はOLの手の袋の中に落下する! 親実装は、成功を確信した。 「テェェェェ…気持ち悪いテチュ〜〜」 ぶりぶりぶり ゲロゲロゲロ 『えっ? ……キャアァッッッッ?!?!』 「デッ?!」 なんという事だろう。 吊るされた仔実装は、腹を縛られている違和感とフラフラ揺れる振動にすっかり気分を悪化 させてしまっていた。 OLのコンビニ袋に降り注ぐ、仔実装の糞とゲロ。 それは袋のみでなく、OLのスーツすら容赦なく汚していく。 そして糸が切れて、汚物の元凶がOLの腕にぶつかった。 『ギャァァッッッ!!! 何なのよコレエェッッッ!!! この服、昨日買ったばかりなのよオォッッッ?!?!』 「…テチュ? テ…テッ……チュ〜ン…♪ ……ゲロゲロベエェェェ」 小さな身体に見合わない、大量の汚物が流れ出る。 『この糞蟲ガァァッッッ!!! ど っ せ い ! 』 ぶんっ! ぐちゃっ!! 怒りに駆られたOLによって、遥か彼方に投げ飛ばされる仔実装。 哀れ、緑と赤の染みとなって短い一生を終えた。 「デシャアァッッッ!!! ワタシの仔があぁっっっ!!!」 『そこに居たのっ?! あんたがやったのねっ!! 絶対許さないからっ!!』 その後、OLの被害申告を受けたコンビニの店員が、屋根の上に上って親実装の身柄を 拘束。 親実装は、袋に詰められた上に四方八方から殴る蹴るの暴行を受けまくり、物言わぬ肉塊 と化した。 ■■■ その後も、「仔実装を屋根の上から吊るして糞とゲロをばら撒く」野良実装が多発し、 地域住民はさらに深刻な被害を受けることになる。 中には途中で糸が切れ、仔実装が被害者の頭の上で脱糞するというケースもあった。 保健所はこれを深刻に受け止め、再度大規模な一斉駆除を行った。 数週間後。 またまた、C公園。 二度に渡る一斉駆除でもかろうじて生き残れた実装石達が、あらたに問題を検討していた。 吊り下げ作戦は、仔実装の耐久力・我慢強さを著しく低下させる要素があり、託児以前の 問題が発生する。 練習の際は死んだ蛆実装を使ったため気付かなかったが、これでは託児は決して成功 しない。 ただでさえ大幅に仲間と奴隷が死んでしまった以上、これでは本末転倒だ。 そんな見解の下、モモにはさらなる託児法の考案が依頼された。 だがモモは、またまたすぐに答えを出した。 公衆禿裸奴隷アオに、強制出産処理。 「「「「「「「テッテレー♪」」」」」」」 モモは、生まれた蛆実装を一匹抱えると、公園を囲む柵の上に立ち、じっと待機する。 やがて、コートを来た若い男が歩いてきた。 ぴょん! ジャンプするモモ! 若い男にぶつかる! 「おっと、ごめんよデス」 『?! な、なんだあ、こいつ?』 若い男がびっくりしている間に、モモはそそくさと退散する。 よく見ると、既に蛆実装の姿はない。 公園に戻ったモモに、皆の質問が集中する。 なんとモモは、人間にぶつかった拍子に蛆実装をポケットの中に詰めて来たのだ。 いわゆる「逆スリ」方式である。 行き先は柔らかくて暖かい所だし、入れるべき所まで急接近するので、成功率は著しく上昇 する。 皆は、モモの新しいアイデアを絶賛し、大きく評価した。 「で、ワタシの蛆ちゃんはどうなるデス?」 「そんなの知ったこっちゃないデス」 「デェェェェ!!! ワタシの蛆チャアアアン!」 パキン! ■■■ そしてその日から、早速行動を開始する者達が出て来た。 「いいデスか、ニンゲンのおうちに行けばおいしい物食べ放題でお風呂もあって清潔な生活 がエンジョイ出来るデスよ。 ただし、絶対にニンゲンを怒らせてはいけないデス。 奴等はワタシ達の下僕の分際で立場をわきまえない糞蟲デス。 お前の可愛らしさでメロメロにして、しっかり洗脳してしまうデス。 わかりましたデスね?」 「わかったテチュ。 ママ、今まで本当にありがとうございましたテチュ。 ワタチ、ドレイニンゲンに一生懸命奉仕させて、いつかママを迎え入れてあげるテチュ♪」 「がんばるデスよ。 お前はワタシの最後の仔、自慢の仔デス。 必ず幸せになって欲しいデス。 …じゃあ、準備するデスよ」 「ハイテチュ!」 この親実装は、モモを見習って公園の柵の上で待機していた。 腕の中に抱かれている仔実装は、真剣な表情で公園脇の路を睨んでいる。 しばらく待つと、優しそうな雰囲気の老婦人が歩いてきた。 厚手のコートを着ており、ポケットも大きい。 それに、柵に近い所を歩いている。 これなら間違いなく成功する! 親実装達は、確信を得た。 「「「「「「「「「「「では、行くデス!」」」」」」」」」」」 「「「「「「「「「「「ママ、お願いしますテチュ!」」」」」」」」」」」 ズワアァッッッッ!!! ×11 一斉に宙に舞い踊り、老婦人に飛びかかる、11匹の親実装! そう、柵の上で待機していたのは一組だけではなかった。 仔を持つ親実装全員が、横にズラリと並んで待機していたのだ。 自分に向かって飛んでくる実装石に、一瞬判断力が付いていかない老婦人。 視界が黒く染まる。 やがて、掠れた悲鳴が上がった。 ギャアァ—————ッッッッッ!!!! 「「「「「「「「「「「おっと、ごめんよデス!」」」」」」」」」」」 老婦人のコートの中には、11匹の仔実装が無理矢理詰め込まれていた。 大きさも様々な仔実装達は、一番大きなポケットの中でぎゅうぎゅう詰めとなり、すでに何匹 かは潰れて死んでいた。 コートの色が、一部染み出た体液で濁り、汚れている。 11匹の親達は即座に退避したが、老婦人の悲鳴を聞いて駆けつけた近所の住民達が事態 に気付いた。 「だ、大丈夫ですか! しっかりし……うげっ!」 「な、何これ…!?」 「「「「「「「テ、テテ、テッチュ〜〜〜ン!」」」」」」」 ぶちっ、ぶちっ、ぶちっ! 「「「「「「「テ、テチャアァッッ!」」」」」」」 ポケットから引き摺り出された仔実装達は、問答無用ですべて踏み潰された。 ■■■ その後、老婦人と近所の住民達の被害申告を受けた市は、徹底駆除に至れなかった保健所 を激しく責め立てた。 保健所はプライドを激しく傷つけられ、過去にないほど凄まじい超絶大規模駆除を敢行。 偽石探知機、実装音叉、コロリスプレー等を惜しげもなく導入し、周囲の飼い実装が巻き添え で死んでしまう事も構わんとばかりに、徹底的に鉄槌を下した。 そして一週間後…今度こそ、実装コミュティは全滅した。 ついでに、近所住民の飼い実装計20匹をも巻き込んで。 ■■■ さらに一週間後。 若い男は、自分の部屋の中に漂う凄まじい異臭の原因を突き止めるため、朝から部屋の中 を散策していた。 なんか最近妙に部屋が臭いなと思ったのだが、それがついに決定的になったのだ。 もはや、ファブリーズなどでは対処できないほどになっている。 もちろん、臭いの発生源がわからなければ、防ぎようもないのだが。 若い男は、クローゼットの中に吊るされた自分の衣服をチェックし始める。 途端に、異臭が強まる。 先日新しいコートを買ったので、いずれ処分しようとしまいっぱなしにしておいた古いコート。 そのポケットの中から、とてつもない異臭が湧き出ていた。 「なんで、こんな所から臭いが……ゲエェッッッ!?!?!」 ポケットの中には、信じられないほど大量の糞と、その中に埋まる一匹の蛆実装の姿が あった。 もちろん、蛆実装はとっくに死んでおり、身体は腐敗している。 糞の臭いと腐敗臭は、クローゼットの中の衣服や布製品すべてを汚染していた。 若い男は、今まで全然気付かなかった自分の愚かさと、衣服をチェックしていなかった ずぼらさを激しく呪い、そして、この見知らぬ託児蛆実装を激しく憎んだ。 春は、まだ遠い。 その頃、隣町のD公園内の実装石コミュニティでは、遠方から流れて来た発明家の実装石 を迎えて、今後の託児問題解決について真剣に検討を重ねていた。 (終)
