「 デ……ギャアアア! 」 『 ……っ!! 』 セキを片手で抑えつけていた女社長の横へ、獣装石の一匹が捨て身で体当たりを食らわす。 不意打ちを避けきれず、そのまま姿勢を崩し地面に手を付いた。 「 セキ、しっかりするデス! お前達も何やってるデス!! 」 ホウの部下獣装が、その場に居た残りの獣装石達を叱咤する。 「 今から、みんなを助けに行くデス!! 速くしないと間に合わないデスゥゥ!! 」 獣装石の戦力、セキを含めて僅か10匹。 人間達の力に敵うべくも無い。 だがそれでもホウの部下獣装だけは、尚も全獣装に戦いを促した。 「 セキを…!セキを守るデス!! 」 たとえ10匹といえど、仲間を見捨てるわけにはいかない。 今はセキを中心とし、村の者達を助けに行くべきだと言った。 『 ぅ…邪魔するんじゃないよ!! 』 既に指揮獣装3匹、10体以上の獣装石と戦いを繰り広げていた女社長の体力も尽きかけている。 そこへセキを助けるべく、9匹の獣装石が絶望的な特攻をしかける。 「 ギャア! 」 「 デギャッ! 」 『 このぉ……! 』 獣装石達は打ち倒されようと、振り解かれようと、身体が動く限り女社長へ飛びかかる。 ただ9匹全獣装が、自らが傷つくのもも省みず攻撃を続ける。 ただ1匹、セキを救うために。 『 ぜぇ……ぜぇ……! 』 「 デェ……デッ…… 」 「 なんて……ニンゲンデス…… 」 既に獣装石達の中で無傷の者は居ない。 双方共に息を切らせつつ、降りしきる雨が更に体力を削ぎとって行く。 身動きの取れないセキを助けるべく、獣装石達は自らの身体を盾にして立ち塞がった。 辺りには更に動けなくなった獣装石が数体。 セキの前で立ち塞がるのは僅か3匹のみ。 女社長が、その最後の数匹を倒すべく足を踏み出した時……最も耳にしたくない人間の声が聞こえた。 『 ……お姉ちゃん…? 』 全身を雨に濡らした冬香が、胸に仔実装を抱いてそこへ立っていた。 『 チッ…! 』 女社長が冬香から視線を外し、セキ達の方へ向き直る。 冬香は仔実装を地面に置くと、急いで女社長の許へ駆け寄り……その腕を掴まえた。 『 なんで…!? なんで、お姉ちゃんがセキを…セキをいじめるの!? 』 『 …セキは殺す 』 『 え…… 』 『 これから一生恨んでくれても構わないよ… だけどセキは今、どうしてもここで殺さないと…… 』 腕にすがりつく冬香の手を払う力さえほとんど残されていない。 『 な、なんで…? セキ達を助けてってお願いしたのに……なんでセキを殺さなくちゃいけないの!? 』 『 うるさいっ! 』 怒鳴りつけると冬香の小さな身体を押しのけた。 『 お姉ちゃん…! 』 女社長は冬香の声を無視すると更に前へ踏み出す。 しかし、その前に……傷つきつつもセキを守ろうとする獣装石達と同じく冬香が立ち塞がった。 『 ……っ! 』 前まで学校で虐められていた冬香が、正面から堂々と女社長を睨んでいた。 いつも泣きついてきた少女が、今は大きく手を広げ、自らの手で獣装石を守ろうとしている 『 冬香、どきなさい! 』 『 いやっ! 』 『 どきなさい!! 』 『 絶対にいやっ!!! 』 『 ぐっ…… 』 歯噛みしつつ、女社長は前に進むこともできず自分の姪を見ていた。 更にその足元へ、何者かが駆け寄る。 「 テェ…… 」 冬香の連れてきたコミドリが、女社長のズボンの裾を掴んだ。 「 テェ……テェー… 」 『 コミドリ……危ないから下がってな! 』 「 ダ……メ……テチュ… 」 『 え…… 』 足元で自分の足から離れようとしないコミドリを見た。 今まで鳴き声以外に話すことのできなかった仔実装が、初めて言葉を口にしたのだから。 「 ダメ……テチュ……イジメタラ………ダメテチュ……… 」 コミドリは、手袋をはめた腕でズボンの裾を引っ張り続けている。 その脆弱な手で、女社長を必死に止めようとしていた。 「 オネエサン…… 」 仔実装が自分を呼んだ。 その瞬間……握り締めていたコブシから力が抜けた。 『 は……はは… 』 コブシを解いた社長は柔和な笑みを浮かべていた。 全ての憑き物が落ちたように、先ほどまでの険しさは消え、声を立てて小さく笑い始めた。 『 はは……冬香とコミドリには勝てないね… 』 今の女社長から先ほどまでの殺気は感じられない。 普段の、皆の知ってる顔に戻っていた。 『 ……お姉ちゃん? 』 『 安心しな、もうセキを傷つけたりしないよ だから手当てをしてやりな… 』 女社長は翻ると、セキ達の方へ背を向けた。 『 セキ、大丈夫…!? 』 「 大丈夫デス……あ……ありがとうデス、冬香お姉チャン…… 」 まだ身体を満足に動かせないが、セキが冬香に微笑み返した。 「 けれど……もう、終わりデス 」 『 ん…? 』 「 村は…全て終わりデスゥ…… 」 セキの言葉に、今まで奮闘していた回りの獣装石達が肩を落とした。 今、セキの近くで立っていられるのは僅か3匹。 他の獣装石達は全て女社長に倒され、呻き声を上げるのみである。 もう村の者達を助けに行くことはできなかった。 『 ……あぁ、それなら安心して? 』 「 …デェ? 」 『 うん、セキの仲間達なら、今頃安全な所に居ると思うから 』 「 デェ……どうして…デス? 」 『 それは後で説明するとして……ほら、肩を貸してあげる! 』 冬香はセキの巨体を起こすと、その小さな身体で支えた。 『 アナタ達は動ける? 』 「 わ……ワタシ達は大丈夫デスが、他の仲間が…… 」 『 じゃあ、他の子達も連れて私について来て? 連れていけなければ、また後で迎えに来れば良いから… 』 セキを支えながら、冬香が他の獣装石達を先導して山を降りていく。 獣装石達は全て傷を負っていたが、動ける者はその後についていった。 『 どうしたんですか、社長? 』 「 びっくりさせないでくださいデス〜! 」 安心し、胸を撫で下ろした事務員とサトが女社長に声をかけてきた。 だが女社長は横を通り過ぎ、一匹の実装石の傍に膝をつく。 『 はは……駄目だったよ、ミドリ… 』 「 お……姉サ……ン 」 『 アンタの仔には勝てないね… 』 女社長が乾いた笑いをしつつ、ミドリの手を取って立ち上がらせようとする。 だが、それを見ていたサトは気付いてしまう。 ミドリの顔は真っ青に蒼ざめていた 直ぐ傍でコミドリが嬉しそうにはしゃぎ回っているにもかかわらず、ミドリは呆然としていた。 生気の抜けた顔で女社長を見上げていた。 『 大丈夫さ……全部が決まったわけじゃないんだ それにアタシは、どこにも行かないよ…? いつもミドリとは一緒さ… 』 女社長はミドリの頭を撫でながら、自分の方へ抱き寄せた。 その背中を擦りながら、優しい言葉をかけている。 だが、その光景を眺めつつも事務員とサトから疑問が消えない。 先ほどの理解できぬ女社長の凶行とミドリの謝罪。 全ては上手く行ったはずなのに…なぜ女社長とミドリは悲しげな表情を浮かべるのかと。 『 お〜い、こっちが空いてるぞ〜! 』 『 ここは満員だ、あっちに行ってくれ! 』 ホウ達の山から移住先への山の途中にある舗装された広い道路。 その脇に2tトラック3台と4tトラック5台がエンジンをかけたまま停車されていた。 その回りに集まっているのは、ホウの村の実装石と獣装石達。 社員達に抱き上げられると、その荷台に続々と積まれていった。 『 …こんな短時間でよくこれだけのトラックを用意できたわね 』 『 いえ、これくらいは何でもないですよ 』 その様子を女社長と事務員が傍で眺めている。 その横へ6匹の実装石がやってきた。 『 …上手くやってくれたみたいね 』 『 はい、この子達が色々と知恵を貸してくれましたから 』 サト、2匹の親実装、2匹の仔実装、リボンの実装石。 この実装石達が居たからこそ、ホウの村の者達を全て救いだすことができた。 サトを中心として練り出された救出案、仔実装2匹が根回しした駆除開始の延長。 当然社員達の手助けもあってだが、この6匹の働きには感謝の言葉も無い。 『 ありがとうね、みんな… 』 「 いえ、これくらいの事はできて当然デス 」 先頭のサトが胸を張って応えた。 その顔から謙遜しつつも、女社長に褒められて喜んでいるのが分かる。 「 チププ…他ならぬ社長サンの頼みテチュからね 」 「 仕方ないから一肌脱いであげたテチュ……ャアッ! 」 同じく女社長に褒められて喜ぶ傲岸不遜な仔実装達。 その背後から、親実装達が頭を殴りつけた。 「 この馬鹿娘…! 」 「 社長サンになんて口を聞くデス! 」 『 別に叩かなくても良いよ……それにその仔達も頑張ってくれたんだしね 』 「 社長サンは甘やかしすぎデス! 」 「 それじゃ、この仔達が立派な飼い実装になれないデス! 」 「 テチュ… 」 「 チュア… 」 叩かれ、仔実装達は頭を抑えていた。 『 それにお前も頑張ってくれたね 』 最後に礼を言った相手は、リボンを着けた実装石。 女社長はその頭に手を置くと撫でて…他の実装石と同様に労いの言葉をかけた。 「 いえ、ワタシはサト先生のお手伝いをしただけデス… 」 リボンの実装石もまた、サトと同じく謙遜しながらも微笑み、喜んでいた。 この6匹の実装石達を見て、女社長もまた微笑んでいた。 …だが、その微笑みが止まると地面に片膝をつき、実装石達と目線を合わせた。 僅かに神妙な表情を見せる女社長……静かに口を開いた。 『 …お前達は人間が嫌いかい? 』 1匹1匹の顔を見ながら問いかける。 突然の問いかけに、6匹の実装石達の笑みが一瞬のうちに消えた。 「 どうして、そんな事を聞くデス…? 」 『 ……何となく聞きたくてね。 それで、どうだい…? お前達は人間をどう思ってる…? 』 実装石達は黙り込んだまま、何も答えられない。 サトと2匹の親実装、リボンの実装石の家族は全て人間達に殺された。 2匹の仔実装達も、そんな人間に好意を抱くはずも無い。 「 好きにはなれないデスけど… 」 沈黙を破り、サトが言葉を続けた。 「 社長サンや事務のお姉サンや……会社の人達は大好きデスよ 」 「 デス、ワタシもそうデス! 」 「 社長サンは大好きデス! 」 「 事務サンになら飼われても悪くないテチュね 」 「 嫌いではないテチュ 」 「 ワタシも大好きデスゥ… 」 『 そうかい、アンタ達は…そんなにアタシの事を気に入ってくれてるんだ… 』 実装石達の言葉を聞いた女社長が僅かに微笑んだ。 6匹の実装石達は力強く首を縦に振って肯定し、微笑み返す。 形は違うかもしれないけれど、実装石達は明らかに女社長に対して好意を抱いていた。 他の人間は好きになれないかもしれないが、今、目の前で微笑みかけてくれる人間は大好きだったのだ。 『 ……なら、頑張らないとね 』 女社長は傷ついた腕を抑えながら立ち上がった。 『 え…? 』 「 …? 」 『 お前達のためにも……絶対に……絶対に頑張らないとね…… 』 『 社長…? 』 「 デス? 」 事務員も実装石達も、女社長の言う" 頑張る "の意味が理解できない。 そう、ここに居た者達は誰も理解できていなかった。 話を終えた女社長が背を向ける。 今までサトを始めとする実装石達は彼女に救われた。 人間を見下している仔実装達ですら、女社長に対してだけは心から尊敬していた。 それは自分達の親を助けてくれた過去も理由の一つである。 そして今回、たった1人で獣装石達に立ち向かった。 冬香の願いを聞くため、数十人の駆除の手を退けた獣装石達を打ち倒す。 そして結果的に山の群れを全て救った。 飼い主は今回も同属達を救ってくれたのだ。 その存在はサト達実装石の中で最も大きく、最も頼れる存在であった。 しかし今の後姿からは言い知れない悲壮感が漂っており サト達には飼い主の背中が小さく見えた。 「 ホウ、このニンゲン達は信頼できるデス…? 」 「 今はこれしか無いデス… 」 移住中、突然人間の女の子が現れた。 更にその背後には、大人の男達が数人。 ホウは獣装石を1人、セキへ報告させに行き、戦いを挑もうとしたが様子が違った。 < あなた達って、セキのお友達? > 少女は、セキが飛び出す前の飼い主だと言った。 自分はセキと群れの仲間を助けるためにここまでやってきたと。 そういえば、前に山へ迷い込んできた少女もセキを助けにやってきたと報告を聞いた。 やはり群れの移住は遅々として進まず、脱落実装が出るのは時間の問題だった。 結局、ホウはセキの飼い主を名乗る少女の言葉を信用し、群れの皆に従うよう命じた。 「 ホウ…? 」 「 テンも無事だったデスか! 」 もう逢えないと思っていた若き指揮獣装と再会し、素直にホウは喜ぶ。 満足に動けず、歩くのが精一杯なものの、生きているのは嬉しかった。 「 デェェ!なんで、ニンゲンなんかがここにいるデスゥ!? 」 「 チィ…オマエまで無事とは何よりデス 」 そのチィの後ろに、部下の獣装石達が付いてくる。 やはり無傷の者は一匹もおらず、全員が身体のどこかを負傷していた。 「 ホウ、これはどういうことデス! 」 「 後で説明するデス……今は、このニンゲンの車に乗り込むデスよ… 」 続いて、ホウは村の者達にトラックへ乗り込むよう指示する。 ニンゲン達によってトラックに運ばれ、満員になった2tトラックの一台が発進した。 「 …ホウ…… 」 「 セキ………よく生きて戻ってきたデス… 」 冬香に支えられつつ、山を降りてきたセキにホウが労った。 「 オマエの飼い主サンのおかげで、村の者は助かったかもしれないデス… とにかく今は休むデスよ 」 『 さぁ、セキも速く乗ろう? 』 また後で落ち合うことを約束し、ホウはセキの後姿を見送った。 これで指揮獣装3匹は全て無事が確認された。 ホウは、ようやく少しだけ安心できた気がした。 ほぼ全ての実装石と獣装石を車に積め終わった頃。 指示を終えたホウの前に6匹の実装石が現れた。 全ての実装石は綺麗な身なりをしていることから、この人間達の飼い実装と分かる。 「 はじめまして……アナタが村のリーダー…デスね? 」 先頭のサトがホウへ挨拶をした。 どの実装石も通常の個体からは考えられない程の高い知能を有しているのが分かる。 もし自分の群れに、この中の一匹が居れば…と考えが浮かぶ。 特に白髪の実装石の才能を瞬時に見抜き、ホウは溜め息をついた。 そして同時に、改めて昔の出来事を悔やんだ。 「 …ワシは運が悪かったデスね 」 「 どういう意味デス? 」 「 運が良ければお前達の世話にならずに済んだという意味デス… 」 そのホウの言葉に、2匹の仔実装が口に手を抑えて笑い始めた。 「 チププ……負け惜しみテチュ? 」 「 たかが獣装石如きに何ができると思ってるテチュ? 」 「 その通りデス、ワシだけでは無理デス……デスが…… 」 ホウは遠い昔を思い出していた。 まだ村を作り始めていた頃、冷たい風が吹く季節。 ある公園の入り口にて親仔実装と向き合っていた。 ( ……どうしても行くデス? ) まだ若かった獣装石ホウの前に、仔実装を手に引いた親実装。 その親実装の顔はやつれ、顔色も良くなかった。 今まで厳しい生活をしてきたらしく、親仔共に服は所々擦り切れていた。 ( 気持ちは有りがたいデスけど…… ) 親実装は申し訳無さそうに若きホウへ頭を下げた。 引かれていた仔実装も、それを察していてかホウの方へ向かって会釈する。 ( …せめて暖かくなるまで、ワシの所で暮らさないデス? これからもっと寒くなるデス……それまでゆっくり休めば良いデスよ ) ホウは親実装の身体を気遣い、山を指差した。 ( 今、あの山に村を作ってるデス まだ余り出来上がってないデスけど、アナタ達2匹くらい面倒みるデス ) ( デス…… ) ( そして……できればこれから、ワシの力になって欲しいデスゥ ) 獣装石は自分よりふた回りも小さい親実装に頭を下げた。 近隣の乱暴なマラ実装や実装石を全て懲らしめ、恐れられてきた獣装石。 だが今は、ひ弱な実装石に頭が上がらない。 ( …ゴメンなさいデスゥ ) 再び親実装は頭を下げた。 体格的にホウとは比べようも無い実装石。 だが、その決意はホウでさえ、折り曲げるのは不可能だった。 ( デスか… ) ホウが落胆の声を上げる。 ( ワタシだけでは村を一つ作るのが精一杯デス デスが、アナタさえ居てくれれば…… ) そこまで言いかけて獣装石は口をつぐんだ。 ( ……ワタシはママとの約束を守らないといけないデス ) もう、これ以上獣装石は何も言葉が出なかった。 この実装石は親との約束を守るためには、いかなる苦難も問題としなかった。 ( 色々、ワタシ達の事を気遣ってくれてありがとうデス その代わりといってはなんデスが……ワタシの探してる物が見つかったら仲間に入れて欲しいデス ) ( その時は歓迎するデス… ) ( もしワタシが、もうこの世に居なかったとしても…… この仔を、もしくは更にその仔を…ホウの仲間にして欲しいデス ) ( なら、ワシも後継者を育てるデスよ ワシ以上に強い獣装石を育てて…… ) ( えぇ、ワタシも賢い仔を育てて… ) ( いつか、ワシとアナタの後継者が肩を並べたら……村どころか、実装石の国さえ作れるデスよ ) あの時の自分の言葉は誇張でなかった。 若き頃に出会った実装石と自分が組めば、どんなことでもできると思った。 しかし夢は夢に終わる。 やはりあの時、自分は強引にでも親仔を引き止めるべきだった。 「 …あの実装石さえいれば、今頃はこんな苦労なんかしなくて済んだデスよ 」 「 チ? 」 「 テチ? 」 老練な獣装石は俯き、肩を落としつつサト達の前を通り過ぎようとする。 その時、何かを思い出して立ち止まった。 「 ……そういえば、一つ聞きたいデス 」 「 デ? 」 「 ワシの部下のセキを……片目の獣装石を助けてくれた仔は、どこデス? 」 「 …コミドリに何の用デス? 」 「 セキはワシの大切な部下デス 危ないところを助けてくれたのなら、お礼を言いたいデスよ… 」 そしてミドリとコミドリが呼びに出された。 ミドリに手を引かれ、連れられてきたコミドリに、老獣装が屈んで頭を撫でる。 「 アナタがコミドリデスね? 」 「 テチー♪ 」 初めて出会う老獣装にもコミドリは無邪気に手を上げて応えた。 まだ幼く小さな手にホウの傷だらけの手が触れる。 「 はは…元気な仔デスね ワシはホウデス……セキを助けてくれてありがとうデ……… 」 「 …? 」 コミドリに礼を言いかけてホウの動きが止まった。 途中で言葉が途切れたホウを、サト達は頭をかしげて見ている。 「 デ……デデッ……! 」 自分より遥かに小さな体格の仔実装を前にする百戦錬磨の老獣装の肩が、小さく震えている。 「 ちょっと動かないで……し、失礼する…デス… 」 ホウは震える手でコミドリの右手に……その手袋を外した。 —————————————————————————————————————————————————————— 『 manipulator 』 ある研究者が言った。 「 高度な知能を有する種族ほど、比例して必ず高度な『 manipulator 』としての身体機能を備えている 』 鳥は餌を嘴(くちばし)で掴む。 嘴で巣を作る。 嘴で雛に餌を与える。 嘴で様々な作業をこなす。 だが嘴は嘴である。 それ以上に高度な作業は不可能である。 四足動物は口、前足、後ろ足を駆使して様々な作業をおこなう。 中には角を使って作業をする種も存在する。 だが、やはり単純で簡単な作業しかおこなえない。 そして高度な『 manipulator 』の存在は種族単位で知能を発達させるという。 より高度な作業を可能とすることによって、より高い知能をもたらす。 高い知能は、より高度な作業を。 その連鎖は種族全体の発展に繋がる。 ならば最も発達した『 manipulator 』とは何か? 人類は狩猟時代より道具を作成した。 文字の発明により、次の世代へ蓄積された知識を受け継がせた。 単純だった住居は時と共に高度な建造物へと発展していく。 中世以降は科学が産み出され、より高度な作業を可能とした。 この地球上にて頂点に立つ存在である人間 その人類が有する最も優秀な『 manipulator 』とは——… —————————————————————————————————————————————————————— 「 ご主人サマは間違ってなかったデスゥ!!!! 遂に…! 遂に、ワシは見つけたデスよ……!!!!! 」 手袋を取ったコミドリの腕を取り、ホウが天に向かって歓喜の叫びを上げる。 歓喜の叫びは、夜の山で俄かに消える事無く大きく木霊する。 老実装が天高く、亡き飼い主に向かって吼える コミドリの手には実装石ならば存在する筈のない……5本の指が存在した
