タイトル:長冗なエピローグ
ファイル:捨て実装とカラス・おまけ.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:4355 レス数:0
初投稿日時:2006/11/04-19:51:34修正日時:2006/11/04-19:51:34
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私は感心しつつカラスたちを見送ると、実装石の屍骸と残骸を集め、観察することにした。
屍骸もカメラに収めておかねばな。

仔実装の屍骸は、ウレタン以外は原形をとどめてはいない。
ウレタンは食用ではないから手付かずのままだが、
落下してグシャグシャになったのは服と髪のみを残して、肉片はあらかた喰われたようだ。

「みど」の死体。内臓はすっかり空っぽ。おや、ちぎれた足が残っている。
緑の靴がついた部位は足に違いない。
靴から伸びるのは、なんだ?筒切りにした直径2cmのロウソクをグミでつないだような・・・
指で触って爪を立てる。消しゴムと同じくらいの硬さで簡単に爪が立つ。

軟骨組織だ。軟骨がゼラチン状組織でつながっている。
これが「みど」の骨か。
単純で原始的な構造だ。小型軟骨魚類の脊柱に似ている。
水中ならともかく、陸上生物でこれでは、満足な運動性は望めまい。

だが、再生は非常に安易だろう。ロケット鉛筆のごとく、無くなっただけ
再生産していけばよい。
残っている筋肉繊維をつまんでみるがコンビーフのように脆く、
食用には柔らかくて良かろうが、運動性は絶望的だと類推できる。


「どり」の死体。背骨はまったくなくなり、ちぎられた手足、頭髪が散らばっている。
割れた頭蓋骨も持ってくる。これも頭に肺がある個体だ。

しかし、四肢の構造は「みど」と違っていた。
ひも状の軟骨組織が3本、絡まりあいながら伸びていた。
軟骨組織の間には腱と思われるゼラチン状組織がからみつき、
端は肩および骨盤につながっていたようだ。
これも強度的には不十分だが再生がしやすそうである。

肩の骨はシンプルな棒状で、中心に背骨へのジョイントであろうくぼみがあった。
骨盤は深皿のようで、総排出口のための穴が中心にあり、皿のふちには腱が付着するためのくぼみがあった。
なんというか、ナウシカの巨神兵の骨格を思わせる、
生物ではなくて工業製品のようなシンプルなつくりだ。

肩や骨盤は軟骨ではなくちゃんとカルシウム化してはいたが、
石で叩いてみたところフライドチキンの骨よりももろく、
固焼きせんべいくらいの強度しかなかった。

肋骨は背中側がなくなっていた。というか元からなかった可能性もある。
残った胸の部分は横に走る半円状の軟骨が4本あったが、胸骨は無かった。


「みり」の死体。これが一番損傷が少ない。
肉の無くなった頭を胴体より外して観察する。

重い。「どり」の頭蓋骨の4倍はある。中身が詰まっているのかと覗き込んだが、
耳の穴から眼窩を通して向こう側が見えた。骨に厚みがあるのだ。

私はピンと来て胴体を調べた。腹はごっそりとからっぽで、胸の部分も7割が無くなっていたが、
お目当てのものはあった。肺である。「みり」の頭には脳みそだけなのだ。

「みり」は賢かった→それは脳が多いから→脳を守るため頭蓋骨は頑丈になった。
ということだろうか?

他の部分も調べる。
肩と骨盤は「どり」と大差ないが、背骨が残っていた。
これも陸上脊椎動物としては貧弱なものの、まあ申し分ない構造だった。
腕の構造は「どり」と同様の3つ編み軟骨。
一方、足は膝のところで無くなっていたが、人間同様の構造をしていた。
石で叩いてみたが硬さも十分だ。

頭が重く重心が高くなった分、下半身は頑丈になったということか?
付着している筋肉繊維を引っ張り、強度を調べると、多少は立派になったようだ。
だが、生前の動きを見た限りでは、運動性能に差があるようには見えなかった。
結局、重くなった骨のせいで差し引きゼロになっているようだ。

再生速度は骨格がしっかりすればするほど、遅くなっていく。
知能が高くなれば、危険を回避しやすくなるが、
再生速度が遅くなり、怪我をしたとき生存率の低下につながる。

逆に愚かなままでは危険によく会うが、体構造的に回復は容易になる。
実装石のジレンマである。

ぽつ。頭に何かが当たった。
周りを見れば、地面に黒い点々ができている。雨が降り始めたのだ。
私はあわてて帰り支度を始めた。


家に着くと、私はかばんの中から膨れたビニル袋を取り出した。

実装石の遺品である。

「みり」の頭骨。ウレタン仔実装の屍骸。馬鹿2匹のドールアイおよび破片。

ドールアイは破片も含めざるにあけ、中性洗剤で手洗いする。

頭骨とウレタンの屍骸は2つのバケツに別々に入れた。
頭骨は入れ歯洗浄剤をふりかけ、お湯に漬け込む。
しゅわーと白いあぶくが沸き、骨に残るアブラや肉片を酵素が溶かしていく。
この入れ歯洗浄剤は、以前車に轢かれ、腐乱していたイタチの
骨格標本を作るために購入した残りだ。

ウレタン屍骸は最初に水洗いして、残っていた肉片や骨を取り出す。
幸いにも骨はすべて砕けた破片になっており、
口や総排出口から簡単に出すことができた。
そして、柔らか仕上げの漂白剤につけて汚れを落とす。

ドールアイのところに戻り、大き目の破片を手に取る。
硬さはアクリルくらいだ。ナイフで加工ができるかもしれない。

滑って怪我をしないように水気をふき取り、切り出し小刀でまずは角を削っていく。
感触としては鰹節を削る感じに近い。
作るものは勾玉。多少いびつになったとしても、勾玉のデザインは
それをあまり感じさせない。楕円やキューブなどに加工するよりごまかしが利く。

大まかに形が整ったら、ハンドリューターで鑢をかける。
回転速度を最低にする。生物起源の鉱物(貝殻や珊瑚、角、牙)は熱に弱く、
摩擦熱で焦げやすいからだ。

リューターを全面にかけた後、耐水ペーパーで研磨していく。700番から始め、
最終的には5000番で仕上げる。

研磨終了。最後にリューターで紐を通す穴を開ける。割らないように気をつけ、
0.3mmのドリルから初めて、少しずつ太いビットに変えていく。

できた。

ふっと一息つく。作業時間は1時間ほどか。

出来上がった勾玉だが、まだ安心はできない。
生物起源であるならこの後乾燥、硬化し、
多少の変形、ひび割れなどが生じるかも知れない。
無造作に板の上においといたりすると、
せっかくの研磨がだめになる可能性もある。

塗装したプラモのパーツを乾かす要領で、穴に竹串を差込み、
その竹串を梱包剤の発泡スチロールにさしておく。これでよし。


さて、ウレタンと頭蓋骨の汚れは落ちただろうか?

バケツの中のお湯は茶色くにごり泡は止まっていた。
両方とも一旦水を切り、仔実装はそのまますすぎ、軽く絞って形を整え、
ざるにあけてかわかす。
頭蓋骨は柄付きタワシでこすりながら流水で洗う。
ぬめりが無くなったらクッキングペーパーで水気をとって、
仔実装の死体と同じくざるにあけておく。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・ぬう、自然乾燥を待てぬ。我慢できない。・・・ドライヤーを使おう。

先に乾いたのは頭蓋骨であった。私はエアコンを送風にし、
その下にざるをつるし、仔実装をオート乾燥にかけると、
発泡スチロールに割り箸を4本刺し、
その上に頭蓋骨を置いて、ラッカーを塗り始めた。
これは美観と強度を高めるためである。

一塗ごとに艶を増す頭蓋骨。
「人食い人種の酋長が、夜中に墓場で大太鼓。か」

思わずホネホネロックの1フレーズを口ずさむ。

次は仔実装。詰めものをして、ヌイグルミにするのだ!

仔実装はすっかり柔らかく乾いていた。
中に詰めるものは、古くなってぺタンコになった100均座布団のワタ。

座布団を切り裂き、口と総排出口からワタを詰めていく。
ぺタンコだった腹と頭が生前のように丸く膨らんでいく。
総排出口を釣り糸0.5号で縫い、口の方は、ただ縫いつけるのも
面白くないので一工夫することにする。

運よく座布団カバーがピンクだったので、
頭にはワタを多めに詰めて口を半開きにし、
切り取った座布団カバーを口から入れてワタと顔の皮の間に挟みこみ、
皮の裏側と座布団カバーにエポキシ接着剤を塗って止めた。
ピンクの口をあけた仔実装の出来上がりだ。

そして、眼球代わりに、釣りの集魚ビーズに使おうと思っていた
10ミリプラビーズの赤と緑を目にはめて接着剤で止めて完成。
媚を売る時のような微笑み仔実装ができた。

同様に残りに手をつけていくが、4匹のうち
2匹は総排出口付近が大きく裂けていた。

しかたないので下半身を取り払い、頭の一部、口と目の処理のみをして、
ハンドマペットにした。

仔実装をすべて縫い終わると、もう10時をすぎていた。
指先が痛い、肩も痛い、目も疲れた。
だが、写真の編集をしなくては。

私は何かにつき動かされるように、PCを起動しデジカメを接続した。

幸いにもピンぼけは無く、皆よく撮れていたが、
次第にまぶたが重たくなり、マウスが止まることもしばしば。
・・・うう、寝てはいけない。
なんとしても、今日中に仕上げてしまいたい・・・うう・・・。

・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
翌日、鳥の声で目覚めた私は、つきっぱなしのモニタに目をやった。
記憶はあいまいだが、眠りに落ちつつも編集はすべて終わらせていたようだ。

それにしても腹が減った。そういえば夕飯食ってなかったな。

白米は冷凍しておいたのがあったはず。
レトルトカレーかカップ麺、それと缶詰で一品作るか。

台所の流しの下をあさると、目当てのものが出てきた。
コップヌードル実装出汁、実装グリーンカレー業務用パック、
コロ実装水煮缶。

閉店間際の安売りコーナーにあったやつで、もうなくなりそうだったから
あわててよく見ずに買ったが、実装食品だったとはな。

よし全部食べよう。
私はヤカンを火にかけると、冷凍白米を皿にあけてレンジに入れた。

その間にカップ麺をあけて準備をする。
安売りされるだけあって、粉と液体の2つのスープやフレーバーオイル、
真空パック具材などとは無縁の、大きめの袋にスープとかやくが一緒にされたシンプルなものだ。

封を切って麺のうえにぶちあける。
おお!白い粉スープの中からミイラになった禿裸親指実装が出てきた。

注意書きによると・・・「無菌培養の仔実装に偽石活性剤を施したうえで
フリーズドライしてあります。熱湯をそそいで3分後、生き返ったら大ラッキー!
濃厚な骨髄出汁とともにご賞味ください」
とある。

原料には、小麦粉・食用油・食塩・調味料・コショウ・にんにく・無菌仔実装・実装ガラ、とある。

ふむ、髪、服、肉、モツをとった後の実装石の骨は、肥料や家畜飼料骨粉として加工される最も安い部位だが、
それをスープ原料として使用しているようだ。

沸騰したお湯を注ぐ。残ったお湯を鍋にあけ、カレーレトルトパックを入れて再び火にかける。
包装紙によると、「厳選した実装肉をココナッツ風味豊かなグリーンカレーに仕上げました」とのこと。
原料は、実装肉、タマネギ、アスパラ、ニンニク、コショウ、
タイム、セージ、パセリ、レモングラス、ブロッコリー、ココナッツ、青トウガラシ、食塩、
醤油、ショウガ、とある。

独特の臭みのある、安い実装肉を、スパイスを使って臭いを消して
商品に仕立てたようだ。

しばらくして、カップ麺がころあいになったとき、レンジがチーンと音をたてた。

さて、いただきますか。

カップ麺のスープのうえには、あきらかに死んでますという表情の仔実装が
刻みネギとワカメにまみれてたゆたっていた。
フリーズドライからの復活は無理であろうなあ。

においをかぐと、トン骨ラーメンに似ていた。スープの色も白だ。
一口すする。・・・まあ、インスタント麺だし、こんなもんだな。
味はトン骨スープに似ているが、脂の軽さは鶏に似ている。
けしてまずくは無いし、値段を考えれば満足である。

カレー。こっちはココナッツの香りがぷんぷんする。

まず、まんべんなくぐちゃぐちゃに混ぜてからいただく。
おー、これは旨い。ココナッツバターの香りとニンニクなどの
香辛料の風味がいいね。実装肉は結構ふんだんに入っており、
食感は柔らかく、油麩のようで口の中でとろける。もうスパイスの香りしかしない。
というか、肉そのものの味はほとんどない。かすかに、
強いていえば豚に似た風味がある。

私にとっては好みだが、人によってはココナッツの香りが強すぎるかもしれない。

ここで缶詰をあける。魚のうま煮缶詰のような楕円缶に、ウジ実装のイラストが書いてある。
ウジでは聞こえが悪いからコロ実装としたようだ。

油の浮いたスープに、満面の笑みをたたえた
—痛みを感じる間もなく処理されたと見える—
ウジ実装が漬かっていた。
大きさは8cm〜4cm程度。結構みっしりと詰まって、全部で15匹いる。

箸で触った感触は結構しっかりしていて硬い。

食べてみると、ホタテの貝柱に似た感触で、味も動物の肉というよりは・・・、
貝に近い。・・・ホタルイカ・・・いやイイダコが一番近いかな?
肝のコクとほのかな苦みもよく似ている。

ウジは親が出産中に死んでしまった場合でも、
自力で這って生まれてくる場合があるというから、全身が筋肉でおおわれているのだろう。
いい歯ごたえだ。

以前ウジ実装を食べた人の話では、食感はいいが味はあまりしないとあったが、
製法が進歩したのか、はたまた親の栄養状態が違ったのか、
その身にはうまみが十分ある。

ふと缶ブタのすみに目がいく。
「生まれたてのウジちゃんが、あなたの食卓にコンニチワ♪
食べてニコニコウジ実装♪」(株)虹ヶ浦畜産 と、ある。

おい、コロ実装じゃないのか!?
特売にされた理由がわかった・・・。(株)虹ヶ浦畜産か、覚えておこう。

カレーを食べ終えるころ、ふとラーメンを見た私は、
驚いた。なんと、仔実装が目を開閉しているではないか!復活したのだ。

生命力の劣る仔実装だというのに大したものだ。
細かく体を震わせては、声を出そうというのか、口を開閉し、
ひざを曲げ、手を差してある箸に伸ばし、必死で立ち上がろうとする。

(ここはどこテチ?ママはどこテチ?)
フリーズドライから復活した仔実装は「ママ」—正確には育児用実装石—
の姿を探した。

実装石生産工場では、生まれて2週間で仔実装の運命が決定されるという。
落ち着きのあるもの、知能の高いものは愛玩用として調教師に買われ、
体格がいいものは精肉用に、活発なものは出産用として、選別される。

そして最後に残ったものの内、五体がそろっているものはおつまみ用干物や、
このようなフリーズドライなど保存の効く食品に加工され、
奇形は家畜飼料や肥料にされる。

水を吸って復活するのは運次第であり、また、
干しシイタケが水を吸っても生シイタケにもどれないよう、
その体は以前とは違うものになっている。

ぽろっと左手が取れた。驚いて目を見張る仔実装。
しかし、次いで両足がひざからもげ崩れ、スープに体が沈む。
そしてその衝撃で首がもげた。
(ウ、嘘テチ。体がバラバラになったテチ・・・・テッテッテテェェ!!?」

「やっぱりフリーズドライになんかされちゃあ、体組織はずたぼろになるよな」
仔実装の首は目を飛び出さんばかりに見開き、
声にならない叫びをあげるかのように口を開閉した。

(タッ助けテチ!タス・・・・けテチ−−−−!!)
しかしスープが詰まっている喉は何ら音を響かせることなく、
数度スープを波うたせて仔実装の首はカップの底へ沈んでいった。

私は残った麺と仔実装をスープごとすすりこむと、腹をなでながら
大きなげっぷをした。

「フリーズドライにするとスープの味だけになっちゃうね。
肉の味がわからん」

ごちそうさまでした。

その後、
PCで実装石とカラスたちの写真を見ながら、私は満ち足りた気分だった。

私の机の上には実装石たちの遺品が並んでいる。
白く輝く頭蓋骨。光をきらきらと反射する赤と緑のガラス光沢の球体、
勾玉、破片。
仔実装の、まるで生きているかのような剥製、ハンドマペット。

ドールアイを手にとる。
馬鹿2匹のドールアイは、中心と外周では色の濃さが違い、
光の屈折率も異なるので綺麗なグラデーションを作る。

出来上がったマガ玉の硬度は乾燥して鉄と同程度まで固くなり、
なかなかきれいなアクセサリになった。

残りの破片は角を取って穴を開け、ビーズにしようと思う。

おや、眼球の中心に何か黒いものが・・・、
これは翼を広げたカラスか?目をえぐられる寸前の光景が
焼きついている。これは面白い。
無事な眼球は左右1対手つかずで保存しておこう。

そして、マガ玉をじっくりと見てみると、ちょうど中心のところに
襲いかかるカラスの姿が紋章のように浮き上がっていた。


私の「初めての実装石」はかなり満足のいくものだった。
今度出会う実装石たちは私にどんなサプライズを与えてくれるだろうか。
楽しみである。




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