「 全獣装、停止! 」 山頂から麓への中間地点、中腹の見晴らしの良い場所。 ホウの一声で獣装石達は動きを止めた。 「 指揮獣装、前へ! 」 セキ、テン、チィの3匹がホウの前へ集まる。 そしてホウは背中から地図を取り出すと地面に広げた。 それは自分達が棲む山を示した地図。 その各箇所にホウ自らが調べ、地形の特徴を示したメモが記されている。 「 偵察の報告に依れば、ニンゲン達はここから進んでいるデス 」 ホウが手に持っていたペンで指差した箇所は、山道への入り口から30メートルの地点。 そこの野原に車両を止め、青い服を着た人間15人が集まっている事を示した。 現在の人間達の大まかな場所をペンで指した。 戦いを前にして、意気を高めるチィが声を荒げた。 「 それで、殴りこみをかけるデス? オレ達の隊で、全員殴り倒してやるデスよ! 」 「 …しばらくはここで待つデス 」 「 なぜ待つデス? 」 「 まだ、ワシ達の村に来るとは限らないデス それに戦うとしても、それは絶対山の中デス! 」 「 山の中…デスか? 」 テンの問いかけに、ホウは頷いて返した。 「 ニンゲン達は山の中で動くのに慣れてないデス しかしワシ達は、普段から山で生活し、訓練で走り回ってるデス 」 ホウは以前から実装石が、如何にして人間と対抗し得るか考えていた。 体格的に実装石は、人間と比べ物にならない程小さく、そして弱い。 尚且つ、筋力は最低限しか備わっておらず、腕力の弱さに拍車をかけている。 そこでホウは、獣装石に目を付けた。 人間には及ばないものの、獣装石は通常の実装石よりも遥かに体格の点で勝っている。 そして覚醒した獣装石ならば、その身体能力は比べ物にならない。 だが、それでも人間に勝てないだろう。 実装石より遥かに肉体的に勝っている獣装石だが、やはり人間には到底及ばない。 ならば、とホウは考えた。 元々少ない獣装石を集めて数を揃え、対人間用に訓練すれば良いのではないかと。 数が集まれば人間に対抗できる可能性はあるのではないか予測した。 尚且つ、獣装石は本来野生に適した身体をしている。 つまり獣装石にとって最も身体能力を発揮できる山中なら、 逆に山中での行動が不慣れな人間とは互角以上に戦えるのでは、とホウは結論を下す。 「 尚、今回の戦いで爪の使用は禁止デス 」 獣装石にとって唯一の武器である爪の使用禁止。 それは、今回の駆除員の人間達を可能な限り傷つけずに追い返すため。 爪で切り裂けば必然的に出血し、人間達の大きな恨みをかうことを老獣装は知っていた。 今回は数的に優勢であり、尚且つ奇襲により今の獣装数で十分であろうとホウは考えた。 「 それからお前達、部下には山の中で戦うのを徹底させるデス もし人間達が山を降りても、それ以上追いかけるのは駄目デス! 特にチィ! 」 「 オレ…デス? 」 「 チィは興奮すると見境が無くなるデス お前は部下を止めるのが役割で、部下に止められては駄目デスよ? 」 「 デプッ… 」 「 デププ… 」 ホウの冗談交じりの忠告に、その場にいたセキとテンが僅かに苦笑を洩らす。 「 酷いデスね…!オレは、そんなに馬鹿じゃないデス!! 」 群れで最も巨躯の獣装石は、ホウの言葉に不満を露わにした。 しかし4匹を含め、その場に居た獣装石達は始めての人間との戦闘を前に緊張していた。 今、ここで人間達を食い止められなければ、山頂の者達まで危険に晒される。 自分達、獣装石の居場所は他に無かった。 長年住み慣れた場所は何としても守らねば無かった。 そしてこの戦いで、何匹かは犠牲になるだろうとも覚悟していた。 『 おいおい、こんな所に実装石って巣くってんのかよ? 』 『 地元の奴等が見たらしいな。 なんか巣を作ってるらしい……これも仕事だ、やるしかねえよ。 』 肩に木の棒を担いだ男の1人が隣の男に愚痴った。 腕に駆除員の腕章をつけた12名が、山に入って10分足らず。 鬱蒼と生い茂る木々の枝を掻き分け、男達は山の中を進んだ。 『 けどなぁ、たった12人で生ゴミ共を全部持ち帰れるのか? 』 『 それは大丈夫らしいぞ。 こんな山の中に住んでる実装石なんて10匹か20匹程度らしいからな。 なんせ、公園に住み着いてゴミ漁りや物乞いする方が楽だしな。 』 男達にとってはピクニック程度の仕事だった。 天気の良い日に、山登り。 帰りの手荷物を考えると気が重いが、難しい仕事では無い。 それより仕事の後の一杯や休日の過ごし方の方が重要であった。 『 ぐぁ!! 』 先頭を歩いていた男が突然叫び声を上げた。 『 おい、どうかし…っっ!! 』 その先頭に声をかけた男の横から何かが飛び掛ってきた。 『 な…なんだ…あぁっ!? 』 10人全員に、緑の影が飛び掛ってきた。 緑の影は、男達に飛び掛ると、次々と肉弾となって体当たりをかけた。 『 コイツら、実装石……がぁ!! 』 その時、更に茂みから大きな影が飛び掛ってきた。 影は男へ大きく振りかぶって殴りかかる。 『 か…はっ……! 』 男は瞬間的に腕を上げて防ごうとしたが、身体ごと後方に吹き飛ばされた。 木の幹に後頭部を打ちつけに意識が遠のきになりながら、男は巨大な実装石を見上げた。 今まで無数の実装石を見てきた男だったが、こんな巨大な実装石は見たことも無い。 人の身長にも匹敵する巨大な緑の影。 地面へ倒れ伏した男を見下ろすと興味を無くしたのか、巨大な実装石は別の駆除員に向かっていった。 『 がぁっ! 』 『 ぎゃっ! 』 駆除員達はパニックに陥った。 ピクニック気分の仕事が、一転して修羅場に。 突然の未知の敵の来襲が、男達から冷静な判断力を奪った。 冷静さを失った人間達から、獣装石達が多人数で飛び掛って殴る蹴る、体当たりを加える。 だが大混乱の中、時と共に駆除員達も不意打ちから精神的に立ち直りつつあった。 『 どけどけっ!ンの野郎!! 』 「 ギャッ!! 」 その中で1人、巨漢の駆除員が棒を振り回して獣装石を近づけさせないでいた。 打ち付けられた棒によって、腕を叩き折られた者達が傍で倒れている。 『 ゼェ、ゼェ………たかが実装石の分際で…!………ン? 』 男の前に一匹の獣装石が立ち塞がった。 他の獣装石よりふた回りも大きい。 明らかに他の個体とは異なる威圧感。 『 か、片目…? 』 ……! 次の瞬間、視界から巨大な獣装石が消えた。 『 なっ……えっ……?…………っ!! 』 身を低くして突進した獣装石が男の足に体当たりをし、不安定な足場のために横転した。 瞬時に視界から獣装石が消えたため、男には認識できない。 『 こ、このぉ…!……がぁっ!! 』 倒れて体制を崩した男に、更に獣装石が飛び掛かる。 片目の獣装石は、仰向けの男の腹部全体重をかけて飛び乗った。 『 グッ……!! 』 更に合図をすると、セキは部下の獣装石と共に、この駆除員へ殴りかかる。 意識が朦朧とする中、男は獣装石が片目の個体であるのをはっきりと確認していた。 「 …これで終わったデスね 」 ホウが突撃命令を下して約15分後、人間達は全員その場に打ち倒された。 今まで鈍重な実装石の動きに慣れてしまった駆除員達。 彼等は、訓練された獣装石の俊敏な動きについていけなかったのだ。 獣装石側の被害は重傷5匹、軽傷11匹。 重傷とはいえ、栄養さえ十分に摂取すれば数日で完全に回復するであろう。 ホウは無傷の獣装石達に、負傷獣装達を運ぶように命じた。 「 そうだ、ホウ……ニンゲン達に警告しても良いデスか? 」 「 セキ、何をするデス? 」 「 できれば……もう二度と人間達が来ないようにするデス… 」 セキはホウから紙とペンを借りると、その場で文字を書き始めた。 そして、まだ意識のある駆除員の手にソレを持たせる。 獣装石達は、山頂の住処へ引き返していった。 1時間後、連絡を受けた別の職員が山の麓に到着。 傷だらけの駆除員達を見て、救急車が呼ばれた。 その後、駆除員達は巨大な実装石の群れに突然襲われたと証言。 専門家から、それが獣装石の群れだと鑑定されるまで時間はかからなかった。 そして専門家を驚かせたのは知性を持った獣装石の存在。 片目の獣装石が手渡した紙片には人間の文字が記されていた。 ”山に入らないで ” 「 楽勝デスゥ〜! 」 山頂に戻ると、チィが腕を振り上げて凱旋した。 「 勝ったデスよ! 」 「 ニンゲン相手にも何とかなるデス!! 」 負傷獣装がいるものの、やはり人間に勝利した事実は群れの者達を沸き立たせた。 しかしチィとは対称的に、テンは悲痛な面持ちでいた。 「 …これからどうなるデスかね 」 冷静な指揮獣装は天を仰いだ。 その意味を噛み締め、ホウとセキが俯く。 「 ニンゲン達が、このままで済ませてくれるとは思えないデス… 」 以前、ホウは人間達を本気にさせてはいけないと言った。 決して敵に回してはいけない。 もし人間が本腰を入れれば、この村など一瞬にして潰されてしまうだろう。 セキが見てきたコミュニティーのように、完全に潰される。 だからこそ、セキはメモに自分達の意思を示した。 「 テン、足の速い者達を集めるデス 」 司令獣装は新たに指示を下した。 ホウは近辺の地図を広げ、付近の山を指差す。 「 お前達は急いで今から言う山に向かって調べてくるデス 」 「 何を調べるデス? 」 「 …新しい村に相応しい土地かデスよ 」 2匹の指揮獣装は、ホウの真意を即座に理解した。 今回は駆除員達より圧倒的数で不意を突き、運良く人間達を追い払えた。 だが、次も上手く行くなどと考えるほど楽観的では無かった。 自分達を問題視して新たな駆除がおこなわれると見て良いだろう。 このコミュニティの場所は人間達に悟られたと思って間違い無い。 次々と押し寄せる駆除の波に、対抗できるとホウは考えてなかった。 まだ時間が少しでも残されているうちに、次の手を打つことに決めた。 「 もう、この山は駄目かもしれないデス…ニンゲンの手の届かない山へ移るデス… 」 「 ワタシの仔は、どうデス? 」 「 もちろん元気一杯デスよ 」 セキが訪れたのはコミュニティ内に設けられた託児所。 仕事に出かける実装石や獣装石の仔を預かり、託児担当の実装石があやしていた。 「 ママー…ママー…! 」 仔獣装が1匹、セキの姿を見て、危なげな足取りで歩いてきた。 その身体を持ち上げ、セキが笑みを浮かべる。 あの河川敷の村から助けてきた仔獣装は、普通の仔よりも身体が大きい。 成長すれば、きっと立派な獣装石となってくれるだろう。 それまで自分が育て上げないといけない。 だが同時に、目の前の仔を見て無性に不安になる。 果たして人間は見逃してくれるだろうか? 辺りには親の帰りを待ちつつ、走り回って遊ぶ仔供達。 その微笑ましい光景を見て、セキは外の世界で見てきた駆除の光景を思い出していた。 実装石の仔達は遊びながら殺された。 親達の願いも空しく、無残に1匹残らず殺されていった。 もし人間達がここにも来たら… セキは頭を振り、それ以上考えるのを止めた。 「 お前もここに居たデスか 」 「 そういえばセキには仔が居たデスね 」 仔獣装を抱きかかえているセキに、背後からチィとテンが声をかけてきた。 だがセキに疑問が。 この2匹に仔は居なかったはずなのに、なぜ託児所に? 「 チィがきたテチー! 」 「 あそんでほしいテチュ! 」 その場に居た仔実装や仔獣装達が、巨大な獣装石の下に駆け寄ってきた。 「 みんな、良い仔だから順番デス! 言うことを聞かない仔は遊んであげないデスよ〜! 」 巨大獣装石は仔供好きだった。 仕事や狩りの時では決して見せないような笑顔を仔達に振りまいている。 1匹1匹手に取って持ち上げ、あやしながら遊んであげていた。 「 …意外だったデスね 」 「 チィは昔から、あんな獣装石デス 」 「 それでテンはどうしてここへ? 」 「 ワタシは、ここでこうして見てるのが楽しいからデス 」 直接遊んでやりはしないものの、テンもまた、仔供達が大好きだった。 この仔達がいるからこそ、課せられた過酷な仕事もこなすことができると。 「 ……そんなに酷かったデス? 」 「 デ? 」 「 人間の駆除……そんなに酷かったデスか? 」 「 ……… 」 テンの質問に、セキは黙りこくってしまった。 その表情と沈黙から、改めて人間達の駆除の苛烈さが伺えて知れた。 「 ……テェ? 」 ふと黙り込んでしまったセキとテンを、仔獣装が不思議そうに見上げている。 「 …それでは多分、ワタシの家族もニンゲンに殺されたデスね 」 「 テン、もしかして… 」 「 そうデス、ワタシもホウに引き取ってもらったのデスから… 」 仔達と遊ぶチィの姿を眺めながら、テンは自らの素性を話を始めた。 テンが産まれ落ちたのは、山から3日程獣装石が走った所にある公園。 公園は街の片隅に存在し、それほど大きくなかった。 一緒に産まれた姉妹は全部で7匹。 親実装は愛情深かった個体のため、産まれたテンを間引くかどうか迷っていた。 コミュニティの暗黙の了解で産まれた獣装石は間引かなくてはならない。 だが親実装は決心できずにいた。 テンの幼いうちは回りを誤魔化せたものの、次第に成長した獣装石の特徴を隠し切れなくなってきた。 そんな時、仔獣装を引き取ってくれる獣装石の噂を聞いた。 その獣装石は、公園には訪れなかったものの、隣町の空き地の村には姿を現すという。 そこで親実装は、最も信頼のおける仲間の実装石に仔実装達を預けた。 自分自身はテンの手を引いて、そこの空き地まで連れて行ったのだ。 空き地までは実装石にとっては決して短くない距離。 他の親ならば、そんな手間は惜しんで手っ取り早く間引くかもしれない。 だがテンの親は違った。 仔を1匹でも失いたくなかったのだ。 空き地に到着すると、テンの親はコミュニティのリーダー実装にテンを預けた。 リーダー実装は事情を聞き、快く引き取ってくれた。 そして親実装はテンを託すと、他の仔達が待つ公園へ帰っていった。 「 ……そこで何日か過ごして、やってきたホウに引き取られたデス いつか、ママ達に会いに行こうと思ってたデスが…。 」 「 そういうわけデスか… 」 「 …ワタシの自慢のママデスよ 」 ホウに引き取られて以来、一度も会ってない親だが、今でもテンは尊敬していた。 自分1匹のために、労苦を惜しまなかった親に心から敬意を払っていた。 「 けどデスね、ママと同じくらいホウは尊敬してるデス ワタシだけじゃなく、間引かれてしまうはずの獣装石達を育ててくれたんデスから だから、ここにいる獣装石は皆、ホウに感謝してるデスよ… 」 そしてまた、老獣装にも敬意を払っていた。 「 お前達、何をそんなに辛気臭い顔をしてるデスか! 」 セキとテンが話しこんでいるのを見て、ようやく仔達から解放されたチィが帰ってきた。 普通の労働をこなすより疲れているように見えるが、巨大獣装石は上機嫌だった。 「 …ママのことを話してたデスよ 」 「 ……テン、お前のママは… 」 テンがここへ来る経緯を知っていたチィから、途端に笑みが消える。 下のコミュニティに住んでいる仲間達が今、どんな状況にあるのか…それはチィも想像できたのだから。 「 …テンはまだ幸せかもしれないデスね 」 「 なにがデス? 」 「 オレの家族なんて、とっくの昔にニンゲンに殺されたデスよ 」 テンの家族は公園などのコミュニティに属さなかった。 親実装は草の生い茂る空き地を住処としていた。 そこでテン達を産んで育てた。 獣装石として産まれたがコミュニティに属さないため、テンは間引きされることがなかった。 テンは長女であり、獣装石でもあって体力が有り、産まれつき身体が大きかった。 そのために早い時期から親実装と共に妹達の面倒を見てきた。 チィが仔供好きなのは、小さな妹達がいたためである。 空き地に打ち捨てられた土管に家族で住んでいたが、ある時、虐待派に襲われた。 『 ビンゴ!いると思ったぜ〜! 』 「 チャァァァ!タスケテチュ〜!! 」 「 ママ〜!オネエチャン! 」 外で遊んでいた妹実装2匹が、虐待派の男の両手に掴まっていた。 男は手の中で暴れる仔実装達を嘲笑っている。 「 ワタシの仔達を返してデスゥゥゥ! 」 「 妹達を離せテスゥゥ!! 」 テンと親実装が男の足にすがり、手で叩きつけるが全く歯が立たない。 『 返して欲しいか? 』 「 デス!デス! 」 『 しかたねえな〜、返してやるよ 』 男は妹実装の1匹を親実装の目の前にまで持って行き… 『 …やっぱ止めた♪ 』 「 ヂャァッ! 」 握り潰され、その体液が飛び散り親実装の顔面にも降り注いだ。 「 テ……シャアアアア!! 」 チィは妹の死を見て、声を張り上げて更に叩きつける。 しかし、そんな必死な親実装とチィを見て、男は益々笑い声を大きくするだけだ。 『 ほぅ〜れ、もっと面白い遊びをしてみようか 』 「 ママ!……チャァア!! 」 今度は男が親実装とチィの見ている前で、もう一匹の妹実装の手を捻り取った。 「 チュアァァ!………テチャア!……… 」 『 ほうれ、ほれ、お前の仔、どんどん小さくなってっちゃうぞ〜? 』 「 止めてデス!ワタシの仔ォォォ!! 」 『 …ほら、返してやるよ 』 手足を引き千切られ、達磨となった仔が地面に落とされた。 「 ワタシの仔!ワタシの仔がァァァ! 」 ( グシャ ) 抱き上げようとした瞬間、親実装の目の前で男の靴底に踏み潰された。 何が起こったのか、呆然とする親実装。 男はその反応を見て、楽しそうに笑い転げた。 「 ワタシの仔……ワタシの仔…………デギャッ!! 」 更に男の靴底が親実装の頭上へ……踏みつけられると、頭部から勢いよく体液が飛び散った。 『 あ〜、やっちまった……丁度踏みやすい頭が有ったからな… 』 男は親実装の死体を蹴り上げ、仰向けに……既にその目から光が消えたのを見てつまらなそうに呟いた。 「 ママ……みんな……! 」 家族が一瞬のうちに殺される様をチィは見ていた。 ついさっきまで笑っていた妹達も、自分を可愛がってくれた親も、みんな殺された。 「 テ………テ……… 」 『 それでオマエは、どんな風に楽しませてくれるんだ〜? 』 「 テ………シャアアアアアアアアア!!! 」 チィが大きく両腕を振り上げた。 その髪の毛と体毛を大きく逆立たせ、幼き獣装石が張り裂けんばかりの声で吼えた。 『 なんだコイツ…………ギャッ!! 』 男の足へ不意に痛みが。 脛の表面の肌が僅かに切り裂かれ、赤い血が傷口から流れ落ちる。 「 よくも……よくも……!!! 」 親と妹達を殺されたチィが覚醒した瞬間であった。 その手には、小さいながらも鋭い爪。 自分よりも遥かに高い男を、見上げつつ睨んでいた。 『 な……なにすんだテメェェェは!! 』 「 …ャッ!! 」 チィは、男によって大きく蹴飛ばされた。 普通以上の体格を有する獣装石とはいえ、まだ成長段階の仔に過ぎない。 人間の男に敵う筈が無かった。 『 人間サマに逆らっていいと思ってんのかよぉぉぉ!!! 』 「 ……!……! 」 『 実装石のくせに! 実装石のくせにぃ!! 薄汚い実装石のくせにぃぃ!!! 』 ほんの僅かな切り傷を負った男は理性を失い、半狂乱になって仔獣装を蹴り続けた。 男は正気すら失っていた。 実装石如きに手傷を負ったという現実。 虐待派の男は安いプライドを大きく傷つけられたのだから。 『 ゼェ…ゼェ……………チッ 』 そのまま暴行が続けられれば、チィは間違いなく死ぬ筈であったろう。 しかし息を切らし、人の気配を感じて振り向けば、道の通行人が遠くから眺めているのに気付いた。 その視線に耐え切れず、男は舌打ちすると立ち去っていた。 「 テ…ェ………テェ……ッ…… 」 痛めつけられたチィは身動きの取れる状態で無かった。 四肢は踏みつけられ押し潰され、腹部の傷口から臓物が溢れていた。 僅かに顔を上げると、親と妹達の死体が目に入った。 自分も死ぬ……そう思った時、何者かが歩いてくる足音を微かに聞いた。 「 ……しっかりするデス! 」 何者かはチィの身体を土管の中へ運ぶと、持っていた薬草を傷口に押し付けて手当てを始めた。 他にも同伴者がいるらしく、チィは意識が朧だったが、手当てを手伝わせているのが耳に聞こえた。 「 その時、オレを助けてくれたのがホウだったデス… 」 その後、ホウは手当てしたチィを山へ連れて行き、獣装石として鍛えた。 頭角を現したテンと共に、指揮獣装としてホウから信頼されるようになった。 「 ……ホウには感謝してるデスよ 」 普段は尊大な態度を取っている巨大獣装が本音を零した。 ホウを年寄り呼ばわりしつつも、心の奥底では感謝し、親のように思っている。 指揮獣装となったのは、そのホウへの感謝の印かもしれない。 結局、ここの獣装石達には他に行く場所も帰る場所も無い。 けれどもセキは、ふと飼い主の事を思い出した。 ( 冬香お姉チャン…… ) 優しい飼い主と暖かい家を久しぶりに思い出すが、今更戻れるはずがない。 やはり自分も同じく、他に帰る場所の無い獣装石だった。 数日後の午後 山頂のホウの元へ見張り獣装が駆け込んできた。 「 ニンゲンがやってきたデス!! 」 「 数は? 」 「 35人デス 」 「 もう少し……もう少しだけ時間が有れば………デスのに… 」 ホウは力無く呟いた。 今も尚、3匹の獣装石を派遣し、村の新しい移住先を探索中である。 そして移住に向け村の者達に準備を進めさせていたものの、まだ時間が必要である。 つまり今回も戦うしか選択肢は残されていない。 一時的にでも駆除を退け、移住のための時間稼ぎが第一目的である。 前回の戦闘は人間達の隙を上手く突いて、奇襲は成功した。 だが今回は自分達を十分に警戒しているに違いない。 更に前回と比べて約3倍の人員。 人間達が本気になり始めたのは明らかだった。 号令と共に、全ての獣装石が集結を始める。 作業中の者達は即座に中止し、山頂のホウの元に集まってきた。 「 テン、今回のお前の部下は3匹、別行動をとってもらうデス 」 「 分かったデス 」 ホウはテンに特に脚力のある3匹を呼び寄せると、何か指示を受けて先発した。 「 チィ、前衛中心はお前達デス 」 「 任せろデス! 」 「 テン、お前達は前衛右翼デス 」 「 分かったデス! 」 「 セキ達は前衛左翼デス 」 「 了解したデス! 」 「 ワシの本隊は後衛、お前達前衛と横2列で進むデス! 」 獣装石達は山の中腹に移動すると待機した。 全獣装は全て息を潜め、人間達を迎撃すべく待ち構えていた。 「 ニンゲン達が見えたデス! やはり30人以上、こちらに登ってくるデス! 」 中腹に集結した獣装石達に緊張が走る。 ホウは指揮獣装以下、60強の部下に号令をかけた。 「 全獣装、前進! 」 中腹から一気に獣装石達が駆け下りて行く。 40メートル程の幅に、緑の影が横2列になって山野を駆け抜ける。 そして視界に青い影が見えてきた。 敵は目前に迫っていた。 「 抜刀!! 」 ホウの号令と共に、獣装石達の腕から大きく爪が伸びる。 獣装石にとって唯一にして最大の武器。 一度目の駆除戦とは異なり、ホウは全獣装に使用許可を下した。 30名の駆除員に、ホウ達64匹は正面より突撃を開始した。 < 付記 > 第二次駆除戦 詳細 9月29日 15時00分 開始 天候 曇 温度 21℃ 実装石側戦力 司令獣装 ホウ ( 後衛 ) 以下 獣装石 30匹 指揮獣装 テン ( 前衛右翼 ) 以下 獣装石 10匹 ( 本隊より3匹補充 ) 指揮獣装 チィ ( 前衛中心 ) 以下 獣装石 10匹 指揮獣装 セキ ( 前衛左翼 ) 以下 獣装石 10匹 別働隊獣装 3匹 ( 他獣装石3匹は移住先調査により戦線離脱中 ) 人間側戦力 駆除業者 20名 清掃業者 15名 主要装備 鎮圧用棍棒 ステンレス製サスマタ 特殊警棒 捕獲用投網 実装石用指定ゴミ袋
