数ヵ月後 山から緑の色彩が薄れ、紅葉が見え始めてきた頃。 朝の会合を行う老獣装と指揮獣装達へ、見張り獣装が駆け込んできた。 「 誰かが登ってくるデス 」 入り口から伸びる山道へ駆けつけると、二組の親仔連れの実装石が居た。 成体実装2匹と、連れてきた3匹の仔実装。 親仔共々疲労でやつれ、身嗜みを整える余裕さえ無かったのか、服も髪も汚れていた。 「 な、何があったデスか…? 」 このコミュニティへ加わろうとする実装石はそれほど珍しくない。 時折、噂を聞きつけた親実装が仔を連れてくる事はしばしばあった。 だが目の前の実装石達はそれまでと様子が違う。 何か切迫した状況から逃げてきたのは明らかだった。 「 ニ…ニンゲン達が……ワタシ達の公園が… 」 獣装達に横たえられ、肩で息を切らせながら親実装の一匹は話を始めた。 その親実装が住んでいた公園には、数百匹の実装石がいた。 喧嘩などトラブルは有ったが、それまでは概ね平和に暮らせた場所だったという。 親実装は仔3匹を養いつつも楽しく暮らしていた。 だが3日前、親実装が仔を連れて餌を採りに行った時。 その日は寝坊して、いつもより大きく遅れてゴミ収集場へ残飯を漁りに行った。 時間帯が違うせいか、ほとんど何も残っていない。 当然だが同属達の姿は見えない。 実装石達は、朝早くゴミを漁るのを日課としているから。 それでも親実装は食べられそうな物をかき集め、公園に帰ろうとした。 「 な…なんデス、あれは…? 」 公園に近づくと、門の前に青い車が止まっていた。 「 ギャァァァアァァ! 」 「 離しやがれデスゥゥゥ! 」 青い服を着た大勢の人間達が、公園の同属達を手当たり次第に捕まえては車両に押し込めている。 それ程賢くない親実装だが捕まったら最後、生きては帰れないのを悟った。 それを見て親実装は公園に戻ろうとせず、別の場所へ逃げることにした。 公園にはまだ仔が2匹取り残されていたが、涙を流しつつもあきらめることに決めた。 親仔は別の場所を求めてさ迷う。 住んでいた公園から最も近いコミュニティは、広々とした空き地だった。 元は資材置き場のそこを住処とすべく、親仔実装が向かう。 だが、既にそこも人間の手が伸びていた。 やはり青い車と青い服の人間達が容赦なく同属達を捕まえていた。 そして他のコミュニティーも同様に駆除の手が伸びていた。 「 もう、ここ以外に行く所が無いデス どうか、ワタシとこの仔を置いて欲しいデス… 」 「 ママ… 」 もう1組の親仔実装も似た境遇だった。 やはり、人間達の駆除から逃れてきたという。 「 みんな、これを見るデス 」 ホウは指揮獣装や主な実装石を集め、その前に地図を広げて見せた。 逃げ込んできた親仔が住んでいたコミュニティと、既に駆除業者の手が入った区域。 そこへペンで印を付けて行くと、今回の駆除は地域的な物ではなく、かなりの広域的であるのが分かる。 「 前まで駆除は何回か有ったデスが、今回は規模が違うデスね… 」 印の多さが駆除の規模を物語っていた。 居並んだ者達は、その地図を見て唸るしかできない。 「 …助けられないデスか? 」 「 誰をデス? 」 「 皆を助けられないかって聞いてるデス! 」 ホウに問いかけたチィが拳を地面に叩きつけた。 「 オレ達、獣装石なら助けられるかもしれないデス! 今から人間達が来る前に、ここへ避難させるデスよ! 」 「 …駄目デス 」 「 なぜデスか!? 」 「 今は目立つ行動をしない事が大切だからデス… 多分、これは一時的な駆除に違いないデスね その期間さえやり過ごせば、ここに目が付けられることは無いデスから… 」 「 仲間を見殺しにする気デスか!? 」 再びチィが地面に叩きつけた。 チィの問いに黙りこくったホウに、怒りに満ちた視線を向けている。 そのチィの肩に手を置いた獣装石がいた。 「 チィ、落ち着くデス 」 「 これが落ち着いてられるデスか! 」 チィは声を張り上げ、肩に手を置いたテンを怒鳴りつけた。 「 気持ちを分かってあげるデスよ… ホウにとって一番大切なのは、この群れを守ることなのデスから 」 ホウが率いる200弱の実装石と獣装石の群れ。 相手がマラ実装や同じ獣装石ならばともかく、相手が人間で有るのなら話は別だった。 もし一度、この群れに目を付けられれば、間違い無く徹底的に駆除されることになるだろう。 街から離れた山に住処を構えてるとは言っても油断はできない。 ホウは以前、同じように山にコミュニティを形成した同属達を知っている。 しかし規模が大きくなり、人間に感づかれると山狩りがおこなわれた。 その結果、コミュニティは壊滅し、同属達は全て処分された。 人間達を本気にさせてはならない それが長年人間を見て培ってきたホウの教訓だった。 「 ……言わせてもらって良いデス? 」 手を上げたのはセキだった。 「 人間達と事を構えるのは反対デス デスが、仔供達だけでも助けられないデス? 」 セキの次のように提案した。 少数の足の速い獣装石を各地の群れに派遣し、せめて少数でも仔供達を助けられないかと。 また、セキは各地の偵察を兼ねるのも提案した。 ここにたどり着いた二組の親仔の話だけでは情報が少なすぎる。 更に情報を集めるべきでは無いかとセキは言った。 「 それも駄目デス 」 「 なぜデスか? 」 「 一つの群れには少なくとも数十匹の仔達が居るデス どうやって助ける仔を選ぶデスか…? 」 「 デ……それは… 」 「 それに情報を集めて、どうなるデス? 気になるのは仕方ないデスが、今は我慢するデス… 」 「 そ、それなら……あの河川敷に行っては駄目デス? 」 そこはセキとホウが始めて出会った村。 せめてセキは、以前世話になった群れの実装石達に、注意を呼びかけたいと言った。 今回の大規模な駆除で、あの河川敷にも人間の手が伸びる可能性は十分にある。 その前に安全な場所へ移住するよう忠告したかった。 「 お願いデス、行かせて欲しいデス! 」 この群れで生活するに当たり、ホウは自分の指示に従うのを第一条件とした。 集団生活をする以上、規律を守らなければいけない。 だからこそ、あの河川敷へ行くにもホウの許可が必要なのである。 「 …では行ってもらうデス デスが……その代わり、変な気を起こさないと約束するデスよ 」 「 デ…ェ? 」 「 もし、ニンゲン達に駆除されていたなら、直ぐに引き返すデス 誰かを助けようとして、ニンゲンと戦わないのを約束できるデスか? 」 「 ……約束、するデス 」 「 セキ、お前はこの群れにとって大切な獣装石デス 簡単に死んで貰っては困るデスよ… 」 ホウは、そこに居並んだ獣装石と実装石達に言った。 自分はこの群れを守るためなら、他の群れを見捨てるのも仕方ないと。 ここにいる者達は仲間意識が強い。 だが、そのために何時しか危機に陥らないとも限らない。 今回、自分は他の群れを完全に見捨てることに決めた。 おそらく自分が巡回していた他のコミュニティも、多くが被害に遭っているだろう。 だからといって、セキまで犠牲になる必要は無い。 ここにいる者達まで犠牲になる必要は全く無い。 老獣装は改めて皆に注意を促した。 「 デッ…!デッ…! 」 まだ夜も明けない朝方、隻眼の獣装石が街中を疾走していく。 今は駆除期間であるらしく、実装石に対する人間の風当たりは厳しいのだろう。 だからホウは、人目の付かない深夜に出発するようセキに指示した。 現在のセキは単独。 複数での行動もまた、人目に付きやすいというホウの配慮であった。 見慣れた河川を下流に向かって突き進んでいく。 以前のセキは同じ河を上流に向かって走っていた。 あの時は、新しい生活に向かって期待に胸を膨らましていた。 だが今は、不安で胸が潰れそうだった。 ( どうか、無事で…いるデス! ) 辺りはすっかり明るくなっていた。 先ほどまで堤防の影になり暗かった河川敷も、今は光が差し込んでいる。 「 デ……ェ…… 」 その光が差し込んだ河川敷にて、セキが膝を付いて倒れこんだ。 「 こんな……こんなことって無いデス…! 」 セキは、その場で崩れて地面を叩いた。 短い間だったが、自分が住んでいたダンボールハウス群は、全て押し潰されていた。 地面についた大きな足跡は、人間のソレであることが直ぐに分かった。 食料となり、同時に実装石達の目を楽しませていた草花は踏み荒らされていた。 一緒に暮らしていた実装石達も、笑って過ごしていた仔実装達の姿も今は見えない。 あまり数は多くはなかったものの、ここの実装石達は慎ましやかに暮らしていた。 駆除されるような理由など、獣装石のセキには思い浮かばなかった。 「 …セキ……デスか…? 」 「 ……! 」 声のした方を振り向くと、実装石が1匹。 崩れかけたダンボールの影からこちらを見ていた。 「 やっぱりセキ……良かった……会いたかったデスよ… 」 「 無事だったデスか……………ッ! 」 セキが駆け寄ると、実装石の全身が見えた。 付け根から片腕と片足は無く、満足に動くことさえできない。 「 3日前に、たくさんのニンゲン達がやってきたデス…… 」 その日、突然人間達はやってきた。 青い車に乗って青い服に身を纏った人間達が、手当たり次第に実装石を捕まえ始めた。 暴れて抵抗する者達は、棒で殴られ、大人しくさせてから車に詰め込まれた。 「 みんな…連れてかれたデス…多分、もう…… 」 生き残り実装の目から涙が溢れた。 数年がかりで作り上げたコミュニティーも、僅か数時間で壊滅した。 「 ……ワタシも…駄目デス……けれど………けれど、セキが来てくれるなんて… 」 「 し、しっかりするデス…! 」 「 何とか……この仔だけは……見つからずに済んだデスよ… 」 実装石の傷だらけの手が、地面に置いてあったダンボールの切れ端をずらした。 「 テェ……テェ… 」 土を掘り起こした窪みに、一匹の仔が寝息を立てて眠っている。 「 その仔は獣装石デス……他の仔と別の場所に居たから助かったデスよ… 」 頭巾や袖から体毛が見える。 仔獣装は、古いタオルにくるまれて、穴の中に保管されていた。 「 この仔は……この村の最後の生き残りデス… セキ……アナタに会えて……本当に……本当に…助かったデス………… 」 「 しっかり!しっかりするデスよ!! 」 セキの腕の中…仔獣装を託すと実装石は事切れた。 最期の心残りだった仔を託せたため、凄惨な身体にもかかわらず安堵の表情を浮かべていた。 立ち去る前、セキはせめてこの実装石のお墓を作ろうと穴を掘り始めた。 だが穴を掘りつつ、掘り起こした土に涙の滴が落ちる。 この群れと出会うまで、セキは幾つもの群れに訪れた。 だが、どの群れもセキが獣装石であると分かると拒絶し、怯えた。 しかし、この群れは違っていた。 たった一匹で孤独だった自分を、暖かく迎えてくれた。 もしホウと出会うことが無ければ、この場所に住み着いていたであろう。 あの時の自分は、この場所を離れるべきでは無かったかもしれない。 ホウに付いていかず、この場所に留まるべきだったかもしれない。 そうすれば人間達を自分が追い払えたかもしれない。 完全に追い払えなくても、皆が逃げるくらいの時間は稼げたかもしれなかった。 セキの中で、後悔が止まること無く続いた。 遺骸を埋めて、土の盛り上がった墓ができた。 胸に仔獣装を抱いたセキが、その盛り上がりを見下ろす。 「 …みんな、安らかに眠るデス せめて、この仔は……ワタシが自分の仔として育てるデスよ… 」 「 テチュー 」 涙で目を腫らした隻眼の獣装石が呟き、何も知らぬ仔獣装が元気に鳴いた。 河川敷から山へ戻る途中、セキは遠回りして幾つかのコミュニティへ立ち寄った。 ホウから手渡された地図より、その場所へは迷わず向かうことができる。 しかし目的地に辿り着いたセキを待ち受けたのは、残酷な現実ばかりだった。 「 誰か〜!誰か居ないデスか〜!! 」 前までその公園には実装石達が溢れていた。 立ち並ぶダンボールハウスと、数百匹の実装石で賑わったはずのコミュニティ。 だが今は、セキの呼びかけに応えてくれる実装石は一匹も居ない。 背中のリュックに仔獣装を乗せたセキは、誰も居ない公園を歩いていく。 ダンボールハウス群が並んでいたと思われる地面には、まだ跡が残されている。 更に地面のあちこちに染み付いた生々しい赤と緑の体液。 この公園で何がおこなわれたかは容易に想像がついた。 『 あそこにもいるぞ!! 』 突然、背後から人間の声が上がった。 振り返ると、青い服を着た男二人がセキの姿を見て近寄ってくる。 「 …ッ! 」 瞬間的に敵だと認識したセキは、素早く公園の林の中へ逃げ込んだ。 人間にとって進みにくい林の中を駆け抜け、柵を越えると公園から脱け出した。 数時間後に辿り着いた公園もまた、駆除の手が伸びていた。 「 ワ、ワタシ達はどうなるデスゥ!? 」 「 この仔だけは助けて欲しいデスゥゥ!! 」 「 ママー!ママァァー!! 」 公園の門付近で、地面を覆いつくすばかりに実装石が集められていた。 不安でわめき散らす者、仔を抱き上げて命乞いをする者、親の足にすがりついて震える仔達。 その回りに10人以上の駆除員が簡易的な柵を作って囲み、身動きを取れなくしていた。 「 デッ……。 」 その光景を離れた物陰からセキが見ていた。 何とかしてやりたいが、今の自分ではどうにもならず悔しげに声を洩らす。 『 お〜い、来たぞ〜!! 』 男達が掛け声をかけると、青いゴミ収拾車がやってきた。 収集車は門の入り口の方へバックして駐車する。 その後部ドアが開くと、ゴミ粉砕用のローラーが回転していた。 『 始めるか! 』 「 ギャッ! 」 男が手近にあった実装石の首を掴むと、持ち上げて後部ローラーへ放り投げた。 「 デェ!………ギャ……ギャァァァアァァァァァァァアア!!! 」 放り込まれた実装石は足の先から潰されていく。 逃げ出そうと両手で足掻くが、実装石の力では抗える筈もなく。 内臓を潰され、骨を砕かれ、体液の飛沫を上げながら、実装石の身体はローラーの奥に消えていった。 『 次は、と 』 一匹の実装石が処理される様子を最後まで見せると、駆除員が手を柵の方へ伸ばす。 そして一部始終を見ていた実装石達はパニックに陥った。 「 出して、出して、出してデス〜〜!! 」 「 嫌デス!嫌デスゥゥ!! 」 「 死にたくないデスゥ!! 」 駆除員の手から逃れようと逃げ回り、柵から外に出ようと叩くが実装石の力では無理だった。 『 ギャハハ!毎回いい声で鳴いてくれるぜ、コイツらは〜! 』 『 おいバカ、頭から入れるなよ! 足から入れないと最後まで楽しめないだろが! 』 実装石達は喚きあい、泣き叫び、駆除員達に命乞いを繰り返した。 手から血が出るまで柵を叩きつけ、近くの人間に頭を地面に擦り付けて許しを請う。 しかし、それを目の当たりにする駆除員達の反応は冷ややかであり…哀れな実装石達を嘲笑っていた。 「 じっとしてるデス…! 」 「 ママ… 」 何組かの親仔実装が、仔実装達を抱き寄せて地面に小さく蹲っている。 目を閉じ、耳を塞いで、同属達の処理を目にしないようにしていた。 仔実装達から、不安な声が漏れる。 『 おい、そろそろメインにしようぜ 』 『 オッケー 』 「 …ギャ! 」 「 チュア! 」 駆除員は、とある親仔実装に目を付けた。 男達の手が伸び、親実装1匹と、その仔実装4匹が持ち上げられる。 「 止めてデス!止めてデスゥゥ!その仔達には何もしないでデスゥゥゥゥ!! 」 親実装は、駆除員の手に握られた仔実装に手を伸ばして泣き叫んだ。 『 …なら、助けてやろうか? 』 リンガル越しに駆除員の言葉が実装石に伝えられる。 「 …デ? 」 『 但しだ……お前の仔を1匹だけ選んで、あそこに入れろ。 そうすれば、他の仔とお前だけは見逃してやる。 』 駆除員はローラーを指差した。 持ち上げられた親実装の前に、仔実装達が並べられる。 『 さぁ、選べ 』 「 そ、そんな…!自分の仔を選べないデス…!! 」 その親実装の言葉に、周りにいた駆除員達は噴出し腹を抱えて笑い出した。 『 最高だよ、コイツ! 』 『 実装石の癖して、一人前に愛情あるぜ! 』 『 笑わせんなよ! 』 男達の下卑た笑いが続く。 そして選べなければ親仔共々、処理すると告げた。 「 ゴメンデスゥ……本当にゴメンデスゥ… 」 「 ママ…ママ…? 」 親実装は、まだ産まれたばかりの仔を選ぶと、ローラーの前に立たせられた。 その胸に抱かれた仔実装は、状況を理解できず、あどけない顔で親実装を見上げている。 目の前には鈍い音を立てて回転する実装石の体液がこびりついたローラー。 『 ほら、早くしろよ。後がつかえてんだぞ? 』 『 ママさん、頑張ってね♪ 』 『 他の仔がどうなっても良いのか〜? 』 駆除員達がニタニタと笑いながら、背後から親実装を急かす。 だが親実装は涙を流しながらも、決心がつかない。 ようやく動いた時は、背後で3匹の仔の泣き声が大きくなった頃だった。 親実装の手から放られた仔実装が、ローラーへと宙を舞い…。 「 ……デチャ! 」 瞬時に染みの一つと化した。 『 コイツ、本当に投げやがったぜ〜! 』 『 仔供が可哀想とは思わねえのかよ! 』 『 最低の親だな〜! 』 「 ゴメンなさいデス……許してデス……! 」 ローラーの染みの一つを呆然と眺める親実装の姿に駆除員たちが笑いこげていた。 『 …よし、仕事、仕事! 』 『 おい、そのゴミも入れとけ 』 『 分かってんよ 』 駆除員たちが手に持っていた3匹の仔実装は、何の躊躇いも無く、ローラーへ放り投げられた。 「 …な、何をするデスゥ!約束が違うデスゥゥ!! 」 涙を流しながら駆除員達に訴えかける親実装だが、その反応は素っ気無かった。 『 人間サマが実装石なんかの約束を守るわけねえだろ? ほら、邪魔だ。 』 「 そんな…そんな酷いデス…!! デギャアァァァァァァァァァッァァアア!! 」 親実装もまた、そのままローラーの方へ放り投げられる。 自らの手で仔を殺め、他の仔達を全て目の前で失い絶望し、身体をひき潰されながら親実装は死んだ。 他の実装石達に対しても駆除員達は僅かな希望をちらつかせる。 『 おい、隣の奴を殴り殺したら助けてやるぞ? 』 『 俺の目の前で仔を1匹食ってみろ、そうしたら出してやる 』 無責任な言葉に僅かな希望を抱き、実装石達は同属達を傷つけ、泣きながら仔を殺めた。 『 ギャハハハ! 』 『 そうこなくっちゃな! 』 『 たまんねえな! 』 その様子を人間達は笑いながら見ていた。 必死になって生にすがる実装石を人間達は見下ろし、声高らかに笑っていた。 「 ……ゴメン……デスゥ… 」 同属達が面白半分に殺される様子を、セキは手を震わせながら見ていた。 自分の無力さを、その不甲斐無さに震えていた。 飛び出そうと思ったのは一度や二度ではない。 同じ場所にチィが居たならば、とっくの昔に駆除員達へ飛び掛っていただろう。 しかし、そのたびにホウの戒めの言葉を思い出した。 < 誰かを助けようとして、ニンゲンと戦わないのを約束できるデスか? > 老獣装は、これを見越していた。 そして背負ったリュックで眠っている仔獣装の事を思い出す。 自分が暴れては背中の仔まで無事には済まない。 今のセキは無力だった。 ただ同属達の最期を見届けるしか、他にできることは無かった。 「 セキが帰ってきたデス! 」 二日後、セキは山の村へ帰ってきた。 「 ……どうしたデスか? 」 セキの帰還を喜ぶ仲間達だったが、その様子がおかしいのに気付く。 リュックサックで楽しげに声を上げる仔獣装とは裏腹に、セキの表情は焦燥しきっていた。 「 それで、どうだったデス? 」 山頂の広場にてホウとテン、チィ、そして主な実装石達が集まり、セキの報告を聞こうとした。 しかし先ほどからテンが問いかけても、セキは沈黙を守ったままだった。 隻眼の獣装石は村に帰ってから、全く言葉を発しようとはしない。 「 黙っていては分からないデスよ…… 」 「 いや、もう良いデス 」 尚も沈黙を保ったセキ……問い詰めようとするテンを、ホウが止めた。 「 セキ、一つだけ確認するデス……連れてきたのは獣装石の仔が1匹デスね? 」 ホウの言葉に、セキは俯いたまま力無く頷く。 「 よくやったデス……あの仔だけでも助けられて良かったデスよ さぁ、今はゆっくり休むと良いデス… 」 「 デ……デェ……! 」 ホウの労いの言葉に、隻眼の獣装石の目から涙が溢れた。 「 ワタシは…ワタシは……! 」 居並ぶ中、ホウだけはセキに何が有ったか想像できていた。 実装石にとって下の世界は地獄。 あれからも他のコミュニティを見て回り、そして多くの同属達が無残に殺されていくのを見ていた。 いや、見ているしかできなかった。 せめて仔達だけでも助けようとするが、自分の手が足りない。 セキは身を切られるような想いで多くの同属を見殺しにした。 多くの同属達が人間によって遊び半分に殺されるのを、見てるしかない無力な自分が恨めしかった。 そんな情けない自分に優しい言葉をかけられると、涙が止まらなかった。 「 ……セキ 」 察しの良いテンにも、ホウとセキの会話から下の様子が想像できた。 今のセキには、何もかける言葉が出ない。 「 今は、じっと我慢するしかないデスよ… 」 集まった者達に老獣装は短く、それでいて強く戒めた。 しかしセキが帰還して数日後。 「 大変デス!ホウ!! 」 ある日の午後、見張り獣装がホウの元に駆け込んできた。 「 麓にニンゲンが集まっているデス! 青い服を着たニンゲン達デス!! 」 その場に居た、ホウ、テン、チィ、セキ達に戦慄が走る。 「 数は12人!全員、棒や袋を持っているデス! 」 更に見張り獣装は、人間達が山を登り始めていると報告した。 その進行方向は山頂……即ち、この村である。 ホウが腕を組んで見張り獣装の報告に耳を傾けている。 「 …とうとう来たデスか 」 今まで人間と事を構えるのを極力避けてきたが、遂に来るべき時が来た。 その場にいた指揮獣装達の注意が、ホウの次の指示に向けられる。 そしてホウは立ち上がり、村の者達全てに号令をかけた。 「 全獣装、集結!! 」 ( ピィィィィィィィィ!!! ) 獣装石によって笛が鳴らされる。 辺りで作業をしていた者達に緊急召集がかかり、全ての個体が村へ戻ってきた。 山頂は騒然となり、実装石達は自分達の寝床へ避難していく。 一方、獣装石達が続々と広場へ集結していった。 「 集まるデスッ! 」 「 ニンゲン共、ぶっとばしてやるデス! 」 テンとチィは、各々の隊の獣装石達の点呼を取り始めた。 そしてセキもまた自分の隊に点呼をかけ部下の獣装石達を確認。 するとホウが近寄り、他の誰にも聞かれぬようセキだけに耳打ちした。 「 セキ、前にワシに質問したデスね この訓練は誰と戦うためなのか、と? 」 「 こんな時に、どうしてそんな話をするデス 」 「 今までの訓練はニンゲンと戦うためデス 」 「 …ェ? 」 「 ワシが今まで獣装石達を集め育てて訓練したのは、ニンゲンと戦うためなのデスよ 」 「 ホ、ホウ……今、なんて…言ったデス…? 」 しかしホウは、セキが問いかける前に翻り……集結し整列した全ての獣装石に向かって声を張り上げた。 「 出撃!!! 」 老獣装の号令一下、70の獣装石が山の麓に向かい疾走を始めた。 < 付記 > 第一次駆除戦 詳細 9月25日 15時00分 開始 天候 晴天 温度 23℃ 獣装石側戦力 司令獣装 ホウ 以下 獣装石 36匹 指揮獣装 テン 以下 獣装石 10匹 指揮獣装 チィ 以下 獣装石 10匹 指揮獣装 セキ 以下 獣装石 10匹 人間側戦力 駆除業者 12名 主要装備 鎮圧用警棒 捕獲用投網 実装石用指定ゴミ袋
