「 デッ…!デッ…! 」 ある巨大な河川の堤防芝生。 一匹の隻眼の獣装石が四足で疾走していた。 冬香の家を飛び出して半日後、セキの目前に大きな河が現れた。 向こう岸まで200メートル以上の幅の河川。 当初のセキは今まで住んでいた街から、兎に角自然の多い場所へ向かおうと決めていた。 この川の上流を遡れば、緑の山々に辿り着くだろう。 地図も土地勘も何も無い状態のセキであったが、迷うことなく川沿いに上流に向かって奔り始めた。 家から持ってきた実装フードは一袋有ったものの、セキはほとんど手をつけていない。 川沿いに生い茂る草花で空腹を満たした。 つまり実装フードは非常食だった。 今まで冬香の家で食べさせて貰った食事に比べ、味気無いものの、実装石は雑食性が高い。 獣装石も例外では無く、素っ気無い味ではあるものの、セキにとって草花は十分な栄養源であった。 そして、この時のセキは充実感に溢れていた。 前まで冬香の家と近所が世界の全てであったが、今は広々とした世界を思うままに駆け抜けることができたから。 「 あれは…デス? 」 陽が傾き、そろそろ今夜の寝床を探そうとしていた時、進行方向上の河川敷に実装石の姿が見えた。 遠くから見ると成体が十数体、仔実装も含めれば30匹以上の個体が生息している。 セキは、このコミュニティで寝床を貸して貰えないかと立ち寄った。 「 デ……ギャアアア!獣装石デスゥゥ! 」 「 デギャアアア! 」 「 チュアアアアア! 」 セキの姿を見ると、ついさっきまで河川敷を歩いていた実装石達は一斉に逃げ隠れてしまった。 「 困ったデスね… 」 とはいえ、実装石達が逃げ出したのはこれが始めてでは無かった。 二日前も別のコミュニティーに立ち寄ったが、自分が獣装石だと分かると蜘蛛の巣を散らすように逃げてしまった。 已む無くセキは、その場を立ち去り、更に上流へ向かって奔り続ける。 辺りの景色は、無機質な町並みから緑の木々や田畑が多くなってきた。 すると遥か上流の向こうに霧がかった山が微かに見えてきた。 セキは自分の目的地が近づいてるのを本能的に感じた。 何度目だろう。 セキは、また別の河川敷のコミュニティに足を踏み入れた。 今までとは変わらぬ、実装石達が作り上げた生活圏。 途中から姿を見せぬよう脇を通り過ぎていたセキだが、このコミュニティには立ち寄る事に決めた。 そろそろ見えてきた山の、実装石達についての話を聞きたかったから。 「 …ギャ! 」 しかしながら、やはり実装石達はセキを見ると一目散に逃げてしまった。 一斉に物陰やダンボールハウスに隠れ、息を潜めているのが分かる。 「 仕方ないデス 」 やはり実装石達にとって、未知の獣装石は恐怖以外何者でもなかった。 仕方なくセキは、それ以上話しかけようとせず、背を向けて立ち去ろうとした。 「 …乱暴しないデス? 」 その時、一匹の実装石が声をかけてきた。 このコミュニティのリーダーらしい。 膝をガクガク震わせながらも、物陰から勇気を振り絞ってセキに尋ねてきた。 「 何もしないデス 少し聞きたい事があるだけデスから 」 その言葉を聞いたリーダー実装は、おそるおそる物陰から姿を現した。 「 …なるほど、今までニンゲンに飼われていたデスか 」 30分も経つとセキへの警戒心も解けたのか、遠巻きに眺めつつも実装石達は表に出ていた。 セキは自らの身の上を語り、リーダー実装へ山の事情を聞いた。 「 ワタシは山に行ったことは無いデス ここから見えるデスが、やはり遠いデスゥ… 」 河川敷から上流に薄っすらと見える山並み。 その山には、自分達とは異なるコミュニティが形成されていると言う。 いわゆる山実装と言われる実装石達、そして人里から遠く離れた自然の中に生きる獣装石。 そこが自分の生きる場所だと確信したセキだが、リーダー実装は更に興味深い話をしてくれた。 「 そういえば、そろそろホウがやってくるデス 」 「 …ホウ? 」 「 ホウもセキと同じ獣装石デス 群れを率いる、とっても強い獣装石なのデスよ 」 この近辺にもまた、公園や河川敷といった場所に幾つかの実装石のコミュニティが存在するという。 その多くのコミュニティへ定期的にホウと呼ばれる獣装石が回って訪れる。 この河川敷にも、ホウが数日中に現れるはずだと言った。 「 …なぜ、そのホウという獣装石は色々な所を回ってるデス? 」 「 ホウは時々やってきて、乱暴者の実装石やマラ実装を倒してくれるデス そして産まれた獣装石を引き取ってくれるデスよ 」 聞けばホウは、山にあるコミュニティーのリーダーであると話してくれた。 ホウは間引かれようとしている獣装石を多く集め、山で育てているらしい。 実装石にとって産まれた獣装石は間引きの対象であるが、産まれた仔を間引くのに躊躇する個体は多い。 しかし間引かねば、いずれ自分達に危害を加えかねない。 だからホウは、そのような仔獣装の里親となり、数多く引き取っているという。 「 ここでも以前産まれた獣装石をホウが引き取ってくれたデス 」 本来、実装石の社会において獣装石とは異端である。 ホウは、そのような獣装石達が暮らせる村を山に作った。 獣装石を集めてコミュニティを形成しているホウに、セキは興味を抱いた。 「 ホウに会いたいのなら、暫くここに居ればいいデス それにワタシ達も、アナタみたいな強い獣装石が居てくれると心強いデスゥ 」 リーダー実装が笑いながら最後に本音を零した。 僅かに話しただけであるが、セキが只の乱暴者では無いのが分かった。 常に生の危険に晒されている実装石にとって、信頼できる獣装石の存在は心強かったのだ。 その間、セキは改めて河川敷に住む野良実装達の生活を間近で見た。 彼等は主に丈夫なダンボールハウスを緑の草で覆って外部から視覚的にカモフラージュした。 実装石によっては木箱を調達し、それを住処とする者もいる。 全ての実装石達は仲間であり、お互い助け合って生活している。 まだひ弱な仔実装達も、気兼ねなく河川敷内ならば家から外に出て遊んでいた。 そしてこの実装石達は、河川敷の野原から草花や木の実を採集して食料にしていた。 また近くに食料品店があるらしく、そこから廃棄された食料等を拾ってくる時もあるという。 滞在中、セキには特に大きなダンボールハウスが宛がわれた。 その巨体は普通のサイズでは入りきらない。 リーダー実装のせめてもの心配りであった。 そして僅かながら貴重な食料がセキに手渡される。 そしてセキもコミュニティの実装石達と共に食料を調達に出かけた。 その巨体ゆえに目立ち、人間の居住圏には立ち寄りがたいものの 鋭い爪と運動能力を活かし、河の魚を捕りさえもした。 脆弱な実装石達には不可能な作業も、その巨大な体躯で楽にこなすことができた。 初めての同属達との共同生活は、セキにとって全てが新鮮であった。 「 ホウが来たデス! 」 何日か経った後。 皆で食事をしていると、村実装石が1匹、堤防の方を見た。 そこに三匹の獣装石が立っている。 三匹は堤防を降りると、河川敷の実装石達に近づいてきた。 「 久しぶりデス、みんな元気にしてたデスか? 」 2匹の獣装石を連れた1匹の貫禄有る獣装石。 その顔には所々にシワが見え、年配の獣装石であるのが伺えた。 そしてセキ程では無いが、連れた2匹の獣装石より一回り大きな巨躯。 歴戦の勇士がそこに居た。 同じ獣装石であるが、村の実装石達とは顔なじみであり、逃げる者は居ない。 久しぶりの再会を楽しむホウは、1匹の獣装石に気付いた。 「 …見かけない顔デスね? 」 「 はじめまして、セキと言うデス 今はここのみんなに世話になってるデスよ 」 セキは今までの身の上を話した。 自分は獣装石として山で暮らしたいと。 そのため、飼い主の下を飛び出し、このコミュニティへ流れ着いた。 そして、ホウの群れに興味がある事を告げ、自分もそこに入りたいと言った。 「 ワシ達の群れに加わりたいデスか…? 」 ホウの問いかけにセキは首を縦に振った。 自分と同じ獣装石達と一緒に生活をしてみたいと、セキは言った。 「 それなら歓迎するデス、心強い味方は1匹でも欲しいデスから デスが… 」 ホウは、リーダー実装の方を見た。 「 セキが居なくなるのは辛いデスけど……仕方ないデス 」 この数日間、セキはコミュニティーにとって掛け替えの無い存在となっていた。 その巨体の隻眼獣装石は群れにとって非常に頼もしかった。 多くの外敵が存在する実装石達にとって、セキの存在はとても心強かったのだから。 そのセキが群れから離れるのは、非常に辛い。 だがリーダー実装は、あえてセキを引きとめようとしなかった。 「 お世話になったデス…! 」 出立の時、セキは自分を受け入れてくれたリーダー実装の手を握り締めていた。 「 また遊びに来て欲しいデス……セキはワタシ達の仲間デスゥ… 」 群れの中にはセキを引きとめようとする者達もいたが、リーダー実装が制した。 これからの生活は不安かもしれないが、今は黙って見送るしかない。 この実装石はセキの気持ちを理解してくれた。 「 それでは行くデス! 」 セキはホウ達3匹の獣装石と共に、河川敷を後にした。 「 ……それで、今はどこに向かってるデス? 」 ホウ達は、直ぐに住処の山へ向かおうとはせず、田んぼ道を歩いていた。 するとホウは手に提げていた袋から大きな紙を取り出す。 「 次は……ここデス。巡回ルートになっていて、順番に回るデスよ 」 大きな紙は地図だった。 ホウは道端で地図を広げるとセキに見せ、その地図上に、幾つか○の印が書かれているのが分かる。 「 ここが、さっきまでセキがいた村デス 次は、ここの公園に向かうデス 」 ○印の打ってある箇所は、実装石達のコミュニティーの場所を示していた。 その場所に向かい仔獣装の存在を確かめ、引き取って山に連れて帰るのがホウの目的である。 「 ホウサン、お久しぶりデス! 」 「 久しぶりデスね、何も変わったことは無かったデスか? 」 やはり公園の実装石達もホウとは顔馴染みだった。 河川敷の実装石達からもだが、ホウは近辺の実装石達から慕われているのが伺えた。 「 そうデスか……この子達が新しく産まれたデスね? 」 「 はいデス、獣装石は産まれなかったデスが… 」 「 可愛い仔デス……元気に育つデスよ… 」 ホウは1匹1匹、仔実装を見て回っていた。 そしてその手を取り、元気に育つよう、親仔共々励ましていた。 微笑ましい光景だが……傍で見ていたセキに何か違和感が生じる。 「 ……デス? 」 一見すると、ホウは仔実装を励ましている。 だが、よく注意するとホウは仔実装1匹1匹を、つぶさに細かく観察しているのが分かった。 ホウ自身が来ない間に産まれた仔実装の手を取り、その小さな顔をじっと見ていた。 今のセキには実装石と獣装石の違いが分かる。 居並ぶ仔達は、全て間違いなく実装石だ。 だがホウは、なぜか仔実装達まで念入りに観察していた。 目的の獣装石でも無い実装石の仔達を念入りに観察していたのだ。 「 ホウにも困ったものデスゥ… 」 ホウに付き従っていた獣装石の1匹が溜め息をついた。 確かにホウは今でも元気に走り回っているが、年老いたのは否定できない。 しかもホウは、群れにとって大切な獣装石。 このような仔獣装の引き取りは、自分達に任せてくれれば良いのに…と愚痴を零した。 山では多くの獣装石達がホウを必要としており、この老獣装を失うわけにはいかない。 しかしホウは仔供好きだから、とも獣装石は言った。 こうして産まれた仔達を見て回るのが好きなのだろうと言う。 しかしセキは、そう思えなかった。 今のホウは、仔獣装でなく他の何かを探しているように見えたのだから。 「 …ホウ、少し良いデスか? 」 「 どうしたデス? 」 その夜、公園の街灯の下、ホウは地図を広げて明日の予定を立てていた。 既に他の獣装石2匹は、近くで拾ってきたダンボールの中で寝ている。 「 ホウは獣装石の仔を探しているデスね? 」 「 そうデス……それがどうしたデス? 」 「 ワタシにはそう思えないデス… 」 もう全ての実装石が寝静まった公園。 その静かな敷地内で、セキはホウの近くに腰を下ろして口を開いた。 「 ホウは獣装石の仔以外に、何かを探しているのでは無いデスか? 」 「 …… 」 セキの問いかけに老獣装は地図を凝視したまま、何も応えない。 しばし無言の時が続いた後、ホウが顔を上げた。 「 …なぜ、そう思うデス? 」 セキは今までの疑問をホウにぶつけた。 今思うと、この公園のみならず河川敷でもホウの行動は不思議だった。 自分がリーダー実装から聞いていたホウは、仔獣装を引き取るために色々な場所を回っていると。 だが実際のホウは、産まれた実装石まで1匹づつ観察していた。 それはセキのいた河川敷でも同様で、やはり仔実装を1匹づつ観察していた。 セキにはそれが不思議でならなかった。 なぜホウが、獣装石でもない実装石の仔を注意深く観察する必要があるのか? 「 セキは気付いたデスか… 」 老獣装は手に持っていたペンを地図の上に置いた。 丸みを帯びたペンはころころと転がり…地図の折り目で止まる。 そしてホウは重々しく口を開いた。 「 ……ワシもセキと同じで、若い頃はニンゲンに飼われていたデス 」 最も幼い記憶は冷たい雨の降る道路。 まだ仔獣装だったホウはアスファルトの上で、瀕死の状態であった。 なぜ、倒れていたのか、死にかけであったのかは覚えてない。 すると、そこへ1人の老人が通りかかった。 その人間に拾われなければ、間違い無く死んでいたとホウは話した。 老人の家には他に家族が居なかったらしい。 妻に先立たれ、娘も嫁いでしまい、広い邸内には彼1人しか居なかった。 その邸内に仔獣装が迎えられた。 ホウという名は、その老人から送られた。 老人から手当てを受け、ホウは瞬く間に元気になった。 獣装石であり、産まれつき身体の大きかったホウは息子のように可愛がられた。 古風だった初老の人物は、ホウに武芸を仕込み、身体を鍛えた。 毎朝、竹刀を持った老人と組み手がおこなわれた。 そして更に、老人はホウに見たことの無い本を読ませた。 漢字ばかりの本だが、その一節一節の意味を獣装石のホウに説明した。 こうして文武両道を仕込まれたホウは逞しい獣装石に成長した。 だが一方、老人は床に伏せる時間が長くなる。 日に日に老人はやつれ、ホウと一緒に組み手をすることも少なくなった。 ホウには心配だが、どうすることもできない。 ただ、横になっている老人の傍で話し相手になったり、看病の真似事をした。 そしてある時、病に伏せっていた老人は、傍に居たホウに奇妙な話を始めた。 『 …なぁ、ホウ 』 「 なんデス、ご主人さま? 」 『 ワシはもう、長くない 』 「 そんな事は言わないで欲しいデス…すぐに良くなるデスよ 」 『 いや、だから今のうちに聞いてくれ ワシは昔な、実装石の仕事をしていたんじゃよ 』 引退前の老人は、実装石の研究に携わっていたと話してくれた。 ホウを助けたのも同情心などではなく、道に倒れていたのが獣装石で珍しかっただけだと。 瀕死のホウを助けた手際の良さは、実装石に深く精通していたためだ。 『 …ホウ、お前は賢い子だ いや、お前だけでなく、実装石は人間の次に賢い生物だ… だが… 』 「 デス…? 」 『 ……実装石は決して人間と同等になれないのだよ 』 それはホウにも理解できた。 実装石とは異なり、人間は知力も体力も勝っている。 今の状態では何をどうしても実装石が人間と並ぶのは不可能だ。 『 いや、そうではないんじゃよ、ホウ… 』 老人は咳き込みながら、話を続けた。 『 …仮にだ、今この瞬間、地球上から全ての人間が消えたとしよう 実装石は人間の代わりに地上の支配者になれると思うか? 』 ホウは応えることができない。 その老人の真意を測りかねていたから。 『 …答えは無理だ 実装石には、生物として……人間に比べて足りない部分が有る 』 「 足りない…デス? 」 今では研究から引退している老人だが、そんな今でも消えない疑問が有るという。 もし、その足りない部分の揃った実装石が居るのなら…。 その実装石は生物として人間と同等に成りうるのではないかと。 『 よく聞いておくれ… 実装石にとって、人間に遠く及ばないのは知力でも体力でも無い そんな差は些細な事じゃよ 頭が悪いとか、身体が弱いなんてのは大したことじゃない その劣っている部分さえ補えば…それさえ有れば… 』 …数日後、老人は息を引き取った。 自分の飼い主の最期を看取ると、ホウは荷物をまとめた。 老人が特に自分へ熱心に教えてくれた本。 それだけを持つとホウは外の世界へ飛び出した。 そして数年がかりでホウは仔獣装や獣装石を集め、山にコミュニティを形成した。 それと並行してホウは辺りの実装石達を見て回り、老人の口にした個体が居ないかと探し回った。 「 ……つまり、ワシが探してるのは完璧な実装石デス 」 街灯の下、自らの過去を語ったホウが告白した。 事切れる間際に遺された飼い主の言葉。 ホウは、自分を助けてくれた飼い主の願望を叶えるために生きてきたのだ。 「 その完璧な実装石って…どんな実装石なのデス? 」 セキはホウに詰め寄って問いかけた。 人間と同等に成り得る実装石。 もし存在するとすれば、それはどんな実装石なのだろうか? 「 …教えられないデス 」 「 デェ? 」 「 これは誰にも話せない秘密デス だからワシは他の獣装石達に任せられず、自分自身の目で探しているデス… 」 ホウは誇張でなく、その実装石は人間にとって脅威になるであろうと教えてくれた。 自分がそんな実装石を探しているなどと、人間達に悟られてはならない。 だからホウは今まで、たとえ仲間にさえも真実を話さなかった。 セキには、どんな実装石なのか検討も付かない。 だが、自分はまだホウの群れに加わったばかりの新参。 興味本位でこれ以上、無理に聞く気にもなれなかった。 「 ……そういえば、思い出したデス 」 「 なにが、デス? 」 夜も更けてホウの昔話も終わった。 そしてセキも眠りに付こうとした時にホウが続けて話を切り出した。 「 やはりワシが若い頃、今の山の村を作っていた時デスよ 獣装石の仔を集めて色々な所を回っていると、凄い実装石に出会ったデス 」 「 凄い実装石…デス? 」 「 そうデス……今思えば、無理にでも引き止めるべきだったデスね 」 それは親仔連れの実装石だった。 それまで数万匹という実装石を見てきたホウだが、その親仔は別格だった。 実装石とは思えない程の高い知能を有する個体。 親実装の更に親は、自分達以上に賢く、前まで人間と暮らしていたという。 自分の知能は親譲りだろうと話してくれた。 当時のホウは、その親仔へ群れに来て欲しいと懇願した。 実装石と言えどもそれだけ賢い個体なら、村を作っている自分の力になって欲しかった。 是非、自分の仲間になって欲しかった。 しかも親仔は元々身体も弱く、外界で生活するには厳しすぎる。 食べ物さえ満足に得られず、仔を満足に育てることもできないだろう。 だから山での安全な生活をホウは約束したが、その親仔を引き止めることはできなかった。 親仔は、前の親実装からの願いを叶えるため、旅を続けなければいけないと言った。 「 願い…デスか? 」 「 親の願いだったらしいデスが……ワシと同じように実装石を探してたデスね 」 「 どんな実装石を探してたデス? 」 「 …… 」 「 …デス? 」 「 ……指導者に相応しい実装石を探していたデス 」 「 デ…? 」 「 あれからもワシは、たくさんの実装石を見てきたデス デスが、やっぱりそんな実装石も見つからなかったデスね… 」 セキには、ホウの後悔が感じ取れた。 あの親仔の熱意に負け、引き止めることはできなかった。 だがホウ自身は強引にでも引き止めるべきではなかったのかと、あれから自問自答を繰り返してきた。 普通の実装石に比べ、身体も小さく弱い親仔が無事に生きていけるとは思えない。 それに、もし一緒に行動できたのなら、自分の良き理解者になってくれたと思う。 コミュニティのリーダーの自分にとって良き相談相手になってくれただろう。 そして飼い主から託された大切な願いを、唯一打ち明けることができたかもしれない同属だった。 「 昔のことデス……明日は早いから、もう寝るデスよ 」 それだけ言うと、ホウは自分の寝床に向かった。 灯りの下、呆然とするセキが残される。 ホウと数年前の親仔実装 両者は共に、それでいて全く別の実装石を探し求めていた ホウは今も尚、飼い主の言葉に従って探し回っている そしてセキは、ホウが出会ったという親仔実装の事を考えていた 「 見つかったデスかね… 」 誰にも聞こえないセキの呟きが公園の闇に消えた
