敷金・礼金無料 8 俺の名はやおあき。 自らは手を下さない、観察型の虐待派だ。 俺は友達のにじあきと協力して、五組の賢い実装石一家をさらって来た。 今彼女達は、俺達が整えた(実装石にとっては)最高の住処…古い木造アパートの中に居る。 雨風をしのげ、外敵から守られたこの素晴らしい環境の中で、彼女達はどのように生きていくの だろうか? ●アカ組:親×1、仔×1 ●キイロ組:親×2、仔×1、蛆×1 ●ミドリ組:仔×2、親指×1 ●モモ組:新・親指×1 ●ムラサキ組:親×1、仔×1、親指×1 以上五家族、親4匹、仔5匹、親指3匹、蛆1匹…合計13匹。 アパートの構造と部屋割りは、以下の通り。 ■1階 部屋番号は、左上→右下の順で、101〜103、105〜107(104はない)。 (入り口) _ || □||黄 □||□ 緑||赤 ■||▲ | → 二階へ ‾‾‾‾ □は空き部屋、▲はトイレ、■は風呂場。 廊下の奥、トイレの脇には、二階へ昇る階段がある。 ■2階 部屋番号は、左上→右下の順で、201、202、203〜206(204はない) ____ ▲||紫 □||□ ■||□ | → 一階へ ‾‾‾‾ □空き部屋 ■は洗面所 ▲は秘密 ※紫は仮使用 三階や地下室はない。 入り口には鍵がかけられていて、脱出は不可能。 (前回のあらすじ) モモ親の出産は、大失敗に終わった。 四匹生まれたうち、三匹は糞蟲、もう一匹の親指は母親を見限って離反した。 しかも、ついうっかりモモ親に代わって間引きをしてしまったキイロ親2のせいで、モモ親は自壊。 ついには、偽石を崩壊させてしまった。 一方アパートの外では、徘徊する野良実装による被害が出始めていた。 やおあきの親も、アパート内に実装石が居るのではないかと疑い始める。 ようやく落ち着き始めたと思われた実験は、あらたな局面を迎えようとしていた。 ■ 第八話 「ドゥームズ・ディ」 ■ 桃「レチレチ〜♪」 紫「デシャ……デデデ…」 紫仔「「テー…」」 あれから、モモ親指は目覚めたムラサキ親にべったりと甘え、そして姉妹達にも愛想良く振舞った。 どうやら、何か魂胆があるわけではなく、本当にムラサキ組に同化したがっているらしい。 新生児・モモ親指は、妙に冷めた態度ときつい言動を併せ持つ不思議な突然変異。 しかもなぜか髪の毛がないようで、生まれつきの禿。 そのせいか、同じく禿裸のムラサキ組を、本当の家族だと思ってしまったらしい。 というか、そう思おうとしているようだ。 ムラサキ親は、ちっこい親指実装がしきりに甘えてくるためいつまでも怯えているわけにはいかず、 戸惑いながらもモモ親指を抱き上げていた。 それを見て、悲しそうな声を上げる本来の子供達。 桃親指「ママー、みんなも一緒に抱っこしてあげて欲しいレチ♪」 紫「わ、ワタシは、あなたのママではないデス…」 桃親指「そんな事いわないでレチー♪ ホラー、みんなと同じツルツルレチー♪」 紫仔「「テ、テチャー!!」」 子供達が泣くので、仕方なくムラサキ親は、三匹まとめて抱っこする。 ようやく落ち着きを取り戻し始めたようなので、キイロ親1が静かに話しかけた。 黄1「あの〜、そろそろお話をさせてもらってもいいデスか?」 紫「デデッ?!」 黄1「落ち着いてくださいデス。私達はあなたの味方デス」 紫「……デ…」 黄1「あなたがニンゲンに虐待を受けていた事はわかってるデス。でも、ここにはニンゲンは一応いない デス。どうか安心して欲しいデス」 紫「…本当…デスか?」 黄1「本当デス。ここでは、実装石同士仲良く暮らしていますデス」 緑「ほ、本当デチよ。ちょっと暑くて寝苦しいけど、雨が降っても安全だし、とってもいい所デチ!」 紫「……」 やっと、会話が成立し始めた。 しかし、俺はキイロ親1の言い回しが、すごく気になっていた。 「虐待を受けていた事はわかっています」? 「ニンゲンは“一応”いない」? …何が言いたい、キイロ親1? 黄1「良かったら、あなた達の事を話してもらえないデスか?」 紫「で、でも…」 黄1「あなた達の事を知らないと、ワタシ達は、悪気もないのにあなた達を困らせてしまうかもしれない デス。だから教えて欲しいデス」 紫「……本当に……ワタシ達を襲わないデス?」 緑「襲う? デチ?」 黄1「——同族に襲われたデスか?」 キイロ親1の言葉に、ムラサキ親は強く頷く。 そして、ムラサキ親の独白が始まった。 高級飼い実装として厳しい躾を受けた事、子供を孕むまでは最高に幸せな生活をしていた事、突然 大好きなご主人様に虐待をされ始めた事、最後に、野良実装達から二時間生き延び続けるというテスト を受けさせられ、半死半生でクリアした事…… にじあきめ、そんな手酷い事をやっていたのか。なんていう外道だ。 俺は、愛護派として奴が許せなくなり、今度一発殴ってやろうと思った。 次回、やおあき対にじあき! …ぴょーん♪ 紫「それで、気付いたらこのおうちの中に居たデス。何がなんだかわからないデス」 緑「酷い事をされて来たデチね…。でも、もうそんな目には遭わなくて済むデチよ」 紫「皆さんが優しい方達だって、やっとわかってきたデス。今までごめんなさいデス」 ムラサキ親は、二匹に対して深々と頭を下げた。 ついつられて、ミドリ姉も頭を下げ返してしまう。 だがキイロ親1は、ものすごい怒りの表情を湛えてムラサキ親を見つめていた。 紫「…ヒッ!」 黄1「失礼。別にあなたに怒っているわけではないデス」 紫「?」 黄1「実は、ワタシ達も元々は飼い実装だったんデス」 ——なに? キイロ組の秘密が、ついに、話された。 俺は即座に画面の録画に入り、全神経を集中してキイロ親1の発言に聞き入った。 緑「キイロさん達、飼い実装だったんデスか?!」 黄1「正確には、飼いというより…実装ショップに“勤務”していたデス。ですが、ある理由でそこにいられ なくなり、今では野良として生活をしているデス」 紫「まあ…デス」 黄1「うちのママは、れっきとした飼い実装デス。ですが、ワタシと知り合ってから一緒に逃亡してるデス。 うちの仔も、蛆ちゃんもそうデス。——あの中に、ワタシの本当の家族は一人もいないんデス」 緑・紫「デゲッ?!」 ——な、な、なんだとぉっ?! にじあき、これを知ってたのか?! ペットショップに勤務? 逃亡? 家族ではない? ど、どういう事なんだ、あいつら?! 俺は、ひとまずその画面の録画を継続させ、にじあきの携帯に連絡を入れた。 ■□□ 『その話は、俺も初めて知ったよ』 にじあきも、この話にはかなり驚いている様子だ。 「そうなのか。なんかあいつ等の秘密をまだ知ってるような素振りだったから、ひょっとしたら何か気付いて いるのかと思ってた」 『お前に黙ってたあいつらの秘密ってのは、あの蛆実装の事だったんだ』 「蛆?」 『ああ、あいつは俺が監視する前からずっと居るんだ。つまり、親指に進化せず蛆のまま成長しちゃってる タイプなんだよ。だから普通の蛆よりは何倍も強いだろうから、長持ちするかも…って思ってただけでさ。 まさか、こいつらにこんな秘密があるとは思わなかった』 「そういう事かあ…なるほどな」 『いや、今回ばかりは俺も驚いた。とんでもない奴等連れて来ちゃったな』 まったくだ。 結局、ここに残ってる“俺が連れてきた”連中は、もうアカ組しか残っていない。 モモ親指誕生には関わったものの、ほとんどがにじあきの選んだ奴等に支配されているようなものだ。 『それはそうと、やおあき』 「なんだ?」 『なんか最近、野良実装増えてるらしいから、漁られたりしないように気をつけろよ』 「わかってるって」 野良実装徘徊の話は、さすがににじあきもチェックしていたらしい。 なんでも、例の公園を初めとするいくつかの生息ポイントで実装石が突然増え始めたそうだ。 まして、もうすぐ夏真っ盛り。 林や泉の近くに住んでいる奴等はともかく、涼しい場に飢えた連中は、餌探し以上に快適な住処を 求める。 これが、最近の野良徘徊の要因らしい。 その後、しばらく野良実装対策の話をしてから、電話を切った。 その後。 モモ親死亡・モモ仔達全滅の報がキイロ親達から皆に伝えられ、アパート内はちょっとした喧騒に 包まれた。 アカ組とミドリ仔が、キイロ親達の態度を責めたのだ。 しかし、キイロ親達は何の反論もせず、ただアカ組の罵詈雑言を受け止めていた。 ミドリ姉こそ何も口出しはしなかったが、やはり、キイロ親達に何か恐怖を感じている様子は窺えた。 そういえば、こいつが突然パンコンしたのは、どういう理由があったんだろう? しかし、その日はそれ以上大きなアクションは起こらず、そのまま全員いつものように食事と風呂・ トイレを済ませ、部屋へと戻って行った。 モモ親の死体は106号室に寝かされていた。 ■■□ その日の深夜。 俺は、全員が寝静まったのを確認して、アパートへ向かった。 106号室のモモ親の死体回収である。 アパートから出る事が出来ない実装石達は、死体を処理する術を持たない。 また、季節柄すぐに腐敗が始まってしまうので、うかうかしていられない。 だから、やむなく俺が直接回収するしかないのだ。 作業中に起きられないように、107号室のアカ組に催眠スプレーを吹きかけ、次に105号室へと向かう。 ここのキイロ組に気付かれたらやっかいだ。 ドアをゆっくりと開き、中の様子を窺おうとする。 だが、その瞬間…部屋の中で、影が動いた! (やべ! 起きてる?!) 俺は室内で何かが動く気配を感じ、ついスプレーを吹きかける事も忘れて慌ててアパートを退出した。 勝手口を閉じ、一端部屋に戻る。 30分ほど間を空けてから、再度アパートに侵入する。 やべ〜、ただでさえ勘の鋭いキイロ組に見つかったら、すべてが台無しだもんなあ。 しかし、アレは確実にオレの存在に気付いただろうな〜。ああ、またミスしちまった… 今まではモモ親のイビキがカモフラージュになったけど、これからはそうはいかないからな。 そんな事を考えながら、俺は勝手口を開けて中に入ろうとした。 すぐ目の前に、実装石が居た! 「うわ………っっっっっ!!!!」 思わず大声を出しそうになるが、ぎりぎりで口を押さえる。 足下に居る実装石は、横たわったままピクリとも動かない。 よく見ると、フリフリピンクの実装服を着ている。 これは、106号室で安置されていた筈の、モモ親の死体だ。 何者かがここまで運んできたのか? 静かに周囲の様子を窺うが、他に実装石が居る気配はない。 多分、隠れてこちらを見ている事もないだろう。 根拠は全然ないが…なんとなく、そんな気がする。 俺はモモ親の死体を回収し、今夜はそのまま退出する事にした。 子供達の染みを拭き取りにいけないのは残念だが、これはもはや、奴等になんとかさせるしかない だろう。 勝手口に鍵をかけ、俺は、以前アオ親の死体を埋めた所の脇に穴を掘り始めた。 だがこの後、俺は自分の迂闊さを心底思い知らされる事になる。 この時の俺は、アパート内の実装石達の事ばかり頭にあって、もう一つの「注意しなければならない こと」を完全に失念していたのだ。 「何か埋めたデス」 「ニンゲンが居なくなったら漁ってみるテチ」 「きっとおいしいご飯を隠したテチ」 「あのニンゲンが出てきた所には、もっと一杯あるテチ」 「よし、ママに任せるデス。もっと一杯のご飯をせしめてやるデス」 □■■ さて、翌日。 今日も早速観察を…と思って起きようとしたら、いきなり母親が飛び込んできた。 「やおあき、ちょっと!」 「な、なんだよ〜、ノックくらいしてよっ!」 「さっきアパートの方で、なんか変な音がしたんだよ! ちょっと見てきてよ」 「変な音〜?」 「なんか、ガラスが割れたようなさぁ。あたし気持ち悪くて行けないのよ。お父さんも出かけたし〜」 ガラス…? 猛烈に嫌な予感が走る。 「…母さん、ちょっと部屋出て」 「え、あ、ちょっと?!」 「ちゃんと確認しとくから! 今は出ていて!」 母親を強引に部屋から押し出すと、俺はモニターを点けた。 心臓がバクバクいっている。 まずは、一階廊下から……って、いきなり変化が確認できた。 廊下には、無数の汚れが点在していた。 どうやら、泥か土のようだ。 他の実装石の姿はなく、101号室と102号室のドアが開け放たれている。 ふと、画面の端に何か見えた。 これは玄関の方だ。 画面を切り替えてみる。 ——やられた! 玄関の戸は、薄いガラスと木で作られた古めかしいスライド扉で、左右を錠前で固定するタイプのもの。 ちょっと凝った作りになっていて、ガラスは結構大きな面積を占有している。 ここに、大きな石が投げ込まれていた。 野良実装の住居侵入だ。 よもや、このアパートを狙ってくるとは思わなかった! 母親が聞いたガラスの割れる音とは、これの事だ。 しまった、こういう可能性を前提にして、入り口に木の板でも貼り付けておくんだった! デスーデスー デシャシャシャ どこかから、聞き慣れない実装石の鳴き声が聞こえる。 俺は、開け放たれた101号室から順に、各部屋の様子を確認した。 まず101号室。 ここには誰もいない。 ただ扉が開かれただけのようだ。 102号室。 ——いた! 薄汚れた服をまとった、三匹の実装石が実装フードのパッケージを開いて好き勝手に食い散らかして いる。 一匹は親、あと三匹は仔実装のようだ。 だが、親の体格がデカい! あれは間違いなく、アパート内最大だったキイロ親達の身長を超えている。 あんな体格で、よくあんな狭い戸の穴をくぐれたものだと感心する。 「ゲブー、腹は満たされたけど、まずくてたまらないデス」 「ニンゲンはどこに居るテチー?」 「早く見つけ出してドレイにするテチー」 「もっとおいしい物食べたいテチ。涼しい所にも行きたいテチ」 ——徘徊している野良実装。 賢さの欠片もなさそうな、馬鹿ヅラさらけ出し状態の取るに足らない存在。 そして、このアパートにもっとも相応しくない存在。 どうしてこう次から次へと……って、あっそうか、それを楽しむための実験でもあるんだっけ。 いい加減自分に呆れ始めていたが、ふと、ここで考えを変えてみようと思った。 この糞蟲家族をあえて残し、四大家族がどう対抗するかを見届けよう。 もし、それであっさり全滅してしまうようなら、こいつらを俺が仕留めてもう一度最初から実験のやり直しだ。 第一、こんな奴等如きに手こずるようでは、ファイナルドア・201号室の扉はとてもじゃないが開けられない。 あそこに辿り着くためにも、ここはなんとか乗り越えていただかなくては。 そうと決まれば、善は急げだ。 俺はトンカチと釘、そして物置に余っていた木の板を適当に手に取り、アパートへ向かう。 入り口に辿り着くと、一度玄関の扉を開いてしまう。 アパート内の空気が、一瞬硬直したような感覚をとらえる。 「うわー、うちのアパートの玄関がこわれちゃったー。直さないとなー」 思い切り棒読みで、わざらしく、よく響くように声を出す。 101号室と102号室の扉が開きっ放しなのはあえて無視して… 「まったくもー、誰だよこんな事した奴はーっ。出てきたらタダじゃおかないんだけどなー」 奥の方で、何かが動く気配がする。 だが、今の言葉が理解できたようで、迂闊に出てこようとはしない。 よーし、上等だ。 俺は玄関に転がる石を回収し、扉を閉めて鍵をかけると、持ってきた木の板をアパートのガラス部分に 重ねて、釘を打ち付けた。 ガンガンガンガン! ガンガンガンガン! ガンガンガンガン! かなり適当な打ち付けだが、一応これで、もう外からも中からもガラスを割られる心配はない。 板を打ち付けている最中、戸のすぐ向こうで何かがデスデス鳴き始めたが、気にする事はない。 十分程度で、玄関の扉の弱い部分…ガラスの取り付けられた下側の面は、すべて木の板で塞がれた。 母親には、ひとまず「自然に割れた」と報告するとしよう。 念の為木の板を打ち付けてきたといえば、納得もしてくれるだろうし。 さて。 これで中の実装石達は、あらためて密室に閉じ込められたわけだが… ふと気になる事があり、俺は、夕べモモ親を埋めた辺りに行ってみた。 案の定、モモ親の死体は穿り出され、死体はぐちゃぐちゃに食い荒らされていた。 とことん、ついてない奴だなモモ親…その証拠に、そのすぐ脇のアオ親を埋めた所は、まったく荒らされて いない。 俺は、残骸をもう一度埋め直してやると、軽く手を合わせて自室に戻る。 そろそろ、糞蟲一家が動き出す頃だ。 □■■ 糞親「デギャア! クソニンゲンめ! ワタシ達を閉じ込めやがったデス!」 糞仔1「ドレイニンゲン! ワタチ達に食べ物を持ってくるテチー!」 糞仔2「ついでに飼うテチー! ワタチ達の面倒を見る事を特別に許可するテチー!」 糞仔3「金平糖とステーキと男前豆腐、そしてデザートに赤福を持ってくるテチー!」 糞親「お前は、なんでそんな変わったものを知ってるデス?」 おうおう、玄関に向かってガンガン手を叩きつけながら抗議しておるわい。 しかし、あんなのが必死になって叩いたって、もはや大した事はない、せいぜいガラスが揺れるだけだ。 しかし、その音はさすがに室内には響いたようで、ようやく他の実装石達が様子見に出てくる。 まずは、キイロ組だ。 黄1「お前達は何者デス?」 糞親「デシャ?! 同族が居るデス」 糞仔1「こいつらも餌にするテチ?」 黄1「…野良、しかも糞蟲デスか…」 糞親「おいお前、この家にある食べ物をまとめて持ってこいデス! ぐずぐずしてたらお前達から食って やるデス!」 糞仔2「ママはとっても強いテチー! お前なんかイチコロテチー」 糞仔3「歯向かうのはオロカモノテチー」 黄1「お前達も、ニンゲンが連れてきた家族デス?」 糞親「ニンゲン?」 糞仔1「ドレイニンゲンに閉じ込められてしまったテチ」 糞仔2「お前達もそうテチ?」 黄1「……よりによって、どうしてこんな奴等を…」 おい、そいつらは知らんぞ。 勝手に入り込んだんだってば。 黄1「わかったデス。とりあえずこっちに来るデス。この部屋に入って待つデス」 キイロ親1は、101号室を指して糞蟲一家を招き入れようとする。 糞親「そこには何もないデス。さっき見たデス。何を企んでやがるデス?」 黄1「我々はそれぞれ部屋を持って生活しているデス。今はここに入るデス。餌と水を持っていってやる デス」 糞親「デシャシャシャ! 餌ならそっちの中でもう食ったデス! あれよりおいしい物を今すぐ沢山持って くるデス!」 黄1「わかったデス。だからここに入るデス」 糞親「早くするデス!」 糞仔「「「早くしないと暴れてやるテチー!!!」」」 交渉の末、キイロ親1はなんとか糞蟲親子を101号室に入れる事に成功した。 いったいこれからどうするんだ? と思っていたら、キイロ親1は自分の部屋から長い棒を持ってきて、 これを101号室のドアの実装石用ノブに差し込む。 “堕落の間”から回収した、あの長くて硬い棒だ。 そのまま棒を滑らせ、先端部が扉の蝶番を跨ぐように配置する。 末端部は、102号室のドアの脇辺りまで達している。 こうすると、戸を押し開こうとしても棒が床につっかえ、蝶番が充分に開かなくなる。 もちろん、僅かな隙間は開いてしまうので仔実装くらいなら外に出られるかもしれないが、あれだけ 大きな体格の親実装は絶対に脱出不可能だ。 その隙に、キイロ組の残りを部屋から退出させ、アカ組、ミドリ組も外に出させる。 そして二階へ移動し、昇り終えたら縄ばしごを引き上げる。 ムラサキ組も呼び出され、205号室“知識と知恵の間”に移動した実装石住人全員は、ここでようやく キイロ親1から「糞蟲乱入」の報告を受けた。 いつもの、実装住人会議のスタートだ。 赤親「あの騒がしいのは、外から来た奴等だったデスか!」 緑姉「どうしようデチ! このままだと皆殺しにされてしまうデチ!」 紫親「ガクガクブルブル……デ、デェェェ……」 桃親指「所詮は糞蟲、あしらうのは簡単レチが、ここの全員がそれを出来るとは限らないレチ」 赤仔「今のうちになんとか対策を練るテチ」 黄親2「パパ、どうするデス? ここまで辿り着かれたら大変デス」 緑親指「話は通じそうな相手レチ?」 黄親1「無理そうデス。賢さのカケラもなさそうなタイプデス」 桃親指「交渉の余地ナシとなると、益々やっかいレチ」 黄仔「テェェェ…怖いテチィィィ」 黄蛆「これはお腹プニプニどころでは済まない、恐ろしい事態レフー。蛆チャン我慢して真剣に考えるレフー」 その後、珍しく全員で議論が行われたが、これといった決め手の案は出てこなかった。 どうやら一部の者を除き、誰も「糞蟲を倒す」という前提を欠いているように感じられる。 或いは、意図的にその方向の解決を避けているのか。 しばらくして、下の階からドスンバタンという大きな音が響いてきた。 101号室の糞蟲親子が暴れているようだ。 あらためて全員に緊張が走る。 黄親2「なんとか、穏便にここから出て行ってもらう事は出来ないデスか?」 黄親1「それは無理デス。ここはニンゲンによって完全封鎖されているのは、すでに確認済みデス」 全「「「「「デデェェッ?!?!」」」」」 キイロ親1の言葉に、全員が驚愕する。 黄親1「玄関は、さっきみんなが聞いた通りデス。裏口も鍵がかかっていて出られないようになっている デス。その他の窓も出来る限り調べたデスが、そこから無事に出るための方法がないデス」 赤親「デエエ…」 緑仔「ワタチ達はニンゲンに飼われているのではないんテチ?」 黄親1「それはないデス。ニンゲンは、ワタシ達の様子を窺っているだけデス」 緑姉「なんのためにデチ?」 黄親1「多分、ワタシ達の生活を観察するためデス」 ぎくっ。 な、なんだこいつ? なんでそこまでわかるんだ?! いったいどこまで気付いているんだ? つかなんで俺、実装石の言動程度でここまでビクつかなきゃならないんだ?! 紫親「やっぱり、これも虐待なのデスか?」 黄親1「可能性はあるデス。だけど、ニンゲンはワタシ達に直接手を出す気はないようデス。実は夕べも、 ニンゲンがここに入り込んだデス」 全「「「「「デッ?!?!」」」」」 やべ… あの時起きてたのは、やっぱりこいつだったのか! 黄親1「アオさんの死体も、モモさんの死体もニンゲンが処分したデス。目的はわからないデスが、彼等 は直接手を下さないでワタシ達の様子を窺い続けているだけデス。という事は、このままなら一応 ワタシ達の安全は保障されているに等しいという事デス。あいつらの存在を除けばデスが」 赤親「そこまでわかっていて、どうして今まで黙っていたデス?」 黄親1「確証がなかったデス。でも、夕べやっと確信したんデス。それであの糞蟲デスが…あれは多分、 ニンゲンは直接関係ないと思うデス」 こいつ…勘が鋭すぎる。 それどころか、分析力がハンパじゃない。 まさか、こいつも突然変異なのか?! 桃親指「では、勝手に乱入してきたのに、ニンゲンは追い出そうとすらせずにわざと閉じ込めたと?」 黄親2「だとしたら、ワタシ達の力であの家族をなんとかしないといけないデス」 黄親1「これはワタシの想像デスが…ニンゲンは、あの糞蟲とワタシ達の対立を観察しようとしている デス」 全「「「「「デェェッ?!?!」」」」」 確かに、言う通りではあるんだけど——まずい。 本当に、まずい。 キイロ親1の賢さと洞察力・分析力は、あまりにも実装石のレベルを超越し過ぎている! このままでは、当初俺が恐れていた以上の展開になるかもしれない。 キイロ親1を中心とした、ヒエラルキー型コミュニティの成立…なんとかそれは避けて欲しいものなのだが… だからと言って、俺はもう手出しはしない。 このまま、様子を見続けるしかないのか。 ドスン、ドスン! バスン! ドスン! 出せデスー!!! いつまでここに閉じ込めておくテチー?!?! 101号室では、糞蟲親子が力ずくで脱出しようとしている。 廊下に視点を移すと、既にドアの隙間が開き始めている。 糞蟲仔1と3が、ひょろっと抜け出す事に成功した。 糞仔3「これテチ!」 糞仔1「つっかい棒を外すテチ! ママ! 隙間から手を伸ばして、この棒を下に引くテチ」 糞親「わかったデス!」 ガタッ…ガタガタっ! 背の高い親が、ドアの隙間から手を伸ばし、棒を掴んでずらそうとする。 やがて、棒を下に引いてから横にずらしていけば、扉が徐々に開いていく事に気付く。 糞仔1「もう少しテチ! あとちょっとで外れるテチ!」 糞仔3「ママ、体当たりするテチ!」 ドスン! 強烈なタックルがトドメになって、つっかい棒が外れた。 ガラン! カラカラカラ… 硬い棒が、軽い音を立てて廊下に転がる。 糞蟲一家は、ついに解放された。 糞親「出てきやがれデス〜! いったいどこへ行ったデス〜?!」 糞仔1「よくも騙しやがったなテチ!」 糞仔2「見つけ次第食い殺してやるテチ!」 糞仔3「ママ、こっちにはいないテチ! みんなどこかに逃げたテチ!」 糞親「皆殺しにするデス! ここを占拠してワタシ達の楽園にするデスっっ!!」 声高々に、糞蟲親が宣言する。 と同時に、奴等は105号室、106号室と突入し、他家族の生活拠点を片っ端から破壊しまくった。 キイロ組自慢の仔実装ハウスはぐしゃぐしゃに潰される。 さらに107、103号室へと嵐は吹き荒れ、次々に段ボールハウスが潰されていく。 トドメとばかりに、大量の糞が乗せられる。 デプププという気色悪い笑い声が、誰もいない部屋に響き渡る。 102号室に戻ってきた糞蟲親子は、押入に保管されていた食料をすべてひきずり出し、片っ端から袋を 開けて床の上を実装フードまみれにしていく。 さらに飲料水のペットボトルを全部開き、その上にぶちまける。 水だけでも相当量あるから、ビニールシートの上はすごい事になってしまった。 うわわ、あっという間に、102号室の貯蔵物が全滅した! 日持ちの良い実装フードといえども、これだけ一度に開封されて水びだしにされたら、一日も持たずに 腐ってしまうだろう。 おいおいおい〜、勘弁してくれよぉ! これは、もう実装石だけでは処理しきれねーぞ! 糞仔1「どこにもいないテチ! いったいどこへ逃げやがったテチ?!」 糞仔2「ママ! この上から話し声が聞こえるテチ!」 糞親「上、デス〜?」 糞蟲親子は、ついに階段まで辿り着いた。 階段は縄ばしごこそ引き上げられているものの、決して昇れないわけではない。 糞蟲親は、階段の段差に手を置くと、ニヤリと笑った。 糞親「フッ、コレなら余裕で上れるデス」 な、何? 糞親「これは、公園の滑り台にもあった“階段”というものデス。上まで逃げた奴を追いかけて食った事が あるデス。この程度なら超余裕デッス〜♪」 そう言うが早いか、糞蟲親は子供達を背負い、ひょいひよいと階段を上り始めた。 上ると言ってもさすがにそれなりに時間はかけているが、このままだと他の連中が上るよりかなり早く 辿り着いてしまうだろう。 糞蟲仔達は、親の髪や背中にしっかり捕まっている。 ひょっとしたらこいつらも、糞蟲なりに賢いのかもしれない。 一方、迫り来る音に怯える各家族は、子供を中心に押入の中に退避した。 外に出ているのは、キイロ親二匹とアカ親、ミドリ姉の四匹のみ。 四匹は、206号室“堕落の間”に向かい、扉を開いた。 中の様子は前とあまり変わってないように思えたが、よく見ると、ビニールシートの一部に糞が点在 していたり、スナック菓子の一部が食い破られたりしている。 どうやら、その後ネズミ等がまた入り込んだらしい。 ペットボトルや、いまだ段ボールに入ったままの菓子袋は、パッと見無事に思える。 黄1「できればここは使いたくなかったデスが…」 赤「早くするデス!」 いったい、何を企んだのだろう? 四匹は部屋の中に入ると、片っ端から袋を開けてスナック菓子の中身をバラ撒いた。 そしてドアを開放し、再び205号室へと退避する。 糞親「ん? いい匂いがしてきたデス」 糞仔1「ご飯テチ! 餌テチ!」 糞仔2「ママ! 早く上るテチ!」 糞仔3「上には一杯ご飯があるテチ!」 スナック菓子の匂いに、早速反応を示す。 なるほど、そういう事か。 他家族は、205号室から廊下の様子を窺っている。 やがて、二階に辿り着いた糞蟲一家は、迷わず“堕落の間”へと飛び込んだ。 糞親「これは! 一杯あるデス♪」 糞仔1「あいつらが用意してたに違いないテチ!」 糞仔2「さすがワタチ達のドレイテチ。やれば出来るテチ」 糞仔3「全部食い尽くすテチ! あっちにジュースもあるテチ! しかもメローイエローテチ! これが こんな所で飲めるなんて、まったくいい世の中になったテチ!」 糞親「だから、お前はどうしてそんな物を知ってるんデス?」 大量に開封された菓子を、片っ端から食い散らかし始める。 さすが糞蟲、目の前にぶら下げられた餌には徹底的に弱いようだ。 すでに他の家族を追い詰めるという目的は頭から消えてしまったようで、狂ったようにスナックを口に 詰めている。 廊下に、キイロ親達が出て来ている事にも気付かぬまま。 キイ……パタン “堕落の間”の扉が、静かに閉められる。 しかし、糞蟲一家はそんな事は気にせず、バリボリ食い漁っている。 扉の外では、キイロ親1とアカ親が、扉を背にして座り込んでいた。 赤「キイロさん、これからどうするデス?」 黄親1「このままいけば、あいつらはここのお菓子を食い過ぎて、アオさんの子供みたいになる筈デス。 そうしたら…」 赤「まさか、ネズミが…」 アカ親の言葉に、キイロ親1は無言で頷いた。 そうか、あの事故を応用しようというのか。 さすがキイロ親1、よく考えたものだ。 だが、アカ親はまだ不安げだ。 赤「でも、もしあいつらがあれで満足しなかったり、ネズミが運悪く出てこなかったら?」 黄親1「それまでに、別な対策を考えるデス。とにかくこの隙に、みんな下の階に戻るデス。下の被害を 調べるデス」 赤「仕方ないデス、今回はあんたの指示に全面的に従うデス」 黄親1「協力と理解に感謝するデス」 キイロ親1はその場に残り、糞蟲一家の監視を続ける事にしたようだ。 アカ親の指示で、皆が下の階に移動を開始する。 今回ばかりは、ムラサキ組も一緒だ。 一部から、201号室は使えないかという疑問の声が上がったが、不問に付される。 そりゃ、あそこはまだ解放されないんだから無理だよ。 全員が階段を降り、廊下に降り立った頃…“堕落の間”の中で、早速変化が起こった。 糞親「デ? なんか居るデス!」 糞仔1「チュウチュウ鳴いてるテチ!」 糞仔2「テチャア! ね、ネズミテチ! おっきいネズミテチ!」 糞仔3「あいつら、ここにネズミが出る事知ってて入れたテチね!」 キイロ親1は、その声に慌てて立ち上がった。 そう、ネズミの出現が予想以上に早かったのだ。 多分キイロ親1は、糞蟲親子がここを陣取って、充分に菓子を食べてぶくぶくに太ってからネズミと 出会う展開に期待したのだろう。 しかし、一気に開いた菓子袋の匂いは、想像以上にネズミの興味を惹き付けた。 ここに、キイロ親1の誤算が含まれていた。 キイロ親は、必死でドアを外側から押さえつけた。 グギャアァッッ!!! テチャアァッッッ!!! “堕落の間”から、糞蟲一家の鳴き声が響いてくる。 中では、きっと出現したネズミとの大格闘が演じられていることだろう。 俺は、ちょっとワクワクして画面を切り替えた。 ——だが。 キイロ親1が抑えているドアに奴等が殺到する事はなかった。 糞仔1「ママ、今テチ!」 糞親「どっせい!」 ガボッ チュチュー? 糞親「食らえ鉄拳パンチデスー!」 バキ、バキ! ドカ、バキ! バスン、バスン! ゴキッ! 糞仔2「ママー、こっちも助けてテチー!」 糞親「任せろ、デス!」 ガボッ チュチュー? 糞親「必殺脚キックを受けてみろデース!」 バキ、バキ! ドカ、バキ! バスン、バスン! ゴキッ! 糞仔3「テチャァァッッ! か、齧られるテチー!」 糞親「そうはイカのあばら骨デスー!」 ガボッ チュチュー? 糞親「今度はパチキ頭突きデース!」 バキ、バキ! ドカ、バキ! バスン、バスン! ゴキッ! 糞親「どんどん来いデスー! みんな捕まえて食ってやるデスー!! デッシャッシャッシャッ!」 …あまりにも予想外で、かつ一方的すぎる壮絶な展開が広がっていた。 糞蟲親は、子供を追いかけるネズミを菓子袋を使って横からふんづかまえて、頭を叩き潰して抵抗力 を奪い、さらに次のネズミを捕まえる。 あっという間に、三匹ものネズミを捕らえてしまった。 あと二匹ほど居たようだが、それはすぐに逃げてしまった。 袋の中で半分死にかけている黒いネズミは、糞親にさらに叩きのめされて、完全に殺される。 そして、糞親はそのままガブリと噛み付いた! こいつ…ネズミより強いのか! まずいぞ、こいつらもハンパじゃない! 親が妙にデカいと思ったら、やっぱりそれなりの強さを持っているわけか! 糞親「デシャシャシャシャ! ここは最高デスー!」 糞仔1「ネズミも一杯食えるテチー♪」 あらためて見ると、どうやら糞蟲は70センチ級くらいの大きさがあるようだ。 さっきの映像ではキイロ親1よりも遥かに大きかったから、多分身長差も10センチくらいはあると見て いいだろう。 よくまあ、あんな狭い隙間からこんなのが入れたなと感心したが、それどころじゃない。 これだけ大きな成体だと、方法さえ知っていればネズミの撃退くらい簡単だろうし、何より強さが 桁違いだ。 これでは恐らく、ミドリ姉くらいの体格なら一発殴られただけで危険だろう。 実際、奴はネズミを一発殴っただけで沈黙させてしまった。 2リットルのペットボトル飲料水を片手で余裕で持ち上げていた事からも、瞬発力だけじゃなく持久力 もある事がわかる。 …どうすんだ、こんなバケモノ?! 廊下では、キイロ親1が意外な事態に驚愕し、おろおろしていた。 初めて見る、キイロ親1の情けない姿だ。 糞親「ここをとっとと開ける、デ・ス〜っっっ!!」 グ・グ・グ・グ… 黄親1「デ、デデ…」 グ・グ・グ・グ… なんとかドアを身体全体で押さえようとするが、向こうの力の方が圧倒的らしい。 やがて… 糞親「無駄デッス!」 ドムッ! ——バンッ! 黄親1「デギャッ?!」 ドアは、勢い良く開かれてキイロ親1を軽く吹っ飛ばした。 廊下から見ていて気付かなかったが、どうやらドアに向かって、助走をつけて体当たりしたらしい。 糞親「お前〜、ワタシに逆らうつもりデス?!」 糞仔1「ナマイキな奴テチ〜」 糞仔2「ヌッコロすテチ〜」 糞仔3「バラバラに引き裂いて食らってやるテチ〜」 黄親1「…ここはお前達のような奴等が来る所じゃないデス。ここは、賢い実装石だけが住める場所デス」 倒れたまま、精一杯抗うキイロ親1。 こいつは、賢いようだがいかんせん自分の身を護るという思考に乏しいようだ。 糞親「言い残す事はそれだけデス〜?」 黄親1「デ?!」 糞親「今からここのルールはワタシデス! お前達は全員ワタシ達の餌かドレイになるデス! 一匹の例外も許さないデス! まず! お前からデス!」 糞仔1「成体は肉が固いけど我慢してやるテチ〜」 糞仔2「こいつを殺して、すぐに下に居る奴等も殺すテチ〜」 糞仔3「待つテチ! それよりこいつを人質にして、下にいる連中をここまで来させるテチ!」 糞蟲仔3の発言に、その場の全員が目を剥く。 もちろん、それぞれ別な意味で。 黄親1「む、ムダな事はやめるデスっ!」 糞親「さすが我が仔、いい事を考え付くデス!」 糞仔1・2「「面白そうだから、ワタチ達が言ってくるテチ〜♪」」 そう言うと、糞蟲仔の1と2は、階段まで駆けて行ってしまった。 どうやって降りるつもりだ? と思ったら、奴等はちゃっかり引き上げられた縄ばしごを下ろし、それを つたって器用にスルスルと降りていく。 これを見て、さらに俺の認識が変わった。 ——こいつら、やっぱりバカじゃない! それどころか、かなり賢い連中だ! 奇しくも、「賢い実装石だけを集める」というアパートの目的は、いまだ破綻する事なく果たされ続けて いるのだ。 こいつらは糞蟲に間違いないが、糞蟲なりに生活や戦闘・捕食の知恵を持っている。 糞蟲親は、さぞや多くの経験を積んできたのだろう。 だとしたら、これはこれで充分観察の価値があることになる! 俺は、さっきまでの焦りと絶望感を払拭し、今度は大きな期待感を覚え始めた。 ■■■ ——お前達のリーダーは、ワタチ達のママが捕まえてるテチ! ——リーダーの命が惜しかったら、その家族を引き渡すテチ! ——言う事を聞かなかったら、全員皆殺しテチ! でも、素直に差し出したら他の連中は殺さないで ドレイとして飼ってやるテチ! 糞蟲仔達の声が、一階の廊下に響く。 各部屋が荒らされまくっていたので、他家族は全員で101号室に退避していた。 糞蟲仔達の声に、全員の視線がキイロ組に集まる。 黄親2「デ、デデ…」 赤親「奴等、あんな事言ってるデス」 赤仔「キイロ、早く出て行くテチ!」 緑仔「グズグズするなテチ! このままだと全滅テチ!」 紫親「ブルブル…やっぱりワタシ達は同族に襲われる運命だったデス…」 紫仔・親指「「マ、ママ〜!!」」 緑姉「……」 ——お前達のリーダーの命が、どうなってもいいテチ?! ——信じないなら、ここにリーダーの腕や脚を切り取って持ってきてやるテチ! 糞蟲仔達の言葉は、どんどん過激になる。 101号室内も、動揺が激しくなり始めた。 緑仔「とっとと行けテチ!」 赤仔「お前達が行けば、ワタチ達が助かる方法が何か見つかるかもしれないテチ!」 黄仔「イタイイタイ! 髪引っ張らないでテチ!」 黄蛆「レ、レピャ〜! こういう時ばっかりズルイレフー!」 赤仔「あんた達の家族が足を引っ張ってるなら、あんた達が責任を取るデス!」 緑姉「デ…き、キイロさん…」 黄親2「……デ……」 紫親「こ、こんな所やっぱりイヤデスゥゥゥッッ!!! これなら、まだ公園に捨てられた方がマシデスゥッ!」 紫仔・親指「「テ、テチャァァァッ! テェェェェン、テェェェェン」」 ——いつまで待たせるつもりテチー?! ——出てこないなら、こちらから出向いてやるテチー!! その言葉に、ついにキイロ組は全員から押し出され始めた。 アカ親、アカ仔、ミドリ仔のみならず、なんとムラサキ親まで押し出しに協力している! 黄親2「む、ムラサキさん…!」 紫親「ごめんなさい、ごめんなさいデス! でももうワタシ達は、もうこれ以上怖い思いをしたくないん デスッ!」 黄仔・蛆「「テェェェェン、テェェェェン!!」」 緑姉「…なんとか、なんとかならないデチ? 大ピンチデチ!」 緑親指「こいつらの蛆チャンはワタチが運び出してやるレチー」 キイロ組全員が、あと少しでドアの外に押し出されそうになった時。 今までずっと黙っていた、モモ親指が口を開いた。 桃親指「救いようのないバカ共レチ」 赤仔「テ?」 緑仔「今、なんて言ったテチ?」 桃親指「あいつらの言いなりになれば、お前等が助かるなんて、どうして思えるレチ? 奴等は、一番 強そうなキイロ達を皆殺しにしたら、後は順番にワタチ達を襲うだけレチ」 緑親指「レ…?」 紫親「デ…ほ、本当デスか?!」 桃親指「だいたい、ここに至ってキイロ達を犠牲にして逃れようというお前達の考えが気に入らないレチ。 この糞蟲共め」 モモ親指の、生まれ持った毒舌が炸裂する。 いきなり糞蟲呼ばわりされた、一部の者が激昂する。 赤親「だ、黙って聞いてりゃいい気になりやがって、何様のつもりデスかこの親指!」 赤仔「ふざけるなテチ! お前こそ糞蟲テチ!」 緑仔「叩き潰してやるテチ! どうせこいつは親ナシの禿テチ!」 緑親指「こいつもあいつらに差し出してやるレチ!」 緑姉「モモちゃん、どうすればいいデチ?」 ミドリ姉が、皆から庇うようにモモ親指を抱き上げ、尋ねる。 この時、モモ親指がニヤリと笑ったように見えたのは、気のせいだろうか…? 桃親指「この部屋のすぐ外に、棒が落ちてるレチね?」 緑姉「はいデチ」 桃親指「それを、皆で部屋の中に引き込むレチ。そして……」 むっ? モモ親指め、よりによってこそこそ話なんか始めやがった。 音が拾えないではないか! だがしばらくして、ミドリ姉が明るい顔を上げた。 また、頭の上に電球が浮き出て、パリンと割れた。 だからさ、普通は光るんじゃないの? 緑姉「わかったデチ〜! 皆さん、力を貸して欲しいデチ! キイロさんもデチ!」 赤・紫・黄「「「「「デ?」」」」」 数分後、全ての部屋を見て回っていた糞蟲仔達が、やっと101号室の前に辿り着いた。 どうやら、棒を引き込む所は見ていなかったようで、無警戒に近付いていく。 糞仔1「ここに居るテチね」 糞仔2「今ひきずり出してやるテチ!」 ドアのノブを掴み、手前に引く。 ギイ、と鈍い音がして、ゆっくりドアが開いていく。 部屋の中では… 黄親2「イヤデスイヤデスぅっ! 外に出たくないデスゥゥゥッ!」 緑姉「いい加減に観念するデチー」 緑仔「とっととケツ上げるテチー」 紫仔1「え、ええ〜い、世話の焼けるやつめ……テチテチ」 ぽすっ、ぽすっ 黄仔「テチャ〜! た、助けてテチ〜っ!」 黄蛆「チにたくないレフ〜! お腹プニプニしてくれなくてもいいから助けてレフ〜!」 緑親指「往生際の悪い奴らレチー」 桃親指「えーい、きりきり立つレチー。さもないと腕ぶち折って無理矢理引き摺るレチー」 紫親指「レチ、レチ」 ぺふっ、ぺふっ 糞蟲仔達の眼前では、キイロ組をいたぶる他家族の姿があった。 その壮絶? な光景に、一瞬呆然とする。 糞仔2「な、何遊んでやがるテチ!」 緑仔「こ、こいつらが言う事聞いてくれないテチ」 桃親指「引っ張り出すから手伝って欲しいレチ」 赤仔「早く、テチー」 糞仔1「まったく、世話の焼ける連中テチ!」 そう言って、糞蟲仔達が室内に入った途端… ゴロゴロっ! 糞仔1、2「「テ、テチィッ?!」」 コテッ、ゴチン! ×2 二匹は、何かにつまずいて豪快にスッ転んだ。 そして… 緑姉「 ど っ せ い ! 」 バタン! 101号室のドアが閉じられる。 そして、糞蟲仔達が足を引っ掛けた…入り口のすぐ傍に横たえられていた硬い棒を足で突き転がす。 ドアの脇に身を潜めていたアカ親は、そのまま棒を転がし、糞蟲仔達の両脚を引き潰す。 糞仔1、2「「テ、テチャアァァッッッ!??!」」 赤親「次、デスっ!」 黄親2「どっせい!」 ぐしゃっ、ぐしゃっ!! ぐちゃっ! ぐしゃあっ!! 糞仔1、2「「テ、テギャアァァッッッ!??!」」 うずくまっていたキイロ親2が立ち上がり、ストンピングで糞蟲仔達の両腕を踏み潰した。 これで、子供達はあっという間に達磨に近い状態にされた。 桃親指「第一段階成功、レチ」 緑姉「も、モモちゃん凄いデチ!」 赤親「ちょっと見直したデス」 黄親2「それより、次デス!」 桃親指「こいつらの喉を潰すレチ」 なんとまあ、モモ親指が陣頭指揮を取って、対糞蟲親子との全面対決をしようとしている。 モモ親指は、糞蟲仔達を逆に人質に取って、逆に取引を持ちかけようとしているのだ。 こいつ…本当に生まれたばっかりなのか? しかも、あのノホホンとしたモモ親の仔? きな粉ってすげーんだな、オイ。 紫親「な、なんて酷い事をするんデス…か、可哀想デス、いくらなんでも…ブルブル」 紫仔・親指「「ガクガクブルブル…」」 桃親指「ママ、オネエチャン。これは自衛レチ」 紫親「じ、自衛?」 桃親指「そうレチ。自分達の危険は自分達で振り払うレチ。さもないと、さっきみたいに仲間を見殺しにして 助かろうとしてしまう、あさましい態度を取ってしまうレチ。だからワタチは、みんなのことを糞蟲とあえて 呼んだレチ」 赤・緑・紫「「「デ……こ、言葉もないデス……(テチ)」」」 モモ親指に完全に仕切られている他家族。 ヒーヒーと情けない声を出して、それでも懸命に威嚇しようとしている糞蟲仔達に、モモ親指は鋭く 冷たい視線を投げた。 いや、だからお前、いつ生まれたんだっけ? 桃親指「お前達はどちらにしろ、命を奪うレチ」 糞仔1、2「ヘ、ヒヘー?!」 桃親指「キイロさん、一階にタコ糸はあったレチ? あったら、それでこいつらを縛ってトイレに連れて行くレチ」 黄親2「トイレでどうするデス?」 何かよからぬ事を考えているようで、モモ親指の口元が妖しく歪む。 桃親指「もちろん、親に揺さぶりをかける道具になってもらうレチ♪」 (続く) ----------------------------------------------------------------------------- ■ 現在の状況 □ ●アカ組:親×1、仔×1 ●キイロ組:親×2、仔×1、蛆×1 ●ミドリ組:仔×2、親指×1 ●モモ組:親指×1 ●ムラサキ組:親×1、仔×1、親指×1 ★糞蟲一家:親×1、仔×3 残っている実装石:17匹 これまでの犠牲者:15匹 ・モモ仔1、2、蛆 …エレベーター実験の犠牲になり死亡 ・アカ仔2 …206号室で、ゴキブリに襲われて死亡 ・アオ親指2 …206号室でアオ仔4に首を落とされて死亡(事故) ・アオ仔2、4 …206号室でネズミに襲われて死亡 ・アオ親指1 …アオ親に壁に叩きつけられて死亡(事故) ・アオ仔1、3 …激昂したアオ親に踏み潰されて死亡(事故) ・アオ親 …子供全滅のショックで、偽石崩壊 ・モモ新仔1、2、3 …出生直後、キイロ親2に間引かれる ・モモ親 …子供をほとんど失い、ショックで自壊&偽石崩壊 ● 覚え書き ○ ・アパート内は猛暑状態 ・やおあきの親、アパートの様子を心配する ・やおあき、キイロ親1に存在を認知される ・野良の糞蟲一家乱入。意外に賢く、親は滅法強い! ・アパートの入り口の戸は板で完全封鎖 ・キイロ親1、二階で糞蟲親と糞蟲仔3に捕らわれる ・一階では、他家族が協力して糞蟲仔1、2を捕らえる ・モモ親指、大活躍 ----------------------------------------------------------------------------- 感想掲示板を覗かせていただいたら、どうやら波紋の種を撒いてしまったようなので、少々。 この「敷金礼金無料」は、はじめから人間不干渉系スクにするつもりはまったくありませんでした。 冒頭から人間が絡んでしまっている以上、それを原因に後から何かしらのアクションが発生するような 流れで作劇しているつもりです。 だから、このスクはちょっと反則的な観察系だとお考えください。 本人も、観察系にこだわっているつもりはまったくありませんから。 (というか、少し変わった観察モノを書いてみたいという動機もありましたのでw) 純観察系?が好きな方には期待外れな方向性だったかもしれませんが、何卒ご容赦下さい。 なお、私は筋書きをすべて決めた上で書くタイプなので、感想による内容変更はしてませんデス。 (前回ちょっとだけフォローは入れたけどw) 失礼しました。
