敷金・礼金無料 7 俺の名はやおあき。 自らは手を下さない、観察型の虐待派だ。 俺は友達のにじあきと協力して、五組の賢い実装石一家をさらって来た。 今彼女達は、俺達が整えた(実装石にとっては)最高の住処…古い木造アパートの中に居る。 雨風をしのげ、外敵から守られたこの素晴らしい環境の中で、彼女達はどのように生きていくの だろうか? ●アカ組:親×1、仔×1 ●キイロ組:親×2、仔×1、蛆×1 ●ミドリ組:仔×2、親指×1 ●モモ組:親×1 ●ムラサキ組:親×1、仔×1、親指×1 以上五家族、親5匹、仔5匹、親指2匹、蛆1匹…合計13匹。 アパートの構造と部屋割りは、以下の通り。 ■1階 部屋番号は、左上→右下の順で、101〜103、105〜107(104はない)。 (入り口) _ || 紫||黄 □||桃 緑||赤 ■||▲ | → 二階へ ‾‾‾‾ □は空き部屋、▲はトイレ、■は風呂場。 廊下の奥、トイレの脇には、二階へ昇る階段がある。 ※紫は仮使用 ■2階 部屋番号は、左上→右下の順で、201、202、203〜206(204はない) ____ ▲||□ □||□ ■||□ | → 一階へ ‾‾‾‾ □空き部屋 ■は洗面所 ▲は秘密 三階や地下室はない。 入り口には鍵がかけられていて、脱出は不可能。 (前回のあらすじ) 予想外のアオ組全滅に、危機感を覚えるやおあき。 実験継続のため、にじあきは自分が今まで虐待していた実装石親子を提供。 あらたにムラサキ組がアパートに加わった。 しかし、ムラサキ組は他の実装石を極端に恐れ、他家族とコミュニケーションが取れない。 そんなムラサキ達をあざけるアカ組とミドリ仔。 逆に、助けようと尽力するキイロ組。 アパート内に、二大派閥が成立し始めた。 ■ 第七話 「モモとモモの謎」 ■ ムラサキ組参入は、アパート内に色々な波紋を生んだ。 先のキイロ親1激怒事件前後の様子を、ここで振り返ってみよう。 まず、ミドリ姉。 妹のミドリ仔を、信頼していたキイロ親1に半殺しにされたという事実はかなりショックだったようで、 あれから皆の前に姿を見せなくなってしまった。 103号室はずっと締め切られ、冒険家気質?に目覚めたミドリ親指すらも外に出してもらえなくなった。 部屋の中を見ると、ミドリ姉は妹を必死で看病しながら、ひたすら涙を流し続けている。 こいつらは公園生活時、家を持たずひとすら逃げ続けて生きてきた連中だ。 それだけに、家族間の絆が強いのだろう。 ミドリ親指は自分だけでも外に出せとワンワン文句を唱えているが、それは叶えてもらえない。 ミドリ姉は、食料を取りに食堂へ向かっても、必要最低限の行動を取ってすぐに戻ってしまう。 キイロ親らと会っても、目を合わそうとしないですぐに逃げてしまう。 かなり根深い不信感が植え付けられたようだ。 これは、ミドリ姉の派閥離反の兆候となるか? もっとも、ミドリ仔は一日もすれば完全復活するだろうから、その後の動向が楽しみではあるが。 次は、キイロ組。 こいつらはキイロ親1とキイロ仔・蛆がムラサキ組にかまい、キイロ親2がモモ親の面倒を見るように なった。 一番忙しくアパート内を駆け回っている。 ムラサキ組は、いまだ警戒を解かずひたすら怯えているだけだが、キイロ仔と蛆が子供達に優しく 接しようとしているせいか、少しずつ態度を軟化させ始めたようにも見える。 しかし、ムラサキ親の拒絶ぶりは相も変わらず大したもので、いまだにまったく話が通じていない。 キイロ親1がどんなに丁寧に事情を説明しようとしても、泣き叫ぶだけで耳をまったく貸さないのだ。 やがてキイロ親1は、二階・203号室内に段ボールを持ち込み家を作り始めた。 ここは他家族ともっとも離れた位置にある部屋だ。 ここならムラサキ親達も落ち着けるのではないかと考えたようで、キイロ親2と相談している場面も 確認された。 素晴らしい慈愛の精神と心配りと感心させられるが、益々もってキイロ親達の目的が不透明に感じ られてくる。 いったい、どうしてここまで他実装石達に尽くすのか? 俺にはまったく理解が及ばなかった。 とりあえず、当面の目的はどうやってムラサキ組を二階へ移動させるか、だ。 アカ組は、あの一件からだんだんおかしな態度を取るようになった。 101号室へは立ち入ろうとしないが、とにかくムラサキ組をキイロ組が守ろうとしている事に全面的に 反対しているように見受けられる。 やはり、禿裸の家族と他家族同様に接するのに強い抵抗があるらしい。 ある意味、公園に生活する実装石“らしさ”を一番色濃く発揮しているのは、こいつらだろう。 現在はミドリ姉もこちら側に引き込もうとしているようで、103号室のドアの向こうから、必死に呼び かけている姿が確認されている。 だが、その呼びかけ方は 「あんな禿裸のクズ共が保護を受けてるなんておかしいと思わないデスか?」 「このままキイロ組の横暴を許していると、いつかとんでもない事になってしまうデス」 …とか、そういったものだ。 ミドリ姉が反応を見せないため、実際どのように感じているのかはまったくわからない。 だが、回復中のミドリ仔はともかく、ミドリ親指がその話に関心を見せ始めたような節も見られる。 アカ仔は、あれから益々悪辣さを高め始めた。 入居時から少し背が高くなって自信をつけ始めたようで、現在は以前より多くの餌の配分を求める ようになってきた。 102号室“食堂”に集められた食料は、キイロ親達が主張するより多くの量が消費されるようになり、 アカ仔はキイロ仔の倍以上の量を平気で食べるようになってしまった。 アカ親の「アオさん達がいなくなった分、配分は増やすべき」という主張をある程度汲み入れた キイロ組は、渋々配分量を増やしてやっている。 しかし、昨日付けで最高級実装フードが完全に底をついてしまい、かなり味の劣る中ランクの 実装フードに切り替えざるをえなくなった時点で、アカ仔が再び文句を唱え始めた。 このせいで、現在食堂内での食事風景は、以前からは考えられないくらい殺伐としたものになって きた。 では、アカ仔は糞蟲化ないしはその兆候を見せ始めているのかというと、決してそうではない。 ムラサキ組を除けば、自分より弱い者を無意味にいたぶったりはしないし、あらゆる事に我を通そう とするわけではない。 また、欲望に忠実に行動しているというわけでもない。 ミドリ仔とまるで本物の姉妹のように仲良くしているというのも、それを証明していると言えるだろう。 ぶっちゃけると、何を考えてるのか益々わからなくなった。 出産までカウントダウン状態になったモモ親。 腹はすでにかなり膨らみ、自力での移動も困難になり始めたようで、キイロ親2の補助と介護を得て 生活をしている。 両者の関係は、はたから見る分には大変友好的で、キイロ親2の介護に対してモモ親は明確な感謝 の気持ちを伝えている。 二匹の会話を拾うと、どうやら過去の出産経験の話をしあったり、どんな胎教を行うべきか相談したり と、ものすごく建設的かつ平和的なやりとりがされている。 ひょっとしたらこの二匹の関係は、現在のアパート内でもっとも穏やかなのかもしれない。 キイロ親2は、いつ産気づいてもいいように水を張った容器(底を浅くした段ボールにビニールを張って 水を流し込んだもの)を用意し、律儀に餌を運び込む。 もちろん、水は毎日替えられているという丁寧さだ。 モモ親は、ひたすら腹を撫でながら「デッデロゲ〜♪」と、あの音程ハズレな歌をうたう。 その表情には、もはや子供達を死なせてしまった過去を引き摺っているようには感じない。 あらたな子供達の誕生に期待を膨らませているのだろうか。 なかなかに微笑ましい光景ではあるが、一匹だけで部屋に居る時、たまに無言で窓を見つめてぼうっ とする事がある。 その時だけは、なぜかとても悲しそうな雰囲気が漂う。 何を考えているのだろうか? 俺は、ちょっとだけ気になっていた。 こいつがここに来た時に、俺が気になっていた点。 それは、モモ親の「子供に対する愛情の度合い」だ。 モモ親は、とにかく何についてもまず子供ありきで行動してきた。 食料を他家族よりも多く取っても、自分は多く食べず子供に与え、エレベーターを作ったのも、子供の 二階への行き来を楽にするためだった(失敗したけど)。 しかしその後も、昇降用の背負いかごを発明したり、ミドリ姉の汚れを洗ってやったりと他家族の子供 への愛情も忘れない。 アオ組全滅のきっかけを作ったとはいえ、そもそもは、アオ組の子供達を助けようとしての結果だった。 ヘタをしたらモモ親は、ここの家族の中でもっとも子供好きな実装石なのかもしれない。 だから、自分の子供をすべて失った時は、どれほどの衝撃を受けたことだろうか。 偽石が崩壊しなかったのは、幸運だったのかも。 窓を見てぼうっとするのも、時折前の子供達の事を思い出して悲しんでいるのかもしれない。 俺がついこいつに手助けしてしまったのも、そんな注目点を意識していたからかも…。 って、虐待派の癖に何、感情移入しそうになってんだ、俺?! 最後に、ムラサキ組。 相変わらず、まだ101号室でブルブル震えている。 全員禿裸で、しかも見知らぬ実装石達に取り囲まれているのだから不安でたまらないだろう。 家族間でも会話はほとんどなく、ただずっと抱き合って怯えているだけ。 その視線は101号室のドアに常時ロックオンされており、誰かが入って来ようものなら、即座に泣き声 の大合唱だ。 一度、キイロ仔が様子を見に来てこれを食らい、逆に驚いて泣きながら帰宅した事もあった。 どうやらムラサキ組は、ここに来てから虐待を受けなくなったという最大の変化に、まったく気付いて いないらしい。 それなのに態度が変わらないという事は、それだけ同族に酷い目に遭わされたトラウマが強い という事なのだろうか。 にじあきに確認しても、奴はいじわるして教えてくれない。 偽石を取り去った事以外、具体的な虐待内容は一切不明なのだ。 それは別に無理に聞きたい訳ではないけど、果たしてこのままここで生き続けられるのかな、という気 にはなる。 現在はキイロ親1が面倒を見ている状態だが、もしキイロ親1に見放されたら… まあ、偽石を除去しているわけだし、恐怖で自壊したりはないわけだから本当は気楽なんだけど。 大丈夫なのかね、ホントに。 実装石の関係は大変複雑なものになり始めたが、反面、彼女達の生活は以前とは比較にならない ほど利便性を高めていた。 205号室“技術と知恵の間”の道具をさらに有効利用するようになったためだ。 まず、モモ親がエレベーターにかわって発明した「昇降用カゴ」。 これが、今もっとも便利に使われている。 元々俺がトイレにでも使ってもらおうと用意した箱を改造し、編み上げたタコ糸を肩紐にして成体実装 が背中に担げるようになっている。 ここには、仔実装なら(大人しくしていれば)同時に二匹、親指を加えたら三匹まで乗せる事ができる。 ちょっと体格が良くなった仔でも、一匹なら余裕で乗せられる耐久力がある。 これにより、階段の縄ばしごを使えない子供達は、親と一緒に楽に移動できるようになった。 最近はモモ組のイビキによる音害も落ち着き始めた(我慢できるようになったのか?)ため、かつて 二階に逃げた家族はすべて一階に戻ってきている。 そのためカゴは以前ほど使われなくなったが、二階にある物資を下に降ろすのにも役立つため、 まだまだ重宝されているようだ。 特に、202号室の食料運搬や205号室のトイレットペーパーや新聞紙、タコ糸などの道具や材料運び には大活躍し、今では、各家族最低一つは携帯するほどになっている。 この画期的発明のおかげで、モモ親は当初からは考えられないほど待遇が向上した。 キイロ親2が親身になって世話を始めたのも、実はこのカゴの件が大きく関わっている。 トイレットペーパーは、当然トイレのお尻拭きとして本来の用途に用いられ、これによりわざわざ廊下を 横断して風呂場で尻を洗う必要はなくなった。 さらに各部屋に配当された事で様々な活用が行われるようになった。 各部屋の個別トイレに使うだけでなく、丸めてクッションにしたり、食事時の敷物代わりに用いたりする 者も居る。 また、単純に鼻紙としても使う。 これの入手は、俺達が思っていた以上に実装石達に好評で、このままだとすぐに使い果たしてしまい そうに思える。 そして、それぞれの部屋の中に建てられた段ボールハウス。 雨に濡れる事は絶対になく、風に飛ばされる危険もないため、倒壊しないようにバランスさえ取れば どんどん大型化できる。 ムラサキ組を除く各家族は、それぞれ個性的な家を作り、その中で生活していた。 段ボールハウスを部屋の中に作るメリットのほとんどは、「日光避け」にある。 二階ほどではないが、この季節、それぞれの部屋にはかなり強い日差しが差し込んでくる。 これまでは日の直接当たらない端側を選んで生活していたものの、どうしても部屋の中央(もっとも 日の差す部分)を通過しなければならない事もあるため、不便で仕方ない。 ちょっとだけなら日光に当たっても平気ではあるが、ただでさえ部屋の中は蒸し暑い。 だから、真ん中に大きな日避けが欲しくなるのは心情だろう。 二階から運び込まれた大型段ボールは、それぞれの家族に配当された。 これは、本来大型荷物を梱包・郵送するために使うもので、一つ数百円単位もの高級品だ。 60センチ級の成体実装が入っても余裕で動き回れる上、ぶつかっても倒壊しないほど丈夫。 皆は大喜びでこれを使った。 子供達などは、こんな凄い段ボールハウスなど初めてだとはしゃいでいた。 トイレは家の外に小箱を置き、後でまとめてトイレに捨てに行くというもので、これはどの家庭でも実践 されている。 トイレットペーパーは、二巻ずつトイレ横に置かれている。 実装石達は、事前にこれを巻き取っておき、用を済ませてからお尻を拭くのだ。 キイロ親達は、なぜか「トイレにはトイレットペーパーしか流せない」という事を知っており、それを 他家族に伝えたため、新聞紙がお尻拭きに使われる事はなさそうだ。 まあ、新聞紙で処理されてトイレに流されたら、詰まって大変な事になってしまうわけだが。 さて、お家拝見。 アカ組は、横倒しにした段ボールに、同じく“技術と知恵の間”から発見された新聞紙を敷き詰め、 さらにその上にビニールを敷いて程よいクッションを作り出した。 アカ仔はそこそこ体格が良く、現在ではほとんど親の保護を受けなくなったため、入り口は常に 開きっ放し。 特別な加工や細工は一切行っていない。 かさばるものはすべて押入に方に置いており、いつものようにこっそり持ち出した隠し食料もそこに 保存されている。 まあ、実にスタンダードな使い方だと言える。 逆に、キイロ組は凝りまくっている。 というか、凝りすぎだ。 ダンボールハウスは縦長になるように倒されていて、部屋の中央ではなく、窓際の壁にもたれかかる ように建てられている。 なんと、箱の中には上下に仕切りが施され、しかもその端の一部をカッターで切り欠いて底穴を作り、 段ボールの端切れをギザギザに折り込んで重ねた階段を設置、仔実装用の二階部屋を作り上げていた。 しかも、折り蓋を延長して側壁を作っているため、仔実装が誤って二階から落下する危険もない。 底板や階段も三重構造になっていて、仔実装の体重を余裕で支えられる。 また、窓際寄りの壁(本来の底面)も二重構造になっていて、窓からの熱が室内に入り込みにくく なっている。 階段の下には、ビニールの中に新聞紙を細かく千切ったものを沢山詰めて作ったクッションを置き、 万が一仔実装が転落しても無傷でいられるように安全対策。 そして室内には仔実装専用トイレや簡易ベッドも設置し、側壁もカッターで一部切り抜いて窓を作る。 これで親達も中の様子を確認できるし、仔実装も、高い所から外を見られてご満悦だ。 これを、全部接着剤なしでハメコミのみで作ってるんだから凄いよなぁ〜。 人間でも、これと同じほどのものが作れるかどうか、少々疑問だ。 一階は、キイロ蛆専用の部屋。 段ボールの端切れを器用に組んで作られたパーティションのおかげで、四つの小さな部屋が作られ、 蛆実装はその中を自在に行き来出来る。 しかし自力では外に出られない仕組みになっている上、階段に出るまでにも一つ扉があるため、階段 から落下した姉に押し潰されてしまう心配もない。 部屋はそれぞれ蛆実装用の遊び場とトイレになっていて、これまた段ボールを利用して作った 蛆実装用の滑り台(蛆でも昇れる程度の傾斜を加えた、単なる三角形の板)まである。 側壁には大きな切り欠きがあり、外の様子が見上げられるようになっている上、親実装が手を伸ばして お腹ぷにぷにできるようにもなっている。 当然、床には階段のクッション同様の柔らかいものが組み込まれていて、ちょっとした事でも死んで しまう蛆実装をしっかり守っている。 声も外に漏れやすく作られているので、変化があれば親や仔実装がすぐに駆けつけられる。 大変に充実した作りになっている反面、ここには、親達が入り込むスペースがまるでない。 ではキイロ親達はどうしているかというと、実は押入を利用していた。 105号室の押入は隣の部屋と隣接しておらず、アパートの外に向いている。 そのため、隣の喧騒が響く事もなく、比較的落ち着いていられるのだ。 また、多少じめじめするものの比較的涼しいため、体格の大きい二匹が居てもさほど苦痛ではない。 ここに自作のクッションを大量に敷き詰め、ちょっと離れた所にある子供達専用の家を眺めながら生活 するのだ。 さらに、押入の入り口と段ボールハウスはドアの対角線上にあるため、外敵が入り込んでも到達まで に時間が稼げるように工夫されている点も注目したい。 これなら、何者かが段ボールハウスに辿り着くまでに親が飛び出して迎撃出来るだろう。 また、竹串とカッターが取り出しやすい場所に置かれているため、すぐに武器として使用できるのも おいしい。 大変に工夫の凝らされた、素敵な環境だと言える。 そして同時に、親達がどれだけ子供達の事を考えているのか、うかがい知れるというものだ。 モモ親は、段ボールをハウスとしては利用していない。 キイロ親同様、寝床を押入の中に作っているため、段ボールは寝床の隔壁として使われている。 畳まれた段ボールは、実装石達にとっては脅威の防御力を発揮する壁となる。 寝ている時は、これを襖との間に置くわけだ。 これは、内側から容易にスライドできるように工夫されている。 もちろん、押入だから反対側から開ければ中に入れるわけだが、当然こちらには常時締め切っている 別の隔壁がある。 風通しは悪くなってしまうが、これにより、モモ親の身体はしっかりと守られる。 当然、押入の中だとネズミ発生の危険があるため、そちらにも隔壁が設けられる。 要するに、押入の天井面以外はすべて畳まれた段ボールで囲まれているという事だ。 どっちにしろ、時間をかければネズミに噛み破られそうではあるが、今のところは安泰のようだ。 キイロ親1が、ムラサキ組のために作った203号室の段ボールハウスも、なかなかだ。 横倒しに作られ、やはり窓に底面を向けるようになっている。 内部はキイロ宅同様ふんだんなクッションを敷き、切り欠きから外の様子を窺えるようになっている。 トイレは例外的に中に設置してあり、なるべく外に出なくても済むようにされている。 しかし、一応外部とは仕切りで隔離されている形になっていて、親子すべてが余裕で入れる大きさが 確保されている。 折込蓋は、先端を折った竹串で作られたつっかい棒を利用し、中から子供達が勝手に出られないよう にしてある。 奥の方には仔実装用のベッドが設置されており、それとは別に親用のクッションマット(新聞紙と トイレットペーパーをほぐしたものを詰めたビニール袋の組み合わせ)もある。 さらに凄い事に、段ボールの底面部分(窓際寄りの奥の壁)は緊急時に解放出来る裏口が設置されて おり、そこを開けると押入まで一直線に逃げ込めるように、隔壁通路まで作られている。 隔壁といっても、単に重ねた段ボールが横につっ立ってガードしているだけなんだが。 このために、窓と段ボールハウスの間が微妙に開けられているところがミソだ。 押入の中にも、モモ親同様の隔壁が準備されている。 ムラサキ組の性格を考慮した、大変実用的な住まいだと言えるだろう。 全体的に、段ボールは便利かつ有効に使用されている。 だが、ミドリ組だけは例外だった。 せっかく渡された段ボールで家を作るという発想がなく、ただ普通に組み立ててその中に座っている だけだ。 この組み立て自体、以前にキイロ組から習ったものだ。 かろうじて日避けにはなっているが、クッションもなければ仕切りもなく、また切り欠きやパーティション もないため、本当に野良生活そのまんまの仕様だ。 これは多分、ミドリ組がこれまで特定の家を持たなかったせいだろう。 段ボールハウス自体は他の家族のものを見て理解していたが、内部構造や工夫の度合いまでは 知らなかったようだ。 だから、ただ組み立ててその中に入る事くらいしか考え付かない。 もちろん、それでも生活にはまったく問題はないのだが、どうしても他の部屋の段ボールハウスと 比べると見劣りしてしまう。 ともあれ、生活環境はだんだん安定してきたようだ。 色々と不安要素はあるが、賢い実装石達の集団生活はここまで違うのかと、こちらも純粋に感心 させられる。 とても、前の住人達と同族とは思えないほどだ。 一年前の実験では、こちらが用意した段ボールはほとんど活用されず、一家族がハウス作りに利用 しただけだった。 それ以外の生活態度は…もう酷かったもんだ。 実験終了後、俺とにじあきが泣きながらアパート内全体を清掃しまくった事から、だいたい想像して 欲しい。 現在、すべての部屋の床にビニールシートを張っているのは、前回の失敗の反省から来ているもの だったりする。 俺は、ようやく実験が本流に乗り始めた事を理解した。 これからが、俺が本当に見たかった「アパート実験」なのだ。 ■■■ その二日後。 ようやく、アパート内に大きな変化が現れた。 ——モモ親の出産。 アパート内で、初めての新しい命が生まれようとしている。 「デッ、デッ、スーッ」 「デッ、デッ、スーッ」 キイロ親2が手伝い、モモ親が呼吸を整える。 この日ばかりは、キイロ一家と距離を置き始めたミドリ姉も手伝いに参加していた。 例の容器をまたぎ、モモ親が必死で気張る。 だが、過去に一度出産経験があるせいか、どことなく余裕が見える気がする。 俺が観察を始めてから、だいたい十分くらい過ぎる頃… 「テッテレ〜♪」 「テッテレ〜♪」 「テッテレ〜♪」 三匹の産声…というか、誕生のテーマソングが聞こえた。 おお、すごい! 三匹とも、すべて丸々と太った元気そうな仔実装だ。 モモ親が、即座に粘膜を舐め取っている。 そして舐め終わった子供をキイロ親が受け取り、用意しておいた新聞紙の上に置く。 早速駆け回ろうとし始める子供達は、ミドリ姉が抑えてまとめる。 新しい子供達…新モモ仔1〜3は、何の問題もなくこの世に生誕することが出来た。 桃「デ?! ま、まだ居るデス…」 黄2「デ? そ、それは大変デス! 引っかかっているかもしれないデス!」 桃「も、もう少しふんばってみるデス! デッ、デッ、ス〜!」 黄2「デッ、デッ、スーッ」 桃仔「「「テッ、テッ、チュ〜♪」」」 モモ仔達が、二匹を口真似をする。 その様子に、思わずミドリ姉も微笑んでしまう。 やがて… ぽちゃん 四匹目が生まれた。 これは親指のようだ。 先に生まれた三匹の半分以下の大きさしかない。 桃「良かったデス〜♪」 モモ親は、早速粘膜を舐め取ってやる。 しかし、なぜか新モモ親指は、産声ってーかあの生誕の歌を歌わない。 さっきからじっと黙り続けている。 いや、死んでいるわけではなく、弱っているわけでもない。 目はちゃんと開き、周りの様子を窺っているから、生きているのは間違いない。 ただ、じっと黙っているだけなのだ。 あれ? よく見るとこの仔…… 桃「? どうしたデスか?」 桃仔「「「テチ〜?」」」 黄2「あらあら、なんかびっくりしちゃったデスか?」 緑「…なんか外が騒がしいデチ?」 ミドリ姉の声に、皆がドアに注目する。 確かに、なんかドタドタという音が聞こえてきている。 なんだろうと思って、俺が画面を切り替えようとした刹那…… バタン! 紫「 デ ギ ャ ア ァ ッ ッ ッ !!!! 」 突然、ムラサキ親が泣きながら飛び込んできた。 続けて… 黄1「そ、そこに入っちゃダメデス! アーッ!!」 紫「デ、デッギャアァッッッ!!! ここにも居るデスーッ!!」 ……パタン 絶叫したムラサキ親は、ぴくぴくと引きつった後、そのまま倒れてしまった。 偽石は摘出済みだから、ショック死ではない。これは単なる気絶かな? 黄1「デ?」 黄2「パパ、どうしたデス?」 黄1「新しい部屋に誘導しようと思ったら、逃亡されてしまったデス。で、ずっとおっかけっこしてしまって。 ここが最後の部屋なのデスが…」 ああそうか、最後の逃げ場と思って飛び込んだ先に、今まで以上に沢山実装石が居たからショックを 受けたのか。 なるほどなるほど…と思っていたら。 ムラサキ親の乱入は、意外な展開を引き起こした。 桃仔1「テプププ♪ 何テチあのみっともない奴は♪」 桃仔2「禿テチ♪ 裸テチ♪ 無様テチ♪ こいつはきっとワタチ達のドレイになるために来たテチ♪」 桃仔3「こんな奴にはウンチぶつけてやるテチ♪」 そう言うが早いか、新モモ仔3はぶりぶりと脱糞し、パンツの中に手を入れると投球フォームをとる。 三匹とも、ぴったり同じ動作で行うため、まるでカートゥーンでも見ているような錯覚に陥る。 ミドリ姉を含む親達は、その光景に驚き硬直していた。 うげ、まさか……こいつら 全 員 糞 蟲 ?! しかも、まともに動き出して最初にやるのが、罵倒と糞投げかよ! 桃「や、やめなさいデス! そんな事をしちゃいけないデス!」 ようやく我に返ったモモ親が叱るが… 桃仔1「だってあいつは禿裸テチ」 桃仔2「禿裸はドレイでウンチぶつけられるテチ」 桃仔3「オネーチャン達! 禿がもう一匹居るテチ!」 桃・緑・黄「デデッ?!?!」 新モモ仔3が指差したのは、なんとモモ親…の手の中にいる、新モモ親指だった。 やはりか! カメラの位置関係であまりはっきり見えてなかったのだが、どうもこいつは、服はあっても髪がないよう に見えたのだ。 少なくとも、後ろ髪はまったくない。 頭巾にも、後ろ髪を逃がすための穴が開いてない。 親達はそれに気付いてないのか、それとも仔の態度の方が気になって、思わず見落としてしまった のか… この仔は、どうやら畸形の一種っぽいな。 ——ペチャッ 新モモ仔3のウンチ弾が、モモ親の手に命中する。 桃「な、何をするデス! やめるデス!」 黄2「ウンチ投げちゃダメデス!」 桃仔3「関係ないオバチャンはすっこんでるテチ! ドレイにはウンチこれ定説テチ!」 桃仔1「今のうちに自分の立場をわからせてやるテチ!」 桃仔2「テプププ♪ ママまでドレイになったテチ!」 今度は、ターゲットを母親と末妹に替えたようだ。 かろうじてムラサキ親は奴隷証明を叩きつけられる事はなく、キイロ親1に運び出されて行った。 しかしあまりに唐突な展開に、ミドリ姉は完全に硬直していた。 …い、いや、それどころじゃない。なんか様子が変だぞ? ミドリ姉………パンコンしてないか? こいつがパンコンした事、今まであったっけ? 桃「子供達…」 黄2「まさか、みんな糞蟲だとは…こんな事初めてデス」 桃「く、糞蟲って何デス?」 黄2「えっ?」 思わぬ言葉に、キイロ親2が目を剥く。 その瞬間、二匹にウンチ弾が次々に命中した。 桃仔1「ドレイを増やすテチー」 桃仔2「ウンチに当たったらみんなドレイテチー♪」 桃仔3「あっ、あっちにも居るテチ! あいつもウンチまみれにするテチ!」 新モモ仔3が次に反応したのは、部屋の隅で顔面蒼白のまま凍りついている、ミドリ姉だ。 何に怯えているのかわからないが、まるでさっきのムラサキ親並に震えている。 言葉すら出ないようで、口元が痙攣している。 つか、まさか腰抜かしているのでは? いくらなんでも、この反応は異常だな。こいつ、いったい過去に何があった? 桃仔3「糞くらえテチー!!」 新モモ仔3が振り被った瞬間… バンっ! 桃仔3「チベッ?!」 ベシャッ! 突然、窓際の方向に吹っ飛ばされ、壁に激突した。 緑と赤の汚汁が、壁からだらだらと零れる。 誕生後十分もしないうちに、新モモ仔3は、キイロ親2によって叩き殺された。 って、えっ? マジ? 桃「あ、赤ちゃあぁぁぁぁぁぁん!!! な、なんて事、なんて事するデズァァッッッッ!!!!」 黄2「落ち着くデス! これは、これは間引きなんデス!」 桃「赤ちゃんを返せデズァァッッッ!!! なぜ、なんでいきなり殺したデギュアァッッッッ!!!」 黄2「こ、こんなにすぐ親に歯向かう仔は糞蟲デスっ! ま、間引かないといつか大変な事に…ぎゅう」 桃「何故殺した、何故殺したデジャアァッッッ?!?!」 親指を放り出し、モモ親は、泣きながらキイロ親2に掴みかかる。 キイロ親2は、無抵抗で懸命に弁明しているが、モモ親の耳にはまったく届いていない。 その様子を見ながら、新モモ仔1と2はまたチプププとあざ笑っている。 近くのクッションに落下して、奇跡的に無傷だった新モモ親指だけは、相変わらず無言でその様子を 見上げていた。 桃「ワダジのゴドモォッッッ!! ワダジのダイゼヅナゴドモガアァッッッ!!! デギャアァッッッ!」 黄2「お、落ち着くデス! 落ち着いて話を聞くデス!」 桃仔1・2「「もっと投げてやれテチー!!」」 ぺちゃっ、ぺちゃっ 取っ組み合いのようになっている状態の親達に、次々にウンチ弾が付着していく。 キイロ親2はなんとか止めたいようだが、モモ親が必死でつかみかかっているので対処出来ない。 モモ親は、もはや半狂乱でキイロ親2の襟首を掴んでいる。 あげくに、ミドリ姉は動けない。 完全な膠着状態だった。 桃「デギャアァァァッッッ!! ゴドモ、ゴドモ、ウマ゛レダバガリノ、アダジノゴドモコボワアァッッッ!!!!」 黄2「パパーッ! た、助けてデスゥゥッッッ!!!」 緑「ヒ、ヒエ……テチ…テチ…テチチ……」 桃仔1・2「「キャハハハハ♪ バカドレイ共、早くワタチ達においしいご飯をもって来いテチー!」」 ぺちゃっ、ぺちゃっ 心配していた事が、目の前で起こっている。 常に子供の事を最優先に考えるモモ親にとって、子供は宝物だ。 しかも、それが自分の産んだ仔なら、尚更だ。 だから、本来子供に対してやらなければならない「悲しい事」が出来ないのではないかと心配していた が、まさにその通りだったようだ。 どうやら、モモ親は間引きという概念をまったく知らないらしい。 だから、野良生活のプロであり間引きについても熟知しているであろう、キイロ親2との見解の差が 生じたのか。 モモ親は、ただ自分の子供が不条理に殺されたという怒りの念しか抱いていないに違いない。 そしてキイロ親2も、その性格から安易にモモ親を跳ね除け、傷つけられない。 モモ組導入当時に気になっていた事が、これ以上ないくらいわかりやすい形で炸裂している。 これは、いったいどうなってしまうんだ?! 俺は、固唾を飲んで新たな展開に期待した。 キイロ親1、早く戻ってやれよ〜! ?「ハッ、くだらないレチ」 突然、静かで冷静な声が響く。 これは…初めて耳にする声かな? 全員の動きが、ピタリと止まる。 ?「糞蟲の姉、説明不足のオバサン、間引きを知らない親、助けに入れない根性なし。どれをとっても 情けなくてくだらないレチ」 この声は…まさか? 皆の目が、モモ親の脇のクッションへと集中する。 そこに居るのは、さっき落下したあの禿親指…新モモ親指だった。 桃「デ…?」 黄2「…デス…」 桃親指「オバサン、役立たずの親に代わって、その糞蟲共を間引いてやって欲しいレチ。情けはいらないレチ」 桃仔1・2「「糞蟲って……それは、いったい誰の事テチィィッ!!!」」 桃親指「当然、お前達の事レチ。お前達なんかと同じ腹から生まれたなんて信じたくないレチ。一生の 恥レチ。せめて瞬時にこの世から姿を消すが良いレチ」 桃仔1・2「「な、生意気言うなテチーッ!!」」 新モモ親指に躍り掛かる、新モモ仔姉妹。 だが、それはキイロ親2の手によって止められた。 ガシッ、ガシッ!! 桃仔2「テチャッ?!」 桃仔1「こ、この糞ババア! 放しやがれテチ!」 黄2「……」 複雑な表情で、二匹を見つめるキイロ親2。 さすがに、もういきなり殺す事はできないようだ。 呆然としているモモ親の方を向き、伺いを立てるような態度を取る。 桃親指「どいつもこいつも役立たずレチ。オバサン、そいつに、間引きの大切さを説明してやるレチ。そして、 そいつに直接その糞蟲共を殺させるレチ」 桃親・黄2「デ?!」 桃仔1・2「「な、な、何言いやがるテチーッ!!」」 それだけ言うと、新モモ親指はちょてちょてとドアの方に歩いていく。 桃親指「おい、そこのお前。ドアを開けろレチ」 緑「…?」 桃親指「成体に近い癖に何も出来ず怯えてるだけレチか。せめてそれくらい役に立てレチ」 緑「デ…デチ?」 桃親指「腰が抜けたならへその下に力を入れるレチ。そうすれば気合が入るレチ。世話焼かせるなレチ」 新モモ親指は、親達にはまったく無関心といった態度で、部屋を出ようとする。 なんとなく迫力負けしたミドリ姉は、ついドアを開けようとしてしまう。 桃「待つデス! 赤ちゃん、どこへ行くデス?」 桃親指「お前如きに馴れ馴れしくされたくないから、出て行くレチ」 桃「デッ?!」 桃親指「ワタチは自分で自分の家族を探すレチ。もう二度とお前の許へなど戻らないレチ」 桃「デ……」 桃親指「さらば、レチ」 バタン つい、ドアを開いてしまったミドリ姉は、慌てて廊下に飛び出す。 さすがに親指だけあってまだほとんど移動してないが、どうやらその足は階段に向いているようだ。 緑「どこへ…行くつもりデチ?」 桃親指「上レチ」 緑「上?」 桃親指「興味があるレチ。お前、ウンチ洗い流してワタチを運ぶレチ。早くするレチ!」 緑「は、ハイデチ! ……って、アレ?」 言われて、ようやく自分のパンコンに気付いたようだ。 ミドリ姉は、慌ててトイレに飛び込んだ。 一方106号室では、開け放たれたドアを見つめたまま、四匹の実装石がいまだ硬直し続けていた。 桃「デッデロゲ〜♪」 突然、モモ親が歌いだした。 な、なぜこのタイミングで胎教の歌? 桃「デッデロゲ〜♪」 黄2「? モ、モモさん?!」 桃「デッデロゲ〜♪」 キイロ親2の呼びかけにも反応せず、ただ、すでに平たくなった自分の腹を撫で続けている。 その目は、すでに視点が定まっていない。 桃仔1「キャッハハハハ!! このドレイ狂ったテチ!」 桃仔2「過酷な現実から逃避しやがったテチ! 傑作テチ! ざまあみさらせテチ!」 桃仔1「ワタチ達に餌も与えずまごまごしていた報いテチ!」 桃仔2「最後まで役立たずだったテチー!」 黄2「………そういう事デスか」 桃仔1・2「「テ?」」 黄2「悲しい事デスが………それならもう、遠慮する事はないデス」 ブンッ! 桃仔1・2「「テ……」」 ベシャアッ! ペチャアッ!! 二匹の糞蟲は、一瞬のうちに床に叩きつけられて潰れてしまった。 糞蟲トリオ、ジ・エ〜ンド。 実に、実に短い一生だった! お見事! 桃「デッデロゲ〜♪ デロデロゲ〜♪」 モモ親は、我が仔達の死にまったく気付く事なく歌っている。 キイロ親2は怒りの表情を鎮めると、今度はモモ親の身体に付着した糞を拭き取り始めた。 今にも泣きそうな顔をしている。 ついさっき、自分が抱き上げた新生児達をすべて叩き潰してしまったのだ。 優しい性格のキイロ親2には、さぞ辛かったことだろう。 桃「デッデロゲ〜♪」 モモ親の歌声はなおを続く。 完全に壊れてしまっている。 桃「デッデロゲ〜♪ デッデロゲ〜♪」 黄2「モモさん、モモさん…しっかり…!」 桃「デッデロゲ……デ?」 一瞬、モモ親の目の光がまともに戻る。 心配そうに見つめるキイロ親2と目が合った。 そして…… 桃「……」 黄「モモさん! 正気に戻ったデス? 元気を出すデス。いいですか、これは…」 桃「 お 前 を 絶 対 に 許 さ な い デ ジ ュ ギャ ワ ア ア ッ ッ ッ ッ !!!!」 ——バキィィィン!! なにっ! 偽石が砕けた?! モモ親の目はみるみるうちに色を失い、灰色に濁る。 そして、力なく後ろに倒れた。 黄2「も、モモさん?! モモサァァァァン!!!」 キイロ親2の絶叫が響く。 しかし、モモ親の般若のような怒りの表情は、二度とかわる事はなかった。 ■■□ その後、俺はしばらく落ち込んでいた。 まさか、俺が手を出した事がこれほどまでに裏目に出るとは… 俺は虐待派。別に、実装石に思い入れたり、特別な感情を抱いたりはしない。 どんな無様な目にあっても、どんなばかばかしい死を迎えても、それを笑って眺めている事が出来る し、そういうのが大好きだ。 だが実験を発展させるためにと余計な手出しをしてしまい、それが元で実験個体が醜い死を迎えて しまうとなったら、さすがに心穏やかではない。 モモの子供達がほとんど全部死んでしまった事は、自業自得で仕方ないと思う。 しかし、モモ親までそれに巻き込まれてしまうとは、正直計算外だった。 やはりモモ親には、手を出さない方が正解だったのだ。 今更ながら、その現実を意識した。 あの時、たとえモモ親が寂しさで衰弱して死んでしまったとしても、あそこまでアパート内に波紋を 撒き散らす事はなかっただろう。 だが、今回このような経緯でモモ親が死んでしまった以上、アパート内には必ず大きな動乱が起こる 筈だ。 そしてそれは、本来俺が望まないものだった筈。 俺は、なんという愚かな事をしてしまったのだ…今更ながら、強く思い知らされた。 以前にじあきに指摘された通り、俺は前回の実験失敗が後を引き過ぎて、焦ってしまったようだ。 だがその結果、かえって酷い展開にしてしまった。 というより、これでは自分の手で酷い展開にしてしまったようなものだ。 俺が自分のポリシーに反したために、発生した事。 モモ親は、実装石同士のトラブルではなく、ルールを逸脱した俺の手によって殺されたのだ。 これほど、悔しいものはない。 俺は、心底猛省する必要性を実感していた—— 俺は、この後何があっても実装石達には決して手を出さない事を強く誓った。 とはいえ、今後もアパートには何度か侵入しなければならない。 まず、モモ親の死体回収と新モも仔達の死体洗浄。 そして今後も、新たな犠牲者が出る度に、その回収に出向かなければならないからだ。 だからせめて、アパート内の実装石とは顔を合わせないように徹底しなければならない。 俺は、自身の態度を改めつつも今後の実験の新展開に期待し、再度モニターに見入ろうとした。 コンコン 突然、ドアがノックされる。 俺は、慌ててモニターを切った。 やって来たのは、意外にも俺の母親だった。 うちの家族は、俺の実験の事は知らない。だから画面を見せるわけにはいかない。 「ねえやおあき、ちょっと聞きたいんだけどさ」 「なんだよ、母さん?」 「最近ね、野良実装がこの辺にいっぱい出てきてるのよ」 「実装石? ああ、そりゃ大変だね」 「でさ、子供が石や糞投げつけられたり、家の中に入り込んできたりって大変な事になってるらしい のよ。あんたも気をつけてね」 「うん、なんか気付いたら対策とるよ」 「それでさ、あのアパートなんだけど…」 ぎくっ! 母親は、俺の部屋の窓から見えるアパートの屋根の一部を指差した。 「な、ななな、なんかあった?」 「あんたがこの前掃除してくれたのに悪いんだけどさ、なんか、実装石の泣き声とかうめき声みたいの が聞こえるのよ」 「そ、そう?! いやあ、全然気付かなかったなあ♪」 「ひょっとしたら、もう入り込んでるかもしれないのよ。悪いけど、ちょっと見てきてくれない?」 「え…?」 「あと、駆除の道具も念の為持って行ってね。頼むわよ」 「あ、あの、ちょっと!」 バタン! 母親は…出て行ってしまった。 なんか、やば〜い雰囲気が立ち込めてきた。 つか、どうしてこういう時にそんな話を持ってくるのかな〜! 母親だけでなく、父親も、俺があそこで実験をしている事は知らない。 それどころか、俺が虐待派だという事自体知らない。 だから、俺が今アパートにうかつに忍び込めない事を巧く説明するのが困難だ。 俺は散々考えた末、今はネット上での仕事のやりとりで忙しいから、夜に行くよと説明する事にした。 まずい、非常にやばい傾向だ。 両親は、あのアパートを壊して新しいマンションを建てたいと考えている。だから、今あのアパートの 問題が表面化してしまうと、そこにこじつけて打ち壊しを主張し始めるかもしれない。 どうやら、俺自身にも大きな試練が与えられたようだ。 □□■ 一方その頃、ミドリ姉の背に乗って二階へ移動した新モモ親指は、ミドリ姉に命じて部屋を調べさせ、 やがて203号室に辿り着いた。 ここは、かつてアカ組が退避していた一番奥の部屋で、現在はキイロ親1によってムラサキ組居住用 の準備が整えられている。 部屋の中では、気絶したムラサキ親をようやく運び込んだキイロ親1が肩で息をしている。 ムラサキ組の子供達は、怯えて押入の中に退避しているようだ。 ミドリ姉達の乱入に驚くキイロ親1だったが、何か言うよりも早く、新モモ親指がぴょんと飛び降りて きた。 ちょてちょてと、ムラサキ親の方に駆け寄っていく。 そして禿の頭をつるつると撫で、始めてみせる笑顔でこう言った。 桃親指「ママ♪ レチ〜♪」 黄1「デ、デェッ?!」 緑「ち、違うデチ! モモちゃんのママさんは下の…」 桃親指「あんなのは違うレチ。こっちがママレチ。だってワタチとおなじ頭レチ♪」 黄1「?」 キイロ親1は、手を伸ばして新モモ親指の頭巾をつるっと剥いた。 そこには、先天的な禿頭が光っている。 黄1「デデ…ホントデス!」 緑「つるんつるんデチ〜」 桃親指「だからワタチは、これからここに住むレチ」 それだけ言うと、新モモ親指は押入に向かって走り出した。 オネーチャーン♪ テチャアァッッッ!!! 真っ暗な押入の中で、鬼ごっこが始まる。 キイロ親1とミドリ姉、そして俺は、あまりの超展開に、ただボーゼンとするしかなかった。 モモ親指…お前、いったい何者だよ?! (続く) ----------------------------------------------------------------------------- ■ 現在の状況 □ ●アカ組:親×1、仔×1 ●キイロ組:親×2、仔×1、蛆×1 ●ミドリ組:仔×2、親指×1 ●モモ組:親指×1 ●ムラサキ組:親×1、仔×1、親指×1 残っている実装石:13匹 これまでの犠牲者:15匹 ・モモ仔1、2、蛆 …エレベーター実験の犠牲になり死亡 ・アカ仔2 …206号室で、ゴキブリに襲われて死亡 ・アオ親指2 …206号室でアオ仔4に首を落とされて死亡(事故) ・アオ仔2、4 …206号室でネズミに襲われて死亡 ・アオ親指1 …アオ親に壁に叩きつけられて死亡(事故) ・アオ仔1、3 …激昂したアオ親に踏み潰されて死亡(事故) ・アオ親 …子供全滅のショックで、偽石崩壊 ・モモ新仔1、2、3 …出生直後、キイロ親2に間引かれる ・モモ親 …子供をほとんど失い、ショックで自壊&偽石崩壊 ● 覚え書き ○ ・アパート内は猛暑状態 ・モモ親指、ムラサキ組の許へ ・キイロ派閥、アカ派閥成立? ・野良実装、外を徘徊 ・やおあきの親、アパートを警戒
