タイトル:【観察】 敷金・礼金無料 6
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初投稿日時:2006/10/26-21:37:32修正日時:2006/10/26-21:37:32
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敷金・礼金無料 6


 俺の名はやおあき。
 自らは手を下さない、観察型の虐待派だ。
 俺は友達のにじあきと協力して、五組の賢い実装石一家をさらって来た。

 今彼女達は、俺達が整えた古い木造アパートの中に居る。
 雨風をしのげ、外敵から守られたこの素晴らしい環境の中で、彼女達はどのように生きていくの
だろうか?
 今は初夏…夏がだんだん近付いている!


●アカ組:親×1、仔×1

●キイロ組:親×2、仔×1、蛆×1

●ミドリ組:仔×2、親指×1

●モモ組:親×1

 以上五家族、親4匹、仔4匹、親指1匹、蛆1匹…合計10匹。



(前回のあらすじ)

 実は食料庫だった202号室に陣取っていたアオ組。
 彼女達は、他家族に黙ってこの食料を独り占めしようとしていた。
 だがネズミ出現による食料保存の危機感が生まれ、アオ組内で混乱が発生。
 206号室“堕落の間”に逃げ込んだアオ仔達は、飽食の果てにネズミに襲われ、残った子供達も
夏の日差しによる猛暑にやられてしまう。
 瀕死の子供を救おうとするアオ親だが、あらゆる選択をことごとく間違えてしまい、ついには自らの手
で子供を皆殺しにしてしまうハメに。
 そして本人は、そのショックに自ら偽石を崩壊させてしまった。

 ——アオ組は一気に全滅、アパート内の実装石は、いきなり半分以下まで減ってしまった。




■ 第六話 「ディープ・パープル」 ■

 俺の名はにじあき。

 アパートで実装石を使った実験をやっているやおあきの親友にして、虐待派の同志。
 俺はガチの虐待好きで、今流行りの「親子愛溢れる個体の虐待」に凝っている。
 
 昨日、やおあきは俺に「アオ組全滅」の報を寄越してきた。
 まさかこんな短期間に、あっけなく一家が全滅するとは思わなかったようだ。
 モモ組は、イレギュラーな処置で全滅を免れつつあるが。
 やおあきは、家族が全滅した事よりも「半分以下まで数が減ってしまった」事の方を悔やんでいた。


 今から一年前。
 やおあきは、あのアパートで今回と同様の実験を行った事がある。


 その時は、公園から無造作に選択して集めてきた野良実装ばかりを使用した。
 結果は、散々。
 当時の実験目的「実装石のコミュニティ形成の観察」は、目論みを大きく外れて破綻してしまった。
 アパート内は敵意と殺戮が交錯する修羅場と化し、コミュニティの形成などまったくと言って良いほど
行われなかった。
 これは、集められた実装石のいずれも「協調性」「共存願望」を持たず、また持とうとしなかった事が
原因らしい。
 どの個体もすべて、アパート内に君臨して豊富な食料と奴隷を独り占めする事だけを望んでいた。
 そのため、やおあきが見込んでいた期間の1/6にも満たない、たったの一ヶ月弱でほぼ全滅という
悲惨極まりない結末になってしまった。
 当然、やおあきはこの結果に憤慨した。
 あの時の激怒具合は、長い付き合いの俺ですら初めて見るほど激しいものだった。
 あの時最後まで生き残った糞蟲は、結局どうなったんだっけな?
 実装石には手を出さない主義のあいつにしては珍しく、直接手を下したみたいだけど。

 かなりの予算を投じて行った大実験が、すべて予想外の方向に行ってしまった事を悔やんだやおあき
は、今度は賢い個体を徹底選別して実験する事を思いついた。
 それなら、安易な殺し合い、食い合いに発展する事はないだろうという見込みだ。
 すべてが平和的な性格である必要はないが、家族を守り共に生き続けていくだけの知恵と経験を
持っている連中同士なら、安易な衝突などはせず、他者と協力しながら困難を乗り越える術を見出す
かもしれない。
 やおあきは、その「困難の乗り越えっぷり」を楽しみたかったわけだ。

 二度目の実験は、そこそこ良い感じのスタートを切った。
 しかし、まさかたった10日間で半数以下にまで減ってしまうとは、さすがに思わなかったのだろう。
 これは、前の実験よりも高い死亡率だ。
 あの時の糞蟲共が半数以下になったのは、確か二週間を過ぎた頃。
 しかも実験に投入した個体数は、現在よりも少なかった。
 要するに、数字的には今の実験の方が良くない方向に向かっている結果になってしまう。
 やおあきが焦るのも道理だ。

 あいつは、モモ親が仔を亡くした時点で、あざ笑いながらも不安を抱いていたのだろう。
 だからこそ、モモ親に妊娠処置を施すという反則行為をあえて行った。
 それを後から聞いて俺はかなり反発・指摘したが、奴はやむをえない処置だと言い張っていた。

 なんだかんだで、あいつも虐待師としてはまだ甘い面があるようだ。
 本当なら、モモ組はそのまま全滅させるべきだったのだ。

 そのやおあきの選択が因果として跳ね返ったのか、今度はアオ組が一気に全滅というパターンに
陥った。
 ある意味、これは自業自得な結果なのかもしれない。
 俺はアオ組全滅後、やおあきに「安易に手を加える愚かさ」をじっくりと説いた。


 全滅したアオ組はやおあきご自慢の一家で、最後まで生き残るだろうと見込まれていた連中だ。
 だが、やおあきは家族を選択する際、「逆境に対する対抗力」の実験を怠っていた。

 俺は事前観察中、キイロ組とミドリ組に対して、何度か突発的なトラブルを与えた。
 糞蟲軍団を刺客に差し向けたり、マラ実装を夜中に放り込んだり。
 取り貯めていた餌をまとめて廃棄した事もあるし、キイロ一家などは、雨の日に段ボールハウスを
丸ごと奪われた事もあった。

 しかし、奴等はその逆境をすべて乗り越えてきた。
 だからこそ選ばれたのだ。
 やおあきと俺とは、そこが違う。
 俺は、確実に生き残る能力を持っている事を難度も立証した個体だけを、徹底選別した。
 だから、二週間も観察に費やすことになったのだ。




 …のだが。

 これでは、あまりに完璧すぎて面白くない。
 そんな完璧な連中の中に、「とことん弱そうな奴等」を加えてみるのはどうかと、俺はある時思った。


 アカ組もアオ組も、俺には及ばないもののやおあきがそれなりに選別して選んだ優秀な連中だ。
 では逆に、「生存に必要な能力をことごとく奪われた奴等」が、あのアパートに入りこんだらどうなる
だろうか?
 ちょっとした事でパニックに陥り、常に死の恐怖に怯え、身体を傷つけられる激痛とストレスに苦しむ。

 ——虐待経験を持つ実装石。

 自分達以外の実装石を知らず、それどころか、他の生物すらもほとんど知らない。
 他者への抵抗というものを理解せず、また暴力は「受けるもの・食らわされるもの」としか認識できず、
自ら加えられるものだという概念もない。
 そのため、身を守る能力が著しく欠如している。
 絶対に、自然界では生きていけない個体。

 そんな連中を、あのアパートの実装石達はどう受け入れるだろうか?
 これはやおあきの実験思想にはやや反する者達だが、利口で賢い事は間違いないし、何より見ていて
楽しいだろう。

 そういうわけで、俺はあらたな一家を実験に追加するため、最後の仕上げに入っていた。



 俺は、いつもの虐待専用部屋(単にプレハブに手を加えただけのもの)に入り、水槽の中に収め
られている実装石共を睨みつけた。

「デ…デデ……」

「テチ…テチャ…」

「レチ…レチュ…レェェェ…」

 親実装と、仔実装。そして親指が一匹。

 これが、新しい追加家族「ムラサキ組」だ。
 最初から実験に組み込むつもりだったわけではないが、こいつらは最適だと思われる。
 
 俺は、野良実装を捉えてきて虐待するような事は、もう辞めた。
 反応がワンパターンでつまらないからだ。
 ここに居る親実装は、わざわざ貯金を下ろして買い付けた、いわゆる「躾済み高級実装石」だ。
 礼儀正しく粗相などまったくせず、飼い主の手を煩わせないどころか逆にこちらの気分をなごませて
くれる。
 そして、何より媚びず、ムダに甘えず、心の底から優しく可愛らしい笑顔を浮かべられる。
 そんな最高で素敵な実装石を、俺は最悪の地獄に叩き落した。

 こいつらは、十世代以上に渡って飼い実装を続けている生粋の血族で、当然血統書付き。
 野良的要素はおろか、いわゆる糞蟲的と判別される行動理念を持っていない。
 それどころか、そういった行為に激しい嫌悪感を覚えるように調教されているというのだから、恐れ入る。
 そんな個体が仔実装から成体になるまで充分に手をかけ、最高に幸せな生活を与える。
 俺に対する信頼と愛情を抱き始め、最高の幸せを味わいながら妊娠した頃合を見計らい、それまでと
まったく逆の生活環境に突き落とす。
 暖かくて過ごしやすい部屋から、冷たく暗い空間に。
 おいしくて栄養のある豊富な食事は、三日に一度僅かに与えられる最低価格の実装フードのみに。
 風呂も洗濯もなくなり、体が汚れたらホースで水をぶっかけながらトイレ掃除用モップでゴシゴシ洗う。
 トイレなどはじめから設置しないが、だからといって床に糞を漏らせばそれを理由に虐待し、自ら
食わせて始末させる。
 髪も服も当然奪い取り、目の前でズダズダに引き千切り、燃やす。
 無論、偽石は取り払いコーティング・栄養剤漬けにされているから、ショック死も出来ない。
 そして子供が生まれる直前まで、出産機能が低下しない程度に虐待を続ける。
 最愛の飼い主による突然の過酷な仕打ちに、強烈なストレスを覚えただろうが、それが常に維持
される状態を続け、最悪の精神状態の中で子供を産ませる。

 生まれてきた子供は、蛆は論外で皆殺し&罰として親に死体を食わせる。
 そして、同族食いを行った事を執拗に責め、なじる。
 親が一番最初に手に取りあやした子供だけを残して、残りは(賢個体・糞蟲問わず)皆殺し。
 残した子供も、最初の一週間で俺にたてついたら問答無用で即座にぶち殺す。
 そして、すぐに花を突っ込んで強制妊娠させる。
 次に生まれた子供も、同様の処置にする。
 そしてまた妊娠、虐殺、また妊娠……
 これを半年間休みなく繰り返した。

 おかげで親は身体機能に損傷を負い、もはやまともに妊娠・出産出来なくなってしまった。
 最後の出産では、一匹も肉体を持った子供は生まれず、汚らしい汁をたらしただけで終わった。
 妊娠・出産行為そのものが多大なストレスになってしまったためなのだろうか?
 本人はかなりのショックだったようだが、俺もショックだった。
 この時点で、こいつを飼う価値は完全になくなったわけだから。
 
 現在残っている子供達は、そこそこ俺の眼鏡にかないそうな奴ばかりだ。
 仔実装と親指は同時に生まれたのではなく、仔の方が一回先に生まれている。
 もちろん、眼鏡にかなったと言っても虐待は行うから、こいつらは服も髪もすぐに奪い取られ、仔実装
は偽石も取られている。
 親指からの偽石摘出は難度が高いが、俺は一応過去に成功させた事があるので、今度試そうと
思っている。
 栄養不足のため、仔実装も親指も、もういい加減体格が変わっていてもいい頃なのだが、いまだに
大きくなっていない。
 親などは、「上げて」いた時とは比較にならないほどやせ衰えている。

 とにかくこいつらは、俺という最悪の脅威によって常に苦しめられ続けるという事を遺伝子レベルで
深く理解している。
 子供達は、生まれてすぐに俺の事を怖がっていたほどだから、大したものだ。
 実装の出産=自己のコピー生産という説は本当なのかもしれない。


 俺は、身を寄せ合って震えている三匹に顔を寄せると、わざと優しい声でささやきかけた。

「実は、そろそろお前達を解放してやろうと思う」

「デ?!」
「テチュ?」
「レ…」

 本当デスか? とでも言ってるつもりだろう。
 だが面倒なので、リンガルは使わない。

「本当だ。もうお前達をいたぶるのは飽きたからな。新しい実装石を飼うから、お前達はお役御免だ。
 どうだ、そういうことなら納得いくだろう?」

 親実装が、力なく頷く。
 根が素直なのは虐待後も変わらないのか、感情を誤魔化す事がニガテのようだ。

「ただし、このまま解放してもお前達は絶対に生き残れない。必要な能力が欠如しているからな。
 だから、明日はあるテストを受けてもらう」

「デス!?」

「そうだ。明日俺がこの部屋に来てから、二時間だけ生き延び続けるんだ。それが出来たら解放して
 やる。
 ただし、たとえ一匹でも死んだらそこまでだ。
 俺はお前等を究極の残虐行為を用いて皆殺しにする」

「デ…デデ…」
「テチュ…テチュ…」
「レピィ…」

 俺はそれだけ説明すると、それぞれに高濃度栄養剤を注射してやる。
 これがあれば、明日までには充分な体力が養われる筈だ。

 俺はそれだけ済ますと、何も言わずに部屋を出る。
 てっきりもっと虐待されると思っていたのだろう三匹は、不思議そうな顔で俺を見送っていた。



 翌日。
 確認してみると、三匹の体調はかなり良い状態まで復帰していた。
 以前とはまるで違う肌と筋肉の張りを感じさせ、顔色も良い。
 俺は満足して、この日は特別に最高級の実装フードを振舞った。
 最初は警戒していたが、俺が「これで最後になる食事かもしれないから、せめて沢山食え」と言うと、
やがて安心して食べ始めた。
 本当に、素直な奴だ。
 もしかしたら、食事をする事を俺からの命令と受け取っただけかもしれないが。

 もうこれ以上食べられないという状態まで食わせると、俺は、昨日の話をもう一度繰り返す。
 三匹に緊張がみなぎる。

「俺は今から二時間後きっかりにここに戻ってくる。その時まで、一匹も欠けずに生き残るんだぞ、
 いいな?」

「デス…デス」
「テチィ!」
「レピィ!」


「よし、良い意気だ。——それじゃあ始めようか!

 入って来おぉぉい、公園から適当に連れてきた 野 良 実 装 十 匹 ! 」



 デスウゥゥッッッ!!!! ×10



「デ、デシャアッ?!」
「テチャアァッッ!!!」
「レチャアァッッッ?!?!」

 プレハブの中に、三日前に捕まえてきた薄汚い野良実装達を解き放つ。
 もちろん、餌なんかまったくやっていない上に毎日ドドンパで充分に糞抜きしてあるものだから、腹の中
は完全に空っぽ。
 そんな奴等にとって、あの三匹は絶好のエジキに映る筈だ。
 当然、こいつらにも栄養剤をたっぷり注射しているので、空腹でも元気ハツラツだ。

 デスゥゥゥッッン? デスゥッ!
 デスデス! デプププフ♪
 テシャアァッッ!

 野良の一匹が、何か言いたそうにこちらを見上げる。
 だいたい言いたい事はわかってる。
 人間に飼われている実装石に迂闊に手を出すとまずいという事を、一応心得ているようだ。
 俺は笑顔で頷く。

「ああ、こいつらを好きにしていいぞ」

 するとそいつは、嬉々として三匹に飛びかかっていった。

「デッギャオォォッッッッッッ!!!」

 狭いプレハブの中で、三匹の必死の逃走が始まった。
 高級飼い実装で、暴力や戦闘という概念を知らず、ただ以前の暖かい生活に戻りたいという願望だけ
に頼って生きてきたこいつらは、とてもじゃないが野良実装共に抗える筈はない。
 せいぜい、他の実装石に対する絶対的恐怖心をガッチリ植えつけられてくれ。
 そうでないと、お前達をムラサキ組として派遣する意味がないんだ。

「デギャァァッッッ!!!」
 デシャシャシャシャ♪
 デスゥ、デスゥ♪

「テチィィィッッ!!!」
 デッスデッスウ♪
 デヒャヒャヒャ♪

「レチャアァッッッ!!!」
 デヒャヒャヒャヒャ!!


 さっきたっぷり食べた食事が災いして、三匹はまともに動けない。
 もっとも、空腹だったとしてもろくすっぽ動けなかったとは思うが。

 …一時間、もたないかもな。
 
 俺は、そのままプレハブ小屋を出た。

 



 △△△



 二時間後きっかり。
 俺は、あらかじめ抜き取っておいた野良実装達の偽石を、無条件ですべてぶち砕いた。
 これで、あいつらは全滅した筈。
 さて、結果を見に行こう。


 結論から言うと、三匹は奇跡的に生きていた。

 正確には、かなりギリギリの状態だったが。


 親指は、野良実装の口の中に突っ込まれていて咀嚼される直前だった。
 もし、偽石を砕くのがあと一瞬遅れていたら、こいつは間違いなく死んでいただろう。

 残りは、それぞれ両手と片足を失いながらも、なんとか生きていた。
 仔はさらに顔半分、親は横腹を食い千切られていたが、かろうじて命に別状はなさそうだ。
 状況を良く見ると、どうやら野良同士で「餌の奪い合い」が始まったらしい。
 これが殺し合いにまで発展し、その分三匹の寿命?が伸びたように思える。

 実装石には珍しい、なかなかの幸運ぶりだ。
 もっとも、俺に飼われた時点で運勢は最悪なんだが…それとも、こいつはここから運気を高めて行ける
個体なのかな?
 だとしたら、とても面白そうだ。

 俺は、三匹を助けて治療を施すと、よくやったと精一杯褒めてやり、活性剤を投入した。
 そして、身体が完全に回復するまで安置し、その間は一切虐待を行わなかった。


 二日後の夜。

 完全に回復した三匹に、俺はさらに説明した。


 これからお前達が行く家は、雨風はしっかり防げるし餌も風呂もトイレもあるから、そのままならとても
安全で快適な所だ。
 だけどそこには、一昨日お前達を襲ったのと同じ数の実装石達が居る。
 そいつらも、そこで一緒に生活するんだ。

 わかるな、この意味が。

 快適だが、そこから逃げることはできない。
 お前達は、そんな所でこれから立派に生き続けて欲しい。

 じゃあ、達者でな。


「デ、デギィィッッッ?!?! デシャアッッッ! デジャアッッッッ!!!!」
「テチィィィッッッ!!! テチィィッッッ!!!!」
「レェェェェン、レェェェェェン!!」


 刷り込みは完了。
 俺は一言も「怖い実装石」とは言ってないのに、奴等は勝手に「恐ろしい奴等と一緒」と勘違いして
しまった。
 それでいい。
 それでこそ、俺が望んだ「ムラサキ組」の姿だ。

 俺は、最後に識別用の紫のリボンを軽く首に巻いてやる。
 禿裸の状態でリボンだけだから、相当マヌケな外観になった。

 以降、こいつ等はそれぞれムラサキ親・ムラサキ仔・ムラサキ親指と呼称する。

 三匹をケージにしまうと、俺は、やおあきに準備完了の連絡を入れた。



 △△△


 やおあきの家に着くと、俺はここまでの状況をあらためて尋ねた。

 アオ組全滅後、アパート内では特にこれといった大きな出来事は起こっていない。
 むしろ、家族が丸々居なくなってしまった事で、他の実装石達の間にもダウナーな雰囲気が漂って
いたようだ。
 相変わらずアパートは暑苦しいので、風呂場はひんぱんに使われていた。
 井戸からくみ出される水はとても冷たく、この季節には貴重な清涼効果を促す。
 時には風呂場が満杯のため、トイレを使って行水している子供達も居た。
 結局、二階で住む事はかなり自殺行為だという事が認識されたようで、今では全部の家族が一階に
住んでいるという。
 あのモモ親のイビキが我慢できるようになったのかな、みんなは?


 やおあきはその後また一回だけ、夜間にアパートへ侵入した。
 アオ親の死体を回収するためだ。

 蛆や仔実装の潰れた死体なら雑巾で拭き取る程度で済むだろうが、さすがに成体実装の死体を
いつまでもアパート内に放置しておくわけにはいかない。
 異臭は周辺の住宅にも及びかねないからだ。
 今後も、大きな死体が発生した場合はその都度回収作業をしなければならなくなるが、こればかりは
仕方ないだろう。
 餌が充分にあるため、アパート内の実装石達が死体を食って処分する事はまずありえないし。


 202号室では、アオ組が中途半端に手をつけた高級実装フードが腐ってしまっていた。
 開封された状態で猛暑の部屋に長時間置かれていたのだ。
 結局、それもやおあきの手によって回収処分された。
 俺は放置しといてもいいだろうと考えたが、意外に腐敗臭がきつかったそうで、他の実装石達も
近寄れないほどだったらしいから、これも止むを得まい。
 大きな腐敗物発生時だけは、例外的にアパート内に入らなければならない。
 これは、実験開始前から考慮されていた事である。
 前回はこれをしばらく放置してしまったため、後始末がとんでもない事になってしまったのだ。

 それでも、やおあきは俺から受けた指摘に従い、他の実装石達に援助したり、手助けをするような
真似はしなかった。
 よし、それでいい。

 俺は、ムラサキ組の説明をごく簡単に済ませ、やおあきにケージを渡す。
 ついでに、こいつらの偽石を入れたタッパも手渡しておく。
 ケージの中では、一家が催眠スプレーで眠らされている。
 やおあきはそれを受け取ると、アパートへと走って行った。
 そして、ものの数分もしないうちに戻って来る。
 なんでも、勝手口のすぐ手前に放り出してきたようだ。
 ケージから出てきた三匹の姿を見て、思わず噴出しそうになったという。
 気に入ってくれたなら、何よりだ。
 とにかくこれで、アパートの中には、あらたな一家「ムラサキ組」が組み込まれた。
 後は、じっくりと観察するだけだ。


「でさ、あいつらってどういう虐待されてるの?」
「それはー、あえて秘密にしとくかなー。ま、別に珍しい事はしてないよ」
「そうか、お前の事だから、死んだ方がマシだっていう経験を散々積んでるんだろうな」
「あー…そうね、かなりきつい上げ落としもしてるからなあ」
「こぉの、鬼♪ 悪魔♪ 外道♪」
「ありがとう♪」

 虐待経験を持つ実装石が組み込まれるという事について、最初は反発していたやおあきだが、
優秀な個体だという事とあの素敵な姿で、どうやら本当に気に入ってくれたようだ。
 それに、ちょっと変わった波乱を巻き起こしそうだという希望的観測も見出せたようだ。
 うむ、良かった良かった。

 ムラサキ組導入の手間賃は、昼飯三週間分という事にしておこうか。
 ちょっと安過ぎるかな? 


 そんな事を考えながら、俺は愛車タイガースパーク号(自転車しかもママチャリ)に乗り、帰路を急いだ。



 △△□


 おまたせ。
 やおあきデッス。

 
 ムラサキ組投入により、アパート内の実装石の数は13匹まで増えた。
 この上モモ親が近々出産するから、数的には充分だろう。
 しかし、手を加えすぎた所は反省しなきゃな。
 今後は、たとえどんなに数が減っても援助も増員もなしという事にしよう。
 にじあきにも、それ以外の人達(謎)にも、散々指摘されたことだし。


 さて、ムラサキ組投入一日目の朝が来た。
 
 俺はいつものように身支度を整えると、モニターを点ける。
 おお、丁度アカ組が目覚めて、朝のトイレに行く所のようだ。
 となると、当然視界にはムラサキ組が映るわけで…


赤親「デ?!」
赤仔「テチ?! 誰か居るテチ!」

 ムラサキ組は、まだ起きていない。
 勝手口のすぐ手前に放り出された状態で、木の床に寝そべっている。

赤親「なんデスあれ? 禿で裸デス」
赤仔「チプププ♪ なんて薄汚い惨めなカッコテチ〜!」

 アカ組は、遠目でムラサキ組を観察し始めた。
 禿裸だと小馬鹿にしてはいるが、安易に近付かないところはさすがかな。
 その時、今度はキイロ組がトイレにやって来た。

黄親1「アカさん、おはようございま……デデッ?!」
赤親「おはようございますデス。キイロさん、あれどう思うデス?」
黄仔「頭つるんつるんの裸んぼさんテチ!」
黄蛆「レフレフ、親指チャンも居るレフよ?」
黄親2「いつのまにこんな人達が?」
赤仔「わからないテチ。起きたらここで倒れてたテチ」
黄親1「とにかく、助けないといけないデス」
赤親「た、助けるって…禿裸デスよ?」
赤仔「こんな奴等は奴隷テチ。助ける必要はないテチ」
黄仔「それは可哀想テチ!」
黄蛆「そうレフー。世界は一家、実装は皆兄弟、戸締り用心火の用心レフよ」

 キイロ蛆、お前いつ生まれた?

黄親1「101号室が空いているデス。手伝うデス」
黄親2「はいデス」
黄仔「テチ!」

 そう言うと、キイロ組はそれぞれでムラサキ達を背負い、一番遠い101号室へと運び始めた。
 キイロ仔まで、ムラサキ親指を抱いているのは大したもんだ。
 アカ組だけが、その場にぽつんと取り残される。

赤仔「ママー、なんでキイロさん達はあのドレイ達を助けるテチ?」
赤親「ママにも、だんだん訳がわからなくなってきたデス。あいつら何考えてるデス?」
赤仔「なんだか、とっても怪しい気がするテチ」


 今度は、ミドリ組がやって来た。

緑「おはようございますデチ〜。…何かありましたデチ?」

 アカ親が、簡単な事情説明を行う。
 説明を受けたミドリ姉は、キイロ組の後ろ姿を見て、ポカーンとしている。

緑「キイロさん達、なんだか一生懸命デチ」
赤親「だんだん、キイロ達の考えが理解できなくなってきたところデス」
緑「デチ〜……」

 どうやらアカ組には、弱者を助けようという考えが根本的にないようだ。
 とはいえこれは、実装石としては正しい態度だ。
 しかし、キイロ組はそれと正反対の考えを持っているらしい。
 まさか仔や蛆まで、ムラサキ組救助に賛同するとは思わなかった。
 大した意思の統一ぶりだ。

 しかし、アカ組に疑問を抱かれるのも、これまた当然だろう。
 アカ親の言葉は、そのまま俺自身の心の言葉でもある。

 ミドリ姉はどう思っているだろう?



□■■



 実験を開始してから、今日でちょうど二週間になった。
 アパートの中では、だんだん各家族間の関係が明確化しはじめていた。


 まず、ここの中心に立っているのは、間違いなくキイロ組だ。
 いずれもダントツの賢さを誇る上、ほぼ同等の能力を持つ親二匹が居るため、他の家族よりも圧倒的
に発言力があり、さらに行動力もずば抜けて高い。
 身体能力で劣るものの、仔実装と蛆実装の賢さと理解度も大したもので、彼女達は親達にまったく
手間をとらせる事はなく、ムダにはしゃいだり泣き喚いたりもせず、ワガママも一切言わない。
 それどころか、時には親にアドバイスを与える事もあるほどで、知能的にはすでに成体並なのでは
ないかとすら思わされる。
 何より、あの蛆実装が「お腹プニ(ry」「お腹すい(ry」「ウンチ出(ry」以外の言葉を流暢に話すという時点
で、驚異以外の何物でもない。
 なんか別な生き物の脳みそでも移植されてるんじゃないだろうか?

 また、キイロ組はとても実装石とは思えないほど他家族に対する心配りを徹底し、生活環境改善に
真剣に取り組んでいるという特徴もある。
 ゴキブリ撃退の腕前も認められているため、実際かなり頼られている。
 あれからネズミが出てこないのも、実はキイロ組がネズミに付け入られる隙をことごとく潰している
せいだ。
 実際はまったく出現していないわけではなく、何度かモニターでちょこちょこ確認されているのだが、
アオ組以降ネズミによる直接被害は皆無なので、実際に効果を上げているという事だろう。
 さらに、この猛暑の中蛆実装を死なせずに健康に育てているという点も、見逃せない。
 とにかく、あらゆる意味で完璧なのだ。


 身重のモモ親は、このキイロ組の保護を受けて生活している。
 昨日の夜、両目がなんとなく赤みを帯びてきたようなので、出産間近だという事もあるのだろう。
 「ママ」と呼ばれているキイロ親2が、毎日親身になって世話をしている。
 ただ、モモ親は出産までに少し時間がかかる個体のようで、その分色々と苦労があるようだ。
 モモ親はとても感謝しているようで、完全にキイロ組に心を許しているようだ。


 だが、これに反発しているのがアカ組だ。

 アカ親も充分賢くて知恵が回るが、根は決して善人ではない。
 そのせいか、キイロ組の行動を偽善的と解釈している様子で、最近はミドリ組と接点を持ち、何かと
キイロ組と距離を置こうとする傾向が見られる。
 先のように、キイロ組はなんか変だという意識をミドリ姉に与えようともしている。
 言うまでもなく、アカ仔も母親とほぼ同等の考えを持っているようで、今ではキイロ組の子供達とは
ほとんど話もしない。
 親同士の話し合いでも、キイロ組との意見の対立がやたらと目立つようになってきた。
 初めて来た時のガクブル演技はどこへやら。
 今となっては、そんな事をしていたのすら忘れたような態度で、アパート内をのし歩いている。
 ま、元々こういう態度がデカい奴だったんだろうね。
 しかし、決して暴力的な態度に出ないところは、さすがと言える。
 反発はしつつも、キイロ組が何かと役に立つという事を理解しているのだ。
 

 一方ミドリ組だが、こちらはかなり奇妙な立ち位置にあった。
 三匹全員が、それぞれ別々の考えを持っているのだ。

 まずミドリ姉。
 こちらは、モモ親との接点が多かったせいか、どちらかというとキイロ組派閥に属している。
 或いは、そうしたいという意識を見せている状態だ。
 いくら成体に近いと言っても、キイロ親達に比べればまだまだ子供。
 やはり、頼りになる優しい存在には傾き易い部分があるのかもしれない。
 しかし、逃走ばかりの公園生活を経験しているせいか、完全に気を許したわけではなく、まだ
ある程度の距離をとって付き合っている状態だ。
 これは、その身に染み付いてしまったものだから、当分は変われないだろうな。

 ところがミドリ仔は、なぜかアカ組派閥に属してしまった。
 アカ仔と仲が良くなったせいか、今ではほとんどアカ組の一員になっており、しょっちゅうアカ組の
部屋へ泊まりがけで遊びに行くようにもなっている。
 そしてアカ親自身、味方が増えたと考えているのか、ミドリ仔を快く迎えている。
 もし、さっきの場に居たら、恐らくアカ仔と同じような反応を示しただろう。
 また最近は、姉に対する反抗心も見せるようになってきた。
 ミドリ姉は、アオ親のような厳しい躾が行えない性質のようで、そのため子供達をほとんど制御
しきれない。
 ここが、ミドリ仔を調子付かせる要因になっているようだ。


 そしてミドリ親指。
 こっちはもっと奇妙だ。
 なんと、どちらの派閥にも属せず、独自路線を突っ走っている。
 現在、少しずつ落ち着きを見せ始めたアパート内において、まだ探索が及んでいない場所があると
いう事に不満を示し、派閥間対立よりもさらなる探求を主張するようになった。
 ミドリ姉は、どちらかというとこのミドリ親指の意思に賛同する方が楽なようだ。

 実はミドリ親指は、最近アパート内であらたな大発見をしている。
 踊り場へ上がる階段の真下に、空間がある事を発見したのだ。

 ここは、かつて清掃用具や消耗品を入れておいた物置で、トイレと階段の隙間(地図には表記されて
いないが)から入り込み、木戸を開けて使用する作りになっている。
 この木戸が僅かに開いており、ミドリ親指だけがこの中に入り込めたのだ。
 そして、無数の物品が中に収められている事を知った。

 ところが、この木戸は実装石達だけでは開けられない。
 隙間こそ親指が通れるほどだが、こじ開けるには狭すぎる上に、蝶番が錆びついていてかなり固く
なっている。
 かといって、親指が引っ張り出せるほど小さいものも入っていない。
 本来かかっている筈の錠前は、事前に取り外してはいる。
 とはいえ、実装石達がここを開けるためには、かなりの工夫が求められる。

 ご想像通り、この中にも色々なものがしまわれている。
 これを開くのが、次の実装石達のミッションとなるのだが……どうも、ここの重要性を説くミドリ親指
の主張は二の次に考えられているようで、実装石達の関心は、今や派閥関係とモモ親出産に集中
している状態だった。
 ミドリ親指はそれが不満のようで、時々ミドリ仔に愚痴っている姿が確認されている。
 しかし、ミドリ仔自身あまり探索に興味を示さないので、結局何の進展も起こせないわけだ。


 そんなところに、突如ムラサキ組が組み込まれた。
 アパート内は、ほど良くかき回された状況になったといえる。



 現在のアパートの部屋割りは、以下の通り。

■1階

 部屋番号は、左上→右下の順で、101〜103、105〜107(104はない)。

 (入り口)
   _
  ||
 紫||黄
 □||桃
 緑||赤
 ■||▲
  | → 二階へ
 ‾‾‾‾
 紫は仮在中。
 □は空き部屋、▲はトイレ、■は風呂場。
 廊下の奥、トイレの脇には、二階へ昇る階段がある。


■2階  
 部屋番号は、左上→右下の順で、201、202、203〜206(204はない)
 
____
▲||□
□||□
■||□
 | → 一階へ
‾‾‾‾
※□空き部屋 ■は洗面所 ▲は秘密

 三階や地下室はない。
 入り口には鍵がかけられていて、脱出は不可能。


 その後202号室の食料は、苦労の末すべて102号室に下ろされた。
 本当に、皆の食堂と化したようだ。





 □■■


 
 101号室では、キイロ親達による介抱が行われていた。
 簡単に敷かれた段ボールの上に横たえられた三匹。
 キイロ親2は、食堂から食料と水を持ってきた。

 お、ムラサキ親が目を開けたぞ!


紫「デ……? ここは…」

黄1「おお、目が覚めましたデスか!」

紫「デ……?」

黄2「良かったデス! 心配したデスよ」
黄仔「この子もおっきしたテチ!」
黄蛆「レフー♪ 親指チャンもおっきっきレフー♪」

紫組「「「? …?? …??!!」」」

黄1「安心するデス。ここは私達実装石だけが住んでいるアパー……」


紫組「「「デ、デギャアァッッッッッ?!?!?!」」」


 な、なんだなんだ?!!?
 ムラサキ組が、突然泣き喚き始めた!
 驚くキイロ親達を跳ね除けると、親指を抱えて壁際まで走り、必死になって出口を探す。
 
紫親「デジャアァッッッ!! た、助けてェッッッッ!! ご主人様ァァッッッ!」
紫仔「テェェェェン、テェェェェン!!! マ、ママー!! 殺されるテチィィッッッ!」
紫親指「レチャアッッッ!! こ、こっち来るなレチィィィィッ!!!」

 まるで実装石そのものに虐待されてきたような雰囲気で、泣き叫ぶ。
 みるみるうちに床を緑色の糞で汚し、血涙を流し、それでも必死で逃げようとする。
 キイロ組がまだ一歩も動いてないというのに、三匹は腰を抜かしてしまっている。

 にじあき、いったい何をしたんだこいつらに?

黄親1「待つデス! ワタシ達は、あなた方を傷つける気はないデス!」

紫組「「「デギャァァァァッッ!!! 来るな、近寄るな、向こうへ行けデスゥッッッ!!!」」」

 ダメだ、全然会話が成立していない。
 キイロ親2が心配そうに近付こうとするが、キイロ親1が止める。

黄1「ヘタしたら死ぬデス」
黄2「デッ?!」
黄1「あんなに怯えていたら、ワタシ達が近付いただけでショック死するかもしれないデス。長年の経験
 でワタシはそれがわかるデス」
黄2「パパがそういうなら、わかったデス」

 そう言って、キイロ親2は後ろに下がる。子供達も理解したようで、それ以上ムラサキ組に近寄ろう
とはしなかった。

 それはともかく……経験?
 何者なんだこいつ、本当に?


黄1「ムラサキのリボンさん、よく聞くデス」
紫親「デ、デェェッッッ!!」
黄1「ここに、皆さんのご飯とお水を置くデス。ワタシ達はここから出て行くデスから、後で安心して
 ご飯を食べるデス」

 そう言って、キイロ親1は実装フードを盛った皿(紙コップをカットしたもの)と水皿(同)を置いて、皆を
誘導して101号室を出て行った。
 去り際に「真正面の部屋に居るデスから、何かあったら声をかけるデス」と言い残す。
 ドアが閉まってから十数分、誰も入ってこない事を確認してから、ムラサキ組は餌場に移動した。

 餌の食い方は、乱雑そのもの。
 こぼれようが構わずに食べまくる。
 にじあきの言うように、とても躾済みの実装石とは思えないが…

 やがて、気付いた。
 奴等は、外敵が来る前に急いで必要分を食べてしまおうと必死なのだ。
 だから、躾られた通りに丁寧になど食べていられないわけだ。
 紙コップの底一杯程度では、恐らく三匹が満足するには程遠い量だろう。
 多分、キイロ親のことだから、足りなかったら声をかけてくるだろうと期待しているのかもしれない。

 しかしムラサキ組は、そんなキイロ組の期待?に反する行動に出た。

 101号室のドアをあっさりと開け、なんと、アパートの玄関へと向かったのだ。
 そして、薄いガラスと木の枠で造られた戸を必死で叩き、開けようとする。
 その度に、ガシャガシャと薄い曇りガラスの揺れる音がする。

紫親「ダレカァァッッ!!! 助けてデスゥゥッッッ!!!」
紫仔「このままじゃ殺されるテチィッッッ!!」
紫親指「せっかくニンゲンの所から逃げられたのに、食われたくないレチィッッッ!!!」

 なんだか知らないが、恐ろしいほど必死の表情だ。
 というか、実装石の表情が、ここまで恐怖に歪むのを、今まで見た記憶がない。
 ムラサキ組の必死の努力もむなしく、助けも来なければ戸も開かず、むしろ他の実装石達を呼び
集めるだけになってしまった。

赤「うっるさいデス〜、何騒いでるんデス〜?」
黄1「ムラサキさん達…」
緑仔「ガシャガシャ鳴らすなテチ! 迷惑テチ! こうしてやるテチ!」

 ミドリ仔が、突然ムラサキ親指に飛びかかった。

紫親指「レ、レチィッッッッッ!!!」
紫親・仔「「親指チャアァァン!」」
緑仔「静かにしやがれテチ!」

 パン! パン! パン!

 ミドリ仔が、容赦なくムラサキ親指にパンチをかます。
 ムラサキ親も仔も、それを泣きながら見つめているが、どちらも助けようとしない。
 それどころか、ミドリ仔を恐れてどんどん後ずさっている始末だ。

赤「デプププ。迷惑をかけた罰デス♪」
緑仔「こいつもぶんなぐるテチー♪」

 あっという間に動かなくなったムラサキ親指を放り出し、ミドリ仔は、今度はムラサキ仔に踊りかかる。
 完全に腰を抜かしたムラサキ仔は、あっという間に捕らえられた。

紫仔「テ…テテ…ゆ、許してクダサイテチー…」

緑仔「ワタチにパンチ百発打たせたら許してやるテチー♪」

紫親「デ…デデ…デジャアッッッ!!」

 ぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶり

 突然、ムラサキ組が揃って糞をひり出した。
 みるみるうちに汚れていく玄関。
 俺は、目の前が真っ暗になった。

緑仔「こいつ、お漏らししたテチ! ウンチついちゃったテチ! ワタチを汚して生意気テチ!」

紫仔「テ、テチャアッッッ!!!」

緑仔「頭に来たから殺すテチ!!」

 物騒な台詞を吐いて、ミドリ仔がムラサキ仔をさらに殴ろうとする。

緑仔「テチ? ———チ?!」

 しかし、その手は何者かに止められた。
 キイロ親1だ。

黄親1「なんて事をするデス! やめるデス、可哀想デス」
緑仔「放すテチ! 禿裸な奴等はみんなワタチ達のドレイテチ! いたぶっても殺してもいいテチ!」
黄親1「誰がそんな事、決めたデス?」
緑仔「チプププ、お前達そんな当たり前の事も知らないテチ? アカママさんが教えてくれるテチよ。
 姿形が違う奴等はみんなドレイテチ」
黄親1「そんな間違った考えは改めるデス! みんな同じ仲間デス!」
緑仔「何を言うテチ! こいつらだけじゃないテチよ、モモのオバチャンもそうテチ。あいつは違う色の
 服を着ているテチ。あいつもドレイになるテチ!」
黄親1「そんな事、誰が教えたデス?」
緑仔「アカママさんも言ってるテチ! ワタチもそう思うテチ! 何が間違ってるのか、キリキリ説明して
 みやがれテチィッ!」


 そこまで言った次の瞬間……突然、ミドリ仔の身体が宙に舞った。

 バキャッ!

 ミドリ仔は、玄関の端まで吹っ飛ばされ、壁に右半身を潰されて落下する。
 あっという間に大重傷である。
 キイロ親1が、思い切り吹っ飛ばしたのた。
 初めて見るような怒りの形相で、キイロ親1は、ミドリ仔とアカ親を順に睨みつける。

赤「ヒ……!!!」

 ぷりぶり、ぶりぶりぶり……

 あら、アカ親がパンコンした。
 これは演技ではない、マジでビビってる。

 キイロ親1は、ゆっくりとアカ親の前までやってくると、まるで炎のオーラでもまとったような雰囲気で、
ゆっくり話しかけた。
 ここからだと顔は見えないが、さぞ恐ろしい表情なのだろう。
 あのアカ親が、完全に反抗心を失ってしまっているのがわかる。

黄1「片付けろ、デス」

赤「デ、デデ?!」

黄1「そこに居るミドリの仔と、お前等が汚した糞を、全部片付けるデス」

赤「デ、デデ…どうしてワタシが…」

黄1「ワタシが静かに言ってるうちに、言う事を聞いた方が身のためデス」

赤「デ……デ?! デ、デヒャアッッッッッッ!!!!」

 と、突然、アカ親が泣き叫び始めた。
 なんだ、何があった?
 
黄1「ワタシが怒っている理由は、わかるデスね?」

赤「わ、わかりました! わかりましたデス!! 命令を聞かせていただきますデス! だから、だから
 お願いだから殺さないで欲しいデス!!」

黄1「……」

 アカ親を迫力だけで屈服させると、キイロ親はさっきまでの優しい態度に戻り、隅で震えている
ムラサキ組に話しかける。

黄1「もう心配ないデス。安心して、こっちに上がってくるデス」

紫親「デ…」

黄1「心配なら、あなた達専用の部屋を用意してあげるデス。それから、お風呂を使うといいデス。
 お湯は出なくて少し不便デスが、体を綺麗にできるデス」

紫親「……ス…」

 キイロ親1は、自ら下がってムラサキ組に道を開けてやる。
 そして、風呂のある場所を指差し、案内した。

黄1「アカさん」

赤「は、ハイ! デス?!」

黄1「ムラサキさんが歩いた後の汚れも、責任もって掃除してくださいデス」

赤「デェ……わ、わかりました……デスゥ…」


 なんだあ?
 何があったんだあ?
 こんな短時間で、あっさりアカ親を従わせてしまったぞ?

 あいつ、何者なんだ?
 つか、何をしたんだ?
 ミドリ仔を張り飛ばしたからだけじゃない、アカ親は、キイロ親1の何かに気付き、さらに怯え始めた。
 ただの実装石じゃないぞ、こいつ…何かある、絶対何かある!

 第一、前から不思議だったんだ。
 他の実装石に異常に優しかったり、面倒見が良かったり。
 飼い実装だったモモ親はともかく、こいつは野良の癖に風呂では本来お湯が使えるって事まで
知ってやがる。
 いやそれどころか、こいつはこのアパートを指して「施設」という言い回しをしていたし、さっきだって、
ここが「アパート」と呼ばれる建造物だと知っているような口ぶりだった。
 こんなもの、普通の野良実装は絶対持たない概念だ。
 まさかこいつも、元飼い実装なのか?
 しかも、相当の……

 いやいや、だとしても、あの凄まじい戦闘能力が不可思議だし、第一この独特の家族構成も訳が
わからん。
 まして今、アカ親が一発でビビり切ってしまった原因は…?

 俺は当初、実はこいつらはマラ実装なんじゃないかと思っていた。
 それなら、こいつがパパと呼ばれている理由も一応だが納得できるからだ。
 どちらにしろ、雄が雌と一緒に共同生活をするというケースは珍しい。
 しかしそうだとすると、こいつがいくら賢いといっても、マラ実装特有の絶大な性欲をここまで長期間
抑え続ける事は出来ない。
 絶対、どこかで尻尾を出してしまう筈だ。

 或いは、まさか本当は実蒼石だとか? いやまさか(笑)。
 …本当に初期実装だったら、どうしよう…?

 俺は、だんだんキイロ組に恐怖を覚え始めていた。
 そして同時に、このキイロ親1がヒエラルキー型コミュニティを作り出して頂点に立ってしまうのでは
ないかという懸念も抱き始めていた。


(続く)


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 ■ 現在の状況 □

 
●アカ組:親×1、仔×1

●キイロ組:親×2、仔×1、蛆×1

●ミドリ組:仔×2、親指×1

●モモ組:親×1(妊娠中)

●ムラサキ組(新規追加):親×1、仔×1、親指×1

 残っている実装石:13匹


 これまでの犠牲者:11匹

・モモ仔1、2、蛆 …エレベーター実験の犠牲になり死亡
・アカ仔2 …206号室で、ゴキブリに襲われて死亡
・アオ親指2 …206号室でアオ仔4に首を落とされて死亡(事故)
・アオ仔2、4 …206号室でネズミに襲われて死亡
・アオ親指1 …アオ親に壁に叩きつけられて死亡(事故)
・アオ仔1、3 …激昂したアオ親に踏み潰されて死亡(事故)
・アオ親 …子供全滅のショックで、偽石崩壊






 ● 覚え書き ○

・被虐待経験実装石親子、ムラサキ組新規参入
・モモ親、出産間近
・アパート内は猛暑状態
・キイロ派閥、アカ派閥成立?
・ミドリ仔、重傷を負う

-----------------------------------------------------------------------------

 まだしばらく続きます。
 長文ニガテな方、ごめんなさいデスゥ。
 現在、8まで書き終えてます。推敲済み次第うpして行きます。
 またしばらく、おつきあいくださいデスぅ。

 5までの各方面の感想は、いずれも厳粛に受け止めさせてもらいましたデス。

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