タイトル:【観察】 敷金・礼金無料 5(この後少しうpの間が開くと思うデスゥ)
ファイル:敷金・礼金無料 5.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:3153 レス数:0
初投稿日時:2006/10/19-20:40:08修正日時:2006/10/19-20:40:08
←戻る↓レスへ飛ぶ

敷金・礼金無料 5


 俺の名はやおあき。
 自らは手を下さない、観察型の虐待派だ。
 俺は友達のにじあきと協力して、五組の賢い実装石一家をさらって来た。

 今彼女達は、俺達が整えた(実装石にとっては)最高の住処…古い木造アパートの中に居る。
 雨風をしのげ、外敵から守られたこの素晴らしい環境の中で、彼女達はどのように生きていくの
だろうか?


●アカ組:親×1、仔×1

●アオ組:親×1、仔×4、親指×2

●キイロ組:成体×2、仔×1、蛆×1

●ミドリ組:仔×2、親指×1

●モモ組:親×1

 以上五家族、親5?匹、仔8匹、親指3匹、蛆1匹…合計17匹。

 アパートの構造と部屋割りは、以下の通り。

■1階

 部屋番号は、左上→右下の順で、101〜103、105〜107(104はない)。

 (入り口)
   _
  ||
 □||□
 □||桃
 緑||□
 ■||▲
  | → 二階へ
 ‾‾‾‾

 □は空き部屋、▲はトイレ、■は風呂場。
 廊下の奥、トイレの脇には、二階へ昇る階段がある。


■2階  
 部屋番号は、左上→右下の順で、201、202、203〜206(204はない)
 
____
▲||赤
青||黄
■||□
 | → 一階へ
‾‾‾‾
※□空き部屋 ■は洗面所 ▲は秘密

 三階や地下室はない。
 入り口には鍵がかけられていて、脱出は不可能。
 各所にカメラと盗聴器が無数に仕込まれている。


(前回のあらすじ)

 モモ親が提案したエレベーターは失敗し、それに搭乗したモモ組の子供達は全滅した。
 さらに、“堕落の間”ではゴキブリが出現し、欲に駆られたアカ組が被害に遭った。
 二日目にして、いきなり4匹もの犠牲を出した実装石アパート。

 だが、脅威はそれだけでは終わらない。
 実装石達の知らない所で、今度は二匹のネズミが暗躍を開始したのだ!




■ 第五話 「エンジェル・ブルー」 ■


 深夜2時頃。
 俺は、モモ親が部屋に戻って就寝した事を確認してから、こっそりアパートに侵入した。

 南京錠を外し、なるべく静かに木戸を開く。
 思ったより戸のきしみは大きくなかったので、安心する。
 アパート内では耳をつんざく大轟音を期待したが、思ったよりイビキはうるさくない。
 というか、感覚的には夕べの何分の一に音量が下がっているように思える。
 何も知らない者が聞いたら現状でもかなりやかましいとは思うが、最大値を知っているとそうでも
なかったりする。

 ああ、そうか…子供が全滅したから音源が減ったんだな。

 という事は、あのガキ共も相当なボリュームのイビキを掻いてたというわけか、あんな小さな身体で。
 俺は高輝度LEDライトでアパート内を照らしながら、静かに106号室へと向かう。
 ゆっくりと戸を開き、独りぼっちで眠っているモモ親に催眠スプレーを一拭きする。
 途端に、イビキが弱まった。
 ほぉ、眠りの深さが変わるとイビキのボリュームも変わるのか?
 俺は、家で準備してきた軟質プラ製のスポイトを取り出すと、速やかにモモ親のパンツを剥ぎ取って
総排泄口にスポイトの先端を差し込む。
 なんか、まるで実装石に夜這いかけてるような構図になってないか?
 一瞬、モモ親がピクンと身体を反応させる。なんかキモイ。
 俺はためらわず、スポイトの内容物を体内に吹き込んでやった。

 スポイトの中身は、きな粉だ。

 最初は玄関に母が活けていた花を使おうと思ったが、それよりも台所で余ってたコレを使った方が
建設的だろう。
 どーせこいつらは、何でも触媒にして妊娠しちまうんだし。
 俺はパンツを戻してやると、心の中で「せいぜい子供を作って気を取り直してくれ」と呟いた。


 さて、次にネズミだ。
 俺は102号室に入り込み、押入れの中を調べる。
 そこで、あらたな発見をした。

 そうか、これが原因だったか。

 押入れの中には、実装フードの破片と思われる粉末が、いくつか散らばっていた。
 アカ組が初日に隠していたものだ。
 奴等が拾い損ねたフードに導引されて、ネズミがやって来たのか。
 よく見たら、一番奥の壁の一部が齧られて破れている。
 ここから行き来していたのか。

 俺は、実装フードの破片を出来るだけ丁寧に拭き取り、穴に向かってネコイラズを撒いた。
 実装石達に発見されるとたまらないから、なるべく穴の奥の方に放り込む。
 後に、ネズミの糞と思われるものが点々と落ちているのにも気付き、これも丁寧に回収する。
 これで、ネズミが出現した痕跡は、あらかた消せたと思うが…
 俺は、持ってきた布をネズミの穴にぐいぐい押し込むと、半ば強引に塞いだ。

 なぜ、俺がネズミ出現の痕跡を消すのか?
 それは、102号室にネズミが出るという警戒心を与えたくなかったからだ。
 102号室は、実装石達にとってのミーティングルームとして機能している。
 そこに外敵が出現しやすいと認識されると、奴等は一箇所にまとめて集まるという事をしなくなり、
コミュニケーションが成立しにくくなる可能性もある。
 ただでさえ、206号室での惨状は知られてしまっているのだ。
 この上、さらに102号室まで危険視されてはたまらない。
 ここはなんとしても、102号室の健全な印象を維持しなくてはならない。

 本当なら、こんなきっかけを生んだアカ組には何かしらのペナルティを加えたいところだが、すでに
仔を失って結構なダメージを受けているから、今回は見逃そう。


 一通りの作業が完了し、ゆっくりとアパートを出る。
 念の為確認するが、どうやら他の実装石に発見された形跡はないようだ。
 裏口を閉め、錠前をしっかりとかける。
 自分の作業の完璧具合を入念に確認し、俺は、急いで自宅へ戻った。

 え、ネズミに食われた餌は追加してこなくていいのかって?
 さすがに、そこまで手を出すつもりはない。
 それにこのアパートの中には、もう充分な量の餌がストックされているのさ。

 それが全員に、均等に行き渡るかどうかはわからないけどね。



 □□□


 さて、翌朝。

 案の定、102号室の食料紛失は、一同の疑問を生んだ。
 そして当然、この部屋に近いモモ組とミドリ組が疑われたようだ。

赤「夜中にこっそり食べたデスね? この食いしん坊!」

 お前が言うなよ。

青「まったく困ったものデス。これが今のところ最後の食料だったデスのに」

 アオ親の一言が、その場に居た子供達の飢餓感に火を着ける。

「「そ、そんなのイヤレチー!! ご飯ないと死んじゃうレチー!!」」
「「「「余計に食べた分を返せテチー! 自分ばっかりいい思いしてずるいテチー!」」」」

 アオ仔達が、必死になってモモ組とミドリ組を責める。
 しかし、キイロ仔達はそんな事をまったくせず、ただ静かにキイロ親の影から様子を眺めているだけだ。

桃「ワタシではないデス! 濡れ衣デス」
緑「ワタシ達だって食べてないデチ! だって、一度寝たらよほどの事がないと起きないデチ!」

 ミドリ姉の発言は説得力があった。なんせ、あの騒音の中唯一一階で生活できるほどなのだから。
 加えて、夕べもモモ親のイビキが響いていた事を、皆が覚えていた。
 本当は多少タイムラグがあった筈で、全然アリバイになってないのだが、それでも実装石達は納得
したようで、しばしの議論の末、二組への疑いを晴らしたようだ。
 というか、妙なところで引きがいいな、こいつらは。


黄1「待つデス。モモさんとミドリちゃん達じゃないとしたら、ここに餌を求めている別な奴等が居るという
 事デス」
赤「デスッ?! ま、まさか…」
青「昨日出たという、ゴキブリデスか?」
黄2「ゴキブリより悪い相手かもしれないデス。ゴキブリだと、いっぺんにあれだけの量のご飯を食べ
 切る事は無理デス」
緑「デデ?! だったら、うかつにご飯を出しっ放しにしていたら…」
黄1「今後も、その“何か”によって奪い取られる危険が高くなるデス」

 キイロ親1の発言に、皆が沈黙する。

赤「あ、ワタシ、ちょっと用事を思い出したデス。失礼するデス!」
青「あ、ワワワ、ワタシもデス〜! ほら、みんなおうちに帰るデス!」
青仔「「「「「「テ、テチ〜?! もうお帰りテチ?!」」」」」」

 ものすごく不自然に、しかし速やかに二家族が食堂から撤退する。
 その場に残された者達は、泣き喚く子供達をなだめながら、とりあえず朝のトイレを済ませる事にした
ようだ。
 うーん、楽しみにしていた朝飯がなくなってしまったんだから、子供達の無念さはさぞや大きいだろう
なあ。

 だが、アカ組は違うようだ。
 奴等の住処には、まだ食料が残ってる。
 しばらく間を置いてから203号室に視点を移動すると、アカ親は、小さな段ボールの中に懸命に食料
を移していた。

親「隠すデス隠すデス! 出しっ放しにしていると、何かが来るデス!」

 独り言を叫びながら作業している。
 パッと見、まだこいつらの食料は一食半分くらいはありそうだ。
 しかし子供も減っているし、今は昨日ケガした仔がキイロ宅に居るから、さらに長持ちしそうだ。
 だからこそ、必死で謎の脅威から隠そうとしているのだろう。

 ま、こいつの行動は予想通りだったからいいとして。
 問題は、アオ組の方だ。


 202号室に視点を移す。

親「この袋は口をきっちり閉じるデス! 匂いを漏らしたら終わりデス!」
仔「「「「テチーテチー!! 今日のご飯はどうするテチー?」」」」
親指「「まだ食べてないレチー、お腹ぺこぺこレチー」」
親「今回はこの実装フード一粒ずつデス! 夜にまた少しずつ取り出すデス! 昨日までの食べ方は、
 もう出来ないデス!」
仔・親指「「「「「「テ、テェェェェェ!!」」」」」」

 反発する子供達に、どこから取り出したのか固形実装フードを与えると、親は自分の分三粒を口の中
に放り込む。

仔「ママばっかり三つずるいテチー!」
仔「ワタチ達にももっと頂戴テチー!」
親指「育ち盛りだからご飯一杯欲しいレチー!!」

親「ワガママ言うんじゃないデス! ワタシはみんなをいちいち下まで降ろしたりして体力使うから、
 みんなより沢山食べないといけないデス!」

仔・親指「「「「「「テ、テチィィィッッ!!!」」」」」」

親「みんなが一人で下に降りられるようになったら、もっとご飯あげるデス。大きくなるまで我慢する
 デス」
仔・親指「「「「「「テェェェ…」」」」」」

 益々抗議の声が強まるが、あげくには、全員アオ親の張り手で吹き飛ばされてしまった。

仔・親指「「「「「「テ、テチィィィッッ!!! テピャアアアァァン!!! ママがぶったテチィィィッッ!!!」」」」」」
親「ママの言う事を聞かないと、何度でもぶつデス!」
仔・親指「「「「「「テピャアアアァァン!!」」」」」」
 
 おお、なかなか教育熱心だな、結構結構。


 さて、なんでアオ組が実装フードなんか持っているのだろうか?
 アカ組のように、食料を独自確保する隙なんかなかった筈なのに?
 実は、これには実に単純なからくりがある。

 二階の各部屋にはそれぞれ仕掛けが施されていると前に言ったが、アオ組の入った部屋には、
大量の実装フードと飲料水がストックされていたのだ。
 その量、なんと合計二か月分!
 それは、このアパート内の実装石全員分でという意味だ。
 もちろん、内容はペットボトル入りの水と、長期保存の利く実装フードのみで、それ以外特殊なものは
何もない。
 これだけで、押入の下半分がほぼぎっちり埋まっている。

 本来ここは、102号室の食料を食いつくした後、実装石が自力で発見できるようにと用意していたもの
だ。
 押入の奥に収納されているものほど品質が低下していく(代わりに保管期間が長くなる)ように工夫
されていて、最初は必ず最高級の実装フードが手に入るようになっている。
 だから実装石達は、最初は素晴らしい味に酔いしれるものの、だんだんまずい物を食わされていく
ハメになる。
 そのギャップによる苦悩も、この実験の大事な観察ポイントだ。

 だが、モモ組の思わぬ騒音問題のせいで、たまたまアオ組がここに入り込んでしまった。
 即座に発見された食料の一部は、たちまちアオ組によって食い散らかされた。
 まだ一箱だけしか開けていないとはいえ、これはストックされたものの中でも最高級の品質のもの。
 アオ組は、すでにそれを半分ほど開けてしまっているため、抑制が効きにくくなっているのだろう。
 102号室では建前上皆と同じフードを食べたが、その時はあまり食べず、後であらためて腹と舌を満たして
いたわけだ。
 それが奪い取られる危険が出てきたものだから、慌てないはずがない。
 アオ親は、美味しくて素晴らしい実装フードを、出来るだけ長く食べ続けられるように考えを切り替えた。
 しかし、今この瞬間に満足したいとしか考えられない子供達は、そんな親の気持ちは理解できまい。
 ただ、親の圧倒的な力と威厳に、渋々従っているだけだ。
 その証拠に、アオ親に叱られた後も、何匹かの仔実装はつまらなそうに足元のビニールマットを
蹴飛ばしている。

 アオ親が片付けている最中、仔実装達が密談を始めた。

「大きくなれば…テチ」
「それは……理テチ」
「…飯食べないと……だから……」
「どうすれば……テチ?」
「ママが言ったレチ。下に……」
「……すればいいレチ!」
「そういえ……あそこ……」
「……テチテチ!!」

 よく聞き取れないが、何か話がまとまったようだ。
 なんだかよからぬ事を企んでいる雰囲気プンプン。

 親が押入から顔を出そうとした時、仔実装達は、協力して戸を押し開けていた。

「ママに気付かれないうちに行くテチ!」

 アオ仔1の号令で、六匹全員が廊下に飛び出す。
「テチテチテチーッ!!」
 一斉に駆け出し、階段のある方へ向かっていく。
 だが、さすがにアオ親はそれにすぐ気付いた。
 つか、わざわざ声出して逃げ出したら、誰だって気付くって。

親「こらお前達! どこへ行くデスーッ!!」

 廊下では、アオ組によるおいかけっこが開始された。
 キャアキャア言いながら廊下を走る仔実装達と、それを次々に捕まえて抱き抱えるアオ親。
 だが、さすがに六匹全員は一度に捕まえられないので、一旦202号室に放り込み、残りを探しに行く。
 その隙に、202号室から仔実装がまた脱出する。

親「こらあっ! 勝手に出てくるなデスッ!」

 二度目の脱出は、アオ親の怒りの折檻“足折り”で、決着した。
 二匹の仔実装と一匹の親指の両脚が、ブルーストンピング(レバー下溜め上+K)で粉砕される。

仔・親指「「「テ、テチャアァァァッッッ!!!」」」

親「今度言う事を聞かなかったら、両腕も壊すデスっ!」

仔・親指「「「テテ、テチィィィ〜〜!!」」」

 随分ハードな躾だなと思ったが、アオ親はついこっちに夢中になってしまい、残り三匹を完全に
見失っていた。
 実は残りの仔実装達は、例の206号室へと逃げ込んでいた。
 親が来る前に、なんとか押入の中に逃げ込む事に成功したのだ。
 アオ親は、まだそれに気付いていない。
 それにしても、こいつら仔実装なのに足が速いなあ。

仔2「ふー、なんとかなったテチ」
仔4「でも、ここもママが覗いたら終わりテチ」
親指2「さっき、あんなに一杯お菓子が転がってたレチ」
仔2「アッ! 見るテチ!」

 襖の隙間から差し込む微かな光で、アオ仔2が押入の奥に何かを見つけた。
 だが、角度のせいか明暗のコントラストのせいか、こちらのモニターからだと、奴等が見つけた
「何か」がまったく判別できない。
 おかしいな、ここには何も仕掛けはしてないんだが。
 それでも奴らは、奥の壁際に何か見つけたようだ。

仔4「これはいいテチ! 大きさも丁度いいテチ!」
親指2「しばらくここに隠れるレチ」
仔2「ママがおうちに戻ったら、ここから出て皆でお菓子食べるテチ! そしておっきくなって下に降りて、
 ママからもっとご飯もらうテチ!」

 なーるほど、仔実装の割には知恵を絞ったな。
 しかし、押入の奥に隠れるようなものなど、何も設置してない筈なんだが、こいつら何を見つけたんだ?

 と、思っていたら……

 テチテチ、テチテチ
 レチレチ

 あれっ?

 突然、三匹の姿がモニター上から消えた!
 押入の中は、完全に空っぽになった。
 しばらくして、アオ親が部屋に入り込み、押入の中に頭を突っ込んできた。

親「アレ? おかしいデス〜。てっきりここだと思ったのに、いないデス」

 え?
 アオ親の位置からでも見えないのか?
 あいつら、どこへ行きやがった?!

 206号室のカメラは、完全に仔実装達の姿を見失ってしまった。
 なんてこった、いったい何が起こったんだ?

 アオ親は、諦めて206号室を出て行った。菓子袋を二つほどつかんで。
 さすがアオ親、ただでは帰らない素晴らしい根性。

 その後、アオ親はアカ親の所にも行って尋ねていたようだが、無論子供は発見出来なかった。
 キイロの部屋も勝手に覗き込んだが、ケガをしたアカ仔が寝かされているだけで、何も発見できない。
 諦めたアオ親は「お腹が空けばきっと戻ってくるデス〜」と呟いて、とぼとぼと自室に戻って行った。

 だがその日、ついにアオ仔達は帰ってこなかった。




 さて、いきなりだが、ここで時間をすっ飛ばす。
 一気に三日後まで進んでみよう。
 
 アオの子供達はいまだ202号室に戻っていなかった。
 子供達が姿を消してから数時間後、さすがに心配になったアオ親は他家族に協力を求め、一斉探索を
行ったのだが、その行方はようとして知れなかった。
 ただ、この一斉探索のために、アオ親は自室の食料ストックの存在を皆に教えなければならなくなった。
 初めは皆激怒してアオ親を責めたが、突然大量の食料確保を約束されたためか、怒りはそんなに
長続きしなかったようだ。
 実装石の可能な範囲で、アパート内は徹底的に調べられた。
 それで、三日間。
 その間、色々な発見があったが、子供達だけはなぜか見つからない。
 焦るアオ親と、それを慰めるキイロ親達とミドリ姉。
 アカ親は、自分も食料を隠し持っていたという後ろめたさがあるためか、あまりアオ親を責めなかった。

 なおこの探索には、モモ親は加えられていなかった。
 キイロ親1が、彼女の両目が緑色になっている事を確認し、参加を拒否したのだ。
 つーか、ホントにきな粉で受粉したのかよ、いい加減な身体の作りだよなホント。


 さて、では当のアオ仔達はどうしたかというと…
 どこかでひっそり死んでいるという事はなく、ちゃっかりしっかり生き続けていた。

仔2「チプププ、今頃ママ達は慌ててるテチ」
仔4「その間に、ワタチ達はお菓子を食べて元気一杯テチ」
親指2「ゴキブリさんの死骸も脂が乗ってておいしいレチ〜♪」

 子供達は、突然押入の中に姿を現すと外の様子を窺って菓子袋を奪い取り、押入の中で食べ尽くすと
空袋をどこかに収納し、また新しい菓子袋を取りに行く、という生活を続けていた。
 呆れたもので、すでにこいつらは6袋ものスナック菓子と2袋の金平糖、1本のペットボトルのジュース
を腹に収めていた。
 それだけでは足りず、前にキイロ親が退治したゴキブリの死骸にまで手を出していた。
 ペットボトルは、力のない実装石でも開けられるようにと、最初のきつい所まで蓋が開けられている。
 そのため、仔実装でも協力すれば開けて中を飲めるのだ。
 しかし、奴等は口をつけてすする事は出来ないので、当然床にぶちまけてからそれをぴちゃぴちゃ
舐める事になる。
 206号室に張られたビニールシートの隅、ややくぼんだところはジュース(サイダー)の泉になっていた。

 もちろん、この変化は他の実装石達にもとっくに気付かれていた。
 しかし、それらは以前キイロ親1が主張した「何か」が行った結果なのではないかと勘違いされ、必要
以上に警戒されていたのだ。
 その絡みで、206号室“堕落の間”は、アンバランスなまでに探索が適当に済まされていた。
 せいぜい、廊下から中を覗き込む程度で、押入の中まで確認したりはしなくなった。
 ゴキブリのアカ組襲撃とネズミの暗躍は、どうやら俺が思っている以上に彼女達の心理に影響を与えて
いるようだ。
 まあ、それだけ警戒心が強かったからこそ、生き延び続けてこられたんだろうけどな。

 とにかくこれで、アオ仔達の独立は見事に果たされた……ように思えた。


 昨日、この報告を受けたにじあきが、こんな事を呟いていた。

『実装石って、なぜかやたらと不幸を呼び込む性質がある気がしないか?』

 これには、俺も同感だった。
 普通なら絶対安全そうな環境でも、なぜか死に直面する危険に晒されまくったり。
 うまく行きそうな事が、土壇場でおじゃんになったり。

 そんな話は、本当によく耳にする。

 虐待派に捕まるのも、一斉駆除で殺されるのも、毒物をうっかり食べてしまうのも。
 実装石主観で考えれば、いわば何の前触れも原因も関連もなく、唐突に訪れる不幸だ。
 中には自業自得な奴等も居るには居るが、人との接触を断って平和に暮らしていた野良一家が、
ある時たまたま人間に発見されて、段ボールハウスごと叩き潰されたりもする。
 そんな心温まるエピソードを聞くと、あまりにも不条理に不幸がふりかかりすぎな気もしてくる。

 ひょっとしたら実装石の運気は、酷い目に遭っている最中がもっとも安定(最低の状態でだが)して
おり、そうでない時はものすごいムラのある変化をしているのかもしれない。
 しかも、状況に満足すればするほど、運気変化による「超自然的上げ落とし」が炸裂する気もする。

 だとしたら、それはもう特性としか言い様がないのだろうなあ。

 さて、閑話休題。
 俺は、「もしその唐突運気低迷化が、この仔実装達に訪れるとしたら…」と考えた。
 もし俺達の想像が確かなら、そろそろ来る筈だ。
 いい思いをした分、素晴らしすぎるほどの不幸が。



 さらに二日が経過した。

 実験開始から一週間目。
 仔実装達は、どうやら他の連中よりも早く身体変化を起こし始めていたようだ。

 …横に太くなって。


仔2「入り口が狭いデフ、外に出られないデフ!」
仔4「デフデフ、おい親指ちゃん、お前が代わりにご飯盛ってくるデフ」
親指2「レプ? オネエチャン達デブり過ぎレプ」

 奴等は、押入の謎の空間に隠れながら、さらにお菓子を食い漁りまくった。
 すでに菓子袋は用意した量の半分まで減り、ペットボトルも三本が空になっている。
 かなりアバウトな概算だが、これは健康体の成人男性が一日に摂取する平均カロリーの七倍前後
に相当する。
 もちろんこれは五日間の合計の話だが、これを、せいぜい20センチ以下の体格しかない三匹の仔実装が
消費するのだ。
 言うまでもなく、これは人間でも余裕ぶっちぎりで肥える量。
 太らない方が不自然だ。
 なんとなくだが、初めてここに侵入した時より三周りくらい太ってるような気がする。

仔2「喉が渇いたけど、飲みに行けないデフ」
仔4「おい、ペットボトルを入り口の手前で溢すデフ」
親指2「ワタチだけでは開けられないレプ〜」

 こいつらの行っている「入り口」とは、襖の隙間だ。
 どうやらこいつらは、とっくに“謎の隠れ家”を利用できなくなってしまったらしく、今では押入の中に
閉じ込められている状態だ。
 横に太くなっても、身長はほとんど変わっていないものだから、襖は開けない。
 襖を開けるためには、最低でも成体実装くらいの大きさと力が必要だ。
 さすがのアオ仔達も、そろそろ焦りを覚え始めているようだ。

 俺が仕掛けた罠“堕落の間”の本当の恐ろしさは、これだ。
 こいつらは今、それを嫌と言うほど実感しているわけだ。

仔2「ど、どうするデフ? このままだと、ワタシ達はママの所へ戻れなくなってしまうデフ」

 いや、もう戻れないから♪

仔4「それは困るデフ! お菓子ばっかじゃなくて普通のご飯も食べないとデフ。そろそろ飽きてきた
 デフ」

 今更なんだよ♪

親指2「も、もう、ワタチ一人だけだと運べないレプ〜…ゼエゼエ」

 こういう時に限って、誰もこの部屋覗いてくれないんだもんね。



 ちょっとここで、アオ組の本拠地・202号室を覗いてみよう。


青「もう、あの仔達は帰って来ない気がするデス」
青仔「「「テ、テェェェェッッ!!!」」」
黄1「アオママさん、そんな事言ってちゃダメデス」
赤「でも、これだけ探して出てこないとなると、一体どうなったデス?」
黄2「まさか、またゴキブリが出て…?」
緑「ひょっとしたら、あの“何か”かもしれないデチ!」

 すっかり、アオ仔達は死んだものとして扱われ始めている。
 う〜ん、賢い実装石達も、度胸までは比例しなかったのか。
 それとも、これ以上探索に力と時間を費やす事を無意味と感じ始めているか。
 俺はこの瞬間、アオデブ仔達のさらなる不幸到来を、確信した。 



 再び、206号室。

仔2「なんか首がクルシイデフ〜」
仔4「これだとおいしくお菓子食べられないデフ〜」
親指2「レプ〜」

 なんだか、三匹が押入の中でぐったりしている。
 しきりに首をかきむしっているようだが、なんだろう? …と思って、すぐ気付いた。
 そうだ、あいつらは識別用に俺が結んだリボンで、首を絞められてるんだ。
 つまり、それだけ首周りが肥え始めたという事か。

仔2「外して欲しいデフ〜。いつのまにこんなの付いたンデフ〜?」
仔4「美しいワタシ達にはお似合いデフけど、クルシイとやっぱりイヤデフ〜」
親指2「引っ張って外してみるレプ〜」

 そう言って、アオ親指2がアオ仔2の青リボンを引っ張った。
 だが、なかなか外れない。それどころか、益々苦しがっている。

仔2「ゲブブブ、グ。グルジイデブ〜!」
親指2「ダメレプ、ビクともしないレプ」
仔4「困ったデフ。そうだ、噛み千切れないデフか?」
親指2「やってみるレプ。うまくいったらオネエチャン達もワタチの外してレプ」
仔4「わかったデフ」

 アオ親指2は、ヨチヨチとアオ仔4の体をよじ登り、首元に歯を立てる。

 カリカリカリ、カリカリカリ…

 しかし、リボンはビクともしない。
 ナイロン製の結構丈夫な奴だからなあ、親指程度では噛み切れないだろう。

仔4「全然ダメデフ! じれったい、ワタシがやるデフ!」
親指2「これなかなか丈夫レプ。歯が強くないと厳しいレプ」
仔2「一気にガブっとやって引っ張って千切るデフ」
仔4「お姉ちゃん頭いいデフ。じゃあ、やるデフー」

 がぶっ……ぶちっ

親指「レ……?」

 ボトッ

仔4「デフ?」
仔2「あれ? 親指ちゃん?」

 …おーい。
 動かないどころじゃないぞーっ。

 アオ親指2、噛み切る前にリボンを強く引っ張られたもんだから、そのまま首が切断されちまったじゃないの!
 アオ仔4の手の中では、ピクピク痙攣する親指の胴体だけが残されていた。
 あーあ、唯一の外界との接触要員を自らの手で殺しちまったよ、こいつら。

仔2「ま、ままま、まさか、し、死んじゃったデフ?」
仔4「そんな事ないデフ! く、首をくっつければいいデフ! すぐ治って元気になる筈デフ!」

 あー、無理無理。
 チリぃ親指だから、今ので偽石イッてるって。

 それでも、無駄なあがきをするアオ仔達。
 十数分格闘したが、とうとう諦めて、親指の死体を奥の方に放り出して、二匹は泣き出した。

仔2「ママー! ここから出してデフー!!」
仔4「閉じ込められたデフー! このままじゃ死んじゃうデフー!」

 今度は、大声で泣き出した。
 なんて身勝手な奴等だろう、自分の欲望に忠実に従ってそんな風になったのに、今更逃げた母親に
救援信号かよ。
 もちろん、押入の中で泣き喚く仔実装の声など、締まった戸の遥か向こうに居るアオ親に聞こえる筈
がない。
 アオ仔達は、絶体絶命状態に追い込まれていた。

 ——チュウ

 ——チュウ? チュウチュウ


 その時、マイクが微かな異音を捕らえた。
 仔実装達の泣き声に混じって聞こえてくる、この音…いや、鳴き声は…?

 ——チュウチュウ

 ——チュウ!


仔2「デェェェェン、デェェン……デ、デシャッ?!」
仔4「お、お姉ちゃんどうしたデ……デデェェッッ?!?!」


 ——チュウ!
 ——チュウ!

仔「「デ、デギャアァァッッッッ!!!!」」


 出た、ネズミだ!
 どこから湧いたのか、突然押入内に姿を現した二匹のネズミは、迷わずにアオ仔達に襲い掛かった。
 
仔2「ギャアァッッッ!! か、齧るなデフぅっ! た、助けてデフゥゥッッッ!!!」

 バリボリバリボリ

仔4「デフィヤァァァァ!!! お、おテテがあっ! あんよがないデフゥッ!! イタイイタイイタイデフゥッッ!! 助けゲブッ!」

 グバボッ。
 グボリボリボリボリボリ

仔2「ヒ、ヒイャアァッッッッ!!! だ、誰か来てデフ、大変デゲボバッ!」

 ボキッ。
 ボリッ、ボリッ、ボリッ……


 あーあ。
 アオ仔達は、首を齧り千切られて、もはや泣きたくても泣けない状態にされてしまった。
 よりによって、さっき妹を死なせたのとおなじ死因で昇天かよ。
 やっぱりこいつら、おかしな因果関係に関わりやすいよなあ。

 瞬く間に食い荒らされるアオ仔と親指達の死体。
 ものの十分もしないうちに、何事もなかったかのように押入の中は静まり返った。


 一大イベントが終わり、そろそろ親達の部屋に切り替えようと思ったその時、突然、キイロ親達と
アオ親が206号室に飛び込んできた。

黄2「そこデス! 何かいるデス! 声が聞こえたデス!!」
青「部屋の中がめちゃめちゃデス! なんてことデス!」
黄1「アオママさんのお子さん達がここに居たデス?」

 親達は、恐る恐る押入に近付き、襖を開けた。
 片側を全開にして、中の様子に驚愕している。
 三匹は、乱雑に食い千切られた仔実装の死体と、ずだずだになって散らばる服と髪の毛、そして
青色のリボンを三つ見つけて、硬直していた。

黄1「やっぱりここに居たデス」
黄2「何かに食われたデス?」

青「オ、オロロ〜ン、オロロ〜ン! こ、子供達がぁぁっっっ! デェェェェェェェン!!」

 アオ親が、押入の中で死体の残骸を手に泣き喚く。
 そこで俺は、ふと、隣の205号室に切り替えてみた。
 キイロ組の住む205号室からは、微かに、アオ親の泣き声が聞こえてきた。
 なるほど、これであいつらは異常に気付いたのか。壁薄いもんなあ。
 しかし、それなのによく今まで、あのアオ仔達の声が漏れなかったものだ。
 声が漏れないように、あいつらなりに工夫していたのかな?


青「オ、オロロ〜ン、オロロ〜ン!」

黄2「パパ、ここに穴が開いてるデス」
黄1「ホントデス。…しかも、くっさいデス!」
黄2「ウンチの匂いするデス。あの仔達、ここでウンチしてたデス」

 穴?
 あ、そうか! ネズミの奴等、102号室の出入り口を塞がれて、今度はここに穴開けて出てきたのか。
 その穴に気付いたアオ仔達が、自分達の隠れ家兼トイレとして使っていたわけか。
 それが一番奥だったから、このカメラでも見えなかったし、影になってアオ親も見つけられなかったと。
 という事は、最初の日にアオ親が襖を全開にしていれば、こんな悲劇は起こらなかったと……
 なんつー不幸な連中だオイ!



 結局その後、この部屋は親達の会議によって「封印」される事になったようだ。
 すでに、このアパート内で七匹もの犠牲者が出ており、そのうち半分はこの“堕落の間”で命を落として
いる。
 さすがにこうなると、賢い親達は“堕落の間”のお菓子の危険性を把握したようだ。
 後から話を聞いたアカ組が、今度は本気でガクブルしている。
 その後、親達により勝手にこの部屋に入り込んだ者は、きついお仕置きを食らうというお達しが
出された。
 不満げな声を上げる子供達だったが、アオ仔達が一気に半分も数が減ってしまった現実を見たら、
急に文句を言わなくなってしまった。
 どうやらこのアパート内では、そこそこ賢いけどうかつな仔、実はバカな仔はどんどん自然淘汰されて
いくようだ。
 俺が見た限り、まだまだ充分に賢いとは言えない仔達が居るが、それはまあいい。
 問題を起こしそうな奴等は、勝手に自滅してくれるだろうし。
 俺は、アパートの実験がだんだん軌道に乗り始めた事を実感し、喜びに打ち震えた。


 さて。
 “堕落の間”封印の前に、ある物が部屋から持ち出された。
 それは、長さ1メートル強の太い木の棒である。
 さっき押入を全開にした時、キイロ親達が見つけたのだ。
 二匹は、それだけを廊下へ引っ張り出してきた。


緑「そんな物どうするデチ?」
黄1「なんとなく便利そうだから、取り出しておくデス」
黄2「まだこの家の中は調べ尽くしてないデス。役に立ちそうなものは、見つけたらまず確保しておく
 べきデス」
緑「なるほどデチ」


 その後、実装石達はネズミとゴキブリに対する警戒心を強めた。
 キイロ親達は、各家族に竹串を何本か分け与え、武器としての使い方をレクチャーしている。
 ただ無闇に刺そうとしても外してしまうため、正確に使うための姿勢まで丁寧に教えている。
 なんだか、必要以上に逞しく思えてきたな、キイロ親達。

 その後、親達の掃除が行き届いたためか、その後しばらくはゴキブリもネズミも姿を見せなかった。
 多少の犠牲はあったものの、アパートは少しだけ平和を取り戻した。




 だが、それからさらに三日も過ぎた頃。
 アパート内では、さらに別な問題が浮上し始めていた。

 季節は、そろそろ夏の気配が本格的に近付いている。
 俺も、昨日今年初めての蝉の鳴き声を聞いた。


青「あ、暑いデス〜。なんでここだけ、こんなに暑いデス〜?!」

青仔1「ゆ、ゆだるテチ〜…」

青仔3「マ、ママー、親指チャンがさっきから動かないテチー」

青「デデッ?!」


親指1「……レ……レチ……」


青「お、親指ちゃん! しっかりするデス!!」


 ここは、アパートの中である。
 外部要因の侵入や内部からの脱出を防ぐため、出来る限り隙間を埋めている。
 少なくとも、実装石達にとってはほぼ完全密室に近い状態だ。
 当然、風通しは最悪。
 おまけに、各部屋の窓から直射日光が容赦なく差し込んでくるため、部屋の中は大変蒸し暑くなる。
 しかも、アオ組の居る202号室はこのアパートの中でももっとも西日の入る部屋で、以前から
住み辛い場所だと指摘され続けていた。
 当然、クーラーも扇風機もないのだ。

 各部屋から、徹底的に生活用品を取り除いた理由の一つが、ここにある。
 実装石達は、望む臨まないに関わらず、アパート内で「涼」を取るための努力を強いられる事になる。
 今では、各家族とも部屋の中に大型段ボールハウスを作り、それで直射日光を避けているようだが、
アパート内で多分一番高温になるだろう202号室では、ほとんど焼け石に水だ。
 そう、アオ組の親指は、真っ先に熱にやられたのだ。

青「お風呂デス! お風呂デス! 下に行くデス!」
仔「「ママー、ワタチ達も行きたいテチ!」」
青「今は親指ちゃんが優先デス! お前達は我慢して待ってるデス!」
仔「「テ、テチー…」」

 部屋を飛び出したアオ親は、両手で親指を抱えて階段へ向かう。
 そして、いつものように親指を髪に捕まらせようとして、はたと手が止まる。
 瀕死状態の親指は、自分の力で髪に捕まることが出来なくなっている。
 このままでは、縄ばしごをつたっている間に落としてしまうだろう。

青「ど、どうしようデス〜? そ、そうだ、アカさんに手伝ってもらうデス!」

 アオ親は、アカ組の部屋に行き戸をノックして呼び出した。
 だが、誰も出てこない。
 不思議に思って戸を開けてみると、中には誰も居ない。
 カラッポの段ボールハウスがあるだけだ。

 そう、アカ組も、暑さにやられてとっくに下に降りていたのだ。
 同様に、キイロ組も居なくなっている。
 途方に暮れたアオ親は、虫の息になり始めている親指を見つめ、オロロンオロロンと泣き出した。


?「これを背負うデス」

 何者かが、後ろから声を掛けてきた。
 顔を上げると、そこには、しばらく顔を見ていなかったモモ親が立っていた。
 その目は両方ともすでに赤くなっており、出産間近だという事がわかる。
 そう、あのきな粉の受粉が、見事に成功したのだ。

青「これは何デス?」
桃「エレベーターは失敗したので、もっと考えて改良したデス。これは、小さな箱に紐を通して背負える
 ようにしたものデス。これなら、子供を落とさないで下まで運べるデス。さっき、キイロさん達に
 手伝ってもらって完成したデス」

 いわゆる、リュックサックやランドセルのようなものだ。
 箱の大きさは15センチ立方ほどで、かなりしっかりした箱が選ばれている。
 肩紐はタコ糸を何重にも編んだガッシリしたもので、これならまず外れる事はなさそうだ。
 モモ親は、身重の体でわざわざこれを運んで来たのだ。

 だが…

青「いらないデス!」

桃「デ?」

青「お前が作ったものはろくな事がないデス! 子供を三人も殺したデス! こんなの使ったら、
 今度はどんな殺し方してしまうかわかったもんじゃないデス!」

桃「そんな事はないデス! すでに皆さんも、これで…」
青「余計な心配は無用デス!」

 デスデス! と声を上げながら、アオ親はモモ親の親切を無駄にして階段へ歩いて行ってしまった。
 実は、アカ組もキイロ組も、さっきこれを使って無事に下へ降りたのだが、それを説明する前に
突っぱねてしまった。
 この時、モモ親の親切を受け入れていたら、或いは……

 もし、アオ親がどこにでも居るような、あまり賢くない実装石だったら、モモ仔打ち上げ事件など
とっくに忘れていて、この親切をありがたく受け取っただろう。
 しかし、なまじ記憶力があるために、嫌な部分だけを思い返してしまったのだ。
 それが、アオ組のさらなる不幸を招いた。


 アオ親は、むくれたまま縄ばしごに足をかけた。
 右手には親指を抱えている。
 いつもよりゆっくり時間をかけて、左手だけで上半身のバランスを取って降りていく。
 なんとか、片手でも行けそうな雰囲気に感じられたようで、ホッとした顔をしている。
 親指はかなり弱っていたが、まだ時々レチレチと声を漏らしている。
 なんとか急いで、冷たい水の出る風呂場に行かなくては。
 そう思って、出来るだけ早く急ごうとする。

 いつもの何倍もの時間がかかったが、十数分後、ようやく折り返しに来た。
 不意に、上から声が響いた。


桃「アオママさん! 子供達がみんな気絶しているデスっ!」

青「デデッ?!?!」

 見上げると、モモ親がアオ組の子供を両手で抱き抱えている。
 影になってよく見えなかったが、モモ親に抱えられた子供達は、二匹ともぐったりしている。
 まるで人形のように、モモ親の腕にもたれている。

 ——アオ親はあの時、モモ親の言う事を素直に聞いて、カゴを背負っていれば良かったのだ。

 そうすれば、いつものようにするすると下に降り、余計な時間をかけずに済んだ。
 だが、ただでさえうだっていた子供達は、いつもの何倍もの時間あの部屋の中で待たされていたため、
親指と同じかそれ以上にグロッキーになっていたのだ。

 恐らくだが、この時室温は軽く32度は超えていただろう。
 俺の自宅の物置ですら、その日は30度に達していたのだから。
 仔実装達にとっては、これは殺人的な環境だ。

 だが、アオ親はこの時、さらにやってはいけない行動を取ってしまった。


青「な、何勝手に人のうちに上がり込んでるデスーっ! 子供達を放すデスーッ!
 さもないとお前を許さないデスーッ!!」

桃「デ、デデッ?!」

青「今すぐ子供を解放しろと言ってるデスぅっ!」

 アオ親は、物凄い怒りの形相で縄ばしごを駆け上ってきた。
 普段の何倍ものスピードだ!
 あっという間に二階へ戻ったアオ親は、モモ親を突き飛ばして子供達を奪い取ると、二匹の様子を
窺った。

青「大丈夫デスか? 二人とも?」
仔1「マ、ママ……アッチュイテチ…具合悪いテチ…」
仔3「ママ…親指チャンは…?」

青「——デッ?!」


 アオ親は、さっきまでアオ親指1を抱えていた筈の手を見つめた。
 そこには、親指ではなく…アオ仔3が居る。
 親指は…いなくなっていた。


 恐らく、こういう事なのだと思う。

 アオ親は、これまで6匹もの子供達を長期間養い続けてきた。
 それは、ひとえに彼女の警戒心の強さと、外敵に対する抵抗力がずば抜けていたからだろう。
 何か怪しいものが巣に近寄ったらあらゆる物を武器として使いこれを排除し、子供達を守った。
 そして子供達が粗相をしたら、必要以上に厳しく躾けて親の尊厳を維持した。
 これにより、全七匹という大家族を生き長らえさせたのだ。

 だがこれは逆に、他者との協調性を理解せず、また他者がある程度以上自分達に接近する事に
過剰反応してしまうような性質を、彼女に植え付けてしまったのではないか。
 だから、パニくったアオ親はモモ親の援助を外的要因として捕らえてしまい、子供のピンチを救う
つもりでかえって窮地に貶めてしまったのだ。
 密室の中で、猛暑に晒され続けるなどという経験を持たない実装石が野良時代と違う行動を取って
しまい、益々危機に陥る事は、俺も早くから予想していた。
 だがしかし、まさかあのアオ組が、それをやるとは思っていなかった。
 きっと、冷静な時にはこんな行動は取らなかったのだろう。
 だがアオ親が冷静さを維持できるほど、このアパートの環境は生やさしくなかったのだ。


 さて、親指だが。

 放り投げられた親指は、すぐよこの壁に思い切り叩きつけられ、悲鳴を上げる間もなく緑と赤の染み
になっていた。


青「お、親指チャアァァァン!!! デギャアァッッッッ!!!!」

桃「あ、アオママさん!」

 ようやく事態に気付いて、泣きわめき始める。
 おいおい、なんだそりゃ。
 自分でうっかり殺しといて、そりゃないだろう。

 モモ親も、気の毒に思ったのかアオ親に慰めの言葉をかけようとする。
 だが…とち狂ったアオ親は、なんとモモ親につかみかかった。

青「お、お前が、おま゛え゛がごろじだデジュあぁぁぁぁっっっっ!!! よぐもワダジのゴドモをぼおぉぉっっっっ!!!」

 ぐしゃっ、ぐしゃっ!

仔1「チベッ!」
仔3「ベチャッ?!」

桃「あ、アオママさんっ! 落ち着いて! 落ち着いてデスっ!!」

青「よぐもぉぉぉっっっ! ヨグモゴロジダデデデデ……デ?」

 ぐっちゃ、ぐっちゃ…

  ぐっちゃ… ぐっちゃ…

桃「あーっ! 足下、足下ぉっ!!」

青「デボワジャァァッッッ!! …って、えっ?」

 ようやく違和感に気付いたようで、足下に目線を落とす。

青「デ? なんでワタシの足がこんなに汚れてるデス? ここに居たワタシの子供達はどうしたデス?」

桃「が、ガクガグブルブル…ア、アオママさん……」

青「デ? これは…まさか…」


 足には、汚れた二本の青いリボンが絡み付いていた。
 そしてその下には、さっきまで苦しみにあえいでいた我が子達の、変わり果てた姿が…


 やっちゃったよ、ついに!
 パニくったアオ親、自らの手で子供達を殲滅!


桃「あ、あの…」

青「……」


 パキィッ!


 マイクが、かん高い音を拾った。
 と同時に、アオ親がぐらりと倒れ、そのまま階段をごろんごろんと転がり落ちていく。
 そして、二度と動かなかった。

 自らの手で子供を殺してしまった事で、偽石が崩壊したようだ。
 なんてこった、あまりにスピーディすぎる全滅!
 一番数が多かったアオ組、ここでリタイア!?
 俺、なんにも出来なかったよ…


 実験開始10日目。

 アパート内で、初めての全滅一家が出てしまった。

 
-----------------------------------------------------------------------------

 ■ 現在の状況 □

 
●アカ組:親×1、仔×1

×アオ組:全滅

●キイロ組:成体×2、仔×1、蛆×1

●ミドリ組:仔×2、親指×1

●モモ組:親×1(妊娠中)


 これまでの犠牲者:11匹

・モモ仔1、2、蛆 …エレベーター実験の犠牲になり死亡
・アカ仔2 …206号室で、ゴキブリに襲われて死亡
・アオ親指2 …206号室でアオ仔4に首を落とされて死亡(事故)
・アオ仔2、4 …206号室でネズミに襲われて死亡
・アオ親指1 …アオ親に壁に叩きつけられて死亡(事故)
・アオ仔1、3 …激昂したアオ親に踏み潰されて死亡(事故)
・アオ親 …子供全滅のショックで、偽石崩壊


 残っている実装石:10匹



 ● 覚え書き ○

・モモ親、出産間近
・206号室、封印
・アパート内は猛暑状態

-----------------------------------------------------------------------------

 次回、にじあきに視点が変わります。

■感想(またはスクの続き)を投稿する
名前:
コメント:
画像ファイル:
削除キー:スクの続きを追加
スパムチェック:スパム防止のため6363を入力してください
戻る