タイトル:【観察】 敷金・礼金無料 4
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初投稿日時:2007/03/10-15:00:50修正日時:2007/03/10-15:00:50
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敷金・礼金無料 4


 俺の名はやおあき。
 自らは手を下さない、観察型の虐待派だ。
 俺は友達のにじあきと協力して、五組の賢い実装石一家をさらって来た。

 今彼女達は、俺達が整えた(実装石にとっては)最高の住処…古い木造アパートの中に居る。
 雨風をしのげ、外敵から守られたこの素晴らしい環境の中で、彼女達はどのように生きていくの
だろうか?


●アカ組:親×1、仔×2

●アオ組:親×1、仔×4、親指×2

●キイロ組:成体×2、仔×1、蛆×1

●ミドリ組:仔×2、親指×1

●モモ組:親×1、仔×2、蛆×1

 以上五家族、親5?匹、仔11匹、親指3匹、蛆2匹…合計21匹。

 アパートの構造と部屋割りは、以下の通り。

■1階

 部屋番号は、左上→右下の順で、101〜103、105〜107(104はない)。

 (入り口)
   _
  ||
 □||□
 □||桃
 緑||□
 ■||▲
  | → 二階へ
 ‾‾‾‾

 □は空き部屋、▲はトイレ、■は風呂場。
 廊下の奥、トイレの脇には、二階へ昇る階段がある。


■2階  
 部屋番号は、左上→右下の順で、201、202、203〜206(204はない)
 
____
▲||赤
青||黄
■||□
 | → 一階へ
‾‾‾‾
※□空き部屋 ■は洗面所 ▲は秘密

 三階や地下室はない。
 入り口には鍵がかけられていて、脱出は不可能。
 各所にカメラと盗聴器が無数に仕込まれている。


(前回までのあらすじ)

 アパート内に鳴り響く轟音は、モモ組のイビキだった。
 やおあき達ですらひるむ大音響に、実装石達は二階への避難を開始する。
 引越しが進むにつれ、次々に解放されていく「堕落の間」「技術と知恵の間」。
 だが実装石にとって、子供を連れた階段の移動は困難を極める。

 その打開策を提案したのは、引越しの原因を作ったモモ親だった!





■ 第四話 「エレベーターアクション」 ■


 ほどなくして、木造ボロアパートに初めてのエレベーターが設置された。
 よりによって、実装石の手で。
 二階の手すりの桟をまたぎ、一階へ垂らされたタコ糸の端には、20センチ立方ほどのサイズの小型
段ボールが取り付けられている。
 もう一方の端を一階側で引っ張り、カゴを上に登らせる仕組みだ。
 わかりやすく言うと、井戸のつるべのような構造。
 カゴが安定するように、タコ糸はきちんと四つの角で結ばれているのが芸コマだ。
 後にアオ親の提案で、箱の側面が一部切れ込みが入れられ、これがドアになる。
 アパートの住人全員が風呂場の前に集まり、エレベーターの完成を喜んだ。

桃「では、早速試してみるデス」
桃仔・蛆「「「ママー、ワタチが先に乗りたいテチー(レフー)」」」
桃「あらあらまあまあ♪ 順番デスよ順番」

 モモ親だけでなく、他家族の子供達もこれには興味深々だ。
 次々に「ワタチも」「ワタチも」と名乗り出てくる。
 風呂場の周りはちょっとした大盛況になってしまった。

桃「まずは、うちの仔で試してみるデス」
黄1「では、二階でお子さんを受け取るデス」
桃「よろしくお願いしますデス」

 早速、初始動実験が開始された。
 まず、箱の中にモモ仔1が乗る。
 モモ組の子供達は、いずれもだいたい15センチくらいなので、20センチの高さのカゴに入ると横から
は見えなくなる。
 テチテチとドアを閉め、準備OKを伝える。
 二階の真上でも、既に移動を済ませたキイロ親1が手を振っている。
 モモ親はそれを確認すると、何も結び付けられていない側の紐を手に巻き付け、ゆっくりと引っ張り
出した。

桃「それ、エ〜ンヤコ〜ラ!」
桃仔「「エーンヤコーラ」」

青「えんやこらって何デス?」
赤「エンヤって人のコラージュデス」
青「益々わからないデス」

 二人の親が疑問符を浮かべていると、子供達の歓声がひときわ大きくなった。

桃仔1「すごいテチーすごいテチー! 高いテチー! すごい眺めテチー! お空に浮かんでるテチー!!」

 箱の中のモモ仔1は、とても喜んでいるようだ。
 二分くらいの時間をかけて、カゴは無事に二階へ辿り着く。
 モモ仔1はキイロ親1にカゴごとすくい上げられ、無事に到達に成功した。

桃仔1「ママー、やったテチー♪」

 親も仔も含め、皆の絶賛の声が上がる。
 初始動は、文句なしの大成功だった。

桃仔2「ママー、次はワタチテチー!」
桃蛆「レフレフ、蛆チャンも乗りたいレフー」

「「「ワタチ達も乗りたいテチー!!!」」」

 二回目の候補者は、その場に居たほぼすべての子供達だった。
 ただ、中には

黄仔「なんだか怖いテチ。嫌な予感がするテチ」
赤仔1「不安定すぎるテチ。一人しか乗ってないのにあんなに揺れるなんて問題アリアリテチ」
赤仔2「それに、アレだとかえって移動が面倒くさそうテチ」

 という意見の下、候補に加わらない可愛くないガキも居る。

 ともあれ、結局次の搭乗者はやはりモモ組の子供達となった。
 モモ蛆は特に軽いので、モモ仔2と一緒に載せても大丈夫だろうという話になる。
 モモ親も、よく二匹まとめて抱っこする事があるから、その重量はよくわかっているという。
 早速、二匹同時昇降が開始される事になった。

黄2「気をつけてくださいデス」
桃「心配ないデス。そーれっ……」


 するする、するする……

 エレベーターが昇っていく。
 中の子供達も、不思議な浮遊感とどんどん迫ってくる天井の様子に興奮しているようで、楽しげな声
が聞こえてくるだ。
 箱が随分揺れている。

 だが、この時モモ親が肝心な計算を怠っている事に、俺は気付いた。
 力点・支点・作用点の関係と、それにより普段とは違う負担が強いられる事を失念しているのだ。

 いくら仔実装と蛆実装自体の重さを知っていても、それを長いタコ糸で引っ張り上げる場合、相当な
力とその維持が必要になる筈だ。
 まして、支点には滑車がなく、タコ糸は直に木製の桟に擦られ、大きな摩擦が発生する。
 これを超えてさらに引き上げなければならないのだから、ただ二匹を抱き上げるのとは意味が違う。
 モモ親は、それをさっき一度経験して知っている筈なのに…いや、むしろ知っていたからだろうか、
余計な精神的余裕を作ってしまったようだ。

桃「ふー、ちょっと引っ張り疲れたデス」

 さて、皆さんここでちょっと考えてみましょ。
 モモ親と同じような状態で物を持ち上げている最中、腕が疲れたからと言って引く力を弱めると、
どういう事になるか……

 それは、ただでさえ非力な実装石の中でも、特に力のない飼い実装だからこそ選んでしまった、
最悪の選択。
 モモ親は引くのを一旦停止させ、つい一休みしてしまった。


 ひょろっ


桃仔「て、テチッ?!」

 がくんっ!

 当然、カゴがほんの少し自由落下してしまう。

桃仔2「テ、テチーッ!!」
桃蛆「ママーッ!」

桃「デ? デデデ!!」

 ぐいっ!

 バランスを崩したカゴに驚き、桃親は慌ててタコ糸を引っ張る。
 ただ、ちょっと引く力が強すぎたようだ。
 自由落下の時、恐らくカゴの中ではモモ仔2とモモ蛆の身体は僅かに浮き上がっていたのだろう。
 そこに、急に引き上げられたカゴの底が激しくぶつかったものだから、弾力のある段ボールと仔実装
達の身体は反発力を生み出してしまい、その結果……


桃仔2「テチャ———ッ!!」
桃蛆「レピャァ———ッ!!」


 二体の小さな実装石は、一度真上に跳ね上げられた後、放物線を描いて、再び一階に戻ってきた。


桃仔2「チベッ!!」
桃蛆「レベッ!」

べちゃっ!×2

 二階には、無人のカゴが辿り着いた。


桃「デ、デスデス———っ!!!」

 慌てて子供達に駆け寄るモモ親。
 しかし、可愛い娘達は、既に物言わぬ床の染みになっていた。

 エレベーターの初始動実験は、突然公開処刑の場に転じてしまった。

 そして俺は、モニターの前で腹を抱えて大爆笑していた。
 

桃「ゴーガチャーン! タイラントちゃーん!! オロロ〜ン、オロロ〜ン!!」

 なんだ、あの子供達ってそんな物騒な名前が付けられていたのか。
 ゴーガは蛆の方だな、うん間違いない。

 実験の失敗に泣き崩れるモモ親。
 そしてそれを、他家族が真っ青な顔で見つめていた。

青「し、失敗したデス…死んでしまったデス!」
赤「これじゃあ、とても怖くて子供達なんか乗せられないデス!」
緑「ガ、ガ、ガクブル…」
黄2「根本的な設計に問題があったデス」

 子供達は、全員漏れなくパンコンまたは垂れ流し状態になっている。
 あーあ、大変だこりゃ。
 二階の方でも、奇跡的に助かったモモ仔1が、下の様子を眺めてガクガク震えていた。

桃「親が引っ張るからダメなんデス!」

 突然、モモ親が奮起した。

桃「考えてみたら、オモチャのエレベーターはワタシが引っ張るのではなく、自動で上がったり下がったり
 していたデス! このエレベーターも、自動化すればいいんデス!」

黄2「自動化って、どうするつもりデス?」

桃「簡単な話デス! 糸のもう一方にもカゴを付けて、そこに重りを入れて落とすデス。そうすれば、
 わざわざ引っ張らなくてもカゴが上に上がるデス」

 なるほど、なかなか面白い発想だな。
 モモ親は、自分の提案で自分の子供をまとめて二匹も殺してしまったせいか、その犠牲をムダに
したくないらしい。
 必死で親達を説得し、改良案を押し通そうとしている。

 やがて、モモ親の必死さに折れたキイロ親達が、改良版作成に乗り出した。



 一時間後。


黄1「改良版は出来たデスけど、肝心の重しがないデス」

 カゴ二つ版のエレベーターを設置し終えたキイロ親1は、モモ仔を連れて下に降り説明した。
 確かに、それでは意味がない。
 仔実装以上の重さのある物がもう一方のカゴに入らないと、自動化もへったくれもない。
 
緑「ひょっとしたら、使える物があるかもしれないデス」

 ミドリ姉が前に出た。

緑「後で皆に話そうと思ってたデチ。ワタシ達がさっき入った部屋には、色々なお菓子が詰まった箱が
 あったデチ」

仔「「「お、お菓子テチ?!」」」

緑仔・親指「「ああっ、オネエチャン教えたらダメテチー!」」

緑「中は良く見てないデチけど、なんとなく重そうだったから、きっと役立つものがあると思うデチ」
桃「わかりましたデス、早速見てみるデス」

仔軍団「「「「お菓子食べたいテチー! 早く見せてテチー!!!」」」」

緑仔・親指「「やめてテチ〜! テェェェェン、テェェェェン!」」

 ミドリ姉は、“堕落の間”を早速報告するつもりらしい。妹達は、血涙を流して反対していたが、もう
遅い。
 物がお菓子という事もあるのか、なぜか行く必要のない筈のアカ親とアオ親まで二階に向かう事に
なった。
 結局、下にはキイロ親1と2だけが残り、子供達を全部任せられてしまった。


 “堕落の間”に辿り着いた親達は、段ボールの中身を見て驚愕している。
 やはり、成体実装にも相当なインパクトがあるようだ。

赤「中を出してみるデス!」
青「賛成デス!」
桃「力を合わせるデス!」

緑「ああっ、そんな一度に!」

赤・青・桃「どっせい!!!」

 ドサッ!

 アカとアオ親が力を合わせ、段ボールをひっくり返す。
 無数のお菓子袋が零れ、途端に三匹の目の色が変わる。

赤「すごいデス! これだけあれば当分食べ物に困らないデス!」
青「後で山分けするデス! 飲み物まであるデス!」
緑「でも、重しに使えそうなものは…」
桃「これを使うデス!」

 そう言って、モモ親は500ミリペットボトルに入ったファンタグレープを指差した。
 これは当然未開封のものだ。
 成体実装なら、努力すればキャップを開けて飲む事ができる。
 しかしまさか、最初にこんな使われ方をする事になろうとは、さすがの俺も想像しなかった。

桃「これはなかなかの重さデス。充分使える筈デス」
赤「とにかく、今はこれしか最適なのはなさそうデス」
青「とっとと試して、早くこのお菓子を山分けるデス」
緑「うーん、確かにそうデチが……何か根本的なものを忘れているような…」

 話は一応まとまったようで、ミドリ姉を除く三匹はペットボトルをゴロゴロと転がし、エレベーターのカゴ
が置かれた辺りにやって来た。

桃「ミドリリボンの仔チャン、お願いがありますデス」
緑「デ?」
桃「下のカゴに、うちの仔を入れてあげて欲しいデス」
緑「デッ!」
桃「他の子供達はワタシの失敗で死なせてしまいましたけど、今度は大丈夫デス。これは、どうしても
 ワタシ達一家で成功させなければならないのデス」
緑「で、デチけど…もし失敗したら…」
桃「失敗したら、どっちにしろ誰かが死ぬデス! 他のおうちの仔を犠牲にはできないデス!」

 一見素晴らしいように思えて、実はものすごくマヌケな発言をするモモ親。
 俺は、緩む口元を必死で抑えながら、胸躍らせて次の展開に期待する。
 おっと、そろそろこの映像を録画しておこう。
 後でにじあきにも見せてやりたいからな。
 迫力負けしたミドリ姉は、渋々一階に降りてモモ仔に説明をする。
 それを聞いた途端、モモ仔は血涙をドバドバ流して、頭をぶんぶん振り回した。

桃仔「い、イヤテチィィィ!!! もうあんなの乗りたくないテチィ! 今度は死んじゃうテチィ!!!」
緑「そ、それは…多分、大丈夫かな、なんてちょっとだけ思ったりなんかしちゃったりするデチ」
桃仔「死ぬと判ってる危険な物に乗るなんて、たとえ死んでもイヤテチィィィ!! テェェェン! テェェェェン!
 妹達の分まで、ワタチは生きるテチィィィィ!!!」
緑「えーと、あの…デチ」
桃仔「イヤイヤイヤテチィィィィッッ!!! 殺されるテチィィィッ!!! 助けてママー!!!」

 いや、あんた、そのママが殺そうとしてるんだからさ。

 ぶりぶりとパンコンしながら、モモ仔はキイロ親にすがって必死で抵抗する。
 気持ちが理解出来るのか、ミドリ姉もあまり無理強いができない。
 他の子供達は、代わりに選ばれるのを嫌がって106号室へと閉じこもってしまっている。

 だが…

青親指「「上にはお菓子のお部屋があるレチィ」」
緑親指「そうレチ! ワタチは食べたから知ってるレチ! もう一度行きたいレチ!」

 レチーレチー、レチーレチー

 さすが、蛆実装に次ぐ低脳集団、親指三人集。
 さっきのミドリ姉発言の、都合の良い所だけしっかり覚えていて、二階への興味を丸出しにしている。
 しかし、アオ親もこれには賛同しないだろうし、何よりモモ親の意志をムダにする事になる。
 それに、妹を乗せるのも賛成出来ない。
 ミドリ姉が迷っていると…あれ、今ここに居た筈のモモ仔の姿がない。


桃仔「早く上げるテチ! ぐずぐずするなテチ!!」

 いつの間にかカゴの中に乗り込んだモモ仔が、上に向かって怒鳴っていた。

緑「デ?」

桃仔「お菓子の部屋と聞いたらほっておけないテチ! さっき先に行っとけばよかったテチ! 今度は
 出遅れないテチ!」

黄1「あなたは、さっきあんなに嫌がっていたんでは?」
桃仔「何を言うテチ! ワタチは勇敢テチ! それにもう一回昇ってるテチ! 恐れるものは何もない
 テチ!」
緑「………デチ……」

 モモ仔の素早すぎる心境変化に置いて行かれた親達は、呆然と顔を見合わせた。
 とりあえず、モモ親の希望通りにはなったから、ま、いいか。
 懸命に文句を唱える親指達はキイロ一家が押さえ、ミドリ姉は、エレベーターの上で待機している
モモ親に合図を送った。
 いよいよ、自動式エレベーターの実験開始である!

桃「我が子よ、無事にここまで辿り着くデス!」

 ズ・ズズ…

 親達の協力でカゴの中に収められた、500ミリのペットボトル。
 モモ親は、それを横から押して、一階へと落とそうとする。
 キイロ親達が子供達を避難させた瞬間、ついに、ペットボトル入りの箱が落とされた。


 ひゅおおおおんんん!!

桃「やったデス!」


 実験は成功だった。
 ペットボトルの落下エネルギーはもう一方の仔実装入りカゴに上昇エネルギーを与え、一気に二階
まで引き上げる事が出来た。
 まさに、一瞬の出来事。
 自動エレベーターのスピードは、全実装石達の想像を遥かに超えるものだった。


 そして。
 
 そのスピードを制御する仕組みを持たない段ボールのカゴは、中に居るモモ仔を盛大に真上に
打ち上げた。


桃「テピョパっ?!」


 バンっ!!!

 …べちょっ!

 ぽたぽたぽた……


桃「えっ……? デ、デス…?」

緑「デ、デデ……チ?」

黄「……」

 天井から、緑と赤の体液の雨が降り注ぐ。
 移動エネルギーの過剰分を一手に引き受けてしまったモモ仔は、そのままロケットのように天井に
向かって飛び上がり、激突して、潰れた。

 ——もちろん即死だった。


桃「が、ガンダアァァァァッッ!!!! オロロロロロロロ〜〜〜ン!!!」

 誰だよ、こんな名前付けた飼い主は。



■■□


「ギャハハハハハハハハ!! た、助けてくれぇっ!! し、死ぬぅッ!!! ゲハハハハハハ!!!」

 俺はもう、我慢の限界を通り越して大爆笑していた。
 モモ親最高! 拾ってきて大正解!
 偉大な発明のために、自らの子供を一気に全滅させちまいやがった!
 しかも、すべて自分の選択ミスで!
 これが笑わずにいられるか!

 そりゃあんた、仔実装一匹と500ミリペットボトル+落下エネルギー、どっちがどれだけ重いと思ってる
のよ。
 って、それがわからないからこうなったのか。

 アパートの中は壮絶なお通夜ムードだが、俺にとってはこれ以上ない程のコントだった。
 ただ死んだだけじゃなくて、三匹とも瞬時にして跡形もなく消え去った所が、実にいい!
 俺は、笑い死にしそうになりながらも、にじあきの携帯に電話をかけ、この素晴らしすぎる喜劇を報告
する事にした。
 
 
『お、おま! それ録画してくれたんだろうな!』
「もちろんだ! もう予測可能すぎる展開だったから、直前から録画してるよ! ギャハハハ!」
『今すぐ見に行く! 待っててくれ!』

 予想通り、にじあきも大喜びだ。
 もうこいつら、俺たちが求めている以上の事をガンガンやってくれるから、楽しくて仕方ない。
 




□□■



 もう一度アパートの様子を見てみたところ。
 失意のどん底に陥ったモモ親は、ミドリ姉に介抱されて106号室で休まされていた。
 相当なショックだったようで、顔は一気に老け込んだみたいに見える。
 他の親もそれぞれショックを隠せないようだが、それよりも、この画期的なアイデアでも子供達を運ぶ
事が出来ないという現実の方が、重かったようだ。


 ここは102号室、食堂として使われているところだ。
 いつのまにか、あの臆病者(を演じていた)アカ親も加わり、すっかり井戸端会議場と化している。
 
黄1「アレは改良して、荷物運搬専用にすればいいデス」
青「二階で子供達がしたウンチを下ろすのに役立つデス」
赤「でも、もうペットボトルは使えないデス。使ったら最後、ウンチの雨が降るデス」
黄2「…モモ色リボンの人に二階へ上がってもらえば、一番簡単な気がするデス」

 キイロ親2の発言に、各親が反応する。

黄1「そうか! そんな単純な手があったデスか!」
赤「それなら、ワタシ達が子供を運ぶ手間が省けるデス!」

 二人の親は、両手を上げて賛同する。
 子供を失ったモモ親は、この中で唯一「子供を下の階に下ろす」手間から解放されている。
 ならば、上に行ってもらうのが最良だ。
 だが、なぜかアオ親だけはこの名案に賛同しない。
 というか、一旦賛同しかけたのだが、何かを思い立って手を引いたのだ。

黄1「どうしたデス?」
青「わ、ワタシ達はちょっと理由があって…あまりあの部屋を動きたくないデス」
赤「あの部屋に、何かあったのデスか?」
青「え? い、いやいや、何もないデス! 絶対何もないデス!」

 必死で否定するアオ親と、小首を傾げる親達。
 だが俺は、アオ親がどうしてこんな態度を取るか知っている。


 ここでちょっと、視点を移してみよう。


 同じ102号室の端の方。
 ここでは、仔実装達の独自のコミュニケーションが行われていた。


緑仔「ワタチ達、お菓子のおうちでお菓子いっぱい食べて来たテチ」
黄仔「ホントテチ?」
赤仔「「ワタチ達にも分けて欲しいテチ!」」
青仔「「「「お菓子って、ニンゲンが食べてるオイシイものテチ?」」」」
緑親指「ワタチ達のおうちの中にあるレチ! だからワタチ達だけのものなんレチ!」
緑仔「ワタチ達のドレーになったら、分けてあげてもいいテチ」
赤・青・黄「……て、テチー……」

 いきなり横柄な態度を取り始めるミドリ仔達に、他の仔達は半信半疑のようだ。

緑仔「信じないならそれでもいいテチ。でも、後で泣いて頼んでも知らないテチ」

青仔「フン、そんな物要らないテチ! ワタチ達のおうちにも、ご飯が一杯あるんテチ!」

 アオ組の仔実装4が、そう言って反発する。
 だがその直後、他の姉妹が慌ててそいつの口を塞ぎこんだ。

緑仔「テチ? お前のおうちにもご飯あるテチ?」

青仔2「し、ししし、知らないテチ!」
青仔1「な、なな、なんかの間違いテチ! なんでもないテチ!」
青仔3「おうちに入ったら、一杯いっぱいご飯が入ってたなんて事は、これっぽっちもありえないテチ!」

 即座に、アオ仔3が姉達に押さえつけられる。
 ミドリ仔と親指は完全に信用していないが、アカの仔達は、無言でその言葉に耳を傾けていた。
 キイロ仔の反応は、ここからだとよくわからない。
 なんだか酷く困惑しているようにも見えるが。


 しばらくすると、ミドリ姉が102号室にやって来た。
 モモ親が落ち着いたらしく、自分の妹達の様子を見に来たようだ。

緑姉「お前達ー、今日からは昨日までのおうちに戻るデチ!」
緑仔・親指「「チベベッ?!?!」」
緑姉「あのお菓子は、もう皆さんと分ける事が決まってるデス。ワタシ達がこれ以上勝手にする事は
 できないデス」
緑仔・親指「「そ、そんなあ!!」」
緑姉「お前達はお姉ちゃんの言う事を聞かないで、みんな食べようとしちゃったデチ。もうそんな事は
 しちゃダメデチ! あのお菓子の事は、もうみんなにバレてるデチ」
緑仔・親指「「テ、テェェェェェェン!!」」

 “堕落の間”からの撤退命令は、ミドリ仔と親指にはきつ過ぎたようだ。
 即座に反抗のジタバタが始まる。
 そりゃあまあ、あんなにいい思いしたんだからなあ、気持ちは理解できなくもない。
 しかしミドリ姉は、そんな二匹を強引に103号室へ引き摺っていってしまった。

赤仔1「ミドリのリボンの仔達の話、本当テチ?」
赤仔2「まず間違いないテチ。あれだけ嫌がっていたという事は、おいしい何かが隠されていた事は
 間違いないと見るべきテチ」
赤仔1「アオリボンの仔達が言ってた事もホントテチ?」
赤仔2「かもしれないテチ。でも、なんでワタチ達のおうちだけ、ご飯がおかれてないテチ?」
赤仔1「変な穴ポコが開いてるだけで何もなかったテチ。ずるいテチ」
赤仔2「ママと協力して、あいつらのいたおうちから、ごっそり奪い取ってくるテチ」
赤仔1「それはいい手段テチ!」


 なるほど、アカ組の特性がだんだん明確になってきた。
 これまでは、ただ餌確保のために小賢しい知恵を使うだけだと思っていたが、とんでもない。
 こいつら、仔実装の癖に相手の心理分析までこなしてやがる。
 しかも、自分達の部屋だけおいしい仕掛けがないという事にも、すでに気付いているようだ。
 とんでもない、お前達の部屋の仕掛けこそ、あの中で一番役に立つものなんだよ♪

 しかし、変に賢いと言っても所詮は実装石か。
 アカ姉妹の会話は、よりによって隠しマイクを設置したすぐ傍で行われていた。
 これでは、どんなこそこそ話でも筒抜けだよ。
 俺は、次の“堕落の間”の犠牲者はこいつらかと、強い確信を得ていた。


 十数分後、親達は後でモモ親に相談しようという事で話をまとめ、今はそれぞれの部屋に戻る事に
した。
 また、例の髪の毛運搬が開始される。
 だがその場に、モモ親とミドリ一家の姿はなかった。





 ■■□



 にじあきが到着した。
 随分急いできたようで、ハアハア息を切らしながらやって来た。

 俺は、さっきの映像を見せてもう一度大爆笑した後、簡単に経過報告を行った。
 奴は、自分が選んだ組の予想外の大活躍に満足しながらも、アパート内の今後について心配して
いると述べた。


 普通の実装石なら、何か酷い目に遭ってもその後に良い事があれば、すぐに忘れてしまう。
 しかしここに集められた実装石は、子供達も含めて結構しっかりと情報を記憶出来る賢さを持って
いる。
 かと思うと、モモ親はその辺の能力がとても充分とはいえない。
 というか、むしろ思慮が浅く精神的な油断も多く、さっきもそのせいで子供をすべて死なせてしまって
いる。
 このままだと、やがては例の騒音問題からモモ親と他の家族間の距離が開き、激しい対立が起こる
のでは?

 それが、にじあきの予想であり、心配のタネだった。

 その流れは、俺としてもあまり好ましくない。
 それでは単なる「元飼い実装集団リンチ」という、その気になれば公園でも普通に見かけられる光景
にしかなりえない。

 苦労して集めた賢い実装石達に、そんな低レベルな事をされても困る。
 というか、俺はこの中で、実装石同士のバトルロワイヤルを行って欲しいわけではない。


 実装石のコミュニティは、自然発生的なものでも、人工的に作り出されたものでも必ず特定のパターン
が発生する。
 絶対的な力を持つリーダー的存在の下にヒエラルキーが築かれて行き、規約や罰則のようなものが
作り出されて違反者は粛清される。
 これは人間世界でもありうる基本的な行程だが、実装石の場合はそれが顕著で、しかも構成経過が
異様に早い。
 こちらが思っているより遥かに早い時間で、コミュニティが完成してしまうのだ。 
 そしてその後は、意外に長期間持続する。
 かと思うと、現コミュニティに反発意識を抱く層が突如決起してコミュニティを破壊しにかかる。
 その後、前統率者以上の能力を持つ者などまず現れる事はなく、規律や治安維持手段もなくなって
行き、やがてはコミュニティ全体が自然壊滅してしまう流れになるのだ。
 俺とにじあきは、その事を今までの長い経験からよく理解していた。

 無論、このアパート内でもいずれそのパターンは発生する筈。
 だが、それでは困る。

 俺が今回の実験で求めている完成形は、ヒエラルキー型コミュニティーの形成過程観察などでは、
断じてない。
 賢い実装石同士を集める事で、それとは違う、まったく新しいコミュニティが形成されないかという
期待も込められているのだ。
 だからこそ、そこらに居る普通の実装石ではダメだったのだ。

 もちろん、主目的は「長期的観察と自然発生的虐待の見物」だが、だからと言って俺は、こいつらに
アパート内で全滅して欲しいわけではない。
 ヘタしたら死に直面するかもしれない仕掛けやハプニングは用意しても、その後の「雨降って地固まる」
に期待している。
 だからこそ、ここで安易にモモ親が排除されるようでは、問題なのだ。
 モモ親があっさり排除されてしまったら、その時点でありがちコミュニティ形成の確率が格段に跳ね
上がる。
 これは、以前行った実験でも立証された、確固たる持論だった。
 皆の反感を買っている者が、あっさりと排除されるようでは、そのコミュニティに新たな期待は抱けず、
また満足の行く結果もありえない。

 というわけで。
 ここは多少ズルをしてでも、モモ親が排除されるような要因を取り去らなければならない。
 モモ親だけではなく、すでにアカ組やミドリ組も、不穏な因子を見せ始めている。
 このどれが起爆剤になってしまうか、わかったものじゃない。
 これは一度、アパート内の意識統合を図る必要があるかもしれない。
 前回の実験の反省を込めて。

 俺は、にじあきに相談した。

「そういう場合、一番てっとり早いのは、共通の目的意識を植え付けることだな」
「たとえばどんなのだ?」
「さっきのエレベーター設立なんかいい例だよ。ああいう風に、みんなで一丸になれるようなものを与えて
 やるといい」
「そうは言ってもねえ、一体何を用意すればいいのか」
「実はな、この実験開始と同時に、うちでもある事を始めたんだ」

 突然、にじあきが不気味な笑顔を浮かべて呟く。

「キイロとミドリとは別に、ある家族を育成調教してる。いずれエントリーさせようと思っていたんだ」
「おいおいちょっと待て、さすがに六組なんて無茶だぞ!」
「わかってるって。今すぐやるとは言ってないよ。それに、まだこの実験に組み込めるほどにはなって
 ないし」
「? いったい、何をしてるんだ?」
「忘れたのかやおあき。俺はお前と違って、ガチの虐待派なんだぞ」
「ま、まあその計画はいいとして…何をする気なんだ?」
「実は、俺の所に居る糞む……」


??『ギャアアアアアァッッッッッ!!!』


 にじあきが何か言い掛けた所で、スピーカーから大音響が響いてきた。
 実装石の声だ。
 だがそれは、モモ組のイビキではない。まだ寝るには日が高すぎる。

 聞こえてきたのは、ある家族の悲鳴だった。





 □■■


 俺はやおあきと共に、慌てて画面に見入った。


 映し出されている画面は、206号室…“堕落の間”だ。
 にじあきと話し込む前になんとなく画面を切り替えておいたのだが、とんでもない変化があったようだ。
 そこには、アカ組が居た。
 まだ配分が行なわれていなかったようで、アカ組は、それより先に自分達の分を多めに確保しようと
したらしい。
 彼女達は、例の箱から散らばった菓子袋を取り、それを運ぼうとしていたようだ。
 だがそれより先に、思わぬ侵入者と対面してしまった。


 ——自然生体兵器「G」

 ま、つまり…ゴキブリだ。
 それが、“堕落の間”に多数出現していたのだ。

「うわ、ゴキかよ!」
「なんてこった、あれだけやったのにまだ出てくるか!

 多分これは、ミドリ組のせいだと考えられる。
 先のグリーンインフェルノ事件で、206号室の床には細かなスナック菓子の破片が散らばってしまった。
 これが撒き餌になったのか。

赤仔1「テ、テテテ、こ、こっち来るなテチ!」
赤仔2「た、助けてテチ〜! 気持ち悪いテチ〜!!」
赤親「デギャーッ! ワタシの子供達に何するデスーっ!!」

 発生したゴキブリは、いずれも立派な成虫で、大きいものだと6〜7センチはあるようだ。
 こんな巨大なのは俺だってイヤだが、自身の体長の半分近くもある奴等に襲撃される仔実装達の
恐怖は、そんなものではないだろう。
 完全に腰を抜かして、無意味に両手を振り回している。
 アカ親は菓子袋をバンバン叩きつけて追い払おうとしているが、なぜか仔実装達は奴等に「餌」と
認知されたらしく、執拗に接近を試みる。
 やがて…

「テギャアァァッッ!!!」

 アカ仔の悲鳴が響く。
 どうやら、脚を齧られてしまったようだ。
 みるみるうちに出血が広がっていく。
 齧られているのは、えーと…アカ仔2か。
 あの心理分析担当の方だ。

「グギャアァッッ! お、お手々がなくなったテチ! イタイテチ! ま、ママー!!」

 今度は、アカ仔1の左手が食い千切られる。
 ゴキブリって、意外に食いつく力と捕食力が高いのね。
 あっという間に左肩口まで食い尽くされたアカ仔1は、赤と緑の血涙を流して母親にすがろうとする。
 だが当の母親は、自分に迫ってくる火の粉(という名のG)を追い払うのに必死だ。
 彼女が追い払っている連中が、そのまま子供に矛先を変えている事には、気付いていないらしい。

仔2「ヒィィィッ! あ、あんよがなくなっちゃったテチィ!!」
仔1「お、オネエチャアン!!」
親「このっ、このっ! こっちに来るなって言ってるデス! 近寄るなデスーっ!!」

 ばふ、ばふ。

 カサカサカサカサ…

「グキャアーッ!!」

 赤仔2が、ひときわ大きな絶叫を上げて、沈黙する。
 さすがに、これにはアカ親も気付いた。
 なんと、小柄なゴキブリの一匹が、アカ仔2の口の中にもぐりこんでいる!
 当の本人は、血涙ダラダラパンコンモリモリ、その他余すところなく全身から怪しい汁を垂れ流し、
ひっくり返っていた。
 体が、ピクピクと痙攣している。

「ぐぎーっ!」

 アカ親が、仔2の口の中のゴキブリを引きずり出そうとするが…それはムダだった。
 ゴキブリは、すでに体の半分ほどを潜り込ませており、とても引き出せる状態にない。
 アカ仔2は、もはや身体をピクピクと痙攣させるしかなかった。

「た、助けてェェェ!! ママー!」

 今度は、アカ仔1だ。
 アカ仔2に意識を奪われているうちに、再びもう一方が襲われたらしい。
 今度は、四肢…いや、すでに左腕がないから三肢か? が三匹のゴキブリに咀嚼されている状態
だ。
 そして、泣き叫ぶ仔の顔面に、もう一匹がどっかと乗っかる。

「う、うぎゃぁぁぁっっ!!」


 アカ親の発狂したような声を聴いたのか、キイロ親達が、206号室に駆け込んで来た。


黄1「テリャッ、デスッ!!」

 ズブシュッ!

 キイロ親1は、竹串を槍のように使い、ゴキブリを刺し殺していく。
 なんと、たった一撃で動きが止まる。
 アカ仔1の顔面の奴を一刺し、続けて手足に食いついている奴等を一刺し、翻ってその周りにいる
奴等を次々に刺し殺していく。
 一匹に二度串を刺す事は、まったくない。
 あまりにも華麗で、そして洗練されすぎた動きに、俺達は感心を通り越して戦慄を覚えはじめていた。

 今まで目立った行動のなかった、キイロ親2も大したものだ。
 手にしているのは、前にアオ親も使用していたカッター。
 これを大刀のように振り回し、アカ仔2に近付く者達を一刀両断していく。
 或いは脚だけを切り取り、動きを封じてキイロ親1に任せる。
 あっという間に、二十匹近いゴキブリを始末してしまった。

 キイロ親1は、最後に唯一残ったアカ仔2潜り込みゴキブリの尻を竹串で突き刺し、引っ張り出す。
 そいつはアカ仔2の内臓まで食い荒らしていたようで、ずるずると臓物まで引きずり出してしまう結果
になった。
 いう間でもなく、アカ仔2はとっくに絶命していた。

赤「お、オロロ……オロロロ〜ン!」

黄1「もっと早く気付いていればよかったデス。…申し訳ないデス」

 肩で息をしながら、キイロ親1が声を掛ける。
 だが、仔を目の前で食い殺されたアカ親には、さすがに聞こえていないらしい。
 キイロ親2は、倒したゴキブリを一箇所にまとめ上げている。
 そして、室内に点在する菓子袋や中身の破片を凝視していた。

黄2「この部屋は危険デス」
黄1「ひとまず、アカリボンの方々を私達の部屋に招くデス」
黄2「この仔も手当てするデス」

 そういうと、キイロ親達はアカ親子を連れ出した。
 アカ親は無抵抗のままずるずると引き摺られていく。
 “堕落の間”には、寄せ集められたゴキブリの死体と、以前ミドリ姉が放置していった空き菓子袋
(中は糞まみれ)、そして未開封のまま箱から放り出された別な菓子袋、そしてすべてを見守っていた
巨大な段ボールだけが残った。


 …ゴキブリ…

 実は、こやつらは以前の実験でも大敵だった。
 気色悪い点を除けば、人間にはさほど大きな実害はないゴキブリ(食べ物をダメにされる事はあるが)。
 しかし、実装石達にとっては奴等も生命の剥奪者だ。
 時には、集団で襲われて成体実装が食い殺されるケースもある。
 まして、奴等はまさに神出鬼没、この行動を完全に封じるなど、出来はしない。

 だから俺達は、実験開始前に考えうる害虫駆除対策を徹底した。
 バルサン連続炊きや、目立つ隙間埋め、コンバットなどの毒餌撒き。
 それにも関わらず、これだけ大量に出現したのだから、たまらない。
 本当に、始末に負えないものだ。

 それにしても、そのゴキブリを一撃で仕留めまくったキイロ親は、本当に凄い。
 というか、もはや恐ろしいのレベルだ。
 首を引き千切っても一週間生き続けるほどの生命力のあるゴキブリを、どうやったら一撃で倒せる
のか?

 不思議に思った俺は、ゴキブリの生態について少しだけ検索をかけた。

 ——そして、キイロ親1の恐ろしさを、さらに実感させられた。


 キイロ親1は、竹串で常に同じポイントだけを狙い撃ちしていた。
 ゴキブリの胸の中央に当たる部分。
 ここには、運動中枢神経がある。
 ここを一撃で破壊して、ゴキブリの動きを封じていたのだ。
 という事は、こいつらは死んだんじゃなくて、動けないだけでまだ生きてるってこと?

 なんでそんな、人間でもろくに知らないような知識を持ってるんだこいつ?

 これは…予想外の展開だ。
 キイロ親達は、あまりにも賢すぎる。博識すぎる。そして、強すぎる。
 ある意味もっとも頼りになるリーダー格であるし、それだけの資質を豊富に持ってはいるが、その分
こいつらがその気になったら、あっさりとヒエラルキー型コミュニティが成立してしまうだろう。

 ——少しでも間違ったら、こいつらはこの実験にとっての危険分子になりかねない。


「とんでもないのを拾って来てくれたもんだ」
「いや、俺も…まさかここまでとは思わなかった」
「まさか正体はカオス実装なんて事はないよな?」
「もしそうだったら、今頃俺達をやべえよ。つか、そもそも捕まえらんねえだろ」
「うん、確かにそうだ。つか、そもそもホントに居るのかなそんなの?」
「さあねえ…」


 俺は、メモを取り出してキイロ組のページに「要注意」と記述した。




 ところが、事態はゴキブリだけでは済まなかった。

 

 その日の夜。

 にじあきが帰宅した後。
 アカ一家がキイロ組宅に居候状態になり、皆が寝静まった頃、それは突如発生した。

 カメラは、102号室に合わせていた。
 翌朝、目覚めた家族がまたここに集まるかなと思ったからだ。
 ここに用意されていた食事は、あとほんの少しだけ残っている。
 皆が量を調整しながら食べていたせいか、あと一食分だけ保管されていたのだ。
 これが、明日の朝飯になる筈だったのだが……

 カメラの中で、何かが動いている。
 てっきり、どこかの実装石がこっそり入り込んで夜食をたしなもうとしているのかと思ったが、違った。
 赤外線暗視カメラモードの中、102号室内に姿を現したのは……どす黒い体色の、ネズミだった!

 ネズミは二匹入り込み、まず実装フードをあっさり食い尽した。
 まだ足りないのか、こそこそとそこら中を徘徊している。
 だが、何かに反応して、俊敏に押入れの中に飛び込んだ。

 俺は、恐らくモモ親の大音響があるだろうと思って、あらかじめスピーカーのボリュームを下げていた
のだが、このネズミの反応がなんとなく気になり、ちょっとだけ音を出してみる事にした。

 ——大音響が、ない。

 モモ親の、あの大イビキがまったく聞こえてこないのだ。
 それも当然、当のモモ親は眠ってはおらず、たった一匹で廊下を徘徊していたのだ。

「ガンダーちゃあぁぁん…タイラントちゃあぁぁ〜ん……ゴーガちゃあぁぁん……デェェェ……」

 ネズミ達は、どうやらこいつの足音に反応して、逃げたようだ。

 夢遊病者のように廊下を彷徨うモモ親は、日中に娘達を失った現場に向かい、そこでぼうっと立ち
尽くしている。
 そして、娘達が激突死した辺りに目線を向ける。
 どうやら、泣いているようだ。

「ご主人様、ごめんなさいデスゥ…。ワタシはいつものドジで…ご主人様に何度も叱られたドジで、
 大事な子供達を死なせてしまいました。ご主人様に名前まで付けていただいた、大切な
 子供達を……。デエェェェェン…」

 なんだ、ドジに自覚あったのか。

「もう、ワタシはご主人様の所へは帰れないデス…。帰りたくても帰れなくなってしまったデスゥゥゥゥ……
 オロロロ〜〜ン…」

 こいつ、まだ帰れる気でいたのかよ、とも思ったが、不覚にも、俺は少しモモ親に同情してしまい、
日中大笑いした事に罪悪感を覚えた。


 困ったなあ、このままだとモモ親が寂しさと罪悪感に押し潰されて自壊しちまうかもしれない。
 自業自得とはいえ、これはあまりにも早すぎる展開だ。
 まだ二日しか経ってないんだぜ。
 なんとか、モモ親が立ち直れる方法はないものかな?
 それに、ネズミ対策も一応なんとかしないとなあ。


 一応俺は大家なんだから、店子達の面倒は見なくてはならない。
 生活環境に難が出たら、なんとかしてやらなければ。
 しかし、人間が手を加えるというのは本来ご法度という事を先に決めている以上、必要最低限の
行動に絞らなければならない。

 俺は、机の引き出しの中に収められている、アパートの裏口の鍵を取り出す。

 実は、あのアパートは風呂場側の突き当たりに勝手口がある。
 もし実装石達だけでは対処し切れない大問題が発生した時、こっそり侵入するためのものだ。
 まさかこんなに早く使う事になるとは思わなかったが……これも、実験を長続きさせるためだ。


 俺は、机の引き出しの中から、小さなスポイトを取り出した。



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 ■ 現在の状況 □

 
●アカ組:親×1、仔×1 (ただし仔は重傷)

●アオ組:親×1、仔×4、親指×2

●キイロ組:成体×2、仔×1、蛆×1

●ミドリ組:仔×2、親指×1

●モモ組:親×1


 これまでの犠牲者:4匹

・モモ仔1、2、蛆 …エレベーター実験の犠牲になり死亡
・アカ仔2 …206号室で、ゴキブリに襲われて死亡


 ● 覚え書き ○

・裏口
・102号室にネズミ出現

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