「いやぁ…たまには早起きもいいもんだなー」 グッと伸びをすると背骨がポキポキと鳴った。早朝の公園にはちらほらと犬の散歩をしている 人がいるだけで、とても静かだ。 「ふぅ」 ベンチに腰を下ろしても例の生き物は寄ってこない。まだ起きていないのだろうが、もうしばらく すれば日課のゴミ漁りを始めるのだろう。 と 「…ェン、デェン…デェェ…」 「…ァンァン、チュァァンン…」 奴らには似つかわしくない寂しそうな泣き声が聞こえてきた。 「ん?」 頭を巡らすと実装石の親仔が泣きながら辺りを徘徊していた。どうせそこらの虐待小僧どもが いたずらしたんだろう。まあいつものことだ。それにしても運のいい奴らだ。大してひどい目には 会ってないようじゃないか。 「あれっ?」 そうだ。大してひどい目に会っていないどころか、何も異常はないように見える。 髪は無事、服も無事だし、数もいる。親実装、手を繋ぐ仔実装。 「しかし…」何だろう、この違和感は。悲惨や凄惨というよりどこか「寂しい」光景だ。 何となく哀愁を誘うというか。キレイでもない髪がなくなってもどうとも思わないし、 服がなければたるんだ醜い身体を見るだけだ。そうではない何か。何かが足りない。 敢えて言うなら「焼け出された一家」というか。「戦災を逃れた一家」というか。 のっぴきならない事情が見え隠れしているような。 何だろう、この…「着の身着のままで家を飛び出してきました」感は。 「おい、どうしたんだお前ら」こうなるとやはり構ってみたくなるのが人情だ。もともと俺は 虐待にも愛護にも興味ないし。まあなんていうか「実装の不幸は蜜の味」ってやつ。 手招きをすると早速デスデスドタドタと無様に駆けてくるが、その姿もどこか悲しい。 「デェン…デンデン…ニンゲンさん…助けてデスゥ…」 「テスン…テスン」 しかし親子はただすすり泣くだけ。 「いや、だから何がどうしたんだ?」 「…わからないデスゥ」 「おいおい、じゃあ何で泣いてるんだよ」 「…わからないテチュー。でも何かなくなっちゃったテス」 「家でも潰されたか?」 「オウチは無事デスー」 「冬の蓄えが食い散らかされた?」 「ゴハンは秘密の隠し場所にあるデス。ニンゲンさん教えてデスー」 「こっちが聞きてぇよ」 何てこった。この親子自体も何が無いのかわかっていない。それでも何か足りないのは わかっているようだ。しかし分かっていないのは俺達だけでもないようで、周りの野良の反応 もそれを如実に表している。 「デププ!あの親子…デ…デ…デェ?」 「バカ親子デス!バカ親子デス!…なんでバカデス?」 「テピャピャピャピャ…テ…テテテテ…テェ?」 とりあえず異常を見て取り、自分達と違うので嘲笑を浴びせようとするのだが、その対象が よくわからないので途中で止まってしまう。 「うーん…」俺はその親子と、遠巻きに群れている野良を見比べる。 何だ? 何がない? 何がおかしい? 何が足りないんだ? これだけ真面目にコイツらを観察したのは初めてだ。 頭の天辺から足の先まで視線を下ろしていく。 「!」 どうして今まで気づかなかったんだろう。それは余りにも小さい変化だった。俺が気づかない のも無理はないし、他の虐待紳士たちも目をつけないぐらいの場所。 いま考えれば不思議としか言いようがない。 服、髪、目、四肢、偽石、仔、親、姉妹、生殖能力、生活、正気、希望、もちろん命… ありとあらゆるモノを奪われきたのに、コレを奪われた実装石は皆無、或いは少数の中の少数だろう。 「お前ら…靴はいてねぇぞ」 裸足だった。 「デッ!」 「テェ?」 その親子もやっとその事実に気づき、ブリッ、プリッ、とそれぞれに軽く脱糞しながら足元を見下ろす。 「だよなぁ」よく考えれば裸にする時もいつの間にか靴がなくなってるし、服と靴はセットだと 思ってきたんだが。コイツらだってよもや靴を取られるとは思っていなかったんだろうな。 それにしてもシュールというか…裸足実装というのは嗜虐心が揺さぶられない。 「デェ…」 「テスゥ…」 親子はどう反応していいかわからず途方に暮れている。 「…」しかしわざわざ靴を取っていくなんて不思議な人間もいるものだ。「同属」ながらそう思ってしまう。 いったいどんな奴がそんなことをするんだろう。 数ヵ月後、ボケッとニュースを見ていると画面一杯に靴が並べられている光景が目に飛び込んできた。 女もの、男もの、幼児のもの、その大きさ、種類、色を問わずありとあらゆる靴が並べられている。 俺は見逃さなかった。隅っこに並べてある余りにも小さな緑色のソレを。 テロップには「靴泥棒、御用!」 「…なるほど」そんな奴もいるんだなぁ。
