タイトル:【愛?】 虚像
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作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:3583 レス数:1
初投稿日時:2006/10/16-22:54:00修正日時:2006/10/16-22:54:00
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彼女は一人ぼっちだった。この大きなお屋敷の大きな部屋で一人ぼっち。
けれども生活に不自由はしなかった。いや、最初から何でも好き放題に与えられていた
彼女にとって「不自由」がどんなものかは分かるはずがなかった。唯一不自由らしきこと
は自分の好きに外出が出来ないことぐらいだろう。
父親も母親も、彼女に傅く者たちも、皆「外は危ないから」といって外出を許してくれない。
外に出るときは決まってお付の者がいる。しかしその程度なのだ。それ以外には満足していた。
いや、不自由をしらなかった。
お屋敷は充分に大きいから、中を歩き回るだけで一苦労だし、外出以外は何でも好きにしていい。
どの部屋に入ってもいいし、どの部屋で寝てもいい。それに、欲しいものは何でも買ってもらえる。
テレビを指差せば今その画面に映っているものがもらえるし、図鑑を指差せばそのページにある
生き物が、翌日には部屋にいる。

世間では所謂「お嬢様」な生活だ。そんな生活に彼女は満足していた。

世間ではこの単調な生活を嫌がる者もいるだろう。しかし彼女はこの生活が気に入っていた。
部屋には何でもある。ベッドにソファにお化粧台に、クロゼットにはキレイな洋服。
朝も昼も夜も、自分の好きなものだけ作ってもらえる。好きなものばかり食べていると
時々は注意されるけど、それでもやっぱり好きなものだけ食べていられるのは幸せだ。
しかし何かが足りない。何が?
ここ一週間、彼女はずっとそれを考えてきた。わかりそうでわからない。言葉が出てきそう
で見つからない。そんな一週間の末、昼下がりに漫然と図鑑を見ていた時、ピンと来た。

彼女はその図鑑が好きだった。動いているテレビよりもずっと。何が好きなのかは
自身よくわからないが、見たこともない生き物の写真を眺めたりしているのは
なかなか面白い。
そんな中、普段から見過ごしていた1ページに目が行った。今はもういない動物達。
キツネやオオカミの仲間達。死んでしまった彼らだからこそだろうか、どこか悲しそう
な顔をしているように見えた。
しかし彼女が目を惹かれたのは彼らではなかった。ページの一番すみに付け足した
ように載っている生き物。緑色の服を着た、左右の眼の色が違う動物。動物が服を着る
なんてことがあるのだろうか、彼女の幼い感性はそんなことさえ思わなかった。
字の読めない彼女は、この生き物の概要を召使に読ませた。
体長30センチメートル、体重10キログラム、寿命は短いものは2週間から長いもの
は3年間。非常に貪欲で共食いだってするし、自分のウンチまで食べてしまうらしい。
それどころか人間の言葉まで話せてしまう、不思議な動物。

コレだ、と思った。この生き物だ。
自分に足りないもの———友達。
そうだ。自分には友達がいない。
この生き物を友達にしよう。

何が彼女にそう思わせたのか。その見てくれではなく、かといってその生態でもなく、
その境遇だ。「ジッソーセキ」というこの生き物は人間に虐げられ、どんどん数を減らし、
とうとう最後の一匹になってしまったらしい。この図鑑に載っているのはもういなくなる
ことが確実だからだ。
会ってみたかった。世界から消えてしまいそうな生き物。

世界で最後のジッソーセキと一人ぼっちのお嬢様。友達になれそうじゃないか。

いざ欲しくなってみると、もう欲しくて欲しくてたまらなくなった。普段から好きなだけ
与えられている癖が出てきた。いや、違う。今までは何となく欲しくて買ってもらって
いただけだ。今度は違う。今度は本当に欲しい。ジッソーセキが欲しい。
テレビを見てもジッソーセキの話題ばかりが目に付く。
人間にひどいことをされている画面もたくさん出てきた。
腕を切られてるジッソーセキ。
眼をくり抜かれたジッソーセキ。
お腹を広げられたジッソーセキ。
子供を食べているジッソーセキ。
ウンチを漏らしているジッソーセキ。
人間に罵声を浴びせるジッソーセキ。
ジッソーセキ、ジッソーセキ、ジッソーセキ…

とうとう彼女は我慢できなくなった。最後の一匹だが欲しい。自分の傍に置いておきたい。
そうやって母親の前でおねだりした。
そうだ。自分はお嬢様なんだから、それぐらいのワガママはみんな聞いてくれるだろう。
今まで欲しいものは何でも買ってもらえたじゃないか。
いや、今まで買ってもらえたものはもういらない。
今は友達が欲しい。ジッソーセキだけが欲しい。
母親は困った顔をして言った。お願いは聞けないわ、最後の一匹だもの。他に欲しいものは
ないの?
ない。あるはずがない。自分が欲しいのはジッソーセキだけ…

———違う。
欲しいものがもう一つあった。これだけは部屋に置いておきたかった。前におねだりしたら
絶対にだめだと言われた。あの時はまだ小さくてよくわからなかった。でも、今ならきっと
買ってもらえる。見てみたい。それを使って———

「鏡が欲しいデスゥ!」



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1 Re: Name:匿名石 2016/08/16-12:51:22 No:00002478[申告]
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