敷金・礼金無料 3 俺の名はやおあき。 自らは手を下さない、観察型の虐待派だ。 俺は友達のにじあきと協力して、五組の賢い実装石一家をさらって来た。 今彼女達は、俺達が整えた(実装石にとっては)最高の住処…古い木造アパートの中に居る。 雨風をしのげ、外敵から守られたこの素晴らしい環境の中で、彼女達はどのように生きていくの だろうか? 俺の名はやおあき。 愛車の名前はライドロン。 でもまだローンたっぷり。 ●アカ組:親×1、仔×2 ●アオ組:親×1、仔×4、親指×2 ●キイロ組:成体×2、仔×1、蛆×1 ●ミドリ組:仔×2、親指×1 ●モモ組:親×1、仔×2、蛆×1 以上五家族、親5?匹、仔11匹、親指3匹、蛆2匹…合計21匹。 アパートの構造と部屋割りは、以下の通り。 ■1階 部屋番号は、左上→右下の順で、101〜103、105〜107(104はない)。 (入り口) _ || 青||黄 □||桃 緑||赤 ■||▲ | → 二階へ ‾‾‾‾ □は空き部屋、▲はトイレ、■は風呂場。 廊下の奥、トイレの脇には、二階へ昇る階段がある。 三階や地下室はない。 入り口には鍵がかけられていて、脱出は不可能。 各所にカメラと盗聴器が無数に仕込まれている。 (前回までのあらすじ) 5組の家族は、それぞれ牽制と協力を繰り返しながら、アパートの構造把握を行い、二階への 到達を果たした。 しかし一日目の夜、突然、謎の大騒音がアパート内に響き渡った! ■ 第三話 「グリーンインフェルノ」 ■ ズ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ…… ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ…… ガ・ガ・ガ・ガ・ガ・ガ・ガ・ガ…… 謎の騒音は、廊下に設置されたマイクが拾っていた。 しかし、廊下のどのカメラを切り替えても、騒音の元になるようなものは見当たらない。 もちろん念のため二階も確認したが、もちろん異常は見られない。 こうなると次に疑うべきは各部屋なのだが、いくら壁の薄い木造ボロアパートだからと言って、 部屋の中から発生した音をここまで大きく廊下で拾える筈がない。 …とは思ったが、ひとまず各部屋を確認してみる事にした。 帰宅する寸前だったにじあきも、再び画面に見入る。 まず101号室、アオ組の部屋の様子。 「デヂャアァァッッッ!!! 何デスこの音わぁぁぁっっ?!?!」 「頭に響きまくりテチー!!」 「テチャアァッッ!! ウルチャイテチィッ!」 「これじゃ眠れないテチー」 「ママー、テェェェェン、テェェェェン」 「せっかくネムネムさん来たのにレチ〜」 「レェェェェン、レエェェェェン」 騒音に苦しみ、のたうち回っている。 どうやらここは音源ではないらしい。 次に、103号室。 ここはミドリ組の部屋だ。 気のせいか、101号室の時より騒音が大きい気がする。 ——が。 「ク〜…」 「ムニャムニャ…」 「レチ…スピ〜」 あ、あれ? なんだか、ぐっすり熟睡してますが?! しかし、103号室に設置されたマイクは、あの轟音をしっかり拾っている。 だとすると、ここは相当やかましい筈なのだが。 おかしいな、こやつら高性能の耳栓でも持ってるのか? 「俺の知り合いでさ」 唐突に、にじあきが話し出した。 「一度寝付くと、何があっても絶対自力で起きられない奴が居るんよ。目覚まし時計は隣の部屋の 人間が起きる程大きい音でも全然平気で、全然役に立たなくってさ。家族の誰かが身体を直接 揺すって起こさないと、十何時間でも寝てるんだ」 「そりゃ凄いな、そんな奴居るんだ」 「だから、朝方に待ち合わせなんかとても出来ないから、その時は前の日からうちに泊まらせるん だよ。そうしないと100%遅刻してくるから」 「はた迷惑な奴だなあ、それだけ眠りが深いって事か?」 「まー、一人暮らしは絶対できないタイプだな。このミドリ組も、ひょっとしたらそういうタイプなんで ね?」 「よくそれで、今まで生き延びて来られたもんだと思うが…」 その後も少しだけ様子を窺ったが、騒音など何するものぞという態度で、三匹は惰眠をむさぼり 続けている。 素敵だ、ある意味とっても素敵な奴らだ! 俺は、なぜか妙に感動してしまった。 次は、101号室と向かい合わせの105号室。 ここはキイロ組の部屋だ。 「グググク、ムムムム……デ、デスぅ…」 「これは……らなんで…酷す……スぅ〜…」 「ママァ、パ…うるちゃく…ネンネ出来……チ〜…」 「…レピ〜…」 ここは、キイロ蛆以外はアオ組と同じ反応だ。 蛆だけは…ぐっすり眠っている。 まあ、蛆だしな。 「ここも音源じゃないか」 「なあ、気のせいか、この部屋さっきより音うるさくね?」 にじあきの言う通り、ここはさっきよりかなりうるさいようだ。 キイロ一家の会話すらまともに聞き取れないほどだから、相当なものだ。 という事は、音源がかなり近いという証拠か。 確信を得たような気分で、今度は106号室・モモ組の部屋を確認する。 結論から言うと、モモ一家は全員ぐっすり眠っていた。 部屋の真ん中にモモ親が寝転がり、子供達は全員それによりかかるようにして休んでいる。 誰一匹たりとも、起きてはいない。 ——音は、今までの中で最大の音量で鳴り響いていた。 ズ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ…… ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ…… ガ・ガ・ガ・ガ・ガ・ガ・ガ・ガ…… ズ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ…… ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ…… ガ・ガ・ガ・ガ・ガ・ガ・ガ・ガ…… ズ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ…… ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ…… ガ・ガ・ガ・ガ・ガ・ガ・ガ・ガ…… 「や、やおあき! スピーカースピーカー!!」 「う、うわあぁぁぁっ!!!」 ぷちっ 思わずピンジャックを引き抜いてしまう。 部屋には静寂が訪れ、俺達も一瞬のパニックから解放される。 盗聴しているこちら側すらも驚愕させるほどの大音量。 こんなものが鳴り響いていたら、そりゃ確かに、他の一家はたまったものではないだろう。 さて、音源の出所と正体はわかったわけだが…。 「これってまさか、イビキ、か?」 「た、多分な…」 「実装石のイビキって、こんなにすごいのか?」 「……俺は少なくとも、今まで聞いた事ぁないわ」 「だよ、なあ」 どうやらこのケタ外れのイビキは、モモ一家全員による大合唱の産物のようだ。 なるほど、こんな凄まじい音を毎晩聞かされたんじゃあ、捨てられるのも当然だよなあ。 俺達は深く納得した。 ちなみに、さらに隣の107号室・アカ組を見てみたら、一家は不思議と全員静かに眠りについて いた。 だが、よく見ると食べかけの食料が無惨に散らばっている上に、全員大量にパンコンしている ではないか。 それに、表情も悶絶したままで硬直しているかのようだ。 「これ…まさか気絶、か?」 「気絶、だな」 皆を騙して、まんまと食料を大量確保したアカ組。 その代償は、隣室からの「ジャイア○リタイサル」級音響兵器だったというわけか。 運があるのかないのか、よくわからん連中だな。 なかなか滑稽な落ちではあるが、このモモ組の大イビキはこちらにも影響を及ぼす事になり かねない。 俺達は、揃って家を飛び出し、木造アパートの近くへ向かった。 ズ・ゴ・ゴ…… ゴ・ゴ・ゴ…… ガ・ガ・ガ…… やはり、音が漏れている。 幸い、このアパートの周囲は民家が隣接しておらず、土地が開けているので騒音は適度に霧散 するようだ。 思ったよりうるさくなくてホッとはしたが、これは早急に対策を練らないと、いつか第三者に実験の 存在がバレてしまいかねない。 俺達は、夜空の下で今後の対策を検討した。 ——色々な案が出た。 例外的にモモ組を排除或いは屠殺する……俺の主義に反するからダメ モモ一家の声帯を薬品で潰す……上同 106号室に何かしらの防音対策を施す……実装石達の生活に干渉してしまう上に、我々の姿を 見せてしまう事になる 結局、何をしても俺の存在があいつらに知られてしまいかねない。 何かをポンと置きに行く程度ならともかく、何か大がかりな作業をするのは、この実験ではご法度 だ。 やむなく今回は「しばらく様子を見よう」という事になった。 それに、これだけの安眠妨害要素なのだ。実装石同士で何とかしようとするかもしれない。 にじあきは、俺の判断を「楽観的すぎる」と評したが、実際こんな判断しかできんだろう。 俺はにじあきをなんとか説得し、送り出すと、慌てて自分の部屋に戻った。 □■■ アパートの様子を見ると、キイロ親達とアオ親が廊下に出て、106号室のドアを叩いているところ だった。 だが、中の轟音はどうやら止まらない様子だ(今はこちらに音が伝わらないので、具体的な状況 がわからない)。 どうやらキイロ親1と2、アオ親が乗り込む事になったようだ。 ドアは何の抵抗もなく開き、三匹はモモ一家に近づく。 何やら呼びかけた様子だが反応がないため、アオ親が、モモ親の顔を思い切り蹴飛ばした! モモ親がもんどり打って、脇にいた仔実装を一匹巻き込んでしまう。 さすがにこれは目を覚まさない訳にはいかないようだ。 蹴られた頬をさすりながら、モモ親が起き上がってくる。 音声を繋ぎ直してみよう。 ズ・ゴ・ゴ…… ゴ・ゴ・ゴ…… ガ・ガ・ガ…… 桃「何…るデ……こんな夜……失礼……」 青「うるさい…!! みん……寝られ……ス!」 黄1「いい…減にし……」 黄2「なんとか……いのデスか? この………は…」 桃「寝てい……に……しようもな……デス」 だめだ、仔実装と蛆のイビキだけでも相当な音量で、完全に会話が拾えない。 リンガルソフトも、拾える限りの音声を翻訳してはくれるのだが、部分的に抜けが多くて役に 立たない。 俺は再度音量を絞って、無声映画を見る感覚で奴らのやりとりを眺める事にした。 どうも四匹の態度を見ている限りだと、抗議するアオ・キイロに対して、モモが逆ギレ一歩手前に なっているようだ。 気持ちよく寝ている所を蹴り起こされた上に文句を言われているんだから、気分的には確かに 良くわかるが。 おっと、突然アオ親がモモ親に挑みかかった! マウントポジションを取ってボコボコとモモ親を殴りつけている。 なんか相当ムカつくやりとりがあったようだ。 だが、すぐにキイロ各親が止めに入る。 モモ親はほとんど抵抗できなかったが、すぐに止められたため大したダメージは受けていないよう だ。 キイロ親1が、両者に何か話しかけて退室しようとする。 それにつられてキイロ親2とアオ親も退室する。 モモ親は呆然と取り残されているが、子供達の様子を確認すると、またうずくまって眠りのポーズ に入った。 さっき巻き込んだ子供は大丈夫なのかな? この状態では、よく確認できない。 ま、大騒ぎしてないから多分大丈夫だとは思うけど… 結局、その晩はこちらも眠くなってきた事もあったので、監視を取り止めて眠る事にした。 翌朝、どういう事になっているかを楽しみにしながら…… ■■■ 朝になった。 また昨日と同じくらいの時間から監視を始めるが、モモ組とミドリ組以外の連中は全員目覚めて いた。 というより、結局寝付けなかったようだ。 それぞれの部屋の中は、凄まじい状況になっていた。 子供達はパンコンしまくり、親は皆目の下に大きな隈を作っている。 アオ親とキイロ親達はかなり衰弱しているようで、どうやら一睡もできなかったようだ。 この時点で、まだモモ組のイビキは鳴り響いている。 恐ろしいものだ、こんな環境、俺なら絶対ごめん蒙りたい。 気絶していたアカ組は、途中で目覚めたのか食べ溢した食料を綺麗に片付けたようだ。 まあ、他の一家が部屋に来たら、まずいもんなあ。 しかし、恐らく夜明け前に目覚めてしまったのだろう。 やはり三匹とも、他の一家同様悶絶しまくっていた。 しばらくすると、泣き喚く子供達を誘導してトイレに向かう組が出てきた。 アオ組、キイロ組…そしてアカと、いつのまにか起きてきたミドリ組が続く。 トイレを順番に使い、それぞれのパンコン内容物を処理していく。 その間、待たされている他の家族は、この騒音問題について相談を始めているようだ。 くそっ、音がうるさくて聞き取れないじゃないか! 子供達のトイレが済み、昨日同様お風呂での洗浄が済むと、一家は階段へと向かった。 今日はアカとアオ親、そしてすべての子供達が一階に残り、キイロ親1と2とミドリ姉が、 縄ばしごを昇っていく。 二階に辿り着いた三匹は、まず二階の廊下を端まで移動し、それからそれぞれの部屋の様子 を確認するようだ。 ここで、二階の構造をお伝えしておこう。 ★2階 部屋番号は、左上→右下の順で、201、202、203〜206(204はない) ____ ▲||□ □||□ ■||□ | → 一階へ ‾‾‾‾ ※□空き部屋 ■は洗面所 見ての通り、二階は一階より狭く、またトイレや風呂がない。 洗面所があるが、これはかなり工夫しないと実装石には使えない高さにあるので、水場はない に等しい。 さらに、階段という巨大な段差があるため、実装石がここで暮らし続けるのはかなり厳しい だろう。 仔実装はおろか、成体でも階段から落ちたらかなりやばい。 賢い実装石なら、この二階の住み難さをすぐに理解し、絶対に使用しないだろうと想定し、俺は この部屋の各所に様々なものを準備しておいた。 さて、キイロ親達とミドリ姉は、これからどうするだろうか? …え、▲マークの201号室は何かって? まあ、これについてはい・ず・れ♪ 一階の探索の時に慣れたのか、今度は手前から次々に部屋を開けていく。 206号室を開け、205号室を開け、向かいの202号室を開け、201を開け…ようとして、止まる。 ここで、二階の廊下の音を拾ってみよう。 幸い、モモ組の騒音はそんなに響いては来ないようだ。 いやまったく聞こえてないわけじゃないけど。 黄1「こ、この扉だけ、開かないデス!」 黄2「みんなで力を合わせて見るデス!」 緑「わかりましたデチ。せーのっ!! う〜ん…」 一応実装石用の取っ手は取り付けてあるんだけど、この部屋だけは、たとえ全員が力を合わせ ても開く事は不可能だ。 だってここは、まだ開くのが早すぎるんだもん。 だから、今はガッチリと鍵が掛けられている。 数分間頑張って、早々に諦めた実装石三匹は、隣の202号室の様子を窺う。 どうやら、危険因子はどこにも見られないと解釈したようだ。 二階の部屋は、一階の部屋とまったく同じ構造。 ただ、少しだけ違うのは、二階の方が日当たりがいいという事。 特に201、202号室側は西日が当たるため夏場はかなりきつくなる。 さて、実はこの部屋のすべてに仕掛けが施してあるんだが、気がつく者は出てくるかな? 「変なものがあるデス」 最初に違和感を唱えたのは、ミドリ姉だった。 開けているのは206号室。 部屋に入ってすぐ左手側を覗き込むと、そこには大きな段ボールが置かれている。 高さは25センチくらい、横幅は80センチ、奥行きは40センチ前後の直方体型だ。 黄2「これは何デス?」 緑「開けてみるデチか?」 黄1「それより今は、下の皆さんを避難させる事が最優先デス。調べるのは後回しデス」 キイロ親1が陣頭指揮を執り、二匹が素直に同意する。 そうか、こいつらモモ組の騒音から逃れるために、二階への移住を考えてるのか。 しかし…… 三匹はすぐに一階へ降り、待っていた親達に事情説明を始めた。 一階廊下にカメラを移すと、また音声を止めないとならないから、具体的な相談内容は わからない。 ともあれ、全員一致で二階への移動が開始される事になった。 って。 子供達はどーするのよ? …という俺の疑問には、あっさり解答が提示された。 一番最初に行動を起こしたのは、キイロ組だった。 まず、キイロ親2がキイロ親1の後ろ髪の末端を左右で結び、さらに何本かの毛を束ね、 キイロ蛆の胴体を軽く縛る。 続けて、キイロ親1がキイロ親2の後ろ髪を同様に処理して、そこにキイロ仔を乗せる。 キイロ仔はキイロ親2の髪にしがみついてはいるが、足場がカゴ状になっているため、かなり 落下しにくい状態になっている。 60センチ級の親二匹に、10センチ前後の仔実装と数センチの蛆実装がつかまる。 これなら、かなり安全に昇降できる筈だ。 キイロ親達は、あっさりと昇降を終え、子供達を一旦206号室に置いて再び戻ってくる。 次に、アオ親とアカ親の髪にも同様の処理を行い、一匹ずつ子供をしばる。 ただし、ミドリ姉だけは体格差の問題で厳しそうなので、キイロ親1が代わりに運ぶ事にする。 他の家族の髪に縛られるためかミドリ仔は相当嫌がっていたが、ミドリ姉の言葉ですぐに静か になったようだ。 この状態で、第二陣が昇降する。 まずはアカ仔1、アオ仔1、ミドリ仔の三匹が206号室に置かれる。 ミドリ姉はそのまま206号室に残り、先のキイロ仔達と合わせて子供達を管理する係を担当 する。 下ではキイロ親2が子供達を預かり、親達の帰還を待つ。 やがて降りてきた親達に、子供達が歓喜する。 それを再び制して、またキイロ親達が各親の髪に子供達を固定していく。 キイロ親1もミドリ親指を運び、第三陣が昇っていく。 これでアカとミドリの一家とキイロ仔達は、全員二階への移動を済ませた事になる。 第四陣、残りはアオの仔4匹のみだ。 これを、キイロ親達とアオ親で、一気に運び切る。 最後はアオ親指は二匹同時運搬になったが、アオ親の髪の中にいたせいか特に暴れる事も なく、無事に移動を完了した。 ものの十数分で、モモ組を除く一家はあっさりと二階へ移動を済ませてしまった。 俺は、キイロ親達の素晴らしい機転の利かせ方に、心底驚愕させられていた。 「すげえ…」 思わず声が漏れる。 キイロ親達の賢さと、素早い機転の利かせ方は、ハンパじゃない。 よく考えたら、実装石のあの「細かい作業が苦手」な筈の手で、よく髪を縛るなんて芸当が 出来たものだ。 恐らく、実際の縛り方は簡素なもので、各親の髪の量の豊富さを活かしたのだろうが、それに しても凄い。 また、事後の髪ほどきは他の実装石でも容易に出来るように工夫していたらしい。 俺は手帳を取ると、キイロ組の項目に多くの丸印と賛美の言葉を書き連ねた。 虐待派の俺だが、こういう「意外な活躍ぶり」を見せられるのは、とても楽しい。 それに、こういう機転劇は望むところだった。 思ったよりも早く「良い場面」を見る事が出来たので、俺は朝から大満足だった。 その後、あらたな部屋割りが行われた。 ★2階 部屋番号は、左上→右下の順で、201、202、203〜206(204はない) ____ ▲||赤 青||黄 ■||緑 | → 一階へ ‾‾‾‾ ※□空き部屋 ■は洗面所 ▲は秘密 大移動は、ほぼ徹夜明けの身体にはさすがにきつかったようで、ミドリ組を除く一家は部屋に 入ると早々に眠りについた。 実は、二階でもまだモモ騒音は響いていたのだが、一階に比べれば相当マシなようで、疲れ きった家族の睡眠の邪魔にはならなかった。 さて。 次に行動を起こしたのは、ミドリ組だった。 彼女達が入った部屋は、例の段ボールが置かれている部屋。 当然ながら、仔実装と親指はこれに気付き、興味を示し始める。 仔「オネーチャン、この段ボール何テチ?」 姉「わからないデチ。最初からそこにあったデチ」 親指「中を見てみたいレチ。オネエチャン開けてレチ」 姉「それは勝手には出来ないデチ。皆さんと相談して、後から皆で開けるる事にしたデチ」 仔「エエー」 親指「きっとこの中には、おいしいご飯やお菓子が一杯詰まってるレチ!! 皆で開けたらすぐに なくなっちゃうレチ!!」 仔「そんなのイヤテチ! 昨日だってご飯ちょっとしか食べてないテチ。オネエチャンお願いだから 開けてテチ!」 姉「絶対ダメデチ! 皆さんとの約束を破る事になるデチ」 仔「なんで皆の事まで気にするテチ? オネエチャン前に言ったテチ。自分達が生き延びるための 最大の努力をするテチって」 姉「それはこれとは全然関係ない事デチ」 親指「レェェェェン、お腹すいたレチィィィィ!!!」 姉「…そんな…」 ミドリ姉は、ダダをこねる妹達に困惑させられている。 どうやら、箱の中身を勝手に食料だと想定しているらしい。 そうか、こいつらは家を持ってないから、段ボール=住居という関連を思いつかないのか。 箱は、ちょっと無理すればミドリ姉でも開けられるようになってはいる。 しかし、ミドリ姉はこれを開けるか…? 言うまでもないが、この206号室の段ボールは、この部屋の仕掛けそのものなのだ。 仕掛けというよりは…トラップかな? 仔「開けて開けて開けてテチー! このままだとワタチ死んじゃうテチー!」 親指「ワタチ、お腹空かせたオネエチャンに食べられちゃうレチー」 その言葉に、ミドリ姉が敏感に反応する。 おや、急に顔が真っ青になったが… 姉「わ、わかったデチ。だから、お前は親指ちゃんを食べちゃダメデチ」 仔「テチー! 開けてくれるテチ?」 親指「レチー♪ 助かったレチー」 あれまあ、随分とあっさり約束を反故にしちまうようだ。 意外に信用ならんな、このミドリ姉は。 姉「じゃあ、ちょっと開けるだけデチよ? この中には、きっと二人が期待しているようなものは ないデチ」 仔「いいから早く開けてテチ!」 親指「お腹がもうペコペコレチー」 姉の言う事が全然耳に入っていない妹達。 なんか…俺が求めている「賢さ」とはちょっと違う気もするが…まあいいか。 段ボールの高さは、せいぜい25センチ。 簡単には倒れないように、横長の段ボールにしているが、身長40センチ級のミドリ姉なら なんとか蓋を開けられる。 当然ガムテープで閉じたりはしていない。 ミドリ姉は、横から蓋の片方を開くと、妹達をもう一方の蓋に乗せて中を覗かせた。 姉「ほら、みんなが思っていたようなものでは……」 親指「お菓子レチー♪」 仔「一杯あるテチ! すごいテチ!! 感動テチ!」 姉「………どえっ?!」 歓喜して蓋の上で転がる妹達と、あんぐりと口を開けて中を覗き込む姉。 そして、それを見て腹を抱えて笑う俺。 そう、実はミドリ親指の予想はずばり的中していたのだ。 実装石は、こういう物を見た場合、いつも自分に都合のよい妄想を張り巡らせる。 「きっと中にはご飯が」的発想…いわゆる幸せ回路だな。 しかし、そんな都合の良い事態がそうそう起こる筈などない。 ——普通ならば。 だが俺はあえてその逆を突いて、「実装石が考えそうなもの」をそのまま用意しといてやった のだ。 あの箱の中には、ぎっしりと駄菓子・スナック菓子・金平糖・甘い清涼飲料水が詰められている。 しかもその量は、俺ですらちょっと運び辛いほど。 これらは元々にじあきの自宅ストックで、賞味期限切れのものばかりを選んで詰めたものなの だが、実装石達にとっては嗜好のご馳走ばかりだ。 もちろん、毒やコロリ、ゲロリの類はまったく仕込まれていない。 野良実装とはいえ、公園でそれなりに生活していれば、菓子袋の区別くらいは付くだろうと 思ったが、想像以上の効果だ。 突然のお宝発見に、妹達は発狂寸前レベルの大歓喜に打ち震えた。 姉「こ、こんなバカなことが…どうしてこんなものが、ここにあるデチ?!」 仔「オネエチャン、早く出して食べさせてテチ!」 親指「もう我慢できないレチ!!」 姉「ま、待ってデチ! これは、やっぱりワタシ達だけでは…大事な食料だから、みんなで ちゃんと分けるデチ!」 仔「だったら、親指ちゃん食っちゃうテチ!」 親指「キャー、オネーチャーン♪」 ミドリ仔が、ミドリ親指を抱き上げて頭にかぶりつこうとする。 ミドリ姉はそれを必死で止め、諦めたような表情で箱の中身を見つめる。 その瞬間、ミドリ仔と親指が目線を合わせてチププフと笑った事を、俺は見逃さなかった。 なるほど、そういう事か。 観念したミドリ姉は、箱の中に手を入れて一番手近にあった「仔逝け屋スコーン」の袋を取り 出した。 少しだけ格闘したが、なんとかばりっと袋を開ける。 さぞ豊潤な香りが漂っているのだろう、妹達だけでなく、ミドリ姉までうっとりした表情を浮かべて いる。 さて、スコーンを食べた事のある人ならわかると思うが。 これは、美味いけどものすごく味の濃いものだ。 この箱の中には、わざとそういう「味覚破壊的に味の濃いもの」ばかりが詰められている。 清涼飲料水にしてもそうだ。 合成着色料や甘味料大量投与の、きっつい奴ばかりをわざと選んだわけだ。 こんな物にハマってしまったら、もはや粗食に耐える事など出来はしない。 しかし、それだけに誘惑の強さは凄まじい。 これを振り切るには、相当な賢さに加え、精神力の強さまで求められる。 この部屋・206号室の正式名称は“堕落の間”。 そしてミドリ仔と親指は、堕落の魔力にまんまと魅入られてしまったのだ。 ミドリ仔と親指は、ミドリ姉の手にした袋の中にダイビングを敢行。 中身をぶぁりぼりと食い漁り始めた。 姉「こ、こら! いきなりそんなに食べちゃダメデチ! 一かけらずつデチ! それ以上は食べ ちゃダメデチ!」 仔「もう止まらないテチ! 遅いテチ!」 親指「レプププ! 中身は全部ワタチ達がもらったレチ」 仔「嗜好の美味テチ〜♪」 親指「この味と比べたら、今まで食べてきたご飯なんか、ブ 〜 タ 〜 の 〜 エ 〜 サ 〜 レ 〜 チ 〜 ♪ ♪」 ミドリ仔とミドリ親指は、天使の輪と羽を生やし、宙に浮かび始めた。 それを、呆然と見つめるミドリ姉。 …イメージビジュアル、イメージビジュアルなんだ、これはきっと。 結局、ミドリ姉はスナックを一口も食べないまま、妹達に中身をごっそり食い尽くされてしまった。 スコーンの袋は、ミドリ仔とミドリ親指を一緒に詰め込んでしまえるほどの容量がある。 その中身が全部一気になくなったのだ。 となると、次に来るのは、当然アレだ。 仔「う、ウンチ出るテチ!」 親指「ワタチもレチ! 早くおトイレレチ!!」 姉「えっ? えっ? 何その神技的消化速度デチ?!」 仔「が、我慢出来そうにないテチ!」 姉「だ、ダメデチ我慢するデチ! ここでウンチしたら皆さんに迷惑がかかるデチ! つかバレ ちゃうデチ!」 親指「そんなの知らないレチ! ああ、もう漏れちゃうレチ〜…」 ぷりぷり どちらかが、袋の中で漏らしたらしい。 続けて、妹達の悲鳴が聞こえてくる。 ミドリ姉も、惨劇極まる状況になりつつある袋を手放すわけにもいかず、途方に暮れている。 姉「ど、ど、どうしろと言うんデチ〜?!?!」 あ、これよく見たらハメ成立してんじゃん(笑)。 トイレに移動しようにも、ここは二階。 しかも、部屋から出ようにもドアは手を使わないと開けられず、しかも手は両方とも袋を支えて いるので動かせない。 しかも、部屋を出られたとしてもどんどん溢れるグリーンインフェルノの恐怖がある。 さらに加えて、糞を一度逃がすための別な袋もない。 他の家族も熟睡しているから、助けを求められない。 ミドリ姉、完全に動きを封じられてるよ。 ミドリ組、絶体絶命の大ピンチ! 姉「な、なんとかしないと…ど、どうするデチ?!」 仔「出ちゃったテチ〜♪ …?! ウゲボゲボ?!?!」 親指「レピャアアッッ!! う、ウンチ大洪水レチ〜!」 姉「デ、デェッ!?」 ぶりゅんぶりゅん、ぶりゅりゅりゅりゅ… 仔・親指「「このままだと死んじゃうテチー!!(レチー!!)」」 袋の中では、二匹が漏らした大量の糞が溜まり、口に出すのもおぞましい状況になっている。 しかも、ミドリ姉の手もプルプルと振るえ始めている。 糞の重さが追加されたせいかな?<注:本来そんな事はありえません 姉「も、もうダメデチ〜!! …って、アッ!」 ピコーン♪ …パリン 限界に達したミドリ姉の頭の上に、電球が浮かんで割れた。 おい、普通は光るだけじゃないのか? 一瞬幻覚を見た俺の目前で、ミドリ姉は、突然予想外の手段に出た。 姉「どっせい!」 どぼぁっ! 仔・親指「「テチャアァッッ?!!?」」 ミドリ姉は、突然袋を投げ捨てた。 ビニールシートの上に、袋と大量の糞、そしてミドリ仔と親指が投げ出される。 まさにグリーンインフェルノ! 糞の海の中で悶絶している妹達をよそに、ミドリ姉は突然段ボールの中に手を入れると、 新しいスナック菓子を取り出し、開封し、徐にそれをほおばり始めた。 バリボリバリボリバリボリ…… あっという間に中身を空っぽにすると、その中に妹達を詰め込んで抱え上げる。 体当たりでドアを開け、階段へと運ぶと、今度は一段降り、妹袋を引き下ろし、また一段降り、 また引き下ろしを繰り返す。 仔・親指「「デチャ?! テチ、レチ、テチ、レチ?!?!」」 段差から引き摺り下ろされる度に、悲鳴が上がる。 姉が抱き止めて下ろしているため、ダメージは行かないようだが、相当怖がっているらしい。 一階まで降りてしまったミドリ姉は、そのまま風呂場へ直行すると、妹達を袋から桶に移し、 大量に水を注ぎ込む。 仔・親指「「ゲボ?! ゲボガボゲボガゲボ…!!」」 表面にこびりついた糞をあらかた流し終えると、二匹を引きずり出し、ボディソープを振り掛ける。 姉「今のうちに身体を洗って、ウンチの匂いを落とすデチ!」 仔・親指「「テ、テチャアァァァッ!!!」」 大泣きする妹達に無理矢理言う事を聞かせると、ミドリ姉は風呂場に零れた糞の痕跡を出来る 限り流し去り、入念に確認する。 妹達が身体を洗い終わると、また大量の水を流して泡を落とす。 ずぶ濡れの妹達を連れたミドリは、2階には戻らず、今朝まで居た103号室へと向かう。 当然、妹達は素っ裸のまま、服は隅の方に置かれて乾燥待ちだ。 ここまで来て、ミドリ姉がやっと怒り出した。 姉「だからダメだって言ったデチ! 罰として、二人ともここで反省してるデチ!」 仔・親指「「テ、テチ〜…」」 姉「お姉ちゃんは、これから後始末をしてくるデチ。戻ってくるまで、そこでじっとしているデチ!」 初めて見るきつい戒め。 あれだけワガママ三昧だったミドリ仔とミドリ親指はすっかりおとなしくなってしまい、部屋の 真ん中でしょんぼりする。 それを確認したミドリ姉は206号室へ急いで戻ると、妹達の粗相の跡を眼前に、途方に暮れる。 さて、ここをこのままにしていたら、後で他の家族が来た時に言い訳が難しくなるわけだが、 どうするかな? 清掃道具は不十分、しかもこいつらはまだ雑巾として使用できそうな布類を発見していない。 この大量の糞を始末するためには、相当な手間と苦労が必要とされる筈なのだが。 しばらくためらっていたミドリ姉は、やがて覚悟を決めると緑の海に近付き、そっと顔を寄せる。 え、まさか… 「うげっ!」 ぐちょずちょべちょべちょげちょべちょべちょべちょ… (●д○) ……お食事中の皆様、大変失礼しております…… (●A○) どれくらいの時間が経っただろう。 とにかく色々と壮絶な展開があって、206号室の床は、信じられないほど綺麗になっていた。 粗相の跡など、ほとんどない。 ひょっとしたら匂いが残ってるかもしれないが、モニター越しだと全然わからない。 …そうなる行程を一部始終見てしまった俺は、激しく後悔の念にさいなまれていた。 肝心のミドリ姉は、真っ青な顔をして腹をパンパンに膨らませ、口を手で必死で抑えている。 そのまま一階のトイレまで降り、激しく嘔吐する。 そして、まとめて大量の糞を流した。 しかし、よくあの絶体絶命状態から、ここまで切り返したものだ。…お見事なり、ミドリ姉! だが、おかげで俺は朝飯食えなくなったがな……おえっ ふと見ると、モモ親と子供達が廊下に出てきた。 睡眠も充分取れたようで、随分すっきりした顔をしている。 トイレの前で力なく座り込んでいるミドリ姉の姿を見つけ、何か話しかけている。 おっと、そろそろ廊下の音声を戻そう。 桃「どうしたデスか? エプロンがウンチで汚れてるデス」 緑「こ、これはちょっと…い、妹達が…いやいやワタシが…あのその」 桃「とにかく、お風呂場で洗濯するデス。お手伝いするデス」 緑「あ、ありがとうデチ…うげ」 おお、モモ親がミドリ姉を風呂場へ導いている。 なかなか素敵な光景だ。 ミドリは前掛けを外してモモ親に洗濯してもらい、その間に自分は口の中を徹底洗浄している。 それにしても、モモ組の大騒音といい、ミドリ組のとんでもない行動といい、なかなか楽しませて くれるわい。 俺は、早速にじあきにこの報告をする事にした。 ■■■ その日の昼過ぎ。 ここに至って、ようやくミドリ組以外の家族が一階に居ない事に気付いたモモ組は、ミドリ組の 部屋を訪ねて事情を聞いていた。 そこで、騒音問題についてあらためて聞かされた。 困惑したモモ親は、とりあえずミドリ姉と一緒に二階へ向かう事にしたようだ。 どうやら、一応詫びを入れる気になったらしい。 だが、ここで問題が発生した。 桃「お二階に上がったら、子供達の面倒を誰も見られないデス〜。困ったデス〜」 緑「子供達を出さないようにしたらいいデチ?」 桃「うちの子達は、ママがいないとすぐ泣いてしまうデス。蛆ちゃんは寂しくて死んじゃうかも しれないデス。それだけ甘えん坊なんデス」 緑「うーん…それは弱ったデチ」 さすがに、ミドリ姉はそれぞれの子供同士を一つの部屋にまとめる気はないらしく、他に提案が 思いつかないようだ。 仕方なく、ミドリ姉は二階のメンバーを一階へ呼び出す事にした。 どちらにしろ、食事もしなければならないため、彼等はもう一度一階へ降りなければならない。 そこに気付いたのだろう。 緑「では呼んでくるデチ」 桃「よろしくお願いしますデス」 えっちらおっちらと縄ばしごを昇っていくミドリ姉と、それを眺めるモモ親。 十数分後、ミドリ姉に呼ばれた各一家は、再び一階へ降りてきた。 102号室で皆の到着を待っていたモモ親は、当然のように三家族から責め立てられる。 だが、本人はケロッとしている。 桃「よくわかりませんが、皆さんが迷惑するような事をしたというなら謝るデス。でも、本当は そんな小さな事でとやかく言われたくないデス」 青「そんな小さな事デス?!!? あんた、それ本気で言ってるデス?」 黄「自覚ないかもしれませんが、あなたのイビキは本当に凄まじいんデス。このままだとみんな 不眠症になってしまうデス」 桃「でも、こちらの方は全然気にされていないデス。あなた方が神経質すぎるだけではないデス か?」 そう言って、モモ親はミドリ姉を指差す。 いきなり話を投げられたミドリ姉は、戸惑いながら他家族の視線を受け止めている。 青・黄「ホントデスか?」 緑「え、あ、あの…多分……本当、デチ」 赤「あんな轟音の中で平気だなんて、ある意味凄いデス」 突然喋り出したアカ親に一同驚くが、すぐに何事もなかったかのように話は進む。 とりあえず、今夜はどうやってイビキ対策をするのかという話になるが、そんな事、実装石達に 思いつくはずがない。 結局、モモ組だけが引き続き一階に住み、残りは二階に住む事に決まったようだ。 アカ親とアオ親は大変不満そうだったが、キイロ親1が必死で説得した。 アオ親は、モモ親をぶっ殺してしまいそうなほどの剣幕だが… アカ「でも、子供達を連れていちいち上から降りてくるのはしんどいデス。なんとかならないデスか?」 アカ親の提案に、今度は皆が頭を悩ます。 だが意外にも、ここでモモ親が名案を提示してきた。 桃「エレベーターを作るデス!」 赤・青・黄・緑「「「「エレベーター?」」」」 桃「ワタシの家にあった、子供達用のおもちゃの事デス。子供達を高い所に引っ張り上げる 仕組みで、意外に単純な作りデス。多分工夫して同じ物が作れるデス」 モモ親の提案はこういうものだった。 まず、仔実装を乗せられるサイズの箱かカゴを探す。 それを紐のようなもので結び、二階から下へ垂らす。 この時、カゴだけでなくもう一方の端も下に垂らしておく。 移動させたい子供を乗せた後、もう一方の端を親が引く。 するとカゴは上昇し、子供は無事に二階へ辿り着く。 説明だけでは皆今ひとつ理解が及ばなかったようだが、「つまり子供を背負って階段を上らなく ても済むようになる」という説明が決定打になって、満場一致で決定した。 なかなか面白い事を考えるなと感心するが、問題は、その材料の調達だ。 果たして、そんな都合の良いものを作りだせるものか? そんな事を考えていると… 黄1「ひょっとしたら、それに使えるものがあるかもしれないデス」 キイロ親1の発言に、皆の意識が集まる。 黄1「実はさっき、ワタシ達が入った部屋の中に、色々な道具があったデス。これを利用すると いいかもしれないデス」 赤・青「「デスデス、それは是非にデス」」 いつのまにか、アカ親はちゃっかり話の輪の中に混じっている。 まー、自分も仔輸送の難儀さから解放されるとあれば、そりゃ話にも混じるだろうて。 キイロ親1の案は即座に採用される事になった。 102号室での食事を終えた面々は、それぞれトイレと風呂を使うと、裸ではしゃぎ回る子供達を まとめてミドリ姉とキイロ親2に預け、残りで205号室へ向かう事になった。 205号室。 ここは、いわば技術力を試すための部屋。 あえて命名するなら“知恵と技術の間”だろうか。 隣の“堕落の間”とは、正反対の性質の部屋といえる。 ここの押入れには、段ボールやタコ糸、ビニール袋やトイレットペーパーなど、様々な道具が 収められている。 ここにキイロ組が入った時点で、いずれ気付かれるだろうとは思ったが、さすが利口さでは ダントツのキイロ親達、早速活用法を見出したようだ。 205号室内でキイロ親1が引っ張り出したのは。 無数の段ボール。 大量のタコ糸。 トイレットペーパー12巻まとめ。 沢山のビニール袋…これはコンビニ袋からポリ袋、厚手の梱包用まで各種揃っている。 宴会用の紙コップお徳用。 竹串。 カッターが二本。 以上7種類。 段ボールとビニール以外は、あまり実装石達には馴染みのないものばかりだ。 段ボールは、かなり豪華な段ボールハウスを家族数分構築できるだけの量がある。 最大の物は、その気になれば人間の三歳児くらい入れる大きさのものだ。 しかも、ほとんどが新品である。耐久性だってばっちりだ。 タコ糸は、やや太めのものを用意してあるが、実装石達にとってはやや細めのロープくらいの 対比になる。 もちろん、糸には切れやすくなる様な細工は一切施していない。 桃「カゴは段ボールを使うデス。これが丁度いいデス」 モモ親は、一辺が20センチ程度の立方体の小型段ボールを選んだ。 あれは、携帯トイレにでも使えるようにと準備しておいたものだ。 モモ親は、さらに厚手のビニールを選び、それを箱の中に敷き詰めようとする。 だがビニールの方が大きすぎ、うまく収まってくれない。 困ったモモ親を助けたのは、意外にもアオ親だった。 青「これを使うデス」 手にしたのはカッターだ。 チキチキと刃を出すタイプの奴で、これを器用に使って余ったビニールをカットしていく。 なんと、野良とはとても思えない鮮やかな手つきだ。 桃・黄「「すごいデス!」」 赤「どうしてそんな物を使えるデス?」 青「昔これと似た物を拾って、しばらく護衛用の武器として使っていたデス」 えっへん! と胸を張るアオ親が、ちょっとだけ可愛らしい。 調子に乗ったアオ親は、モモ親の指示に従って、さらに材料をカットしていく。 その様子に、他の親達が感嘆の声を上げる。 アオ親本人もまんざらではないようで、すっかり有頂天だ。 続けてタコ糸を切り、竹串を取り出すと四隅に穴を開け、そこに糸通していく。 それをてっぺんでキイロ親1が結び、さらに長いタコ糸に結び付けて固定する。 小さな段ボール製のかごは、まるで風船のない気球のような形状になった。 なんと、ものの二十分もしないうちに、エレベーターのかごは完成してしまった。 桃「皆さんの協力のおかげで完成したデス! ありがとうございますデス!」 黄「みんなすごいデス。ワタシも、こんなのとても思いつかなかったデス」 青「早速試してみるデス」 赤「下にこれを垂らして実験するデス」 早速、皆でカゴを運び、設置場所を選ぶ。 四匹は、二階の階段のすぐ手前にある手すりの隙間を利用し、ここをエレベーターの基部とする 事にした。 手すりの桟は、丁度20センチ強の幅が開いているため、カゴを通す事も、カゴから子供達を移動 させる事も可能に思えた。 桟にタコ糸を絡ませ、するするとカゴを下へ下ろしていく。 そして、もう一方のタコ糸の束も一緒に下に落とす。 これで、準備は整った。 それにしても、自力でこんなもの発明してしまうなんて、モモ親もなかなかあなどれないな。 モモ組の失態は、どうやらこのエレベーター設置のアイデア提供で相殺されたようで、いつの間 にか親達の間ではなごやかな雰囲気か漂い始めていた。 ——だが。 まさかこのモモ稀代の傑作が、後にアパート初の犠牲者を生み出す結果になろうとは、この時 誰も思っていなかっただろう。 いや、俺は容易に想像出来たんだけどね。 そしてこの時。 もう一つの、俺ですら想定外のトラブルが、水面下で少しずつ進行していた。 そう、先日アカ親が食料を隠した102号室の押入。 彼女達は気付かなかったが、そこには、取りこぼされた餌粒が何個が残されたままになって いたのだ。 ——実装石のアパート内は、この後、凄惨な事態に見舞われ始めることになる。 (続く) ----------------------------------------------------------------------------- ■ 現在の状況 □ ●アカ組:親×1、仔×2 ●アオ組:親×1、仔×4、親指×2 ●キイロ組:成体×2、仔×1、蛆×1 ●ミドリ組:仔×2、親指×1 ●モモ組:親×1、仔×2、蛆×1 犠牲者:ゼロ ● 覚え書き ○ ・205号室の段ボール他多数の道具 ・206号室の箱の中のお菓子
