敷金・礼金無料 2 俺の名はやおあき。 自らは手を下さない、観察型の虐待派だ。 俺は友達のにじあきと協力して、五組の賢い実装石一家をさらって来た。 今彼女達は、俺達が整えた(実装石にとっては)最高の住処…古い木造アパートの中に居る。 雨風をしのげ、外敵から守られたこの素晴らしい環境の中で、彼女達はどのように生きていくの だろうか? 俺の名はやおあき。 愛車の名前はライドロン。 でも田舎住まい。 ●アカ組:親×1、仔×2 ●アオ組:親×1、仔×4、親指×2 ●キイロ組:成体×2、仔×1、蛆×1 ●ミドリ組:仔×2、親指×1 ●モモ組:親×1、仔×2、蛆×1 以上五家族、親5?匹、仔11匹、親指3匹、蛆2匹…合計21匹。 アパートの構造は、以下の通り。 ■1階 部屋番号は、左上→右下の順で、101〜103、105〜107(104はない)。 (入り口) _ || □||□ □||□ □||□ ■||▲ | → 二階へ ‾‾‾‾ □は空き部屋、▲はトイレ、■は風呂場。 廊下の奥、トイレの脇には、二階へ昇る階段がある。 三階や地下室はない。 入り口には鍵がかけられていて、脱出は不可能。 各所にカメラと盗聴器が無数に仕込まれている。 こんな環境で行われる大実験。 いくつもの仕掛けとイベントが用意されているこのアパートの中で、彼女達はどんな生活をして、 どんな醜態を見せてくれるのだろうか? ■ 第ニ話 「オペレーション」 ■ 眠い目をこすって、俺は最低限の身だしなみを整えて簡単な朝食を準備すると、愛用のパソコン デスクに腰掛けた。 常時可動しているパソコンの画面を通じ、アパートの中に仕掛けたカメラの映像と、盗聴器からの 音声を拾う。 さあ、一日目のスタートだ。 …って。 まだ寝てるじゃん、こいつら。 □□■ 彼女達の居る部屋の説明をしておこうか。 アパート内の部屋は、すべて畳敷きの四畳半。 雰囲気などはご想像におまかせ。 それぞれの部屋は、廊下を挟んで対象構造になっているが、基本的には同じ造りだ。 大人一人がやっと立てるだけの幅の小さな流し兼キッチンがあり、蛇口が一つだけ設置されている。 もっとも、この高さまで実装石は上がれないから、これは利用できないのだが。 外側に向かって窓が一つあり、これが今のところ唯一の明かりとりになっている。 このアパートには、当然電気やガスが来ていないから、仕方ない。 畳は経年劣化で水分が完全に飛びカサカサになって、部分的にささくれ立っているが、その上から厚手のビニールシートを被せてあるから、移動や生活には支障はない筈だ。 あまりにも大きく破れていたり、仔実装が倒れそうな段差になっているところは、ビニールシートを被せる前に俺達が片っ端から 補修した。 こんなつまらん所で死んでもらっちゃ困るからな。 その他、上下二段式の押入があり、中は空っぽだ。 ここの襖は、あらかじめ成体実装が楽に通れるくらいの隙間を開けてある。 中には何もないが、ここをどういう風に活用するのかも重要な注目ポイントなので、中には暗視カメラ が設置されている。 それぞれの部屋のドアは鍵をかけておらず、またノブ一式は取り外して蝶番にも充分油を差している ので、ある程度の体格の実装石なら、手で簡単に開く事ができる。 ちなみに押し戸なので、最悪の場合、これで廊下側に居る外敵を弾き飛ばす武器にもなる。 もちろん、実装石が引いて開閉出来るようにもしてある。 とはいえ、ドアに鍵がないから外敵にも同じ条件が付加されるのだが、この辺の対策は各自の知恵 の見せ所だ。 設備は以上。 これ以外、部屋には何もない。 本当に、なんにもない。 各家族がこれまでの生活で使用していた物も、ここには一切持ち込んでいない。 テーブルや棚のような家具も、前の住人が使っていた物も、古いポスターやカレンダーなどもすべて 取り払った。 窓にはカーテンすらない。 ここに居れば確かに「安全」な生活は営めるが、決して「幸せで快適」な環境には至れない。 ——これが、「衣食住を保証されたサバイバル」という表現の根拠だ。 そんな四畳半・101号室には、現在21匹もの実装石がまとめて置かれている。 一番最初に目覚めたのは、アオ親だった。 「…デ、デデ?!」 さすがに、ビックリしている様だ。 いきなり見た事もない所で目覚め、しかも、辺りには大勢の見知らぬ実装石。 アオ親は、真っ先に自分の子供達の確認を始めた。 全員揃っていて、問題なく眠っている事を知り、ホッとしている。 次は、他の実装石達への警戒だ。 と、今度はキイロ組の成体の一匹が目覚めた。 「デ?!」 「デシャッ!!」 おっといけない、リンガルソフトを起動してなかった。 これを併用して、マイクの拾う音声を確認しよう。 黄「ここはドコデス? あなたはどこの方デス?」 青「それはこちらが知りたいデス!」 予想通りの会話内容だ。 お互いに警戒心バリバリだ。 あんなに危険な公園で生き延びてきた家族達だもの、この対応は当然だろう。 やがて、アカ組、モモ組、ミドリ仔の大きい奴…ええと、便宜上ミドリ姉と呼ぼうか。 そいつらまで目を覚ましてきた。 最初のリアクションは、だいたい皆同じ。 きょろきょろと辺りを眺め、そして他の実装石の様子を窺う。 それぞれの家族は、モモ組を中央に、四畳半の部屋の四隅まで後退し、対峙した。 真ん中のモモ組は警戒心がないようで、いきなり四隅まで引き下がった各家族の様子を、 不思議そうに見つめている。 アカ親は、目覚めた子供達と固まってガタガタと震えている。 アオ親は、子供達を背後にまとめ、自分が盾になるように立ちはだかっている。 キイロ成体の片方…こちらも、便宜上キイロ親1と呼ぶか。 こいつもアオ親と同様だが、背後の子供達はもう一体の成体実装・キイロ親2に守られている。 ミドリ姉は、子供達同士で抱き合わせ、それをさらに包み込むようにして守っている。 しかし、いずれの視線も部屋の中央で交差している。 モモ親と家族だけは、きょとんとしてきょろきょろと周囲を見回している。 さすが飼い実装、闘争心とか緊張感とかが、素敵なほどに欠けている! 「テチィィィ、こ、恐いテチィィ!!!」 「し、死にたくないテチィッ」 どこかの家族の子供が悲鳴を漏らす。 どうも、態度から判断するに、アカの子供達のようだ。 「あらあらまあまあ、びっくりしちゃったデスか?」 そんな子供達に、モモ親が話しかける。 なんと、無警戒にアカ組の方に歩み寄る。 赤「デ、デデ…!! こ、来ないでデスっ!」 桃「でも、子供達が震えているデス」 赤「ガ、ガクガクブルブル…」 桃「あらあらデス。困っちゃったデス。そんなに怖がらないで欲しいデス」 無防備で緊張感皆無、そして闘争心の欠片も感じさせないモモ親にここまで怯えるアカ組は、ある 意味大したものだ。 もっとも、それだけの警戒心があったから長生き出来たのかもね。 それにしても、アカ組の怯え方はちと尋常じゃないような気もする。 何か、引っかかるな。 しばらくすると、キイロ親1も動き出した。 黄「心配しなくてもいいデス。ワタシ達は、危害を加えないデス」 赤「デ…デデ…ブルブル」 桃「皆さんはお友達デスゥ♪ 仲良くしましょうデス!」 赤仔「テチ…テチ…ブルブルブル……」 青「それより、ここは一体どこなんデス?」 緑「まさか、ニンゲンさんのおうちデチか?」 位置をキープしたまま、アオ親とミドリ姉が声をかける。 キイロ親1は、それに反応すると、部屋の中の全員に呼びかけた。 黄「ここはニンゲンの家か、ニンゲンの持つ何かの施設デス。誰かがワタシ達をここに連れて来たデス」 青「ワタシ達を飼うつもりデス?」 緑「それにしては数が多すぎますデチ」 桃「え? ワタシはご主人様がいらっしゃるから、すぐに迎えに来てくれる筈デス」 呑気なものだ… 俺は、モモ親の言葉に腰が砕けた。 こいつ…捨てられた自覚なかったんかい。 黄「とにかく、ここがどういう所なのか調べるデス。ギャクタイハのニンゲンの家だと大変な事になって しまうデス」 青「デデッ!! そ、それはイヤデスゥ」 緑「ワタシ達もデチ!」 桃「ギャクタイハって、何デスか?」 赤「ガグガクブルブル…」 いつの間にか、キイロ親1の意見に全家族の親達が注目するようになっていた。 もっとも、アカ親だけは相変わらずだが。 目覚めた子供達は、真剣な親達を尻目にそれぞれテチテチと好き勝手に遊び始めている。 中には、他家族の子供達に「コンニチハ」をしてから、仲良く遊び出すのまでいる。 モモ組の子供達なんか、一番最初からはしゃいでいるではないか。 でも、さすがは選りすぐりの賢い実装石の親達。 いつのまにか会議のようなやりとりに発展し、一応の結束のようなものが生まれつつあるよう だ。 黄「では、まずここがどういう所か調べようデス」 青「それから、安全な場所を見つけるデス」 緑「食料もなんとかしないとデチ」 桃「そんなに慌てなくても、じっとしていればご主人様が…」 赤「ガクガクブルブル」 「ママー、蛆ちゃんがお腹プニプニして欲しいって泣いてるテチ」 「ママー、お腹空いたテチ」 「ママー、ウンチ出ちゃったテチー」 「ママー、オモチャがないテチ。積み木で遊びたいテチー」 「レフレフ、レピャアアアン! ママ〜、寂しいレフ〜」 子供達が、示し合わせたように一斉に騒ぎ始めた。 怯え続けているアカ組と、もう一匹成体実装が居るキイロ組は問題ないが、他の家族の子供達は 大変な事になっている。 親達は、ひとまず何か行動を起こそうという方向で話をまとめたらしい。 □■■ 結局101号室からの退出が始まったのは、皆が起き始めてからたっぷり一時間が経過してから だった。 廊下に出ると、皆はその様子に驚いている。 並んでいるドア、暗くてカビくさい空間。 見慣れない環境だから、さぞインパクトがあることだろう。 皆に緊張感がみなぎっている様子が、ひしひしと伝わってくる。 しかし、そんな廊下もあっという間に賑やかになる。 沢山の子供達の鳴き声と悲鳴、嬌声が響いているからだ。 あまりにうるさくて、マイクではもう細かい会話が拾いきれない。 画面の様子を見ている限りだと、それぞれの家族毎に固まって移動し、各所の様子を分担して 探ろうという事になったようだ。 親が命令すると、子供達がきちんとその後ろに並ぶ。 これはすべての家族がやっている。 …と思ってよく見たら、アカ組がいないではないか。 どうやら、まだ101号室で震え続けているようだ。 おかしいな、なんでこいつら、こんなに怯え方が極端なんだ? あの弱肉強食の公園で生き残ってきたとは、とても思えない臆病さなんだが。 各家族が、次々に扉を開けていく。 向かいの105号室が開けられ、102、103と続く。 緑「デチっ! み、みんな来るデチっ!!」 102号室のドアを開けたミドリ姉が、大声で全員に呼びかける。 よぉし、最初の仕掛けに気づいたようだ。 駆けつけた家族は、102号室の中を覗き込み、歓声を上げた。 そこに置かれているのは、大皿にどっさり盛られた「実装フード」。 しかも、一番値の張る高級品。 半練り状で外はカリカリ、中はとろーりという二度おいしいタイプ。 これは芳醇な香りを放つタイプのため、たとえパッと見エサと判別できなかったとしても、食べられる 物だとわかるようにしている。 というか、そういう性質の物を探していたら、こんな高い奴しかなかったんだよな、くそっ。 大半が野良だしなあ、実装フードなんか見たこともないだろう。 部屋の中に漂う芳醇な香りは、全員の食欲中枢をほどよく刺激したようだ。 「テチュ〜ン!!」 「ご飯テチー」 「一杯あるテチ、お腹一杯食べられるテチ!」 「蛆チャンも一緒に食べるテチね」 「レフレフ〜」 何の迷いもなく、子供達が部屋の中に入り込む。 そして、実装フードの山に手を掛けようとするが… 「「「「待ちなさい、デスっ!!」」」」 各家族の親達の鋭い声が、静止をかけた。 ——よし、それでいい。 「テチー?」 「ママなんで止めるテチ? もうお腹ペコペコで死んじゃいそうテチ」 「食べてもいいテチ?」 「我慢できないテチー」 欲望に忠実な仔実装共は、しきりに文句をたれる。 しかし、親達はみんな険しい表情で警戒している。 黄「あからさまに、あやしいデス」 青「その手は桑名の焼き蛤時価一万円デス」 緑「みんな、毒が入っていたらどうするデチ?!」 桃「ちゃんと、いただきますと言ってから食べなさいデス」 モモ親の、余りに的のズレた言葉に、さすがの親達もずっこけた。 無論、俺もずっこけた。 モモ仔二匹とモモ蛆は、「いただきまーすテチ(レフ)」と挨拶すると、皆を差し置いてとっとと 実装フードを食べ始めてしまった。 「アッアッ、ずるいテチー」 「ママー、ワタチ達はまだダメナンテチ?」 「早くしないとなくなっちゃうテチー」 「レピャアアアン」 食べ方こそ粗雑ではないが、モモの子供達は、遠慮なくフードを食べ続ける。 モモ親は、それをニコニコしながら見ている。 他の親達はなおも様子を見続け、モモの子供達がまったく異常を見せない事を確認すると、また 相談を始めた。 とりあえず、これはこれで食べても問題なさそうだという話になったようだ…… それでも警戒心を解いてはいない。 今のところ、黄・青・緑の各親&姉は、同レベルの判断能力を持っていると解釈できそうだ。 この102号室に置かれた実装フードは。 ここの全員が二日間充分に食べていけるだけの量がある。 もちろん、怪しい薬を混ぜたりするのは俺のポリシーに反するので、一切やっていない。 一見大サービスに見えるが、実はこれは、実装石達の賢さを試すための最初のテストなのだ。 これを見て、争奪戦を始めるようじゃダメ。 迷わず口に入れるようではダメ。 たとえ家族ごとに分けたとしても、それを一度に全部食べてしまうようじゃダメ。 親が独占したり、特定の仔にのみ沢山与えるようでも、もちろんダメ。 もし、ここで目に余る行動を取る奴が居たら、そいつらはその時点で強制退去だ。 こんな初歩的な問題で引っかかってしまうようでは、このアパートに居る資格はない。 モモ組が二つ目にいきなり引っかかったが、こいつらは元飼い実装だから、実装フードに対する 警戒心がなかったと見るべきだろう。 それに、こいつらはそもそも危険という物を知らないで生きてきた奴らだ。 他の連中と差が出るのは仕方ないだろうから、最初のうちは多少甘めに見てやるべきか。 俺って優しいよな。 さて。 結局、実装フードの山に全員が挑みかかるという無様な展開にはならず、それぞれの親達が自分達 の必要な分を取り分け始めた。 ちゃんと子供の数に対応した分量に分けているという事は、数の多いアオ組の事を他家族が意識 している証拠と見るべきだろう。 これは、なかなかいい傾向だ。 うまくすれば、理想的な協調性が生まれるかもしれない。 だが、モモ組はこれが全然出来ていない。 一応取り分けはするのだが、分量を計算しないでただ手元に適当に引き寄せただけで、しかも それを、すべて一度に子供達に与えようとしている。 無論、他の親は冷ややかな目で見ているが、当の本人は全然気づいていない。 ただ、自分の子供達が幸せそうに食事をしている様子を眺めて、微笑んでいるだけだ。 飼い実装時代、どういう食生活をしてきたか、なんとなくわかる気がする。 こいつ、突発的なイレギュラーメンバーでなかったら、速攻排除組だな。 とはいえ…ちょっと気になる点を見つけたので、ここもあえて見逃してやるとしよう。 だけど、とりあえず失点1だけは手元のメモに記しておくとしよう。 今のところは、(一部を除き)だいたい合格というところかな。 問題は、さっきから全然出てこないアカ組である。 このまま延々怯え続けていたら、餌を分け取るどころの話ではない。 念のため再度101号室を見てみたら、いまだにあのまんまでガタガタ震えている。 あーあ、テストに参加すら出来ないとあっては、こいつらも強制退去かな。 俺は、アカがどういう生活をしていたか、可能な限り思い出してみた。 アカ一家は、連れてきた家族の中で唯一公園の敷地から離れ、裏に続いている林との境界線辺りに 住んでいた。 そのため人間や同族から襲われる危険は軽減され、また林の中から木の実やきのこ、食べられる 野草を採ってくるため、わざわざゴミ箱を漁ったり近所の農家に忍び込んで野菜を奪ったり、同族を 捕食したりする必要性がなかった。 俺は、それを賢さ故の選択の結果だと思っていたのだが…どうやら単に、同族や人間を避けていた 結果、たまたまそこに落ち着いただけみたいだ。 あっちゃ〜! 失敗した!! これでは、他の実装石達と一緒に居続けたら、恐怖のあまり偽石を自壊させてしまうかもしれんな。 ■■□ 実装石達の食事があらかた終わった頃、にじあきから電話がかかって来た。 『よう、どんな調子だ?』 俺は、ここまでの経過をかいつまんで説明する。 にじあきは、自分が選んだキイロ組とミドリ組の動きに満足の様子だが、やはりアカ組の動きに疑問 を抱いた。 『なあ、良かったら俺もこれから見に行っていいか?』 「迎えに行けないけど、いいか?」 『いいよ、自転車で行く』 さすがニートのにじあき、時間の都合はいつでもつくようだ。 俺は了解の意を伝えると、再び画面に見入った。 □□■ 実装石達が次に取ったのは、それぞれの部屋の様子の確認だった。 食事をして多少冷静さを取り戻したのか、子供達はそれぞれの親の後を一列になって付いていく。 105、106、107、103の順に巡り、そのいずれにも「何もない」事を確認。 次は、廊下の最深部にある、三つの特殊施設。 実装石達も、これは一番最後に確認すべきと感じたようだ。 扉の形も色も違うし、他の部屋に比べて独特の違和感があるから、当然だろう。 色々悩んだ結果、キイロ親1が107号室の横の扉を開ける事になった。 「「「「デ、デデッ?!」」」」 扉の向こうの光景が、あまりにも想定外だったのだろう。 親達は皆で揃って固まった。 107号室の隣にあるのは、和式トイレ。 これが、アパート内第一の水場だ。 ここでは、各部屋で排出された糞を流すためだけでなく、水を使用した各種作業を行う事が可能だ。 幸い便器まで段差がないので、実装石達は危険な目に遭わずに便器傍までたどり着ける。 排水のコックも、成体実装なら問題なく手が届く。 公衆便所を知っている個体なら、すぐに使いこなせる筈だ。 青「ここはトイレデス。子供を産む時に使ったデス」 黄「公園のトイレより安全かもしれないデス。産んだ赤ちゃんも取り上げやすいデス」 緑「でも、お風呂には使えそうにないデチ?」 桃「ワタシは初めて見ましたデス。これはトイレじゃないと思うデス」 モモ親の言葉に、皆が疑問の声を上げる。 ああ、なるほど。 多分モモ親は、トイレというと実装石専用のものか、或いは洋式の便器しか知らないんだろう。 キイロ親1が、無知なモモ親にわざわざシステムを説明してやっている。 どうやら、納得は出来ないものの一応の理屈と用途は理解できたようだ。 桃「いいですかお前達。ここはワタシ達のおトイレデス。今度からここでウンチをするデス」 桃仔「「「ハイママ、わかりマチタテチー(レフー)」」」 なんだか、いつのまにか自分達専用になってしまったらしい。 その言い方に、またも他の家族が冷たい目になっている。 モモ親、面白すぎ。 拾って良かったかも♪ 続けて、トイレの対面にある扉を開いていく。 次に出てきたのは、脱衣場と風呂場だ。 狭い脱衣場には、実装石達では手が届かない小さな洗面台がある。 浴室内には浴槽と蛇口、二つの桶が置かれている。 その他、俺達はわざわざ実装石用の各種洗剤や洗い道具まで置いておいた。 これら洗剤の使い方は、モモ親が知識を分ければ問題なく使えるだろう。 蛇口も、成体実装の身長ならコックがひねれる。 ここならふんだんに水が使えるので、充分洗濯が出来る筈だ。 え、ガスと電気が来ていないのに、どうして水道だけ都合良く使えるのかって? 実はこのアパートと俺の自宅の水道は、地下にある井戸から「ポンプ式」で汲み上げて使用している のだ。 都会にお住まいの方はわからないかもしれないが、ある地方の田舎には本当にこういうのがあるんだよ。 つまり、地下に専用の水脈を持っているようなものとお考えいただきたい。 しかしポンプ式のため、蛇口をひねってもすぐに水は出ず、しばらくゴボゴボ、ポフポフと空気を 漏らしてから、ワンテンポ遅れて水が少しずつ出てくるというクセがある。 また、地下水のため真夏でも水温が低く、真冬なんか出来れば触れたくもないほど冷たい。 実装石にとってもあまり使いやすいものではない筈だが、ないよりは遙かにマシな筈。 ちなみに、実装石達の背が届かない浴槽には、分厚い木の板を乗せておき、仮に誰かが 乗っかっても落下しないように工夫しておいた。 親達は、早速室内の様子と安全の確認に走る。 だがモモ親だけは、風呂道具の確認を真っ先に行っている。 桃「シャンプーとボディソープと、ベビーローションもあるデス。これで子供達をキレイキレイできるデス。 でもタオルがないデス」 モモ組の子供達も、お風呂セットがあるという事で喜んでいるようだ。 っていうか、そもそもこいつら、事態がわかっているのかどうかも怪しいが。 おーいモモ親よ、どーでもいいけど、お湯がまったく出ないという事については言及ナシですかー? 桃「早速使ってみるデス。昨日ワタシ達はお風呂に入らなかったデス」 桃仔「「「テチテチ〜♪(レフー♪)」」」 黄「ちょっと待つデス! あんただけ勝手に使ってはダメデス。それに、まだ安全だとわかったわけじゃ ないデス」 桃「あなた達にはわからないかもしれないデスけど、ここはお風呂場という所デス。だから安全に身体 が洗えるデスよ」 青「安全って、まだそうだと決まった訳じゃないデス」 青仔「「「「「「ママの言うとおりテチテチー」」」」」」 モモ親の言い方にカチンと来たらしいアオ組全体が反論する。 だがモモ親は、ここが屋内だという事から、無条件で「安全だ」と信じ切ってしまっているらしい。 初めて見る物にはどんな危険が秘められているかと警戒するクセの付いている野良実装達とは、 根本的に相容れない思想だ。 どうやらこのモモ親、生粋の飼い実装の上、相当甘やかされて来たらしい。 根が天然ボケなせいかあまり糞蟲っぽくはないが、すでに、ここまでで他の家族の反感を買っている。 やはり、さっき思った通り…こいつは面白そうな波乱分子になるかもしれない。 そんな感じで微笑ましくやりとりを見ていたら、にじあきがやって来たようだ。 しばし席を外し、玄関まで迎えに行く。 ■□□ 膨大な量の菓子とドリンクを持ち込んで来たにじあきと共に、モニターを眺める。 どうやら、その間に実装席達は階段に注目したようだ。 「階段かあ、計算だと、成体実装席なら上れるんだっけ?」 「一応な。ただ、上に手をかけてよじ登るってのを、段数分やらないと上れない」 「あれ、それじゃあ二階の仕掛けは、意味がないんじゃないのか?」 「それは大丈夫。ここは、あんな連中でもクリア出来た所なんだから、こいつらには乗り越えてもらわないと」 この階段は、だいたい2メートル半強くらいの高さをまず上り、そこから踊り場に出て、さらに2メートル 強ほどの高さを上って二階へ辿り着く構造になっている。 階段の幅は、大人が上るとその横を誰もすり抜けられないくらいの狭さだ。 実装石にとってはそれでも充分な幅だが、問題は段差。 段差は、目測でだいたい25センチほど。 ここに居る成体実装の体格はだいたい60センチ以上はあるので、数値上は問題なく移動出来そうに 思える。 しかし、60センチの身長に25センチの段差というのは、相当なものだ。 180センチの身長の人間にとって75センチあるようなものなので、いわば太股を思い切り持ち上げて、 ようやく足が上の段に乗るというくらいの高度差になる。 ところが実装石の足は短いから、人間と違ってそんな所まで上がらない。 だから、この段差を乗り越えるためには一度上の面に手を置き、反動を付けてよいしょっと下半身を 持ち上げ、身体を乗せなくてはならなくなる。 それを、二階に辿り着くまで繰り返す必要がある上、降りる時は一段一段恐る恐る身体全体を使って 降りるか、一つずつ飛び降りる事になる。 もちろん、手を滑らせたり着地し損なったら、豪快な階段落ちが待っている。 親ですらそうなのだから、それ以下の体格の実装石にはとても昇降など不可能だ。 恐らく、ミドリ姉ですら危険だろう。 「どうしろってーの? ここは」 「俺のモットーは“苦労の末に良い事がある”だよ」 そう、この階段にはイベントが仕掛けられている。 そして、そこにはなんとしてもクリアしてもらわないとならない。 「お前の言う事だからな、良い事ではあっても、全体にとって良い事とは限らねんでね?」 「そんな事はないよ。 ま だ 今 の と こ ろ は 穏便に行くさね」 実装石達は、階段を見上げて色々と議論を始めているようだ。 どうやら上るべきかどうかという論争になっているようだが… 「あれ? おいあれ」 不意に、にじあきが画面の端の方を指さす。 よく見ると、連中からかなり離れた所で、何かが蠢いている。 位置的に、102号室だ。 俺は、そちらに画面を切り替えてみた。 □□■ なんという事か。 102号室に辿り着いたのは、アカ組の三匹だった。 どうやら、周囲に誰も居なくなった事を確認して、ようやく移動を開始したらしい。 気のせいか、先ほどと少し態度が違う様な。 部屋の中に置かれていた実装フードは、だいたい1/3ほどなくなっていた。 ちょっとモモ組が多めに食べたとはいえ、まだまだ充分な量がある。 他の家族は、さすがに一度裸全部なくそうとはせず、かといって定住地を見つけていないので、蓄え の分を持って移動したりもしていない。 親「では、あいつらがいなくなったデス」 仔「「テチー♪ やっと食べられるテチ!」」 アカ仔1と2が実装フードの山に突進する。 しかし、アカ親はそれを制した。 仔「「ママ、まだ食べちゃダメテチ?」」 親「今はまだ我慢するデス。それより、いつものアレを先にしておくデス。食べるのはそれからデス」 仔「「わかったテチ」」 アカ親の合図に合わせ、アカ仔達は山に手を伸ばす。 しかしそれを口に入れようとはせず、次々にアカ親がまくり上げたスカートの中に落としていく。 スカートで作ったかごの中にぎっしりと実装フードを詰めると、アカ親は、こぼさない様にゆっくりと 押入の方へ歩いていく。 奥でしばらくごそごそやってから、手ぶらで出てくる。 これを四回ほど繰り返してから、襖をぴっちりと閉じた。 フードの山は、まだまだゆとりがあるとはいえ結構減ってしまった。 アカ組の奇妙な行動に、俺は少し困惑した。 「あれれ? なんだこりゃ?」 「ははーん」 「にじあき、なんだと思う?」 「こいつら、いままで演技してたんじゃないかな」 「演技?」 思い返してみて、俺はようやく、さっき感じた違和感の正体に気づいた。 さっきモモ親に接近され怯えていた筈のこいつらは、誰一匹たりともパンコンしてなかったのだ。 死にたくないとか、助けてとかしきりに叫んで震えていた筈なのに、子供すら一切漏らしてなかった。 もし、本当に怯えていたなら、ブリブリとしでかしていただろう。 そうだ、それがないから、さっきはおかしいと思ったんだ。 「どういう事かな?」 「まだよくわかんないけど、とにかく、他の家族と力を合わせていく気は毛頭ないっぽいな」 「確かに」 102号室の押入の中のカメラに切り替えると、やっぱり奥の方で実装フードが貯め込まれている。 これを後で取りに来るつもりなのだろう。 フードを隠し終わると、アカ親は廊下の様子を見て、再び101号室に戻る。 他の家族は、ついに階段を上ってみる事にしたようで、そちらに意識が向いていて誰一匹として 気づいていない。 101号室に戻ったアカ組は、さっきまでのポジションに辿り着くと、また抱き合ってガクガク震える 真似をし始めた。 仔1「早くご飯食べたいテチー」 親「我慢するデス。もう少ししたら、あいつらの誰かがワタシ達のためにご飯を持ってきてくれるデス」 仔2「ホントテチ?」 親「そうデス。ワタシ達はその時お腹一杯食べるデス。でも、後で隠したご飯も取りに行くデス。 そうすれば、ワタシ達だけはもっと一杯ご飯を食べられるデス」 仔「「ママ、頭いいテチ!!」」 「……そういう事かあ」 「ボーゼン…」 しまった、これは一本取られた。 てっきり単なる臆病者だとばかり思っていたアカ組は、奴らとわざと距離を置く事で状況を独自に 観察し、速やかに的確な行動を取ったわけだ。 しかも、自分達が後々有利になるような準備まで施し、そのために今は空腹をしのぐ努力までする。 俺は、さっき付けたアカ組の失点メモを横棒で消した。 「なかなか見所あるじゃん。この家族」 「はは、でもまさか、ここまで狡猾だとは思わなかったよ」 この時、俺達はアカ組の一連の行動に感動し、彼女達の評価を高めていた。 が、しかし。 まさかこの時の彼女達の行動が、後に発生する大パニックの呼び水になってしまうとは、さすがの 俺達も気づかなかった。 ■■■ 階段に集まった他の家族の様子を見る。 三十分ほどの時間をかけて、キイロ親1が踊り場に辿り着いたようだ。 「デデ?!」 そして、さらに続く階段を見て呆然としている。 ここに上がるまでに相当苦労した様子だからな、まだ続きがあると知った落胆の大きさはなんとなく わかる。 だがな、一応ここに救済の手段があるんだよ。 階段の踊り場に置かれている、あるアイテム。 これが、ここまで辿り着いた者が得られる特典。 しかし、使い方がわかるかな? それがあれば、今後階段の昇降は随分楽になるんだが。 「デ…これは何デス?」 さすがキイロ親1、踊り場の様子を確認し始めて、早速それに気が付いた。 成体なら充分手で移動させられる軽さ。 逆に、その末端部には実装石の成体の体重以上の『重し』が付いている。 複数の成体実装石で協力し合えば移動は可能。 これを階段に垂らせば… 「おーい、誰か手伝って欲しいデスー」 踊り場から、キイロ親1が呼びかけた。 さらに30分後。 アオ親とキイロ親2が踊り場に辿り着き、キイロ親1の説明を受けている。 下では、大勢の子供達をミドリ姉とモモ親だけで守っている。 どうやらキイロ親1は、物を見て用途をすぐに把握したらしく、この重しを階段の傍まで移動させたい らしい。 アオ親とキイロ親2は、今ひとつ理屈が判ってなかったようだが、重しに繋げられた細い束を見て、 なんとなく言いたい事がわかったようだ。 ——これは縄ばしご。 と言っても人間が使用するサイズではなく、もっとミニマムなもの。 実装石関連のグッズを探していたら偶然発見したもので、どうやら飼い実装用の玩具の一種らしい。 それでも結構な長さと強度があるので、使えそうだなと思って急遽取り入れたわけだ。 当然、成体実装なら余裕で上る事ができる。 これを階段に垂らせば、いちいち段差を乗り越えなくても上に昇れる。 言うまでもなく、これと同じ物が二階側にも設置されている。 三匹は力を合わせて重しを移動させると、縄ばしごを階下に垂らした。 「「「テチュ〜〜?」」」 「「なんかにょろにょろしたのが振ってきたテチ」」 「「レフレフ、きっとオモチャレフー」」 「「ママー、パパー、早く戻ってきて欲しいテチー」」 下の階では、子供達が呼びかけている。 …ママはともかく、今パパと呼んだのは、どこの奴らだ? 残念ながらそれは特定できなかったが、早速、縄ばしごをつたってアオ親が降りてきた。 段差につまずいて転げ落ちる事もなさそうだ。 まあ、使いやすそうな形状のものを厳選して選んできたんだから、当然だがな。 青「この先にまだこの大きなガタガタの坂があるデス。ワタシ達は今からそこにも上ってみるデス」 桃「これは坂じゃなくて階段デス。お二階に行くために使う物デス」 緑「ワタシ達にお手伝いできる事はありませんかデチ?」 ミドリ姉の申し出を受け、アオ親は子供の管理を変わってもらった。 はしごがあるため、今度はミドリ姉でも余裕で上れる。 交代したミドリ姉は、初めて使ったとは思えないほどのスムーズさで、するすると上っていく。 踊り場には、たったの二分ほどで辿り着いてしまった。 キイロ親1とキイロ親2は、必死で階段を上っている。 ミドリ姉は合図をもらい、踊り場で待機している。 さらに三十分が経ち、二階から縄ばしごが落ちてくる。 ミドリ姉はそれを受け取り、丁寧に引っ張って伸ばし、一辺をもう一つの縄ばしごの重りに固定 した。 これで、実装石用の移動階段は無事に完成した。 黄1「やれやれ、やっとみんなで上れるデス」 黄2「ここにも、また部屋が一杯あるデス」 緑「ここもみんなで調べるデチか? でも子供達はここまで来られないデチ」 黄1「いや、ここの探索は後回しにするデス。それより先に、ワタシ達が住む場所を決めるデス」 黄2「お部屋は一杯ありますデス。家族ごとに割り振るデス」 緑「それはいい考えデチ!」 踊り場まで降りたキイロ成体二匹とミドリ姉は、今後の方針を相談して、すぐに一階に戻った。 俺は、今の会話の中にまた微妙な違和感を覚えたが、よくわからないのでとりあえずスルーする事にした。 ようやく探検を終えた実装家族軍団は、102号室を経由し、101号室へと戻ってきた。 キイロ親1が、震えているアカ一家に実装フードを差し出してやり、今までの経過を説明している。 一見まともに聞いてないようだが、アカ親の目には鋭い光が宿っている。 さらに一時間後、アカ組も含めた全員が賛成し、それぞれの部屋を住居として使用する事になった。 紆余曲折あり、それぞれの家族の配置は以下の様に決定した。 ■1階 部屋番号は、左上→右下の順で、101〜103、105〜107(104はない)。 (入り口) _ || 青||黄 □||桃 緑||赤 ■||▲ | → 二階へ ‾‾‾‾ まだ実装フードの残っている102号室は、全員が共同で使用する部屋としたようだ。 いわば「食堂」だろうか。 102号室に実装フードを隠しているアカ組が、すぐ近くの部屋を選ばなかったのが意外だが、とにかく なんとか落ち着いた様だ。 青「まったく、何がなんだかよくわからんデス。ここは一体どういう所なんデス?」 黄1「でも、この家の中から何かに襲われる心配もなさそうデス」 緑「皆さんとお知り合いになれたから、もう逃げ回る必要がなくなって嬉しいデチ」 桃「ワタシ達は、前のおうちより狭く汚くなったので、ちょっと不便デス…」 赤「——ブルブル」 最初にまとめて同じ部屋に放り込んだせいか、親実装同士でそれなりのコミュニケーションが図れた ようだ。 それぞれへの警戒心よりも、アパートへの疑問が先に立った結果らしい。 とにかく、身の回りにしか目が行かず、いつまで経っても進展しないという結果にはならなかった。 賢くない糞蟲の集まりだったら、ここまでに何匹も殺されているだろうし、つまらん事で勝手にくたばる 奴らも出ていた事だろう。 やっぱり、こうでなくては面白くない。 ひとまず、ここまでは成功としておこう。 その日の夜。 再び102号室に集まって食事をする一同。 唯一不参加のアカ組には、またキイロ親1がフードを運んでやる。 アカ組は、あれからいまだに誰とも会話をしようとしない。 徹底して「臆病者」を演じる気らしい。 一部の親は、餌の減り方が妙に早いような気がすると疑問を口にしていたが、確認のしようもない ので、その場は流す事にしたようだ。 そして、それぞれが自分達の部屋に帰っていく。 ウンチを催した子供達は、順番にトイレに運ばれる。 「テッチュ〜ン♪ 大きなおトイレでウンチ気持ちいいテチ〜♪」 「我慢していた分とっても沢山出るテチー」 「みんなで一緒にブリリアントロードへ飛び立つテチー♪」 一時間にも及ぶ大ウンチ大会。 これには、さすがのアカ組も参加していた。 そりゃまあ、食べた分は出さないとならないからな。 ただし、ここにはトイレットペーパーなどのお尻拭きが一切ない。 ある理由から意図的に置いてないのだが、ここで親達はそれぞれ協力し合う。 一度水で糞を流し、新しい水でお尻を一度軽く洗い、さらに子供達を風呂場へと導いていく。 そこで、本格的な洗い落としをするつもりのようだ。 この辺は、さすが賢い親達といったところか。 当然、廊下には点々と滴がこぼれているが、これはさすがに放置。 自然乾燥を狙うつもりなのだろうか。 風呂場では、モモ親の指導の下、子供達のお尻洗いと同時に下着洗濯が行われている。 ボディソープを使って、それぞれを器用に洗っていく。 「ママお尻キレイキレイ気持ちいいテチュ〜♪」 「泡いっぱいでウンチ流れてるテチュー」 「ワタチのお服も綺麗になったテチ!」 手間のかかるプロセスだが、子供達には好評のようだ。 人間の大人が一人入ればそれで一杯になってしまう狭さの洗い場では、いくら実装石といえども親全員が一度に入る事はできない。 そのため今回は、アオ親とモモ親が中心となって、子供のお尻洗いを引き受けている。 手慣れた手つきで、子供達のお尻をまとめて丁寧に洗っている。 その横で、他の親が半身を乗り出して子供達を洗ったりしている。 キイロ親やミドリ姉の手つきなども、なかなかのものだ。 相当洗濯慣れしているように見受けられる。 この一連の様子は、見ていてなかなか微笑ましいものがある。 午後八時を過ぎる頃には、各部屋の子供達の嬌声も聞こえなくなり、アパート内は静かになった。 緊張と慣れない活動のせいで疲れたのか、みんな早々と眠ってしまったようだ。 アカ組を除いて、だが。 アパートが静かになると、アカ親と子供達はこっそり部屋を抜け出し、102号室へと進入する。 103号室のミドリ組と、106号室のモモ組は、物音に目覚める様子はない。 アカ組は、日中隠した食料を回収しに押入に入り込み、運搬を開始した。 なるほどね、さすがだわ。 時間は結構かかったものの、アカ組は当初の目的をすべて果たした。 親「では、あらためていただきますデス〜♪」 仔「「いただきますテチ〜♪」」 ささやかな夜食会が催される。 これだけ見るとなかなか微笑ましい光景だが…いいのかな、こんな事やってて。 102号室のフードがなくなったら、その後どうするつもりなのか、こいつらはきちんと考えているん だろうか? ■■□ 「気が付いたら、もうけっこういい時間だな」 「そうだな、いやとっても面白かったよ。また何かあったら呼んでくれ」 「そうするよ、でも今度は大量のお菓子はかんべんな」 「うへっ、じゃあ今度はピザでもとるか」 「やめれ」 大きなコンビニ袋二つ分の菓子を、ほとんど一人で食い尽くしたにじあきは、帰宅の準備に入る。 俺も、そろそろ休憩を入れよう。 そう思い、席を立とうとしたが… ズ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ…… いきなり、ものすごい重低音が響いてきた! 「な、なんだ?!」 「わ、わかんね」 ズ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ…… 耳障りで重苦しい音は、パソコンのスピーカーから聞こえている。 え、って事はこれ、アパートの中で鳴っている音なのか?! ズ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ…… ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ…… ガ・ガ・ガ・ガ・ガ・ガ・ガ・ガ…… なんとも表現しがたい、とにかく「嫌な音」!! 俺は思わずスピーカーのボリュームを最小に絞った。 「何が起きたんだ? 思い当たるものあるか?」 「いや、ない。つか、あんな奇妙な音するものなんか、まったく仕掛けてないぞ!」 「だよなあ…じゃあ、アレなんだ?」 後にわかった事だが、この不愉快極まりない重低音は、俺やにじあきがまったく想定していなかった、 まさしくイレギュラー極まりないハプニングの幕開けだった。 俺は、音の正体に対する不安を抱くのと同時に、僅かに期待感をも覚え始めていた。 (続く) ----------------------------------------------------------------------------- ■ 現在の状況 □ ●アカ組:親×1、仔×2 ●アオ組:親×1、仔×4、親指×2 ●キイロ組:成体×2、仔×1、蛆×1 ●ミドリ組:仔×2、親指×1 ●モモ組:親×1、仔×2、蛆×1 犠牲者:ゼロ
