とある秋の日曜日。 実装石の繁殖する公園に虐待派の一団がやってきた。 基本的にある程度の判断力があれば虐待派にしろ愛護派にしろ自分がマイノリティーである事を知っている その為、細々としているか、自分達の仲間同士小規模で集まっているのが普通だ。 しかし今回は普通の格好で現れている。 虐待派とは思わないであろう。 訝しげに近所のママさん達が遠巻きにしている。 「皆さん、お集まりくださいましてありがとうございます!」 リーダーであろうかスピーカーを使い、一団に声を掛ける。 「先日、こちらの公園で放し飼いにされた飼い実装が子供達に糞を投げつけると言う事態が発生しました!」 遠巻きに見ているママさんがどよめく。 「しかし飼い主はその子に謝るどころか、野良がやった、何かの間違いだと言って逃げ出したのです!」 無言で聞いている一団。 どよどよとママさん同士で会話が始まっている。 「これは実装石の飼い主がよくやる事です。しかし黙っていてもいいのでしょうか?」 「よくねー」 「ボランティア義務果たしに来ただけだ、知った事か!」 どこと無く感情が混じらぬ声で答える一団。 「しかし、彼らを取り締まる法は無いのが現状です!」 どよどよとざわめきが大きくなる。 語りかけられているのは一団だが、反応が大きいのはママさん達の方だ。 「そこで私達ボランティアが野良実装を駆除して、言い逃れできないようにするというのが今回の趣旨です!」 あくまでも語りかけるのは一団。 しかし、彼の目を見てみれば視線は周囲のギャラリーにちらちらと視線が移動している。 「どうでもいいからとっとと始めろ!」 「近所のガキがどうなろうが知った事か!」 「愛護派とやらにやらせろよ!」 「なんで実装石飼ってない俺達が!」 「虐待派とかいういかれた連中呼べ!」 ここぞとばかりに文句があがる。 それも“周りに聞こえるように” 「皆さん落ち着いてください。無いものねだりしても仕方ありません」 リーダーが落ち着かせようとする。 「駆除し終えて掃除をしたらボランティア証明の判子を押しますので・・・・ それでは始めますが周りの皆さんに迷惑にならないようにお願いします」 その一声と共に一斉に散らばる一団。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−--------------------------------------------- デギャ! デジャ! レチ! デジ! 公園中から実装石の悲鳴が上がる。 成体実装が 子実装が 親指が マラが 蛆が 公園中から狩り出される。 トングで掴まれ 棒切れで叩かれ 蹴られ 動かなくなった(仮死)したところで市指定の実装ごみビニールに詰められていく。 そして8割詰まったところで水をいれ、ホットシーラー(熱でビニールを溶かして封をする道具)で封をする。 どういうわけか虐待派が行なうまどろっこしいやり方ではない。 虐殺派好みの効率的かつ、確実に実装を駆除するやり方だ。 指定実装ごみビニールは丈夫でそう簡単に破れない、完全に封してあるので脱出は不可能、中に水が入っているので仮死から復活してもまた水死と言う悪循環。 ほら・・・・・・・・ 「(デズゥ!苦しいデズゥ!溺れるデズゥ!)」 苦しさに耐えかねて外へと蠢くが、詰め込まれた仲間がそれをも邪魔する。 もっとも脱出する方法が無いが・・・・・・・・ もう3回水死し復活した。 体の中の偽石は少しづつ力を失い淀んでいくが、まだまだ死の苦痛を繰り返す必要がある。 「(何でデズゥ・・・・人間の癖に・・・人間の癖に・・・・)」 「(助けて・・・・苦しいデズゥ)」 怨嗟の声も、命乞いの請願も、彼らには届きはしない。 今日彼らはリンガルも持たず、ただただ“駆除”をしに来ただけなのだ。 「(ごぼ・・・マ・・マ・・・・助け・・・テ・・・・)」 ちなみに彼女が死の救済を得たのは、結局夕方になりゴミ捨て場に積み上げられた頃であったと追記しておく。 夕方頃には完全に公園から実装石の痕跡は消えた。 一団の大部分は帰宅しているようで、数名の人間しか残っていない。 そこに話しかけてくる人物がいた。 買い物帰りの主婦達。 午前に彼らの“口上”を聞いていたママさん達だ。 「あの・・・」 ためらいがちに主婦の一人が声を掛ける。 「ハイ、なんでしょう?」 勤めて明るく声を出す男。 見るものが見れば多少ぎこちないと感じるだろうが、ママさん達にはさほど気にならない。 「ボランティア活動をしている方ですか?」 尋ねるママさん。 「いえ、今回初めてです」 どこか緊張した面持ちで答える男。 「ええと、愛護派って言うんですか?実装が何よりも好きで地域に迷惑掛ける人の事」 “あえて疑問系で応じる”男。 「そういう人達が実装石を増やしているじゃないですか。だから少しでも何とかしないといけないから・・・」 まだ話したりない感じだが、“我慢し留める” 「朝聞いたんですけど実装石って・・・・・」 おずおず尋ねるママさん。 一瞬男の目がにやりと歪んだ。 しかしママさんは誰も気が付かない。 「ええ・・・・よろしければお話しますよ」 それから30分、彼の実装石の生態そして“愛護派の生態”についての講義が展開された。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−-------------------------------------------- 半年後の公園 「いい加減にしてくださらない?愛護派には本当に迷惑しているんですのよ!」 「うちの子が病気になったらどうするの!」 「この公園は実装石禁止と行政も言ってるんですのよ!」 「あなたの事はPTAでも議題に取り上げますからね!」 「そもそもあなたの住んでいるマンションはペット禁止じゃないかしら?」 「まあ!全く愛護派は!」 一人の主婦が多くのママさんに囲まれている。 どうやらこの“地域のルール”を知らない新参のようだ。 元々実装石を飼うのをまともな市民がにっこり笑ってくれるわけではないが、ここまで攻撃的に扱われるのは初めてだった。 青ざめて涙を浮かべている。 彼女が解放されるのはまだまだ後のことである。 別の場所では 「こいつ実装石飼ってるぜ!」 「くっせえ!実装くっせえ!」 「お前、学校くんな!学校は人間の学校だぜ!」 「実装さんはお帰りくださーい」 「愛護派は人間じゃありませーん、実装石の仲間でーす」 転校して初めて小学校から帰った後に実装石を散歩に連れて行った。 そうしたらこの有様。 最悪の転校デビューだ。 「えぐえぐ・・・・・」 子供のいじめは怖い。 社会的立場と言うものがない分、徹底的に相手を攻撃する。 この子が自殺しないか心配である。 そこから離れた場所でそれを見つめる老人と中年男性。 二人とも身なりはきわめて高級。 本物の金持ちと予想される。 「ここまでうまくいくとはのう」 杖をついた老人がこの状況でにんまりと笑っている、かなり怖い。 「ええ、発想の転換と言う奴ですね」 中年男性がにやりと笑う。 この二人、老人は実装嫌いの虐殺派、中年男性は実装大好き虐待派、実装嫌いと実装好きと分かれているが、まあ世間の印象は両方とも虐待派である。 その彼らがこれまで行なってきたのは虐待派の地位向上だった。 しかし、金にあかせたとてそれほどの効果はなかった。 そもそも一般的に虐待派は“怖い”のだ。 バールのようなものやコンバットナイフを持ち歩いた凶暴な人種というのが世間一般の虐待派の印象だ。 何せ、ヤンキーですら近寄らない。 マンガなどでしか知らない人には解らないが、実際のヤンキーは必ずしも喧嘩が強いわけではない。 徒党を組み、ハッタリを効かせ、獲物をちらつかせる。 むしろ本当に喧嘩の強いものはスポーツ推薦狙いで部活に精を出す(ちなみに普通君はそうした体育会系の派閥に入る) (ヤンキーはそうした“本物”にはちょっかいを出さないし、学校側もクラブ組に手を出した場合、極めて厳しい態度をとるのが現実だ。) 誰かと似てないだろうか? そう虐待派(この場合虐殺派か?)だ。 彼らは社会的にそうしたチンピラと同レベルの存在なのだ。 常識的にそんな連中とお近づきになりたいと思うだろうか? あなたがもし人の親なら我が子に絶対に近寄ってほしくはないであろう。 そこで彼らは発想の転換を試みた。 愛護派へのネガティブキャンペーンである。 それも一昔前のプロ市民のような「寄付よこせ」「俺様を支持しろ」的なやり方ではなく、「先に与える」やり方を採用した。 つまり、押して駄目なら引いてみろである。 先にボランティア活動(実はサクラだが)をし、興味を持った人たちにのみ伝えると言うやり方だ。 元々相手も愛護派、実装石への嫌悪感を持っているので効果は絶大だ。 要は「相手を肯定してやる」「背中を押してやる」のだ。 即効性は無いが、「相手の背中を押してやる」「狭い範囲」の場合高い効果がある。 後は自然にこうした気運が蔓延する。 ちなみにこれ元々差別を助長するのに使われる手管である。 その効果は凄まじく、今や「嫌実装、嫌愛護派」は地域のルールにまでなった。 彼らは「自分の意思で判断した」と思っている。 しかし、その実は力あるものにコントロールされているのだ。 「なんだか怖くなってしまいましたな」 中年男性がポツリと漏らす。 「?」 「私達も国とかメディアとかに操られているんじゃないのかって」 「国が実装石を利用していると?」 苦笑しながら述べる中年男性。 「ええ・・・・日々の不満は実装石にぶつける事で解消される・・・・これは国とかには都合がいいじゃないですか」 虐待派でなくとも機嫌の悪い人が実装石を殺したりするのは本当に普通だ。 顔を曇らせながら老人が言葉を紡ぐ。 「日本にはかつて「えた・非人」という悪しき風習があった・・・・・笑い飛ばせはしないのう」 今回自分達がやったことは結局その縮図ではないか? 現在ここまで実装石が社会負担になっているのに保護もしなければ本気の駆除もしないこの国。 「考えてみれば動物愛護法にも実装石は入っていない、あれだけ愛護派が暴れたのにも関わらず・・・」 言ってみれば政府による虐待の黙認だ。 「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」 (愛護派を駆逐するこのノウハウは・・・・・・・“我々”を“拘束”するものではないのか?) (そもそも実装石を必要としているのは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・) (虐待派も愛護派も所詮は手のひらで踊っている道化ではないのか?) デスゥ・・・・・ 見るとどこから現れたのか実装石がズタズタにされている。 愚かにもこの町に迷い込んでしまったようだ。 虐待派以上に普通の人々が実装石の最大の敵になったこの町。 ここは実装石にとって地獄に他ならない。 本来ならば彼らは真っ先に実装石を痛めつけるが今回はその気が起きなかった。 彼らの頭にはあるフレーズがリフレインしていたからだ。 「ナチスはまず、共産主義者を弾圧した。でも、自分は共産主義者ではないので黙っていた。 次に、社会主義者が弾圧された。でも、自分は社会主義者ではないので黙っていた。 さらに、ユダヤ人が迫害された。でも、自分はユダヤ人ではないので、特に行動は起こさなかった。 最後に、教会が弾圧された。牧師は全力で抵抗したが、すでに時は遅かった・・・」 「いざという時の為に引き際を見極めるようにしないとのう」 「ええ、実装石の立場になるのは死んでもごめんです」 全ての人はこの“合法的な方法”の的にならない保証など・・・・・・無い。 「シリアスになっていないで助けてほしいデスゥ・・・・・・」 実装石に救いのある未来など(実装人は別)・・・・・・・・・・・・無い。
