新製品 「微実装」 実装産業が新たにリリースした新製品。 「微実装」の最新情報を公開しよう。 実装産業が最初に主力商品としてきた「実装石」 今では市街に増殖し社会問題化し、その本性が知られ、市民からは通称「糞蟲」と呼ばれて嫌悪されている。 対して通称「愛護派」と呼ばれるファン層は市民運動の展開などイメージ改革や管理に乗り出したが焼け石に水であり、結局彼ら自身の社会からの孤立を深めるだけであった。 その為、実装産業は「実蒼石」「実装燈」「実装紅」「実装雛」「実装金」といった新種をメインに据えた。 関連グッズ売り場には上記の「新種」達のグッズがならび、実装産業を潤した。 そして実装石関連グッズとして「駆除」用品、実質虐待用品がの陳列されるようになった。 「虐待産業」の登場である。 実装石や愛護派に対する嫌悪感から登場した虐待派は、そのサディスティックな嗜好が満たされるといった事実も相まって急速に勢力を増やしていった。 最初は只の駆除、その後嫌悪感を高めてから虐待派の仲間として誘いを掛ける。 社会的負担の駆除、児童擁護、環境保護、市街景観保持、といったお題目を掲げて活動する虐待派に対して、愛護派の動物愛護のみの題目は脆く、支持を得られなかった。 力を失い、次々と転向し離れていく仲間達、疲れていく愛護派達。 彼らに福音としてもたらされた新製品。 それが微実装だった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−---------------------------------------------------------------- 微実装とは? 子実装や親指をベースに強制妊娠させた後、薬物、電気刺激などで、「大きくなれない」ように加工した実装石である。 最大まで育てても生まれたての子実装にも至らない。 負担がかからず、愛護派好みの「可愛いまま」の実装石として生み出されたものだ。 生まれるときも「小型の蛆実装」として生まれ、その後そのサイズに見合った「親指サイズの子実装」となり、「生まれたて子実装並の成体」になる。 また後述するがどうしても完全室内飼いの必要がある為に、周囲とのトラブルも避けられるというメリットがあった。 そしてこの商品にはもう一つミソがある。 儚いのである。 元々、蛆や親指、子実装は儚いが、その比ではない。 暑さ寒さにも弱く、回復力も弱い、その上知性もその大きさに見合ったもの。 専用の水槽や設備、専用栄養剤を混ぜた餌(残飯でいい)が必要。 それだけきちんとしていてもすぐに死んでしまう。 リンガル一つとっても「専用機種」が必要になるなど出費を要する。 しかし、金のある愛護派(というより金がないとまともに飼ってなどいられない)にとっては、非常に高額な出費を覚悟すれば殆ど餌やりだけ(掃除は半年に一回で十分)。 きわめて楽な飼育が可能という(フルセットで業者にセッティングしてもらう必要があるが)商品だった。 かつての高級熱帯魚のような位置付けのペットとして再出発したのである。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−--------------------------------------------------- ある家に微実装専用のケージがある。 縦60横100という微実装ケージとしては最安の品だ。 中には専用の植草と足場、水、そして彼らの家だけときわめて貧相なラインナップだ。 見ればケージの蓋には温度調節エアコンも光源用のライトも付いていない。 正規品ならばまずありえないラインナップだ。 見ればそれを設置している部屋も、ちょっとしたアパート程度だ。 結婚したての若い二人にはちょうどいい物件といったレベルだ。 正直「微実装」を買える生活レベルとは思えない。 「微実装」を低ランクでもまともに飼えば、最低でもファミリーカーの購入・維持以上の金がかかる。 「微実装」はまだまだ高級品なのだ。 とはいってもここの場合低ランクどころではない。 明らかに必要なものが足りていない。 車で言えば、ナビなし、ETC無し、ABS無し、どころの騒ぎではない。 クーラーなし、ライトは壊れている、ブレーキの効きは悪い、ハンドル重い、といった状態である。 はっきり言って愛情ある飼い主のすることではない。 それもそのはず、これは今の飼い主が購入したものではない。 前の飼い主(祖父)の遺産相続の条件として付いて来ただけのものだ。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−------------------------------------------------------------------- 彼は虐待派の関連組織の事務員をやっていた。 その組織は“弁護士事務所”、愛護派対策に「児童擁護」「人権擁護」「貧者救済」という実績を積み、愛護派に対抗、そして愛護派相手の法廷闘争を請け負う事務所の一つである。 やくざの弁護を大金で請け負う弁護士の虐待派バージョンだと思っていただければいい。 そんな事務所に親戚のコネで何とか潜り込んだが、彼自身は虐待派ではない。 実装石はうざったい害虫とは思っているが積極的に虐待する気はないという、つまりは普通の人である。 意外と思われるがきちんと仕事をしていれば虐待派は「非合法系」、「愛護派」でない限りは全然OKである。 (虐待派が最優先されるのは事実) 事実「微実装」を相続する羽目になった時も特に圧力を掛けられる事は無かった。 ただ、事務所の「先生」が言った「洗礼」と言う言葉が気になったが・・・・・・・ さて、彼らの仕事振りを見てみよう。 「先生のおかげであの愛護派の衆議院議員も堕ちました。今後もよろしくお願いします」 一人の男が弁護士の「先生」に大金の報酬を積んでいる。 大掛かりな裁判になると報酬総額(経費含む)が膨らむのは事実である。 しかし、これは明らかに多い。 実は弁護士には報酬に関する規定があるが、抜け道も多いのだ。 カラ出張、不必要経費の計上、外注費のキックバックなどは当たり前。 酷いのになると殆ど「粉飾」と言っていいレベルになる。 (最悪、犯罪レベルにもなりえるものもあるがここではやってない) そしてそれを熟知した上でクライアントも報酬を支払うのだ。 とは言ってもここは「非合法系」ではない。 今回のミッションは「野党愛護派議員の失脚」であった。 その為に高額の「外注費」がかさんだのだ。 メディアの裏情報費(大人の事情で記事にできない情報の買い上げ) 探偵の費用 エトセトラ・・・・・・・・ 細かく上げればきりが無い。 そういう意味では報酬と言う形でのメリットは薄い(それでも報酬としては大金だが) それ以上に虐待派の組織内でのランクアップが大きい。 ランクが上がれば、実入りのいい仕事がその組織の人脈から流れてくるし、コネを確立するチャンスも増える。 組織内の士業種は報酬よりそういった方向で動く傾向にある(報酬狙いは新参くらい) 今回は市民団体による愛護派の非道行為の告発と言う形をとり、その議員を法廷に引きずり出した。 告発は「地方有力者上がりである議員の立場を利用し市民に圧力を掛けた」と言うものだった。 愛護派系議員のライフワークでもあるだろうが、愛護派の依頼で圧力を掛けると言うのは珍しくは無い。 しかし、国民が笑ってくれる内容ではない。 国営放送・与党寄りメディアの新派等を介して巧妙なネガティブキャンペーンを張り、二月かけて辞任に追い込んだ。 愛護派系議員一人を追い落とし、愛護派のイメージの低下に成功。 まさに大成功と言えるであろう。 「「」君帳簿に記載して書類を作っておいてね」 「先生」が「」に命ずる。 「はい、先生」 カタカタカタとキーボードの音が事務室内に一つ増える。 「」はコネ上がりの下っ端である。 本来、底辺の位置で大変だろうがこの事務所は意外と快適だった。 「先生」達は虐待派であり愛護派に対しては恐ろしい人物ではあったが、「」に対しては優しかった。 無論甘やかされるわけではないが、ニート上がりの彼がやっていけるのはひとえに事務所の人間のおかげでもあり、彼も感謝していた。 働いていればあまり褒められた事ではないこともするが、幸いそれで心が揺れるほどには子供ではなかった。 その為、遺産を相続した際、(この事務所が生前に契約していた)「微実装」を相続させられた時には肝が冷えた。 しかし「先生」の方から「これが条件なのだからできる限りやってみなさい」と言われた時には驚いた。 それどころか、「先生」を通して高くいらない「微実装飼育設備」を現金化までしてくれた。 前述した「設備が足りない理由」はこれである おかげで微実装飼育の経済的負担が格段に楽になった。 「しかし先生はなんで愛護派でもない俺に子蟲を飼えなんて言ったんだろう?」 キーボードを打ちながら「」は考えていた。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−--------------------------------------------------- 「」宅 彼の家はコンクリート製のアパートの一室である。 そこの角部屋に住み、残った部屋は貸していた。 ちょっとした不動産経営者だ。 とは言っても、管理費、税金、その他経費を引けばそれほどではない程度の物件だ。(それでもそこらのリーマンよりいい暮らしができるが) 彼は独身の一人暮らし。 家には誰もいない・・・・・・・・いや、虫が何匹かいる。 ほらこの水槽の中に・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「皆、仲良く食べるデスゥ」 親蟲、(といっても小子実装くらいの大きさだが)が子蟲達に餌を分け与えている。 「もう飽きたデフゥ!」 「金平糖が食べたいデフゥ!」 「これぼそぼそしてるテチ!」 「もう嫌テチ!」 「テフー!」 「テチー!」 小さい微実装の子蟲、(以下微蟲)が親に文句を言っている。 どうやら食事に不満があるようだ。 「文句があるなら食べなければいいデスゥ!どうせ他に食べるものは無いデスゥ!」 親が叱り付ける。 「「「「「「テチーテチー」」」」」」」 泣き出す微蟲達。 そう、この「」の家に引き取られてから、彼らにとってまともな食事にはありつけてはいない。 「」の祖父に飼われていた頃はそれなりに可愛がられており、金平糖や美味しい味調整済み実装フードを貰っていた。 しかし「」は「先生」に言われたとおり、「無理をしない程度に飼育すれば十分」としていた。 餌は流し台の三角コーナの生ごみ、排水溝の生ごみネットに溜まった物を餌代わりに与えていた。 甘やかされていた彼らにとっては刑務所の飯程度のものでしかない。 一人暮らしの為にその量も少なく彼らの胃袋を満たすには足りない。 元々実装石は雑食である癖に消化吸収力が弱い。 だからこそ消化吸収しきれず、極めて臭い糞を出すのだ。 消化吸収力が低い為に、それを量でカバーしようとする。 しかし今、そのカバーができていない。 そしてもう一つ問題があった。 「!蛆ちゃんどうしたデスゥ?」 よく見ると蛆型微蟲の一匹が先程から動かない。 「蛆ちゃん!蛆ちゃーん!」 声をあげて揺するが反応を示さない。 もう死んでいたのだ。 「う・・・う・・・オロローン!オロローン!」 涙を流す親蟲。 しかしいくら泣いた所で状況は好転しない、もうここに来てから何度も経験した事だ。 微実装のもう一つの特徴はストレスに弱い事。 かつてはニンゲンに可愛がられていたが、今は殆ど関わってこない。 今は適当に餌をやって、臭くなったら薬をスプレーし、汚れを水で流してといった事しかしない。 実際のところ「義務」程度の感覚でやっている。 実はいっそ死んでくれてもかまわないくらいなのだ。 その為にこの閉鎖空間で溜まるストレスを処理しきれない。 彼らもご多分に漏れず、糞をもらしてストレスを解消しようとするが、食料が少ない為にそれが命を縮める事になる。 まさに負のスパイラルだ。 「前の奴隷は何所いったデスゥ!さっさと来るデスゥ」 これも何度も叫んだ事だ。 しかしやはり反応は無い。 「可愛い私に何か話しかけるデスゥ!許してやるデスゥ!」 壁に向かって叩くが、分厚い水槽の壁は微実装のウレタンパンチでは音を通さない。 高級な実装用水槽は非常に厚く頑丈である。 蓋も厚く防音材も入っている。 その為、そう簡単には壊れないし、音を通さない。 ましてや微実装である、音が外に漏れるほうがおかしい。 「ふう・・・・不毛デスゥ・・・・・」 「テチー」 「テフー」 最近彼らはとみに元気が無い。 人間に相手にされず、食料も乏しく、ストレスは体を蝕む。 元気がある方がどうかしている。 「何故デス!どうしてデスゥ!何故あのニンゲンは私を可愛がらないデスゥ!」 四つんばいになり手を地面に叩きつける。 これが賢いの実装石ならせめて何らかの新しいアクションを起こそうと考えるが、微実装にはそれが無い。 元々畸形といっていい種である、精神レベルが実装石基準でも低いのだ。 基本的な本能と「生産」されたときの基礎的な胎教の知識だけで生きていると言っていい。 ごろりと転がる親蟲。 見ると周りの子達も泣き疲れて寝ている。 食料も無く、ストレスが溜まる現在では唯一の対策は眠って過ごすだけだ。 餌が来るまで・・・・・・ 「水を飲んで寝るデスゥ」 立ち上がり、川辺を模した水場に向かう。 「最近は「川」に水もまずいデスゥ・・・・・・もしこれが飲めなくなったら・・・・・」 彼女の心配は当たっている。 元々付いていた循環システムは取り外され売却されている。 川を模しているが、水道水を汲み置きしているだけである。 動かない水は腐るだけだ。 それどころか砂利で作られた足場から糞の成分が流れ込んでいる。 美味かったらそれこそ問題だ。 「最近寒いデスゥ・・・・・・・そして心なしか臭いデスゥ」 これもエアコンが売られたからだ。 「中の臭いが部屋に充満する」と真っ先に外されたのだ。 そのせいで中の臭いが篭っている。 「寝るデス、ニンゲンが帰ってくれば食事が用意されるデス」 彼女は子供達と丸まって眠る。 彼女の世界はこの狭い水槽の中とそこから見える外の風景だけである。 その中で唯一確かなものは、自身がお腹を幾度も痛めて生んだ子供達。 何度も繰り返される悲劇を超えて繋がった大事な娘達だけ。 「この子達は私の全てデスゥ」 娘達を撫でながら彼女もまた眠りにつく。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−-------------------------------------------- ガチャン 「」が帰宅する。 帰宅したのはもう9時。 他の仕事が急に舞い込み、この時間になってしまったのだ。 その代わりと言っては何だが、夕食と飲み代は先生の奢りだった。 「ふう、後は風呂に入って寝るか」 着替えてそのまま風呂に入る。 「いい湯だな・・・・ハハハン!」 元々この部屋は「」の祖父が住んでいた部屋でもあり、設備には金をかけている。 この24時間風呂もその一つだ。 「いつでも熱い風呂!堪えられないね!」 「」は上機嫌だ。 一方・・・・・・・・・・・ 「デスゥ!何しているデス!飯を用意するデスゥ!!」 「ご飯を用意するデチ!馬鹿ニンゲン!」 「レフー・・・レフー・・・」 「蛆ちゃん!しっかりするレフ!蛆ちゃん!蛆ちゃん!」 「蛆ちゃんどうしたテチ?苦しそうレチ」 「お姉ちゃんお腹ぺこぺこレフ・・・・わたちもレフ・・・」 部屋に明かりが灯り、「」の帰宅を知った微実装達が大騒ぎで「」に食事をよこせとせまる。 しかし、その声は「」には届かない。 酒に酔い、後は風呂に入って寝るだけという状態の「」が微実装に興味を抱くはずも無い。 「ママ!蛆ちゃんが飢え死にしちゃうテチ!」 「蛆ちゃん、しっかり!蛆ちゃん!」 「糞ニンゲン!何をしているデスゥ!」 「レフ・・・レ・・・・フ・・・・」 「おねいちゃん・・・・しっかりするレフ・・・・わたちだって・・・・」 「蛆ちゃん達!しっかり!」 「ママ・・・・何とかならないレチか?」 なる筈も無い。 水槽内にある緑はプラスチック製の偽物だ。 いくら悪食の実装種とて食べられるものではない。 微実装はその儚さから糞食もできない。 何せ不衛生な環境すら死に直結する儚さを有している。 なにせ微実装の野良化が問題になる事が無いと言うのがこの商品のコンセプトの一つだ。 とにかく儚いのだ。 「レフ・・・どうしてレフ?・・・なんでニンゲンが私の危機に馳せ参じないんレフ?」 「可愛いわたちが・・・・・可愛く・・・・無い?」 ピキン! 何か硬いものが割れる音。 「」に引き取られてから何度も聞いている音。 「蛆ちゃん!何を言ってるレチ!蛆ちゃん!蛆ちゃん!」 しかし、偽石が割れた蛆が息を吹き返すことは無い。 「おねえちゃん・・・どうしたレフ・・・・まさかおねえちゃん・・・」 最後に残った蛆が聞いてくる。 「だいじょうぶレチ!おねえちゃんは疲れて寝ているだけレチ!」 「そうデスゥ!眠って待つデスゥ!」 「お姉ちゃん達に任せるレチ」 「そうデチ!」 親指サイズの子実装達が何とか蛆を元気付けようとする。 しかし、明らかに残った最後の蛆にも死相が浮かんでいる。 「おねいちゃん・・・・あそこの星に子供ができたレフ・・・・もしかして星になったおねいちゃんレフ?」 「違うデスゥ!蛆ちゃんあれは見てはいけない星デスゥ!私達には見えないデスゥ!」 「私見えるデチ・・・・」 「「「!」」」」 蛆のみならず子実装の一匹にも見え始めている。 空が無くとも見える凶星、「死兆星」 「なんということデスゥ・・・・もはやママにはどうすることもできないデスゥ・・・・」 「何を言うデチ!ニンゲンにどうにかさせるデチ!」 「見るデチ!人間デチ!」 見ると「」は既に風呂から上がっている。 外の音も殆ど聞こえていないので気が付かなかったのだ。 「ニンゲン!このノロマ!さっさとご飯を用意するデチ!」 「今日こそ金平糖を用意したレチか?」 「ご飯レチ!そしてお薬レチ!」 生き残りの子実装3匹が大声を上げて「」を呼ぶ。 しかし「」は全く気が付かない。 「蛆ちゃんしっかりするデスゥ!今奴隷がやってくるデスゥ!」 最後の蛆を抱きかかえ、必死で意識を繋ぎ止めようとする母。 さっき眠って待てと言ったのに・・・・・ しかし現実は非情だった。 パチン 部屋の電気が消された。 「」が布団に入ったのだ。 またも暗闇に落ちる水槽。 既に光源も取り外されている水槽は外の光に頼るしかない。 精々部屋の窓から漏れる外の月明かりくらいだ。 「レエエエエエエエエエエエチ!!!」 「何考えているレチ!」 「・・・・・・・・・・・・・・」 子実装が悲鳴を上げる。 いい加減「」が布団に入ってからわざわざ起きてこない事が解っているのだ。 「やっぱりレフ・・・・・ニンゲンは奴隷なんかじゃないレフ・・・・・結局のところ・・・わたちたちが・・・・」 「蛆ちゃん!蛆ちゃん!」 「ぷにぷにされたかったレフ・・・・名前ほしかったレフ・・・・もう一度金平糖食べたかったレフ・・・・」 パキン! 偽石が砕ける音と共に力を失う蛆の体。 「オロローン!オロローン!どうしてデスゥ!どうしてデスゥ」 血涙を流し泣き喚く親蟲。 「ママ・・・・妹が・・・・」 「動かないデチ・・・・・どうしたデチか?」 壁に張り付いたまま動かない子実装。 その顔面に憤怒と絶望を貼り付けたまま・・・・・・ 「・・・・どうしたデスゥ・・・・しっかりするデスゥ・・・・可愛い声を聞かせてほしいデスゥ」 お腹を痛めて生んだ我が子(微実装にとって出産自体が命がけ)。 可愛い声(実装基準)の娘。 それが憤怒と絶望を顔面に貼り付けて死んでいる。 親蟲は残った子を抱きかかえてオロロンと泣く。 可愛い自分達がこんな目に合うのは只の夢であると自分達を騙しながら・・・・・・・ 翌朝 「でええええええええええちいいいいいいいいいいいいいい!」 狂ったように声をあげる子実装。 微実装なので親指よりちょっと大きい程度の体なのにかなりの大声を出している。 「何でデチ!これは夢デチ!ありえないデチ!」 朝日が入り明るくなった水槽内には昨日の晩と同じく、餌は無く、家族の死骸が転がっている。 「ひひひひひ、これは夢デチ!これが妹達であるはずが無いデチ!」 最早正気を無くし目を爛々と輝かせた子実装。 「うーん、なんレチ?」 大声に目覚めた子実装が見たものは・・・・・・・・・・ 「レチ!」 まさに悪夢。 実の姉が家族の肢体を貪り喰らっている姿。 「美味いデチ・・・・そうデチ・・・これがご飯だったんデチ」 それを見て震え上がる子実装。 「ママ!起きてママ!ママー!」 必死で親蟲を起こそうとする子実装。 しかしそれだけ騒げば嫌でも気づかれる。 「・・・・新鮮なのがここにいたデチ・・・・・」 食いちぎった蛆を投げ捨て跳びかかる共食い子実装。 「デジャ!」 姉妹に噛み付く子実装。 「テジャアアアアアアアアアア!ママー!」 ぶちぶちぶちと嫌な音を立てて食いちぎられながらも必死で母を呼ぶ子実装。 「やはり新鮮なのが一番デチ」 生きた姉妹を咀嚼しながら禍々しくも満面の笑みを見せる共食い子実装。 「・・・何デスゥ?そうぞうし・・・・・デッ!」 朝起きてみればいきなり姉妹を喰らう娘の姿。 ショックはでかい。 「ナ・・・何しているデスゥ!」 青ざめて二匹の間に割って入る親蟲。 「お前!なんてことをしているデスゥ!ハッ」 周りにはかつて蛆の死体だった物が転がっている。 今はただの肉塊になっているが・・・・・・・・ 「お前なんてことを!なんて事を!」 「」に飼われるまで飢えも乾きも知らなかった微実装達にとって初めての飢えである。 体の儚い微実装達にとってはあまりにも負担が重すぎた、実装石の改造種である微実装が暴走するのも無理からぬ事だろう。 「煩いデチ!どうせこのままでは死ぬんデチ!文句言うのはお門違いデチ!」 確かに人間でもどうしようもない場合には“緊急避難”が認められる局面もある。 生きた人形である彼らには仕方の無い事であろう。 「この気狂い!お前は!お前は!」 血涙を撒き散らし共食いした娘を追い回す親蟲。 飼われている実装石は概して共食いに対する敷居が高い。 本来飼われている実装は食事が保証されている為に共食いする必要が無い。 それにもし共食いしようものなら飼い主にあっさり捨てられる。 エキゾチックアニマルは大抵飼い主の勢力誇示の意味合いがある。 その為、気に食わなければあっさり捨てられてしまう。 飼い実装はまず共食いが“出来ない”。 「正気にては大業ならずデチィ!実装道とはこれ気狂いデチィ!」 何処かの虎眼流みたいな事をのたまう共食い子実装。 「デスゥ!」 共食いに跳びかかる親蟲。 「デチ!」 そのタックルをまともに受ける共食い子実装。 そのまま組み合ったままゴロゴロと転がっていく。 バシャ 水場に転がっていく蟲の団子。 「がぼがぼがぼ」 親に押さえつけられ水から上がってこれない共食い子実装。 「死ぬデス。お前みたいな気狂いはここで死ぬデス」 気が狂った娘をその娘と同じ目をしながら。 バシャバシャと水を掻いていた手足が少しづつ力を失っていく。 そして最後には全く動かなくなった・ 「フン!」 バキ 念の為にか偽石を砕いて完全に止めを刺す。 「はあはあ・・・娘のふりをした害虫を始末したデスゥ・・・・これでもう大丈夫デスゥ」 先程の娘の狂気が伝染したかのような目で唯一残った子を見やる。 「!」 見れば最後に残った娘は呆けた顔で息絶えていた。 飢えで肉体的に衰弱した状態でこの恐怖には耐えられなかったのだ。 「なんて事デスゥ!子供達が皆死んでしまったデスゥ!」 ふらふらと死んだ子の死体をかき集める親。 「どうしようデスゥ・・・・」 流石にこれだけ死んでしまえば人間も訝しがるだろう。 もしかしたら捨てられてしまうかもしれない。 子らに話を合わせていたが、実際には彼女は自分の立場を理解していた。 「もう死んでしまいたいデスゥ・・・・」 子の狭い世界で一人は地獄である。 特に子のいる生活を知った今は・・・・・ 「そうデスゥ!」 いきなり目を輝かすといきなり子の死体を食べ始める。 やはり狂ったのだろうか? 「そして・・・・・」 やおら子実装の目を潰して出てきた汁を自身の目にかける。 量目が緑色になり強制妊娠モードになる。 「生まれるデスゥ!可愛い子供達!」 我が子を慈しむ胎教の歌を歌う親、もとい元親。 その目に狂気を宿しつつ・・・ −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−-------------------------------------------- 「やべえな・・・・餌やり忘れてた・・・・死んだかな?」 今日は休日。 「」がのんびり起きてきてご飯を食べていた所やっと気が付いた。 「生きてるかな?」 中を見やる。 「ちゃんと生きてるじゃん、タフいな」 中には微実装達がちゃんと動いていた。 こっちを見るとデチデチ煩く喚く、もっとも音は聞こえないが。 「おら」 生ごみを中に投げ入れる。 「水が変な色してるな・・・・・」 水槽の排水便から水を流して新しい水に変えてやる。 「これでよし」 着替えて外に行く。 今日から新しい映画が公開されるからだ。 「見に行くか」 外はいい天気、絶好のお出かけ日和だ。 今日も「」君は上機嫌です。 同時刻、「」君の勤める弁護士事務所。 「所長、ところで何でノンケの「」君に微実装なんか飼わしたんですか?」 ここで働く若いイソ弁の虹野弁護士が聞く。 「ああ、元々彼の祖父もこちら側の人間でね、自分と同じ側に入ったらプレゼントしようと、上げておいた微実装を用意していたのさ」 「それがあの微実装ですか?」 「ああ、で万が一の為に依頼されていたのが私でね、「」君にも内緒にしていた」 「でもお爺様は・・・」 「ああ・・・亡くなられた・・・惜しい人を亡くしたよ」 「でも維持に手間がかかりますよ、たしか」 「だから設備を中古屋に売った、餌も残飯でいい」 「微実装も悲惨ですな・・・・クスクス」 「「」君の生活を圧迫したら大変だからね・・・それに」 「それに?」 「実装を飼えばこちら側に遠からずやってくるだろうさ、早いか遅いかの問題だ」 「その時はパーティーですね」 「ああ、ワインも用意してある」 今日も双葉法律事務所はマイペースです。 更に同時刻 水槽内 「可愛い子達・・・・私の可愛い子達・・・」 何処か黒々としたオーラを漂わせながら子供らを遊ばせる。 つい数時間前に強制出産した子供達だ。 当然皆、蛆である。 しかし自分の飼い主は全く気が付かなかった。 数も減り、皆蛆になったにも関わらず。 「可愛い子達、今度こそ可愛がってもらうデスゥ・・・可愛い子達」 部屋には点けっ放しのTVが番組内で微実装を流していた。 オートタイマー付きなので「」はよく点けっぱなしで出るのだ。 「やっぱ可愛くて手のかからない微実装ですよ、実装石なんて時代遅れ!」 TVの中の微実装は幸せそうだ。 今日も誰かが微実装を飼うのかもしれない。 しかし、幸福になれるのは極、僅か・・・・・・ それもブームのうちだけ・・・・・・・ そして煽りを食らうのは普通の実装石。 捨てられる実装石は一気に増えるだろう。 今日も世は事も無し。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−--------------------------------------------- 水槽内で飼われている絵を見て浮かびました。 GIF作品にぴったりの作品でした。 絵師さんならぬ監督さんGJです。
