一匹の実装石がトコトコ歩いていると、地面にぽっかりとひらいた穴に出くわした。 実装石の体がすっぽり収まるくらいの穴だ。 覗いてみると、とても深くて底が知れない。 実装石は思わずデスゥと鳴いた。 もしもこんなところに落ちてしまっては、とても助からないだろう。 そう思うと、覗いて見ているだけで足がすくんでしまう。 実装石はすぐにその場から立ち去ろうとした。 だが、ふと立ち止まって、再び穴の方へ振り向いた。 ここはよく通る場所だ、もしかしたらウッカリ穴のことを忘れて、落ちてしまうかも知れない。 どうにか、この恐ろしい穴を塞いでしまわなくては。 実装石はそこらにあった枯れ枝や葉っぱを集めると、穴の上に渡して塞ぎにかかった。 やっと穴を塞ぎ終えた頃には、日が暮れてしまっていた。 だが、その甲斐もあって穴の姿はもう地面と変わらない、平坦なものになっていた。 「これでひと安心デスゥ」 実装石はそう呟くと、デッデゲーと鼻歌を鳴らしながら家へ帰った。 翌日、実装石はまたもこの通りにやってきた。 昨日の穴のことなど、すっかり忘れてしまっていた。 塞いでしまったからには、もう無いものと同然だ。 覚えている必要もなかった。 今日は子連れで、仔実装を二匹連れている。 家族揃ってのお出かけに、子供たちはキャッキャッと騒ぎ通しで賑やかだった。 「オマエたち、ちゃんとママとおててを繋いでるデス、はぐれたら大変デス」 「「ハーイ、ママ!」」 仔実装たちは素直に、母の両手をとった。 実装石は仔実装に合わせて、ゆっくりと歩く。 仔実装は自由な手をぐるぐると回しながら、母にかまってもらおうとテチテチ鳴いていた。 そんな親実装の体が、いきなり地面に沈んだ。 そこは丁度、昨日実装石が塞いだ穴のあった場所だった。 塞いだ木の枝や木の葉に隠れて、子にばかり注意していた実装石には気付きようもない。 そして実装石が被せた蓋は、実装石の体重を支えきれず、あっけなく壊れてしまった。 実装石の体がヒュッと穴の中に吸い込まれてしまう。 仔実装も手を引かれて、一緒に穴の中に落ち込んだ。 一匹の実装石がトコトコ歩いていると、地面にぽっかりとひらいた穴に出くわした。 実装石の体がすっぽり収まるくらいの穴だ。 覗いてみると、とても深くて底が知れない。 実装石は思わずデスゥと鳴いた。 すると、穴の中からそんな鳴き声に答えるかのよう、デスゥと声が響いた。 実装石は驚いて、思わず穴の暗がりに目をこらした。 しかし、どんなに目を見開いても、何も見えない。 空耳かと思ったが、しばらく間を置いてまたもデスゥと鳴き声が聞こえた。 「誰かいるデスか?」 「ここにいるデスよ」 「そこはどこデスか?」 「ここは天国デス」 「嘘デス、天国はおそらにあるデス」 「ここは天国デス、お肉も一杯食べ放題、子供たちもスクスク育ってるデス」 「どうやったらそこにいけるんデスか?」 「簡単デス、穴から落ちればいいんデス」 すると、実装石はジュルリとヨダレを垂らしながら、躊躇もなく穴へ飛び込んだ。 穴の底の方から、すごい悲鳴があがった。 それから、百匹もの実装石が穴に飛び込んだ。 そしてどの実装石が飛び込んでも、穴の底から悲鳴があがった。 何匹かの実装石は、そのことに気がついて、穴には近づかないように仲間たちに呼びかけた。 だが、かえってゴチソウの在り処をひとりじめにされているのではと疑われるようになった。 そうして、無数の実装石が穴に飛び込んだ。 百度の前例から漏れる実装石はいなかった。 一匹の実装石がトコトコ歩いていると、地面から顔を出している実装石と出くわした。 頭だけ残して生き埋めにされているようで、通り掛かった実装石は不憫に思った。 そこで、埋まった実装石の頭をひっぱり、そこから出してやろうとその頭を掴んだ。 いくらひっぱってみても、埋まり実装の顔が伸びるばかりで少しも出てこない。 通りがかりの実装石は、実装石らしくもなく親切な性格だった。 一度そこから離れて、仲間を連れて再び戻ってきた。 仲間が仲間の腰をひっぱり、埋まり実装をひっぱり出そうとふんばった。 すると、少しずつ埋まり実装の体が動きだした。 もうひとふんばり、あとひとふんばり。 そうして、綱引きでもするように実装石たちは埋まった実装石を引き続けた。 急に、固い縫い目がほどけたように、手ごたえがなくなった。 実装石たちは勢い余って、まとめて後へ転がった。 目をパチクリとさせている実装石たちの目の前に、奇妙な実装石の姿があった。 蛇のような長い胴をした実装石、それが埋まり実装の正体だった。 それがウネウネと体を動かしはじめて、実装石たちに這い寄る。 悲鳴をあげて実装石たちは逃げ出した。 蛇実装はどこまで追いかけてきて、一匹一匹耳まで裂けた大口で飲み込んでしまう。 すると、その体には瘤のようなものが浮かび、実装石を飲み込むごとに増えていく。 遠く離れた公園まで這い出してきても尚、胴の終端は地面から姿を見せない。 公園を突き抜けて車道を頭が過ぎった。 一台の車が、その胴の上を血飛沫を立てて通り過ぎていく。 グズグズになった断面から、実装石の顔が浮かび上がる。 それまで蛇実装の頭であった一匹と、二つの車輪の間にあって両端に顔をもった一匹と、 それに今尚尻尾を見せない一匹、三匹の蛇実装ができあがる。 たちまち共食いをはじめ、また元の一匹になってどこまでも這い進んでいった。 そのうち、やっと尻尾の先細りをした先端が現れた。 蛇実装が抜け出した跡には、底知れない暗い深淵が覗いていた。
