タイトル:【虐?】 ホラーっぽいのに挑戦してみた
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作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:2983 レス数:0
初投稿日時:2006/10/08-15:16:39修正日時:2006/10/08-15:16:39
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気づくと、深夜の公園の入り口に立っていた。

この公園がどこのものかはわからないが、入り口のすぐ前に広がる林の大きさからして
相当な広さ、少なくとも野球場ほどの広さはありそうだった。
すぐに引き返せば良さそうなものなのだが、自分でもよくわからぬ衝動にかられて
おそらく公園の奥に続いているであろう遊歩道へと歩を進めてしまう。

なぜか恐怖感はなかったが、好奇心もなかった。
これから起きることを見届けることへの義務感、
そして覚悟と表現するのが近いかもしれない。



歩き始めていくらも行かぬ内にすぐ脇の茂みがガサガサと揺れ出し、
背の高い雑草を掻き分けるようにして彼女が姿を現した。

つぶらな瞳にすっきりと通った鼻筋、きりりと結ばれた薄い唇が
意志の強さを感じさせる、中性的な少女の顔立ちである。
好みの差を考慮しても、誰もが彼女を美人と評する筈だ。

まるでこの公園での案内役とばかりに私の手を強く握り
奥へと向かって歩き出そうとする。

正しく悪夢である。決して、”夢のような光景”ではない。

『デス』

確かに顔こそ美少女ではあるが、それ以外のパーツは全て実装石。
いや、人間の顔をした実装石と言うのが正しいだろう。

『デ?』

さすがに驚きを隠せず、思わず足が止まる。
立ち尽くす私をその少女、いや実装石がいぶかしげに見つめている。

『デエッ!デエッ!』

実装石らしい短気さまで備えているのか、
急き立てるような声を上げて私の手を強く引き始めた。

異存は…無い。
もとよりこれから起こることを確かめるつもりだった私にしてみれば、
案内役の存在はむしろ有り難い。



林の中の遊歩道を彼女の足並みに合わせてゆっくり、ゆっくりと進んで行くと、
10分ほども歩いただろうか、公園の中央と思しき広場に出た。

そこで目にしたのは異様な光景であった。

外灯もない広場の中心に置かれた一斗缶に煌々と火が焚かれ、
その火柱を取り囲むようにして無数の実装石が静かに座っている。
実装石たちが身を寄せ合い、広場の半分近くをびっしりと埋め尽くしてた。

『デス』

私をここまで案内してくれた実装石が小さく一声鳴くと、
それまで火を見つめていた実装石たちが一斉に、ゆっくりと、無言のままで私の方へ顔を向けた。

私は絶句した。驚きのあまりに、ではない。
案内役の彼女が姿を現したときに、この光景は覚悟していたが、
自分の予想が外れて欲しいという思いは心のどこかにあった。

それは、人の顔をした数え切れないほどの実装石たち…

焚き火の明かりだけでははっきりとわからないが、見知った顔もあるように思えた。

以前に掲示板で知り合った気のいい虐待仲間、
人格者として知られ、市民報でも何度か取り上げられた愛護派、
過激な活動のあまりに新聞でも叩かれていた愛護派、
銃刀法違反で大きなニュースになった切れた虐待派、
そして実装石関連を扱う大会社の先代社長…

火柱の向こうにちらちらと見えているのは、
先日訃報のあった高名な研究者ではないだろうか?

ぐるりと見回してみると、ただ1匹、いや、”1人”の実装石だけが別の方向、
私が来たのとちょうど逆の方の遊歩道を見ているようだ。

『デス』

その実装石が小さく鳴くと、全ての実装石がその散歩道に目をやる。

数秒ほどの沈黙の後、群れの中心にいた実装石が
『デス!』
と叫び、鉄の板を一斗缶の上に被せた。
その様子は、隠れるためと言うよりも、自分たちが火を使うことを知られたくないように思えた。


「おっ?!何でこんな集まってんの?」
「いーじゃん、叩き起こす手間が省けて」
「でも実装石ってふつうは夜は寝てんじゃねーの?」
「でたらめなナマモノだから深く考えちゃいけねえの。早いとこコイツの試し撃ちをだな」

火が消えて暫くすると、虐待派と思しき数人の男が遊歩道から姿を現した。

彼らにはこの実装石たちが、普通の実装石にしか見えないのだろうか?

おそらくは初心者虐待派が人目を忍んでの深夜に活動しているのだろうが、
彼らの目には私の姿も映っていないように思える。



「「「「ひいいやああっっっはあああっっっ!!!!」」」」

それが殺戮の合図だった。

やはり彼らは初心者らしく、殺戮そのものが楽しくて仕方ないとでもいうように、
手当たり次第に実装石を殺していく。

モデルガンの断続的な射出音がすると、”何人”かの実装石が身体のあちこちから
体液を噴出して倒れていた。
『デ、デデエェェ……』
運悪く即死できなかった者がずるずると這いずって逃げようとしているが、方向が違う。
自分にBB弾を撃ち込んだ虐待派の足下へと這って行き、頭を踏み潰された。

『デギャアアア!』
涎掛けに火をつけられた実装石がでたらめに走り回っている。
まるで炎のネックレスをしているように見える。
ネックレスは次第に大きくなり、頭がすっぽりと包まれてようやく実装石は動かなくなった。

私自身も好んで使っていたバールを振り回している男もいる。
もっとも彼の方が私よりもずっと力が強いようだ。
『デ!?』
彼の振るバールが実装石の額を直撃すると、潰れるというよりも、
当った箇所がきれいに消え失せた。
剥きだしになった頭部の断面にバールを突き立てられても実装石は死ねなかったようで
苦しげな呻き声を上げている。

無数の釘を打ち込んだバットが”1人”の実装石の顔面を捉えた。
左顎から右瞼までが大きく抉り取られ、支えを失った赤い眼球がポロリとこぼれ落ちる。
『デベェェェ』
残された左目で必死になって右目を探している姿を嘲笑うかのように、
四つん這いになった実装石の背にバットが振り下ろされた。


私自身も友人たちと共に何度も繰り返した光景が、今また繰り返されている。
それが人の顔をした実装石となれば相当に堪えそうなものなのだが
不思議と嫌悪感も哀しさも感じなかった。
あるのは、ただ諦めにも似た感情だけ…


『デエッ!デエッ!』
案内役であった実装石が目の前を駆けて行く。
「おらっ!ちょろちょろ逃げ回ってんじゃねえよ!」
虐待派の一人が彼女目がけてバールを横薙ぎに振り回す。
バールの鉤状の先端部分が私のすぐ前をかすめて行く。
やはり彼らの目に私の姿は映っていないらしい。
まだ自分の得物を使いこなせていないのか、バールは実装石に直撃はせず、
中途半端に鉤状の部分が彼女の口の端を引っ掛かった。
『デベエ…』
彼女の顔は歪なアッカンベエをしているようにも見えた。
虐待派がバールを引き寄せると頬が大きく裂け、キラキラと光る偽石がこぼれ落ちた。
こんな浅いところに偽石がある個体は珍しいな、と場違いなことを考えていると
男は摘み上げた偽石を彼女の眼前に突きつけた。
『デシャアァァ!』
それを返せと言わんばかりに威嚇する彼女の声が気に障ったのだろうか、
「おら!返してやるよ!」
男は偽石を彼女の足元に叩きつけた。
パキンと乾いた音がして偽石が割れると、くぐもった悲鳴を一声上げて彼女は倒れた。

この死に方はどこかで見た気がする…
ああ、そうか…私が初めて殺した実装石だ。



1時間ほども経っただろうか、もしかしたら10分と経ってていないのかもしれない。
広場には動くものの姿はなく、逃げ損ねた実装石たちは全て死に、虐待派もいつの間にか引き上げたようだ。

突然、私の前に倒れていた案内役が起き上がった。
垂れ流されていた体液はフィルムの逆回しのように体内へと引き込まれ、
歯茎の付け根まで覗かせていた頬の裂け目もみるみる塞がってゆく。
粉々になった偽石を面倒くさそうに拾い集め、両の掌で揉みつける。
掌が開かれると、そこにはキラキラと光る偽石があった。
それを無造作に飲み下すと、
『デス』
と一声だけ私に鳴きかけ、彼女は茂みの中へと消えて行った。

広場のあちこちで同じようなことが起こっていた。

身体中に開いた無数の穴からBB弾が押し出されて、穴が塞がってゆく。

火傷でボロボロになった表皮が再生され、黒焦げになっていた服も緑色を取り戻してゆく。

”一人”また”一人”と立ち上がり、木々の間に、茂みの中へ、遊歩道の奥へと
思い思いの方へ実装石たちは姿を消してゆく。

やがて広場には私だけが残された。





再び気づいたとき、私はよく見知った近所の公園の入り口に立っていた。

右手には先ほど購入したコンビニ弁当の袋を携えている。
まだ西の空はかすかに明るい。急げばナイター中継の開始に間に合うだろう。

帰る道すがら、今自分が見たものが何であるのかを考えていた。

おおよその見当はついている。だが、それ以外の可能性、私が救われる答えを探していた。

焚き火のまわりを埋め尽くした実装石の輪の中に、ポツリと空けられていたスペースは
誰のためのものだったのだろう、と。





(終)

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