小賢しい親 ワタシは、両手で支えた石を、目の前の透明な壁に軽く当ててみた。 『コン、コン』ほんの僅かな音だけれど、この壁なら大丈夫。ワタシにも壊せる壁の音だ。 でも、焦ってはいけない。この壁は壊す時大きな音を立てる。それはこの巣に住むニンゲン達を呼び寄せる。 だから、賢いワタシは時々通る大きな車の音に紛らせて壁を壊す。 ワタシのママは愚かだったから、何も考えずに大きな音を立てて壁を壊して、ニンゲンの怒りをかって目の前で殺された。 ママは愚かだ。自分だって巣の中に他の仲間が入ってきたら、ぶっ殺すくせに、ニンゲン達の巣にワタシ達が入って、 無事に済むわけがない。 だからワタシは、ニンゲンに気がつかれないように、巣に入り込み、ニンゲンの食べ物だけを貰って逃げる。 本来なら、賢いワタシはこんな危険を冒すことはない。けれども、昨日生んだばかりの子供達には十分な栄養が必要なのだ。 ワタシは、大きな車の立てる音が近づくのを感じながら、石を振り上げた。 しまった。賢いワタシとしたことが、入る部屋を間違えてしまった。 せっかく危険を冒してまで入り込んだ部屋には食べ物らしいものは何もなく、扉が閉じられている。 試しにドアノブ(賢いワタシは扉の開け方も知っているのだ)に飛びつくが、鍵がかかっているらしく、開かない。 侵入は失敗だ。ワタシは素直にあきらめる。愚かな仲間のように手が届かない食料に手を伸ばし続け、 ニンゲンに捕まるようなことはできない。 ワタシは軽くため息をつき、入ってきた穴を振り返る。その目にあるものが写る。 なんてことだ。食料探しに夢中で気がつかなかったが、部屋の中央には布団が敷かれ、その上にピンクの服を着た同族が眠っている。 顔を覗き込むと、血色の良い顔をしてよだれを垂らして眠っている。 大きさから言って、ワタシと同じ成体実装だろう。ピンク色の可愛らしい服を着せられ、柔らかそうな布団で眠っている。 ワタシはふと心にどす黒いものが浮かんだ。こんな不細工を飼うぐらいなら賢く美しいこのワタシを飼えばいいものを、 このお家のニンゲンも馬鹿なのであろう。 ワタシの頭にあるアイデアが浮かぶ。自分の賢さに思わず、口元がゆるむ。 目の前の飼い実装を殺し、すり替わるのだ。 ワタシは、飼い実装が掛けている布を顔にかぶせ声を封じる。マヌケは、未だに気づかず寝入っている。 そうしておいて、マヌケの首を絞める。僅かな声が漏れるが、この程度なら大丈夫だ。僅かにピクつく手足を無視して、首を締め付け続ける。 やがて手足の力も抜け、マヌケが動かなくなると。ワタシはマヌケの服をはぎ取りにかかる。 この服をいただいて、このマヌケの死体を始末してしまおう。壊れた壁と、いなくなったマヌケにニンゲン達はこいつが逃げ出したと思うだろう。 しばらく間を開けてワタシがこの服を着て、子供を連れて帰ってくれば、馬鹿なニンゲンはワタシ達を飼ってるはずだ。 いや、こんなマヌケよりも美しく賢い実装石が自分の飼い実装と同じ服を着て現れるのだ。馬鹿なニンゲン達はあっさりだまされるだろう。 ワタシは、マヌケのかぶっている服と一体になったフードを脱がす。 ププ、こいつ禿だ。完全な禿ではないが、髪が短く薄い。賢く美しいワタシの髪とは比べものにならない。 おまけにこいつは服の下にオムツをしている。成体実装のくせによほどの馬鹿なのだろう。 ワタシは、食料を詰めるために持参したコンビニ袋に丁寧にたたんだ服を詰める。 そして、壊した透明な壁の一部を慎重に手にする。 賢いワタシは知っている。この透明な壁を壊すと、鋭い刃物の代わりになることを。 これでこのマヌケの身体を解体して、巣で待つ子供達に持って帰る。持ちきれない分は此処で食べてしまおう。 ワタシは、両手で持った鋭い破片でマヌケの手足を切り取る。よほどいいものを食べているのか、身が締まっていて切りづらい。 何とか四肢を切り取り、服とは別の袋に詰める。子供達には十分な量だろう。 ワタシの目の前には、禿裸で手足のない蛆ちゃんのようなみすぼらしい格好のマヌケが横たわっている。ワタシは、その腹にかぶりつく。 心地よい歯ごたえとともに、血の味と肉の味が口の中に広がる。 美味い。なんて美味いんだ。同族の肉を食ったことはあったが、これほどうまい肉は初めてだった。夢中でマヌケの肉を食う。 大きく引きちぎれた肉は、手足と同じ袋に入れ、子供達の土産にする。賢いワタシは興奮してもそれくらいできる。 それにしても食べ応えのある肉だ。これに比べれば今まで喰った同族の肉はすかすかのスポンジのようだ。このままでは全部を喰いきれないだろう。 まぁ、良い。こいつの死体を残しておいて、侵入してきた野良実装と言うことにしてしまえば良い。 そう考えていると、扉の向こうでニンゲンの足音がする。潮時だ。ワタシは荷物を持つと、入ってきた穴から外へ出る。 人間の車に注意しながら、歩いていると、出てきたニンゲンの巣から甲高い悲鳴が聞こえた。 ニンゲンから見つかりにくいよう、茂みの中に立てた家に帰り着くと、持ち帰ったマヌケの肉を子供達は喜んで食べてくれた。 一番体の大きな長女は、自分も食べたいのだろうが、妹たちに譲っている。 長女より一回り小さい2女は、自分もたくさん食べながらも、妹である親指ちゃんと、蛆ちゃんをかいがいしく世話をしている。 美しく賢く、姉妹愛にあふれた娘達の様子にワタシは満足して見つめる。 その夜はワタシの武勇伝を娘達に聞かせてやると、遅くまで興奮して話し続けていた。 あの日以来、公園の仲間達が集中的にニンゲン達に捕まっている。 バカな連中だ。あの服を着たニンゲンは仲間を捕まえるために何度もやって来ていたのに、学習しないバカ共はそんなニンゲンにも媚びを売りに行く。 その点、あの日以来あの家のマヌケ飼い実装の服を着込んだワタシは、飼い実装のふりをするだけで、ニンゲン達の目を欺ける。 ワタシには及ばないものの賢い私の娘達も、しつけられた飼い仔実装のふりをし、事なきを得ている。 こまめに服と身体を洗い、公園を歩くときはきちんと整列して歩く。ニンゲンに過度に媚びない。 この程度でニンゲン達はあっさりとだまされるのだ。 あの日から、7回お日様が昇った。頃合いだろう。ワタシは子供達を引き連れ、あの家に向かう。 今朝は早くから、噴水の水で子供達の分も服を洗い、身体も綺麗にした。 でも少しだけ汚れを残しておくのがこつだ。1週間の野良生活をした飼い実装になりすますのだから。 人間の車を避けながら、何とか皆無事にニンゲンの巣にたどり着く。この前侵入した部屋の前に行くと、そこにはニンゲンの男が座り込んで外を見ていた。 ワタシは息を整えると、満面の笑顔を浮かべ、涙さえ浮かべニンゲンに駆け寄った。 『ご主人様〜〜!』ニンゲンはワタシの姿を見て驚いたように腰を上げ、飛びついていったワタシを抱き留めてくれた。 「お前は…」ニンゲンはワタシの顔を覗き込む。 『ワタシデスゥ!野良に襲われて逃げ回っていたデスゥ!』ワタシは涙で顔を濡らし、人間の身体に押しつける。人間の手がワタシを強く抱きしめてくれる。 やった。ワタシは賭に勝った。これで飼い実装としてこのニンゲンに良い生活をさせてもらえる。 それからワタシは、ニンゲンに嘘の逃亡生活を語って聞かせた。 はじめは怪訝な目で子供達を見ていたニンゲンの目が少し優しくなった。良い傾向だ。 そのお陰か、ニンゲンの巣での生活は快適そのものだった。部屋として与えられた水槽は広さもそこそこ有ったし、自由に出入りを許されていた。 食事も、ニンゲンのものではないが、高級な実装石専用の食事を出してくれた。 まぁ、良い、そのうち徐々にもっと良い待遇に変わるようにニンゲンを誘導してやる。 ある日、ニンゲンが水槽を三つ持って帰ってきた。一つは水が入って、魚が泳いでいる。もう一つは砂と小石が入っている。最後の一つは土と草が入っていた。 『ご主人様、それは何デスゥ?』ワタシは疑問を口にする。 「これはね、友達から預かったんだ。」 『何が入っているテチュ?』娘達が興味深げに覗き込んでいる。 「ああ、あまりさわってはいけないよ。こいつらはね、あまりに糞蟲だったんで、手に負えなくて僕が預かったんだ。」 『テェ?糞蟲テチュ?』 『糞蟲、糞蟲レフ〜!』糞蟲という言葉に、娘達は優越感を感じたのか、蛆ちゃんでさえ、水槽の中に向かって嘲りの声を上げている。 『お前たち、やめるデスゥ!相手に糞蟲って言うのも糞蟲のやる事デスゥ!』ワタシは厳しく娘達を戒める。 「はは、構わないよ、こいつらは本当に糞蟲なんだから。でも、お前の教育は良かったな。」そう言ってニンゲンはワタシの頭を撫でてくれる。 「お前たちもママの言うことをよく聞いて賢い大人になるんだぞ。」 『『ハイ、テチュ!』』ニンゲン言葉に娘達は元気に返事する。良い傾向だ。 これでワタシは賢く、家族愛にあふれた実装石とこのニンゲンに植え付けられただろう。 「ところでな、お前にとって子供って何だ?」その日の夜夕食を食べ終わった後ニンゲンが突然聞いてくる。 『突然どうしたのデスか?ご主人様。』 「俺にはな、子供がいたんだよ。」 『子供デスか?会わせてください。ご主人様の子なら、かわいい子でしょう?』 「残念だけどな、遠くに行っちまった。」 『遠くデスか?』 「ああ。」そう言ってニンゲンは、悲しそうな顔をした。賢いワタシは、ニンゲンに同情するふりをする。 しかし、少し安心だ。ニンゲンに子供がいたら、その分ワタシ達に注ぐ愛情が減ってしまうだろう。 賢いワタシは、徐々にこのニンゲンを飼い慣らしてやる。気がつけば賢く美しいワタシを手放せなくしてやるのだ。 「それで、子供はお前にとって何だ?」 『子供はワタシにとってすべてデス。この子達が立派な大人になって幸せになることがワタシの今の望みデスゥ。』 こればかりは偽る必要もない。ワタシは美しく賢い、家族愛にあふれた実装石なのだから。 「じゃあ、例えば野良実装がお前の子を食べてしまったらどうする?」 『そんなこと決まってるデスゥ!そいつをとっ捕まえて、八つ裂きにしてやるデスゥ!』 「…そうか、お前の気持ちはわかった。」なんだろう、急に寒気がしてきた。気温が落ちた訳じゃない。 目の前のニンゲンから、得体の知れない気配がしている。顔はいつもと同じ顔なのに、何かとても冷たいものが目の前にいるような感じを受ける。 『ご主人様?どうされたデスゥ?』ワタシは内心の動揺を隠しながら様子の変わった人間に尋ねる。 「これを見ろ。」ニンゲンが、絵の描かれた板をワタシに見せる。 そこには今ワタシが着ている服を着た、あのマヌケがニンゲンの女に抱かれて写っている。 『…これ、ワタシデスゥ!賢く美しいワタシが写っているデスゥ!』ニンゲンのバカな罠に引っかかるものか。 ここで、絵の中のマヌケとワタシが違うと言えば、すり替わりがばれてしまう。 「ちがうよ。」え?ニンゲンが冷たい声でワタシの言葉を否定する。 「これはな…」 「お前が殺した、俺の娘だ。」 『デスゥ?』このニンゲンは何を言ったのだ? 「お前はな、昼寝していた3ヶ月になる俺の娘を喰い殺したんだよ。」 『そ・そんな事してないデスゥ!ワタシはご主人様に飼われていた飼い実装デスゥ!』 「お前は、昼寝してる俺の娘を実装石と勘違いして喰ったんだ。」 『デデ!そんな事してないデ・』 「黙れ!」ニンゲンのとても怖い声に私は思わず口をつぐむ。 「お前がその服を着ていることが証拠だ。おおかたすり代わりをするつもりだったんだろ? だがな、お前が殺したのは同族じゃない。人間の赤ん坊だ!」 『嘘デス、嘘デス、そんなはずはいないデスゥ!デベ!』人間がワタシの顔を叩く。痛い。顔がつぶれてしまうほど痛い。 「黙れと言ったろ。お前のせいでな、俺の女房は首を吊ったよ。ああ、わかりやすく言ってやろう。自殺したんだ。お前のせいでな!」 『知らないデス、そんなの知らないデスゥ!』 「そうか、そこで一生そう言ってろ。お前には俺たち夫婦と同じ気持ちを味合わせてやる。」そう言ってニンゲンはワタシの入った部屋にふたをする。 イヤな予感がしたワタシは、壁を懸命に叩き、子供達に逃げろと叫ぶ。 でも子供達にはワタシの姿も声も届いていないのか、楽しそうにニンゲンにじゃれついている。子供達の声や姿は、ワタシに届いているのに。 『何でデスゥ!お前たち逃げるデスゥ!何で、何で聞こえないんデスゥ!』 『ご主人様、ママはどうしたんテチュ?』一番賢い長女が気がついてくれた。早く異常に気がついて逃げ出すデス。 「ああ、ママはちょっと悪いことをしたんで、そこの黒い箱に閉じこめて、お仕置きをしてるんだ。」 『テェーー!ママ死んじゃうテチュか?』小さい娘達がワタシを気遣ってくれる。 「死にはしないよ。ただしばらく閉じこめて、反省して貰うのさ。」 『ママ、心配テチューー。』 「大丈夫だよ。それよりお前たちに、手伝って欲しいことがあるんだ。」 『なんテチュか?』 「お前たちも知ってる糞蟲にお仕置きをするのを手伝って欲しいんだ。賢くて美しいお前たちには簡単だろう?」 『もちろんテチュ!お任せくださいテチュ!』子供達は小さな胸を叩いてみせる。 『ダメデスゥ!そいつは危険デスゥ!早く逃げるデスゥ!』ワタシは懸命に叫ぶけれど子供達には聞こえていない。 人間の手に掴まれて子供達が水槽の中に入れられていく。ニンゲンの言っていた取るに足らない糞蟲達が入っている水槽に。 『テチュ、テチュ、お水気持ちいいテチュ。』水が入った水槽に入れられた2女は浮き輪をつけられ、 ご機嫌のようだ。バカな、早く逃げなければならないのに。 長女は、蛆ちゃんを抱いて砂の入った水槽に、3女の親指ちゃんは草の生えた水槽の中にそれぞれ入れられた。 人間がワタシの娘達を糞蟲の水槽に入れ終わると、ワタシの頭の上を覆っていた蓋を取り払う。 「さぁ、お前たちの働きぶりを、ママにも見て貰おうな。」そう言ってニンゲンはワタシの襟首を掴んで持ち上げる。 『ママテチュ!』 『ママ、ワタチご主人様からオチゴト貰ったテチュ!』 『レフ〜!』それぞれに仕事を与えられた子供達は喜んでいるけれど、ワタシは声を限りに叫ぶ。 『お前たち逃げるデスゥ!このニンゲンはお前たちを殺そうとしてるデスゥ!』 『ママ、何言ってるテチュか?』 『そうテチュ、ママ自分がお仕置きされたから、ワタチ達がうらやましいテチュ。』 『ご主人様、ママが変な事言うレチュ。』 『レフ〜、レフ〜。』だめだ、子供達はワタシの言うことを聞いてくれない。ワタシはすがる想いでニンゲンを見上げる。 「お前たち、ママが言ってることは本当だ。」ニンゲンが意外なことを口にする。このままだまして殺すのじゃないのか? 「なに、安心してるんだ糞蟲?もうお前の子の処刑は始まってるんだよ。」ニンゲンが冷たく言う。 『テチャーー!』2女の悲鳴が上がった。 『痛いテチュ!痛いテチュ!足!ワタチの足が!』見れば、浮き輪で浮かぶ2女の下に魚たちが群がり、足を食い千切っている。 「あれはね、ピラニアって言う肉食の魚なんだ。あの子がどれくらい持つかな?」ニンゲンが説明している。 『やめるデス!バカニンゲン!私の娘を助けるデスゥ!』 『テチャーー!』2女の惨状に他の娘達もパニックになりそれぞれの水槽の壁を叩き叫びを上げている。 「俺が言うことを聞くと思うか?」ニンゲンの冷たい言葉がワタシを貫く。 『レチーー!』今度は、3女の親指ちゃんの悲鳴が上がった。 『親指ちゃん!』長女が親指ちゃんに声を掛ける。 緑色の細い生き物が後ろから親指ちゃんを抱え、その首に口をつけている。 『痛いレチ!ママ!助けてレチ!』親指ちゃんは何とか逃げようとするが、緑の細長い手足が親指ちゃんを捕らえて放さない。 「あれは、カマキリという、肉食の昆虫だ。自分より大きな同族を襲うこともあるこれまた、どう猛な生き物だよ。」 『やめるデスゥ!お願いデスゥ!娘達を助けてくださいデスゥ!』 「いちいち説明が面倒なんで教えておいてやろう。長女と蛆ちゃんの入っている水槽に住んでるのは、蟻だ。」 『蟻デスゥ?』ワタシは少しほっとした。蟻なら知っている。公園にもいた小さな黒い虫。 いくら何でもあの虫に子供の中で一番大きい長女がやられることはあるまい。 『アリンコさんテチュ!ママ、真っ赤なアリンコさんテチュ!』長女も見知った生き物が現れたので少し安心している。え?赤い蟻? 『デェ?』ワタシは始めて見るその蟻に不安を覚えた。 「ああ、その蟻だけれどな、南米産の肉食の蟻でな。酷いときは牛一頭喰うそうだよ。」 『テギャーー!』ニンゲンの説明を聞いている間に、長女の身体に蟻たちがまとわりつき始めた。 長女は蛆ちゃんを庇おうとするが、全身を噛まれ手放してしまう。 『レフェ〜〜!』蛆ちゃんの悲鳴は、蟻の塊の中から聞こえた。しかしその塊もあっという間に崩れると、そこに蛆ちゃんの姿はなかった。 『蛆ちゃん?蛆ちゃ〜〜ん!テゴァ!』蛆ちゃんを呼んだ長女の口に蟻が侵入し長女の悲鳴はそれきり聞こえなくなる。 『テチャ!テチャーー!ゴボ!』2女の身体を支えていた浮き輪が食い破られ、2女の身体が水槽に没した。 既にその下半身はなく、腹からは内蔵がこぼれ出ている。懸命に手を振り回し魚を遠ざけようとするけれど、 あっという間に魚にまとわりつかれ、魚が離れたときには、2女の頭巾と破れた浮き輪だけが水槽の中を漂っていた。 『レチ…ママ…助けテチ…』カマキリに食いつかれている親指ちゃんは既に身体の半分を喰われている。 その露出した身体の中から、透き通った緑色の親指ちゃんの偽石が見えた。 『レチャーーー!』カマキリが親指ちゃんの偽石を囓り、パキンと乾いた音とともに咬み砕き、親指ちゃんはそれきり動かなくなった。 カマキリは動かなくなった親指ちゃんの身体をクチャクチャと音を立てて喰っていく。 最後の長女達が入った水槽の中も既に静かになっていた。長女の形をした蟻の塊は崩れ去り、長女と蛆ちゃんの居た後は何も残らなかった。 死んでしまった…死んでしまった…ワタシの…かわいい…子供達が…何もできず…目の前で…何も… 『オロロ〜〜ン!オロロ〜〜ン!オロロ〜〜ン!』ワタシは声の限り泣いた。全てが口と目から流れ出てしまうほど泣いた。 「子供が死んで悲しいか、糞蟲?」人間が何か言っている。 『何でデスゥ!何でワタシの子供達を殺すデスゥ!?』 「言っただろ?子供を殺された親の気持ちを味合わせてやるって。」 『酷いデスゥ!お前は悪魔デスゥ!地獄に堕ちろデスゥ!』 「俺が悪魔ならお前は何だ?俺の娘を喰い殺したお前は何だ?」 『…ワタシを…殺すデスか?子供達のように、自分の子供の敵にワタシを殺すデスか?殺すなら殺しやがれデスゥ!』 もう、どうでも良い。愛情込めて育てた娘達が無惨に殺されたのだ。ワタシもあの子達の後を追おう。そう思ってワタシは声の限りニンゲンを罵倒する。 「お前を殺しはしないよ。」妙に優しい声で人間が言う。 『デ?』 「お前には、また子供を産んで貰う。ある程度育ったらまた目の前で殺してやる。」 『デデ?』 「それにお前は簡単には死なないよ。眠っている間に偽石を取り出してある。ほら。」そういってニンゲンは手の中の瓶を見せる。 「お前の偽石は、強化剤と栄養剤に浸してある。ストレスで死んだり、狂ったりできないんだよお前はな。 未来永劫子供を殺される苦痛を味わって貰うからな。」 『テギャーー!』ワタシは声の限り叫んだ。ワタシの未来、ワタシの子供達の未来を想い… 終 劇 初めて書いた作品です。あれもこれもと考えてる撃ちに冗長になってしまいました。 やはりスク職人の皆さんには足元にも及ばないですね。頑張ろう。
