クレイジークライマー −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ある公園の近くの古びた安アパート… その階段下に実装石の親仔が居た。 成体1匹、まだ小さな13cm程度の仔が3匹、そして親指実装1匹の5匹家族である。 既に汚れきった実装服に身を包み、放つ異臭はハエすらも寄せ付けない。 丸々と肥えた血色の良い肉体をしているが、これでも彼らは飢えていた。 既に4日間、固形のものは殆ど口には入れていない。 水を啜り生きてきた。 それも、まともな水場が使えず、彼らは雨の後の水溜りの泥水を啜り、 ボウフラ浮かぶドブの澱み水をボウフラごと手ですくって啜って命を繋いだ。 彼らは、家も持てない類の野良実装石…いわば野良の底辺ランクである。 彼らは自分達の飢え具合から、危機感を募らせていた。 ゴミ捨て場を漁ろうと思っても、ゴミが無い… (単にゴミ捨ての日・時間を覚えられず真昼間にウロウロして断念) 人の住居に侵入しようとして、窓を破壊できず失敗… (強化対策されていた上に、石と間違えて我が仔を投げつけた時点で断念) コンビニのゴミ箱漁りへの挑戦失敗1… (ゴミ箱に仔を入れて中の物を出させようとするが空き缶の場所にぶち込んで獲物無く、入れた仔も取り出せず途方に暮れる) コンビニのゴミ箱漁りへの挑戦失敗2… (今度は燃えるゴミの中に投入するが、やはり物も仔も取り出すことを考えていないので失敗) コンビニで今度は託児に挑戦… (投げ入れ失敗で2匹死亡、1匹入るもバレて、目の前で地面に叩きつけられ失敗) と、考え付く限り、何をやっても食べ物が手に入れられないのだ。 木の実や草や花を食っても生きながらえられるが、当然、妙に高いプライドが甘美な餌のほうにしか思考を働かせない。 別に実装石は水分さえ十分なら1週間でも1ヶ月でも生きていられるが、 空腹には”精神的に”絶えられず、スグに餓死する恐怖に支配されて焦りだしたのだ。 そして上記の通り、4日間で実に6匹の我が仔を失っていた。 焦っていなくても、この程度であろうが…。 兎に角、彼らは、切迫する危機感に成すすべなく彷徨っていた。 そんな中、一度は潜入に挑戦して失敗したアパートの前に来ていた。 「ここはダメデス…昔は入れたんデス…ママは賢かったから入れたんデス!本当デスゥ! 美味しいものが沢山あって天国みたいだったデスゥ♪」 いくら誇張しても仔達の目線はいささか冷ややかではあったが、 このトロく頭の足りない実装石が、幸運に支えられてたった一度味わえた天国のような経験を語って聞かせ、 宥めるつもりが、一人で悦に入ってしまった。 そして、仔達も、その話で想像して抗議する事を忘れた。 しかし、いくら過去を語っても空腹が虚無感を呼び戻す。 ふと、親実装が目を向けたのは、アパートの階段と階段の上だった。 ”そういえば、この上はどうなっているデス?” 人間がコレを登っていくのを何度も見ている。 しかし、この上に登った実装石を見たことも、登ったと言う話も聞いた事が無い。 当然、誰もこの上に何があるのかと言う話も聞いた事が無い。 ”ニンゲンは上がるデス…上には何があるデス?” そう考えて、親実装は「デデェ!」と閃いた。 ”この上にはきっと沢山の食べ物があるデス!ニンゲンの隠した食べ物が蓄えられているデス!” ”誰も上のことは知らないデス!きっとそうデス!賢いワタシは閃いたデスゥ〜♪” 親実装は涎を垂らしたまま、階段の上を指差し、自信満々に叫ぶ。 「ここを登るデス!この上にはきっとニンゲンの食べ物が鈴なりに成っている木があるデスゥ!!」 「テテェ!食べ物の木テチュー!!」 「ココを登るテチィィィィ!?」 「そうデス!食べ物の木デス!!スシやステーキの成る木が生えているデス! ワタシは賢いから知っているデス!ニンゲンの家には食べ物が生る木があるデス! ニンゲンにはとても大切な木だから、こんな所に隠すデス!」 妄想もココまで来れば立派なものであろう。 しかし、そこは実装石、仔達は何の疑いも無く涎を垂らして上を見上げる。 「スシがあるテチィ、ステーキもあるテチィ…きっとコンペイトウも生っているテチィ♪」 「取り放題レチィー♪」 「でもこんな所登れるテチッ?」 親実装は、早速階段に向かう。 階段の段差は約30cm…実装石の成体の身長が約60cmで、一見すると簡単に登れる気もするが、 実装石の頭や体が大きく、手足が短いアンバランスな体系から見れば、 その30cmの段差は過酷である。 なにせ、バンザイしても手が自分の耳にすら届かないのだ。 足を目一杯上げても、自分のヘソまで上がらないのだ。 それでも、親実装は仔達の前で、意を決したように1段目に手を掛ける。 金属の古い階段…その滑り止めの模様に手を掛けて渾身の力で身体を引き上げ、 頭も使って何とか半身を持ち上げる。 クイクイッと斜めにした身体で足を彷徨わせ、一段目に足をかけ、さらに身体を引き上げる。 そして、足場を確保して、斜めの体勢で片手を伸ばし、次の段に片手を置くと、再び全力で身体を上げる。 こうしてようやく、両足が一段目に両足が乗る。 それだけでもはや親実装は息も絶え絶えである。 そして、同じようにもう一段上に上がる。 親が二段目に上がると、仔達は取り残されたと不安になる。 「テチァァァァァァ!!ママだけ”天国”に行く気テチィ!」 「「ズルイテチィ!ズルイテチィ!」」 「黙るデス!ちゃんと考えているデス!」 そう言うと、親実装は突然モゾモゾ空いた片手を前掛けに持っていく。 そして、前掛けに付いたポケットから何かを取り出す。 それは、古くなったビニールの紐だった。 親実装はソレを手にしたまま落ち着かない。 どうやら、紐を垂らして引き上げるつもりだったのだろうが、全然思いついたことが実行できないようだ。 ソレもその筈、階段の1つの段の有効な広さは、奥行きが30cmもない。 それでは、身体だけが太い成体の実装石には、方向転換すら出来ないのだ。 しかも、バランスを保つ為に捕まれる物も無い。 上手く思い道理にならない焦りと、仔達からの催促に動揺しながらも、何とか仔達を引き上げようと努力する親。 結局は、後ろに向き直る事を諦め、三段目に片手を乗せると、 その登る途中の斜めの姿勢で、空いた片手を下に向けて、紐を下まで垂らす。 身体を保持したまま紐を垂らすにはそれしかない。 片手で身体を支え、片足で踏ん張り、思いっきり身体を伸ばして身体を保持する。 仔達は垂らされた紐に喜び勇んで全員でしがみ付く。 そして、一向に何も起きないので紐を引っ張り出す。 「デデェ!お前達一人だけデスゥ!引っ張るなデスゥ!ワタシが落ちるデスゥ!! このバカクズクソカス!1人づつだというのがわからないデスゥ!!」 流石に4匹に引っ張られ、バランスが崩れそうな親実装は、全身から出る脂汗を冷や汗に変えて抗議する。 何も説明していないのにやれと言うのも酷な話だ。 渋々、1匹を残して紐から離れる。 紐を持った1匹は、紐に捕まって「テッチュー♪」と鳴く。 鳴くだけで何もしない。 自分が何もしなくても、引き上げてもらえるという考えだ。 いつまで待っても何もしてもらえないので、「テリュ!テリュ!」と紐を引っ張り出す。 「ママ!早く引っ張り上げるテチィ〜」 「デアッ!デアッ!やめるデス!このボケマヌケウンコノータリン!! 少しは自力で上がりやがれデスゥゥゥゥゥ」 バランスが悪い上に全身限界の親実装は、仔の暴挙にキレている。 落ちれば只では済まないだけに仔だからと甘い顔は出来ない状態だ。 「そんなの無理テチィー」 確かに実装石の手と力で、紐を登れというのも厳しい話だ。 「なら、お前達は食べ放題ナシデスゥ!働かざるもの喰うべからずデスゥ♪」 「テテェ!!やるテチィ…」 そこは実装石…豚も煽てれば何とやら、実装石も餌を見せればなんとやら… 「テッチ…テッチ…」と紐を登りだす。 一応、それでも”愛情”があるのか、親実装は限界の姿勢のまま、仔が登るのを支えている。 そして、「がんばるデス!ちゃんと登ったら無事だと合図するデス!」と声をかけた。 なにせ、その体勢だけに、後ろ下を見ることが出来ない。 そして、最後に非力な親指が残ると、 「お前達も紐を引っ張って親指ちゃんを引き上げるデス」と指示をした。 一応、そーいう知能は備わっている。 ただ、普段それだけ頭が回っていれば、飢えるまで行かないハズではある。 「ママー!!親指ちゃんも上がったテッチィー」 奥行き30cmの足場は、小さな仔達には十分な余裕がある足場だった。 「よくやったデス!休んでいるデス…同じ事を繰り返して上にいけるデス」 親実装は、そのまま再び登る事を繰り返し、仔を自分の一段下まで引き上げる事を繰り返した。 5段目…空腹は吹っ飛んでいるが、疲労が限界に達する。 それでも上を見上げて繰り返す。 上を見上げても、見える視点では次から次の階段しか見えない。 それでも、親実装は階段に、脂汗と共にだらしの無い涎を垂らして懸命に登り仔を引き上げる。 仔達も休める余裕があるとはいえ、体力が弱いのに、懸命に紐を登る。 親と同じく、上を見上げ、汗と涎を零しながら。 逆に疲労が限界に達しているだけに、妄想ばかりが頭を駆けて膨らんでいく。 「楽園…楽園があるデスゥ…ココを上がれば、きっと他のヤツラを見下ろし遊んで暮らせる世界が広がっているデス」 「「楽園テチィ…楽園テチィ…きっとニンゲン達がワタチ達を歓迎してくれるテチィ」」 「レ・レリュ…楽園レチィ…もう何もしなくても暮らせる世界レチュー」 当初は、行った事が無いから餌があるのでは?というところから始まったというのに、 勝手に、餌のなる木があるという妄想が生まれ、 いまや、楽園と言う幻想にまで膨らんでいた。 実装石らしいといえば実装石らしい思考力の無駄遣いである。 空想だけ食べていける実装石は、しかし、それによって疲れを払拭して登り続けた。 既に実装石親仔が階段に登りだして2時間になる。 8段目に手を掛けている。 相変わらず妄想を膨らませ、今や頭の中には思い描けるだけの贅沢を尽くしている自分の姿を思い浮かべている。 それと反比例して、流石に疲労の限界を超えているだけにドンドンと行動は鈍くなっていた。 鈍くなっているだけに下を見る機会も生まれる。 既に地上までは2mを超えている。 実装石には滅多にお目にかかれない高さの感覚…この実装石には初体験だ。 「デァァァァァ…」 流石に怯む。 緊張して全身を強張らせる。 プリプリ…我慢していた糞が漏れる。 とっくの昔に緑色が染みたパンツ…登る前から少しづつ漏らした糞が中で固まっていたが… それが膨らんで、新鮮な柔らかい糞が隙間から押し出されて下に落ちる。 今まで気にも留めなかったが、風が吹くたびにビクッと反応し動きが止まる。 古いアパートの鉄製階段故に、段と段の間は吹き抜けている。 風は前からも後ろからも通り抜け放題だ。 仔達も、やはり暇を弄ぶ時間が長くなると、ついつい下を気にする。 そして、やはり親仔というべきか、所詮は実装石と言うべきか、お漏らし大会が始まる。 それでも、いまさら止めて戻る術も無いのが現実だ。 親も仔も、戻ることは考えずに登っていた事にようやく気が付いた。 「う・上にはら・楽園…楽園で遊んで暮らすデス!」 自分に言い聞かせるように次の段を目指す。 そして、仔達を引き上げる。 親実装は8段目、仔実装を7段目に引き上げている最中だった。 そして、ようやく、親実装の見上げた視線に階段が見えない部分が現れた。 ”やったデス!もう少し、もう少しデス!ジュースの海にコンペイトウの山が見えるデス” 「お前達、ガンバルデス!もう少しデス!ワタシの美しさのお陰で楽園にたどり着けるデスゥゥゥ」 美しさが登る力に何の効果があるか判らないが、仔達もその言葉で元気を取り戻す。 「ママー!親指ちゃんも上がったテッチィィィィン」 「判ったデス!ちょっと休憩するデス!」 それでも流石に疲れたのか、9段目に乗せていた手を離して体勢を戻す。 只疲れたのではなく、上が目前に見えて安心したのだ。 7段目では、3匹の仔と親指が、ゴールが近いと足場の上で小躍りしている。 もう、高さへの恐怖は無い。 親実装は「デスゥ…」とため息をつく。 ”立ったままでは、全然、疲れが取れないデスゥ” 親実装は、そのまま狭い足場で体の向きを変え、足場に腰を下ろして腰掛けようと考えた。 とりあえず、頭の中ではちゃんと腰掛けられる予定であった。 しかし、それが理論的に出来ない事は、1段目にやろうとして出来なかったのだか、 そんな事はキレイサッパリ忘れている。 そして、方向転換しようと体の向きを横にしていく。 90度…実装石のアンバランスな身体では足の幅限界である。 それでも、片手で9段目に手を置いて耐えている。 そこで無理と理解すればよいものを、親実装はこれならまだいけると考えた。 そして、愚かにも支えている手を階段から離した…。 風の影響ではない。 横幅限界の足場では、実装石の恰幅がよく、頭が大きく、小さく短い足では、 いとも簡単にバランスが崩れる。 いや、視界が空中で床が把握できない浮遊感によって、勝手にバランスが崩れたと錯覚して、 反射的にバランスを取ろうとひとりでに体が左右にふら付いたのだ。 一旦ふら付くと、その面積の小さい足では踏ん張りが利かない。 「デデ!デデ!デァッ!!デスゥゥゥゥゥ!!」 それでも、一旦始めた事に対して別の選択が出来ないのか、無理やり身体を正面に向けようとする。 足がもつれ、宙を蹴る。 「デァァァァァァ…」 宙を蹴って崩れた親実装は、そのまま頭が下の段に向かって倒れる。 「デギュ!!」 「テペァ!!」 「テチュァァァァァァァァァァァァァ…」 「テレャ!!テェェェェェェ!!」 「レチッ!?レチュァ!!」 親実装の頭は、真下の仔1匹を直撃し、それを潰しながら激しく足場に打ち付けられる。 そして、隣の仔1匹を弾いて、吹き抜けの階段裏に突き飛ばす。 親が落ちた衝撃で、驚いたもう1匹の仔がバランスを崩して階段の端まで片足ケンケンで後退する。 「テァァァァァァァァァァァァ…(パシャ!!)」哀れ弾き飛ばされた仔は、空中で手足をバタつかせ、糞を撒き散らしながら、 クルクルと回転して1秒半の空中遊泳を体験して、地面に叩きつけられ、 肉片と体液の花を咲かせた。 仔実装の体長の20倍の高さだ…肉片もミンチの様に細かく炸裂して地面に付着していた。 親実装はの身体は、今度は頭を支点に、残った慣性が身体を背中方向に傾ける。 「レテッテテテテテテテテ…テァ!」 片足ケンケンで足場の端まで追いやられた仔は、両手を振り回し落ちないようにバランスを止めようとする。 しかし、そのまま倒れてくる親の身体に反応して、背面に反り、そのままバランスを崩して後ろに落ちる。 「テリャァァァデビュ!」 そして、下の段に頭から直撃する。 高さが無いだけに、頭のサイズを1/3に圧縮して、プパァとパンツを派手に膨らませ、 低反発ウレタンボディが漫画の様に跳ね上がると、次の段へと落ちていく。 「テベ!テプ!テパ!テッ!ヘ・ヘ・ヘ・ヘ…」 次の段では、投げ出した足を根元から折り、その糞まみれのパンツをクッションに糞の花を咲かせ、 次の段では、目を飛び出させ、次の段では正面から鉄の足場に直撃し、 次の段では、舌を噛み千切り、何本かの歯を折って飛び出させ、 次の段では、後頭部から背中を打ちつけた。 どれも一撃の高さは、30cmの高さを超えないため、即死には至らない。 しかし、1段ごとに勢いは加速し、仔実装の身体を痛めつけ、圧縮していく。 6段目を落ちた時点で、仔実装は全身複雑骨折と重度の打撲の痛みで苦しみながら死を迎えた。 しかし、勢いが付いた身体は、その体質のお陰で鞠の様に跳ねながら地面を目指す。 地面にたどり着いて体内の偽石がようやく破損した。 プルプルな実装石の体系は鞠の様に圧縮されていた。 実に5秒の拷問であった。 親実装も、その後を追うように転がり落ちる。 大きく重いだけに加速度も自重エネルギーも乗数的に高くなって、親を肉団子にしていく。 跳ねながら落ちる仔を追い抜かし、糞と体液を撒きながら 「デベデデデデデデ」と一気に転がって地面に叩きつけられる。 その間、僅か3秒である。 全身を程よく叩きのめした赤黒い肉塊にした親実装は、 それでも大きい分生命力も高く、肉が偽石を守っていたのか、かろうじて生きていた。 赤黒い肉はすぐに紫色に変色する。 機が狂わんばかりの痛みが襲い掛かり、肉体はまるで反応しない。 それでも、飛び出し残った左目が上を見上げる。 「デス…デ…いくデス…楽園…楽園に…手が届くデ…ス」 上には、親指実装だけが難を逃れて取り残された。 一人、小さな足場に取り残された。 落ちていった親達を見て驚愕していたが、やがて取り残された事に気が付く。 上を見ても親指の手はとても届かない。 下の段を見ても、降りられる高さではない。 さらに下の地面には、絶望的な高さと、2つの家族だった肉… 「レァァァァ…レチィィィィ…レチァァァァァ…」 3箇所を順番に見ながら絶望して糞を漏らす。 上も下も見るのをやめ、足場の上をテトテトテトテトと歩き回る。 ”ワタチはこれからどうなるレチィ…ここには何も無いレチィ…登れないレチィ…降りれないレチィィィ” 「オネイチャァーーーーーン、ママァーーーーー!!助けてレチャァァァァァァ!!!レェェェェェェェンレェェェェェン…」 座り込んで泣く。 ひたすら泣く。 ひょっとしたら誰かが助けてくれるかも知れない…そう思って何時間も泣き続けた。 「レベェェェェェェェレビィィィィィィィン…」 やがて、涙も枯れ果て、喉も潰れた。 忘れていた空腹感も親指の肉体を責める。 既に夕暮れ時となり、暗くなりつつあった。 親指実装は、疲れ果てた肉体で這って動き回る。 無駄に疲労し続けた肉体は、もはや、足で立ち上がる力も無い。 親指は這って親の頭で潰された姉の元に向かう。 親の質量で粉砕された仔実装の肉体は炸裂し、殆ど肉も残っていない。 親指はそのシミをレロンレロンと舌で舐め取る。 空腹が癒される。 続いて、自分が漏らした糞の落ちている場所に戻る。 「もうコレしか食べるものはないレチュー」 手に糞を塗りつけて舐める。 パッ 上から光が灯る。 階段天井の明かりが点いた。 それはまるで親指を祝福する光…楽園からの導きのような神々しい光に親指は感じた。 「がんばるレチィ!生き残るレチィ!」 親指は糞を掬っては食べ続けた。 ふと暗くなる。 「何レチィ!?」 見上げた親指が見たのは、真っ暗な天井が落ちてくる様であった。 「レェェェェェチァァァァァァァ…」 ペシャ… 『ん!?なんか踏んだか?』 カンカンカンカン… 気にせずに男が階段を下りていく。 下の実装石の肉塊を発見する。 『うわっ、何だ…実装石か…こりゃ、えらく滅多打ちにされているな…』 男は実装石と判ると、その服を摘んで目線まで持ち上げる。 親実装はまだ生きていた。 「デ…デズ…ゥ」 ”タスケテ”親実装はか細い声で訴えた。 同時に、勝手にこれで救われたと安心した。 男は立ち上がる。 男が歩き出す。 ますます、親実装は助かったと思った。 『毎回毎回、誰だ!?虐待するのはいいけど、ちゃんと燃えるゴミに出せよ…まったくいい迷惑だ…』 男は親実装を1つの大きな金属の箱を開けて中に落とす。 ポリバケツには『ふたば市衛生局 実装石死体集積BOX 毎朝8:30夕方16:00回収』と書かれてあった。 「デァ…デェ…デー!デー!デー…デー…(パタン)」 蓋が閉められた。 親実装の周りには、もはや再生しない肉塊の実装石が床となっていた。 親実装はそれでも、階段を上った先の楽園を信じて叫び続けた。 ”タスケテ”と… あのアパートの階段は、実装石には登れないから誰の話しにもならない。 何があるのか誰も知らない。 だからこそ、いつのときも、他者の目を盗んで挑戦しようとするものが居る。 クレイジークライマー…しかし、その先には楽園など存在しないのだった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− クレイジークライマー おわり mayの実装スレに書いたやっつけを、書き直してみました…
