タイトル:【愛】 見守っても、いいですか?
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作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:3533 レス数:0
初投稿日時:2006/09/21-19:58:33修正日時:2006/09/21-19:58:33
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見守っても、いいですか? 



「テチテチ」

 我が家の飼い仔実装・マルは、ベランダで育成し始めた鉢植えに興味を持っている。
 鉢植えと言っても、まだやっと芽が出たばかり。
 知り合いから分けてもらった種を植え、これまでは室内で育てて来た。
 二週間ほどかけて発芽したら、もう少し大きくなるのを待ち、葉が増えたところで植え替えをやった
のだ。
 マルは、その行程を一通り見ていた。
 芽の育成は、まだまだこれからだ。
 僕も、成長する度にネットで育成方法を検索し、それを適応させていくつもりだ。


 土からぽこっと顔を出している、高さ2センチちょっとしかない小さな芽が、マルにとってはとても
興味深いらしい。
 僕は、植物は種から成長する事、日の光と水をもらって大きくなる事を教えた。
 そして、小さい時は大事に大事に育ててやらないといけないという事も。

「テチ〜。フムフム、テッチュ〜ン」

 僕は、種のことを産まれたばかりの実装石に例えて、丁寧に説明した。
 これはマルにとってとても判りやすかったようで、鉢植えの芽は、段階的には今のマルと同じくらい
の成長だと理解したらしい。
 
「テチーテチー」

 どうやら、マルは鉢植えの植物を自分の姉妹のように思い始めたらしい。

 それから、マルは毎日、ベランダに出されている鉢植えを眺め続けた。
 暇があると、窓の近くに走り寄ってベランダを見つめる。
 まだ少し肌寒い日が続くし、たまに強い風が吹くので、仔実装のマルを外に出してやる事は
できない。
 だけど、無風で暖かい日になると、僕はなるべくマルを外に出してやり、直接鉢植えを見せてやった。

「テチャー♪ テッチテッチ、テッチ!!」

 とても喜しそうで、こちらもいい気持ちになる。
 マルは、両手をくるくる回転させ、鉢植えとの直接の再会を喜んだ。

 鉢植えの芽は、暖かくなり始めるこの季節、結構な早さで成長するそうだ。
 僕も、本やネットで調べ物をして、追肥をしたり、水の量を適切に調整したり、日当たりの良い場所に
鉢を移動させたりして、マルと同じように、精一杯の愛情を注ぐ。

 その甲斐あってか、初夏に差し掛かる頃には、苗の大きさが15センチほどになった。
 葉も沢山生えてきた。
 みるみる育つその姿に感動し、マルは、嬉しそうな声を上げて苗を見上げる。
 鉢の高さを加えると、今では苗の方がマルより遥かに背が高いのだ。

「テチャ〜…テテテ、テチー!」

 両手を上げて、一生懸命に苗の生長を応援している。
 その微笑ましい光景に、思わず頬が緩む。
 僕は、マルも負けないように大きくならないとね、と囁きかけた。

「テチ! テッテッ♪」

 自分の胸をトンと叩き、まかせてくれ! と言いたげなポーズを取る。
 僕は、そんな可愛いマルの頭を優しく撫でてやった。

 そして、二人で一緒に笑った。



 夏になった。
 かなり気温が高くなってきた。
 ネットの情報によると、苗の育成にとって、この時期が一番ありがたいのだそうだ。

 クーラーの効いた室内に居るマルは、直射日光が当たりすぎて苗が萎れて来ると、慌てて僕に
知らせるようになった。

「テチーテチー!」

 鉢を動かして日陰に移動させ、水を多めに与える。
 幸い、吸水力の高い品種なので、すぐに元に戻る。
 元気になった葉や茎を見て、僕とマルは、一緒にホゥと安堵の息を吐き出す。

「テチャテチャ!」

 僕はマルに怒られた。
 ごめんごめん、今度からもっと気を配るから、許してよ。

「テチ〜」

 もう二度としちゃダメよ! とでも言いたそうだ。
 マルは、すっかり苗の監視員気取り。
 でも、春以上に苗が飛躍的な成長を遂げるこの時期は、色々大変なのだ。
 日当たり問題もそうだが、水の量の調整も大変。
 たっぷりあげたつもりでも、気温でほとんど蒸発してしまい、苗自身はほとんど水を吸収していない
なんてケースもありうる。
 だから、マルが監視をして、異常があれば報告してくれるという流れは、本当に助かるのだ。

「テ〜…」

 八月も末に差し掛かる頃。
 苗の大きさは、鉢なしでもすでに60センチを超えていた。
 葉も大きく青々と茂り、幹も太くなっている。
 マルも、まだ成体には程遠いものの、結構大きく成長したが、苗はそれ以上に背を伸ばしている。
 最初の頃、大きすぎるかなと思った鉢も、今では狭すぎるくらいに感じる。
 もうちょっとしたら、苗の上にマルを乗せてもビクともしなくなるだろう。
 マルは、自分の祈りが通じて大きくなれたとでも思ったのか、僕に対して自慢げな態度を取る。

「テチテチテチ! テッチャー!!」

 いやでも、確かにそうだよね。
 マルの協力があって、ここまで来れたのは間違いないんだし。
 感謝しているよ、マル。

 だが、この頃には別な問題が発生していた。
 最下層の葉が土に触れて変色したり、葉の裏にアブラムシが大量にくっついたり。
 僕は、こんな時は泣く泣くダメになった葉を取り、牛乳を薄めて霧吹きに入れ、アブラムシに振り掛け
る。
 マルにはさすがに手伝わせられない事だが、窓の向こうで懸命に応援してくれている。

 えーと、君は僕を応援しているの? それとも、苗の方?





 九月半ばになった。

 ついに、念願の花が咲いた。

「テチーッ!!」

 僕より先に花を見つけたマルの喜び方は、尋常ではなかった。
 苗の所々に、ポチポチと見える白い花と、咲く直前の蕾達。
 僕は、マルを手に乗せ、その花を間近で見せてやる。

「テ〜…テチ〜」

 白い花はとても小さく、そして儚い。
 せっかく咲いた花も、翌日には落ちてしまう事がある。
 それを見たマルは、がっくり肩を落として悲しんでいる。
 だけど、また別な花が咲く、そして、また落ちる、咲く…
 そんなプロセスが、しばらく続いた。

 だが、ずっと咲き続けている花の根本は、確実に膨らみを帯び始めていた。





 九月末になった。

「テ? テチテチ、テチチッ!!」

 マルが慌てて僕を呼び、アレは何かと尋ねてきた。

 指差す方向を見ると…おおっ、ついに、実がなった!
 ちっちゃなピーマンみたいな実。
 しかも、一つじゃない。五つくらいは実っている。

 まだ薄い緑色に過ぎず、大きさも大した事はないが、先がとても楽しみだ。
 僕は、実の事を説明してやる。
 アレは、この苗の子供を守っているものなんだよ、と。
 苗はもうマルを追い抜いて大人になって、子供を作っているんだ。
 マルは、コクコク頷きながら、僕の話に聞き入り、そして実を見つめた。

「デッデロゲ〜♪ デッデロゲー♪」

 間近で実を見せてやると、マルは実を小さな手で撫でながら、胎教の歌を歌い始めた。
 僕は、つい失笑してしまう。
 だけど、マルはあくまで真剣のようで、何度も何度も、丁寧に撫でてやっている。
 そうだね、君がそんなに愛情を込めているなら、これはきっといい実になると思うよ。




「テチー?」

 初めて実を確認してから、一ヶ月半ほど経っただろうか。
 すでに膨らみ始めた実のいくつかが、赤く色づきはじめている。
 成熟してきたのだ。

 僕は、いよいよだよ、とマルに伝える。

 これなら、もうすぐ収穫ができそうだ。
 実は、一つだけじゃなく二十個ほど確認できる。
 初めて育てた割には、なかなかのものかな? とうぬぼれてみる。
 マルも、頭上で揺れる赤い実を見て、嬉しそうにはしゃいでいる。

 僕は、マルに、実の収穫を手伝ってくれるかい? と相談した。



  
 冬の気配が感じられるようになった頃。
 僕は、鉢を室内に入れて、それから実の収穫をしようと考えた。

「テッチテッチ〜♪」

 最初、実を取るという事を「苗を傷めること」と解釈して猛反対したマルだったが、僕の説明により、
納得してくれた。
 そう、この実が欲しくて、僕は今までずっと育てて来たんだ。
 早速、実を摘み取り、用意しておいた容器に入れる。
 僕の手の中のマルも、両手で実をそっと取り、ぷちっとむしり取る。

「テチ〜♪」

 良く出来たね、と褒めてやり、続けて二つ目、三つ目と取っていく。
 僕が取り、マルが取り、僕が取り…
 まだ青い実をいくつか残し、完熟したと思われる実だけを取る。
 ずっとマルを手に持っていたせいか、ちょっと手の感覚が変だ。

「テチ〜♪」

 きっと、「よくがんばったね!」とでも言っているつもりなのだろう。
 マルは、自分が摘んだ一番大きな実をぎゅっと抱き締め、顔を擦り付けて喜んでいた。
 それを見て、僕も笑顔を浮かべた。






 …ほんの数秒で、凍りついたけど。




「テチャァァァッッッ!!!!」

 突然、マルが絶叫した!

 何事かと思って手を伸ばすが、先程以上に手の違和感が高まっている事に気付く。

 痛い! 手が痛い!! ヒリヒリする!!

 なんで? どうして?!

 まるで、沸騰しているやかんに触ってしまったような、軽いヤケドのような感覚が手一杯に広がって
いる。
 そしてマルも、顔を押さえてジタバタと転げ回っている。


「テチャアァッ!! テチィィッッッ!!!」


 みるみるうちに、マルのお腹が膨らんでいく。
 何が起きているんだ?
 僕は、七転八倒するマルを両手で抱き上げ、その顔を覗き込んだ。

 マルの目とその周辺は、見るも無残に真っ赤に腫れ上がり、痛々しい様相になっていた。
 どうやら、顔を擦り付けているうちに、実の表面の薄皮が破れ、汁がにじみ出ていたらしい。
 マルは、それにやられたのだ。

 …待てよ。
 両目が真っ赤に腫れているという事は。


 ——まさか、強制妊娠?!



「テ、テチイィィィッッッ!!!!」


 ぷぴょろっ


「テッテレー♪」

 ぽとっ

「レピャッ!!」

 ぷちっ 




 ぺぴょろっ


「テッテレー♪」

 ぽとっ

「レピャッ!!」

 ぷちっ 




 ぷりょっ


「テッテレー♪」

 ぽとっ

「レピャッ!!」

 ぷちっ 




 ぽちょっ


「テッテレー♪」

 ぽとっ

「レピャッ!!」

 ぷちっ 


 ………

 ……

 …




 呆気に取られている僕の目の前で、マルは次々に親指実装や蛆実装を産み出していく。
 そしてそれは、僕の手の隙間から落下し、儚い一生を次々に終えていく。
 ようやく僕の脳が状況を認知した頃、全部で七匹生まれた子供達は、一つ残らず潰れ、昇天して
いた。

「テヒ…テヒ…テヒ…」

 そしてマル自身は、完全に失明していた。
 両目はもはや赤くも緑色でもなく、黒ずんで濁った不気味な色に染まっている。
 命に別状はなさそうなのが、せめてもの救いなのだが……


 僕は、マルを寝かせ、蛆実装達の死体を片付けると、手の痛みを我慢して、ネットで検索を始めた。





       ■■ ハバネロの注意 ■■

 ●完熟した実は、絶対素手で取ってはいけません。
  必ず、ゴム手袋などを着用しましょう。
  素手で触ると、軽いヤケドのような症状になります。

 ●実を切る時は、汁の飛散に注意してください。
  汁が目に入ると、最悪失明の危険があります。
  できれば、ゴーグルのようなものを用意してください。



 僕とマルが育てて来た苗・最強の辛さを誇る唐辛子「ハバネロ」。
 よりによって、マルは最後に、可愛い姉妹に噛み付かれたのだ。
 もっとも、それは僕の不注意が原因なんだけど……


 その後、マルは両目周辺を丸ごと切除され、活性剤の補助を受け、なんとか視力を取り戻した。

 そして、二度とベランダには近寄ろうとせず、鉢植えには見向きもしなくなってしまった。






 それでも僕は、来年もハバネロを育てたいなと、思っていた。
 だって、カレーと自家製サルサソースが、とっても美味かったんだもの。


 (完)

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 ハバネロの説明部分は、誇張なしの本当です。
 さすが、肉詰め料理で人が殺せる(嘘)恐るべき唐辛子、とんでもない辛さです。
(ちなみに、完熟した実だけが辛い&危険なのであって、それ以外は大丈夫です)

 5月〜10月頃にかけて育成させるといいと言われています。
 

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