タイトル:【虐・愛金】 停電で昨日定時に上げれなかった
ファイル:ヒマワリ 5/6.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:2906 レス数:0
初投稿日時:2006/09/18-07:34:54修正日時:2006/09/18-07:34:54
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「デ……デデデ…デジャアアァオォ……」

隣の部屋から悶えるような声が聞こえてくる。
としあきが水槽のある部屋を開けると、実装石の釘を打たれた手から赤と緑の鮮血が溢れていた。

「結局、両腕を捨ててコンペイトウ一個を選んだのか。さもしいなぁ」
「デズァ……デェェェ…デェス…黙るデス、クソニンゲン…
 デプププ…オマエみたいなクズと違ってワタシの体はいくらでも再生するのデズゥ……ッ」
「(ニンゲンからクソニンゲンに戻ったな。やれやれ、立場くらいは理解してるかと思ったんだが)」

右手の釘を集中的に打たれた部分が裂けるように傷口を広げていく。

「いい根性だ。もうすぐ右腕が千切れるぞ」
「デ、デ、デ……デッジャアアアアァァ!!」

魂がかき消えそうな叫び声を上げると、体全体を前に倒した。
右腕の中程からが嫌な音を立てて千切れる。

「デヒ、デヒィ、い、痛いデズゥ ワタシの右手がぁ…」

ズタズタになった右腕の先が木材に残っている。
血が滴り、水槽の底に血溜まりが出来た。

「もう一頑張りだ糞蟲。もうちょっと頑張ればコンペイトウにありつけるぞ。
 ほら、体重をかけて一気に引き千切れば一瞬で終わるって。痛むかどうかは知らないけどな」
「クソニンゲン…絶対にぶっ殺すデスゥ…デェェ……デギャアアオオォッ!!」

血飛沫と共に左手も木材に磔にされた手と上腕部が離れた。

「デヒィッ デヘェッ デェ デェ」
「よく頑張ったな。ほら、コンペイトウはすぐ目の前だ」

としあきの言葉で、激痛にのたうち回っていた実装石が
コンペイトウに向けて腹這いを始める。大きく口を開けると、
水槽の底に置かれたコンペイトウに食らいついた。

「あ あああ、甘いデッスゥ! 食べ物デス! コンペイトウデスゥ!!」

夢中になって口のなかでコンペイトウを転がす。
その姿をとしあきは満足げに見ていた。
あっという間に舐め尽くすと、腕の痛みも忘れて甘味に夢見心地になる実装石。

「こんなに甘いコンペイトウを食べたのは初めてデスゥ。
 お腹が空いてると食べ物が何倍も美味しくなるデッス」
「ああ、その甘さは本物だと思うぞ」
「デス?」
「だってなぁ、それ」

としあきが言い終わる前に、奇声を上げて嘔吐する実装石。

「実装ゲロリだからな。普通のコンペイトウより甘いんだよ」

内臓さえ吐き出さんばかりの嘔吐に苦しむ実装石には、その言葉は届かなかった。




実装石が部屋を襲撃して、実装金を殺したこと。その実装石に命の重さを問われていること。
スラム街のような公園で実装石の醜さに触れたこと。この公園で真逆のものを見たこと。
それらに自分が悩んでいること。
男がそれらを話し終えると、ババと呼ばれた実装石はゆっくりと口を開いた。

「ワタシたちの同族があなたの娘を殺めてしまったデスゥ……
 それは、辛い思いをさせてしまったデス。申し訳ないデス」

頭を下げるババを慌てて制する男。

「……あなたが…謝ることは無い……
 それに……俺はあなたの同族を殺している……」
「娘を殺された親が、我を失ったことを誰も責められないデス」
「それに……俺たち…人間は……実装石を…
 虐殺し…虐待し……命を弄んで……いる…」
「では、あなたもワタシたちを虐待するのデスゥ?」
「……そんなことは……しない…」
「デス。ワタシにもあなたを攻撃する意志が無いように、
 種族の間での憎しみ合いは少なくともワタシたちには成立しないデス」

そこまで言うとババは立ち上がり、日が強くなってきたから木陰で話をするように男へ言った。
ババのゆっくりした足取りを追う男。次の言葉が読まれているような、そんな気がしてならなかった。
木陰で隣り合って座るババと男。次に話し始めたのはババのほうだった。

「あなたは思考の螺旋に囚われているデス。
 子供を殺された相手の子供を殺したことをその親に責められて混乱しているのデス」
「……命の数で言えば……同じだ…」
「極論デスが、実装石の命なんて安いものデス。
 多産短命で人語を理解するのに愚かで心が歪んだ個体が多いデス。
 あなたは言葉が遅いから、その親実装に言いくるめられただけなのデス」
「では……俺は、ブラウを殺した実装石を殺すべきだと…?」
「それも極論になるデス。かといって安易に逃がすべきでもないデス」

息を飲む男。深く空気を吐くババ。

「あなたにとってブラウという子は大切だったデス?」
「……何ものにも代え難い……大事な娘だった…」
「あなたにとって他の実装金は大切デス?」
「……それは…」
「娘を殺した実装石とその他の実装石は同じに見えるデスゥ?」
「………」

これじゃワタシが言いくるめているようデス、とババが笑った。

「主観と感情で行動するのデス。
 絶対的な命の重さなんて一人のニンゲンと一匹の実装石が議論しても実を結ぶことはないデス。
 ニンゲンも実装石も実装金もたくさんいるデス。
 でも、あなたとあなたの娘、そしてそれを殺した実装石は一人だけで一匹だけデスゥ。
 ワタシから言えることはこれだけデス」
「…………」

そこまで話すと、ババは大きく伸びをして公園の中央へ歩き出した。

「としあきさんは元気にしてるデス?」
「……ああ…事件の後も……とても世話になった……」
「それは良かったデス。としあきさんには大きな恩があるのデス。
 この公園の実装石は、他の公園と比べてどう思うデス?」
「……とても…穏やかだ………少なくとも……前に見た公園よりは……」
「それは良かったデス。でも、他の公園に比べて数が少ないとは思わないデス?」
「…………」

男は公園を見渡した。確かに、自分の周りを取り囲むような真似は出来そうにない数だと思った。

「ここはただでさえ心ない虐待派や虐殺派、命で遊びを行うニンゲンの子供がいるにしても少ないデス。
 この公園は、とても厳しく『選別』を行うのデス。間引く子は、ワタシが選ぶのデスゥ。
 間引くと決められた子は、殺されたり、食料と引き替えに虐待派に渡されたりするデス。
 賢い子だけを選んで、口減らしも兼ねて頭の悪い子は殺すデス。それがこの公園の平和を維持しているのデス。
 聖人面していても、きっとワタシは、地獄に落ちるデス……」

そう話すババの首の裏に、バーコードのようなものが見えた。
としあきとの関係。ババの実装石にあらざる賢さの秘密。この公園の成り立ち。

——としあきも、ババも、みんなそれぞれに過去があるのだろう。

そのどれもを、男は自分が聞くべきではないと判断した。
コンビニのビニール袋の中からコンペイトウを出し、ババに手渡す。

「……これを…みんなで分けてくれ…」
「まぁまぁ、コンペイトウが一袋デス。みんなとても喜ぶデスゥ」

コンペイトウの袋を渡されたババが、公園の実装石を呼び集める。

「みんな、このニンゲンさんからコンペイトウを頂いたデス。
 十分な数があるデス。並んで家族の数だけ受け取るデスゥ」

一列に並んだ実装石が、コンペイトウをババから手渡しされる。

「うちの娘に初めてコンペイトウを食べさせてあげられるデスゥ」
「お腹の中の子が喜ぶデス」「甘い甘いコンペイトウテチィ!」
「今日は幸せいっぱいレチー♪」「レフー♪」

コンペイトウを受け取った実装石たちが男に向かって礼を言う。
その曇りの無い瞳に、男は後ろ暗い感情を抱えてしまう。

——やめてくれ。俺はこれからお前たちの同族を殺すかもしれないんだ。
  殺す時はきっと、私怨で、無惨に殺す。だから…そんな目で見ないでくれ。

コンペイトウが公園中の実装石に行き渡る前に、男は足早に公園を立ち去った。




実装ゲロリを食べた両手の無い実装石が水槽の中でのたうち回る。
としあきはその姿を笑って見ていた。
荒い息をしていた実装石が自分の千切れた腕から滴る血を見つけると、
蛆のように体をうねらせて進み、自らの血を啜った。

「無駄だよ」
「デェー デェー… デベベ!?」

体を棒のように硬直させると、飲んだばかりの自分の血を全て吐き出してしまう。

「デゲェー デゲロォ」
「実装ゲロリが効いている間は何を口にしても全部吐いちまう。
 どんなに腹が減ってても、それを満たすことは出来ないんだよ」
「デェェェ… オロローン オロローン」
「苦しいか? ひもじいか? 俺が憎いか?」
「デ……スゥ… 何でワタシがこんな目に遭うんデスゥ…?」
「何度言ったらそのメロンパン脳味噌は記憶してくれるのかな。
 てめぇの母親が俺の友人の実装金を殺したからだよ」
「ワ、ワタシのママを虐待すればいいデスゥ…」

としあきはため息を吐いた。

「それが出来ればベストなんだけどな。
 残念だが、あの親蟲は娘を殺された母親が裁定を下すんだと。
 だから、代わりに子蟲のお前を虐待してるワケ。OK?」
「そんなの勝手過ぎるデスゥ! 不条理デス! 異議を申し立てるデスゥ!!」
「刑の執行中に異議を唱えるなよ糞蟲」
「ワタシは無関係デス! ママについていっただけデス!」
「ここで出てくるのが第二の理由だ」
「デ?」

としあきが実装石の、痩せて皮が撓んだ頭を掴む。

「俺のイライラを発散するために、糞蟲であるお前を虐待してる。どうだ。納得したか?」
「デ……デェ…!」

実装石の目に怒りの炎が点る。

「じ、地獄に落ちるデェス!! お前は悪魔デス!
 鬼畜外道は地獄で裁きを受けるのデスゥゥゥ!!」

としあきの目がカミソリの光を帯びる。

「だからどうした? 俺が地獄に落ちるからどうなんだ?
 お前のこれからの運命が変わるのか? 一つ神様とやらに祈ってみるか?」

としあきの言葉に実装石がたじろいた。

「気に入らねぇ。気に入らねぇよ。何もかも気に入らねぇ」

棚から包丁を持ち出し、実装石の喉元に突きつける。

「お前みたいな糞蟲が天国だの地獄だのを語るのは特に不愉快だ。
 大抵のヤツが、自分は天国に行けるって思ってる辺りがな」

としあきの顔は歪み、笑っているのか泣いているのかわからない。

「一足先に見てきてくれよ。俺たちが行く地獄ってところをよ」

言い終わるのが先か、実装石の喉が切り裂かれ大量の血が吹き出す。
さすがに偽石を活性剤に漬けていても仮死は免れない。
オッドアイの瞳孔が開き、としあきの目に浮かんだカミソリの光も嘘のように消えた。




男はモノレールの中で流れる景色を見ながら今日の出来事を整理していた。
お前を奴隷にしてやると見下してくる仔実装。身重の体で洗濯をする成体実装。
禿裸の実装石を村八分にする悪意。たった一袋のコンペイトウを分け合う共同意識。
男にとって実装石という存在が分からなくなる。
家に帰れば、ブラウを殺した実装石がバスタブに居る。
それをどうすればいいのか、何が正しい答えなのか、男は悩み続けた。

部屋のドアを開けると、風呂場の方から声が聞こえる。
バスタブを開けると親実装がデスデスと騒ぎ始めた。

「もう来ないかと思ったデスゥ。ここで飢え死にするかと思ったデス」
「…………」
「こんなことを頼むのは厚かましいかと思うのデスが、何でもいいのでご飯をくださいデスゥ」

男は一端部屋に戻ると、冷蔵庫や棚を探し、何か食べられるものを探した。
ふと、テーブルの下を見るとブラウとのパーティーに使うはずだった
お菓子やらつまみやらが入った袋が見えた。
その中から麦チョコを開けると、バスタブの中に落とした。
デスデスと落ちた麦チョコを一粒ずつ食べていく姿を見て、男の悩みはさらに深くなっていった。

——判断を保留しているだけじゃ駄目だ。
  これじゃブラウを殺した実装石を飼っているのと変わらない。
  だが、この実装石も母親だろう?
  娘を殺されて苦しんでいるかは分からないが、少なくとも俺と同じ立場のはずだ。
  子供を殺し、母親を殺す。そんな俺を、ブラウは笑って見てくれるだろうか……

脳裏にババと呼ばれた実装石の言葉が甦る。
『主観と感情で行動するデス』

——感情。この実装石を見ていると心が黒く塗りつぶされ、沸騰した泥が流れてくる。
  これは憤怒だ。流れ落ちる土砂のように全てを飲み込む、俺自身の激しい怒りだ。
  この感情に任せてこの実装石を殺せたらどんなに楽だろうか。
  だけどな、ブラウ。答えがまだ出ていないんだ。
  学のない俺には、命を測る物差しが無いのかも知れない。

「あの、少しお話をしてもいいデス?」
「……なんだ…」
「ワタシたちは、似た者同士デス。
 ワタシはニンゲンさんの実装金を殺してしまったデス。
 ニンゲンさんはワタシの子供を殺してしまったデス。
 そして、お互い深く傷ついているデス……」
「…………」
「ホントなら、憎しみ合う立場なのデス。でも、憎しみだけでは何も生まれないデス。
 ここでニンゲンさんがワタシを殺せば、ワタシのママがニンゲンさんを憎むデス」
「………何が言いたい……?」
「ニンゲンさん。単刀直入に言うデス。ワタシを飼わないデス?」

男の思考が止まる。こいつは何を言っているんだ、という感想がワンテンポ遅れて浮かんできた。

「ワタシが実装金の代わりになれるとは思わないデス。
 でも、誰よりもニンゲンさんの気持ちを理解出来るデス。
 一時的でも、寂しさを紛らわせることが出来るデス。
 お互いに取り返しの付かないことをしたデスゥ。ワタシたちの欠けたものを取り戻すデス」

男は一瞬でもこの実装石の提案について考えたことを恥じた。
パックの裂きイカを開けると、中身を実装石に投げつけるようにぶちまける。

「デ、デェ!?」
「……ブラウを殺した奴が……寝惚けたことを……言うな………
 次に……同じことを言ったら………お前を虐待師へ引き渡す……!」
「デヒィ!」

頭から裂きイカを被った実装石が、バスタブの隅で震える。
男は勢いよく風呂場のドアを閉じた。
足音を立てて冷蔵庫の前へ歩くと、あの記念日に飲むはずだったビールを取り出し、プルタブを起こす。
一気に呷ると、冷えたビールが空の胃袋に染み込んでくる。
男は深い深いため息をついた。
寂しい一人酒。バイオリンを弾いてくれる愛娘も、笑い話をする友人もいない。
酒の力に頼りながら少しずつ平静を取り戻す。
そして、としあきの言葉とババの言葉、さっきの親実装の言葉を思い出しながら、
男は再び命について考え始めた。




水槽の中で、痩せこけた実装石が目を覚ます。
痩せこけたと言っても、実装ゲロリと失血、傷の再生などの相乗効果で栄養失調に陥っているだけだ。
しかし、その姿は以前たらふく高級実装フードを食べていた姿からは想像もつかなかった。
実装石は周囲を見渡す。自分を磔にしていた木材も、千切れた腕も、血も、吐いたモノも、何も無い。
いつの間にか水槽は綺麗に掃除されていたようだった。
実装石は空腹と絶望の余り、そのまま泣いた。

「起きたか?」
「デヒィ!?」
「さっきは悪かったな。ついカッとなっちまって。
 そんなに痩せて可哀想に。お前の言うことをもっと聞いてやればよかったよ」
「デ? そ、それじゃご飯をくれるデス?」
「それは駄目だな。ただ、お前が言った通り
 親に付いていっただけのヤツを徹底的に虐待するのは少し可哀想になった。
 今日から刃物や釘を使ったり、騙してゲロリを食わせるのは止めにする」
「デェス…それだけじゃ死んでしまうデス。
 このままお腹が空きっぱなしだと気が狂ってしまうデスゥ」
「それは無い。偽石は偽石活性剤、じゃなくて今は栄養ドリンクか。
 ともかく、生きていくのに最低限の栄養は摂れるようになってるし、
 アルコールも数滴混ぜてあるから発狂することもほぼ無い」

実装石が心底悲しそうな顔をしながら水槽のガラスに触れる。
恐らく泣いているのだろうが、乾いた眼から涙は出てこない。

「オロローン それでもお腹が空くんデスゥ。苦しいデスゥ。何でもいいから食べたいデスゥゥ」
「(自分の血は飲もうとしたのに自分の体を喰うという
  発想が出ないのは頭が悪いのか賢いのか、どっちなんだかな。)
 まぁ、ともかくこれからは直接的な虐待はしない。
 お前の申告を重く受け止めて、懲役刑にしてやるよ」
「フクエキするのデス? 臭い飯でもいいから食べたいデスゥ」

としあきはその言葉を無視して、
押入から四角く縦に長い鉄の箱を取り出した。

「それは何なのデス?」
「お前はちょっと黙ってろ」

箱の横側についているロックを外すと、箱は棺桶のように開いた。
中には棺桶らしくカラカラに乾ききった実装石のミイラが入っている。

「おい。長い間お勤めご苦労だったな。解放の日だ」

としあきが声をかけると、ミイラかと思われた実装石がふらつきながら歩き出す。
歩くたびにバサバサとツヤの無い髪が抜け落ちる。
しかしどれだけ長い間鉄の棺桶に入っていたのか、5、6歩ほどで前のめりに倒れてしまった。
そのすぐ目の前に、としあきが偽石を置き、ミイラ実装石の手に釘を渡す。

「死にたいか?」

としあきのその言葉に反応したミイラ実装石が力を振り絞って上体を起こすと、
そのまま倒れ込むように偽石に釘を突き立てた。
偽石にヒビが入ると、ミイラ実装石に本当の死が訪れる。

「デ、デ、デ、」

一部始終を水槽から見ていた実装石が引きつった声を上げる。
すぐにそれは悲鳴に近い絶叫に変わった。

「デッジャアアアアァァァァ!!」

自分がこれからされること。自分に待ち受ける運命。そしてその苦しみ。
それを知ってしまったのだ。恐慌状態に陥り、水槽の中をとしあきからとにかく離れようと必死に逃げる。
しかし水槽は逃げるにはあまりに狭い。
としあきが水槽の前に立つと、恐怖から周りの物を投げつけようと必死に手探りで投げる物を探す実装石。
だがそれも無駄に終わる。
水槽の中には何一つ転がってはいないし、自分の糞もとっくに吐き出してしまっていた。

「デギャアアアオォォ!? デヒイイィィ! デズァァァァ!!」
「そんなに怖がらなくてもいいじゃねぇか。
 どうせこの部屋に来た時から、あの箱に入るのは決まってたんだ。
 ただ、情状酌量の余地を認めて途中の虐待を省いてやっただけだよ」
「たたたたた、助けてデスゥ! 止めてくださいデスゥ!!
 何でもするデス、謝るデス!! 死んだ実装金にも謝るから許してくださいデェスゥゥゥ!!」
「謝る?」

としあきが暴れる実装石を持ち上げると、鉄の箱に押さえ付けた。
その箱にはちょうど成体実装石が一匹入るくらいの窪みがあり、すっぽり収まってしまう。
実装石は鉄の箱ととしあきの手に自由を奪われながらも必死に暴れようとする。

「お前が謝ってもチビは喜ばねぇよ」
「デェェェン!! デヒイィィィン!!」
「これからお前には『飢えて』もらう。
 この鉄の箱で長い時間を過ごすんだ。この中では身動き一つ取れない。
 光も入らない。音も聞こえない。何も食べられないし、座ることも出来ない。
 あらゆるものを欲し、飢えて苦しむ。これがお前の『懲役刑』だ」

もがいていた実装石も体力が尽きて恐怖に震えるだけになる。

「ワ、ワタシはいつ死ねるのデスゥ……?」
「さぁな。俺がうっかり偽石の栄養ドリンクとアルコールを補給し忘れるか、
 何年か経って解放の日を迎えるか。どっちにしても当分先になるだろうな」

としあきが口元だけを歪めて笑う。

「じゃあな、糞蟲」

ぎぃ、と鳴くと鉄棺は閉じられ、後には偽石が入った大きめの瓶ととしあきだけが残る。
空気穴から実装石の喚き声のようなものが聞こえてくるが、リンガルに拾えるほど大きな声ではなかった。

一連の事件から、ずっととしあきの頭の中に澱のように積み重なっていた苛立ちがすぅっと消える。
としあきはタバコに火を点けると誰かに(あるいは自分自身に)言い聞かせるような独り言を始めた。

「チビ。お前は良い奴だったよ。性格が良すぎた。
 ちょっとくらい子供っぽい我が儘さや実装金らしい狡賢さを見せてりゃ
 少なくとも俺はお前をただの実装金以上に思うことは無かったんだよ。
 それでも、アイツはお前を娘として可愛がっただろうけどな。
 『たられば』は不毛だけどよ、でももしお前が嫌なヤツだったらここまでイラつくことはなかったよ」

タバコの灰が落ちて、としあきのズボンを汚す。
しかし、遠くを見るような目をしているとしあきは、それにしばらく気付かなかった。

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