「ただいま。おーい、紅茶淹れてくれ」 部屋に帰ったとしあきの声に返事は無い。 「そうか……実装紅は里子に出したんだったっけか」 としあきの従弟が、飼い犬を亡くしたショックから立ち直れないと聞いて 実装紅をその子に贈ったのだった。としあきが直々に躾をした実装紅なら、 あるいは飼っていた犬の代わりになれるかも知れない。そう考えた末での行動だった。 としあきは舌打ちをした。気に入らない。何もかも気に入らない。 ブラウを殺した糞蟲も、糞蟲とブラウの命の重さで悩む男も、実装紅の淹れた美味い紅茶が飲めない今の状況も、 何もかもがとしあきを苛立たせた。 としあきは机の奥に放り込んでおいたタバコとライターを取り出すと、ポケットに入れた。 隣の部屋から小汚い鳴き声が聞こえてくる。 「デッスゥーン デスゥ〜」 中実装、いや、鳴き声が既に成体実装石になっているソレの嬌声が聞こえてくる。 暇を持て余したのか、自慰に耽っていたようだ。 「(オイオイ。何時間も経ってないのにもう成体になったのかよ)」 栄養過多の高級実装フード、それを成長に変える実装成長ホルモンと仔実装の偽石。 さらに『自分は成体になる』という思いこみが加わったとはいえ、相変わらず予想の斜め上をいくデタラメ生物だ。 としあきに気付いた実装石が股を開いて見せる。 「デッスゥ〜ン ニンゲン、オトナになったワタシのカラダに触れることを許すデス〜。 その代わりに今朝の美味い飯とコンペイトウを持ってくるデスゥー ステーキでも構わないデス」 こめかみに青筋を浮かべ、注射器を持つとしあき。 「デデ? ニンゲン。ワタシはもう十分にオトナの魅力を備えてるデスゥ。 成長ホルモンは要らないデス。ワタシが欲しいなら特別にお前のモノを入れさせてやるデッスゥー」 汚い言葉に耳を貸さず、実装石の腕に注射器の中の液体を送り込む。 「デジャアアァ! 痛いデス、バカニンゲン! 必要ないというのが聞こえなかったのデス!? その極まったバカをワタシが奴隷にしてやると言うのデスゥ! 黙って言うことを……デ? デデ……デ…気持ち悪いデス……は、吐きそうデズァ…」 「ここで吐くな馬鹿」 としあきは実装石を掴むとトイレに入り、便器の上に実装石を持ってその時を待った。 「デ……デベェェェェ…」 実装石が激しく嘔吐する。先ほどとしあきが注射したのは粉末にした実装ゲロリを水に溶かしたもの。 血管から注入されたゲロリの成分は実装石の内臓を激しく蠕動させる。 「デグェェ……デェッ デボガァ! デベベベベ……!」 胃の中の物を全て吐き出した実装石は今度は口から糞を吐き始める。 強烈な作用は、悪意を持って実装石の中にあるもの全てを吐き出させるかのようにも見えた。 「デボェェェ デェッ デェッ」 糞すら吐き終わった実装石は今度は黄色い液体を吐き出している。 「どうだ? 体の中のモン全部口から出す気持ちは?」 「デゲェェェ……バカニンゲン、何をしたデス…デボッ」 「誰が馬鹿だ。口から糞を吐く糞蟲に馬鹿呼ばわりされる謂れはねぇ」 としあきが実装石を便器に向かって逆さまにし、上下に振る。 吐く物がもう無いのにこみ上げてくる吐き気に実装石が血涙を流して懇願を始めた。 「止め、止めてデスゥ! ギボヂ悪いデズゥ! もう止めでぐだざいデズゥ!!」 「よーし。これからもせいぜい口の聞き方はわきまえた方がいいぞ」 としあきが汚物で一杯になったトイレを流す。 ぜえぜえと荒い息を漏らす実装石を元の水槽に戻した。 「デェ……」 「ま、しばらくは動けないだろうな。ちょっと横になるから、また後でな糞蟲」 水槽の置かれた部屋の扉が閉じ、実装石が妄想していた薔薇色の未来もまた、閉じた。 男はモノレールの席から流れる景色を見ていた。 手に提げている袋には途中のスーパーで買ったコンペイトウが二袋入っている。 としあきが置いていった小さな機械は、携帯用実装リンガルだった。 ——コンペイトウと実装リンガル。つまり、実装石のいる公園をとしあきは教えてくれたんだろう。 としあきが残したメモの中から、一番近い公園のある町で降りた。 駅から見る景色は、男が住んでいた場所とあまり変わらないように見えた。 土地勘こそ無かったが、根気強く探すうちに目的地に辿り着く。 男は覚悟を決めると、一歩目を強く公園の中へ踏み入れた。 「テチ? テチテチテチー!」 公園に入るとすぐに仔実装が足下に駆け寄ってきた。実装リンガルのスイッチを入れる。 「ニンゲンテチ? 特別に可愛いワタチが奴隷にしてやるテチー!」 「…………」 「何をボケっとしてるテチ。頭の悪いニンゲンテチ。 オニババァが来ないうちに早くワタチを連れて帰るテチ!」 男はリンガルのモードを間違えたかと思った。 しかし、間違いなく画面には虐待派モードではなく、通常モードと書かれている。 つまりほぼ忠実に翻訳していることになる。 「邪魔デス! ガキは帰れデスゥ!」 「テピャ!」 後ろから来た実装石の拳を受けて仔実装が吹き飛ばされる。 よく見ると、男はすっかり実装石の集団に囲まれていた。 「デッスゥ♪ ニンゲン、美しいワタシにステーキを献上することを許すデスー」「ワタチの靴を舐めるテチ!」 「ごつい顔をしたニンゲンデス。まぁ、守備範囲デスね。ワタシと一発ヤらせてやるデス」 「うちにはこんなに痩せた子がいるデス! 可哀想なワタシたちは食べ物が無いと一家全滅デスゥ!」「レチー」 「オスのニンゲンデスゥ? つまらんデス。ワタシのイチモツを満足させるメス奴隷を連れてくるデッスゥ!」 「ワタシを」「ワタシが」「ワタチを見」「レフー」「肉奴隷デッスゥ!」「デスー」 媚び、命令、肉欲。仔実装までもが口汚く罵ってくる。 男は目眩を覚えた。ここまで実装石が我の強い生き物だったとは。 その時、男の足に禿裸の実装石がしがみついてきた。 「ニンゲン様! こ、こいつらを皆殺しにしてワタシを助けてくださいデスゥ! こいつらに毎日殴られて殺される寸前なのデス! お願いデス、ワタシをせめて別の場所に……デジャアアァ!?」 「このバカハゲが! 全部聞こえてるデスゥ!」 「ハゲで裸の癖に生意気テチー」「死なない程度にぶっ殺すデス!」 「デッギャアアアァァ! 助け、デデデ、デッピャァー!!」 禿裸の実装石は群れの中に引きずり込まれると、あっという間にリンチに遭い、 手足を食いちぎられ、マラ実装たちに集団レイプされ始めた。 その姿を見て実装石の群れがまるで統一意志を持っているかのようにデププと一斉に嘲笑した。 ——怖い。ここまで悪意が溢れる場所を見たのは初めてだ。 ここは実装石のスラム街か何かか? 何はともあれ早くここから逃げ出さなければ…… 「このニンゲン、さっきからワタシが股を開いてやっているのに無反応デス! EDデス!」 「ステーキを寄越さないなんて生意気デスゥ! 殴り倒して奴隷にしてやるデス!!」 「バカニンゲン、早くこっちを向くテチ!」「無視するなデスニンゲン!」「コンペイトウ寄越すデスゥ!」 「早くニンゲンのメスを連れてこいデッスゥ! 気が利かないニンゲンデスゥ!!」 次第に男に対して実装石の集団が怒りや不満を増大させる。 男の足下に糞が投げられてきた。 糞に戸惑う男に対しデププと言う嘲笑があちこちから聞こえてくる。 ——じょ、冗談じゃない! 男はコンペイトウの袋を一袋開けると投げつけるようにばら撒いた。 すぐにコンペイトウを巡って争奪戦が始まる。 「それはワタシのコンペイトウデス! とっとと寄越せデス!」「甘いデスゥ〜♪」 「ワタチのコンペイトウをそこのババァが取ったテチー!」 「踏むなデス! 足をどかすデスー!」「デジャアアァ!! 全部ワタシのモノデスゥ! 触るなデスゥ!」 奪い合う者。踏まれ、血涙を流しながらコンペイトウに手を伸ばす者。甘味に我を忘れる者。 唾を飛ばしながら占有権を主張する者。混乱の中で興奮し、交わり始める者。 どれも男の目には汚らしく、腐りきっているように映った。 残りのコンペイトウを遠くへ放り投げると、男はその公園から逃げ出した。 酒を飲んでいる無骨な男、バイオリンを弾いている実装金、紅茶を注いでくれる実装紅、自分に微笑みかける両親。 幸せだった。としあきは、『なんだ、手を伸ばせば全部掴める場所にあったんじゃないか』と呟くと 明るくみんなに話「デスゥ!」しかけ、実装紅の手を取「腹減ったデス!!」ると両親の元へ「水を飲ませろデスゥ!!」 としあきは浅い眠りから覚めた。最高の夢を最悪の声に潰されたことで、さらにとしあきの苛立ちは加速していった。 水槽のある部屋を蹴り開ける。 「ニンゲン! 腹が減ったデス! 喉も渇いたデスゥ! 早く全部用意するデス! とんだグズ野郎デス!」 としあきはポケットからタバコの箱を取り出すと一本銜え、ライターで火をつける。 深く煙を吐き出すと夢の内容を反芻した。 「デッジャアアァ! 無視するなデスゥ! とっとと水と食べ物を用意しろデス!!」 「(アイツ、うまく公園を見つけられたかな……チビは天国か。 実装紅に名前くらいつけてやれば良かったな。まぁ、従弟が良い名前をつけてくれてるだろ)」 「バカニンゲン! 奴隷のくせにワタシを無視するとは良い度胸デスゥ! ワタシの糞を舐めて平伏すデス! その後にステーキとコンペイトウと水を持ってこいデッスァ!!」 「(親は元気にしてるかな……最近仕送りも電話もしてねぇ… そうだ、次に給料が入ったらチビの墓標をもうちょっと上等なものにしてやるか)」 「デジャアアアァッ!! その煙たい棒を吸うのを止めるデス!」 としあきの頭の中にブラウの声が響く。 『ママの家で煙たい棒をスパスパ吸って空気を汚す極悪人カチラ!』 タバコを吸って幾分か落ち着いていたとしあきの苛立ちが頂点に達した。 実装石の眉間にタバコの火を押しつける。 「デッピャァァァ!?」 「何でだ? ん? 何でお前ごときに言われてタバコを止めなきゃいけないんだよ糞蟲…!」 百均の穴あき包丁を取り出すと、服を切り刻んで裸にする。 ボロ布の塊になった服にタバコを投げ捨てると、ブスブスと煙が上がり始める。 「ワ、ワタシの服が燃えているデスゥ!!」 「ああ、安心しろ糞蟲。この水槽、防火対衝撃仕様だから」 「ななな…何をするデスこのクソニンゲン!! 早く火を消すデスゥ! とっとと代わりの服を持ってくるデス! 服を用意する間に飯も食わせろデス!! 奴隷のくせにワタシに逆らうとはどうしようもないバカデッズァァァ!!」 「どうしようもねぇのはお前だよ馬鹿」 吐き捨てるように言い放つと、としあきが実装石の後頭部から背中までを包丁で一気に切り開いた。 「デピィッ!」 「どれどれ。偽石は、っと。あったあった。胸の部分にあったわ」 「デヒッ デヒッ デベェ…」 切り付けられ、傷口に手を突っ込まれた痛みとショックで痙攣を始める実装石。 素早く取り出した偽石をお馴染みの偽石活性剤に漬ける。 「はい手術終了ー。縫合は無しな」 「デェ…痛いデス……死にそうデスゥ…」 「何言ってるんだ。お前は死なないよ」 「デ?」 「俺がこれからた〜っぷり時間をかけて虐待をしてやるからな。楽に死ねると思うなよクソが」 「デ……デデデ…!」 としあきが二本目のタバコに火をつけると、羽化したサナギのように背中を開いた実装石の絶叫が響いた。 「デッギャアアアアァァァ!!」 モノレールの駅を降りると、男は二枚目のメモを元に公園を探し始める。 人に場所を聞いてもよさそうなものだが、男は自分の足で歩き回り、その公園を探す。 二時間ほど歩いただろうか。男は最初の公園よりは小さな、それでも綺麗に整備された公園を見つけた。 しかし肝心の公園を前にして男の足取りが止まる。 暴力と悪意に満ちた実装石の巣窟を見てきたからだ。 ——だが、ここまで来て入らないわけにはいかないな。 口の中がカラカラに乾いている。意を決して、男はゆっくりと公園の中へ足を踏み入れた。 公園の外周に沿ってダンボールハウスが並んでいる。 男の足下に仔実装が駆け寄ってくる。 男の顔が強ばるのがはっきりと見て取れた。仔実装が手に持ったボールを男へ向ける。 「ニンゲンさん、遊んでくださいテチ」 「…………」 意外な言葉だった。今まで見てきたどの実装石とも違う。 男が呆然としていると、その仔実装の元へ親と思われる実装石が駆け寄ってくる。 「こら、ニンゲンさんが困ってるデス。向こうでお姉ちゃんと遊んでもらうデス」 「はーいテチ。ニンゲンさん、またテチ」 「ごめんなさいデス。あの子は好奇心が旺盛で困ってるんデスゥ」 「……あ……いや…別に嫌がった訳じゃ……無い…」 「デスゥ。それは良かったデス」 「…………」 賢そうな実装石だった。この公園にはモラルというものがちゃんと存在しているのだろうか。 周囲を見渡すと、仔実装同士で追いかけっこをしている姿や、蛆実装を左右に揺らしてあやしている親指実装、 楽しそうに話をしながら噴水を使って洗濯をしている成体実装まで。 そこには前に見た公園の地獄絵図とは違う、生活感のある平和な光景が広がっていた。 「昨日の夜にうちの子が夜泣きしてうるさくなかったデス?」 「気にしないでいいデスゥ。子供は泣くのが仕事デス」 「お姉ちゃんまってレチー」 「レフー」 「蛆チャンを持って走ると危ないテチィ」 「今日はあついテチ」 「待つデス! ハダカでうろうろしちゃダメデスゥ!」 ほのぼのとした光景をしばし眺める男。 それに気付いた実装石が声をかける。 「ニンゲンさん、ここを通り抜けにきた訳じゃないのデス? ここに何か用があるのデス?」 「ああ……その………実装石を見に…」 「デスゥ? 変わったニンゲンさんデス。実装石なんてそこらへんに居るデス」 確かに、目的はあったが何かをしにこの公園に来た訳ではない。 としあきは何の意図を持ってここへ男をいざなったのだろうか。 「……何というか…その…としあきに…メモが……」 「デデ? ニンゲンさん、としあきさんに言われてここに来たデスか?」 「……? ああ……そうだが…としあきを知っているのか…?」 「大ババ様から、としあきという名前が出たら案内するように言われているデスゥ。 ニンゲンさん。是非、この公園のまとめ役に会っていって欲しいデス」 「……ああ…」 男は少し混乱していた。賢い実装石の集まりに、虐待師のとしあきが一枚噛んでいる? 戸惑いながら、男は公園の奥にあるダンボールへと案内されていった。 ……結論を先に言うならば、男がとしあきとこの公園との関係を知ることは無かった。 一方、としあきが新しいタバコを買って帰ると、実装石が手に血が滲むまで水槽のガラスを叩いていた。 水槽の隣に冷凍の焼き鳥を解凍して置いていたのだ。 血涙と涎を流しながら必死にガラスの向こうの食べ物を求める実装石。 「よっ。腹減ってるみたいだな」 「デッスゥ! デッズ…ニンゲン、お願いデス! その肉を食べさせてくださいデスゥ!」 クソニンゲンからニンゲンね。多少は自分の立場がわかってきたかな。 そうひとりごちると焼き鳥を一本手に取り、見せつけるように食った。 「デェス! デスゥ! ワタシの肉! ワタシに食わせろデスー!!」 「実装ゲロリで胃の中から糞まで全部吐き出したもんな。 おまけに血管から直接摂取で効果は倍増。その後は相当、腹が減るし喉が渇く。 どうだ、見てるだけで食った気にはならないか?」 「なるわけないデスゥ……お願いデス… タレだけでもいいから舐めさせてくださいデスゥ……」 「イ・ヤ・だ・ね」 怨嗟の声を上げる実装石の前でとしあきはあっという間に焼き鳥を一本食べ終わる。 血涙を流し、その液体に気付いて必死に自分の涙を舐め取る実装石に向かってとしあきは喋り始める。 「アイツはな、優しすぎたんだよ。ごつい顔に似合わない、温厚な性格だ。 だから、普通の人は喋るペットくらいにしか思わない実装シリーズを娘とまで思っちまった。 お前ら実装石も喋るだろう? だから、アイツはお前らみたいな糞蟲の命の重さにまで悩まされてる。 いっそ実装リンガルなんてものを知らなきゃ、アイツも普通に過ごせてたかな。 だけど……幸せな一年間も、無かったか。 リンガルのおかげでチビとアイツはあそこまでの繋がりを持てたんだから」 そう言うと新しいタバコの封を切り、一本取り出して銜える。 「さっきから何を言ってるデスゥ?」 「お前の罪状を読み上げてるんだよ糞蟲。 ああ、そうだ。最初のお前がこの部屋に来たときに 『虐待派っつっても色々な種類があるんだよ』って言ったのを覚えてるか?」 「デスゥ……やっぱりただの虐待派だったデス」 「違うね。俺は『飢えの苦しみを与えるのが得意な虐待派』なんだよ。 仔実装か中実装にやっちまうと時々何かの拍子に死んじまうから、 最初に贅沢な食事と薬で成体にさせる。 贅沢の味を覚えている分、苦しみは増す。 このやり方は成体なら偽石を活性剤に漬けてる限り、死ぬことは絶対に無いって訳。これが俺の流儀だ」 「デェェェン! そんなの酷すぎるデスゥー! お腹空いたデス! ここから出すデェスゥ!!」 バン、と水槽の両側を叩くとしあき。実装石は腰を抜かすが、出す糞が無いのでパンコンには至らない。 「何言ってやがる。チビを殺したお前を俺が許す訳無いだろ。 まだ一日目で泣き言とは笑えるよ。これから何ヶ月、何年飢えに苦しむと思ってるんだ?」 「デェェェ……じ、実装金を殺したのはママデスゥ」 「お前の母親がか? じゃあ、頑張って家族の分も苦しみな」 「デェェェン! デェェェン!!」 としあきは泣き喚く実装石を木材の上に寝かせると、右手に釘を5本、金槌で打ち込んだ。 「デッジャアアアアァァ!?」 絶叫も聞かず、同じ調子で左手に6本釘を打ち込む。 そして水槽の中に立てると、30センチほど離れたところにコンペイトウを置いた。 作業を終えると銜えていたタバコに火を点ける。 「俺も鬼じゃないし、全く何もやらない訳じゃない。 両手を千切るか、木材を持ち上げるかしたらそこにあるものが食えるぞ 木材をその体勢で持ち上げるのはちょっと難しいかも知れないけどな。 ま、そういう訳だから自分の両腕と食欲によーく相談しな」 「デェェェン! デヒィ! デズァァァァァ!!」 自らの身の不幸を呪う鳴き声を聞きながら、としあきは焼き鳥の残りを持って部屋を出た。 男は実装石に、一番奥のダンボールハウスへ案内された。 ダンボールは色褪せ、日当たりも悪そうだったが、不思議と不潔な印象は受けない。 「大ババ様、としあきさんに案内されたヒトが来たデスゥ」 一拍置いて、ダンボールハウスの中からゆったりとした動きで小柄な実装石が出てくる。 「よく案内してくれたデス。早速デスがニンゲンさんと二人で話すことになるデス」 「わかったデス大ババ様。失礼しますデスゥ」 うやうやしく頭を下げると、案内役の実装石がその場から立ち去る。 「暑い中よくここまで来ましたデス。 何のおもてなしも出来ないのが心苦しいデス。 ああ、言い遅れてしまったデス。ワタシがこの公園を取り仕切っているババという者デス」 「…不躾ですまないが…そこまで…年を取っているようには見えない…」 男の目の前の実装石は、目尻に皺こそあるものの、確かに老人と言った体裁ではなかった。 「実装石のライフサイクルは早いデス。 ニンゲンさんで言えば、確かにワタシは40から50くらいの年齢デス。 それでも、この公園では一番の年寄りなのデス」 「……そうか…」 「としあきさんがワタシの元にヒトを導く時は、いつも迷い人が来るデス」 「…迷い…人……?」 「そうデス。実装石に人生を惑わされた、迷子が来るのデス。 そのヒトに、数年という短い命の中で得た経験から幾つかの助言をするデス。 でも助言と言ってもワタシの私見を、年寄りの世迷い言にも近いことを話すだけなんデスゥ」 「…………」 「ニンゲンさん。話してほしいデス。あなたの迷いを、ワタシに聞かせてほしいデス」 「俺……は…」 懺悔にも似た奇妙な独白。男は自分と仔実装金との出会いを話し始めた。 夏の日差しが強く照りつける。蝉の鳴き声が、どこまでも町の中で反響していった。
