タイトル:【?】 親指と蛆、そして男の話(仮題)
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作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:4654 レス数:0
初投稿日時:2006/09/15-21:54:26修正日時:2006/09/15-21:54:26
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「ニンゲンさんは優しい人テチ。ワタチ、拾ってもらえて嬉しいテチ」

 親指実装は、男に深々と頭を下げた。

 身長5センチにも満たない、ちっちゃなちっちゃな親指。
 かなり賢いようで、その態度は丁寧そのもの。

 他の実装石のように、やれエサよこせだの、やれ飼えだのと、要求を述べないところが気に入った。
 男は、親指に安心するように優しく声をかけると、共に連れて来た蛆実装と共に、暖かなカーペットの上へ
と招く。
 カーペットと言っても、本当は単なる厚い布の切れ端なのだが、それでも親指と蛆実装にとっては、素敵な
床敷に違いない。

「レフ〜、フカフカレフ♪」
「あったかいテチ♪ こんなフカフカな所、初めてテチ」

 男は、二匹が落ち着いたところで、どうしてあんな所をうろついていたのかを尋ねた。

「ワタチは、夕方までママと一緒だったテチ。でもママは、ご飯を取りに行ったきり戻ってこなかったテチ」

 それでは、今も母親が捜しているかもしれないよ? と、男は考えた。

「ううん、多分もう、ママは帰ってこないテチ。ママ言ってたテチ。夜になっても戻らなかったら、その時はママ
の事を諦めるテチって」
 それでも、やはり母親が恋しくて、ついふらふらと彷徨い歩いてしまったのだろう。
 気持ちはよくわかるが、もし男が通らなかったら、危なかったかもしれない。
 事実、この親指達の死角からは、野良の成人実装が不穏な雰囲気でこちらを見つめ続けていたのだ。

「そうだったんテチか。ごめんなさい、ニンゲンさん助けてくれたテチね。ママ……」
「ママぁ…レピャアァァン」
 母親を思い出し、蛆実装が泣き出す。
 男は不憫に思い、せめてと、蛆実装のお腹をぷにぷにしてやった。
「レヒャ♪ プニプニレフ〜♪ 嬉しいレフ〜♪」
 男は、涙を止め喜ぶ蛆実装に微笑みを向けると、悲しいけれど、もう泣いてはいけないよ、と囁きかける。
「ニンゲンさん、ごめんなさいレフ。蛆ちゃんまだちっちゃいから…」
 気にしないでくれ、と男は呟き、さらに、親指の話に聞き入る。


「ワタチ、ママに毎日言われてたテチ。ご飯を取ってくるのはとても難しいテチ。失敗したら、悪いニンゲンさん
や悪い仲間達に殺されるかもしれないテチって」
 親指の親は、相当賢かったようだ。
 万が一の事を考え、親指達に覚悟の気持ちを植えつけておいたのか。
 男は、少し感心させられた。
「でも、ママは言ったテチ。ママが戻らなくても、蛆ちゃんを一生懸命育てなさいって。ワタチ、だから蛆ちゃん
のお姉ちゃんとして立派になりたいテチ!」
 男は、親指の頭を指先で優しく撫でてやる。
 親指は、最初はびっくりしたが、すぐになすがままにされ、ほんのりと頬を赤らめる。
 初めて触れる人間のぬくもりに、母とは違う安らぎを感じていた。

「オネエチャンばっかりずるいレフ! 蛆ちゃんも可愛がって欲しいレフ」
「蛆ちゃんごめんなさいテチ。ニンゲンさん、蛆ちゃんのお腹、またプニプニしてあげてほしいテチ。お願い
しますテチ」
 男は、素直に「いいよ」と答え、またお腹をぷにぷにする。
 今度は、ちょっと多めに、しかし決して力を込めず、絶妙な手付きで押してやる。
 一押しするたびに、蛆実装はレフレフと嬉しそうに鳴き、ポンプのように液糞を噴出す。
 それを見て、親指は飛び上がるような勢いで驚いた。
「アッ! ご、ごめんなさいテチ!」
 蛆実装の粗相に気付き、慌てて糞を拭き取ろうとする。
 その時、男は気付いた。
 親指の右側のスカートだけが、妙に変色している。
 そして親指は、その部分を引っ張って、懸命に蛆実装の総排泄口を拭き始める。
 どうやら今まで、ずっとこうして処理してきたようだ。
 男は、親指の手を止め、無言で首を横に振ると、ウェットティッシュを取り出して代わりに処理をし始めた。
「レフウ〜ン♪ 冷たくて気持ちイイレフ〜♪」
「ニンゲンさん、ありがとうテチ! 蛆ちゃん嬉しそうテチ」
 嫌がるそぶりをまったく見せず、男は、蛆実装の糞を綺麗に拭き取った。


「え、服テチか? これは大切テチけど…他に拭くものがないテチから」
 親指は、恥ずかしそうにスカートの端を引っ張る。
 その仕草が、妙に可愛らしい。
 男は、すでにカサカサに乾き茶色に変色している服の一部を指差すと、洗ってやるから脱ぎなさいと
命じた。
「でも、この服がないと、ワタチ裸んぼテチ!」
 男は、何も心配しなくていい、これからお風呂に入れてあげるから、その時まとめて洗ってしまおうと
説明する。
 親指は、最初お風呂の意味がよくわからずキョトンとしていたが、暖かいお湯に身体を浸すことだと
言われ、前に母親から教えられた事を思い出した。
「ママ言ってたテチ! 飼い実装になれたら、お風呂に入れてもらえるテチ。わ、ワタチ、本当に…
いいんテチか?」
 可愛い目をクリクリさせて、親指は顔を真っ赤にする。
 男は満面の笑みを浮かべ、心配ならここで洗ってあげるよと提案する。
 男は、プラスチックの小さなトレイを持ってきて、そこに給油器からお湯を足す。
 そして水を張り、ぬるめに調整すると、親指の手を取り、それにふれさせて温度を確かめる。
「あったかいテチー♪」
 熱くないなら、ここで身体を洗ってあげるからと、男が言う。
 親指は、少しだけ考えると、こっくり頷いた。
「わかりましたテチ。服を脱ぎますテチ。お風呂よくわからないから、お願いしますテチ」
 笑顔で頷く男。
 親指は、安堵の表情を浮かべ、男の手で浴槽代わりのトレイの中に入った。
 丁度胸の辺りまで浸かれる深さ。
 初めて味わう、全身を包むぬくもり、安心感。
「テチ〜……気持ちいいテチ〜…」
 親指は、全身の力が緩んでいくような感覚にとらわれた。

「オネエチャン、蛆チャンも入りたいレフ! ずるいレフ!」
「あッ!」

 あまりの気持ちよさに、蛆実装の事を忘れていた。
 蛆実装の声に振り返った瞬間、親指は、つい湯の中に脱糞してしまった。
 気持ちよすぎて、括約筋を締めるのを忘れてしまったのだ。
 湯面が、みるみるうちに緑に染まり、臭ってくる。
 男は慌てて親指をトレイから出すと、広げたハンカチの上に置き、トレイの中の湯を捨てに行った。
「あわわ…う、ウンチしちゃったテチ! お風呂でもらしちゃったテチ! もう、ニンゲンさんに可愛がって
もらえないテチ!」
「オネエチャン何やってるレフ!」 
 横で、蛆実装がプンプン怒っている。
 以前母親が言っていた。
 ニンゲンに飼われたら、絶対にしてはならない事がある。
 糞便関係の粗相はその最大のもので、これをやると、すぐに捨てられてしまう事になると。
 親指は、幸せの絶頂から、一気にどん底へと叩き落された。

「テチ…ごめんなさい蛆チャン…。ワタチのせいテチ…」
「オネエチャン…レピャアァン! お風呂入りたかったレフ〜!!」

 二匹が泣き始めてしばらくすると、男が空のトレイを持って戻ってきた。
 何も言わず、二匹をトレイの中に入れる。
 中は空になっていて、お湯は綺麗に洗い流されていた。
 男は、親指の服も一緒に持つと、驚く二匹を運び、家の中を移動した。

 やがて、大きな明るい部屋に辿り着く。
 白い壁、暖かな空気、見た事もない道具の数々。
 そこは、風呂場だった。
 男は、すでに用意しておいた別な浴槽(洗面器)の中に二匹を招くと、小さな四角い破片を持ってきて、
それをこすりつけ始めた。
「ニャ?! ニャ…く、くすぐったいテチ〜」
「レヒャヒャヒャ♪ クチュグッタイレフ、アワアワレフ〜♪」
 それは、小さく切った柔らかいスポンジだった。
 たっぷり泡立てられたポディソープが、親指の柔らかい肌をこすり、汚れと垢を落としていく。
 手の届かない所にまでスポンジを滑らせ、丁寧に、丁寧に洗う。
 そして、服を剥ぎ取った蛆実装の身体も同じように洗浄してやる。
 暖かなお湯のお風呂の中、二匹は、生まれて初めて全身を徹底洗浄してもらった。

「気持ちいいテチ! さっぱりしたテチ!」
「レフレフ〜ン♪ 最高レフ」
「ニンゲンさん、これがお風呂なんテチ?」
 男はこっくり頷いて、今度は髪を洗ってやるという。
 大切な髪の毛なんだから、出来るだけ綺麗にしなくちゃいけない。
 だから、今のうちにたっぷり洗おうねと、優しく囁いた。
「ニンゲンさん…ごめんなさいテチ! さっきワタチ、あんな事してしまったのに…」
 男は黙って首を横に振る。
 ふと見ると、浴槽内の蛆実装が、派手に液糞を撒き散らしている。
「あったかいお風呂でウンチ最高レフ〜♪」
「う、蛆チャンったら!」
 男は、我慢できず吹き出してしまった。
 それだけ、蛆実装の呑気さは滑稽だった。
 蛆実装を取り出し、文句一つなく、もう一度洗いなおしてやる。
 その様子を見て、親指は、心の中に温かなものが広がっていくのを感じた。

 風呂にゆっくり浸かりながら、二匹は、男の話に耳を傾けていた。

 人間には虐殺派と愛護派、そして無関心派が居る事、愛護派の中にも躾をまったくせず、優良な実装石
を悪質な糞蟲に変えてしまう奴が居る事を、男は教えてくれた。
 どちらが実装石にとって良い事なのかはわからない。
 だけど、もし人間と実装石が共に分かり合えるとしたら、それは同じ幸せを共有することかもしれない。
 もし、飼い実装というものが本当の幸せを見つけられたのだとしたら、それは、間違いなくご主人様との
価値観の共有が成立したからだと思う。
 そんな話をして聞かせた。

 親指は、男の深く慈愛に満ちた言葉に感動し、心を弾ませていた。

 身体も綺麗になり、髪もすっかりさらさらになった二匹は、服が乾くまで我慢してくれと言われ、裸のままで
先程の部屋に戻された。
 室温は最適の状態に整えられており、裸でも寒くない。
「ありがとうございますテチ、ワタチ、ニンゲンさんは怖い人ばかりだと思ってたテチ。でも、ニンゲンさんの
ように、優しくてあったかい人も居るんテチね」
 男は、そんな事はない、これは当たり前の事だよと、首を振る。
 蛆実装の身体の水気を拭き取りながら、優しく微笑む男に、親指は、思い切って、ある事を告げた。


「あの…もし、良かったら…」

「ニンゲンさんのこと、ご主人様って、お呼びしても…いいテチか?」


 男は、びっくりした顔で親指を見つめる。

 と、その時、どこからかキュ〜ッ、と、可愛らしい音が鳴った。

「あッ!」

 親指のお腹の音だ。
 そういえば、空腹だという事をすっかり忘れていた。

「オネエチャンのお腹のラッパが鳴ったレフ〜♪ 蛆チャンもお腹減ったレフ♪」

「あ、あの、これは、その…」

 男は、また笑顔を浮かべると、一旦席を立ち、小さな皿に何かを乗せて来た。
 それは、小さくて丸く、突起がいくつも飛び出ている。
「これは何テチか?」

 金平糖だよ。
 こんなのしか今はないけれど、いいかな? と、男は申し訳なさそうに呟く。

「金平糖! これがコンペイトウ?! レフッ!!」

「こんなものまでいただいて、申し訳ありませんテチ」

 男はフッと笑い、言った。

 オレは、たまたま君達を見つけて保護した。
 決して君達から保護を求めた訳じゃない。
 いわばこれは、オレの勝手な行動だ。
 なら、話をするのも、身体を洗うのも、金平糖をあげるのも、同じようなものだろ?

 男の、ぶっきらぼうだが優しさのこもった言葉に、親指は、ホロリと大粒の涙を流した。


 男は、金平糖を一粒ピンセットでつまんで、二匹の傍に置く。

 蛆ちゃんも親指も、まだ口がちっちゃくて金平糖を囓れないから、二人で少しずつ舐めて食べなさい。
 食べ終わったら、次の金平糖をあげるからね。

 男はそう言って、金平糖をはさんだ二匹の姿を、温かい目で見守った。

「ありがとうございますテチ……ご主人様…」

 つい、口をついて出てしまう。
 親指は、無意識に出てしまった言葉に気づかないまま、蛆実装を抱き上げ、金平糖を舐めやすい位置に
動かしてやった。

「おいちいレフ♪ ニンゲンさん、ありがとうレフ♪」
「甘い♪ こんなにおいしいなんて知らなかったテチ♪ ママ、ワタチ達は優しいニンゲンさんに助けていた
だいて、今とっても幸せテチ!」

 あっという間に、金平糖はなくなった。
 だが、二匹とも随分お腹が空いていたようで、まだ全然物足りない。
 さすがに図々しいと思ったので、親指は、自分からおかわりを催促しようとはしなかった。
 だが、蛆実装は欲望に忠実だった。

「ニンゲンさん、もっと食べたいレフ♪ おかわり欲しいレフ!」
「あ、蛆チャン! 図々しいテチよ! 贅沢を言ってはいけないテチ」

「レフ〜、でも、蛆ちゃ………レフ?」

「テチ?」

 蛆実装の言葉が、不自然に止まる。
 なんだか、身体が小刻みに震えている。
 急に食べたせいか、おかしなタイミングで便意を催したようだ。

「う、ウンチ出るレフ!」

「え、ええっ?! そんな急に…」

 男は、素早く蛆実装を動かし、いつのまにか脇に用意していた水槽の中に入れる。

「蛆チャン? ニンゲンさん、蛆チャンはウンチが出そうなんテチ!」

 男は何も言わず、真剣な眼差しで蛆実装を見つめている。

「レピャアァッッッ!! ウンチ漏れる、ウンチ漏れる! ニ、ニンゲンさんごめんなさいレフ、もう我慢できないレフぅっ!!」

「蛆チャン、ダメーっ!!」

 レフ…






 ビリブリバリボリベリバリビリビリビリビリベリリィィィッッッ!!!!






 レピャ……



 パチン!


 蛆実装は、まるで、子供か手を離してしまった風船のように、空高く浮き上がり、爆ぜた。
 自分の体積以上の液糞を猛烈に吹き上げ、なんと30センチ以上も跳ね上がった。

 内部圧力に身体が耐えきれず、落下してくるより先に、爆発したのだ。
 鼻提灯が割れるような微かな音は、蛆実装のあまりにも儚い命を象徴しているかのようだった。

 男は、その様子を驚愕の表情で見つめていた。

「蛆チャアアンン!! ニンゲンさん! 蛆チャンが、蛆チャンが!!」

 男は、少し青ざめた顔で親指に向き直る。
 そして、無理矢理笑顔を作ると、そっと親指の頭を撫でた。

「ニンゲンさぁん、蛆チャン、蛆チャンどうなったテチ? どうしてあんな………テテッ!?!?」

 きゅう、ぐるぐるぐるぐる。

 猛烈に、内臓が動めく。
 こんな激しい収縮運動は、初めてだった。
 親指は、もはや男に助けを求める事も出来ず、七転八倒した。
 
 ウンチが、漏れる!

 ダメだ、こんな所で、そんな事しちゃいけない!
 私は、ただでさえさっき、一度粗相をしている。
 これ以上迷惑をかけてはいけない! 恩を仇で返す事になってしまう!!

 必死になって、全精力を括約筋に集中させる。
 だが、体内で荒々しくのたうつ暴力的なパワーは、親指の弱々しい筋力など、簡単に突き破ってしまった。





 ビビデバビデブウゥゥゥゥッッッ!!!!! ベリバリボリベリバリッッ!!!





 ロケット…ああ、私はロケットになったんだ。





 ありえないほど大量の糞が爆発的な勢いで総排泄口より噴出し、倒れていた親指の身体を真横に
吹っ飛ばす。
 瞬間時速300キロを越すスピードでテーブルの端から飛び出した親指は、薄れ行く意識の中、母の姿を
瞼の裏に見た。


 ママ……ワタチは……


 落下寸前、親指の身体は男の手に受け止められた。

 額の汗を拭おうともせず、男は、再び親指を手に移動する。
 今度は風呂場ではない。
 すぐ脇にある水場だ。

 水道の蛇口を開き、細い水の線を落とす。
 男は、親指の両脚を開くと、総排泄口に水を流し込み始めた。


 数秒後、親指は意識を取り戻す!



「テチャ……ゴボッ?!?! ゲバゴボゴボゴボゴボォッッ?!?!」


 何が起こったのか、理解できない。
 親指は、全身を貫く激痛と冷たさ、そして頭に血が上っていく不快感を同時に味わい、苦しげに身をよじる。
 口の中から、大量に水が…緑色の混じった、粘性の高い水が、止めどなく出てくる。

 呼吸が出来ない! しゃべれない!
 ニンゲンさん、ご主人様!! 私はどうしたの? どうなってしまったの?!?!

「ゴボゴボゴボゴボゴボ……」

 心の中でどんなに叫び、嘆き、苦しんでも、身体の中を走り抜ける水流は止まらなかった。

 男が水を止めた頃には、親指は、また失神していた。







 どれだけの時間が経ったのだろう。


 親指は、先ほどまでいたカーペットの上に寝かされていた。
 なんとなく、後頭部が痛い。何か強くぶつけたような、鋭いものを押しつけられたような、奇妙な違和感
がある。
 だが、傷口と思われる場所に手が届かない。
 ふと気づくと、すぐ傍に男が居てこちらを見ている。
 その傍には、金平糖が盛られた皿がある。
 親指は、不安げに男に尋ねた。

「ニンゲンさん…ワタチ、どうなってしまったテチか?」

 男は、何も返答せず、ただ優しく笑っている。

「蛆チャンも、ワタチもなんか変になっちゃったテチ。何をしたんテチ?」

 男は、無言のまま親指を優しく手に取り、手の中でゆっくりと揺らしてやる。
 男の体温に再び安らぎを覚え始めるが、それよりも、腹の様子がおかしい。

 先ほど以上の、猛烈な空腹感。

 胃の中どころか、腸の中にも何もないような…本当の意味での空腹感。
 突然やってくる飢餓感に、親指は、男に言葉をかける事も出来なくなった。

 男は、親指の身体を左の人差し指と親指で優しくつまむ。
 そして、右手でピンセットを持ち、金平糖を一粒取る。
 それを、親指の口元へ近づける。

「食べさせてくれますテチか? やっぱり、ニンゲンさんは優しい人だったテチ…」

 すっ

「?」

 金平糖は、親指の伸ばした舌先には触れず、なぜか足下へと運ばれる。

 途端に、凄まじい痛みが下半身に駆けめぐった!



「テ……テチャアァァァッッッッッ?!?!?!」


 痛い! イタイイタイ、痛いィィィッッッ!!!!



 何が起こっているのか、親指には理解できなかった。
 ただ、ゴヅゴツした硬いものが、自分の身体の中に無理矢理押し込められているのだけは理解できた。

 まさか…金平糖?!?!

「テチャァァァッ?!?! そこ、お口じゃないテチ! お口じゃないテチィッ!! く、苦しいテチィッ!!」

 金平糖は、情け容赦なく親指の体内にめり込んでいく。
 どこまでめり込んだのだろう?
 息苦しくなり始めた頃、再び、股間に先ほどの痛みが蘇る。

「デシャァァッッッ!!! 切れるっ! 裂けるぅっ!! お願い許してテチィィィッ!!!」

 二個目の金平糖が、ぐりぐりっと、体内に埋め込まれていく。
 それが奥にたどり着くと、再び、別な金平糖が突っ込まれる。

「ゴメンナサイテチィィィッッ!! もう、もう、あんな事しないテチィィィッッ!!!」

 三個、四個…五個、六個。
 金平糖の粒は小さいが、それでも、親指にとってはかなりの大きさであり、硬さだ。
 それが体内に複数個入り込んでくるとなると、もはや地獄の激痛を通り越し、全身を打ち貫く世界破滅
の衝撃のようにすら思えてくる。

「テエェェェェン、テェェェェェン、テェェェェン!!!」

 十二個、十三個…
 男の手は、まだ止まらない。
 親指の腹はどんどん膨らみ、すでに人間の親指の1.5倍ほどの太さになっていた。


「ニンゲンさ……苦しい…もう、もう金平糖…いらないテチ…」


「ごめんなさ……ニンゲンさん、怒っ…テチ? ワタチ達……お漏ら……から…」


 二十五、二十六…
 どんなに苦しくても、痛みが止まらなくても、親指は死ねなかった。

 体内の偽石はとっくに取り去られ、固定剤漬けにされていた。
 さらに、活性剤注射により、摘出痕も塞がっている。
 そんな事も知らない親指は、絶え間ない激痛の中、ただひたすら、男の怒りが収まるのを祈り続けて
いた。


 ごめんなさい、ごめんなさい。

 あんなに優しくしてもらったのに…お話もしてもらったのに

 楽しくお風呂にも入れてもらったのに…綺麗にしてもらったのに…

 ワタシ達は、ニンゲンさんに、悪いことばかりしてしまった

 悔しい、くやしい。自分が悔しい、恨めしい

 どうして、こんな事をしてしまったのだろう…

 ママが言っていた。

 ニンゲンさんに、良いニンゲンさんに飼ってもらいたいなら、たとえニンゲンさんの見ていないところでも、
しっかりやらないとダメだって。

 ワタシ、それをずっと守ってきたのに…

 ワタシがダメでも、せめて蛆チャンだけでも…できればママも、ニンゲンさんに飼って欲しかったのに…

 なのに、どうして、大事なところで……ワタシのバカ、バカ、バカ……!!!



 赤と緑の血涙が、頬を伝う。


「テチ…ごめん…なさ…痛……オ…ナカ…」

 四十六、四十七……

 拡張性の高い実装石の身体は、裂ける事もなく、なおも金平糖を収め続けている。
 親指は、とっくにショック死していてもおかしくないほどの責め苦の中に居ながら、それでも必死で許し
を乞い続けている。

 そして同時に、ついさっきまでの、優しく包まれていた時の思い出を……


「ご……主人……様………蛆チャ……クルシ…」



 薄れそうな意識の中、親指は、自分の髪の毛が一本ずつ抜き取られていくのを、微かに感じていた。
 しかし、もう、抵抗はできなかった。
 する気もなかった。

 これは罰……ニンゲンさんを絶望させた罰。

 そう思いこんでいたから。








■■■

 ———偽ルミがやってくる。


「よくやったデスみんな。さすがはママの子供デス。この調子でいければ、夕べ言った事は取り消して
いいデス」
「テ…ほ、ホントテチか、ママ?」
「本当デス。ただし、それは今そこに転がってる奴等を、お前達が自力で食い尽くせたらの話デス」
「テ……テテ…テ…」

「食べるテチ!」

 真っ先に飛びついたのは、本物リミだった。
 さっき腕を食い千切った仔実装の死体に飛びつき、齧り付いて行く。
 血が噴出し、服と顔、髪を汚すが、そんなのお構いなしという感じで食べ進めて行く。
 その形相は、まるで…そう、般若みたいだ。
 そうか、そうか。
 偽ルミの、強烈すぎる教育の結果、本物リミはこの短期間で、偽リミ以上の残虐性に目覚めたわけか。

 よし、動機はともかく、まずは一匹合格だな。
 この調子なら、本物ラミも本物レミも、すぐ合格ラインに乗るだろう。

『よくやったルミ。これは報酬だ』

「デスッ?!」

 今回の本命、金平糖をぎゅうぎゅうに詰め込んで致死寸前の親指。

 胴体は、通常の三杯くらいの太さに膨らませてある。
 一匹だけだったが、ちゃんと確保しといたんだよ、お前のために。

 もちろん、金平糖は食べさせたんじゃなくて、内臓洗浄してから直接総排泄口に押し込んだ。
 こいつ自身は、腹いっぱいだけど金平糖をまったく味わっていないわけだ。

 物量は大した事ない筈だが、食い応えはあると思うよ。


「テ…オナカ……クルチ……テ……破裂シ…」


 まだ喋れるのか、やるなこいつ、なかなか見所があるぞ。

『安心しろよ、お前はもうすぐ楽になれるぞ。金平糖で腹も一杯になって死ねるんだ、満足だろ?』


「テ…コンペ……タベ………割れル…ア…」


 こちらの言う意味を理解しているのか違うのか、ポロポロ涙を流して、僅かな生にしがみつく親指。
 とても儚く可愛らしくものだが、オレはそんな奴に過酷な現実を叩き付けるのが好きなのよ。

 こいつきっと、オレの事をご主人様って呼びたかったんだろうなあ。
 ま、当然かもな。
 きっと、オレが飼ってくれるものだと信じて疑わなかったんだろう。
 そう思わせるために、ちょっとの間だけど、最高の待遇をしてやったし。
 こいつ、野良のクセに結構真面目で良い性格してたよな。
 まあ、それだからこそ、虐待のしがいがあったわけだけどさ。

 でもさ、結局、元々お前は偽ルミの 餌 に す る た め だ け  に 捕まえられたんだよ。


 それにしても、蛆実装は残念だった。
 まさか低圧ドドンパでも、破裂しちまうほど弱ってたとは。
 とてもそうは思えなかったんだけどな。
 これなら、あいつが生きているうちにこの親指の体内に押し込んでやって、それから金平糖詰め込んでやりゃよかった!
 ああ畜生、どうしてそんな素敵なアイデア、後になってから思いつくのかな!!

 それはともかく。
 可愛らしくて純粋で真面目な性格をした、良蟲の実装石を奈落の底に突き落とすのって、どうしてこんなに快感なんだろう?

 こいつはこいつでもっともっと甚振りたい心境だが、我慢して偽ルミに渡す。
 もう待ちきれないといった様子で、偽ルミは、ピョンピョンと飛び跳ねている。
 あいよ。
 オレは、偽ルミの手に、パンパンの風船状態になった親指を渡した。

「ご主人様、ありがとうデス! これはおいしそうデス!」

『リミはもう教育は充分だ。ラミとレミを、もっと鍛えてやれ』

「わかりましたデス!」

「テ…テチ……テェェ……」

 オレから親指を受け取ったルミは、ガバッと大口を開け、頭から被りついた。

「いただきますデッス!」

 ガリッ!


 「!!!!」


 …相当痛かっただろ、ルミ。

 頭を通り過ぎ、偽ルミの前歯は、金平糖が重なってる部分を思い切り齧っちまったようだ。
 偽ルミは、口を押さえてうずくまっている。
 あーあー、もう、落ち着いて食えよ誰も盗らないんだから。






「……人…サ…マ……ゴメ…」


 偽ルミの頭の中で、微かな声が響いた。
 だが、前歯の激痛に苦しむ偽ルミにとって、そんなものはどーでも良かった。

 



【虐】:「替えても、いいですか? 番外編」

    詰めても、いいですか? (完)


——————————————————————————————————————
 鬼畜に徹した内容は難しい…書くほどに実感させられます。

 なおこのスクは、「スクあぷろだに投下された作品の感想スレ02」のID:PIRv1NWQ様に
 捧 げ る た め だ け に 書き起こしました(笑)。

 いや、決して嫌がらせじゃないっス♪ 


 南アフリカ流ネックレス刑とAKのコンボは勘弁デスゥ。<私信

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