『 おばさんっ!! 』 『 わっ! 』 台所に駆け込み、調理中だったおばさんを大声で呼んだ。 『 な……ど、どうしたのよ一体……?びっくりしたじゃないの…。 』 『 カ、カセンを…!……俺の実装石達を知りませんか! 』 『 え……犬小屋の方で寝てるんじゃなかったの? 』 『 いないんです、どこにも! 』 油断した、完全に俺のミスだ。 この街の飼い実装誘拐が自分達には無関係だと、根拠も無いのに思い込んでいた。 たったの2,3日くらいなら大丈夫だと。 完全に見くびっていた。 何かしらの対策をする事もできたのに……悔やんでも悔やみきれない。 『 ま、まぁ…ひとまず落ち着きなさい。 』 朝食の準備も途中で止めて、おばさんが俺を窘めてくれた。 『 心配なのは分かるけど……もしかしたら、その辺を散歩してるだけかもしれないし。 』 『 くっ……。 』 そんな勘違いではない気がした。 カセン達はグリン達をさらったのと同じ奴に連れて行かれたに違いない。 今はまだ無事だろうか。 それとも既に殺されているのだろうか。 分かっているのは、連れて行かれたのが昨夜から今朝にかけてという事。 まだ、直ぐには殺さないとは思いたい。 しかし時間が経てば経つほど、カセン達の命が危ういのは確かだ。 『 おいおい、どうしたんだ?朝から騒がしい…。 』 おじさんが台所へ顔を出してきた。 気付かないうちに、俺はかなり大きな声を上げていたようだ。 『 そ、それが…。 』 おじさんにもカセン達が居なくなった事を話した。 さっき餌をやりに行ったが、どこにもいない。 この家の周りも少し走り回ってみたが、姿は見えなかった。 『 ふむ……。 』 おじさんは腕を組んで唸り声を上げた。 『 ……まさかとは思うが。 』 おじさんが、おばさんの方を向いた。 おばさんの方も、やはり同じ事を考えているようだ。 『 実は昨日な、また飼い実装が殺された件で寄り合いが有ったんだ。 』 『 え、えぇ……近くを通りかかったので知ってます。 』 『 それでな、今日は関係者が全員で乗り込むって決めたんだよ。 』 『 本当ですか!? 』 更におじさんは付け加えて話してくれた。 俺もまた、その関係者と合流して議員先生の家に訪問したらどうかと。 もしカセン達が捕まっているのなら、取り戻せるかもしれない。 ある意味これが最初で最後のチャンスだと。 『 確か昼前に公民館へ集合するとか聞いたな…。 』 『 分かりました、俺も行ってみます! 』 『 しかしな…ふ……む……。 』 『 なんです? 』 おじさんは腕を組んだまま、腑に落ちない顔つきを見せた。 『 兄さんの実装石達……本当に議員の先生にさらわれたんだろか? 』 『 え……。 』 『 いや、ワシみたいな頭悪い人間の考える事だからかもしれんがな… 飼い実装の事件、この街ではちょっとした騒ぎになってるんだ。 そんな騒ぎの中でな… ほとぼりも冷めんうちに、また誘拐なんかするかの……。 』 『 それは……。 』 『 兄さん、とりあえず落ち着こうや。 …まだ集合時間までには時間があるし、心当たりの場所を探してみたらどうだ? 今日はワシも畑仕事は中止して、あの実装石達を探してみるよ。 』 つくづく、この人達には世話になりっぱなしだ。 もう一生頭が上がらない気がする。 俺は一度深呼吸をして、外に向かった。 『 あいつ等が行きそうな場所を探してきます! 』 『 あぁ、分かった。 ワシらは実装石達が帰ってくるかもしれんから、家で待っとるよ。 』 俺は朝食も摂らず、MTBに跨って外へ出た。 真っ先に向かったのは、前までカセン達が住んでいた河川敷だった。 住んでいたダンボールハウスは変わらずそのままだ。 だが、やはりカセン達の姿は無い。 他にも方々を探し回ったが、見つからない。 その後、家に帰ってきても、カセン達は帰ってきてないと言われる。 ここまでくると、残された可能性は只一つ。 俺はおじさんに連れられ、公民館の方へ向かった。 『 おはようございます、昨日はどうもです。 』 『 えぇ、お兄さん、おはよう……事情はさっき、電話で聞いたわ。 』 公民館前で、グリン達の飼い主さんに会った。 回りには数人の、やはりこの街の人。 何人かは被害に遭った飼い主達らしい。 『 大丈夫よ、まだ生きてるに違いないから元気を出して…。 』 おばさんから電話で説明を受けたらしく、俺を励ましてくれる。 『 えぇ、まだ生きてます!しかし、急がないと……。 』 『 そうね、もう気の早い人達は先に行ってるらしいから。 』 合流後、俺達はそのまま例の議員の家に向かった。 途中、グリンの飼い主さんから色々と事情を聞かせてもらう。 先日、被害を受けた1人が議員の家に押し掛けた。 その人は、近くで発見された首輪の実装石の飼い主。 付近に他の民家は無く、議員と何か関係が有るかもと事情を聞きに行ったらしい。 だが、応対に出た家の者は身に覚えが無いと言った。 何しろ、地元の名士だ。 その飼い主もそう言われたら、引き下がるしかない。 本人は虐待どころか実装石には縁が無い人物。 おそらく、近くで落ちていた首輪も何かの偶然か間違いだろうと。 話を聞いた人達は、誰もがそう思った。 だが、更に1匹の仔実装が還ってきて状況は一変する。 その手に持たされていた一枚の紙片。 紙には議員の家の場所が描かれていた。 おそらく親実装が子供だけでもと、現在地を描いて逃がしたに違いない。 しかも、その紙片には議員の名字までも記されていた。 関係者の疑惑が確信に変わった。 議員の自宅は非常に広い。 多数の実装石を飼育する場合、それなりのスペースが必要である。 その点では条件を満たしているだろう。 敷地内の邸宅には多くの部屋が存在している。 部外者が一度二度入ったくらいでは、何処に何が有るかなど分からない。 そして実は、議員が実装石の虐待派だったと噂が流れる。 出所不明の無責任な噂かもしれないが、俺は知っていた。 ここで話はしないが、ペットショップの店員からその事は聞いていたから。 今、血気にはやった飼い主達が一足先に向かったという。 誰もが飼い実装を殺され、怒り狂ってるそうだ。 この街では他に、そんな大規模な飼育施設を備えられる人は居ない。 何匹も飼い実装をさらって閉じ込め、そして殺した。 この時は誰もがそう思っていた。 『 どういうことなんだ! 』 『 騙されるか! 』 その家は四方を塀に囲まれた立派な屋敷だった。 豪奢な門の前に10人余りの人たちが押し寄せている。 どの人達も殺気立っており、今にも爆発しそうな気配を漂わせている。 『 そんな事を言われましても…とにかく落ち着いてください! 』 家の者らしき人が必死になって制していた。 どうやらこの屋敷の家政婦らしい。 殺気立った飼い主達を、慌てふためきながらも宥めようとしていた。 『 この家で実装石を虐待してるんだろ! 』 『 証拠は有るんだ! 』 今にも扉を押し切り、中へ雪崩れ込みそうな勢いと剣幕。 しかし流石に強引に押し入ろうとまでは行かない。 何とか邸内へ強引に乗り込むか…と思った時、奥から誰かがやってきた。 『 これは皆さん、一体朝から何の騒ぎです? 』 身なりのしっかりとした威厳を漂わせる中年の男。 直感的に、おじさん達の言う屋敷の主人、議員の先生だと分かった。 『 お前か!俺の実装石を殺した奴は!! 』 『 私の子を返して!! 』 議員の胸倉を掴みこんで、詰め寄る飼い主の人達。 本人を見て今まで溜め込んだ怒りが爆発したのか、怒声が浴びせられる。 『 なんですか、あなた達は!不法侵入ですよ!? 』 『 やかましい! 』 『 他人の実装石を殺しておいて大きな口を叩くな! 』 門の前は大混乱だ。 議員は、何とか飼い主達を宥めようとと必死だが、収まる気配は全く無かった。 『 落ち着いてください、皆さん!どうしたんですか、これは…!? 』 『 あ、駐在さん…良いところに。 』 制服姿の街の駐在が駆けつけてきた。 多分、この屋敷の誰かが連絡したのだろう。 『 どうにも、こうにも……この人達の飼い実装を私が盗んだと勘違いしたらしく…。 』 『 勘違いなわけあるか! 』 『 証拠は挙がってるんだぞ! 』 『 皆さん、落ち着いてください! 』 駐在さんが声を張り上げつつ手を上げ、飼い主達を制止しようとした。 『 ここは市議会議員を務めている先生のお宅ですよ! そのような人に実装石、しかも虐待だなんて失礼ではありませんか! 』 『 だが首輪は、この近くで見つかったんだぞ! 』 『 地図の件は、どう弁解する! 』 一度火の付いた飼い主達の昂りは簡単には収まらない。 このまま引き下がるとは思えなかった。 『 …分かりました。 先生、このままでは納得できませんし、皆さんに家の中を確かめて頂いてはどうです? 』 『 ちゅ、駐在さん、それは…。 』 『 こうなっては、誰も引き下がれませんよ。 それに私も、首輪や地図の件に関しては聞いてるんです。 役目上、やはり私も先生の潔白を確認しないといけませんし…。 』 『 ……仕方ないですな。 』 議員は俺や飼い主達を門から招き入れ、玄関から上がらせてくれた。 屋敷の中は広々としており、通路が延びる。 その客間、居間、書斎、寝室などを他の飼い主と見て回った。 だが、どこにも実装石の気配は無い。 姿どころか鳴き声も聞こえない。 そうして一部屋一部屋見て回るごとに、飼い主達の昂った気は落ち着いてきた。 『 どうです?実装石なんて、どこにもいませんよ。 』 『 うむ…。 』 議員の言葉に、飼い主達は言葉も出なかった。 ある飼い主はリンガルを持って、自分達の飼い実装を呼びかけるが見つかる筈も無い。 しかも、どこにも飼い実装がいた形跡は無い。 整然と並んだ家財道具と綺麗に片付いた各々の部屋。 一階から二階まで全ての部屋を回り、玄関から外に出る。 昇った血が治まり、飼い主達は冷静さを取り戻そうとした。 確信は失望に変わり、肩を落として帰っていく。 飼い主達は議員に謝罪をすると、玄関を抜け門から外へ出ようとした……その時。 『 ……あれは? 』 飼い主の一人が、屋敷の隣にある古い建物に気付いた 昔ながらの欠けた瓦の建築物……それは倉だった。 その扉は大きな南京錠がかけられており、外から中を覗き見る事はできない。 『 中はどうなっている? 』 『 ただの物置ですよ。 』 『 確認させてくれ。 』 『 それは……中には何も無いですから…。 』 『 なにぃ…? 』 議員の言葉を濁す態度に、再び飼い主達の昂りが戻ってきた。 『 どうして見せられないんだ? 』 『 ですから、あの倉は…関係無いんです。 』 『 何が関係無いんだ? 』 『 それを私達が確かめると言うんだ! 』 『 そ、それは…。 』 議員は、飼い主達の追及に後ずさった。 飼い主達は中を見せろと詰め寄るが、議員は決して中を見せようとはしない。 一旦消えかけた疑念は、確信に戻りつつあった。 『 ! 』 『 君ぃ!何を……! 』 考えるより早く俺は駆け出していた。 倉の扉の前に立つと、その頑丈な鉄の板に耳をつけ、中の音を探った。 ( …………デェ… ) …ここだ! 『 な、中から声が! 』 俺の声と同時に、飼い主達の怒りは瞬時に頂点へ。 『 貴様ぁ!! 』 一番短気な飼い主の男が議員の胸倉を掴んだ。 『 さぁ、さっさと開けろ! 』 『 ですから、皆さんの実装石と私とは何の関係も有りません! 』 『 いいから、開けろと言うんだ!! 』 『 まぁ、皆さん、落ち着いてください! 』 割って入り、この場を収拾しようとしたのは駐在だった。 『 先生、ここまで来たら観念して見せてください。 』 『 それは…駐在さん……。 』 『 このままじゃ、収まりがつきませんよ……それに役目柄、私も確認する義務が有ります。 』 駐在と集まった飼い主達の怒気を含んだ視線が議員に向けられる。 何かを言おうと口を動かすが何も言葉にできず……肩を落とした。 『 ……分かりました。 』 議員は倉の扉の前に来ると懐から鍵を取り出し、鍵穴へ差し込んだ。 ( …カチャ ) 乾いた金属の音を鳴らして、金属の扉が重々しく開いていく……その中には…。 「 デェ…… 」 「 テチーー…… 」 「 デーー… 」 暗闇から実装石の鳴き声。 『 う……! 』 強烈な臭気にむせ返り、思わず鼻を塞いだ。 倉の中はは2階構成。 1階の中央にはテーブル。 その上に何匹かの実装石が縛り付けられ……いや、縫い付けられていた。 『 デェ……デェ… 』 その四肢に釘が打ち込まれ、身動きの取れない裸の実装石が力無く鳴き声を洩らす。 五体満足な個体は一つも無かった。 どれもが腕や足や、どこかを欠損し、焼き付けられた痕が有る。 ( ポチャン… ) 何かが水に落ちる音が聞こえる。 「 ェー……… 」 頭と腕を木の板に通して固定された5匹の実装石。 その両目からは既に正気の色が失なわれていた。 「 テチャー 」 「 テチー 」 「 レフレフー 」 その下には水の張られた桶。 中には、生まれたばかりの仔実装や蛆実装が数匹声を上げている。 壁には黒ずんだ緑と赤の模様……実装石の体液が飛び散っていた。 部屋に転がっているのは体液のこびりついたミキサー、刃物、棍棒など様々な虐待道具。 壁には多くの見たこともない道具がかけられていた。 あきらかに日本の物とは思えない中世ヨーロッパで使われていたらしき剣。 中に鉄の針がびっしりと詰まった鉄の棺。 赤と緑の体液の染みがついた断頭台。 更に電気椅子まで。 床には幾つかのバケツが置かれていた。 中を覗いてみると、どこがどの身体の部位か分からない程バラバラにされた実装石達の残骸。 その横に積み上げられた実装石達の服と髪の毛。 吹き抜けのため、1階から2階の様子も見える。 上は、実装石の飼育施設だった。 何十という水槽が棚に置かれて並んでおり、その中が伺える。 そのほとんどの水槽の中に、実装石が蠢いていた。 「 デェー! 」 「 デスデェス! 」 此方に気付いた何匹かが、水槽のガラスを力一杯叩いて訴えている。 ここからでも必死になって助けを求めているのが分かる。 この場所で何がおこなわれていたのか、それは説明されるまでもなかった。 『 き、貴様っっ!!!! 』 『 よくも!!! 』 『 ま、待ってくだ………っ!! 』 議員は飼い主達に壁へ押し付けられて言葉を失った。 今までに溜まった憤りが完全に開放された。 『 この倉の、どこが物置だっっっ!!!! 』 『 お、落ち着いてください! 』 『 これが落ち着いてられるか!!! 』 この部屋を見た駐在も呆然とし、飼い主達の興奮を抑えることができない。 曲がりなりにも市の議員である人物の邸内に、実装石の虐待部屋。 あまりの事実に言葉が出ないようだった。 『 カセン!ケン!コウ! 』 俺にとって議員がどうなろうと知ったことじゃなかった。 問題はカセン達の安否だ。 1階の拷問施設に放置された実装石を一匹一匹見て回る。 まさか、もう殺されてしまったのでは…と思うが、カセン達の姿は無い。 3匹の姿も、その首輪も、この階には無かった。 一瞬、安心して息をつく。 そして俺は木製の年代物の階段を昇って2階へ。 端から端まで、一つ一つの水槽を見て回った。 『 カセン、どこだ!? 』 リンガルを起動させ、上から下まで、右から左まで一つも余すことなく探す。 全ての水槽を見終わった時、俺は……。 『 …え……。 』 俺は再び水槽を一つ一つ見て回って確認した。 見落としたに違いない。 全ての水槽の中にいる実装石に話しかけて確認する。 しかし… 『 ……居ない? 』 カセン達3匹は、この倉に……議員の家には居なかった。 『 そんな……じゃあ、どこに行ったんだよ…。 』 呆然とした俺は目眩を覚え、近くの柱に寄りかかった。 ここだと思ったのに……ここしか無いと思ったのに。 何が何だか理解できなかった。 俺のカセン達と他の飼い実装達は、どこに行ったんだ。 誰に殺されたと言うんだ? その時、階下で飼い主達の怒りを受けている議員の声が聞こえた。 『 だからさっきから何度も言ってるじゃないですか! 私は実装石を虐待してます、それは御覧の通りで否定しません! しかし皆さんの実装石をさらったりなんかしてませんよ! 本当です、信じてください!! 』 議員の訴えかける悲痛な弁解が俺の耳に届く。 『 本当です! 信じてください……!! 私はさらってないんです………!!! 』 < 付記 > 飼い主達が議員の家に押し掛けた同時刻 コウは見知らぬダンボールの中に居た 「 ンムゥ…ンン〜! 」 その口は布で猿轡をされており 声を出すことが出来ない コウの目の前には 板に手足を縛り付けられたカセン 「 〜〜!! 」 同じく猿轡をはめられて声を出せない そしてカセンの視線の先にはケンがいた 「 ママァ〜!、オニイチャ〜ン!! 」 手足を抑えられ、身動きが取れない 声の出る限り助けを呼んで どれだけ経つだろう 3匹は全て服を脱がされ 裸にされていた そのケンの手足を抑えているのは……白い布を被った小人達 小人は全部で5体 顔には小さな覗き穴 そこから周りの様子を伺っているようだった ( …… ) 小人の1体が何かを呟いた すると他の1体が木の箱を目の前に差し出す 箱の中に手を伸ばし…取り出したのはカッターナイフ 長期間使い込まれた物であるせいか、その刃は錆びついていた 小人はそれを持つとケンの方に向き…そのまだ幼い左手に刃を当てた 「 や、やめテチ!いたいのイヤテチィイ、イヤァァチャァアァァァァァ!! 」 切れ味の鈍い刃がケンの腕を肩の付け根から切断していく 刃を当てただけでは切断できず、まるで鋸のように押して引く 「 オ、オニイチャチュアア!、ママァアァッァァ!、オニイチャユアアウア!!、ママァァァァァ!!! 」 ガリガリとゆっくり腕を分断され そのたびに母親と飼い主に助けを求める ( ぼたっ ) 切り落とされたケンの左腕が転がる その自分の左腕が転がるのをケンは見ていた 「 ワタチのテ……オニイチャンとボールアソビ……オニイチャンとボール…チャアァァァァァァ!!! 」 次に刃を当てられたのは右腕だった 同じく肩の付け根から切断がおこなわれる 「 や、やめテチィィ!!オニイチャンと…!オテテがないとボールであそべないテチィィィァャァァャァュア!! 」 涙を流しながら訴えるが小人達は作業を止めない ケンの声が届いてないのか、黙々と作業がおこなわれる 「 〜〜っっっ!!!! 」 カセンも涙を流し、ケンへの行為を止めようともがいていた だが手足の拘束は固く、容易に外す事はできない 左腕が落とされると右足 右足が左足 ケンの四肢が全て分断され、その一つ一つを小人達が拾う 1体の小人だけは拾おうとはしなかった 他の4体がそれぞれを拾い、その顔を覆う布の下から口元へ運んだ ( クチュ……クチュ… ) 咀嚼する音が聞こえる ケンの手足はケン自身の見てる前で喰われた 更に4体の手がケンの残された身体に伸びる 「 も、もうやめテチィィ!!や、やめチュァァァッァアァア!!! 」 ケンの身体は4体の小人達に千切られ その小さな肉片が口の中に運ばれた 表皮を全て剥ぎ取られると内臓を引き出され ケンは自分の身体が喰われていくのを見ていた 「 や…め……チュ………ママ………オ……ニイチャ……… 」 頭から胸の下までを残す頃 ケンの命の火が消えた 最期の最期まで母親のカセンと飼い主の男へ助けを求めながら ケンが息絶え 小人達は次に縛り付けられたカセンへ近寄る 「 〜〜〜!!! 」 カセンは涙を流しつつ首を大きく振り 何とか逃れようと力の限りもがく だが解く事はできず ケンと同じく その腕に刃が当てられた ( クッチュ……クチャ……… ) 目の前で小人達に切断され、目の前で小人達に喰われた 更に先端の鋭い鉄の錐を箱から取り出し カセンの腹部に突き刺される ( ッッッ!!! ) 背中を大きく逸らし 痛みに堪えようとする だが無情にも 小人の錐は何度も突き刺された ( っ!!ッッ!!!〜っ!! ) その都度 カセンは背中を大きく逸らしもがく 傷口から体液が溢れ 固定された板に零れ落ちる だが 何度も突き刺されるうちに カセンの動きが小さくなってきた ( !………っ…!………〜…! ) 辺りを自らの体液で赤と緑に染めつつ カセンもまた息絶えようとしていた 最期の力を振り絞り カセンはコウの方へ首を曲げて振り向いた 体液と同様に目からは涙が溢れ コウの身を案じていた 残される仔の身だけを案じていた コウは目の前の惨状を 最初から見ていた 姉の手足が切られ 喰われていく様を 母の身体に息絶えるまで 錐が突き刺される様を 姉も母も殺された 例えようも無い喪失感と 暗く覆いかぶさる絶望 コウの未熟な精神に限界が訪れようとしていた その幼い身体の中心に存在する偽石 残酷な光景を見せ付けられ 精神的なストレスが極限を迎え コウの生命核である偽石が 今にも砕け散ろうとしていた その時 「 …これは夢デス 」 ケンとカセンの身体を口にしなかった小人がコウの傍に その耳元で優しく囁いた 「 本当のお前はママと一緒にお布団で寝てるデス… これは悪い夢デスよ… 」 ( …ゆ……め? ) 「 目が覚めたら朝御飯デス…ご主人さまが待ってるデスよ…? 」 その小人はコウへ穏やかに囁き続けた ( ゆめ…テチ? ) 偽石の崩壊が一歩手前で止まる ( そう……これはゆめテチュ……こわいゆめ……目がさめれば、みんないっしょテチ… ) まだ未熟な仔実装は目の前の残酷な現実を直視できず 安易で穏やかな幻想に逃げ込んだ 落ち着いたのを確かめると小人は コウの猿轡を解いた 目の前でカセンの身体に4体の小人達の手が伸びる その身体もまた分断され 口元へ運ばれていく その様子を 悪い夢のような光景を コウは視点の定まらない瞳で見ていた 優しく囁いた小人はコウから離れ ダンボールの中の隅で作業を始めた そこは多くの実装石の服が積まれ 多くの首輪が置かれていた カセンとケンから脱がした服と 首輪をそこへ持って行き 更にその上に服を積み上げようとした …カタッ 小人がカセンの服を手に持った時 何かが服から落ちた ( …? ) 落ちた物を小人が拾って見る……それは首輪だった カセンでもケンでもコウの物でもない 全体がグレーの色彩の首輪 小人は その首輪の名前欄を見た 「 ……オマエ、どうしたデス? 」 カセンの身体を喰っていた小人が 部屋の隅の小人に声をかける 部屋の隅の小人は その手に首輪を持ち……身体を震わせていた 他の3体の小人もカセンから隅の小人へ目を向けた 「 その首輪がどうかしたのデス? 」 「 ……! 」 だが隅の小人は何も答えず 今にも息絶えるカセンの元へ急いで駆け寄り 首輪を見える高さに持ち上げた 「 こ、この首輪は誰のデス…? 」 「 ェ…… 」 「 教えてデス! この首輪は誰のデスか…!? 」 首輪を持った小人はカセンの肩をゆすり 必死になって問いかける 揺すられたカセンの目に最期の光が灯り 弱々しく言葉を発した 「 そ……れは…ノロさんの……首輪……デス 私達と…一緒に…暮らす………新しい……お………友達……デ…ェ…… 」 カセンの言葉はそこで止まった 目に光は無く それ以上一言も発することは無かった 「 だ……駄目デス! 死んでは……死んでは駄目デス!! 」 首輪を持った小人は 更にカセンの肩を揺すり起こそうとする だが既にカセンは息絶えていた しかしそれでも 小人はカセンを起こそうと肩を揺すり 声をかけ続けた 「 ママ…しんじゃったテチ……? 」 「 ! 」 妄想の世界に逃げていたはずのコウが その様子を見ていた 「 やっぱり……オネエチャンもママも…テェ… 」 「 ち、違うデス…! 」 「 み、みんな……テチ… 」 「 しっかりするデス! 」 「 みんな…しんじゃっ…………テチュ…………ァァァアアッァァァァ!! 」 「 駄目デスゥゥゥ!!!! 」 目の前の惨劇を現実として認識したコウは 最期に叫び声を上げ …パリンッ 乾いた音を鳴らして床に崩れ落ち そのまま動かなくなった カセンとコウが目の前で息絶え 小人はその場で呆然と立ち竦む 「 何やってるデスか、オマエは? 」 その様子を見ていた他の小人達が訝しげに声をかけた。 「 オマエのせいで、せっかくの仔実装が無駄になったデス 」 「 仕方ないデス、死体でもいいから置いてくるデスか 」 「 こっちのデカいのとチビの残りは今夜の飯にするデス 」 4体の小人が声をかけるが 1体の小人は返事をしない ただ呆然と立ち竦み そして 「 …デ………ギァアッァアァァァァァァァァァッァァァアアア!!! 」 突然張り裂けんばかりの叫び声を上げ ケンとカセンを切り刻んだカッターを持って 他の4体に切りかかった 「 な、何するデ……ギャッ!! 」 刃が1体の腕に切りつけられるが 僅かに切れて体液が滲んだだけ 錆びた刃は布を切り刻むので精一杯だった 「 止めろデスッッ! 」 他の小人が 切りつけた小人へ横から勢いよく当たり ダンボールの床へ転んだ 「 何をするデスか!! 」 「 ノロマのくせに生意気デス!! 」 転がった小人を 他の4体が力の限り蹴りつける 頭 胴体 手 足 あらゆる部位に暴行が加えられる 「 グ……ギャアアアアアアァッァアア! 」 しかし蹴りつけられていた小人は叫び声と共に起き上がり 1体の小人に飛びかかった 「 ギャァ!! 」 飛びかかると地面に押し倒して首元に手をかけ 白い布越しに血走った目を見せ その手で首を絞め始めた 「 ぐ…ぐるじぃ……止める…デスゥ… 」 叩かれても蹴られても 決して首から手を離そうとしなかった 「 し、死ねデス!! 」 「 ッッ!! 」 別の小人から背中に錐を突き刺された しかし首から手を離そうとはしない 「 この!この!さっさと止めるデス!! 」 背中へ何度突き刺されても 手を離さない 苦悶の表情を浮かべるが決して緩めようとはしなかった その背中の白い布に体液が滲み 赤と緑の色に染まっていった 「 いい加減にしろデスッッ!! 」 別の小人の手に古びた果物ナイフ その鋭利な先端が首を絞めていた小人の脇腹に突き刺さった 「 ェ…!! 」 脇腹から突き刺されたナイフが小人の心臓…偽石に傷をつけた 首を絞めていた手に力が緩み 抑え付けられていた小人は力一杯押し返す 「 デ……デェ…! 」 だが それでも 小人は倒れても起き上がり 背中と脇腹を体液で染めつつ 他の4体へ飛び掛ろうとした その鬼気迫る迫力に4体は後ずさり 「 コ、コイツは気が狂ったデス! 」 「 これ以上、付き合いきれないデス! 」 怖気づいた4体は捨て台詞を残し ダンボールの箱から外へ飛び出していった 残されたのは静寂と 身体中を串刺しにされて齧られ 片腕と片足の無いカセン 胸から上だけになったケン 恐怖の表情を浮かべ 偽石が砕けたコウ そして真っ白だった布を 体液で染めた小人 「 ゥ…………ャアァァァアアアアアァァァァッ!!!! 」 公園の片隅に置かれた巨大なダンボール 絶望的な叫びが園内に響き渡った
