この前公園で実装石をぶっ飛ばして遊んでたら、えらく威厳のありそうな おじいさんがやってきて俺を説き伏せたんだ。 何でも、生物ってのは先天的なものと後天的なもの、両方が関係している らしい。 この実装石も生まれつきこんな性質ではなかったのかもしれない。 それなのにキミは虐げ続けるのか、と。本当に彼らに将来はないのか、と。 おじいさんの言ったことに納得したわけじゃない。ただ、そんなものかな、 程度で実装石を飼うことにしたんだ。もちろん教育する為に。 調達は、近所のペットショップで…なんてあるわけねーだろ! 公園で見つけた警戒心の強い親子だ。安上がりで、それでいてある程度賢い のが保証されている。 「とーとととと…」 まずは餌を置いて呼びかける。 「デスゥ?」 「ママ、ニンゲンさんがゴハンくれるテチュ!」 「だめデス!何が入ってるかわからないデス!」 「…」さすが。しかしこれならどうだ。「ん〜うまうまうま…」 「デ…ッ」親実装は、ばらまいた餌を俺が自分で食べてるのを見て驚く。 「ママ、大丈夫テス!あのニンゲンさん、自分で食べてるテチ!」 「騙されちゃ駄目デス!食べても大丈夫でも近づいたら大変デ…」 「テッチィ!」親が制止する間もなかった。仔実装はトテトテと無様に かけてくる。そして餌にかぶりついた。「テチュン♪おいしいテチ!」 実装フードじゃなくてただのドッグフードだが、野良にとっては御馳走だろう。 そんなのを食べた俺ってすごい。 「こら!早く戻ってくるデス!ニンゲンさん、この仔に罪はないデス! やるならワタシをやるデス!」親実装は俺の足元で大の字に転がる。 「いや…」ヤりたいのはやまやまなんだが、今回は趣旨が違うんだ。 「デス?何もしないデスゥ?」 「うん。何にもしないよ」 「ワタチが言った通りテチュ!このニンゲンさんはいいニンゲンさんテス!」 ようやく親実装の警戒が緩んできた。 「…ニンゲンさん、どうしてワタシたちに優しくしてくれるデス?」 「実はね…」口八丁手八丁、虚虚実実、美辞麗句、以下略。とにかく 言いくるめて家に連れ帰った。 そして始まる共同生活。 といっても大したことはしない。毎日家の中を自由に動き回らせて 餌だけ与える。賢い親子なので世話は焼かせなかった。肝心の教育といえば 毎晩寝る前に「お話」をしてやることぐらいだ。一応題材は選んである。 ……… 「そしてカエサルは言いました。“ブルータス、お前もか”」 「デスゥ、裏切りって怖いデス…」「テチテチ…」 ……… 「追われた鬼は逃げ場を見つけました。それは人の心の中です」 「デデデデデ…だからニンゲンさんは怖いデスゥ」「テチテチィ」 ……… 「さあ大変、男の触ったものは何でもかんでも金になってしまいます」 「デェ…ゴハン食べれなくて可哀想デス。欲張りは損デス」「テチテチ」 ……… 「パンを落とすと必ずバターを塗った面が下になってしまうのです」 「なんて不幸な法則デスゥ!」「テッチュゥ!」 ……… 「もう食べたくないのに、男の子の手はどんどんチーズを持ってきます」 「人のモノ取っちゃいけないデス!」「テチテチ!」 ……… 「ご主人様、今日はどんなお話してくれるデス?」 さあ、そろそろ締めだな。 「むかしむかーし、中国にえらい学者さんがいました」 「どれくらい偉いデス?」 「俺よりも」 「それはすごいデスゥ!」 因みに実装親子の中では、俺は神同然の認識だ。それはそうだろう。 餌は与えて家は与えて、おまけにこんなにかまってやっているんだから。 「その学者さんが言うには人間は結局エゴイストなんだそうです」 「ご主人様は違うテチ!」 「ははは、ありがとう。で、それを聞いたある人が学者さんに言いました。 俺は誰よりも“国”のことを考えている。それでも俺はエゴイストか?」 「そうなんデス?」 「学者さん曰く、それも結局は“程度”の違いに過ぎない、だそうです。 男は反論します。何を言う!俺は国の為なら何でも捧げるぞ!」 「すごいデス!かっこいいデス!」 「まあまあ。最後まで聞きなって。すると学者さんは聞きます。それなら 国の為にその髪を差し出せるか?と」 「…」親子は話に引き込まれている。 「男は言いました。そんなのは当り前だ! 学者さんはまた聞きます。ならその指はどうだ? 男は言いました。それぐらい大したことない! 学者さんはまだ聞きます。ならその腕は? 男は少し躊躇ってしまいました。でもやっぱり、腕だって捧げる! 学者さんはまだまだ聞きます。ではその足ももらおうか。 男の人は詰まりました。でも、う…くれてやる! 学者さんは最後にじゃあついでに首ももらおうか。 男の人は黙ってしまいました。 学者さんは言いました。愛国心など程度の違いなんだよ。ちゃんちゃん♪」 「すごいお話デス…」「テチュゥ…」 「な?人間なんてこの程度の違いなんだ。結局みんなエゴイストなんだよ っていうのが学者の言いたいこと、かな?」 「そんなこと言わないでほしいデスゥ…」 「そうテチュ…ご主人様キライになっちゃうテチィ…」 ま、ここらでいいか。教育の成果を見せてもらおう。 「さて、例えばお前ら親子が…」 「髪の毛いっぽんたりともやらないデス!」 「髪の毛いっぽんたりともやらないテチ!」 「…だよな」
