替えても、いいですか? 2回目 □□□ としあき:愛護派。ルミを筆頭に五匹の実装石を大事に育てている。 ■■■ ひろあき:虐待派。としあきと自分の飼い実装をこっそり交換して、惨劇を楽しむ。 愛護派のとしあきに、愛情たっぷりで育てられた実装石・ルミとその娘達。 対して、虐待派のひろあきに厳しく躾けられた実装石・偽ルミとその娘達。 ひろあきは、自分が飼っている偽一家の一匹・リミを、としあきの所のリミとこっそり交換する。 それに気付かないとしあきと、本物のルミ。 偽一家は、共食いを日常的に行うように躾けられていた! □□□ 俺は、目の前の光景が信じられなかった。 リミが、ロミの頭に噛み付き、顔の一部を噛み千切ったのだ。 もぐもぐと、咀嚼してそれを飲み込む。 さらにもう一齧り。 その瞬間、ロミは光を完全に奪われた。 「レビャァァァッッッッ!!!! イタイイタイイタイイタイイタイレフ〜!!!」 「うるさいテチ!」 「オメメイタイレヒィィィ!!! ナンニモミエナイレヒィィィ!!! ママァ〜ママァ〜ッ!!!」 「餌のくせにやかましいテチ。この口がやかましいんテチね」 がぶっ。 「レ……!!! ゴボゴボゴボ」 ロミの口周辺を丸ごと食い破る。 もはやロミの顔は、大きな穴が開いた状態…いや、穴そのものになっている。 口のあった所からは、ゴボゴボと濁った音を立てて、血が噴出している。 あまりの光景に、俺を含め、ルミ達一家の誰も動けない。 その凄惨極まりない状況は、俺達から、正常な判断力を奪い取っていた。 なんだ。 これは悪夢か? リミが虐待をしている? あんなに可愛がっていた妹のロミを、食っている…? 間違いだ、これは何かの間違いなんだ。 「や、やめるデスーっ!!」 一番最初に動いたのは、母親のルミだった。 リミを突き飛ばし、虫の息のロミを救出する。 「な、なんでこんな事をするデス? リミ、何をしたのか、わかってるデス?」 ロミの顔から溢れる血をなんとか止めようとするが、どうしようもない。 泣きながら、必死でロミに呼びかけている。 その声にやっと我に返った俺は、ルミからロミを奪い取ると、緊急手当て用具を取り出し、ロミの怪我の 応急処置に取りかかった。 「なんとかする! ロミは俺が助けるから、お前はリミを!」 うっかり、実装リンガルを通さないで呼びかけてしまう。 だが、ルミにはわかったようだ。 ルミはリミを取り押さえると、抵抗できないように腕を固めた。 「な、何するテチィ〜〜!! く、苦しいテチっ!!」 「吐き出すデス! 食べたロミの肉を、吐き出しなさいデス!!」 「どうしてテチ?! アレは餌テチ! ワタチはただご飯を食べただけテチ! まだ全然満腹じゃないテチ!」 「違うデス! あれはお前の大事な妹デス! どうして、どうして突然そんな事をするデスぅっ?!?!」 「オバチャン酷いテチ! どうしてリミのご飯の邪魔するテチ? テェェェン、テェェェェン」 ルミは、泣きながらリミの背中を叩く。 リミも、泣きながら抵抗する。 ラミとレミの姉妹は、さすがにこの光景には耐え切れなかったようで、とっくにパンコンした上で気絶 していた。 何度も背中を叩かれ、やがて、リミが嘔吐する。 噛み砕かれたロミの肉片が、ドボドボと零れ落ちてきた。 「リミ、どうしてこんな事をしたデス? ご飯なら、こんなに一杯、いつも用意されてるデス。なのにどうして、 どうして…?! お前は狂ってしまったデスか?」 ゲエゲエとむせこんでいたリミは、ようやく解放されると、ゆっくり立ち上がってきょろきょろと周囲を 見回している。 どうやら、食べかけのロミの行方を捜しているみたいだ。 で、肝心のロミは…この様子では、もう助からない。 出血量と、顔を食いちぎられたというショックが大きすぎ、蛆実装のひ弱な偽石を激しく損傷させたらしい。 なんてことだ…蛆ちゃんのままでも、最後まで大切に育ててやろうと、ルミと誓いを立てたばかりだというの に。 実の姉に食われるなんて、なんで、こんな最期を迎えなければならなかったんだ… 俺は、泣いた。 声を上げて泣いた。 ロミの呼吸は、乾いた血糊で器官を完全に塞がれたらしく、とうに停止していた。 ■■■ 偽一家とリミは、オレの手で風呂場で洗われる。 暖かな湯のゆくもりに酔いしれ、うっとりとしている偽ルミ達。 だが、リミだけはまだ身体を震わせている。 あれから、どうがんばっても仔実装の肉を食わせる事が出来なかった。 まあ、こちらも無理だとわかって押し付けたんだけどさ。 血糊や肉片をすっかり洗い落とした偽ルミ達は、すっきりした様子でバスタオルの上をコロコロ転がって いる。 オレは、リミの身体も丁寧に洗ってやり、バスタオルへと導いた。 『自分で拭かないとダメだぞ』 「…ニンゲンさん、やっぱりあなたは酷い人だったテチ。ワタチの考えは正しかったテチ」 さっきから、同じことをずっと呟いている。 困った奴だ、まだ自分の立場を認識していない。 オレは、リミには返答せず、偽ルミ達に話しかけた。 『おい、リミはどうやら、外出した時何かショックを受けてしまったようだ。今までのオレの躾をすっかり 忘れてる。ルミ、もう一度こいつを躾けてくれないか?』 「わかりましたデス。ワタシも、そうする必要があると思ってた所デス」 『よろしく頼む。俺が見込んだお前だ。リミを元通りにしてやって欲しい』 「おまかせくださいデス」 「ラミも一生懸命、リミを教育するテチ」 「ワタチもオネエチャンが早く元通りになってもらえるように頑張るテチ」 「レフー」 嬉しい答えを返してくれる。 一応フォローしておくが、こいつらは、決して糞蟲ではない。 としあきほど完璧ではないかもしれないが、オレに出来る限りの躾は叩き込んでいる。 粗相もしなければ、自分勝手な発想により調和を乱す事はない。 というか、糞蟲性格の奴は、とっととオレの手によって陰惨な最期を遂げている。 しかもこいつらは、その光景を目の当たりにしている上、その死肉を食わされている。 共食いはするが、同族の肉を食う事は最大の屈辱。 四代に渡ってそのように吹き込まれている偽ルミ達にとって、これは自己の糞蟲化を食い止める最大の 効力がある。 こいつらは、あくまで、少しだけ食料関係の価値基準が違うだけの、賢い理想的な実装親子なのだ。 だが、そんな中にリミという、不穏因子が生まれる。 それは、この家族にとって由々しき問題だ。 日々与えられる餌の実装石は、水槽に落とされる前、主人であるオレによって虐待の限りを尽くされている 事を、こいつらは良く知っている。 ちょっとでも躾に反する事をすれば、今度はその餌と同じ立場にされてしまうのだ。 餌にされる悲劇と、餌にされた身内を無理矢理食わされる屈辱。 それが、家族内に鉄の規律を生む。 としあきの家の飼い実装達と最も違う部分が、これだ。 その「違う部分」が、これから徐々に、としあきの手で育てられた実装石達をかき乱していくわけだ。 「リミ、こっちに来るデス」 水槽に戻された偽ルミは、リミの髪を掴み、ずるずると中央へと連れて行く。 「イタイテチ! イタイテチ!! ご主人様が綺麗にしてくれた髪の毛が、千切れちゃうテチ!!」 「いう事を聞かないと、千切れるどころか丸坊主にするデス!」 偽ルミは、先程残しておいた仔実装の切り身を掴んで来ると、それをリミの眼前に晒した。 「テ…」 「ここでは、これしか食べるものがないデス。さあ、生きるために食べるデス!」 「テ…でも、でも、これはさっきの子の…」 「アレは餌デス。忘れたデスか? ここに下ろされる実装石は、ワタシ達一家以外すべて餌デス! お前も ワタシも、生まれたときからそうだと決まっていたデス!!」 「そんな事ないテチ! ご主人様は、もっとおいしくて栄養があって、いい匂いのするご飯を一杯用意して くれたテチ! お友達のお肉なんか食べる事なかったテチ!!」 『ルミ…そいつはな、別な家の実装石の暮らしぶりを見て、自分もずっと同じように育てられたと思い込んで しまったんだ。だから、ゆっくり時間をかけて直してやって欲しい』 「わかりましたデスご主人様。こんなになってしまったリミに、そんなに暖かい言葉をいただけるなんて ありがたいデス。絶対に、この子を一人前にしてみせるデス」 『お前ならできる。頑張ってくれ』 「デス!」 これで、リミは偽ルミの一家に、強引に組み込まれた。 偽ルミ一家は、間違いなく、こいつが本物のリミでない事に気付いているだろう。 だが、オレがリミだと言ったら、それを信じるしかない。 こいつらは、生まれてこのかた外の世界を知らない。 だから、外に出る事でこんなにも変わってしまうものなのかと、自分勝手に納得しているかもしれない。 どちらにしろ、これから偽ルミは、本物のリミを偽のリミにするため、必要以上にスパルタ教育を施すだろう。 オレも、たまには躾に手を貸そう。 もっとも、オレからの躾が、もっとも厳しいのだがな。 さーて偽のリミは。 今頃、幸せの絶頂に居るかな? □□□ 翌日。 ロミの埋葬を済ませた俺は、実装石専門病院でリミを診察してもらった。 何か未知の病気にかかり、共食い性質が表面化したのでは、などと思ったからだ。 だが、リミはまったくの健康体で、何の病気もしていなかった。 医師に、夕べの出来事を説明したが、まったく理屈がわからないらしい。 まるで別な実装石に入れ替わってしまったようだとも言われたが、もしそんな状態になっていたら、俺も ルミもすぐに気付く筈だ。 考えれば考えるほど、気持ちが焦り、困惑する。 15年も実装石を育てていて、こんな異常事態は初めてだ。 とにかく、俺はリミを連れて帰ると、もう一度ルミ達家族の許に戻した。 「テチ…」 ラミとレミが怯えている。 リミは、彼女達に何もしようとせず、ただ静かにじっとしている。 ルミが心配そうに話しかけるが、彼女を母親と認めなくなっているらしく、拒絶する。 また、どんなに勧めても食事を摂ろうとしない。 だけど、食事の要求はするのだ。 いったい、どうしろというのだ。 彼女が食べたいものとは、何なのだろう? まさか…また蛆実装を食べさせろと言うのでは? 俺は不安を抱えながら、実装リンガルでリミに呼びかけてみた。 『リミ。君は、いったい何を食べたいんだ?』 「決まってるテチ。実装石テチ」 『じっ…それは、餌じゃないんだ。お友達なんだよ。どうしてそんな事を言うの?』 「違うテチ。家族以外の実装石は、みんなワタチ達の餌テチ。ワタチは蛆ちゃんが大好きテチ。頭から齧ると とてもおいしいテチ」 『な、何を言ってるんだ?! どうして、同じ仲間を食べたいと思って…』 「だから、仲間じゃなくて餌なんテチ! ニンゲンさんはそんな当たり前のことがわからないテチ? リミの ご主人様なら、いつも新鮮な生きた実装石を与えてくれたテチ!」 俺は、そんなものを与えた記憶がない! どうしたというんだ、リミは?! まるで、まったく別な実装石が摩り替わってしまったようにすら思える。 だが、俺の目の前に居るリミは、間違いなく、今まで大切に愛情込めて育ててきたリミだ。 『俺は、そんな事をした覚えはない! それに、どうして俺が“ニンゲンさん”なんだ! ご主人様と呼び なさい!』 「違うテチ! ニンゲンさんはニンゲンさんテチ! リミのご主人様は一人だけテチ! リミは、生まれたての 蛆ちゃんが食べたいテチ! ニンゲンさん、あそこにいる実装石の目を赤くして、蛆ちゃん一杯産ませて 欲しいテチ」 『な…な………なん、だ、とぉっ?!?!』 リミは、なんと姉のラミを指差していた。 当のラミは酷く怯えている。 ルミの背後に隠れ、ブルブル震え始めている。 何を…言い出すんだ、リミ。 お前は、まさか、糞蟲に?! いや、糞蟲だったのか? 今まで、糞蟲だという事を、ずっと隠し続けてきたのか?! 俺は、怒りのあまり頭が真っ白になった。 「あのオバチャンだと、立派な仔実装を生んじゃいそうテチ。でもそれだと食べにくくておいしくないテチ」 『リミ…だまりなさい』 「あの仔実装なら、未発達だから蛆ちゃん一杯生みそうテチ」 『黙……れ……っ』 「ワタチ蛆ちゃん大好きだから、ヌルヌルも全部舐めて、頭から齧るテチ。生まれた蛆ちゃんは、全部食——」 『うがあぁぁっっっ!!!』 ぶちゃっ! リミの声が、途中で途切れる。 気が付くと、俺の右拳に、赤と緑の体液がべっとりと付着していた。 俺は、リミを……叩き潰してしまった。 「ひ、ヒイィィィィィィィッッッ!!!!」 「ご、ご主人様ァァァッッッ!!! リミが、リミがあぁぁっっっ!!!!」 ぷりぷりぷり 三人が、大量にパンコンする。 糞の臭いが、室内に充満する。 俺は、自分のやってしまった事に恐れおののき、じっと、汚れた拳を見つめていた。 何が、あったんだ。 俺は今、何をしてしまったんだ? なんで、こんな風になってしまったんだ…。 ■■■ 偽ルミの熱心な教育で、リミは、ついに仔実装の肉を口の中に入れた。 泣きながら、吐き戻しそうになりながら、懸命に肉を咀嚼して飲み込む。 偽ルミはホッとして、その様子を見守っている。 偽ラミが、リミの背中をさすりながら、飲み下しを助けている。 「やっと食べられるようになったデス。偉いデスよ」 「デ……ゲェ…ップッ……」 「リミ、せっかく飲み込めたのに、吐いたらもったいないテチ」 「オネエチャン、がんばってテチ!」 「レフー」 「ゲッ…グゲ…」 「リミ、食べられる時に食べておかないと、身体がもたないデス。お前達はもっと大きくならないとダメデス。 お薬だと思って、しっかり食べるんデスよ?」 ああ、なんと素晴らしい家族愛。 みんなで助け合っている光景は、感動の一場面だ。 まー、やってる事はとんでもなくグロい事なんだけどな。 それでもオレは、今後もリミにまともな餌なんか与える気は毛頭ないし♪ さて、今日は休みだから、特別に一食増やしてやろう。 今回のメニューは、ちょっと育ちすぎた蛆実装。 どこから紛れ込んだのか、たまたまうちの裏にレフレフいいながらのたうっていた。 どうも、蛆実装で成長が止まってしまった個体らしい。 多分ロミより年上なんだろうな、一匹が大型のナメクジくらいのサイズがある。 ナメクジって言っても、大人の手の平くらいのサイズの奴も居るんだよね。 こんなのが、三匹。 こんなキワモノ滅多に手に入らないから、食い応えは最高じゃないかな。 さあ、リミには引き続き、地獄を体験してもらおうか。 「レッフー♪」 「テッテレー♪」 「レヒャッ」 ボトッ、ボトッ、ボトッ 「ヒイッ!! ま、またぁっ?!?!」 「おっきいレフー♪」 「リミ、大きく育った蛆ちゃんはご馳走デス」 「そうレフ、ロミも大好物レフ」 「……そ、そんな…」 今回は、糞抜きと服剥がしだけしかやっていない。髪はそのまま残ってる。 巨大蛆本人達は、身体を洗ってもらったばかりで、上機嫌だ。 さあ、今回の餌は元気な上に恐怖で萎縮してないから、手強いぞ〜。 オレは、カップラーメンでもすすりながら、これから展開する阿鼻叫喚地獄絵図を堪能…と思っていたのだが、 突然、携帯が鳴った。 まずい、としあきからだ。 オレは、偽ルミ達に早く食ってしまえと命令すると、実装石達の声が聞こえないようにわざわざ外まで 移動して、電話に出た。 「わりいわりい、今やっと電波が届きやすい所に出られたよ。どうしたんだ?」 『聞いてくれひろあき。…あれから、リミとロミが……死んだんだ』 「え?」 この疑問符は、演技ではなく素で出たものだ。 実は、ロミのことはすでに予想していた。 蛆実装が大好物な偽リミのことだ、多分真っ先にロミを襲っただろうと。 だが、その偽リミまで死んだとは?! 「いったい何があったんだ! としあき?!」 オレは必死になって、怒鳴るように呼びかける。 もちろん、これは演技だ。 偽リミが死のうが、俺には何のダメージにもならない。 だが、昨日あんなに可愛がったリミが突然死したとなると、慌てる様子を演じないわけにはいかないからな。 としあきは、つい先ほど起こった事態を、丁寧に説明した。 嗚咽が混じっている、マジ泣きだ。 これは相当ショックだったようだ。 あららぁ、こりゃ可哀想に。 それにしても、随分あっけない幕切れだったなあ。 つかとしあき達。 偽リミの事、最後まで、気付かなかったんだね♪ オレは、大声で叫びたい気持ちを必死に抑え、としあきに同情するフリを演じ続けた。 オレの仮説は、正しかった。 あいつらは、リミが入れ替わった事に気付かなかった! としあきも本物ルミ一家も、「リミが入れ替わった」という現実を認識できなかったんだ。 普通なら、そんな事は絶対ありえない。 実装石はともかく、人間の冷静な判断力があれば、すぐにリミがリミじゃない事は看破できる筈。 しかしそれが出来なかったという事は、としあきの実装石に対する認知力が、著しく低下している事を 意味する。 こんなので、よく15年も育ててこれたよな、こいつ。 そんな奴に飼われているのだ、ルミ一家の認識力など、オタマジャクシ以下に過ぎない。 ——賢いオタマジャクシの皆さん、気分を害したらごめんなさい。 携帯の向こうでは、もはやまともに聞き取れないくらいの泣き声で、オタマジャクシの親玉が話している。 オレは話半分程度に聞きながら、優しい声で、アドバイスをしてやった。 「お前の辛いのもわかる。だけど、今は辛い事は忘れて、立ち直る事を考えろよ」 『ひろあき…すまない』 「そうだ、公園に散歩にでも行ったらどうだ? 皆を連れて。気分が変わっていいと思うぞ」 『公園か…』 としあきの近所の公園は、比較的賢い実装石がコミュニティを形成しているらしく、人間や飼い実装に 迷惑をかける奴はそんなにいない。 これは、長年の虐待生活で身につけた知識だ。 言うまでもなく、としあきはオレがそんな知識を持っている事を知らない。 溺愛主義のとしあきは、万が一の危険を考えて、今まで自宅の庭以外に実装石達を放した事がない。 オレは、それでは息が詰まってしまうからと、公園行きを提案する。 もちろん、オレも同行するからと付け加えて。 案の定、としあきは「ひろあきが付いていてくれるなら」と、あっさりOKを出してきた。 こいつ、絶対詐欺師に全財産巻き上げられるタイプだよな。 そういう話がもし出てきたら、そん時は助けてやらないとな。 作戦第二弾。 偽リミに続いて、ルミ一家とすり返るべきは、誰か。 オレはある事を思いつき、ここでいきなり、長女と次女同士のダブル交換を試みることにした。 一気に、母親以外を入れ替えてしまう寸法だ。 しかし、そのための障害は多い。 一番大きい障害は、長女のラミだ。 ラミと偽ラミは、それぞれ成体実装に近い体格になっている。 もちろん、偽ラミは本物に合わせてこちらで調整を加えたものだが。 三女のレミは、リミと同じくらいの体格だから、胸ポケット内での待機が利く。 しかし、ラミはそうはいかない。 母親を除くと、もっとも大型の個体同士のすり替えだ。果たしてうまく行くか? オレは、偽リミの自滅を重要視し、さらに成功率を高めるため、今回は偽ラミ&レミに計画の一部を 事前報告しておくことにした。 □□□ ひろあきの提案で、近所の公園に行く事になった。 明日の昼、ひろあきの付き添いで実装石達を連れて散歩に行く。 リミとロミの死は、彼女達に大きなショックを与えてしまい、今はその影響でろくに餌も摂ろうとしない。 俺が悪いんだ、俺が。 だけど、いくら酷い事が起きたとはいえ、彼女達の世話と、精神的ケアを度外視するわけにはいかない。 俺は、ルミ達に丁寧に説明して、初めて公園に連れて行く事と、野良実装という悪質な連中と関わる可能性、 そして、いざという時の対処について、丁寧に説明を行った。 利口なルミは、一つ一つの説明に頷きながら、懸命に記憶している。 大丈夫、公園に出ても、俺とひろあきの目の届く範囲内に居れば、絶対に問題はないんだから。 ■■■ 今回のミッションは、偽ラミと偽レミの理解度と協力体制にすべてがかかっている。 当初、この計画を話した時彼女達は猛反対したが、「リミの仇を取るためなんだ」と説明したら、結構 あっさりと承諾してくれた。 計画はこうだ。 まず、公園に行く前にとしあきの家へ向かい、死んでしまったリミ(偽)とロミのお悔やみに行く。 この時、俺の上着ポケットの中には、「我慢」の命令を受けた偽レミが待機している。 としあきの家でしばらくおしゃべりを楽しんだら、前と同じようにトイレで一度席を外し、偽レミを一時的に 解放。 今度は、家の中の目立たないところに潜んで、としあき達の帰りを待つことになる。 待機前にトイレと食事を入念に済ませておけば、日に一回だけの食事に耐えられるこいつらなら、問題なく クリアできる条件だ。 その後、偽レミは、別プロセスですり替えに成功した偽ラミ(実の姉)の合図を受け、さも当然という風に ルミ一家に紛れ込む。 流れはこんなところだ。 さて、としあきが家に戻って腰を落ち着けるまでに、オレは「本物レミの隠蔽」「本物ラミと偽ラミのすり替え」を 行わなければならない。 これがハード極まりない。 オレは、あらかじめ公園の近くの目立たない所に自分の車を停めておき、そこに偽ラミを待機させる。 何かしらの方法で本物ラミを車の近くまで誘導し、そこですり替えを行う。 本当なら、ここでレミもまとめて交換してしまいたいところだが、それではリスクが高くなりすぎるし、別々な 方法を重複させた方が、としあき達をごまかしやすい。 オレは、車のバッテリーとガソリン、翌日の予想気温などを計算し、中でラミが問題なく待機できるかどうか を確かめておく事にした。 おっと、一番ごねそうな偽ルミには、リベートの金平糖を渡しておこう。 ただし、これは偽ロミと本物リミが寝静まった頃合を狙わないと。 本物リミには、まだまだ実装食を続けていただく必要があるからね。 他の物を口にしてもらっては困るのだ。 偽ロミは…まあ、こいつはなあ…。 今夜の食事は、仔実装三匹と成体実装一匹、そして蛆実装一匹という豪華版。 奇しくも、偽ルミ一家とまったく同じ構成だ。 言うまでもないが、これはわざわざ隣町の公園まで行って捕まえてきた、どこかのオバサマの大事な大事 な飼い実装家族。 今頃、大変な騒ぎになっているだろうが、これも運命と思って諦めていただくしかない。 こいつら、結構賢くて躾もしっかりしていると思ったが、母親だけは贅沢に慣れすぎていて、凄まじい糞蟲 ぶりを発揮していた。 糞は投げるわ悪態はつくわ、あげくにオレにかみついて逃れようとするわ。 麻酔から目覚めてから、偽ルミ達の所へ連れてくるまで、本当に大変だった。 もっとも、その直後全身をギタギタに痛めつけておき、抵抗力を奪っておいたがね。 子供達にはその光景をじっくり見せて、「これから逢うお友達と、仲良く遊べなかったら、ママみたいに なっちゃうよ♪」と言い聞かせてある。 それを真に受けた子供達三匹は、オレには恐怖心を抱いているものの、お友達に逢えるという言葉に 心底安心しきったようだ。 警戒心を植えつけないため、今回は母親以外は軽い糞抜きと偽石取りしか処理をせず、服と髪はそのまま だ。 ゆっくり優しく水槽の中に下ろしてやると、偽ルミ一家を指して、「あれがお友達だよ、仲良く遊んであげて くれないかな」と告げ、金平糖を与える。 すっかりその気になってしまった子供達は、母親の惨劇も忘れて「テッチュ〜ン♪」と媚び鳴きをすると、 トテトテと偽ルミ一家に駆け寄って行った。 さーて、今日のオレの夕飯は、カップヌードルのブタホタテドリにしようかなと。 「テチューン、こんばんはテチ! お友達さん♪」 「皆さんはお名前なんて言うテチ?」 「一緒に遊びましょうテチ」 「レフー、お腹プニプニして欲しいレフー」 数十秒後… 「…レピィィィッッ!! カジラナイデ、カジラナイデレフーッ!!!」 「テチーッ!! 蛆チャーン!!」 「テチャァァァッッッ!!! 服を返してテチ! なんでそんな事するテチ?!」 「オテテがナクナツタテチ、アンヨもイタイテチ、ママァ…」 「デジャアァッッッ!! な、何しやがるデスゥゥッッッ!!! 痛い痛い、離せデスーッ!!」 楽しそうに駆け寄って来た仔実装達を、偽ラミが問答無用でしばき倒すと、畳み掛けるように偽レミ、 偽ロミが踊りかかる。 親実装には、偽ルミが単身でかかる。 抵抗力を奪われているので、あっさり四肢を引き千切られ、肉塊と化していく。 本当に、手際が良いよなあ、偽ルミは。 お腹を服ごと食い破られ、悶絶する蛆実装に、親同様、四肢を千切られて達磨にされる仔実装。 向こうでは、偽レミが仔実装の服を剥き、髪をバリバリ引き抜いている。 もう一匹は…あれ、よく見たら、本物リミが必死で押さえつけてる。 攻撃はしてないが、後ろから羽交い絞めにしているようだ。 おお、まだ手は下せないが、偽家族に協力しないと自分が危ないという事を悟ったのかな。 みるみるうちに、蛆と二匹の仔実装が食い尽され、骨になる。 親実装も、とっくにこと切れて偽ルミと偽ラミに貪られている。 うーむ、今回はいつも以上に壮絶な光景だなあ。 で、本物リミが押さえ続けていた仔実装。 こいつだけは、無傷で生き残っていた。 「テチィィッッ!! オネエチャーン、ウジチャァァン!!! ママーッ!!」 「ナンデコンナコトスルテチィ!! ミンナトハお友達テチィ!! ニンゲンさんがソウイッタテチ! ナノニドウシテコンナ酷い事スルテチ?!」 泣き叫び命乞いする仔実装に、本物リミは思わず手を放してしまったようだ。 トテトテと駆け出し、骨になった家族にすがり泣き喚く。 だが、偽一家は誰も動かない。 そう…暗黙のうちに、本物リミに捕食させようとしているのだ。 おおお、これは、見逃せない展開ですよ?! 「ごめんなさいテチ」 「テ?!」 「あなたを食べないと、ワタチ、死んじゃうテチ。殺されちゃうテチ」 「テ…テチャアァァッ!!! テェェェン、テェェェン」 辛そうな顔で、仔実装に迫る本物リミ。 なんか、オレの見てないところで、随分徹底的な教育が行われたみたいだね。 本物リミは、散々迷ったが、ついに思い切って、仔実装の顔を蹴飛ばした。 「テェェェン、テ…テギャッ!!」 その上に飛び乗って、マウントポジションを取る。 おおリミ、結構やるじゃん。 背中から倒れてピクついている仔実装の首を絞める、締める、締める。 仔実装の総排泄口から、僅かな液糞がぷぴっと漏れる。 やがてそれは緑と赤の体液の流れになっていく。 「レフレフ♪ おいしそうレフ♪」 偽ロミが、血の海に顔をつけて嬉しそうにすすりこむ。 本物リミは、泣きながら必死で仔実装の首を絞め続けていた。 「テ…テチ…テ…」 「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ!!」 「テ…ゲ……」 お、落ちた。 首ががっくりと力なく落ち、ぴくぴく蠢いていた四肢がぱたっと動きを止める。 本物リミは、仔実装の死を確認すると、やっと解放されたような顔で、仔実装の身体を解放した。 その途端。 オレは、最高に面白いものを見せられた。 「デチャアァッッッ!!!」 「テチ?!」 「レフッ?!」 これは、オレも驚いた。 なんと、死んだとばかり思っていた仔実装が突然息を吹き返し、本物リミに掴みかかって来た。 とても、さっきまでのおとなしい仔実装とは思えない迫力だ。 「デチャァッ!! ヨクモ、ヨクモヨクモぉっ!! 殺してやる、コロしてやるデチャアッ!!!」 「ひ、ヒィィィッッッ!!!」 「ママ、ウジチャンを、オネエヂャンダチを返せデヂュオワァァッッッ!!!」 「た、助けてテチーッ!! 助けてーっ!! ママーッ! ご主人様ーっ!!」 ぶりぶりぶぱっ、ぶりゅりゅっ 盛大なパンコン。 ま、こりゃしょうがないか。 悪鬼のような形相でリミを締め上げようとする仔実装ゾンビ。 まー、悔しくて死に切れなかったんだろうな、哀れ哀れ。 でも、今リミに死んでもらうわけにはいかない。 それに、一応ご主人様とも呼んでくれたしな。 オレは、麺をあらかた食い終わったブタホタテドリを脇に置くと、その横のトレイに手を伸ばす。 中身を手の中に取り、ぐっと力を込めた。 バキ…っ 仔実装の偽石だ。 全体に細かなヒビが入っていたので、握力で簡単に砕けた。 なんとなくめんどくさくて、ただ栄養剤漬けにしていたのだけなのだが、それが幸いした。 本物リミを押し倒し、さっきの逆のポジションになろうとした矢先、仔実装ゾンビは、糸の切れたマリオネット のように崩れ落ちた。 「ウ、ウラン……ヤル…デヂャ…コロ…シ…」 仔実装の断末魔。 随分悔しかったんだなあ、恨み言残していったよ。 本物リミは、その迫力にやられて、完全に動けなくなっていた。 ようやく偽ルミ達が動き出し、仔実装の解体にかかる。 「情けをかけてはダメデス。首絞めは息を吹き返す事があるから、確実に落とさないと危険デス。わかった デスね?」 腕を引き千切って、本物リミに与えながら、偽ルミが教授している。 ハードな場面だけど、一応、偽ルミの愛情は本物のようだ。 本物リミは、返事こそできなかったが、コクコクうなずいて肉を受け取ると、思い切ってそれに齧りついた。 おーっ、ちゃんと食べるか、あの状況下で。 宴を余すところなく堪能したオレは、十数分後、五匹を風呂場へと招き、丁寧に洗ってやった。 さあ、明日は頼むぞ、偽ラミと偽レミ。 お前達がとしあきの家に行くことで、もう一つ確かめたい事が、確認できるかもしれないんだ。 オレは、とっておきの秘密兵器・超小型遠隔マイクを取り出して来る。 風呂上りでさっぱりしているラミに声をかけ、オレは、こいつを別室へと招いた。 □□□ 約束の日になった。 ひろあきは、早い時間に迎えに来てくれた。 丁寧にお悔やみを述べ、目に涙まで浮かべている。 あんなに楽しく遊んでいたから…さぞ残念なのだろう。 だけど、リミを殺したのは、俺なんだ… ひろあきは、俺を攻めたりはせず、逆にひたすら慰めてくれる。 本気で、涙がこぼれて来た。 ルミもラミも、ロミすらも泣いている。 俺達は、庭に作った二人の墓へひろあきを導いた。 「オレさ、よくわかったよ」 「え?」 「としあき、お前の苦労っていうかさ。実装石を育てる大変さが、なんとなく伝わった気がするんだよ」 「ひろあき……すまん、俺…」 ひろあきは、それ以上何も言わず、俺の肩を軽く叩き、微笑む。 その頃には、俺はもう本気で泣いていた。 リミ…ロミ、許してくれ。 お前達のことを最期までわかってやれなかった、俺を許してくれ… 「ご主人様…テェェェン、テェェェン」 「レミ、泣いちゃダメデ……オ、オロロ〜ン、オロロ〜ン」 「テチャアアアン!!」 堰を切ったように、ルミ達が泣き出す。 俺はもう、立っていられなかった。 ■■■ 本気で…気付いていなかったのか! ひょっとしたら、どこかで怪しい点を見抜いていたりしてないかと思ったが、どうやら100%ニセモノと すり替わったのに気付かなかったらしい。 なんという、バ………ゲフンゲフン、お人よしだろうか。 まあでも、このとしあきのスカポンタンな認識能力のおかけで、計画は速やかに進行しそうだ。 俺は、予定通りトイレを借り、そのついでに偽レミをスタンバイする。 水槽のある部屋の位置を教え、この近くに隠れるように指示する。 偽レミは、どこで覚えてきたのか敬礼しながら「ラージャテチ!」と小さく呟いた。 「ラミが呼びかけるまで、我慢してろよ」と念を押し、命令を再付加しておく。 これで、偽レミは耐久モードに切り替わるだろう。 オレは、偽レミと別れると素早くとしあきの所に戻り、出かける準備を始めた。 携帯電話が鳴る。 メールの着信音…のようだが、実はこれ、あるアプリケーションの呼び出し音だ。 としあきにナイショで仕込んである、携帯アプリ版実装リンガルは、特定機種のマイクと連携し、遠く離れた 実装石の声を文字表示で伝えてくれるのだ。 オレは、メールをチェックするふりをして、アプリのウインドウを確認する。 『こっちは万全テチご主人様! リミはOKテチか?!』 このまま返答は出来ないので、偽ラミに渡してある実装フォンの番号をプッシュして、三回コールを鳴らす。 これが、「OK」の合図だ。 『了解テチ! 巧く行く事を祈ってるテチ。早くリミの仇を取りたいテチ! モグモグ』 最後のは、金平糖を頬張っている音らしい。 オレは苦笑しながら携帯を閉じ、としあきの後を追った。 作戦が完全に終わるまでは、アプリは開きっ放しにしておこう。 偽ラミの体内に埋め込んだマイクは、問題なく作動しているようだ。 ラミ、夕べのオレの申し出を二つ返事で受けてくれて、本当に嬉しかったよ。 お前も俺の目的のために、リミ同様、いずれ盛大に散ってくれることを祈っているよ♪ □□□ 「公園、広いテチー」 「コラコラ、あまり遠くへ行ってはいけませんデスよ」 「解ったテチー♪」 公園に初めて連れてこられたルミ達は、とても楽しそうだ。 今日は晴天、暑過ぎず寒くもない。 絶好の散歩日和だ。 俺は、ひろあきに感謝しながら、開放感を味わう。 ひろあきは、注意深くルミ達を見守っている。 よく見ると、向こうの雑木林の影から、野良実装と思われる奴等がじっとこちらを見つめている。 まったく、薄汚い連中だ。 うちのルミ達の清潔感の、十分の一でも分けてやりたいくらいだ。 もっとも、近寄るのもごめんだがな。 「ご主人様、あそこにお友達が一杯居るテチ。一緒に遊んでいいテチ?」 レミが話しかけてくる。 俺は、レミを手に持ち、優しく微笑みながら首を横に振る。 『ダメだよレミ。アレは、お前達とは違う奴等なんだ。お友達どころか、お前達を傷付けようと狙っている、 悪い奴等なんだよ』 「テッ!! そ、そんなお友達がいるのテチ?」 『お友達ですらないんだよ。レミ、頼むから俺を困らせないでおくれ』 「わかりましたテチ。レミ、我慢するテチ」 物分りのいい子だ。簡単な説明で、深く理解してくれた。 「デッ! ど、どうしたデス?!」 突然、ルミが声を荒げる。 見てみると、ひろあきがラミを追いかけて走り回っている。 なるほど、大人の身体に子供の好奇心が混じっているラミには、じっとしているのが辛いのだろう。 ひろあきと鬼ごっこを楽しんでいるようだ。 ひろあきが、こちらに向かって手を振っているのが、その証拠だ、心配することはない。 俺は、ルミとレミに心配する事はないと説明して、近くのベンチへと向かった。 さあ、お昼ご飯にしようか。 外で食べるお弁当はおいしいぞ。 今日は、俺が腕によりをかけて作ったものだ。 実装フードじゃないぞ。 弁当を広げようとすると、雑木林から、何匹かの薄汚い野良実装がやって来る。 しきりに「テチューンテチューン」と鳴いて媚を入れる。 臭い! こいつら、本当に臭い!! 「く、臭いテチ!」 「これは酷いデス! とてもお弁当どころではないデス!!」 「ニンゲン、その食べ物をワタシ達に寄越すデス!」 「ワタシの方が、そいつらよりも美しくて賢くて、ペット向きデス!!」 「今なら高貴なるワタシが漏れなく飼い実装になってくれる上に、特別サービスとして、六匹の蛆ちゃんまで 付いてくるデスッ!」 「テッテレー♪」×6 俺は、連中の近くの地面を乱暴に踏みつけ、奴等を脅かすと、ルミ達を連れて別な場所へ移動した。 まったく、これだから公園は。 ひろあきが誘わなかったら、こんな所背絶対にこないんだが。 でもまあ、それでも、こいつらはまだ大人しい方なのかな、ルミ達にちょっかいは出してこなかったし。 まあ、野良と言っても実装石だからな、そこまで愚かじゃないって事だろう。 俺は、静かなベンチを見つけてそこに腰を落ち着けると、あらためて弁当を広げる。 しばらくすると、ちっちゃな仔実装達がちょこちょこと姿を現す。 さっきの野良と違って、ただじっと見つめているだけだ。 俺は、ついつい笑顔になって、ポケットの中の金平糖をばら撒いてやった。 ひろあき達は、大丈夫かな? ■■■ まさか、こんなにもあっさりうまく行くとは、思ってもみなかった。 ありがとう野良実装、お前達の協力?のおかげだよ! としあきが野良実装に注意を向けている間に、俺はいつもの麻酔薬漬け仕込み針を本物ラミの背に刺し、 眠らせる事に成功した。 バカなとしあきは、仔実装に金平糖をバラ蒔いたせいで、待機していた野良の親軍団に襲われて、慌てて 逃げ回っている。 バカな。 外の実装石と触れ合っていれば、あの仔実装達は単なる囮だとすぐわかるものなのに。 あいつ、本当に飼い実装についてしか知らないんだな。 としあきの死角になるところで、本物ラミを拉致、速やかに自分の車の中に押し込む。 そして、後部座席でグウスカ眠っている偽ラミをたたき起こし、外に出す。 ドアを閉め、鍵をかければ、本物ラミはもう自力脱出できなくなる。 オレは、偽ラミとずっと鬼ゴッコを続けていた様子を演じ、大汗を掻きながらとしあき達の許へ戻った。 いいのかな〜、こんなにスムーズに成功しちゃって。 さて、後はレミだ。 散々な目に遭ったものの、なんとか皆で弁当を楽しみ、無事帰路に着く事が出来た。 言うまでもなく、弁当が食べられない偽ラミは、俺から与えた金平糖だけで満足だと言って、その場を問題 なくすり抜けた。 賢いぞ、偽ラミ! としあきの家に向かって帰る途中、俺は、レミを偽ラミの背中におぶらせた。 無論、これも計画のうちだ。 妹の面倒見の良いラミのことだ、すっかり遊び疲れてしまったレミをおぶるのは、ごく自然な行為だ。 だが実は、偽ラミにおぶらせる直前、レミの尻には仕込み針が突き刺さっている。 即座に睡眠状態に陥ったレミは、無抵抗で偽ラミにおぶられたわけだ。 「ご主人様、レミが寝ちゃったから、先にワタチ達のおうちに置いてくるテチ」 『ああ、そうだね。じゃあ悪いけど、頼むよ』 「テチテチ、らじゃったテチ!」 さあ、最後の作戦だ。 実は、今ラミが言った言葉は、待機中の偽レミの「我慢」を解除するキーワードでもある。 としあきの家に入ってすぐの、偽ラミの声は、偽レミに届いている筈だ。 偽ラミは、微かな声で誘導する偽レミの声を頼りに、水槽のある部屋を目指す。 そして、先に偽レミが隠されていた所に本物レミを置くと、ようやく、姉妹再会を喜ぶ事になるわけだ。 携帯が鳴る。 例のアプリが『作戦成功テチ!』というラミのメッセージを伝えてくる。 よーっし。 オレは、作戦の成功を確信した。 よくやった、偽ラミと偽レミ。 お前達は、俺が育てた中でも最高の実装石だよ。 □□□ 夕食にも誘ったのだが、ひろあきは長居しすぎたからと断って、すぐに帰ってしまった。 せっかく、酒でも用意して実装談義に花を咲かせようと思ったのに。 まあ、夕食の準備が整っているというなら、仕方ないか。 俺は、ルミとラミ、そして起きてきたレミと共にひろあきを見送ると、早速、三匹を風呂場へと導いた。 外出したんだから、綺麗に洗わないとね。 まして、あんな汚らしい野良実装共と急接近したのだ。 どこからあやしげな雑菌を付けられたか、わかったものじゃない。 いつもより早い、お風呂タイム。 三匹は、とても嬉しそうにはしゃいでいる。 「オネエチャン、まんまと成功したテチ」 「今夜のおかずはこのぶくぶく太ったデブ実装テチ。でも、まだ我慢テチ。あのバカニンゲンとこのデブが 完全に寝静まってから、密かに静かに実行に移るテチ♪」 ラミとレミが、楽しそうに会話している。 きっと、初めての公園の喜びを分かち合っているのだろう。 俺は、ルミを顔を見合わせ、一緒に笑った。 ■■■ まさか、駐車違反の罰金というペナルティが来るとは、思ってもみなかった…。 これじゃあ、速やかに作戦成功しても、全然嬉しくないよママン…。 それでも、なんとかくじけずに帰宅すると、オレは、帰りに回収した本物レミと本物ラミ、そして今晩のおかず のカップヌードル麻婆・ぴりっと中華みそ味と熱血飲料を持って、家に入る。 え、今夜の実装石達の食事はって? ふっふっふー。 「り、リミ?! リミテチ!!」 「リミオネエチャンが生きてるテチ!!」 「ラミお姉ちゃん…れ、レミ?」 「リミ〜っ♪」 ああ、感動の再会。 ラミとレミは、ご主人様に殺された筈のリミと出会い、もうありえない筈の抱擁に感涙している。 シラけているのは、それを呆然と見つめる、偽ルミと偽ロミだ。 「ご主人様、あの子達は何者デス?」 「レフ、なんだか、わけがわからなくなってきたレフ」 『何を言うんだお前達。あれはラミとレミ、そしてリミだろ。ルミ、お前が自分で生んで育てたんだぞ、 忘れたら可哀想じゃないか』 「デデッ?! リ、リミはともかく…なんか、ラミもレミも、体格や雰囲気が全然違うような…」 「ご主人様ー、あいつら、本当は今夜のご飯レフ? ロミにはわかるレフ」 『ロミ、ちょっと来なさい。お前、なんて事を言うんだ』 「レヒャッ?!」 ひろあきツインスティック(ただの菜箸)でつままれたロミは、小さなトレイに乗せられて、別室へ運ばれて いく。 残された偽ルミは、相変わらず、呆然と三姉妹の様子を眺めているしかなかった。 「レフレフ、ご主人様、この部屋はなんレフ? 初めて見たレフ」 『そりゃそうだ。ここは、いつもはお前達の食事を準備するのに使っている部屋だからさ』 「レフ? なんでそんな所に来るレフ? ロミに味見させてくれるレフか?」 『いや、ここには、ルミ達の食事になる実装石しか連れてこない事にしているんだよ』 「レ?」 『運が悪かったなロミ。リミが本物のお前を殺していなかったら、お前にもやってもらう事が出来たのに』 「レ…? 言ってる意味がわからないレフ。ご主人様、なんかとっても怖い顔してるレフ、コワイレフ!!」 『お前は、もう何の役にも立たなくなったんだよ。さよならだ、ロミ♪』 「レ?! レピャ……!!!!」 その日の、偽ルミ達に与えられた夕食は、蛆実装を材料にしたミンチにつなぎを加えて焼いたもの。 これに調味料とソースを加え、ラミ達姉妹向けに調整して与える。 量が少な過ぎて配分が回らないのと、生きている実装石以外食べられないため、偽ルミだけはおあずけ になってしまうが、まあ仕方ないだろう。 久しぶりに食べる料理らしい料理に感激するリミ、そして、いつもと違う環境に怯えながら、少しずつ肉を ついばむラミとレミ。 いつも優しく接してくれる筈のニンゲンが、突然、自分達をこんな所に連れて来た真意が読めず、困惑 しているようだ。 オレは、さっきの食事が充分消化されただろう頃合を見計らって、ラミ達に話しかけた。 『よお、ラミ、レミ、リミ。今日からお前等は、ここで暮らすんだよ』 「ニンゲンさん! おうちに帰してテチ!」 「どうしてこんな所に連れてくるテチ?! ママとご主人様が心配しているテチ」 「…ムダテチ、お姉ちゃん、レミ…」 『心配ないよ、としあきの家には、ちゃんと君たちが別に居るから。——さあ、紹介しよう。そこに寝ている のが君らのママ、ルミだよ』 「——デス?」 「このオバチャンが、ママ?!」 「違いますテチ! ワタチのママはもっと——」 「ママ…」 反発する姉妹の傍を離れ、リミだけが、よたよたと偽ルミの許へ寄って行く。 それを見て、ラミとレミは、目を剥いて驚いている。 「テチ?! リ、リミ?!」 「お姉ちゃん、いったいどうしたテチ?!」 『だから、その実装石がお前等のママなの。——あ、そういえばな』 オレは、複雑な対人?関係が構築されつつある水槽内に、もう一つ、強烈な爆弾を叩き落した。 最後の仕上げに、どうしても必要なものなのだ。 『お前等が食べた肉な、アレは、さっきまでそこで生きてノタノタしてた蛆実装・ロミの肉なんだ。 ——おいルミ、この三匹、お前の子供の肉食っちまったぞ、どうするよ?』 「デ……デシャアッ?!??!!」 「テチ?! さ、さっきのおいしいお肉?!」 「さっきの蛆チャン?! ワタチ達が、食べた?!」 「ロミちゃん…?!」 「デシャアァッッッッ!!!! お前達ぃっ!!! なんてことを、なんて事をしてしまったデスカアァァッッッッ!!!!」 偽ルミ、怒り狂う。 共食いはするが、家族の肉を食う事は最大の屈辱だと刷り込まれているもんだから、その怒り様は すさまじいものがある。 おーおー、すごい鬼ゴッコ。 なんかルミの奴、ホントはオレに怒るべきなのに、完全に目標を誤っているなあ。 ま、いーか、面白いから。 十数分ほどかけっこを楽しませた後、俺は、昨日からずっと放置しておいた瀕死の成体実装を、 水槽内に放り込んだ。 さあ偽ルミ、こいつらにも、じっくりと共食いのノウハウを仕込んでやってくれよ。 (続く) ----------------------------------------------------------------------------- 虐待スクは初挑戦なんで、色々至らないとは思いますが… 私は、人格の異常性や鬼気迫る状況描写ではなく、むしろ「観察系の虐待派」を描く のが好きなので、どうしてもこういうスタイルになってしまいます。 猟奇性とか虐殺側の異常心理性の強調とか、そういうのを求める人には向かない かもしれません。 他の方が書かれている不条理虐待系は、読む分には大好きですけど、それは自分には 書けないなと諦めてかかってます、ハイ。 あと、半分くらい馬鹿スクのつもりなんで、主人公達はわざと、どこか大事な物がすっぽりと 抜け落ちている様に書いています。 結局は言い訳ですけど、とりあえずよろしくお願いします。
