命の洗濯 小学生の娘の誕生日が近い。 プレゼントは何が欲しいかと尋ねたら、仔実装が欲しいと言ってきた。 正直言って私は実装石について詳しくはないけれど、ペットを飼うのは娘のためにも良いだろうと思い、 誕生日の前日に娘と一緒に隣町の大型実装ショップへ足を運んだ。 「この仔が良い!」 娘はあれこれ悩んでいたようだったが、やがて一匹の仔実装を指差して、私を振り返りながらそう言う。 私は店員に伝えて仔実装をレジに運んでもらい、ついでにリボンやピンクの実装服も購入した。 どうせなら可愛い方が良いし、仔実装は500円ととても安かったので、もう少し奮発してもいいと思ったからだ。 * * * 『ゴシュインサマ!ボールをなげてほしいテチ!』 「ミドリ、行くよ~それっ!」 娘はミドリと名付けた仔実装を可愛がり、家にいる間はよく遊んでやっていた。 ミドリも娘によく懐いていて、ウワサに聞く糞蟲と呼ばれる様な個体ではなく、大人しい性格をしているようだ。 でも、5日ほど経つと実装臭が気になるようになってきた。 トイレの掃除は毎日しているし風呂には1日おきくらいで入れていたけど、どうやら服の方が臭っているみたいだった。 ……洗濯は週一くらいでいいかと思っていたけど甘かったかしら? 「仕方ない、洗濯しよ……ミドリと一緒に買ったこれの出番ね」 娘が学校に行っている間に済ませようと、私はペットボトルに入った水を洗面器に注いだ。 それは実装ショップの隅に置かれていた大分の水。 【実装由来の汚れをきれいさっぱり洗い流す!】というフレーズが目を引いた。 なお、注意書きには【実装石の体や、実装石が生まれた時から着ている実装服に付着すると溶けてしまいます!】の文字。 もちろんミドリの実装服は市販の人工物なので大分の水でも溶けないはずだ。 これでミドリの服を洗えば、身体から出た垢やパンツの実装臭だけがきれいさっぱり落ちる……と思う。 えっ、洗濯が楽だから市販の服を着せたんだろうって? ……うん、まあ、否定はしないわ……仔実装の服を頻繁に手洗いするなんて面倒だしね。 「さぁ、サクッと洗っちゃいましょ。ミドリ~服を洗濯するから脱いでねぇ?」 『ママさんテチ、オフクせんたくするテチ?ちょっとはずかちいテチけど、キレイキレイになるためにぬぐテチ!』 ミドリから脱がせた実装服を大分の水につけて10秒ほど経つと、実装服からほのかに漂っていた実装臭が消えた気がする。 ついでに普通の洗剤も使って、大分の水では落ちない、ミドリが食べこぼした際に付いた染みもこすっておく。 ……まあ、結局は実装由来以外の汚れも付くから、手洗いしないとよね。 とにもかくにも洗濯を終えて、実装服(とリボン)は庭に干された。 * * * さて、すっかり乾いた実装服をミドリに渡す。 それまでタオルに包まっていたミドリは、待ってましたとばかりに着始めた。 『やっとオフクがもどってきたテチ。すごいテチ、キレイになってるテチ!これでワタチのカワイサも……かわいひゃ……』 おや、ミドリの様子がおかしい…? ロレツが回っておらず、小さな身体をガクガク震わせて視線があっちこっちに向いている。 『ワタチのカワ……かわわわわわいしゃびべえびゃびゃ……マ、ママァ、からだがヘンてちゅちちびゃべぇ……』 「ミドリ!?」 『テヂヂュァァ…ママ…タスケテヂィィィ……』 私が抱き上げようとする間もなく、ミドリは小さな悲鳴を残してあっという間に溶けてしまった。 あとにはきれいになってすっかり乾いたピンクの実装服とリボンだけが残されていた。 「えっ、これってやっぱり大分の水で洗ったのが拙かったの……?でもしっかり乾かしたはずなのに……」 冒頭でも書いたが、私は実装石について詳しくない。 大分の水が主に実装石の駆除や、実装石が汚した場所の掃除用に使われると知ったのは、大分の水について検索した後のことだった。 散布後しばらくは忌避剤の役目も果たすらしく、成分が完全に揮発するまでは実装石を溶かす効果が残るらしい……。 うーん、やってしまった……娘に何て言おう……。 その後、帰宅した娘に事情を伝えて謝罪したが「ふーん、ちょっと飽きてきてたしちょうどいいや」などと言っていた。 強がっているのではなく、全く落ち込む様子もなく本気で言っていると感じた私は、二度とペットは買ってやらないと心に決めた。 なお、娘がプレゼントを駄目にした償いを求めてきたので、家族で寿司を食べに行った。 ……うん、服の洗濯だのトイレ掃除だのの手間が掛からなくて、ペットを買い与えるより遥かにいいね。 終
