性悪実翠石の妃翠ちゃん ⑬ 雪解け ----------------------------------------------------------------------- 数日前に降り積もったはずの雪が跡形も無く消えた、小春日和のとある休日。 実翠石の妃翠とその主人は、縁側に並んで腰掛けて、二人きりの花見と洒落込んでいた。 普段はさして酒を飲まない主人も陽気に当てられたのか、一本、二本と缶ビールを空け、いい具合に酔っている。 隣に寄り添う妃翠も笑みを絶やさず、時折ツマミを主人に差し出し、「はい、あーんです♥」などとやっていた。 ツマミと共に幸せを噛み締める主人だったが、ふと視界に入り込んで来たものに、 少しばかり眉間に皺が寄る。 風雨に晒された犬小屋と、その中から怒りで顔を赤く染めた顔を覗かせる、 庭飼いしている実装石のミドリとその仔。 主人としてはミドリを見るたびに、不愉快な顔が脳裏にちらつき心穏やかではいられなくなる。 なお、不愉快な顔の主は同棲していた交際相手だった。 今となっては“元”が付くが。 相談もなくミドリを買ってきて、そのうち飽きて世話をしなくなり、 別れ際にはミドリを捨て置いていった交際相手。 隣で微笑む妃翠を見るたびに、別れて正解だったと思えてくるが、 別れた直後はそれなりにショックでもあった。 妃翠と出会ったのはそんな時だ。 傷心の主人を、妃翠は心身双方の面で大いに癒してくれた。 主人も献身的な妃翠を寵愛し、二人の関係はまさに蜜月といった状態だった。 だが、そんな二人の様子を快く思わない者も居た。 ミドリである。 ミドリとしては、いきなり忌々しいデキソコナイが家に上がり込んで来た上に、 主人から溺愛されて調子に乗っているようにしか見えなかったからだ。 主人が妃翠とばかり時間を過ごし、全くと言っていいほどミドリに時間を使わなくなったのも影響しているが。 ミドリは妃翠から主人の関心を取り戻そうと、事あるごとに主人に絡み、 順調にヘイトを稼いでいった。 ミドリが見せたがるお歌や踊りは主人にとっては不愉快なだけだったし、 遊びや散歩をせがまれるのもただ鬱陶しいだけだった。 そもそも仕方なく惰性で飼い続けているだけのミドリと、自らの意思で迎え入れた妃翠とでは扱いに差が生じるのも無理はないのだが、 ミドリにそんな事が理解できるはずもない。 こうしてミドリはますます主人の愛情を失い、遂には妃翠に怒り狂って家中に糞をぶち撒けた挙句、 庭飼いに落とされる事となったという訳である。 主人の顔に影が差すのを見て取った妃翠は、その視線がミドリに注がれている事に気付いた。 「ご主人さま・・・」 視線を塞ぐように顔を近付ける。 あんな奴のために主人が思い悩む必要なんてない。 そう口にする代わりに、主人に口付けする。 「ぁ、んっ♥」 軽い口付けが次第にエスカレートしてゆき、遂には口中と舌を主人の舌でたっぷりと愛撫される。 下腹部が熱くうずき、湿り気を帯びるのを感じる。 飲み下した主人の唾液が、そのまま下の口を潤ませるかのような錯覚に、妃翠は陶然となった。 「ぁっ、ご主人さま・・・♥続きは、ベッドの上で、してほしい、です♥」 内股をこすり合わせる妃翠を、主人は優しく抱き上げて寝室へと向かう。 互いの事しか考えられなくなった二人は、そのまま日が暮れるまで愛し合い、求め合い続けた。 『デッ、グッ、ギギギッッ・・・!』 抱き合いながら家の奥へと消えて行く妃翠と主人を見て、ミドリは血涙を流し、屈辱と怒りに震えて膝を折った。 何故そんなデキソコナイばかり愛してワタシを見てもくれないのか。 ワタシのほうがずっと一緒にいたのはずなのに。 あんな媚び穴人形よりワタシのほうが優れているのに。 仔も満足に産めないオナホ人形と違ってカワイイ仔だって産んだのに。 どうして、どうして、どうして・・・! そう思うたびに、胸の偽石がズキズキと痛む。 『マ、ママ?だいじょうぶテチ?』 仔が心配して寄り添うが、本当に欲しいのは主人の温もりだ。 せめて仔実装の頃のように、温かな手で撫でて欲しい。 ミドリの願いとは裏腹に、主人の手は妃翠の身体を愛撫して離そうとはしなかったけれど。
