性悪実翠石の妃翠ちゃん ⑧ 春を前にして ----------------------------------------------------------------------- 暖かい日が続き、もう春が来たのかと思った矢先の、急に冷え込んだ今日この頃。 庭飼いされている実装石のミドリは、仔と共に寒さに震えていた。 犬小屋の中に籠もり、古びたタオルを被って仔と抱き合うが、 身を刺すような寒さに対抗するには熱量が全く足りていなかった。 そんな風に過ごしていると、主人が実翠石の妃翠を伴ってミドリの元に餌を運んで来る。 妃翠が暖かそうなコートに身を包み主人に身体を寄せている様を見て、ミドリは激昂しかけるが、 ここで怒りに任せて行動しても主人の不興を買うだけだと何とか思い留まる。 代わりに、寒さで青ざめた仔を掲げて主人に懇願した。 『ご主人サマ、お願いデス!このままじゃ寒くて死んじゃうデス!お家の中に入れて下さいデスゥ!』 『せめてこの仔だけでもお家に入れてデスゥ!本当に、本当に死んじゃうデスゥ!』 『ワタシの大事な仔なんデスゥ!とってもいい仔なんデスゥ!』 涙ながらのミドリの懇願だったが、主人は一顧だにしなかった。 「駄目だ。家の中を糞まみれにしたような奴は入れられない」 『そ、それならこの仔だけでも……!』 「飼いですらない実装石を家に入れてやる義理はない」 取り付く島もない主人の言葉にミドリは力なく俯く。 さすがに哀れに思ったのか、主人は嘆息しながら言った。 「妃翠。使い古しの布がいくらかあったはずだから、後でミドリに渡してあげなさい」 「はいです、ご主人さま」 主人とミドリのやり取りを努めて無表情で見つめていた妃翠が、主人の言葉に笑顔で返事する。 『あ、ありがとうデス!ありがとうデス!』 ペコペコ頭を下げるミドリに応える事なく、主人は妃翠を伴って家の中へと戻って行った。 しばらくして、妃翠が一枚の大きめな布を持ってやって来た。 「ほら、ご主人さまに感謝して使うです」 ミドリは妃翠が差し出した布をひったくるように掴むと、礼も言わずに犬小屋の中へと引っ込んで行く。 妃翠はそんなミドリの様子に小さく皮肉な笑みを浮かべるだけだった。 その日の夜。 『前よりちょっとはマシになったデス……』 『ママ、あったかいテチ……』 主人がくれた(決してあの肉穴人形から貰った訳では無い)布に包まれながら、 ミドリ親仔は抱き合って暖を取っていた。 充分とは言えなかったが、何とか耐えられるだけの最低限の暖かさを確保出来た事に、ミドリは小さな満足を覚える。 (それにしても、この布、何だか変な匂いというか、妙な感じがするデス……) 奇妙な違和感を感じつつも、ミドリ親仔はそのまま布に包まって夜を過ごした。 「んっ……♥」 情事の後の心地良い気怠さに身を委ねながら、妃翠は主人の身体の温かさを楽しんでいた。 既に寝息を立てている主人にくっつきつつ、布団に包まってその温もりを感じていると、 主人への愛おしさと共に自然と笑みがこみ上げてくる。 新品のシーツの肌触りも心地良い。 ふと、妃翠の笑みに暗い影が差す。 ミドリ達はあのシーツで今も暖を取っているのだろうか? ミドリ達にくれてやったシーツは、度重なる主人との情事でいい加減くたびれ切ったものだった。 主人と妃翠の様々な体液で汚れ、生地のへたったシーツをありがたがって使っていると思うと、憐れみすら覚える。 本当のところ、主人の命令でなければ、使い古しの雑巾ですらくれてやるのも嫌だったが、 幸せのお裾分けと思えばまあいいだろうと思えた。 眠気に包まれつつ、妃翠は主人の身体に身を寄せる。 「ご主人さま、大好き、です……♥」
