ピピピ、と目覚まし時計が鳴る。 としあきは大きくあくびをして、清潔なシーツから這い出した。 カーテンの隙間から差し込む朝日は眩しく、絶好の散歩日和だ。 「……あ、そうだ。テテチ」 昨晩の大掃除を思い出し、彼は寝癖のついた頭でリビングの水槽を覗き込んだ。 水槽の中には、真っ赤な肉塊が転がっていた。 昨晩、としあきがハイターで白くふやけた皮を丁寧にカッターで剥ぎ取った結果だ。 実装石の再生力は凄まじい。一晩経って蘇生したテテチは、全身の皮膚を失い、むき出しの筋肉を震わせながら、ヌチャヌチャと血と体液の混じった音を立てて身悶えていた。 「おはよう、テテチ。すっきりした顔してるね」 「ェエ……チ……ギ……ィ……」 テテチは絶叫しようとしたが、喉の粘膜までハイターで焼かれているため、掠れた音しか出ない。 瞬きをするための瞼も剥がされている。乾燥した眼球が、恐怖に染まってギョロギョロととしあきを追う。 「あーあ、まだちょっと血が出てる。汚いなぁ。せっかく洗ってあげたのに」 としあきは眉をひそめると、キッチンの棚から使いかけの塩を取り出してきた。 傷口には塩。彼にとって、それはごく自然な連想だった。 「お母さんが言ってたよ。殺菌すれば、傷は早く治るって。ほら、我慢してね」 サラサラと、真っ赤な肉の山に白い結晶が降り注ぐ。 「ィィィィイ!!!!!????」 音にならない叫び。テテチの身体が、まるで揚げ物のように激しくのたうち回る。 浸透圧の暴力が、むき出しの神経を容赦なく焼き、肉から無理やり水分を絞り出す。 水槽の底には、瞬く間にドロドロの液体が溜まっていく。 「あはは、すごい元気。やっぱり昨日ちゃんと洗って正解だったね」 としあきは、苦悶の表情で痙攣するテテチの姿を、スマートフォンで数枚撮影した。SNSに上げるわけではない。ただの、日常の記録だ。 「さて、僕は朝ごはんにしようかな」 テテチが自分の組織液に沈みながら、水槽の壁をガリガリと掻きむしる音をBGMに、としあきは冷蔵庫からシュークリームを取り出した。 甘いカスタードの香りが鼻をくすぐる。 「うん、おいしい。……あ、テテチ。お前も食べたい? 」 としあきは無邪気に笑いながら、指でクリームを掬うとテテチの口へと運んだ。 瞼のない眼で虚空を見つめながらじゅびじゅびとクリームを啜るテテチ。 「なんだよ。そんなに泣くほど美味しかったの?」 彼にとって、今日はいつも通りの普通の一日だった。
