タイトル:【馬】 トキメキアヌス帝国
ファイル:続編とかは特に考えてない.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:140 レス数:3
初投稿日時:2026/05/21-16:27:26修正日時:2026/05/21-16:27:26
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「ほら、お勉強だぞお勉強!これからお前はさぁ?センチュリオンになんだよ」

虐待派の男は、安売りされていた中古のペット用実装石を眺めながらニヤけていた

「デッ……デスゥ」

飼い実装の世界は過酷だ。
どんなに出来が良かろうとふわふわの仔の頃を過ぎれば容赦のない値引きに晒され、処分がなされる。
成長阻害剤を使っている温情あるショップ等の例外はあるにはあるのだが。
値引きの理由は可愛くなくなるからでもあれば成体になると体力がつく故の糞蟲化リスク等もある。

この安売り個体もまた、ただ「成体になった」というだけで捨て値にされた事で実装石どれもが恐れる『虐待派』の手に渡ってしまった。

そんな惨めで哀れな運命のずんぐりした体型の小人は、椅子に縛り付けられている。
彼の家に染みつく「死の香り」を嗅ぎつけて震えながら、この先の自分の運命に怯えていた。

対照的に、虐待派の男はニヤニヤと笑った。

「お前はな?将軍になるんだよ」
「デェ……」

縛り付けられた実装石が強制的に見つめさせられているのはモニター。
スピーカーには双方向翻訳機である実装リンガルが括りつけられており、映像の音声をくまなくリアルタイムで翻訳する。
AIの発展によって、リアルタイム翻訳技術は比類なく上昇していた。

……
……

「SPQRってなんデスゥ」

来る日も来る日も、朝から晩までローマ帝国を称揚する歴史教育系の動画が縛りつけた飼い実装(仮)の前へ垂れ流され続ける。
『ローマ帝国の栄光丸わかり!?』『皇帝カエサル伝』『ローマ軍団兵の日常』『グラディエーター』……果ては『テルマエ・ロマエ』まで。

「デアアアッ、デッ、デァッ……」
朝から晩までローマ、寝食時にもローマ、とにかくローマ、ノイローゼになるくらいローマ。
実装石の理解力を超えた場面は多々あるが、それでもわかりやすくまとめられた動画を死ぬほどマラソンさせられて頭の中ローマ、
排泄の時にさえ見せつけられるローマを讃える映像によって飼い実装(仮)の実装脳は着実に侵食されていく。

さて、飼い実装(仮)は元々「お手伝いさん実装というコンセプトで仕込まれた個体だった。
他実装に負けないように役に立つ実装を!というスローガンによって過酷な選抜の末になった、選ばれし者たちだった、

だったが、

あまりにもマイナスなイメージのついていた実装石という存在にそのコンセプトが土台からの破綻を見ていた。

売れ残った彼女は最後の一匹だった。
他の姉妹、いや、姉たちも皆順当にタイムリミットを越えて売れ残って処分されていった。
彼女は末の妹だったのだ。

そして、末だけあり培われた選抜ノウハウから飛び抜けて物覚えが良い個体でもあった。
なお、彼女を買った虐待派の男はそんな事も知らない。
ただ売れ残っていた奴としてしか認識していない。

だからこそ、この物語は大きく狂い始める。

……
……

2週間後。

「そろそろだな?いいか。『アナルガバルス将軍』。俺は『トキメキアヌス帝』な?この汚い公園をローマ帝国に変えるぞ」

この試みの出発点は極めてしょうもない。

実装石の習性として人間相手にやたらと自己アピールダンスやら歌を披露したがり、最悪な個体だとその最後に総排泄孔の穴を見せる、というものがある。
それが主に虐待派間で「トキメキアヌス」と俗称されている事から、
この虐待派の男は『音の響きがローマとかギリシャの皇帝っぽい』と思い、今回のあれそれへ繋がっていったのだ。

虐待派の男は100均とホームセンターで買った材料で作った安っぽいローマ風カブトとヨロイを『将軍』の頭に被せた。
彼は模型趣味らしく、そこそこ丈夫でしっかりと作り込まれているのが窺える。

一方、飼い実装(仮)改めて将軍は下賜された装備をコツコツと叩きながら、小さな声で言った。

「……グロリア・ジッソーエ……デス?」
お脳が蝕まれた将軍はイった眼で飼い主……いや、皇帝を見上げて呟く
「そうだよ?行くぞ将軍。俺らで帝国築くんだよ」

虐待派の男改め皇帝は将軍を公園の奥に放す。

「デスゥ?」
「デギョギョ……」
「デップププ」

公園内、周囲にはすでに治安が悪めな糞蟲臭い何十匹もの実装石がうろついており、暴力の臭いが立ち込めている。まさに蛮族の地だ。

「俺はちょっと公務についてっからお前だけでしばらく頑張んだぞ皇帝」
(まあ普通にリンチされて死ぬだろ。動画で洗脳したネタの影響で死ぬ間際に「ローマァ……!」とか叫ぶの想像して笑おう)

皇帝はローマン実装を作るまでが楽しみでそのあとなど何も考えていなかった。
実質的に将軍を捨て、皇帝は家へと帰っていく。

……
……

それから三週間後。
皇帝は久々にその公園に来た。
暇つぶしだ。まだあるなら将軍のカブトやヨロイの残骸でも見つけられたら写真に撮ろうと思ったのだ。
しかし。

「…………は?」

公園の入り口に、粗末ながらも積み上げられた石とダンボールで作られた門があった。
門の上にはマジックで書かれた文字。

「SPQR」

公園の中に入ると、中心や奥に近づくにつれて妙な実装石ばかりが目につく。
トーガ風に実装服を着こなした実装石の家族、あるいは頭には木の葉やゴミ袋で作った即席のカブトを持つ者が巡回しているし、そういった者は小枝で作った短槍を持っている。

そして公園の奥の丘になっている場所、そこにはダンボールと牛乳パックを重ねた城らしき何かがあり、広場らしく誂えられたような場所には死んでいると思ったやつが、将軍がいるのが見えた。

装備品は残骸にされるどころか磨かれて光り、首には赤い布(捨てられたマフラーでも切って作ったものか)を巻いている。

その周りを十数匹の実装石が囲って興奮している。

リンガルを起動してチェックすれば、
「アナルガバルス将軍デスゥ!」「将軍デース!」と黄色い声で奴は持ち上げられている。

「なにここ」
皇帝が呆然と立ち尽くしていると、将軍が遠目こちらに気づいたらしい。

「…………おおっデスゥ!」

将軍は玉座から飛び降り、短い足でタッタッタと駆け寄ってきた。

そして——
敬礼(動画で覚えていたらしい)をした。

「トキメキアヌス帝が、ごキカンなされたデスゥゥゥ!」

その大声に周囲の実装石たちが一斉に大合唱する。

「あれがトキメキアヌス帝デスゥ!!」
「エイコーデス!エイコーデス!」

皇帝は頭を抱えた。

「帝国じゃん……」
「帝国デスッ!」

食い気味の返答。
将軍の自信に溢れた姿には元・安物成体実装石の面影はない。
誇らしげに胸を張っている。傷が見えるヨロイには、数多の修羅場が伺える。

「ワタシはまず三つのカゾクをキュウシュウし、バンゾクのテイコーを5度ほど退けましたデス、今は帝都をセイビ中デス!スイドウのセッチをヨテイしておりますデス!皇帝のごシジあらばより帝国はハッテンをめざせるデス!」
ピスピスと鼻息荒く帝国を整備すると語る将軍。

やけに賢い。

皇帝はそこで初めて理解した。
自分が買ってきたのは、ただの安売りされた成体じゃなかった。
そういえば物覚えがいいとかどうとか最初に自己紹介で宣っていた記憶がある。

つまりこうだ、買ってきたのは、
才能がある何かだったのだ。
学習能力が異常なほど高く、忠誠心までローマンな形に作り変えられてしまっている。

将軍の案内する宮殿には捨てられていた子供用の椅子か何かが引っ張り込まれてあり、周りには菓子の包み紙を加工して作ったか装飾が見受けられる。

どうやら自分もここに座れということらしい。
皇帝は震える声で呟いた。

「あの、俺は冗談のつもりで」

将軍は皇帝の発言を上書きするが如くまたも食い気味に笑顔で言った。
「皇帝、グンジにおいてはコーエンのソトガワのセーフクを進めるデス?バンゾクどもに帝国のテッツイを与えるデスゥ!?」

「あーうんいいんじゃねえの」
リンガル越しのヤバいノリに圧倒される。
虐待派とはいえ実装石に拘う人種ゆえに、彼もまた実装の話へ耳を傾けてしまう癖がある。
あるからこそ、異様な覇気に気圧されて何も言い出せない。

見れば将軍のみならず軍団兵らしき実装石たちもまた目がイっている。染められたらしい。

皇帝は空を見上げた。
自分の人生で最大のミスをした気がした。
しかもそれは、もう取り返しがつかない方向に暴走し始めていそうだった。

遠くで、水道(切ったペットボトルを繋げただけ)の工事が進んでいた。

「……グロリア・ジッソーエ……」
困惑の中で皇帝はそう呟く。

「……!?グロリア!ジッソーエ!デス!」
「「「グロリア!ジッソーエ!デス!」」」

……
……


公園の空気は明らかに変わっていた。
朝のジョギングをするおばちゃんが、以前なら睨みつけていた実装石の群れを見て微笑む。

「最近、ほんと綺麗になったわよね。あの子たち、ウンチもおトイレを作ってそこでするようになったし、夜中に大声出すのも減ったわ」
知り合いらしき近所のサラリーマンもベンチでコーヒーを飲みながら頷く。

「治安良くなったよなぁ、前にあった糞まみれの縄張り争いもなくなったしなんか……変な国みたいになってるけどまあ結果オーライかね」

実装石たちは今や整然と列をなし、朝礼では「グロリア・ジッソーエデスゥ」と小さく唱和し、ゴミを拾い、縄張りの境界を石で綺麗に区切っていた。
将軍の病的で理想化されたローマ像についての熱心な演説は理想や楽園思想に弱い実装石の思考へ上手く食い込み、
特に将軍がローマ史を学ぶ過程で得た食物の獲得能力から実装たちにここまでの膾炙を得られたらしい。

「やめるデスゥ!オマエラおかしいデスゥ!ローマってなんデスゥ!?」

「グロリア・ジッソーエ!」
「グロリア・ジッソーエ!」

「デギャアアアアンッ!?」
「マ、ママァッ!!」

対外的には被害届が出ていた糞投実装や夜間奇声も激減。
将軍の価値観から市民に相応しくないとされた者達は「粛清」に逢い、皆食肉に卸されたのだ。
地域住民からは「なんか知らんが実装石が文明化した」と好評だった。

……
……

役所・環境管理課。
「課長!これを見てください!」
若手職員の田中は震える手でタブレットを差し出した。
画面には、例の玉座に座る虐待派の男(トキメキアヌス帝)と、その前に整列する実装センチュリオンの映像が映っていた。
中央に立つローマカブトの実装石が、元気よく報告している。
「将軍アナルガバルスより報告デス!本日も帝国のチアンはリョウコウデス!トキメキアヌス帝のイコウにより、クソムシはシュクセイして参ったデスゥ!」

田中は興奮気味に続けた。

「この『トキメキアヌス帝』という名称、調べてみたんですけど……どうやら虐待派の間で『トキメキアヌス』って俗称があるらしくて、それは所謂実装ダンスの最後に総排泄孔を晒すフィニッシュムーブのことで——」

課長の表情が凍りついた。
「……なに!?アヌス!?ちょっとセクハラ!?」

「ち、違います!アヌスは『尻の穴』って意味の変形ではあるんですが、実装石の習性で——」
「いや田中君、君今『アヌス』って言ったよね!?しかも二回も!?そんな下品な単語を!」
「ですから説明させてください!彼らが『トキメキアヌス帝』と崇めているのはこの男で、しかも将軍は『アナルガバルス』というエラガバルスの——」
「アナル?!もうやめて!!人事に言いますからね!!!」

田中は必死に弁明した。
三十分後、彼は「セクハラ防止研修受講」の対象者リストに載せられた。
人生の大きな誤算だった。

……
……

一方、公園の玉座。

「皇帝!キはジュクしたデスゥ!」
アナルガバルス将軍はローマカブトを輝かせ、短い腕を振り上げた。
「ちかくにナガれる川さん、アレをわたれば、さらなるエイコーが待っていますデスゥ!」
トキメキアヌス帝は頭痛を抑えながら聞いた。

「……その川の向こう側に何があるんだ?」
「カラッポで誰も住んでないニンゲンサンのおウチデスゥ!そこにもいっぱい実装石がいて、荒れてるそうデス、ブンメー化し帝国のハントに加えるべきデスゥ!」
相変わらず将軍のイっちゃってる目はギラギラと輝いている。

「あー……あの廃アパートね……」

センチュリオン実装石たちはすでに準備を始めていた。
ペットボトルを削って作った板バネによる即席の投石器、割り箸で作った槍、捨てタオルで作った軍旗。
段ボールで作られたタワーシールド。

皇帝はため息をついた。
(いなくなると騒いで追ってきて家に駆けつけやがるから一日に一時間はここに居てやんなきゃいかん事自体もう既におかしいんだよな)

将軍は輝く瞳で皇帝見上げた。見上げられると、虐殺してこの場を台無しにして皇帝を降りるという選択肢をとるのが少々もったいなく感じる。
「ごケツダンを!ワレラはいつでも渡るジュンビができておりますデス」
周囲の実装石たちが一斉に盛り上げる。
「ケツダンデス!」「川さん渡るデス!!」と合唱を始めた。

皇帝はため息をつきながら静かに呟いた。実際、この帝国がどうなっていくのかが気になっている。

「……行ったらいいんじゃねえの」

……
……

その夜、環境管理課の田中は匿名でネットに書き込んでいた。

『近所の公園が実装石のローマ帝国になりました。しかも皇帝は人間です。助けてください。』

投稿は、意外とバズり始めた。

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1 Re: Name:匿名石 2026/05/21-16:40:53 No:00009974[申告]
頭おかしい(誉め言葉
笑い声を抑えるのが大変だった
質の良い個体が率いればこういうこともあり得るのが実装石なんだなあ
2 Re: Name:匿名石 2026/05/21-18:50:37 No:00009975[申告]
シーザーリージョンかな
3 Re: Name:匿名石 2026/05/23-18:49:25 No:00009978[申告]
ガバルス将軍は、飼い実装にしておくには却って勿体ないほどの個体であるな。生まれた場所が違えば、例えば山実装の群れに生まれていれば歴代屈指の村長になっていたことであろう。しかし、公園をここまで征服し開発できたのは、飼い実装になる者として生まれ落ち、飼い実装としての意識を高く持っていたからこそであろうか。
これほどの忠誠を示されては、トキメキ帝こと俺君は公園のご近所さんたちや町内のためにも最後まで責任を持たなければならないであろうな。俺君のさしあたっての公務は人間同士の外交折衝か。帝国の行く末がまた別のお話だとしても、この秩序ある状態が長く続くことを祈らずにはいられない。乙です、素晴らしい!グロリア・ジッソーエ、デス!
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