飼い実装テヴェールの穏やかな日々 その15 実装紅 ----------------------------------------------------------------------- 飼い仔実装のテヴェールが、セントバーナードのバルクホルンと共に飼い主一家に連れられて、 自然公園に遊びに来ていた時の事だった。 「わあ、かわいい〜!」 木陰にレジャーシートを敷いて昼食を摂っているときだった。 実装紅が一匹、あたりをキョロキョ口と見まわしながら歩いているのを見つけて、飼い主の秋穂が声を上げる。 迷子だろうか? 瀟洒なリボンをツインテールに巻いて着飾っていることから、飼い実装紅なのは間違いなさそうだ。 「こんなところでどうしたの?」 秋穂が駆け寄ってリンガル片手に話しかけると、実装紅はどこかホッとした様子で答える。 『・・・ご主人様とはぐれてしまったのダワ』 実装紅の言葉に、少女の両親は顔を見合わせる。 動物好きとしては、さすがにこのまま放置は出来かねた。 きっと実装紅の飼い主も心配している事だろう、そう思った両親は、 昼食を済ませたら、 公園の管理事務所にこの実装紅を連れてゆくことにした。 「あなた、お名前は?」 『カーマインというのダワ。ご主人様が付けてくれた大切なお名前なのダワ』 秋穂の問いに実装紅は素直に応える。 かつては気位の高さや気難しさから、飼うのに少々難点があると言われていたが、 ブリーダ一達の努力の賜物だろうか、ここ最近はずいぶんと性格が丸くなったらしい。 『テェェェ、なんだかちょっと怖いかもテチ・・・』 一方のテヴェールは、初めて見る実装紅におっかなびっくりという感じで、 バルクホルンの陰に隠れて様子を窺っていた。 そんなテヴェールの様子に苦笑したパパさんは、テヴェールにキャンディーを一粒渡すと、 あの実装紅にも分けてあげなさい、と背を押す。 『こ、これ、どうぞテチ!』 そう言ってテヴェールが差し出したキャンディーを、実装紅はありがとうダワ、と礼を述べて受け取り、口に含む。 口の中に広がる甘みと紅茶の香りに、実装紅は笑みを浮かべた。 『なかなか気の利く仔なのダワ!』 とテヴェールの頭を撫で回す。 パパさんが渡したロイヤルミルクティー味のキャンディーが功を奏したようだ。 『テ、テェェェ、くすぐったいテチ〜』 そんな実装種同士のやり取りを、飼い主一家は微笑ましく見守っていた。 昼食を済ませた飼い主一家は、カーマインを連れて公園の管理事務所に赴き、 事情を話して園内放送をかけてもらった。 ほどなくして、まだ若い、どこかおっとりした感のある品の良い女性が日傘を片手に現れる。 カーマインの飼い主だ。 女性は何度も礼を言い、カーマインを抱き締めてその場を辞した。 『バイバイテチ〜!』 手を振るテヴェールに、カーマインも小さく手を振り返す。 実装石は碌でもない奴が多いとは聞いていたけど、そんなことはなかったな、となどと思うカーマインであった。 数日後。 カーマインは飼い主の女性に連れられて、近所の公園へと散歩に来ていた。 高級住宅街に位置するその公園は整備が行き届いており、野良実装が住み着くようなこともない。 そんな安心安全な公園を、カーマインは一匹でぶらついていた。 飼い主の女性が知人と世間話に興じており、暇を持て余していたからだ。 花でも愛でようか思い花壇に足を向けると、植え込みの影に隠れた薄汚い仔実装が一匹、 カーマインの様子を窺っているのが見えた。 『お前、一体どうしたのダワ?』 カーマインが腰をかがめ、仔実装の頭を撫でてやると、仔実装は安心したのかテチテチと泣き始める。 『チョウチョを追っかけてたら迷子になっちゃったのテチ! お家の場所がわかんないテチィィ!』 テェェンツ、テェェンッと泣き出す仔実装に、カーマインは内心弱りつつも、仔実装を巣まで送ってやることにした。 微かに漂ってくる糞の臭いをたどれば、巣を見つけられる公算も高いだろうと思ったからだ。 『ほら、抱っこしてあげるのダワ』 カーマインが仔実装を抱き上げると、さっきまで泣いていた仔実装がテチュテチュと嬉しそうな声を上げる。 カーマインは以前に出会った、紅茶味のキャンディーをくれた飼い仔実装を思い出していた。 意外とかわいいところもあるじゃないか。 巣は思いの外早く見つかった。 人目につかぬ灌木の隙間にビニール袋を入れ込んで、最低限雨風だけは凌げるようにした、 家とも呼べぬような代物。 仔実装を巣の近くで降ろしてやると、巣から姉妹と思しき二匹の仔実装が出てきて、 テチャテチャと騒ぎ三匹で抱き締め合う。 おそらく、迷仔になった仔実装をずっと心配していたのだろう。 姉妹のいないカーマインには、羨ましさを覚える光景だった。 キャンディーでもやろうかとカーマインが首から下げたポシェットを開けた時だった。 突然後頭部に走る激痛。 膝を負ったカーマインが振り向くと、そこには大きめな石を持った成体実装が一匹、目を血走らせて立っている。 成体実装は再び石を両手で抱え上げ、カーマインへと振り下ろす。 頭部に受けた鈍く強い衝撃に、カーマインの意識はとうとう暗転した。 『デププ!今日のご飯はずいぶんな珍味になりそうデス〜ン!』 そんな鳴き声が聞こえたような気がしたが、カーマインにはもうどうすることもできなかった。 カーマインが意識を取り戻したのは翌日のことだった。 目を開けると、見慣れた天井が視界に入る。 自身が自宅のベットの上に横たわっているのが、不思議に思えてならなかった。 「ああ、目を覚ましたのね、良かった!」 様子を見に来た飼い主の女性が目に涙を浮かべて喜ぶのを見て、 カーマインは自分がまだ生きているのだとようやく理解できた。 『・・・一体何があったのダワ・・・?』 カーマインの問いに、飼い主の女性は彼女の頭を撫でながら説明した。 実装石などいないはずの公園に、デスデスという鳴き声が聞こえてきたこと。 カーマインの姿が見えなくなっていたことに、飼い主の女性はまさかと思いながらカーマインを探し回ったこと。 ほどなくして、公園の灌木の近くで倒れ伏したカーマインと、 彼女のポシェットから零れ落ちたキャンディーをデブプと笑いながら舐めしゃぶる野良実装を見つけたこと。 飼い主の女性が思わず悲鳴を上げると、たまたま近所をパトロール中だった警官が駆け付けて、 カーマインを保護してくれたこと。 『野良実装達はどうなったのダワ?』 大丈夫よ、心配いらないわ、と飼い主の女性が優しげに告げる。 野良実装達は仔実装も含めて、一匹残らずその場で警官により叩きのめされ、 半死半生の状態で保健所に引き渡された。 既にペットを襲う凶悪な害獣として殺処分されたことだろう。 警官曰く、野良実装は渡りによって他の公園から最近流れ着いたばかりだったのではないか、との事だった。 また、 野良実装がキャンディーに気を取られていたおかげで、 カーマインはとどめを刺されずに済んだのだろうとも言っていた。 「もう心配しなくていいのよ?」 そう言って優し気に自身を撫でる飼い主の手は温かく、心地よかった。 カーマインの瞳から涙が溢れる。 かつての自分と同じように助けてあげたかっただけなのに、それが仇で返されてしまったこと。 自分は二度も助けて貰えたのに、あの仔実装達はあっさりと殺されてしまったこと。 そのことが、たまらなく悲しかったから。 そして悲しみが強い分だけ、飼い主の優しさが、カーマインの心に沁み渡っていった。 -- 高速メモ帳から送信

| 1 Re: Name:匿名石 2026/02/15-06:35:44 No:00009890[申告] |
| 実装石に性善説で接してはいけない事を身をもって体験する羽目になってしまったな
改めてテヴェールは実装格も環境も奇跡的に恵まれている稀有な存在として認識しないと危うい 迷子の仔も環境さえと良識で考えがちだがテヴェールの親姉妹でさえ碌な末路を迎えていないしキチンと管理されたこの公園では遅かれ早かれ渡りの親仔は処分を免れてはいなかった筈である実装石とはそういうモノなのだ なので対実装石に関してカーマインは余り気を病む必要はない事を今後の為にも覚えなくてはいけないね |