虹浦製糸場の実装生糸 寝床でレフレフと眠る一匹の蛆実装。 その鼻の穴からは、実装石という存在に似つかわしくない綺麗な緑の糸が、明かりを反射してキラキラと輝きながら伸びていた。 それは蛆実装が幸福感を非常に強く感じた際に繭を作る為の糸。 本来なら一生未熟な蛆実装のまま生きねばならないところを、ちゃんとした手足のある仔実装に変態するための希望の元。 ただしその糸は一生に一度しか出す事ができず、何らかの理由で繭を作れずに糸を出し終えてしまうと、 その蛆実装は絶望の余りパキンする事さえあるという。 『始めるデスゥ』 そんな蛆実装を見ていた成体実装が、その糸を棒で絡め取って糸繰機にセットすると、糸はくるくると機械に巻き取られていく。 その成体実装は虹浦製糸場で働く労働石で、名前を33番……通称『ミミ』という。 ミミは糸繰機を動かす為の踏み板を足で踏みながら、まだ眠っている蛆実装の総排泄孔にスポイトを近づけ中身を注入する。 『レフン!?』 眠っていた蛆実装は、総排泄孔からの刺激に体を痙攣させ、目を覚まして小さな両目を見開いた。 『……!いとさんレフ?うじちゃん、まゆさんになれるレフ……!』 そして、自身の鼻の穴から出ている緑の糸に気づき、繭を作れるのだと歓喜する。 だがその喜びはすぐに裏切られる事になる。 『レフェッ!?いとさんどこにいくレフゥ!うじちゃんにまきつかないとダメなんレフゥ!』 糸が体に巻き付かず、どこかへ巻き取られてしまっている事に気づいた蛆実装は、涙を流して身をよじる。 どうにかして鼻から出る糸を止めたいと思っているのだろうが、むしろ糸はより勢い良く排出されているように見える。 実は、先ほど注入されたスポイトの中身は高濃度の栄養剤だった。 糸を出し始めてすぐの蛆実装に栄養剤を与えると、通常よりも質の良い糸が、通常よりも長い間排出されることが、 近年の研究で判明している……そしてここは、その研究結果を用いた実装生糸を取る工場なのだ。 出産石に蛆実装を産ませ、育児担当の労働石に蛆実装を可愛がらせて、産まれて数日の間は幸福で満たす。 蛆実装が常に笑顔で尻尾をピコピコ振る様になる頃合いを見て、蛆用ネムリを嗅がせて糸繰機に併設された寝床に移す。 (あまり強力なネムリだと昏睡して糸を出さないので、必ず弱めのネムリを嗅がせる) 後は糸繰担当の労働石が上手くやってくれるという訳だ。 『レフェェン!レフェェェェン!』 蛆実装は涙をぽろぽろ流しながら必死にミミに訴え掛けるが、ミミはちらっと蛆実装を見るだけで糸繰を止める様子はない。 ミミにとってはそれは大事な仕事であり、自分の娘でもない蛆実装がいくら泣いたところで止める理由にはならない。 『レフェェェェッ!レフェェェェェン!』 哀しみに満ちた表情で泣き続ける蛆実装に、ミミは顔をしかめる。 流石のミミも蛆実装を哀れに感じた……などと言う事はなく、単に泣き声がうるさいと思っただけだ。 うるさすぎると他の糸繰機の隣で寝ている蛆実装が目を覚まし、不安を感じて糸を出さなくなる。 そうなると担当のミミは責任者の人間に怒られる事になるから、あまりうるさくされるのは困るのだった。 (なお、一度糸が出始めてしまえば蛆実装が生きている限りは糸は最後まで出続ける) 『……黙るデス。静かにしないとワタシが怒られるデス』 『レフェェェェェェェン、レフェェェェェェェン!』 『……仕方ないデス。口を塞ぐデス』 ミミは片手に持っていた空のスポイトを置くと、その手で蛆実装の口を塞いだ。 蛆実装は鼻から糸を出しているのに口まで塞がれてしまい、息ができずに苦しそうだ。 『ムグゥゥゥゥ!……ムムゥゥゥゥ……』 『おっと、まだ糸が出てるのにパキンされちゃ困るデス』 ミミは蛆実装の様子を見ては、時おり手をどけて蛆実装に呼吸させてやる。 しかし、蛆実装が再び泣き声を上げようとすると、即座に口を塞ぐのだった。 『レフェムグゥゥゥ!』 『……もう少しデス。もう少しで糸を出し終えるデス……我慢するデス』 ミミはベテランだったので、栄養剤を注入するとどの位の量の糸が出るかしっかり理解していた。 実験のデータによると、個体差などはあるがおよそ通常の6倍の糸が採取できるらしい。 だがそれほど大量の糸を出すのは、栄養剤を与えられていても偽石への負荷が大きく……。 『……ッ……ムグッ』 『そろそろ終わるデス……』 蛆実装が体をぴくぴくと痙攣させると、ミミは蛆実装の口を抑えていた手を離した。 『レピッ……レッ、レピィ……!』 『これで終わりデス』 『……レッ……』パキン その蛆実装も、これまでの他の蛆実装と同じく偽石への負荷に耐え切れず、糸を出し終えると同時にパキンした。 もっとも、負荷に耐えたとしても繭を作れなかった絶望からパキンしていたであろう事は想像に難くない。 絶望に打ちひしがれた蛆実装の死に顔が、それを物語っていた。 ミミは糸繰機を止めると、ボタンを押して糸繰終了の合図を出す。 こうしておけば後で責任者の人間が糸を回収してくれるという訳だ。 『ふぅ……まだ別の蛆ちゃんの糸繰もあるデス。忙しいデス』 この製糸場では、労働石は1匹あたり1日に数匹の蛆実装の糸繰をする事になっていた。 蛆実装を眠らせる時間を調整し糸を出させるタイミングをずらす事で、それを可能にしている。 労働石にとって楽な作業ではないが、毎日実装フードを貰えるだけでなく住む所まで用意される。 さらに、6日働けば1日休みが貰えるという、とても恵まれた環境だった。 なお、パキンした蛆実装はおやつとして食べていい事になっている。 ミミもまた、仕事の合間の栄養補給として、苦痛と絶望に塗れた顔で事切れている蛆実装の死骸を口に放り込んだ。 『くっちゃくっちゃ……ウマいデスゥ』 ————糸繰の成績が悪いと出産石に異動させられるらしいとのウワサがあるデス。 いくら毎日ゴハンがもらえても、蛆ちゃんを延々産み続ける出産石にされるのはごめんデスゥ。 そんな事を考えながら、ミミは張り切って次の蛆実装の糸繰を始める。 大型実装ショップの売れ残りとして処分品になっていたところをこの工場の人間に安く買われて連れてこられたミミたち。 仕事ができなかったり素行が悪くて脱落した者も多かったが、ミミはもう3年ほどこの仕事を続けていた。 もちろんミミのように長く働いている労働石ばかりではない。 蛆実装の死を幾度も目の当たりにするうちに精神を病む労働石も多く、休日に労働石用の広間で顔を合わせるミミの同僚も、 古くからの顔見知りはほとんどいなくなっていた。 淡々と仕事をこなし続けられるミミのような労働石は、工場の人間にとっては「当たり」と言えた。 だが、だからと言ってミミの待遇が良くなる事はない。 足るを知っている現状がベストであり、あえて増長の原因を作る必要はないからだ。 『レピェェェン、レピェェェェン!』 『毎日のゴハンと綺麗な寝床、時々のお休み……きっと、ここがラクエンなんデス』 『レピムグググ……』 ミミは泣き叫ぶ蛆実装の口を塞ぎながら、自分に言い聞かせるように呟き、今日も実装生糸を取る仕事を続ける。 年老いて働けなくなるまでか、あるいはいずれ精神を病んで処分されるまでか、それとも……。 なお、採取された実装生糸は加工されて実装絹となり、希少価値もあって高値で取引されている。 実装絹は高級飼い実装の衣服として縫製される事が多いが、一部の愛護派は自らが使用するグッズに実装絹を使う事もある。 ……今日も虹浦製糸場では、大量の蛆実装が実装生糸を取られ、悲哀に満ちた泣き声と共にその命を散らしていくのであった。 終
1 Re: Name:匿名石 2025/09/27-02:24:49 No:00009801[申告] |
愛護派と愛護実装に搾取されていると同時に辛うじて生かされている状況が皮肉な状況だな
蛆実装は結局消耗品なのは変わらずなのでどうでもいいか |
2 Re: Name:匿名石 2025/09/27-07:21:35 No:00009802[申告] |
あわれなるかや糞芋虫は、糸にとられてデッデデデ |
3 Re: Name:匿名石 2025/10/01-03:40:21 No:00009813[申告] |
繭設定とかアホかと思ったけど
蛆実装から例え小さい親指実装だろうと形の変化に無理ありすぎね?で作られた繭設定なんだろうなぁって最近思った |