飼い実装テヴェールの穏やかな日々　その１０　お風呂
-----------------------------------------------------------------------


「ほら、テヴェール。お風呂の時間だぞ〜」
『はいテチ！』
パパさんの呼ぶ声に、飼い仔実装のテヴェールは元気よく応える。
今日はパパさんがテヴェールをお風呂に入れる当番だ。
人間と違い、実装石はその身体の構造上、一匹だけでは全身をくまなく洗う事が難しい。
体格の小さい仔実装は特にその傾向が顕著だ。
また、これも身体の構造上、実装石はほとんど泳ぐことができないため、何かの拍子に溺れでもした場合、生命の危機に直結しかねないのだ。
このため、この家ではテヴェールを入浴させる際は必ず誰かが付き添うようにとされていた。

「しっかり洗えよ〜」
『わかりましたテチ！』
風呂桶に浅めに湯を張ってやり、ボディソープを垂らしてから、実装服を脱がせたテヴェールを入れる。
テヴェールはテッチテッチと一生懸命身体をこすり、身体の汚れを落とそうとする。
髪の毛についてはパパさんが洗ってやった。
これは親切心ばかりではなく、ダニ、ノミ、シラミといったリスクがあるからだ。
『そろそろ流すぞ〜』
『はいテチ〜』
勢いをだいぶ控えめにしたシャワーを浴びせ、テヴェールの身体を流してやる。
テヴェールが一通りきれいになった後は、テヴェールの実装服の洗濯だ。
この家では、躾の一環としてテヴェール自身に自身の服を洗濯させていた。
テヴェールはこれまたテッチテッチと一生懸命揉み洗いした後、服を何度も踏んで水気を絞ろうとする。
出来はいまいちだったが、まだ仔実装のテヴェールにそれ以上を求めるのは酷であるため、後はさり気なくパパさんが処理しておいた。
『さ、乾かすぞ〜』
『はいテチ！』
風呂桶から出したテヴェールを実装服と共にドライヤーで乾かしてやる。
『テチィ〜♪』
気持ちよさそうに温風を浴びるテヴェール。
身体も髪も服も乾いたところで、今日のお風呂はおしまいだ。
『パパさん、ありがとうございますテチ！』
実装服を着込んだテヴェールが礼を言いながらペコペコ頭を下げる。
パパさんが指先でテヴェールの頭を撫でてやると、テヴェールはテチュ〜ン♪と嬉しそうに鳴き声を上げた。


実装石は身体の構造上、水場での事故が絶えないのは前述したとおりだが、知恵の回る個体はこれを利用することがままあるという。


飼い実装のミドリは娘の四女の糞蟲化に難儀していた。
いくら言い聞かせても反抗的な態度を改めようとせず、近頃では飼い主をクソドレイ呼ばわりする始末である。
このままでは出来がいい長女、次女、三女にまで悪影響が出かねない。
何より仔を産み育てる事を許してくれた飼い主に申し訳が立たない。
悩み抜いたミドリは四女を間引く事にした。
とはいえ、直接的な手段を取れば飼い主からの不興を買いかねない。
再び悩み抜いた末、ミドリは四女を事故に見せかけて始末することとした。


飼い主が出かけているタイミングを見計らって、ミドリは四女に声をかける。
『四女、こっちに来るデス。汚いからお風呂で洗ってやるデス』
長女達と違い頻繁に糞を漏らす四女は野良実装じみた汚さだった。
『お風呂なんて気分じゃないテチ！クソママはあっち行ってろテチィ！』
チププと嘲笑を浮かべる四女をミドリは構わず掴み上げる。
『長女達は後からお風呂デス。大人しくここで待ってるデス』
『分かったテチ！』
素直にうなずく長女達を残して、ミドリは腕の中でイゴイゴと暴れる四女をがっしりと抑えつけて風呂場へと向かった。


風呂場に着いたミドリは四女を床に下ろすと、思い切り四女の口元を殴りつけた。
『テヂョォ・・・！？』
顎が潰れてまともに声が出せなくなった四女を、ミドリは無言で殴り続ける。
『ヂョァ・・・！？テブォ・・・！？』
四女が弱りきったところで、水が張られたままの風呂桶に四女を叩き込んだ。
『・・・！？・・・！！・・・！！！』
風呂桶の中でもがき苦しむ四女を、ミドリは両腕で抑えつけた。
風呂桶の水は四女が漏らした糞で汚い緑色に染まってゆく。
四女の動きが完全に止まるまで、ミドリは微動だにせず抑え続けていた。
両目から流れ出た血涙が頬を濡らしている事にも気付かずに。


飼い主が帰って来ると、ミドリは四女が目を離した隙に風呂場で溺死していたと報告した。
四女の糞蟲ぶりを忌々しく思っていた飼い主は、いい厄介払いができたと内心思いつつも顔には出さず、ミドリの頭を撫でて慰めた。
ちなみに四女の溺死体はゴミとして処分され、誰からも省みられる事はなかった。

--
高速メモ帳から送信