飼い実装テヴェールの穏やかな日々 その8 駆除 ----------------------------------------------------------------------- 「ただいま〜!」 『おかえりなさいテチ!』 幼稚園から帰って来た飼い主の秋穂を、飼い仔実装のテヴェールは両手を振ってお迎えした。 いつもならば、少ししてから飼い主の少女とママさん、そしてセントバーナードのバルクホルンと共に楽しいお散歩に行くのが通例だ。 だが、ママさんからは、 「今日はお散歩は無しよ。お家の中で遊んでなさい」 と告げられる。 テヴェールとしては一緒に遊べるだけで満足なので、特に不満は覚えなかった。 「テヴェール、おままごとしよ!」 『わかりましたテチ!』 秋穂がバルクホルンとテヴェール相手に遊んでいるのを横目に、ママさんは回覧板を写したスマホに改めて目を通した。 そこには、本日近所の第一公園で野良実装に対する大規模な駆除が行われる旨が記載されていた。 聞いたところによると、飼い実装を襲って喰い殺した凶暴な野良実装が出たらしい。 これまでも近隣のゴミ捨て場を散らかしたり託児をしたりと良い話を聞かなかったが、飼い実装襲撃の件で行政もとうとう重い腰を上げたようだった。 『デベッ!?』 本日駆除作業が実施予定の公園の茂みに、一匹の飼い実装が蹴り出された。 『ヂギィィィィッッ!?』 逃げられないよう両足を踏み潰してから、元飼い主は踵を返す。 『許してデスゥ!もうワガママ言わないデスゥ!ウンチを投げたりもしないデスゥ!』 泣きながら元飼い主の背に向かって許しを乞うが、もはや手遅れだった。 同じ公園の一角では、飼い主に連れて来られた飼い実装が、最近産んだ八匹の仔供達をブランコに乗せて遊ばせていた。 「あらやだ、お家に忘れ物しちゃった。すぐに戻るから、ここで遊んで待っていてね」 『分かりましたデス』 飼い主の女性の言葉に、飼い実装はペコリとお辞儀して応える。 もっとも、飼い主は戻って来る気などこれっぽっちも持ち合わせていなかったが。 念願の飼い実装になれたとしても、糞蟲化等を理由として捨てられる実装石は実に多い。 推計では、年間何万匹もの実装石が捨てられているという。 無論のこと、ペットの遺棄は犯罪である。 特に実装石の場合、犯罪というだけではなく、野良化した個体が無視出来ない被害をもたらすことが問題視されている。 ゴミ捨て場荒らし、鳴き声による騒音、糞による悪臭や伝染病の蔓延リスク、託児、家宅侵入等々、枚挙にいとまがない。 このため、自治体によっては実装石の遺棄に厳しい罰則を設けている所も少なくない。 それにもかかわらず、何故こうした遺棄が後を絶たないのか? その理由の一つに、やはり人型に近い生物である事と、リンガルを使えば言語でのコミュニケーションが可能なほどの知能を有している事が挙げられている。 そのような生物に直接的に手を下すのは、やはり心情的に難しいのだろう。 かといって、間接的に処理してくれる保健所は常時パンク状態で対応してくれない事が多い。 保護に熱心なNPOなどもあるにはあるが、費用が高額だったり様々な条件を付けられたりといった具合で利用するハードルが高い。 俗に【楽園行き】などと呼ばれる、自治体その他による殺処分前提の引き取りサービスもあったりするが、これとて年中行われている訳では無い。 こうした様々な要因から、実装石の遺棄は今日も絶えることが無かった。 その中には上述のように、駆除が行われる日を敢えて狙って公園に遺棄する悪質な飼い主がいたりもする。 そして、野良実装達には地獄の駆除作業が始まった。 『ママァ!ママァッ!』 『助けテチ!助けテチ!』 『止めてデスゥ!仔供達に罪は無いデスゥッ!』 危険を察知して逃げようとしたとある野良実装一家は、仔実装の鈍足が祟ってあっさりと追いつかれてしまう。 『お前達、早く逃げるデス!お前達だけでも生き残るデスゥ!』 『ママも一緒じゃないとイヤテチャァッ!』 愛情深い家族だったのだろう。 自身を犠牲にしてでも仔供達を生かそうと、母実装は錆びた鉄釘を手に恐ろしいニンゲンに立ち向かうとする。 仔供達は母実装に縋り付いて一緒に逃げようと泣き喚く。 美しい親仔愛の発露と言えなくもない光景。 もっとも、自活能力が皆無の仔実装だけが逃げおおせても、遠からず餓死するか天敵に襲われて死ぬのが関の山なのだが。 『違うデス!ワタシは野良じゃないデシャアッ!』 両足を元飼い主に踏み潰されて身動きが取れない状態だった元飼い実装は、泣いて自分は野良じゃないと主張する。 リンガルを持ち込んでいない駆除業者には伝わらなかったが。 『ニンゲンさん!ワタシタチは公園で遊んでただけデス!すぐにご主人サマが迎えにくるデスゥ!』 『ママ、逃げるテチ!このままじゃ捕まっちゃうテチ!』 『そうテチ!早く逃げるテチィ!』 元飼い主に置き去りにされた仔連れの元飼い実装も、自分達は野良じゃない、飼い実装だと駆除業者に必死に訴えた。 その根底には、元飼い実装らしく人間に対する信頼があったのだろう。 親ほどの信頼を人間に抱いていない仔実装達は、恐怖に駆られて早く逃げようと促した。 皮肉な事に、この場合は仔実装達の判断が正しかった。 泣き叫び、逃げ惑う野良実装達に容赦なく噴霧式実装ネムリが噴霧され、昏倒した野良実装達はゴミ袋に詰められてゆく。 数年前は噴霧式実装コロリにより容赦なくその場で虐殺されるのが常だった駆除作業。 だが、近年は格安実装フードの原料として有料で引き取る業者が現れたことから、噴霧式ネムリによる捕獲を行う駆除業者が増えていた。 程なくして公園内の実装石の殆どが捕獲され、何処かへと運ばれていった。 なお、捕獲された実装石達は眠ったまま処理機に放り込まれ、その身を跡形もなくミンチにされる事となる。 -- 高速メモ帳から送信
1 Re: Name:匿名石 2025/08/22-06:08:13 No:00009766[申告] |
楽園行きをもっと増やせば諸々は改善はしそう結局オニクエンドだろうけど
あと残留ネムリも気になるので抜けるのを待ってから余計な物ひん剥いて潰そう |
2 Re: Name:匿名石 2025/08/22-06:08:13 No:00009767[申告] |
楽園行きをもっと増やせば諸々は改善はしそう結局オニクエンドだろうけど
あと残留ネムリも気になるので抜けるのを待ってから余計な物ひん剥いて潰そう |
3 Re: Name:匿名石 2025/08/22-13:42:32 No:00009768[申告] |
業者がリンガルを持ち込まないのは正解だよね
飼い実装の可能性があったらペット遺棄として通報しないといけなくなるかもしれない それなら全部野良ってことにして処分する方が手っ取り早い |