「デッスン♪デッスン♪」 その禿裸実装は人間の男に抱えられて有頂天だった。 いつものように奴隷として他の野良に足蹴にされ殴られていたところを男に助けられ、しかも飼いにしてくれるというのだ。 「さぁ、ここが今日から君の家だよ」 そう言って招かれたのは大きな家だった。 「デスゥ…」 思わず感嘆の声を漏らす禿裸。 「じゃあまずはお風呂だね」 男はそんな禿裸を無視して風呂の支度に入る。 そして禿裸の風呂は夢心地のままに終わった。 途中金平糖を与えられたり、気の緩みからか大量の糞を漏らしてしまったが男は笑顔を絶やさずに面倒を見てくれた。 「少し準備をしてくるからここで待っていてくれ」 男は作業机の上に禿裸を置いて部屋を出ていった。 男の部屋には大きな棚が置かれ、その上には様々な像が置かれていた。 ミケランジェロのダビデ像。ミロのビーナス。自由の女神。 誰もが知っている有名なものばかりが禿裸実装で再現されている。 元ネタは解らない禿裸だったがその物量と堂々とした佇まいに思わず息をのんだ。 「ゴシュジンサマは禿裸が好きなんデス?」 自分も部屋の像達も全て禿裸実装だ。 選ばれたのは嬉しいが変わった趣味をしていると思った。 「……ス……ハヤ…………デ………」 「デ?」 不意に蚊の鳴くような小さな声が聞こえた気がした。 しかし周囲には誰もいない。 あるのは机の上に置かれた幾つかの像だけだ。 意識を集中して耳をそばたてる。 「ニゲ…デス…ニ…ル…ス…」 確かに聞こえた。 声の主は像のひとつ。自由の女神のポーズをとっているものだ。 実装石の像が喋る。その奇妙な事態に怯えつつも近づき声をかけた。 「な、なんデス…?」 「こ、この家のニンゲンはワタシタチ実装石に変なポーズを取らせて売るのが仕事なんデス。お前も、早くしないと同じ目に遭うデス…」 禿裸が聞くと自由の女神像は小声で話し出した。 にわかに信じられない。あのニンゲンがそんな恐ろしいことをしているとはとても思えなかった。 「だ、だったらお前はなんで逃げないんデス?」 怯えつつも矛盾を突いて現実を否定しようとする。 だが帰ってきたのは更なる絶望だった。 「硬い棒が入ってて動けないんデス。肉と筋肉が絡まって…どんどん動けなくなっていくんデス…」 「でもゴシュジンサマは幸せになれるって言ったデス!動けなくされるのに幸せなんておかしいデス!」 「ワタシタチは石を取られて、薬の中に入れられるんデス。石が薬の中にある限り、ワタシタチは野良の何倍も…何倍も何倍も長生きするらしいデス。それがあのニンゲンの言う幸せ…」 「自由。勝手に喋って良いって誰が言ったのかな?」 突然の背後からの声にビクリと肩を揺らす。 そこにはあの男が大きな道具箱を抱えて笑顔のまま立っていた。 「困るなぁ自由。勝手にお話しちゃ駄目だって言ってるじゃないか」 言いながら男は作業机の椅子に腰掛け、道具箱から幾つかの道具を取り出し組み合わせる。 「う、うるさいデスバケモノ!ワタシタチにだって幸せになる権利があ」 「黙れよ」 冷淡な声で告げると男は組み立てた道具、電動ドリルで自由の顔をグチャグチャにしていく。 「デジョヘヴォォォォォアァァァァァ!!!」 ドリルが肉を千切り骨を飛ばす。自由と呼ばれた実装石への処罰は頭の前半分が無くなってようやく終わった。 体を動かすことが出来ない自由は反射行動なのか体を小刻みに震わせている。 その振動で支えを失った脳がぺしゃりと床へ落ちた。 あまりの惨状に禿裸も腰を抜かす。 「やれやれ。嫌なものを見せちゃったね。君の方はちゃんとやるから安心して」 にこやかに告げられるが禿裸の心は波打つばかりだ。 「ど、どういうことデス!幸せにするって言ったデス!お寿司とステーキとフカフカベッドは何処デス!」 「そんな約束してないだろ。妄想と現実の区別は付けろよ」 「うるさいデス!こんなの全然自由じゃないデス!お前はおかしいデス!」 「自由?あぁそいつの名前か。馬鹿かお前は」 「デッ!?」 「そいつのポーズのモデルは自由の女神。だからそいつは自由。女神なんて付けたら失礼だからね。実装石の為に名前なんて考えるわけないだろ」 男の言葉に禿裸は絶句した。 この男は、最初から実装石の事など考えていなかったのだ。 「いいかい?君達実装石は醜い。実に醜い!僕が君達のような姿になったら神を呪って自害してしまうだろう!」 言葉とは裏腹に男は実に楽しそうに告げる。 まるでそれが世界の常識とでも言うかの様子に禿裸は閉口するしかない。 「でも、だからこそ価値がある」 「デ?デ…?」 醜いことに価値がある?意味がわからない。醜悪な存在は奴隷やゴハンが当たり前。なのにそこに価値があるなど実装石の価値観では全く理解できなかった。 「醜い君達を志向の芸術に仕立てる。世界にはゴミを使った芸術作品も無数に有る!君達のような醜悪な存在はそうなる資格がある!いや!ならなければならない!」 熱弁を振るう男。しかし禿裸はその言葉の一切が理解できなかった。 「そうそう。君がなる姿にはサンプルがあるんだ。とっても綺麗で楽しいよ」 そう言って男が机の上に被せられていた布を取り払う。 「助けてデスー!」 「体!体ぁ!」 「デアァァァ!ママァァァ!」 まるでチェスの駒のように胸から上しかない実装石達が泣き叫ぶ。 「デェェェェェ!?」 「彼女達はモアイ。イースター島に並ぶ顔岩だよ。昔は体もあったらしいけど、今はこの形がメジャーでね」 禿裸の耳に男の説明は入ってこない。 自由と呼ばれた実装石も悲惨だがこちらはそれ以上だ。しかもそれが自分の未来の姿だと言うのだから堪らない。 「さぁ。念願の飼い生活の為に頑張ってくれよ…」 怯える禿裸の背後には偽石摘出用の道具を構えた男が迫っていた……。 一週間後の展示会。そこにあの男の姿があった。 ここは実装芸術展示会。各々が芸術へと仕立てた実装石を披露する場所であり、それらを商品として売買する会場だ。 展示されているものの前には液体と偽石の入ったシリンダーが置かれ、展示品である実装石が生きていることを示している。 「双葉さん。お久しぶりです」 「おお敏明君!君も来ると思っていたよ!」 双葉という男の展示品を前に二人が雑談する。 「タベテチ…ハヤク……クサッチャウテチ…」 と鳴く仔実装の隣には仔実装の活け作り(観賞用)と書かれていた。 「しかし敏明君。今回君は自由の女神で来ると思っていたんだがねぇ」 「いやぁそれが少しはしゃぎすぎてしまいまして。顔面ドリルで表面が焼き付きを起こしてたんで治療に時間が…」 頭を掻き若気の至りと恥ずかしげに弁明する。 「でも活きの良いのが作れたんで今回はそれにしました。完成したてのほやほやですよ」 「ほう、どれどれ」 敏明に促され双葉が彼のブースに目をやる。 「嫌デス!嫌デスゥゥゥゥ!こんな姿!もう嫌デスゥゥゥゥ!殺してっ!殺してぇぇぇぇ!」 そこにはモアイの像と書かれた実装石が身動きを取れないまま元気に鳴いていた………。
1 Re: Name:匿名石 2025/07/04-02:18:58 No:00009734[申告] |
廃材アートみたいなもんか |
2 Re: Name:匿名石 2025/07/04-19:01:17 No:00009735[申告] |
>「タベテチ…ハヤク……クサッチャウテチ…」
食べてもらうことこそシアワセだと胎教された食用仔実装いいよね…しかし観賞用 |
3 Re: Name:匿名石 2025/07/05-11:03:00 No:00009736[申告] |
♪身の毛もよだつ悪魔の芸術 禿裸石に迫る惨劇
♪命の石の 摘出術式 ♪壁に飛び散る赤緑の染みが 助けてデスと叫んでいるのさ |
4 Re: Name:匿名石 2025/07/07-12:10:28 No:00009738[申告] |
???「美しい…。これ以上の芸術作品は存在し得ないでしょう」 |