万人が疑問に思うようなそれが公園に現れたのは、本当に突然な事だった。 「デー?なんデスゥこれは」 それがどのような会議の末にどのような議論を経て、どんな経緯を辿って設置されるようになったのかはわからない。 兎にも角にも、そのファンシーな色合いに塗られた縮小された奥行きのある自販機じみた機械は突然、公園に設置されていた。 【禿裸にするカー、ハゲハダカー】 まだ早朝の薄明りの下、散歩を趣味とするその野良実装はハウスを抜け出た所、見慣れた景色に合われた異物をすぐ発見した。 「デー、デー」 好奇心旺盛でもあった実装。角ばったピンク色のその装置には興味が尽きない。 正面にはしゃがんだ成体実装一匹が少し余裕をもって入れるような四角い穴。装置の内部に繋がっていそうだ。 後ろ側にも同じような穴、実装石のアタマでも「どちらかが入り口でどちらかが出口」だと推測できた。 つんつんと突いてみる、なんとなく触ってみる。 無論、無反応。装置はただ静かに動かない。 「デスゥ~?暗くて中がよく見えないデス」 最も気になっていたのは正面の穴。 その奥をちょこんと覗く。暗くて中身はよく見えない。 「デー、デスッ!?」 「ガガガガガガガガガ」 身のを乗り出して頭を穴の中に入れた瞬間、機械的な駆動音を鳴らして、装置の穴の中の何かが動き出す。 「デッ!?な、なんデス!?何が起こっているんデスゥ!!」 外から見れば、ちょうど野良実装は頭から装置にまるで飲み込まれていくような格好だった。 足をばたつかせて、効かない自由を取り戻さんと大慌ての実装石。暗い暗い装置の中に恐怖を感じてウンチも漏らす。 装置の内的な機械構造が自分を引き込んでいる事が理解できた時、既に危機感は別のものに移り変わっていた。 「あ、頭さんにわるいヒンヤリがするデスゥ!?」 しゃー。しゃー。 滑車の滑る音。野良実装は、前頭と後頭に何かが滑っていく感覚があった。 そのたびに、頭部の微細な重量が失われていく感覚で何が起きているかを理解する。 「デアアアアア!?デッ!デスゥ!!!?」 暗中で効かない視界の中で本能が悲鳴を上げる。剃られている!? どうにか、どうにか実装石らしい短い腕で髪を守ろうにも、腕部は窮屈な装置の内部で抑えつけられ満足に動かせもしない。 「デシャア、デシャアアン……」 赤緑色の涙を流す。すっかり『軽くなった』頭部が、野良実装の生まれ持つ一大財産の破壊の完了を意味していた。 禿。 きっと自分の髪は奪われ、禿にされてしまったのだと、野良実装は理解した。 まだ終わらない。 しゃー。しゃー。 滑車の滑る音が再度野良実装の耳に入る。 「デ……!」 野良実装は大きな耳をぴくぴくとさせて、入ってきた音に震えた。 髪とくれば? …… …… 「デェェェェン!デェェェェン!!」 「デー?うるさいと思って来てみたら……これはなんデスゥ?」 騒がしい鳴き声に目を覚ました公園の実装石たちは、公園に現れたその装置と、そのそばで泣き喚く禿裸にしばし困惑した後、 「デェ—ン!」「デェェェェン!!」 「デアアアアアアン!」 好奇心旺盛なあの野良実装同様の『犠牲者』が出てその仕組みを理解するに至った。 当然、こんなものを目にしては皆「どうすべきか」で混乱してしまうもの。 実装石は元来能天気かつのんびり屋、あまり素早い思考は出来ない。 幾匹もの実装石が装置を囲み、デーデーとどうすべきああすべきを話し合う。 「デププゥ……」「チプチプ!」 そこに、恰幅のいい野良実装が連れたムスメらと動き出す。 まあ、どの世界にも、悪辣なものは居るもので…… 「デギャッ!?」 「これからこの公園はワタシの王国デッスゥ」「チププ!」 装置を囲んでいた一匹を後ろから蹴りつけ、一気に装置の口へと突っ込んだ悪たれ実装。 「ドレイ一号、ウンコを食う栄誉を与えるデッス!」「テッチ!」 連れたムスメらと口を歪めて笑い、駆動音を鳴らす装置が吐き出した『犠牲者』を引っ立てて、一家そろって投糞と打擲を開始する。 「デ……デ……」 髪と服を突然失って更にクソまで投げつけられ、暴力を受けて心神喪失した『犠牲者』は抵抗の意欲をすっかり無くしている。 為すがままに暴力を受け、身体中に傷がついていくその姿。ここに至るまでのワン・センテンスは衝撃的なものだった。 「デギャアアアアッ!?」 そのあまりの行動に硬直していた実装石たちは、すぐ蜘蛛の子を散らすように装置と悪たれ一家の周囲から距離をとる。 「デェ~?」「テッチャ~?」 逃げていく実装石たちを、悪たれ一家はニヤニヤと粘着質な笑顔で見まわした。 「テチャ……!」 逃げ遅れて転んでしまっただろう仔実装をめざとく見つける。 「チィィィッ!!!」 それにのそのそと近寄って、悪たれ実装が足から掴んで、逆さ吊りにして捕まえる。 ぎょろりぎょろりとゆっくりと周囲を伺う。 「デ!」 居た。ママらしき実装石が、茂みの隙間から我が仔を案じるのが見える。 「オイオマエ、出て来るならこの仔は禿裸にせず返してやるデスゥ」 大きな声で聞こえるように宣言する。 当然、ウソに決まっている。それでも、それでも、茂みから顔を覗かせていたママは、そのママ心で仔を見捨てる事を選べなかった。 「デプププゥ!」 力なく歩き出たその仔思いのママ実装は、 どかっ 「デギャアアアアアアアアッ!?」「テチャアアアアアア!」 薄々と予想した最悪の未来へ導かれてしまった。 この光景は遠めに様子見をしていた他の公園の実装石の目に入ると、強烈な印象を残すことに悪しく成功した。 悪たれ一家は、当然にそれに気づいていた。 「デ……デス~!」 やがて、ハウスから備蓄の食糧を持って腰を低くした実装石が歩み出て来る。 「いっぱいタベモノあげるから、ワ、ワタシの家族は、見逃してほしいデスゥ~……」 引きつった笑顔のその実装石の頭を、悪たれ実装が禿裸を足蹴にしながら撫ぜた。 「よかろうデス。まあワタシと一緒にドレイで遊ぼうデス!」 「ありがとうデス~!デピャピャ!」 言われるがままに嬉々としてドレイを蹴り始める媚び実装。 このような実装石が何体か現れ、そして、支配体制は確立を見た。 …… 媚び実装のようなものが現れて悪たれが徒党を組む前に、一斉に悪たれ一家を追い詰めれば、未来は違っただろう。 とはいえ「もしかしたらあの装置の犠牲にされるやも……」という思いを誰しもが振り切れなかった。 そうして、禿裸製造機とでもいうべきあの装置は、暴力的な支配の装置となった。 「あの装置で手軽に禿裸にされるのは自分かもしれない」 そんな恐怖に多くが支配される、悪たれ実装石を女王とする王国がここに開かれてしまった。 …… 「これが、これが精いっぱいだったデス」 「デェ?デッププ!これは禿裸行き確定デス!」「デピャピャ~!」 生気のない顔をした、やせこけた実装石がおずおずと悪たれ実装に頭を下げて、食料を献上する。 可食部がまだそこそこ張り付くバナナの皮に、まだ肉がたっぷりついたチキン、実装石基準なら素晴らしいご馳走。 だが悪たれ実装は、この実装石を『禿裸行き』にすることを宣言した。 「デス!」「デス!」 すっかり恐怖心を利用されて悪たれの手足となった実装石たちがやせ実装を追い立てる。 何をどう施そうが関係ない。君は横暴故に暴がつき、暴君となる。 なんとなく楽しいから禿裸にする、悪たれ実装は、無作為に公園の実装石を装置に放り込む余興を繰り返して楽しんでいた。 恐怖心に追い詰められた公園の実装石たちは狭まった思考から犠牲者になりたくない一心で、無意味な忠誠を女王に捧げる。 「デェェェェン……デェェェェン……」 生気のなかったやせ実装。禿裸にされた事でその生気のなさはより一層。 「デププ!」 それが愉快でしょうがない。自分の全能感を満たしてたまらない。 震えあがる公園中の実装石たちを横目に、女王は更に恰幅の良くなった体をユラユラと震わせて笑いに耽った。 女王に同調する、さながら『大臣』の実装石たちも同調による嗜虐的な笑みを上げる。 …… だが、あらゆる歴史の中で暴君とは大概、侘しい末路を迎えてきたものだ。 ローマのカラカラは小便をしていたところを殺された。 モスクワのイバンはチェスをしていたら倒れてそれきりだった。 明の崇禎帝は山で首を吊った。 …… 女王が君臨して3か月ほどが立つ日に、それが訪れた。 「デ?」 ある日の夕方、いつものように禿裸を作って楽しもうとしていた女王の前で、装置は動きを止めてしまった。 実装石を突っ込もうにも、穴が閉じて突っ込めない、何か妙な音を立てている、 がこんがこん、と揺れて動いて、ずず……とその下部からは履帯、横からは実に機械的な『腕』が現れ出でた。 「デー!?なんデスゥ!?とっととコイツを飲み込んで禿裸にするデスゥ!」 相棒としていた装置の妙な変貌に、女王はおお怒りで軽く蹴りを見舞う。 「ピーッ」 装置が何かの音を鳴らす。 「デデ!?おいなにをするデス!オマエはワタシの道具……ッ」 機械の腕がむんず、と女王を掴むや、その声を響かせ終わらん内に前部の『大口』を開けて飲み込んでしまう。 変形からのこの急な展開、周囲の実装石が固まる。 実装石が装置に飲み込まれるなど、見慣れていた光景だが、その犠牲者になるものは…… 「オマエラ!ママをたすけるテチュ!!ママがこのままじゃ禿裸になっちゃうテチュ~!」 「そ、そうデッス!女王様をお助けするデッス!」 女王のムスメ、お姫と大臣が声を上げて、そこでやっと実装石たちは何が起きるかを思い出してすらいた がぼっ 「デ」 無造作に装置の後ろから吐き出されたのは、すっかりみじめな禿裸になった女王だった。 さわさわと忙しなく全身を触り、喪失した髪と服を探すような仕草を繰り返す。 実装石たちが、大臣たちが、お姫が、女王の姿を見てごくりと唾を飲み込んだ。 女王は禿裸に無意味な暴力を振るい、自分たちにもそれをやれと強制していた。 禿裸は殴れ、蹴れ、ウンチを擦り付けろ、ウンチを食わせてやれ。 それが女王の推進し、大臣たちが絶賛したこの王国の法律だった。 「……デデデッ!?」 ハッとした女王が己を囲むぎらぎらとした眼の実装石に気が付いた時、法律が彼女を包み込んだ。 「デボッ!デアアッ!デギャア!ギャッ!」 腹に蹴りを、頭に殴打を、耳の穴にうんこを。言葉もない法律の繰り返し。 「テェェン!ママにひどいことするのはやめテチ~!」 あの尊大な口調どこへやら、今更になって幼い仔実装らしい口調で女王の助命を求めるお姫。 「テッ!?」 それを捕まえたのは法律に従っていた実装ではなく、あの装置だった。 「テッチャアアアアアア!?!?」 数分の後にやはり禿裸にされて吐き出されたお姫が見たのは、原形をとどめない赤緑の混じる黒いミンチ。 絶えずそれに暴行を与える実装石の群れだった。 くるり、一匹の実装が後ろを向いて、禿裸になったお姫にのそのそと近づいていく。 「て、テチュ~ン♡」 小首をかしげて右手を頬に、精一杯の笑顔をお姫が向けた。 べしゃっ 脚から逆さ吊りの形で無造作に掴まれた姫は、ミンチの上に投げ捨てられた。 次の瞬間には拳が振り上げられ、つま先が腹を狙い、汚い尻の穴がお姫の顔面を捕まえていた。 大臣たちは、既に逃げ出そうとしていたが、そこに装置が立ち塞がっていた。 …… 「デギャアアアッ!?」 「デェェェン!」 「デッシャア!」 「オマエタチ、隠れるデッ」 「ママ—!」 女王は死んだ、お姫も逝った。大臣たちも皆滅びた。 暴力の熱狂も覚めた。 しかしあの装置だけが止まらなかった。 「ハゲハダカは、イヤデスゥ~~~!!!」 そんな絶叫が公園の各所から響く。 響いては、動きを速めたあの装置、いやロボットが実装石たちを捕まえては禿裸にする対象を探してさまよう。 嫌だと述べられた対象に次々と変わり果てる実装石たち。 「ニンゲンマンマ!ニンゲンマンマァ~~!」 単独で散歩に出ていた飼い実装も、 「ワ、ワタシタチはつつましく暮らして……いじめもしてなかっデアアアアッ!」 「ママ!ママァ!」 公園の奥でひっそりと暮らしていた実装家族も 公園中の実装石という実装石が禿裸にされた。 そして、禿裸でない実装石のいなくなるころに、ロボットは元居た場所に戻った。 ぱたん、と展開した機構を畳み、元の装置の姿へと戻る。 「……デー」 禿裸実装たちが身を寄せ合う。途方に暮れて、装置を囲む。 公園中の実装石たちは、一律で蔑む禿裸の姿にされたことで皆気力を失って、ただ時間が流れるままに立ち竦んでいた。 …… …… どこかの会議室、プロジェクターには何かの説明の図像。紹介をする人間。 「……この装置を導入する事により、公園に住まう実装石の治安を測れます……」 「……悪辣な個体は加虐の際、髪と服の剥奪に執着し、これに飛びつくという試用の結果が……」 「……悪辣な個体が複数体以上圏内に存在する場合髪と服が内部にすぐに溜まり……」 「……量だけではなく溜まる速度によっても判定を行います……」 「……一定量が期間内に装置内部に溜まると、自走機構が始動し……」 「……先の条例により県内の駆除では実装石からの髪と服の事前分離が義務付けられた事で……」 「……自走による処理の終了後は提携した駆除業者に連絡を発信し……」 「大雑把にまとめると、生き残らせる価値のない実装石たちはこの装置によって選別できます。」 【ハゲハダカー】 おわり 割と本当に悪い実装は少数派の愛護寄りな世界観でこそ実装はみじめな思いをしてほしい。
1 Re: Name:匿名石 2025/06/28-04:57:42 No:00009725[申告] |
野良実装は普通にそういう使い方するよね…
そういう野良が多い公園の実装はまとめて選別されるのは当然として飼い実装まで犠牲になってるの好き |