飼い実装テヴェールの穏やかな日々 その2 避妊措置 ----------------------------------------------------------------------- 「さあ、テヴェール、このケージに入って」 『はいテチ!』 ママさんの指示に従って、お出かけ用のケージに入る飼い仔実装のテヴェール。 ご主人サマの秋穂が幼稚園に通っている間は、大人しくお留守番しているのが常である。 だが、今日はママさんと一緒に、ドウブツビョウイン、という所にお出かけするのだ。 ドウブツビョウイン、という言葉を聞いた時に、近くにいたオトモダチのバルクホルン(セントバーナード)は嫌そうな、悲しそうなお顔をしていた。 きっと一匹だけでお留守番になるのがさみしいからだろう。 『帰ってきたら一緒にボールで遊ぶテチ〜!』 ケージの中から無邪気に手を振るテヴェールを、バルクホルンは変わらず悲しげな顔で見送っていた。 健康そのものと言ってよいテヴェールを動物病院へ連れていくのは、避妊措置を受けさせるためだった。 飼い実装が捨てられる原因の一つに、勝手な妊娠と出産が挙げられるのは周知のとおりだろう。 にもかかわらず。何故販売元のペットショップは実装石達に避妊手術を施した上で販売しないのかというと、これにはちゃんとした理由がある。 避妊措置についての決定権と責任はあくまでも飼い主にあるからだ。 実装石用の妊娠阻害薬や堕胎薬といった商品を売りつけるため、などと言う者もいるが、これはほとんど冗談に近いものである。 何はともあれ、ペットの避妊は飼い主の義務である。 飼い主一家は何も知らないテヴェールに内心で詫びつつ、避妊措置を受けさせることにしたのだ。 実装石に施される近年の避妊措置は、外科的措置と薬理的措置の二つに大別される。 外科的措置は、実装石の片目をくり抜いた後に眼孔を焼き潰して義眼を嵌めるという施術が一般的だ。 これは安価である反面、肉体、精神に多大な負担をかけるというデメリットがある。 特に仔実装以下の個体に対する外科的措置は、体力的にも精神的にも負担が大きく、また成長に合わせて義眼をはめ直す等の必要も生じるため、あまり推奨はされていなかった。 (成長抑制剤等を用いて仔実装の姿のままにするなら別だが) これに対して、薬理的措置は点眼液による避妊措置と、定期的な避妊薬の接種の二通りに分けられる。 前者は身体的負担はほぼ皆無だが、不可逆的な避妊措置となり、なおかつ薬価の関係で費用が高額になる。 後者の場合は、継続的に避妊薬を接種させる必要があるが、お菓子タイプの避妊薬が比較的安価に市販されており、接種自体が容易な点から多くの飼い主に好まれている。 ちなみに、テヴェールに対しては点眼液を用いた避妊措置が選択された。 「テヴェールがカナシイことにならないようにするためよ」 『分かりましたテチ。ママさん、ありがとうございますテチ!」 とママさんの言葉に素直に礼を言うテヴェール。 ママさんは半ばテヴェールを騙していることに少なからず罪悪感を覚えていたが、これも動物を飼う者の責任であると内心で己に言い聞かせていた。 『こんにちはテチ!』 テヴェール自身は呑気なもので、病院の待合室で出会った自分と同じくらいの仔実装に話しかけていた。 相手の仔実装も挨拶を返してくれて、テチュテチュと楽しいおしゃべりが始まる。 どうやら相手の仔実装は、どうしてこんなところに来ているのかよく分かっていないらしい。 テヴェールはカナシイことにならないようにするためにママさんが連れてきてくれたと話すと、きっと同じ目的だろうと仔実装も納得した様子だった。 『バイバイテチ〜!』 先に順番が回ってきたテヴェールが仔実装に手を振ると、仔実装も手を振り返してくれた。 仔実装とはそれっきりだったが、久しぶりに同族とお話出来た事が嬉しかったのか、テヴェールはその後もご機嫌だった。 お家に帰ってくると、バルクホルンがテヴェールの顔を優しく舐める。 『くすぐったいテチ〜!』 テチテチ嬉しそうに鳴くテヴェールに、バルクホルンは慰めるように一日中寄り添ってい た。 『無いテチャアッ!無いテチャアッ! ワタチの目が取れて無くなったテチャァッ!?』 動物病院でテヴェールとテチテチ話し合っていた仔実装が、半狂乱になって泣き喚いている。 その足元には義眼が転がっていた。 はしゃぎ過ぎてお家の中をあちこち走り回っている内に、不注意で壁にぶつかってしまった拍子に外れてしまったのだ。 『これじゃあもう赤チャン産めないテチィィィィッッ!!』 仔実装とはいえ、妊娠出産に関する知識は本能的に有しているようだった。 生物としての脆弱性を補うためか、実装石は多産であり、尚且つ妊娠出産を強く望む傾向にあるが、この仔実装も例外では無かったようだ。 ぽっかりと空いた眼孔よろしく、仔を産み育てる機能と未来はこの仔実装から永久に失われてしまった。 精神面でも脆弱な仔実装が、そのような現実に耐えられる道理はなかった。 その日以来、狂ったように一日中糞を漏らしてうるさく泣き喚き続ける仔実装に耐えられなくなった飼い主は、仔実装に実装コロリを与えて安楽死させた。 実装コロリが猛毒式ではなく安眠式だったのは、飼い主のせめてもの情けだった。 -- 高速メモ帳から送信
1 Re: Name:匿名石 2025/06/22-00:06:59 No:00009707[申告] |
取れるまで片目になったのに気付かないというのも実装 |
2 Re: Name:匿名石 2025/06/27-19:34:40 No:00009723[申告] |
押し付けられたこの難儀な怪生物に手間の掛かる処理をしてくれている事を本石は感謝すべきなんだろうけど
仔を産めば無根拠で安泰と思っているのも実装なので認識させないのが吉なのがもう一方の壊れた仔実装でも解る |