「デッデロゲー♪デッデロゲェ~~ッ♪ワタシはいよいよママさんデビューデッスぅ~♡」 膨らんだ腹を撫でて胎教歌を高らかに歌う妊娠した飼い実装石のエメラルド。 温かい光の照らす、あらゆる実装向け設備の整った実装用飼育ケースの中。 彼女は幸福を謳歌していた。 思い返す、仔を作ってはいけないと残酷なことを宣った飼い主を説得した自分の鮮やかな手腕……。 「仔実装チャンはとってもかわいいから、コドモ作り禁止っていうのはダメダメなことなんデスゥ」 「実装石は仔を産んでママになるのがダイジダイジなんデスゥ」 なんという説得力だろう、なんという……理論性だろう。 彼女はそう自分を褒めながら、飼い主がそれに頷いてくれたことを感謝した。 シアワセが更なる領域へ舞い上がり、輝く日々が約束されているように思えた。 ・・・ その日の午後。 エメラルドは飼育ケースから出され、飼い主と対面していた。 「エメラルドちゃま、大事なオハナシですわ」 「なんデスゥ?」 「その仔は実はわたくしの仔かもしれないんですの」 「デデェ!、この仔たちは、ニンゲンの仔だったデス!?じゃ……黒髪チャンが生まれちゃうんデス!?」 「それはわからないですわ、でも、その仔はわたくしの仔ですわね?」 「そ、そうだと思うデス!きっとニンゲンの仔デス!」 「間違いないですわね?」 「そう言ってるデス!ニンゲンの仔デスゥ!」 エメラルドは嬉しい新情報に胸を躍らせる。 仔が産める上に、その仔が奇跡の仔である黒髪チャンかもしれないのだ 黒髪仔の出産は通常実装石の中では幸福のランクにおいて最上級のことだ。 どこでいつどう人間と枕を交わしたかは覚えていないが飼い主がそういうならそうのはずだ 「う、うれしいデスゥ!」 やさしく腹を擦って涙を流す。感動が溢れて止まらない。 「それじゃ、わたくしの仔という同意と賛同もいただけたことですし、お預かりいたしますわね」 「デッ」 飼い主の取り出したのはチューブ状の謎めいた装置だった。 素早くエメラルドのパンツを脱がせ、その股、総排泄孔に接続する。 「なっ、なんデスゥこれは、レディのおダイジ変にイジっちゃヤー!デスゥ」 一方の飼い主は服とパンツを脱ぎ、尻の穴にがっちりと装置を接続した。 もうリンガルの翻訳も聞いていないのでエメラルドの抗議も無視だ。 装置の機械的な部位にあるスイッチをオンにし、けたたましい音が装置から響き始めた。 ゾゴゴゴゴゴゴゴゴッズズズズズウッ 「デアアアアッ!?!?!?」 猛烈な勢いで吸出される、エメラルドの腹の内容物。 ボビュビュビュビュッブツビュビリィッ 「さ、居るべき場所に参りなさい、我が仔ら」 猛烈な勢いで飼い主のケツの中に注入される、エメラルドの腹の内容物。 ・・・ エメラルド腹内 「レチャア!?まだママのオナカからナイナイしたくないレッチュ!」 「マンマッ!マンマァッ!膜さんやぶけてカラダがイタタになってるレッ!レチュアアアッ!!??」 「レレレッ!?なんで膜さんコロコロしてるんレチ!?ころがらないでレチッ」 数時間前まで優しいお歌と暖かなまどろみの中で世界との邂逅を待っていた胎児実装たちが、凄まじい勢いで吸引されていく。 乱暴な勢いによってそこそこ頑丈な胎実保護膜もやぶれ、絶命する個体もいる。 「アタマやぶけてオミソ漏れるレチィ~~!!」 「マンマァ~~~~~!!」 「なにがおきてるんレチィ!?膜さんボロボロレチッ!?」 ・・・ 「あ~仔がケツん中に入っていきますわ~」 「ワタヂの!ワダヂの仔デズゥ~~!」 「なにをおっしゃいますの、私の仔と同意したじゃありませんの」 「ニンゲンの仔じゃないデズゥ!?ワタヂがママなんデズゥッ」 「だからエメラルドちゃまも同意したでしょう。ママはわたくしですの、たわけた事をおっしゃらないで」 血涙を流して装置を取り外さんと激しく抵抗するエメラルド。 しかしミトン状の実装ハンドはその装置の取り外しを行うにはあまりにも単純な動きしか行えない。 やがて装置が停止する。 「おっ、仔が吸出され終わったみたいですわね」 「仔……仔ぉ……」 「ええ、私の仔ですわねえ」 腹をペッコリとへこませるエメラルドが嘆く。 信頼していた飼い主への失望、怒り、仔を失った悲しみ、状況の受け入れが困難であるゆえの驚愕。 洪水じみた感情が嘆きになって出力されていた。 「おっ、ケツん穴がグチュっとりますから仔が出そうですわ、さ、私の出産を見るんですのよ~」 「デェ!」 いつの間にやら飼い主は薄く水を張った桶を用意しており、その上で力み始めた。 ぶりぶり、びちゅ、ぶりりりりっ どざっ 「ウェ~なんですのこの肉塊、こんなん仔じゃありませんわね、バリキッシェえゴミですわ」 ケツ圧に耐え切れなかった内容物が流れ出る。 未形成の融解しかけた部位の混じった仔実装の肉塊と人糞と実装糞の混合物がピクピクとうごめく。 それらは実装石らしい生命力でまだ動いているが、しかし助かる見込みはないだろう。 数秒もすれば醜い死体へ変わり果てる。 エメラルドは黒い涙を流してすべてを見守るしかなかった。 茶色の人糞と緑色の実装糞、そしてまばらな赤緑におフクや髪さんらしきなにかが疎らに混合された半ペースト状の物体。 すべて、目から離れない。 目を離そうにも、離せない。 ほんの、ほんの少し前までは膨らんでいた腹を、今はへこんだ腹をさすろうとして手が空を抜ける。 「デ、デ、デ……!」 ピシリと破裂音が響き、エメラルドは後ろへ倒れるようにして死んだ。 「ん~健康状態やらにも気を使ったり待望の妊娠ってシチュも作ってやったけどやっぱダメでしたわねえ、もっと丈夫な胎実を作らせないとダメっぽいですの」 飼い主はケツを拭きながら残念がっている。 その残念さは挑戦の失敗に対してで、今しがた死んだエメラルドを気にもしない。視線さえも向けない。 ただ無造作に死体を掴んで、醜悪な半ペーストで満タンになった桶へ落としながら、 既にその挑戦的な出産派は次なる試行のプランを思い描いていた。 出産派の究極系は、胎児状態の実装石・胎実を生きたまま腸内に移植し、そして出産してみせること。 そうして真の実装出産者へ覚醒するという理想にある。 当然、不可能に近い。そもそも胎実は人間の腸内の圧にまともに耐えられるような存在ではない。 それでも、母体となる実装石をを幸福な状態に保ち、 充実した胎教を受けさせれば少しでも胎実を頑丈にすることで生存可能性をわずかながらに上げる事ができる。 わずかばかりでも可能性が上げられるなら、諦める事こそ愚かだ。 いまだ成功例のないその挑戦に、全国の出産派は挑み続けていた。 桶の中で冷たくなっていくエメラルドの死体。 奇しくも両手を広げたそれはおぞましいあの半ペーストを抱きしめるような姿勢だった。 まるでそれは仔を抱くように。 おわり