タイトル:【虐】 実装種愛護法による小さな影響
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初投稿日時:2025/05/30-12:05:03修正日時:2025/05/30-12:05:03
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【実装種愛護法による小さな影響】


20xx年。
高まる動物愛護のうねりは、ついに実装種にまで及んだ。

その結果が【動物の愛護及び管理に関する法律(通称「動物愛護法」)】を補う形で制定された、
準動物であるはずの実装種を対象とした【実装種の愛護及び管理に関する法律(通称「実装種愛護法」)】である。

ただし、実装種の中で実装石の扱いに限っては愛護の対象とすることに対して反対意見が根強く、
議論の結果「性格が劣悪な実装石(通称「糞蟲」)に関しては適用外とする」の補則が付け加えられた。

さて、この実装種愛護法が与えた、いくつかの小さな影響を見てみよう。

  *  *  *

・影響その1 F県N市の実装ショップにて

ここは大手実装ショップ「ジッソー」のとある支店。
「ジッソー」では安価な「Eランク実装石」から「躾済み実装石」や「お手伝い実装石」と言った実装石全般を購入できる。
また、比較的高価な他実装各種も購入することが可能で、さらに「高度な剪定技術を習得済みの実蒼石」や
「高度な紅茶知識を有する実装紅」などの特殊な個体も、会員になれば注文することができる。
薔薇実装などのレア種はさすがに扱ってないが、特別会員になれば注文することができるとかできないとか。

さて、今日は「Eランク実装石」の選別の日だ。
「Eランク実装石」は服や髪、身体の一部が欠損した個体や性格に難のある個体が分類され、1匹100円で安売りされている。
『実装種愛護法』施行以前は、店舗の片隅の狭いケージに成体と仔で分けて多少詰め込み気味に陳列されていたが、
明日の施行を前に、扱いに気を使わなければならなくなった。

「支店長、じゃあ始めますね」
「OK、ちゃっちゃと済ませよう」

その日の営業が終了して、支店長の五月メイ(29)が、店員の虹浦敏明(27)と共に"選別"を開始する。
まず敏明が一匹のEランクを取り出してメイの前に置いた。
この個体は前髪の千切れた半端禿仔実装石だ。

「さぁ、挨拶して」
『テチュ?ゴシュジンサマ、こんにちはテチ!いつもゴハンをくれてありがとうございますテチ!』
「……ちゃんと挨拶できる個体か。じゃあ君はこっちの箱だね」

メイは半端禿仔実装を摘まみ上げて右側の箱に入れた。
箱にはマジックで【良仔蟲】と書かれている。

『テェ……久しぶりに広いおうちテチ。ゴシュジンサマありがとうテチ!』

箱の中を嬉しそうに走り回る半端禿仔実装を無視して、メイは次の個体の選別に移る。
次に取り出されたのは、服は少し破れているが髪は揃っている仔実装だ。

「さぁ、挨拶して」
『何言ってるテチ、オマエはワタチにゴハンを持ってくるドレイテチ?ドレイがワタチにアイサツしろテチ!』
「はい糞蟲」

そう言ってメイはその糞蟲を摘まみ上げる。

『痛いテチ!もっとていねいに扱うテチ、まったく使えないテヂィッ!?……何するテチこのクソニンgテチャァッ!?』

メイはイゴイゴして喚くそいつを軽くデコピンして黙らせると、左に置かれた【糞仔蟲】と書かれた箱に放り込んだ。

「次は……」
『テチュ~ン、テッチュ~ン』
「……」

メイに向かって媚びながらウインクするその仔実装を、黙って【糞仔蟲】の箱に放り込む。
このようにして「Eランク実装石」を「良蟲」と「糞蟲」に分けていく。
なお、箱の中で仔実装が潰されないように成体と仔は別の箱にしている。

30分ほどで分別が終わり、良蟲:糞蟲は7:3といったところだった。
意外に糞蟲が少ないのは、生まれつきの糞蟲は出荷時にはねられることが多いのが理由だ。

「さ、これで分別は終わりだ。処理に移ろうか……虹浦くん、成体の方の箱を頼める?」
「はいよ、任せてくださいよ支店長!」

敏明は威勢良く返事をすると、【良蟲】と書かれた大きな箱を抱え上げた。
揺れる箱の中では、良蟲たちがびっくりして鳴きながら、しかし何やら期待に満ちた声を上げる。

『ワタシたちついに飼いになれるデスゥ?』『お利口にしてたからそうに違いないデス!』『嬉しいデスゥ!』

などなど……良蟲と言えど幸せ回路は働くわけで、都合の良い妄想に浸る鳴き声が聞こえてくる。
そして敏明は、【良仔蟲】と書かれた箱を抱えたメイに続いて隣の部屋へと向かう。

「じゃ、スイッチ入れて」
「はい!」

部屋に置かれた装置のスイッチを敏明が入れている間に、メイは箱から成体実装を取り上げる。
メイにとってその良蟲は、髪の一部が抜けていたが性格は大人しく、Eランクの中では扱いやすい個体だった。
一瞬だけメイの動きが止まる。

『ゴシュジンサマ?……デデ?新しいゴシュジンサマはどこデスゥ?』
「……そんなもの、ここには居ないよ」

だが、メイは小さくそう呟くと、装置の上部にある投入口にその個体を放り込んだ。
装置が実装石の投入を感知し、重い音を立てて動き始める。

『デッ、デギィィィィィッ!?』
————ミヂミヂミヂィッ
『デギガガガベビュッ!?』

この装置……大型実装ミンサーは、成体実装でも服や髪ごと挽肉にできるマシンだ。
分別に続いて行われるのはこの処理……良蟲を挽肉にすることだった。

『デデッ!?今の悲鳴は何デス!?』『ワタシたち飼いになるんじゃないんデス!?』『凄い悲鳴だったデス!』
『怖いテチィィィ!』『ワタチを元のおうちに戻して欲しいテチャアッ!』『良い仔にするから助けテチィ!』

悲鳴を聞いた良蟲たちが、箱の中で騒ぎ始める。
だがメイと敏明はそんなことには構わず、逃げ惑う良蟲を捕まえては装置に投入していった。

『なんでこんなことになるデデギャアアアアアアッ!』ミヂミヂミヂッ
『怖いテチ、怖いテヂィィィィッ!?』ミヂミヂミヂュ
『ワ、ワタチもっと良い仔にするテチュ!だからゆるヂィィィィ!』ミヂッミヂヂミヂッ
『た、たすけデヂャヂャヂャヂビャ!』ミヂミヂミヂヂィ

ある個体は足から、ある個体は腕から、またある個体は頭から。
そして、ミンサーの速度が遅めに設定されているため、どの個体もゆっくりと挽肉にされていった。
ゆっくりストレスを与えながら挽肉にすることで、味付けなどしなくても旨味のある実装ミンチになるのである。

30分ほどで全ての良蟲を挽肉に変え、"選別"は終了した。
メイと敏明は挽肉を大型タッパーに詰めて冷蔵庫に保存する。
こうしておけば、あとは明日の朝の担当者が小分けして、Eランク実装石の餌として与えてくれる。

「しかし店長……Eランクとは言え良蟲を処理するのはちょっとアレでしたね」
「仕方ないよ虹浦くん。実装種愛護法のせいで、Eランク実装石もちゃんと取り扱わないといけなくなるんだから。
 でも、たくさんいるEランク実装全てをそんな扱いしていたら店は成り立たないから何とかしないといけない。
 そこで本店のエライ人が、実装種愛護法の補則にある『糞蟲は適用外(意訳)』って部分に目を付けたみたいだね。
 Eランクの中でも糞蟲だけを残して、今までと同じ劣悪な環境で陳列するってわけさ」
「なるほど、それなら今までどおりの状態で販売を続けられますね」

実装種愛護法の施行に合わせ、各地の実装ショップではこの「ジッソー」と同じような処理を行う店が多く見られ、
実装ショップで売られる「Eランク実装石」は、全て糞蟲な個体が占めることになった。
本当は良蟲な「Eランク実装石」は糞蟲認定しミンチに。そうすれば後で良蟲と判明して問題になることもない。
本当に糞蟲な「Eランク実装石」は実装種愛護法の適用外なので、今までと同じ劣悪な環境で店に並べる。
つまり「Eランク実装石」は全て「糞蟲」というわけである。

とまぁそんな背景があって、支店長のメイは本店からの指示で"選別"という仕事を終えたのだが。

「……ところで虹浦くん、明日は休みだよね。一緒に食事でもどう?……奢るよ?」
「あ、いいんですか。お願いします!」

既に五月メイの関心は、近頃よく働いてくれて好意を持っている虹浦敏明と親しくなることに向けられていた。

  *  *  *

・影響その2 ある飼い実装の変貌

ある土曜日の午前中。
虹浦敏明は自宅の玄関で、妹のレン(20)に声を掛けていた。

「じゃあ出掛けてくるからな。夕飯はいらないから」
「はいはい、デート楽しんでらっしゃい兄さん」
「支店長とは別にそういう仲じゃねぇよ、勘違いすんな」
「いいから早く行きなよ、遅刻するよ」
「戸締りちゃんとしろよ。じゃ、行ってくる」

敏明が行ってしまうと、レンはやれやれといった様子で大きく息を吐いた。
両親を亡くしてから兄妹で暮らしてきたけど、兄さんも結婚か。支店長ってどんな人だろう……などと妄想している。
と、その思考を遮るように、飼っている実装石のリーフの鳴き声が聞こえてきた。

「はいはい、ご飯だね。ちょっと待って!」

虹浦家では、実装石のリーフと実蒼石のソラを飼っている。
リーフは1年半前に家の前に捨てられていたので拾って育てた仔だ。
初めは捨てられていたことを認めないなど少し思い込みが強いところがあったが、
丁寧に言い聞かせて理解させた後は、ちゃんと懐いてくれた。
成体になった今でも、居間に設置された実装サークルの中で平和な飼い実生を謳歌している。

一方のソラは敏明が働く「ジッソー」の商品で、去年お客に買われたのだが、性格が気弱すぎて返品されてしまった。
そして再教育のために本店に返されそうになったところを、可哀想だからと敏明が買い取った。

リーフとソラは実装石と実蒼石という関係ながら、結構仲良くやっていた。
しかしその平和な時間は、今まさに終わろうとしていた……。
レンが実装フードの袋を持って、実装サークルがある居間に入ると、ソラがレンの方を見上げて鳴いた。

『イモウトさん、リーフの様子がおかしいボク!』
「リーフが……?」

ソラが指し示す先に視線を移すと、リーフがサークルの格子を掴んでガタガタ揺らしている。
レンが近寄り声を掛けると、リーフはレンを見上げて鳴き叫んだ。

『デジャアアア!ワタシのタイグウカイゼンを要求するデスゥ!』
「ちょ、ちょっと、どうしたのリーフ!?」
『ジッソーシュアイゴホーデスゥ!テレビで言ってたデスゥ!』

実装種愛護法……そう言えばここ数日ニュースでよく流れていたなぁと思い出すレン。
劣悪な環境で飼育すると罰せられるとかあった気がする。
でも、うちの飼育環境はそんな劣悪じゃないし関係ないよね、そう思っていたのだが。

水槽ではなく実装サークルで飼育し、実蒼石のソラと一緒とは言え多頭飼いと言うほどでもない。
餌はレギュラーグレードの実装フードと、たまにはご褒美のおやつも与えているし、トイレもまめに掃除している。
オモチャだって数種類買い与え、時々新しいのと取り換えている。服もお風呂に入れる時に一緒に洗ってあげている。
平日の日中はリーフとソラだけで留守番させているけど、でも週に一度はハーネスを付けて散歩に連れて行っている。
愛護派と言ってもいいくらいの飼い方なのに……。

「何が不満なのよリーフ!?」
『ずっとずっと同じゴハンデスゥ!アイゴホー違反デスゥ!
 ずっとずっと同じお服デスゥ!アイゴホー違反デスゥ!
 毎日毎日オリの中デスゥ!アイゴホー違反デスゥ!
 もうオトナなのに仔を産む許可が貰えないデスゥ!アイゴホー違反デスゥ!』
「ちょ、ちょっと待ってよ!何で急にそんな!?……ソラ、一体何でこんなことになったの!?」

ソラは少し考えていたが、やがて思い出したように口を開いた。

『リーフはここ何日か、そのアイゴホーのニュースがテレビでやるたびに熱心に見ていたボク。
 そしてマスターたちが昼間出かけている時は、じっと考え込んでいることが多かったボク』
「うーん、ここ数日は特に大人しいなと思っていたけど、愛護法のニュースなんて気にしてたのか。
 それにしても、思い込みの強いところはあったけど、また随分と極端に影響されたもんね……」
『そうボク、リーフいい加減にするボクゥ』

ソラがリーフの肩に手を置いてたしなめようとしたが、リーフはその手を払いのけた。
そして、四つん這いになって歯を剥きだし、ソラとレンを威嚇する。

『デシャア!ワタシはガマンを強いられていたんデシャアアアア!タイグウカイゼンしろデジャアアアア!』
「これは手に負えないなあ……ソラ、こっちおいで。サークルから出よう」

レンはこのままではソラに危害が及ぶかもしれないと思い、ソラだけを抱えてサークルから出した。
元より実蒼石は普通に室内で放し飼いができる実装種なのでサークルに入れておく必要はなかったのだが、
リーフを寂しがらせないために一緒にサークルで飼っていたに過ぎない。
こうしてリーフがおかしくなった今、一緒にしておく理由はなかった。
だがソラだけがサークルから出されたことは、リーフにとっては格差を感じさせる結果となった。

『デジャーーーッ!どうしてそいつだけ外に出すんデジャアッ!
 やっぱりワタシは騙されていたデジャアア!アイゴホー違反デズァァァァァ!』

リーフはそう叫びながらいつの間にかこんもりしていたパンツに手を突っ込むと、
格子の外にいたソラに向かって手にしたウンコを投げつける。
突然の出来事にソラは避ける間もなく、その服に緑の染みがべっとりと付いてしまった。

『ボクッ!?』
『デププッ、これでオマエはドレイデズゥ!ワタシはドレイもちのセレブな実装石になったデズゥ!
 デピャピャ……!これで少しはタイグウがカイゼンされたデズゥ!』

糞蟲気質が完全に開花したのか嬉々として笑うリーフだが、投糞はやりすぎであった。
服を汚されて涙目になるソラを見て、レンは大きく息を吐く。

「ふぅ~~~~~~っ……良い子だと思ってたけど、これはもう糞蟲だよね」
『おいそこのニンゲン、早くそのドレイをこっちによこすデス』
「ねぇ知ってる?あんたの言ってた実装種愛護法ってさ、糞蟲には適用されないんだよ?」
『早くするデス!そいつにはワタシの椅子になってもらうデス!蒼いってだけでちやほやされてナマイキだったデス!』
「つまり、糞蟲はどんな酷い扱いをしても構わないってことなんだよね」
『何をごちゃごちゃ言ってるデス!ワタシはアイゴホーで守られているデス!』
「わかんないかなぁ……?じゃ、まぁいっか!」

そう言うと、レンはリーフの右腕を掴み、一気にねじった。

————メキッ
『……デギッ!?』

爪楊枝を折る時のような感覚と共に、リーフの右腕が関節ではない部分から明後日の方向へ曲がる。

『デッ……デギィィィィィ!?』
「うるさいよ糞蟲」
————グギッ
『ジャアアアアアアッ!』

悲鳴を上げて尻もちをつくリーフを冷めた目で見たレンは、続けてリーフがイゴイゴさせている左腕をへし折る。

『デジャアアアアアア、アッアイゴホー!ワタシを守るデヂィィィィッ!』

リーフは血涙を流して悲鳴を上げ、尻もちをついたままパンコンして足をジタバタさせている。
レンはそんなリーフを見下ろしながら、冷たい口調で言った。

「愛護法が何なのかも知らないクセに、自分が無条件に守られる存在なんだと勘違いしちゃって……。
 ショップで実装石と接してると、どうしようもない糞蟲はよく見かけるって兄さんが言ってたけど、
 お前もその類の子だったんだねぇ……今まで見抜けなくてごめんねぇ。
 さて、もうお前は要らないから処分しちゃおうと思うんだけど……ねぇ、ソラ?」
『ボ、ボクッ!?』

それまでレンの様子を怖々見つめていたソラは、レンにいきなり呼びかけられて慌てて直立不動で返事をした。

「ソラに、こいつを処分して欲しいなぁって、私は思うんだよね」
『ぼ、僕がするボクッ!?』

つい今朝までは仲良く暮らしていたリーフを、僕が始末するボク……?
けどマスターのイモウトさんの命令であり、やらなければ僕も糞蟲として処分されるかも……。
でもリーフは僕と一緒にお散歩したり、遊んだりした仲なのに……でも、なのに、たった今うんちを付けられたボク。
そう、リーフはおかしくなってしまったボク。ならばニンゲンさんの言うとおり処分するのがリーフのためでは?

一瞬の間にソラの中で様々な葛藤が生じる。
ソラは元々気が弱くて実装石を鋏で切ったことなどなかったが、友人だと思っていたリーフの豹変が、ソラを変えた。

『や……やるボクッ!』
「よし、良い子ね……!」

レンは鋏を取り出したソラを抱え、サークルの中に戻した。
未だイゴイゴしているリーフは醜い泣き顔でソラに向かって叫ぶが、ソラはそれを無視して鋏を構えた。

『クソドレイ、そのクソニンゲンを早く鋏で切るデジャアアア!』
『リーフ……せめて一撃で終わらせるボクッ!』
————シャキン!
『ヂッ……!』

ソラの鋏の一閃で、リーフの首は床に落ちた。
先程まで糞蟲の鳴き声が騒がしく響いていた居間が静寂に支配される。

「偉いよソラ……よくやった」
『ボクゥ……』
「さて、兄さんはこれからデートだろうから知らせるのは後にして、部屋を片付けようかな」

レンは役目を果たしたソラを誉め、リーフだった肉塊を袋に詰め始める。
そしてソラもまた、汚れた服を浴室で洗い始めるのだった。

後にこの日のことを思い返す時、夜遅くに血相を変えて帰宅した敏明への説明が面倒くさかったなぁと、
今ではリーフのことを忘れたように楽しげにソラと戯れる兄の姿を見ながら、レンはいつもそう思うのだった。

  *  *  *

・影響その3 公園の野良一家の末路

日曜日の午前中、メイは近所を散歩していた。
昨日のデートは思ったよりも盛り上がったが、遅くまで飲み過ぎてしまった。
今日は午後から出勤なので、その前にやや二日酔い気味の体調をスッキリさせておこうというわけだ。

「それにしても敏明くん、おうちの方で何かあったみたいだけど、大丈夫なのかな?
 ペットの実装石がどうとか言ってたけど……」

まぁ詳しい話は後で聞けばいいかと思いながら道を歩いていると、近所の公園に差し掛かった。
まだ朝と言っていい時間だというのに、公園では子供たちが元気に遊びまわっている。
中でも目に付いたのは、公園の入り口付近で数匹の実装親子を取り囲む少年たちだ。
一人の少年が棒で親実装を小突きながら何事か喚いている。
メイは彼らの側に駆け寄ると、棒を持った少年を制した。

「こらこら君たち、動物を虐めるのは……いや、実装石は準動物だったか。
 とにかく、昨日から実装種愛護法が始まったんだよ。虐めるのはやめなさい」
「なんだよオバサン!邪魔すんなよ!」
「ちょ、淳くんマズイよ!」
「……。いや、邪魔とかそう言うことじゃなくてね、そんなことしたら可哀想でしょ」

友達から淳くんと呼ばれた少年にオバサン扱いされ、メイは一瞬だけ顔を引きつらせたが、すぐに立ち直って注意を続ける。
だが淳くんは、緑色に汚れた自身の靴を指差しながら言葉を返してきた。

「見ろよ、俺の靴がこいつらのウンコで汚れたんだ。だからこいつらは糞蟲だから、虐めてもいいんだよ!」
『そのクソニンゲンがワタシの仔を踏み潰しやがったデスゥ!クソはそっちデスゥ!』
『オネチャをかえせテチィィィィ!』『レェェェェン、レェェェェェン!』

足下で泣いている親実装が、淳くんの言葉を聞いて猛抗議してくる。
なるほど確かに少年たちの近くの地面には緑と赤の染みが出来ている。
ついでに仔実装と親指実装が一匹ずつ近くで泣いているが、これは踏み潰された仔実装の妹だろう。
メイはその場にしゃがんで淳くんに視線を合わせると、優しく問い掛けた。

「えっと、淳くんだっけ?」
「気安く呼ぶなよオバサン。なんか文句あるの?」
「まぁ、文句はあるけど……ひとつだけ確認ね。君はわざとその仔実装を踏み潰したのかな?」

もし「そうだ」と答えたら、ちゃんと叱らなければならない。
メイはその決意を胸に質問したのだが……。

「あ?ちげーよ、鬼ごっこしてたら足下にその糞蟲が飛び出してきてさー!」
『だからクソはオマエデシャアアアアア!』『オマエテチィィィィ!』『レチャアアアア!』
「うっかり踏みつぶしちゃったんだよ。それで買ってもらったばっかの靴なのにウンコついちゃってさ。
 だから親の方を棒で突いて仕返ししてたんだ」

わざとではない。ならば仔を踏み潰したことについては仕方ないことだろう。
誰しもうっかり虫を踏み潰してしまうことはあるものだ。

「よし、仔実装をうっかり踏み潰したのはわかった。それは仕方ない」
『何が仕方ないデシャアァァッ!ふざけるなデスクソニンゲンンン!』『仕方なくないテチャーッ!』『レェェェン!』
「それから……」

メイは野良親仔を見下ろすと、近くに落ちていた石を拾って親実装の片脚を潰した。

『デギィィァァァァッ!な、何するデズゥゥゥ!』『ママに何するテチィィィッ!』『レェェェン、レェェェン!』
「人間に暴言を吐くのは糞蟲だから、残りの親仔を潰すのも何の問題もないことがわかったよ」
「お、おぅ。わかってくれたかオバサン」
「うん、でもね、糞蟲を虐めるなら逃げられないように工夫した方がいい。逃げられちゃつまんないでしょ?
 それから……確かに私はオバサンと呼ばれてもおかしくないアラサーだけど、ギリ20代なんで"お姉さん"でよろしく。
 じゃ、これ以上邪魔はしないよ。気をつけて遊びなね」
「おぅ、じゃあなオバs……お姉さん」

メイは最後に淳くんをじっと見据えると、その場を後にした。

『や、やめるデス、今なら許しデッ……デギィッ!』

聞こえてくる泣き声に、背後を振り返り立ち止まるメイ。
親実装は右目に棒を突き刺され、両腕をイゴイゴさせて悲鳴を上げている。

『ママを放すテチィーッ!……テヂャッ!』
『レェェェェェェン、レェェェェェェェン!』

仔実装が淳くんの足にぽふぽふと手をぶつけているが、当然のごとくダメージはない。
それどころか邪魔だとばかりに蹴転がされた。親指は髪を毟られ火がついたように泣き喚いている。

『デジャ!デジャァーーッ!』『マ、ママーッ!』『レヒッ……レッレッ……(パキン』

服を破かれて絶叫する親実装、仔実装の悲鳴、そして髪を毟られたショックからか親指の偽石が儚く割れる音。
二日酔い気味だったメイの体調は、いつの間にかスッキリしていた。

「うん、午後からの仕事、頑張るぞ!」

  *  *  *

「実装種愛護法」施行後も、「糞蟲」は今までどおり虐待され続けた。
一方で糞蟲ではない個体は待遇が改善されることもあったが、何らかの理由を付けて「糞蟲」と認定されてしまい、
結局は糞蟲と同様に虐待されるものも少なくなかったという。
結果的に見れば、「実装種愛護法」は実装石全体の生き死ににはさほど影響を与えなかったと言える。

なお、メイと敏明はデートをきっかけに交際することになり、1年後に無事結婚したとのことだ。


終わり

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1 Re: Name:匿名石 2025/05/31-10:13:47 No:00009669[申告]
そりゃ今まで通りにしたい側としては面倒が増えるだけだし基準も曖昧なら厄介なのはさっさと処分したいよね
しかし既に処分した実装石の為にデート中断して帰ってくるなんて敏明は余程リーフを大事にしてたんだな(仕事で良蟲のレアリティを認識してたのかも
2 Re: Name:匿名石 2025/05/31-19:21:00 No:00009671[申告]
実装石なんてペットにしろ畜産にしろ数が勝負の消耗品だからね結局
中途半端に狡賢いだけの視野が狭い実装石なんて権利の一側面しか見れないから猛毒にしかならん法だ結局
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