自然派にとって金平糖なんて毒デス ----------------------------------------------------------------------- とある一軒家の片隅にて。 『ママ、背中がかゆいチチ・・・』 『ママが痛いてあげるデス。ほら、背中をこっちに向けるデス・・・』 自身の身体の痒さを我慢して、指も爪もない手で丁寧に仔の背中を掻く様は仲の良い親仔のスキンシップと見えなくもないが、その実情は少しばかり深刻だった。 『もうずっとかゆいのが続いてるテチ・・・』 飼い実装のミドリ一家の身体の痒みはもう1か月ほど続いており、背中は赤い発疹だらけだった。 それどころか、ところどころ血と膿が滲み出しており、実装服には汚い染みがあちこちに出来ている。 『またご主人サマにお願いしてみるデス。それまで我慢するデス・・・』 ミドリの飼い主の敏子は、少々度を超えた自然派だった。 結婚後に怪しげなウェブセミナーの影響を受けて自然派に目覚めた敏子は、添加物を片っ端から悪と決めつけて一切使おうとしなくなった。 その極端な姿勢に夫からは完全に愛想を尽かされて離婚され、実家に出戻る羽目になっても、その考えは改まるどころかむしろ悪化していった。 両親は共に介護付き老人ホームへと入居していたため実家は空き家となっており、止める者がいなくなった敏子は自然派としての行動を更にエスカレートさせていった。 寂しさを紛らわせるために買った実装石のミドリにも、それは適用された。 餌は実装フードではなく有機栽培の野菜ばかりが与えられたため、ひどく味気なかった。 金平糖などもってのほかとされ、敏子に飼われて以来一度も口にしたことがない。 それでも、意図しない妊娠によるものとはいえ、仔を持つことを許してくれた敏子に、ミドリは感謝していた。 (恐る恐る妊娠を報告したミドリは、自然に出来たのならば仕方ないとあっさり許され、むしろ拍子抜けしたくらいだった) 餌が有機野菜ばかりのためか、産まれた三匹の仔はいずれもあまり発育が良くなかったが、それでも糞蟲化することなく良い仔に育ち、ミドリはシアワセを感じていた。 だが、そんなシアワセは長くは続かなかった。 夏を過ぎた頃から、家族揃って謎の発疹が現れたのだ。 ミドリは痒みを訴える仔達の状態を敏子に報告していたが、敏子は獣医に連れて行こうとはしなかった。 身体に良い有機野菜しか与えていないのだから、そのうち自然治癒するだろうと根拠もなく楽観視していたためだ。 実際のところ、有機野菜しか与えられていなかったミドリー家は栄養不足により免疫力が極端に低下しており、普段ならば症状など出ない細菌にすら容易に感染する有様となっていた。 「おいでミドリ、お風呂の時間よ」 『デェェェェ・・・』 『お風呂はいやテチィッ!』 『すごく痛いことになるテチ!もういやテチィ!』 『もういじめないでほしいテチャァ!』 口々に嫌がり逃げようとするミドリ達を無理やり風呂場に連れて来た敏子は、ミドリ達の実装服を脱がせると、いつものように塩水による手当をおこなった。 ところどころ血と膿が滲む身体に、揉み込むように塩水でマッサージする敏子。 『デヒィィィィィィィィッッ!』 ミドリは歯を食いしばって耐えるが、痛いものは痛い。 ミドリの次は娘達の番だ。 『止めテチ!助けテチ!』 狭い風呂場の中を逃げようとするがあっさり捕まり、ミドリと同様塩水でマッサージされる。 『チヒィィィィィィィッッ!』 血涙を流して叫ぶ長女だったが、敏子は構わず塩水を擦り付ける。 『ヂッィイイイイイイイッ!?』 『テッチャアッアアァァァアッッ!?』 ほどなくして次女と三女も同様に塩水の洗礼を受けた。 ビクビクと痛みに痙攣する娘達の頭を撫でながら、ミドリは敏子に懇願した。 『ご主人サマ、娘達が全然良くならないデス・・・お願いだから、どうにかして欲しいデス・・・』 「大丈夫よ、身体には自然に治る力がちゃんとあるんだから。そのうちきれいなお肌に戻るわよ」 『デェェェェ・・・』 またもしてまともに取り合って貰えなかったミドリは、がっくりと肩を落とした。 いつも通り有機野菜のみの夕食を摂って眠りに就こうとするミドリー家だったが、娘達は痒みのためなかなか寝付けないようだった。 『ママ、かゆすぎて眠れないテチ・・・』 『身体中ぐじゅぐじゅで気持ち悪いテチ・・・』 『せっかくお風呂入ったのに身体も服もベタベタテチ・・・』 見かねたミドリは敏子に何とかしてくれとお願いしに行くが・・・。 「そういう時はこれで冷やすといいのよ」 とキャベツの葉を数枚渡されるだけだった。 こんなもので仔の痒みを癒せるのか?とミドリは疑問を抱いたが、何もしないよりはマシかと思い返し、言われたとおりキャベツの葉で仔達を包んでいった。 『ママ、これに何の意味があるテチ?』 『・・・こうしておけば少しは痒みが収まるとご主人サマが言っていたデス』 長女のもっともな疑問に、ミドリは主人に言われたままの答えを述べるが、ミドリ自身そんなことはまったく信じていなかった。 ミドリの娘達の症状は日に日に悪化してゆき、ついには起き上がることさえ出来なくなった。 細菌が皮膚どころか内臓にまで達しており、多臓器不全を起こしかけていたからだ。 身体中から滲み出た血と膿、そして垂れ流し状態の糞で汚れ切った布団に横たわりながら、ミドリの娘達は苦しみ続けていた。 『・・・ママ』 三女が力なくミドリを呼ぶ。 食事を与えても吐いてしまい、衰弱する一方の娘達だったが、ミドリにはどうすることもできなかった。 今も頭を撫でて落ち着かせてやることしかできない。 何より、当のミドリでさえ痒みや発熱や倦怠感で体調がひどく悪かった。 『ワタチ、一度でいいからコンペイトウを食べてみたいテチ・・・』 幼いながらも本能的に自身がもう長くないと悟ったのだろう。 三女は滅多に言わないワガママを口にする。 『ワタチも食べてみたいテチ・・・』 『ママ、せめて妹チャン達の分だけでいいから食べさせてあげテチ・・・』 次女と長女が口々に続く。 『分かったデス。ご主人サマにお願いしてみるデス・・・』 ミドリは調子が思わしくない身体に鞭打って、敏子の元へ向かい懇願した。 『ご主人サマ、お願いデス・・・ ワタシの仔達はもうあまり長くはないと思うデス。だから、せめて最後にコンペイトウを食べさせてあげたいんデス・・・』 コンペイトウ、という単語が耳に入った途端、敏子の顔が険しくなる。 「駄目よ、金平糖なんて。あんな砂糖の塊を食べる方がよっぽど身体に毒だわ!」 『デェエエエ・・・』 「身体にはね、自力で病気を治そうとする力がちゃんと備わってるの!」 『でも、ワタシの仔達は・・・』 「身体に良いものしか食べてないのに変な病気になんてなるわけないでしょ!?何か隠れて変なものでも食べてたんじゃないの!?」 敏子の一方的な決めつけと糾弾に、ミドリの心は諦観で塗りつぶされていった。 失意にうなだれたミドリが仔達の元に戻る。 叱責したものの、さすがに心配になったのか敏子もミドリの仔達の様子を窺いに来たが、垂れ流しになっている糞の臭いに顔をしかめた。 「そんな不潔な状態にしていたら駄目よ。きれいに洗ってあげるわ」 そう言って、敏子は三匹の仔をキッチンへと持ってゆく。 衰弱が激しいのか三匹の仔は嫌がって逃げる事すらできない様子だった。 「まずはお塩で消毒してあげないとね」 衰弱が最も激しい三女の服を脱がせようとするが、血と膿でベタつく実装服は容易に脱がせることができない。 『チヂィィイッッ!?』 無理やりに脱がすと、膿み爛れた皮膚が服に貼り付いたまま剥がれてゆく。 生皮が剥がれて筋肉がところどころ剥き出しになった状態の三女に、敏子はたっぷりと塩を擦り込んだ。 塩水では効果が無かったので、直接塩を塗り込めば効くだろうと思っての行動だった。 「テッチャァァァアッアツアァアァァァッッ!!??』 確かに効果はあった。 ただし、治療としてではなく拷問としてだが。 衰弱により朦朧としていた意識は激痛により呼び起こされ、とうとう限界を迎えた。 断末魔の悲鳴に混じってパキンッ!という乾いた音が響き、三女はビクンッと大きく震えた後は二度と動かなくなった。 『三女!?三女オオオオオオオッ!?」 ミドリが叫ぶが、キッチンの上では手が届かない。 『イヤテチャァ・・・、痛いのはイヤテチャァ・・・!』 三女の最期に恐れおののいた次女が、キッチンを這うように逃げようとする。 下でミドリがこちらを見上げているのに気付いた次女だったが、ミドリの顔を見て気が緩んだせいか足を滑らせ、キッチンから落下してしまう。 『テヒャアッ・・!?』 『次女ォッ!?』 ミドリは抱き留めようと手を伸ばすが、次女はミドリの腕先を掠めて床に叩きつけられ、汚い染みと化した。 『ヂッ!?』 『次女オオオオオオオッ!?』 目の前で赤と緑の肉塊と化した次女に、ミドリは絶叫を上げる。 飛び散った次女だったものを指の無い手で必死にかき集めるが、悲劇はそれだけに留まらない。 『テ・・・テベッ・・・ディッ・・・』 妹達の無残な最期に、精神と肉体の双方に限界を迎えた長女の偽石が砕け散った。 『長女!?長女!?返事をするデス!!』 パキンッ!という音を聞きつけたミドリが何度も長女に呼びかけるが、無論返事が返ってくるはずもない。 『ワタシの、ワタシの娘達がああああああああ・・・・』 ミドリの働哭に、敏子はただただ動揺するばかりだった。 数日後。 娘達の全滅による心的ストレスと、娘達と同様に菌が内臓にまで達したことで、ミドリ自身も限界を迎えつつあった。 ぐったりと仰向けに横たわり、糞を漏らすがままになっていたミドリを、敏子は世話をするでもなくただ放置していた。 敏子自身も半ばパニックに陥って何をすべきか分からなかったためだが、本来治療が必要なペットを放置していたことに変わりはない。 デー、デーと荒い息を吐きながら、ミドリは朦朧としながらも娘達に詫びた。 『長女、次女、三女・・・。バカなママを許して欲しいデス・・・』 懺悔の言葉と共に、ミドリの偽石はパキンッと音を立てて砕け散った。 ミドリの死後も、敏子は自然派としての生活を改めることはなかった。 数年後、ごく初期の癌が発覚したものの、食事療法による治療に拘ったため悪化して全身に転移してしまった。 早めに切除しておけばすぐに完治したのだが、体調を崩して病院にしぶしぶ病院に行ったときにはもう後の祭りだった。 結果的に手遅れとなった敏子は、息を引き取るまでの数か月間を苦しみ続ける羽目になった。 ネットで昔読んだ自然派ママの話を元に書いてみました。 元にした話は大変胸糞でした。 https://w.atwiki.jp/doroboumama/pages/1640.html -- 高速メモ帳から送信
1 Re: Name:匿名石 2025/05/25-22:12:04 No:00009663[申告] |
飼い主のカルトっぷりになんか普通に実装親子に同情してしまった
砂糖が薬物っていうなら当然塩も薬物なんだがな |
2 Re: Name:匿名石 2025/06/01-05:04:28 No:00009673[申告] |
ウンチ以外の物を食べてて病気になるなんて軟弱な実装石デスぅ… |
3 Re: Name:匿名石 2025/06/01-05:47:00 No:00009674[申告] |
ウンチや生ゴミ、同族の肉、雑草や木の実
雑多な食生活している野良以下の食事だった訳だ むしろウンチは実装石にとって完全栄養食かつ離乳食な上糊口をしのぐ非常食にもなる素晴らしいもの安心して味わえ幸せ者達 |