「あ、やべっ」 俺、「」のスマートフォンのバッテリーが切れてしまった。 すると、横にいる俺の腐れ縁のダチである『としあき』が、何か企んでいる笑みを浮かべる。 「……なんだよ、としあき」 「いやー。スマホのバッテリーが切れてお困りの「」くんにいいものがあってね?」 こいつのこの言い方はムカつくが、スマホが使えないのは困る。 俺はとしあきの話に乗ることにした。 「で、としあき。何を出す気だ?」 「ふっふーん。こいつだ」 としあきが取り出したのは、一見ただのモバイルバッテリー。 だがこいつがわざわざその程度でここまで溜めるわけがない。 「これはな……『偽石式モバイルバッテリー』だ!」 聞いたことないな……。『偽石式』ということは実装石関係なのはわかるが。 「まあとりあえず、付けな」 言われるまま、俺はスマホに『偽石式モバイルバッテリー』を付ける。 ……確かに充電が始まった。その時—— 「デッ!?」 としあきの足元にいた、としあきの(虐待用の)飼い実装がわずかにビクッとなったのを俺は見逃さない。 「……なるほど、『偽石式』ね」 「気づいたか? そう、そのモバイルバッテリーな、こいつの偽石が入ってるんだ。 偽石を通して、こいつらの生体電流で充電する。……って仕組みらしいぜ!」 よくわかってないなこいつ……。 それにしても生体電流はわかるが、身体と偽石が離れていてもきちんと電流が出るってどういうことだ? 「さて、それだけで終わりじゃないぜ。モバイルバッテリー、よく見な?」 よく見るまでもない。付けるときに気づいている。 「これだろ?」 モバイルバッテリーの端、出力量調整と書かれた小さなレバーがある。 今の設定は『弱』だ。真ん中に『強』、反対の端に『最強』とある。 「もらった説明書に『最強は緊急時のみ』って書いてあったけどよ。試していいか?」 としあきはもうやる気の目で俺が握っているモバイルバッテリーを見る。 「はあ……。やってもいいけど、俺は責任取らない。としあき、お前がやれ」 俺は自分のスマホと付いているモバイルバッテリーをとしあきの手に乗せた。 「お、いいのか? スマホ壊れてもオレは責任取らんぜ?」 「はいはい」 としあきは楽しそうにしてるが、俺は結果がなんとなく読めている。 「よっしゃ、カチっとな!」 としあきがレバーを一気に『最強』にする。 その瞬間……。 「デデデデデッ!?」 としあきの飼い実装がすごい勢いで震えだす。 「デギャギャギャ!?」 ついに……。 「デギャー!!」 倒れこんだ。それと同時に……。 「ん?」 としあきの持っていたモバイルバッテリーから「バキッ」と割れる音がした。 「え、あ、もしかして……?」 としあきがモバイルバッテリーの一部を開ける。 中に入っているのはもちろん偽石。それが割れていた。 「な、なんで……?」 「それはそうだろ。実装石の生体電流がどうなってるか知らないが、出力最強にしたんだ。 実装の生命力限界まで電力出したんだろ。それもそれでやばいけどな」 「やっべー、あきとし叔父さんに何て言おう……」 あきとしさんの借りものかよ……。 あの人、取材で実装石の新グッズを先に受け取ったりしてるけどさ。 としあきに貸しちゃダメだろ。……いや、勝手に取ってきたな? 次の日、俺はとしあきの巻き添えであきとしさんに怒られた。 それからしばらく後、『偽石式モバイルバッテリー』が正式発売された。 俺もさっそく買ってみた。 えっと、入っているものは……。 ・専用モバイルバッテリー本体 ×1 ・偽石摘出済み親指実装(睡眠状態) ×1 ・偽石 ×1 ・USBケーブル ×1 えっと、まず、ヒビなどがないか確認しつつ、偽石を専用のモバイルバッテリーにはめる。 ……これだけで準備よし。あとは付属の親指実装を起こして世話をするだけ、か。 俺は説明書をさらっと見る。 この前のとしあきの時の、強さ設定を見つけた。 『通常時は『弱』でご使用ください。 付属の親指実装が成長していない場合、『強』でも耐えきれない場合があります。 『最強』は実装石の命にかかわりますので、緊急時以外使用しないでください』 ……『強』でも耐えられない場合があるって、さすがに商品として問題ないか? その後、『偽石式モバイルバッテリー』は確かに売れた。 だが、よくわかっていない愛護派がこれを買い、モバイルバッテリーを使用して実装石が死亡する事例が多発。 これにより『偽石式モバイルバッテリー』はあっさり発売中止を迎えてしまった、とさ。
1 Re: Name:匿名石 2025/04/10-00:12:18 No:00009599[申告] |
夢のクリーンエネルギー |
2 Re: Name:匿名石 2025/04/10-19:23:16 No:00009600[申告] |
出先でサクッと偽石摘出できるタイプの方には便利かもしれない |
3 Re: Name:匿名石 2025/04/11-19:32:03 No:00009602[申告] |
時代に則した発想
リンガルすら使用せず「デ」だけで終わる飼い実装の心底どうでも良い感じ 説明書あってもやらかす愛護派とオチ 短いながら満足度高い要素詰まってて楽しい |
4 Re: Name:匿名石 2025/04/12-15:59:20 No:00009603[申告] |
説明書すら読まない愛護派は迷惑デスゥ |