あいつを飼い始めてから一週間たったが憶えたのは、ご主人様と自分の名前マクラだけだ。 糞は時々漏らす程度で、ある程度の改善は見えてきた。 ただ毎日こいつの立場を分からせる為に、躾をしているせいか、 俺の顔を見ると餌皿の陰に隠れ、脅えて俺の様子を見る様になった。 『マクラ!餌だぞ』 マクラは餌皿から顔を覗かせ、そろそろと這い出して来た。 家に来た頃に比べ、生意気な口も少なくなって来たが、 未だに一日一回位は、暴言を吐いて俺を怒らせる。 『何だ元気が無いな』 『ほれ、お前の好きなロールパンだ』 「レフゥ・・」 ロールパンを千切って水槽に置くと、マクラはぺちょぺちょと黙って舐め始めた。 おかしいな・・いつもなら餌だって言えば、飛びついて来るんだが。 俺が昨日、餌の時間にロールパン以外よこせとか言いやがったから、 画鋲で暫く止めて置いたのが効いたのか、それとも病気にでもなったか。 俺はPCの電源をつけて、いつものサイトを覗いた。 ここなら蛆実装の全てが分かるからだ、どれどれ病気病気と・・ 蛆実装は基本的には実装石の出来そこないなので、実装石に比べあらゆる所が弱く出来ている。 人間が掛かる感染症も全て掛かってしまい、風邪一つであっさり死ぬ事もある。 細菌やばい菌にも非常に弱く、外敵以外で生き残った蛆実装の殆どは、 1年を待たずに感染症に掛かって死んでしまう。 蛆実装の服には、それらを守るかなり弱いが皮膜に覆われており、 服が無いと言う事は即、蛆実装の生死に関わる。 長く服を着ていないと蛆実装は精神崩壊を起こし、短期間で死に至る。 本来実装石はデタラメ構造の生き物で、あらゆる感染症も自分の持っている抵抗力で、 感染どころか逆に細菌すら自分の栄養に取り込み、病気で死ぬ個体は殆ど見られない。 細胞レベルで見ると地球上の生物では、頂点に位置していると言っても過言ではない。 『ふーん・・病気って訳じゃ無さそうだしな』 『どれ、掲示板で質問でもしてみるか』 掲示板を覗いてみると、掲示板は盛況で自分の蛆実装の写真を上げて、 それを他の奴が可愛いとか羨ましいとか、書き込まれていた。 結局ここは愛護自慢の喋り場になっている、俺からすれば馬鹿らしくて見ていられないが、 愛護の振りでもすれば、こんな奴らでも俺の質問に答えてくれるだろう。 俺はこう打ち込んでやった(私の愛する蛆ちゃんが最近元気が無いんです、 餌もちゃんと食べています、病気でもなさそうです、何が原因か分かる人いますか) 小一時間して開くと、掲示板にはかなりの答えが入っていた。 中身は俺が虐待をしてるだとか、栄養がどうとか、俺に対する中傷文で埋め尽くされていた。 偉そうなこった、実装石に虐待も糞も無いだろうに。 中傷文の中に、一つだけまともな意見が入っていた、それにはこう書いてある。 あなたの蛆ちゃんは、精神的に追い詰められています、 たぶん飼い主の愛情に餓えているんだと思います。 あなたは蛆ちゃんを、虐待もしくは淋しい目に合わせていますね。 私の経験でも、同じ状態になった蛆ちゃんがいます、 仕事が忙しく構ってあげない日が続き、久しぶりに水槽を覗いたら死んでいました。 餌と水は自動的に給仕されていましたが、あまり口をつけた様子はありませんでした。 感情を出さなくなったら、それがシグナルです。 成る程な、あいつ一ちょ前に精神病になってたのか・・ そういや餌もここに来てから、ロールパンだけしかやってない。 躾の一環とか言ってまち針で穴だらけにしたしな、ぷにぷにも最近は意地悪して忘れてたな。 俺は答えを書いてくれた掲示板の相手に、 感謝の文と自分のアドレスを入れ、返信をすると考えてしまった。 ここの掲示板の愛護派を見ていると反吐が出る、さりとて虐待派ってのも考え物だ。 俺は結局、躾とか言って虐待していたのだろうか、俺の顔を見るマクラの顔はいつも脅えた顔だ。 しかし躾けは躾だ、バカなマクラはおだてればすぐに調子に乗る。 やはり躾けは必要な事だ、糞の垂れ流し、最低限でもこれだけは躾けなければ。 俺はマクラの水槽の前に行くと、後ろを向いてじっとしているマクラを呼んだ。 『マクラァこっちへ来い』 マクラは相変わらず俺が来た事を察知すると、餌皿に隠れた。 餌皿に隠れて頭だけを出す、マクラにすれば隠れているつもりの様だ。 『何逃げてんだよ、ほらこっちへ来いよ』 『俺はスキンシップって奴をだなあ・・』 摘み上げようとすると、マクラは必死に短い手足を使って餌皿にしがみつこうとする。 短い手足では餌皿を掴む事も出来ず、餌皿をひっくり返した。 ガシャン・・ 中身は何も入っていないから別に良いんだけど、脅えぶりは半端じゃ無いな。 つまみあげるとマクラは、俺の手でジタバタ暴れた。 「大人しくしてたレフ」 「針は怖いレフゥ!」 「痛い事はやめてレフ」 最近はいつも針の刑と言って、マクラにコイツを刺して躾をしていた。 急所は外して端っこに刺してたから、死なない程度に加減はしている。 俺はマクラを自分の机に置いてみると、マクラはキョロキョロと辺りを見回し、 何処かに隠れる場所を探している、机の上は物が何一つ無いんだよね。 面白いので暫く眺めていた、マクラは机の端まで来るとこれ以上行けない事が分かり、 端っこを延々と這っている、2週ほどした所で飽きたので俺は口を開いた。 『隠れる所は無い』 『俺が全部どかしたからな』 それでもマクラは俺から一番遠い所、机の後ろ角で震えている。 俺は少し頭にきたので、机の4角にまち針を刺した。 まち針は俺より恐ろしいんだろう、マクラは驚き机の真ん中に逃げてくる。 「レヒィ!」 マクラは俺の顔を上目遣いに見つめている、俺はマクラの体をひっくり返した。 ひっくり返され脅えているマクラのシッポに、俺は赤い頭のまち針で刺し止めた。 「レピャァア!」 「お尻いたい、お尻いたいレフゥゥ!」 俺はまち針をゆっくりと、奥まで差し込んで行く。 ズブブブ・・ マクラはまち針を外そうと、上半身を起こしてシッポのまち針を、何とか取ろうとする。 幾ら起こした所でまち針には届かない、この行為は躾で何度もやっているのに、 無駄な事がまだ分からない様だ。 俺はマクラの頭を軽くデコピンする、起こしていた頭を机にぶつけた。 マクラはそれでも文句を言わない、何かを話せばまたお仕置きが待っているからだ。 涙を流し俺を見つめ、下唇を噛み締め顔中に脂汗が光る、俺に無言で許しを請うているのだろう。 排泄腔から緑色の染みがじわりと滲んでくる、盛大に漏らせば即まち針の刑だ、 蛆実装では不可能に近い糞の垂れ流し禁止を、俺はマクラに義務付けていた。 別にマクラが何かをやった訳では無い、躾、いや勉強の時間なのだ。 ただ優しく教えてもバカなコイツでは憶えないので、痛みを一緒に覚えさせている。 『さあ今日は言葉遣いからだ』 『マクラも最近は色々憶えてくれて、俺も嬉しいよ」 『さて!朝起きたら、最初の挨拶は何て言うんだ』 マクラは目を大きく開き一生懸命考えている、汗をだらだらと流し始める、 間違えたら痛い目が待っている、それはマクラが一番知っている事だ。 マクラは答えが出ないようだ、俺は手に持ったまち針をマクラに近づけた。 「レフゥ!最初はなんて言うレフ!」 「知ってるけど言うのが怖いレフ!」 少しは考えた様だな、いきなりじゃ可哀相か、俺はヒントを教えてあげた。 『最初は、お、だ』 マクラは目を輝かせて答えた。 「おは・・おはようレフ」 「おはようレフ!おはようレフ!」 正解だよしよし、俺はマクラのお腹を優しく撫でてやった。 マクラも目を閉じて気持ち良さそうにしている。 『次だ!最後に言う言葉は何だ』 『これも最初は、お、から始めるぞ』 間髪いれずにマクラは答えた。 「何言ってるレフ?さっき言ったレフ」 「おはように決まってるレフよ」 「おはようレフ」 こんな簡単な引っ掛けに引っ掛かるとは、マクラの顔は正解と疑っていないんだろう、 ニコニコと笑みを浮かべ俺を見ている、そんな顔をしても間違いには違いが無い。 俺はまち針を掴むとマクラに近づけて行く、マクラの顔は一気に血の気が引いて行き、 その目はまち針をみつめ、悲鳴を上げて抗議をする。 「レヒィィィ!!」 「言ったレフ!言ったレフ!」 「答え言ったレフゥ!」 「酷いレフ!おかしいレフゥゥ!」 俺は無言でマクラの右肩あたりにまち針を指した、スブスブと差し込まれて行くまち針を、 マクラは恐怖の顔で見つめて、悲鳴を上げた。 「レピャァァァア!!」 「痛いッ!痛いレフゥ!」 「取ってレフ!お願い取ってレフゥゥ・・」 シッポに比べて上半身は痛みの感度が増すようだ、小さなマクラにしては大きな悲鳴を上げた。 半身を起こして小さな左手をぴこぴこ伸ばすが、まち針に触るだけで外す事は出来ない。 動けば動くだけ傷口に触れ痛みが増すだけなのに、 マクラは必死にまち針の丸い頭をぺちぺちと叩いた。 『答えはおやすみ、分かったな』 『次の質問に正解したら抜いてやる』 『こっちを向けマクラ』 「レフゥ・・」 俺の言葉を聞くとマクラは大人しくなった、一週間も同じ事をしている、ルールは憶えた様だ。 『次の質問は・・・』 『・・・・・・』 結局その日マクラは5箇所の穴を作って一日は終わった、 最初の頃は30箇所以上あけられ糞まみれだった。 最近は糞を噴出す事も無く、始めた頃から比べ格段の進歩だ。 俺はぐったりしているマクラの服を脱がせると、糞漏らしの検査をした。 抵抗する事も無く脱がせ確認をする、服には糞が滲んでいるが、これでも頑張った方だろう。 ウエットティッシュで、マクラの排泄腔を拭いてやるとマクラも気持ち良さそうだ。 「レフゥゥン♪」 俺は頑張ったマクラに、ご褒美をあげる事にする。 今まで家に来てからはロールパン以外は与えていない、金平糖を一個だけ与えた。 『今日は頑張ったな、ほらご褒美だ』 俺はマクラの前にコロンと金平糖を置いた。 最初マクラはこれが何なのか分からずにいたが、クンクンと鼻を近づけて俺の方を見た。 『何やってんだマクラ?』 「お前の欲しがってた金平糖だぞ』 「レッフゥゥン!」 「金平糖レフ!金平糖レフ!」 「始めて見たレフ」 DNAレベルでは憶えている金平糖も、見るのは初めてなのか? マクラは興奮すると裸のまま、金平糖にむしゃぶりついた。 「あまいレフゥ」 「甘いの食べたの初めてレフ」 「ほっぺが落ちるレフゥゥン♪」 金平糖に夢中のマクラを後にして、俺はさっきの掲示板を覗いて見ると、 受信トレイに親切なアドバイスをくれた人から、メールが入っていた。 ID「」様 はじめまして、ID「」こと「ミズキ」と申します。 丁寧なご挨拶ありがとう御座いました。 掲示板にて少し厳しくコメントしてしまいましたが、 実装石の事となると、どうしても押さえきれないのです。 気に障ったようでしたら、お詫びします。 あの時は、本当にそう思っていましたので・・・。 前置きが長くなりましたが、迷惑をおかけします。 これをきっかけに、実装石のお話でも出来たらと思います。 そもそも蛆実装の考えている事は・・・ メールには蛆実装を飼う時の注意事項や、どう接すれば健康でいられるのか、 蛆実装の考え方そのシステムまで、こと細かく書いてあった。 最後に自分のアドレスを書いて締めてある。 丁寧なメールだが、俺は何処かこのメールに引っ掛かる物があった。 実装石の本でも見たのか、体の構造まで細かく書いてある。 変だな・・愛護派なんてただ可愛がるだけで、自分に都合の良い事しか考えないものだ。 犬猫の例でも可愛がって邪魔になったら捨てる奴もいる、 無論全部の奴が、そうでもない事は知っている。 実装石に限るとそれも当てはまらない、そこら中で溢れている実装石は、 人間にとっては害獣でしかない、それをペットに飼っている奴を俺は信用できない。 蛆実装サイトの奴らも、俺からすれば気持ち悪い集団に見えた。 こいつらはペットの気持ちなんて考えてはいない、ただ懐いていれば可愛いだけなのだ。 ミズキと言うメールの相手も俺からすれば、サイトの愛護派と同じだと思っていたが、 メールには自分の実装石の事はおろか、愛情・・そう何かそう言う事がすっぽり抜けているのだ。 俺はこのメールの相手に興味を持ってしまった、 俺も自分の蛆実装を、可愛がるだけでは駄目だと思っている。 ちゃんとしたルールに従って、一緒に暮らせばお互いのトラブルも避けられる。 まあマクラからしてみれば、俺の存在は悪魔のように感じるかも知れない。 躾と称しての虐待も、マクラの糞蟲としての性格を変える意味もある。 机の上のマクラは金平糖を舐め尽くして、俺を見ている。 洗っておいた服にドライヤーをあて乾かすと、マクラに被せてやる。 洗い立てのきれいな服をマクラは喜んでいる、俺から見れば小さな喜びでも、 蛆実装のマクラにとっては、日ごろ過酷な中での安らぎの一時だろう。 「ふかふかレフ」 「気持ち良いレフ」 マクラを水槽に入れた、水槽には新聞紙が敷いてあり、新聞を千切って山にしている所がある。 マクラは慌てて千切った山に潜り込むと、不安げに俺の行動を監視している。 今はこんな状態だが、躾を憶えて行けば少しづつ環境を改善するつもりだ。 何かを憶えたら良い事があると憶えさせtれば、マクラの態度も変っていくだろう。 しかしそれにはマクラの矯正が成功すればの話だ、事実マクラは憶える事は憶えるのだが、 暫くすると忘れてしまう頭の悪さがある、俺も躾をしていて限界のような物は感じていた。 俺はミズキと言うメール相手に、お礼といま自分が行き詰っている事を書き込むと、 最後に自分の本当の事を書いた。 私は愛護派ではありません、躾の為なら虐待もしています、 べったりの愛護は私には向いていません、あなたは私に文句があるかもしれないが、 自分は変えるつもりは無く、軽蔑するなら好きにして下さい。 メールを送ると淋しい気もしたが、少しほっとした。 このままメールのやり取りをしても、いずれはボロが出てくる。 罵られて終わるより幾分かは楽だろう、それに俺はどっちかと言うと人付き合いが苦手で、 一人でいる方が安心する、マクラを飼っているのも、人と付き合うより楽だからだ。 あれから一週間が過ぎたが、マクラとの関係はあまり変らなかった。 相変わらず物覚えが悪く、改善もあれから行っていない。 未だに俺を避けるように隠れ、じっと監視を続けている。 メール相手からも連絡も無く、俺は完全に行き詰っていた。 そんな折ミズキから一通のメールが届いた。 -------------------------------------------------------------------------- 前後編じゃなくなりました、方向もなんか違った方へ・・・ 頭空っぽにして書いてまして、なに書いてんだ俺って感じです。 後編では完結します。
