「残された日記2」
解説
小夜の父親は都内の有名大学に行く為に、初めてこの街を出て一人暮らしを始める。
おりしも時代は高度成長期、煩雑だが魅力的な都会暮らしに心を奪われた。
勉強自体も疎かになり、学生のまま5年目を向かえ実家からも仕送りが途絶えた。
実家からすれば大学の卒業などは、どうでも良い事で、
暮らせなくなったら帰ってくるだろう、その程度だ。
父親は仕送りが途絶えても帰らなかった、田舎に比べ魅力的な暮らしをやめるくらいなら、
実家と縁を切ってでも、一人で生きて行こうと思った。
そして父親は初めて自分から仕事を始める、仕事は繁華街のビラに張られていたバイトだった。
仕事の内容は当時流行っていたキャバレーのボーイで、金もそこそこ良かった。
仕送りでなく自分で稼いだ金、父親は昼間は大学に夜はバイトと充実した生活を送った。
そんな折、キャバレーで働く一人のホステスと仲が良くなった。
女からすれば、有名大学に通っている実家が金持ちのボンボン、手なずける事は簡単だった。
女は父親のアパートで同棲生活を始め、父親の為に甲斐甲斐しく働いた。
一年後女は父親の子供を身ごもった、父親は大学を辞め昼間も働き、
何とか暮らしていたが、子供が生まれて3年目に実家から便りが届く。
内容は跡を継いだ兄が急死した為、すぐに戻って来いと言う内容だった。
父親は今更、実家に戻る気は無かったが、女が勝手に返信の手紙を送り、
結局実家に戻る事になった、女からすれば大学も出ずに、
まともな職にも就いていない男には何の魅力も無い、実家の金が目当てだった。
帰った父親を見て祖父は驚いてしまう、一見しただけであばずれ女と分かる女と、
手には子供を連れて、やせ細った息子が立っていた。
女は家に着くなり祖父に挨拶もせず、屋敷の内外を物色し始める、その姿を見た祖父は女に怒りと恐怖を感じた。
すぐに祖父は家にある金を集め、300万程包むと女に見せた、当事は今の貨幣基準から倍以上の価値がある。
二度とこの屋敷には戻らない、出て行く事を条件に金を渡すと、父親所か小夜まで置いて出て行った。
困ったのは小夜の存在だった、既に祖父は息子の婚約相手を決めていた。
隣町の良家との縁談が壊れてしまう、小夜がいては全ての計画が無駄に終わる。
息子に女や小夜の事を聞いて、祖父はある企みを一計した。
父親は女との間には婚姻届はおろか、小夜の出生届けすらも出していなかった。
小夜さえ隠してしまえば全ては上手く行く、祖父は部屋の一室に小夜を隠し、
その間に隠し部屋を作って、小夜を誰にも見つからないように閉じ込めた。
小夜の面倒は人間ではばれてしまう、実装石に全てを任せた。
家の実装石で一番頭が良く、働き者のタミに小夜の世話、外部との接触全てを任せた。
父親はそんな祖父の行動に何度も抗議をしたが、子供の頃から押さえ付けられていた父親は、
それ以上の事が出来ず、せめてもと小夜の元へ毎日父親は会いに行った。
祖父はそんな父親の行動も許さなかった、毎日祖父は父親を怒鳴りつけ、
やがて父親も、小夜に会いに行く回数が減っていった。
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翌日わたしは朝食を手早く取ると、日記を持って父親の部屋へ行った。
父親は私を見ると怪訝そうな顔をしたが、黙って部屋に入れてくれた。
日記を父親に渡すと、数ページ読んだ所で私が畳んだ、
父親は読みたい素振りを見せたが、待っていられない話が先だ。
観念したのか、小夜について話し出した。
話を聞いた私は、写真の裏に小夜が書いてあった言葉を、何となく理解した。
(わたしはここにいるけど、ここにはいない)自分の境遇を書いていたんだ、
小夜の存在を知る物は、この屋敷では父親と祖父だけだ、他には実装石のタミとミミ。
誰も小夜の事を知らない、小夜は自分の事を知って欲しくて私に日記を託した。
私は父親から日記を奪うと小夜の部屋へ向かった、今なら会えるそんな気がした。
ここにいるけど、ここにはいない・・父親が死んでしまえば小夜の存在は、記憶からも消えてしまう。
あの部屋で一生を過ごし友達は実装石だけ、誰にも知られる事無く生きて来たんだ。
祖父が来た時、祖父から小夜は酷い目に会ったんだろう、
ミミが扉の前で守っていたのは、父親も祖父側の人間だと知っていたから。
キィー
扉は開いていた、扉の近くにタミが立って奥の方へ目配りをした。
部屋の中央には丸い机と椅子が置いてある、そこには少女が座っている。
座っているのは小夜だ、膝にはミミを抱えミミも抱きついている、やっと姿を現した。
背格好からは、自分より少し年上に感じる。
小夜はこちらに気づくと、自分の座っている反対側の椅子を指差した。
私は従うまま黙って椅子に座る、話したいが何を話して良いか分からなかった。
小夜の話を聞いた私は何も話せなかった、顔を見るのもなぜか悪い気がした。
『初めましてかしら、みどりちゃん』
最初に声を出したのは小夜だった、小夜の声は自身の無いような震える声で、
私に話しかけてきた、隠し部屋で聞いた声と一致した、小夜は話を続ける。
『ごめんね・・・みどりちゃん』
『あなたを屋敷に閉じ込めているのは私なの』
『林に入って来た時、タミにお願いして連れて来たんだ』
私は小夜の話を黙って聞いていた、小夜は私に何をしてもらいたいのか気になったからだ。
『この屋敷は不思議なの、屋敷で死ぬと魂は屋敷に残ったままになる、
みどりちゃんが見ている全ては、屋敷に縛られてしまった人達・・』
私は御遍路の親子を思い出した、縛り付けているのは恨みを持った御遍路親子なのか。
私の心が分かるのか、小夜はその事について話し始めた。
『お遍路の魂は既にここには無い・・母親は殺された時から無かった、
娘の方もあの日以来、恨みを晴らせたから今は消えているわ』
あの日・・・あの日って何だろう、
御遍路の恨みが消えているなら、未だに縛り付けている物とは一体。
縛り付けている物とは小夜ではないのか、私は小夜に聞いてみた。
『小夜ちゃん・・・あのねお爺様やお父さん、
それにお母さんの事、今でも恨んでる』
小夜は少しうつむくと、震えた声で話し出した。
『お母さんの事は憶えてないから分からない、お父さんは今でも大好きよ、
あまり来てくれなくなってからも、いつもお父さんを待っていたわ』
『お爺さんは大嫌い、たまに来ると小夜にいつも酷いことを言うの、
それに殴ったりした、ミミやタミも小夜と一緒に殴られたわ』
『でも我慢できた・・その後に待っていれば、お父さんが必ず来てくれたし、
ミミやタミも一緒だから』
私は小夜の言った、あの日の意味を知りたくて質問をした。
『小夜ちゃん・・・あの日ってどういう意味』
小夜はミミを優しく降ろすと、立ち上がり私に近づいて来た。
私は動こうと思ったけど体が動かない、小夜は私の顔の近くまで来ると呟いた。
『私を見つけて・・・』
私は目の前が真っ白になる、最初に見たあの夢と同じ感覚だ。
小夜は私に何かを見せたいのだろう、わたしは気を失ってしまう。
そして私はあの時と同じで、見たくなかった夢を見る事になった。
小夜の元にいきなりの訃報が届く、父親が死んでしまったのだ。
届けたのは祖父だった、部屋に入るなり祖父は小夜に恨みをぶつけた。
『息子は死んだ、お前のせいだ!』
『お前がいたせいで結婚もしなかった』
『お前は疫病神だ!』
『この家も跡取りがいなくなった・・』
『お前になんぞ跡は継がせん、汚らしい女の子供が!』
言いたい事を言うと、祖父は部屋から出て行った。
タミに聞くと、父親が死んだのは本当だった、
兄と一緒の病気で突然倒れて、そのまま死んでしまった。
小夜の部屋には実装石以外、来る者はいなくなってしまう。
小夜はベッドに座り扉を見ている、扉からいなくなった父親が来てくれるかもしれない。
そんな日を夢見て何日も過ごしている。
ガチャ
入ってきたのはタミとミミだ、タミは小夜に何か話し始める。
「小夜様、タミは今日でお別れデス」
「タミも生贄に選ばれたデス」
小夜は驚いて理由を聞いた、小夜専門の実装石が、生贄に選ばれる訳が無いからだ。
「タミだけじゃ無いデス」
「儀式に集まる人達全部の実装石が。生贄にされるデス」
小夜の父親は屋敷に戻ってからは、頑として生贄を反対してきた。
現在の当主である父親の意見は絶対である。
ここ数年生贄は行われていないが、集落の者達は不満だった。
毎年何回も行われる実装石の虐殺、集落の者はその残虐性に快楽を憶えていた。
生贄を隠れ蓑にして、何かしらの理由を付け、事あるごとに虐殺を繰り返した。
自分の手を汚す訳ではない、可哀相なお遍路の親子の為だと、
もっともらしい理由があれば良かった。
今年は当主の死で、反対するものは誰もいない。
押さえられていた集落の者達の欲望が、一気に吹き出てしまう。
その欲望は自分たちの飼っている実装石全てを、生贄へと意見が通ってしまう。
小夜専用の実装石も祖父の差し金で、その中に含まれている。
タミはミミを小夜に預けると、お願いをする。
「この仔だけは死なせたく無いデス」
「小夜様に預けるデス、最後まで一緒にいさせてくださいデス」
小夜はタミにも一緒に隠れるように説得するが、タミは聞こうとはしなかった。
ミミもタミに掴まって、必死に引っ張っている。
「テチャァ!行っちゃ駄目テチ」
「ミミと一緒に、ここにいるテチ」
「ママのご主人様は小夜様テチ」
「だからここにいれば良いテチ」
タミはミミに話をした。
「どうせみんな死ぬデス・・・」
「ママには分かるデス」
「だからその時までミミは、小夜様と一緒にいるデス」
タミは死ぬ前だと言うのに、しっかりとした口調で話した。
「祠の人がタミに話してくれたデス」
「儀式が始まったら小夜様は、隠し部屋で隠れるデス」
「祠の人が守ってくれるデス」
「実装石達は、ただでは死なないデス」
タミの決意に小夜は観念した、せめて最後に抱いてお別れをした。
『ここに来てからずっと一緒だったね』
『もう会えなくなるなんて、淋しいわ』
「小夜様と一緒の時は、タミが生きてきて一番楽しかった時デス」
「また会えるデス、いつか・・絶対デス」
タミは部屋を出て行った、小夜は泣いているミミを抱くと、
部屋の鍵を掛け、隠し部屋に入っていった。
隠し部屋で隠れていると、夜になり屋敷中が騒がしくなる。
儀式に集まってきた集落の人間だろうか、笑い声が屋敷中に響いている。
隠し部屋の小窓からは、祠に向かう神主のかっこをした人達が歩いて行く、
暫くすると、神主達は祠から下の広場へ戻っていった。
儀式が始まるのだろう、部屋中に響いていた声が聞こえなくなった。
皆、屋敷の外へ出て行った様だ。
小夜はミミを抱いて隠し部屋の壁に持たれかかり座っている、ミミは泣き疲れたのか眠っている。
月明かりが小窓から淡い光りを漏らしている、急に静かになってしまった。
眠っていたミミが起きると、小窓の方へ歩いて行く。
ミミは小窓をじっと見つめている、小夜はミミの行動が気になり、近くへ行った。
『どーしたのミミ・・』
「テチィ・・誰かいるテチ」
小窓から誰かが覗いている!顔は分からないが、暗闇からこちらを覗く目が光っていた。
小夜はミミの手を引いて、身構えた。
シャリン!シャリン!
鈴の音だろうか大きな鈴の音がする、何か白いものが見える。
足だけしか見えないが、まるで御遍路が履いている、白い足袋と伽半の様だ。
小夜はこの足が、ここで首を吊った御遍路の少女だと直感した。
タミの言っていた祠の人とは、御遍路の少女の事だ、少女が小夜を守ってくれるのだろうか。
ミミが何かを言うと少女は小窓を叩き始めた、白い手甲を付けた手で何度も窓を叩いている。
ガツン!ガツン!とかなりの衝撃だ。
針金入りのガラスにヒビが入り、少しづつガラスの破片も飛び始めると、
ガッチャァァァン!!
音と共にガラスは固まりになって落ちてきた、針金入りなので粉々には砕けず、
ガラスを嵌めている枠ごと取れてしまった。
「この部屋を出るテチ」
「祠の人がそう言ってるテチ」
小夜はミミの言う通り、この部屋を出る事にした。
机を枠の取れた窓の下に持ってきて、細い小窓を這い出ると、光りが小夜を誘うように飛んできた。
光りに導かれ、祠を抜け小高い丘まで来ると、一回鈴の音を残し光は消えてしまった。
小高い丘からは、屋敷の前に集まっている集落の人達が見える。
集落の人達は逃げられない様に実装石達を囲み、実装石達は体を寄せ合って震えている。
神主がお祈りを済ますと、実装石達に御祓いをする。
御祓いが終わると、一匹の実装石が台の上に上げられた。
実装石は何が始まるのか分からず、デッスゥンと人間に向かって媚をしている。
集落の若い衆だろうか、何人かの男達が実装石の前に来ると、
いきなり実装石の頭を棍棒で殴り始めた。
「デジュ!」
一撃で脳天を割られた実装石はぐしゃぐしゃに潰され、潰れた実装石を男達は何度も叩いた。
周りで見ている集落の人達の顔は喜びで溢れ、大声で笑い出す者もいた。
それを見ていた実装石達は、いきなりの事に動転して逃げ出そうとしたが、
それを周りの人間が逃がさない様に、慣れた手つきで手にした武器を使い立てた。
若い衆によって次の実装石が上げられた、次は大きな草刈鎌を持った男が、
実装石を切りつける、鎌はキレイに実装石の片腕を切り飛ばした。
実装石は腕がなくなっても、何が起こったの分からなかったが、
血が吹き出る傷口を見て、理解したのか叫び声をあげる
「デジャァァア!!」
腕を押さえ叫び声をあげる実装石の足を、鎌でなぎ払った。
両足とも太もも辺りから切られ、実装石はダルマ落としの様に崩れていく。
「デスゥゥゥ!」
「足が!足が無いジャァァァア!」
残った片手で必死に這って逃げるが、鎌は実装石の背中を地面ごと「デッ」と声を残し刺し貫いた。
実装石が刺さった鎌を持ち上げ見せ付けると、周りの皆は拍手を送った。
10匹ほど殺した後、周りの者は思い思いの武器を片手に、実装石に近づいて行く。
普段は野良仕事で使っている、鍬や鉈を持って実装石に襲い掛かった。
たちまち広場は、実装石の悲鳴で埋め尽くされた、何百匹もの実装石が逃げ惑う。
足を潰されて這いずっている者や、子供を庇って一緒に潰される者。
怒り出して向かって行く者もあったが、人間の前では全く歯が立たず殺された。
実装石の中心に数匹で逃げずに固まっている実装石がいた、実装石は数匹の子供と一緒に、
その場に座り何かを唱えている様に見えた、子供達はあの大広間で見た仔実装、実装石はタミだ。
何人かの人間が近づいて来ると、タミは子供達を強く抱きしめた、
既に覚悟を決めているのか、子供達にも脅える様子は無かった。
逃げ惑うと思っていた男達は調子を外され、つまらなそうに呟く。
『今から死ぬってのに、のんきな奴等だ』
『このまま殺っても面白くないな』
『仔実装から殺っちまおうぜ』
一匹の仔実装をタミから、取り上げると男達は、棒で頭巾を引っ掛け吊るした。
『おい、この仔実装なんか言ってるぞ』
仔実装は泣きながら、必死に男達に訴えている。
「やめてテチ、やめてテチ」
「怖いテチ、人間さんお願いテチ」
「痛い事はやめてテチ」
必死の願いも男達にとっては、被虐心を煽るスパイスにしかならなかった。
『おらよ!』
男達は仔実装が死なない様に、加減をして叩き出す。
ボコ!グシャ!ガス!
叩かれる度に仔実装の骨が折れて鈍い音がする、仔実装は悲鳴を上げる。
「テチャァア!」
瀕死の仔実装を見て男達は、満足したのか仔実装に話しかけた。
『おい!助かりたいか』
『助かりたかったら、次の生贄はお前が決めろ』
「テ・・テヒィ」
様子を見ていたタミが男の足にすがって、仔実装の命乞いをする。
「私がやるデス、私が生贄デス」
「子供を放してデス」
「お願いデス、お願いデスゥ」
ピキ!
吊るされていた、仔実装の偽石が割れた。
「テッ!」
『死んだか・・お前は用無しだ』
ベチョ!
死んだ仔実装の屍骸を地面に叩きつけると、飽きたのか周りの仔実装を男達は殺しだした。
「やめるデス、やめるデス」
「私を殺せばいいデス」
「お願いデスゥ・・う・・うう」
全ての仔実装を棍棒で叩き潰した男達は、タミの泣いている姿を見て興奮している。
『やっぱ、こうでなくちゃなぁ』
『本当だ、泣き叫ぶ奴殺すから面白いんだよ』
タミは潰れて死んだ仔実装達を集め抱えると、男達に恨み言を吐いた。
「殺せばいいデス」
「じきにお前達も死ぬデス」
「せいぜい今の内に、弱い者を殺せデス!」
その言葉を聞いた男達は逆上した、タミに向かって棍棒を何度も叩きつける。
『何様だコイツゥ!』
『調子に乗りやがって!』
『死ねや、コラァ!』
ドカ!ボゴ!グシャ!
頭を割られ、手を潰され、目が飛び出る程殴られたがタミは声も出さず逃げもしない。
最後の一撃がタミの鼻あたりに、振り下ろされる。
「小夜様・・ミミ・・」
「デッジャァァァア!」
大きな声を一回あげるとタミは死んだ。
広場では殺した実装石を山の様に積んで、最後の仕上げに掛かっている。
参加した者達は、何かをやり遂げた様な満足した顔で、最後の仕上げを楽しんでいた。
周りに燃えやすい藁の束を置き、火を点けると藁は一気に燃え上がった。
火を見つめる集落の者達は、何かを忘れたように一心に火を見続けている。
薬でも打ったかのような、恍惚とした表情だ。
後ろの静寂から何かが聞こえる、火がパチパチと煩く聞こえない筈なのに、
その音はみんなの耳に、はっきりと聞こえた。
シャリィン! シャリィン!
鈴の音が聞こえる、集まった者達はじっと音のする方を見つめた。
暗闇からは御遍路の装束を纏った、少女が現れた。
鈴の音は手に持った金剛棒から、発していた音だ。
集まった者達は驚いてしまい、誰も動けずに固まっている。
シャンッ!!
金剛棒で強く地面を叩くと、みんなは膝まづき周りの者達と目を合わせた。
みんなは口々に生贄が効いて、自分たちの前に出て来てくれたんだと、勝手に話を始める。
代表である屋敷の祖父が口を開いた瞬間、少女はもう一度金剛棒で地面を強く叩いた。
シャンッッ!!
「デース」
「デエエ・・」
燃え盛る炎の中から実装石が立ち上がると、死んでいる筈の実装石達が動き出した。
足の無い者は這いずって、折れた手足でぐちゃぐちゃ音を立てて歩く実装石もいる。
この儀式に参加した集落の者達は、逃げ出そうとしたが、足が固まって動けない。
御遍路少女の恨みは生贄を差し出す人間に向けられ、動けなくなった者達は、
燃えながら近づく実装石の前では、なす術も無く次々と殺されて行く。
動かない足を引き摺って逃げる祖父にも、実装石達が埋め尽くして行く。
体中を噛み千切られ実装石の火が燃え移り、恐怖の表情で死んで行った。
実装石達は広場にいた者達を全て殺してしまうと、列を作って屋敷の中へ進んで行く。
炎を纏った体で進む実装石は、まるで送り火の列の様に幻想的だった。
やがて屋敷も炎に包まれ燃え盛り、炎は空高く舞い上がり全ての物を灰にしていく。
小高い丘でその様子を見ていた小夜は、特別な感情も沸かず冷静に様子を見ていた。
自分とは全く関わりの無い人間が殺されて行く、自分を知らない者が死んだだけで自分とは関係が無い。
自分を知る物は目の前にいるミミだけだ、自分にとって最愛の父親は死んでしまった、
それでも生きて行く必要があるのだろうか、何処まで行っても自分は一人なんだと感じた。
ミミを抱えてそのまま眠ってしまう、このまま目を開けなければ、どんなに楽だろうと思う。
翌朝になり広場に下りていくと、殺された人達の黒焦げ死体が散乱している。
御遍路の少女は何処に消えたのか、すでに姿は無かった。
死体を掻き分けて屋敷の方へ行くと、所々で力尽きて燃え落ちている実装石が転がっている。
屋敷は既に崩れており、中に入ることは出来なかった。
小夜はタミの姿を捜したが、黒焦げになった実装石から、タミを捜すのは無理だと分かった
ミミも必死に死んだ実装石から、タミを探している。
小夜はミミを連れてあの祠にやって来た、祠からは以前の様な気味の悪い感じが無くなっている。
実装石の生贄なんて望みもしない物が、ありがた迷惑だったのか。
それとも恨みを晴らした事で、少女の魂は消えてしまったのだろうか。
『実装石が自分のせいで殺されるの、我慢できなかったんだね』
『タミの仇、とってくれたね』
『ありがとう・・』
祠に手を合わせると、小夜の後ろから強い風が吹き付けた。
『キャァ!』
風は祠の上でつむじ風になり、空高く抜けて行った。
『そうか・・・』
『帰ったんだ・・・お母さんの所に』
小夜は祠を後にすると隠し部屋の小窓を覗いた、半地下になっているせいで隠し部屋は無傷だった。
割れた窓から小夜は中に入ってみる、焦げ臭い匂いがするが中は燃えていない。
ミミを抱えると窓の外に出した、ミミは手に抱きついて不思議そうな顔をしている。
『あなたは、ここから出て行きなさい』
『私もう、疲れちゃった』
『一緒にいる必要は無いの・・分かる?』
ミミはじっと小夜の顔を見つめていたが、
「テチィ」と一言声を出すと、広場の方へ走って行った。
『ふぅ・・これで良いんだ』
一回ため息をつくと小夜は椅子に座り、何気なく机を見た。
机には書きかけの日記が置いてある、小夜は自分の日記を読んでみた。
日記の中はタミとミミ、そして父親の事が書いてある、
小夜にとって、日記に書いてある事が一生の全てだった。
写真集に写る風景や町並み、この部屋での生活しか知らない小夜にとって、夢の様な風景だ。
それでも父親が、この状況を何とかしてくれると思って生きてきたが、父親も死んでしまった。
読んだ小説には学校や友達が出て来た、自分の友達は実装石だけ。
それを思うと惨めな自分が、恥ずかしい気持ちになった。
父親が死んだ時点で自分の居場所は何処にも無かった、みんな死んでしまっても、
その状況は何も変らない、小夜はここで誰にも知られずに死んでしまおうと思っている。
「テチィ・・」
ミミが帰って来た、心配そうに窓から中を覗いている、手には一輪の花を持っていた。
『あなたも行く所が無いのね』
『わたしと一緒だ』
ミミを窓から中に入れると、机の上に置いた。
椅子に座りミミを見つめるとミミは花を差し出した、図鑑で調べた所ラベンダーだと分かった。
それからも小夜とミミはいつまでも、この部屋で一緒にいた、孤独な心をお互いが慰めあった。
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夢から覚めると夜になっていた、みどりは林の入口にいた、傍らには実装石の花子が立っている。
現実に戻った事が分かると、みどりは小夜の事を考えて涙が出て来た。
小夜は今でも自分を待っている、あの隠し部屋でミミと一緒に、小夜の境遇を思うと涙が止まらない。
「デスゥ」
何を話しているのか分からない、やっぱりリンガルが無いと分からないのか。
花子が心配そうに覗き込むと、みどりの手を引いた。
花子はみどりの手を引いて、お爺ちゃん家まで連れて来た。
家では夜になっても帰らないみどりを心配して、家中が大騒ぎになっていた。
泣きながら帰って来たみどりを家族で喜んだ、父親や母親は怒っているが、
お爺ちゃんやお婆ちゃんは、泣きながら抱きしめてくれた。
お腹が空いたろうと、家族全員で遅い夕食を取った。
家族全員みどりが心配で、誰も夕食を取っている者はいなかった。
賑やかな夕食を食べている時、みどりは小夜の事を考えていた。
楽しい団欒も小夜の境遇を思うと、気が引けてしまう。
カレンダーの日付を見ると、林に入った日からは全く進んでいない事が分かった。
翌日わたしはお爺ちゃんと一緒に林に向かった、お爺ちゃんに聞きたい事もあった。
なぜ私がこの屋敷を知っているのか不思議がったが、
結局お爺ちゃんは屋敷に連れて行ってくれることになる。
屋敷は林から5分程度の近さにあった、迷った時は何時間も掛かった様に感じたが、
小道を入ってすぐの所に脇道があり、そこを登るとすぐに到着した。
『昔はこの林全部が道だったんだ』
『「」邸はわしが今では管理をしている』
『道楽でやっているんだが、昔酷い事故があってから誰も寄り付かんよ』
私は道すがらお爺ちゃんに色々と聞いてみた。
何年前まで人が住んでいたのか。
当主には子供がいたのか。
当主は結婚しなかったのはなぜか。
そして実装石の生贄をやっていたのか。
話では30年位前に屋敷が燃えて以来、誰も住んでいない。
子供は結婚しなかったのでいない筈、結婚しなかったのは当主が頑なに拒んだから。
実装石の生贄はあの年を最後に、完全にやめてしまっている。
お爺ちゃんは生贄には反対だったから、参加はしていないそうだ。
参加していたらここには、当然いないだろう。
生贄は当事から他の住人も殆どは反対で、一部の住民たちは今でも復活を騒いでいるそうです。
各家に飼っている実装石はその頃の名残で、本来は生贄用だったそうです。
屋敷に着くと今では草木が生い茂り、屋敷の痕跡も探すのが大変です。
お爺ちゃんはなれたもので、木々の間を抜けて玄関まで来た。
玄関は崩れ落ち、昔ここで生活していた事が、嘘のような荒れ振りだ。
私は祠が気になり広場まで戻ると、裏の道を進んでいきました。
お爺ちゃんはなんで、ここが分かるのか不思議そうでした。
祠はお爺ちゃんが定期的に、掃除に来ているらしくあの時のままです。
私とお爺ちゃんは祠に手を合わせると、祠を後にした。
そして問題のあの小窓、私はその場所に行きました。
小窓は見えるのですが既に砂利や石が堆積していて、中には入れません手で掘って見ましたが、
窓の半分まで堆積しているため、無理だと分かりました。
私はお爺ちゃんに、あの部屋へ入る方法を聞くと、
お爺ちゃんは屋敷の、崩れた屋根の中へ入って行きました。
私も続けて入って行きました、狭い空間を抜けると、廊下の突き当りが見えます。
小夜の部屋の周りは崩れていなくて、扉は開きそうです。
扉の取っ手を握ると、ガチャっと扉は開いた。
中に入ると天井の所々は抜け落ちて、記憶の部屋とは大分違います。
雨が入ってカビが部屋中を覆い、触るのも嫌な感じです。
私は、ベッドの脇の床板を外しました、
床板はミミが外した様に外れると、中から取っ手が見えます。
取っ手を回すと、壁からカチリと何かが外れる音がした。
壁を押すと壁の一部は、ガコンと音をたてて外れた。
その様子を後ろから見ていたお爺ちゃんは、目を白黒させて驚いている。
私はお爺ちゃんを、隠し部屋に呼ぶとお爺ちゃんも慌てて入って来た。
中の様子は最初に入った時と同じ様に、埃とカビが溜まり歩くと、モサモサと潰れた。
半分ほど埋まった窓から光りが入っているので、中は意外と明るかった。
私とお爺ちゃんは隠し部屋を見て周り、奥へと向かいます、
そして角の壁に持たれる様に、小夜の死体があった。
小夜の死体は既に白骨化しており、記憶の小夜とは似ても似つかない有様です。
傍らには足に抱きつく様に、ミミの白骨死体もあった。
私はここへ来る時、小夜がここにいる事を確信していました。
「私を見つけて」とは小夜の死体を見つけて欲しかったのだと思います。
私が見つけなければ、未来永劫ここで小夜はミミと一緒です。
小夜はそれを望んでいなかったから、私に呼びかけた。
小夜の足元に小さな埃の山がある、取り上げてみるとあの日記だった。
日記をめくると写真が落ちてきた、私はそれをなくさない様にポケットに入れた。
小夜は私に日記を託した、誰かに自分の存在を知って貰いたかったから。
せめて自分はいつまでも、小夜の事を忘れないでいたかった。
私は埃だらけの日記を抱きしめると、お爺ちゃんの顔を見た。
『この子の墓を立てるから、みどりも一緒に手伝ってくれ』
私はコクリと黙って頷くと、お爺ちゃんにお願いをした。
『小夜・・名前は小夜って言うの』
『ミミも一緒に埋めてあげて』
『忘れないでね、お爺ちゃん』
日記の最後のページには、ラベンダーの押し花があった。
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見張り以来の長編って書きましたが2話完結です、
書いてるうちにテクモのゲームと昔やった、
PSのゲームが混ざってしまった感じになりました。
普通に書いた方が楽ですね、はい。
