「残された日記」
私の名前はみどりと言います、夏休みにママの実家に帰省の為、遊びに来ています。
私は優しいお爺ちゃんやお婆ちゃんに会えるので、毎年楽しみにしている慣例行事です。
小学生最後の夏休みも、後僅かになってしまい、
何気なく探検に林へ入った事が、全ての始まりでした。
都会暮らしの両親は毎年、ママの実家にみどりを連れてきてくれます。
私も大好きなお爺ちゃんお婆ちゃんに会えるので、嬉しくて仕方ありません。
田舎とは言っても、東京から隣の地方都市ですが、
山や川があり、自然で遊ぶには持って来いの場所です。
お爺ちゃんが、みどりを色んな所へ連れて行ってくれるので、
帰省中はいつもお爺ちゃんと一緒です、みどりには優しいお爺ちゃんの事が大好きでした。
お爺ちゃんの家は市街の外れで、大きな道路沿いにあります。
日中、車は多く通りますが、夜中になると淋しい感じになります。
この付近一帯はなぜか、殆どの家に実装石が飼われており、私も不思議に思っていました。
ペットを飼うなら犬や猫にすれば良いのに、何で実装石なんだろうか。
お爺ちゃんの家にも花子と言う名前の実装石がいます、
家の周りをうろついていたので、餌をあげたら懐いてしまったらしいです。
お爺ちゃんは特に花子に対して、愛情を持っているような素振りはありません。
夏休みも後10日位になり、お爺ちゃんに何処かへ連れて行ってと、せがみましたが、
あいにく町内会の会長をしている為、行事があると言う事で行けないと言う事になり、
私は暇を持て余し大きな道路を渡り、とぼとぼと歩いていました。
ふと横を見ると歩道の脇に林があり、舗装のしていない小さな道が続いています。
少し位なら大丈夫入ってみようと、軽い気持ちで小道を進んで行きました。
10分位は歩いたでしょう、見ると何処までも小道は続いていて、みどりを誘っているようです。
急に怖くなった私は、もと来た道を戻って行きましたが、
何分歩いても出口どころか、段々と暗い方へ入って行ってるようです。
一時間以上さまよったでしょうか、とばりが降りてくると周りは真っ暗になってきて、
私はこれ以上動けず木にしがみついて、動けなくなってしまいました。
月明かり以外は全く明かりが無く、恐怖が私を包みます。
周りを見ると暗くて先の方は何も見えません、僅かに月明かりで足元の周りが見える程度です。
じっとしていると、何処かで動物の鳴き声がします、私は恐ろしくて体中が震えました。
なぜあの時、林へ入ってしまったのか、私は膝を抱えて泣き出してしまいました。
すると暗闇の奥から何かの気配を感じました、私は自分の気配を殺すと目を気配の方へ向けました。
ザッザッザッ!
何かが近づいてくる・・
私は木に隠れて、じっと音の方を見つめました。
音は段々と大きくなり、私の心臓がドクンドクンと大きな音で聞こえます。
音の主は光りを連れて、私の目の前までやって来ました。
「デスゥ?」
音の主は実装石でした、手にはライトを持って、私を不思議そうに見つめている。
私はほっとしました、こんな所で出会うのは幽霊や妖怪だと思っていたからです。
『あなた・・何処から来たの』
実装石にはリンガルがないと話が出来ないと聞いた、話しても無駄かもしれない。
「ここで何をしてるデス」
「こんな時間に歩くと危険デス」
良かった話が通じる、私はこの実装石に家に帰るには、どうしたら良いか聞きました。
実装石は家は分からないが、市街地への道なら教えてくれる事になりました。
そして夜中は危ないので、今からでは無理だと言い出しました。
「今日は遅いから無理デス」
私は何とか実装石を、説得しましたが、頑として受け付けてくれません。
『お願い!帰りたいの・・家に帰して!』
実装石は困った顔をして、しょうがないと言う素振りをすると。
「家はやっぱり無理デス・・・でも」
「私のご主人様の家に今日は泊まるデス」
ここに置いて行かれるよりはずっとましです、私は実装石の後をついて行った。
実装石は真っ暗な道を奥へ奥へと、どんどん歩いていく。
私は遅れまいと必死に後を追いました、やがて開けた場所に出たと思うと、明かりが見えた。
明かりの方へ歩いて行くと、それは古い日本家屋でした。
平屋の家には立派な門があり、開けっ放しになっている。
広さはかなりの物で、古くからのお屋敷か何かだと思います。
実装石が門の所で私を呼んでいます、私は実装石に招かれ屋敷の中へ入っていきました。
門を抜けると屋敷の玄関に向かいました、引き戸を開けて入ると玄関は土間になっており、
大きな釜どにはご飯を炊く釜が置かれています、釜の大きさから、かなりのご飯が炊けそうです。
どうやら土間の右側は、台所になっているようです
土間の奥はトイレ・・・いえ便所へ繋がる外廊下が見えます。
左側に屋敷へ続く廊下があります、廊下から実装石が手を振っている、上がれって事でしょう。
薄暗い廊下は歩く度にギシギシと軋む音がして、静かな空間に軋む音だけが聞こえる。
廊下を挟んで幾つかの部屋があり、廊下の先は左に折れ曲がっている。
廊下を左に曲がると明かりの点いている部屋があった、実装石はその部屋で立ち止まり、
「デエー」と一言いうとふすまを開けた。
実装石に招かれた部屋は大部屋になっていて、普段は宴会か何かに使う部屋です。
大部屋には他の実装石もいました、成体が2匹と仔実装が6匹です。
実装石が大部屋に入ると、仔実装達が一斉に駆け寄って来て、
口々にテチィテチィと言っている、ママと言っているみたいだ。
どうやらあの実装石は、仔実装達のママのようです。
その様子を2匹の成体実装が、ヒソヒソと2匹で囁いて見ている。
うつむいたその様子は、何か可哀相な者を見るような目でした。
実装石達は突然の訪問に動じる事も無く、座敷の中央へ私を招いた。
中央には宴会用の長いテーブルがあり、座布団がしかれてある。
座布団に座ると、私を連れて来た実装石が話しかけてきます。
「ここで少し待ってるデス」
「今・・旦那様を呼んで来るデス」
そう言うと実装石は廊下に出て、奥の方へ歩いて行きました。
実装石が出て行くと、他の実装石達も一箇所に固まり、大人しくなりました。
私はこの屋敷に来て、人間の気配が無い事を感じました、それよりも物音一つしない。
実装石は旦那様を連れてくると言っていた、私は何かは分からないけど不安を覚えました。
「・・テチィ」
後ろを見ると仔実装の内の一匹が、私の近くまで寄ってきています。
その仔実装は私の事を珍しそうに見て回ると、一箇所に固まっている実装石に目をやりました。
そしてテーブルに乗っている、きゅうすの所まで行くと成体実装を呼んでいます。
意味が分かったのか成体実装はきゅうすで、湯飲みにお茶を注ぎました。
成体実装は仔実装に、お盆に乗った湯飲みを渡すと、
仔実装は危なっかしい手つきで、フラフラと私に持ってきました。
その様子を見た私は少し緊張がほぐれ、この仔実装に話し掛けてみる事にしました。
「テチ・・どうぞテチ」
お盆からお茶の入った湯飲みを貰うと、喉の渇いていた私は一気にお茶を飲み干しました。
暫く置いていたのだろうか、ぬるい常温のお茶は味があまりしません。
『ありがとう、おりこうさんね』
そう言うと仔実装は照れくさそうに、微笑んだ。
『私はみどりって言うの、あなたの名前は?』
少し間を置いたが、仔実装は小さな声で恥ずかしそうに答えた。
「ミミ・・ミミって言うテチ」
「ご主人様が、つけてくれたテチ」
ご主人様の事を話すミミは、本当に嬉しそうだ、
よっぽどご主人様に、可愛がられているのだろう。
『あなたのご主人様って、優しいの』
「すっごく優しいテチ」
「ママもご主人様の事が大好きテチ」
ご主人様は優しいんだ、私はほっとしました、だって今からここにやってくるであろう、
飼い主が優しいなら、みどりにも優しくしてくれるだろうからです。
そんな事を思っていると、廊下の軋み音が聞こえてきた。
自分よりに重さのある音です、やって来るのは屋敷の主でしょうか。
周りを見るととミミは、いつの間にか成体実装の所へ、戻っていました。
『えっ?・・震えている・・なんで』
他の実装石も一様に不安そうな顔で、寄り添っています。
この部屋の前まで音がすると、私は緊張しました。
ふすまはすぐに開けられ、そこにはこの屋敷の主らしい人が、私を睨みました。
和服を着て威厳のあるいでたちに、この屋敷の主人である事は一見して分かりました。
なんて鋭い眼光なんだろう、子供に向けるこんな目は、私も経験した事がありません。
睨んだのは一瞬でした、でも私には睨みつけた目の方が本心だと、直感で分かりました。
実装石から旦那様と言われている人は、部屋に入ってくるなり私の前に座りました。
入った時とは違い優しい顔になり、色々と聞いてきます。
私はこの近くに住む「」家の者だと言うと、屋敷の主は全て分かったのか自分の事を話しだした。
『申し遅れたが私は、この「」家を預かる当主の「」と言います』
『あなたのお爺様とは、旧知の仲でしてね、遠慮せずにくつろいで下さい』
『お爺様には私から、連絡をしておきます』
お爺ちゃんの知り合いと聞いて、私は安心しました。
明日になったら、お爺ちゃんに色々聞かなければ。
『よ・・宜しくお願いします』
私がぎこちなく挨拶をすると、当主は立ち上がり私について来るように言いました。
当主に続いて、私が部屋を出た瞬間。
めまいがする。
音がしたかと思うと、いきなり目の前が真っ白になり、今までと違う光景が目の前に広がりました。
『ガヤガヤ・・・・ハハハ』
『おい!こっちじゃないぞ!』
『お客様が来てるんだ、急いで作ってくれ』
『「」様の案内を頼みます!』
薄暗かった廊下が急に明るくなり、何人もの人達が忙しく働いている。
横に立っている当主を見ると、さっきの優しい顔から鋭い顔に変っていました。
ガチャン!ガチャン!・・ズゥーズルゥ
玄関の方で鎖に繋がれた実装石達が、人間に引き摺られて行きます、
その顔は皆うつろな表情で、傷だらけの体を追い立てるように、誰かが棒で殴っている。
男は一番後ろの実装石を、おもいきり棒で殴り倒しました。
倒れた実装石に仔実装が駆け寄り泣いています、その仔実装を男は棒で叩き潰した。
倒れた実装石は、死んだ仔実装を抱えて泣いていますが、男は仔実装を取り上げると、
ゴミでも捨てるかのように、無造作に袋につめた。
泣きじゃくる親実装を男が棒で叩いて、玄関の外へ追い立てて行きます。
私はその様子を立ち尽くして見ていましたが、急に恐ろしくり顔を手で覆って震えてしまいました。
ここに入る前には人影も見えなかった、明かりも薄暗く鎖に繋がれた実装石もいなかった。
いきなり悲惨な現場を目撃した私は、速くここから脱出しなければ、そう思うと意識が無くなって行きました。
目が覚めると、私は部屋の一室で寝ていました。
傍らには、私を案内した実装石が座っています。
喧騒の音が聞こえない・・・さっきのは一体・・・
わたしは起き上がると、ふすまを開けて廊下を覗きましたが、薄暗く静かな廊下は物音一つしませんでした。
寝ていた布団に戻ると、私は傍らの実装石に話しをしました。
『あなた・・・名前は』
無表情な実装石は、事務的な口調で答えます。
「はい、名前はタミデス」
『私はみどり、あなたに聞きたい事があるの』
タミは聞かれる事が分かっているのか、自分から話し出した。
「みどり様の聞きたい事は、分かっているデス」
「みどり様の見た物は夢デス」
私の聞きたかった答えだ、でも夢なんかじゃない、光景がしっかりと焼きついている。
『違うわ・・夢じゃない』
『絶対夢じゃない!』
タミは冷静に私の質問に答えた。
「それじゃ何だったデス」
「夢じゃなければ、あれは何デス」
返答しようが無かった・・タミも同じ夢を見ているのか。
『あなたも見たのね・・あの光景を』
タミは思い出したくないのか、うつむいたままだ。
私は質問を代える事にした。
『この屋敷には今、何人の人間がいるの』
「だッ・・旦那様とお爺様の二人です」
「後は私たち実装石が、お手伝いしてるデス」
タミは私の顔を見ようとしない、何かを隠しているようです。
『お爺様って・・』
タミは私の質問を掻き消すように、話し出した。
「みどり様は明日になったら家に帰るデス」
「変な心配はしない方が身の為デス」
「早く寝るデス」
タミはふすまを開けて出て行ってしまった、詮索されたく無いらしい。
私は布団に入り、腑に落ちない事を整理した。
当主の事や実装石の事、屋敷も何処と無く変だ、お爺様とは一体、
夏だと言うのに暑くない、全てがおかしく見えます。
今いるこの空間も、何だか現実味が無い、布団も何となく重く湿っぽい気がする。
色々と考えましたが明日になれば、お爺ちゃんの家に帰るんだし、
私には関係の無い事だと思い、眠りにつきました。
翌朝、私はタミに起こされました、朝ごはんの用意が出来ているので、
大部屋へ来て下さいと、ミミと一緒にやって来た。
ミミはタミの服に掴まり私を見ています、気になったので私もミミをじっと見た。
ミミは恥ずかしそうな顔をすると、タミの後ろに隠れてしまった。
布団の脇には着替えが用意してあり、ワンピースになっている服に着替えました。
服のサイズはぴったりだったんですが、デザインが何処と無く古い感じがします。
大部屋に行くと当主の人は来ていませんでした、代わりに実装石達が私の世話をしてくれています。
朝ご飯を食べながら、昨日の事を思い出しました、当主が入って来た時、実装石達は怯えていた。
ミミはご主人様の事が大好きだと言っていた、ミミの様子からは当主に対して愛情は感じなかった。
『ミミ、ご主人様の事なんだけど』
ご主人様の話に、ミミは嬉しそうな顔をした。
『ミミのご主人様って旦那様なの』
私の答えにすぐ、ミミは返してきた。
「違うテチ、ミミのご主人様は旦那様じゃ無いテチ」
ご主人様は当主では無いのか、それじゃお爺様かしら。
『分かった・・じゃっお爺様ね」
「違うテチ、ミミのご主人様は・・ムグ」
慌ててタミがミミの口を塞ぎました。
ミミは確かに言った違うって、ここに住んでる二人じゃないんだ。
「こっちへ来るデス」
「しょうがない仔デス」
タミはミミを連れて、部屋の端へ行きました。
気になりましたが、どうせ今日ここを出て行くんだ、こんな気持ち悪い所から一刻も早く出なければ、
わたしは朝食を手早く済ませると、当主に会いに廊下に出ました。
当主の来た方角は分かっている、帰る為の話をしようと廊下を進みました
廊下を歩いていると、声がする・・・声のする部屋の前に来ると、突然大声が私を驚かせます。
『何度言ったら分かるんだ!!』
『駄目なものは駄目なんだ!』
『話だけでも聞いて下さい、お父さん』
当主の声だ、話しているのはお爺様ね、一体何を話しているのかしら。
『生まれてしまった物は、しょうがありません』
『生まれたあの子が、悪い訳じゃないでしょう』
『うるさい!お前がしっかりしていれば、こんな事には・・』
『とにかくあの女も、ここに近づけさせるな』
『妻の元へ置いてきて、養育費を払えば分かりません』
『それがあの子には一番の選択です』
『ばれたらどうするんだ、とにかく閉じ込めて置くんだ』
『一生閉じ込めて置けばいい、殺す訳じゃないんだ』
『父さんは自分の保身しか、考えないんですか』
『バカモンが!家の事を考えるのは当たり前だ!』
当主が部屋から出て来そうな勢いです、私は廊下を少し戻り、何食わぬ顔で歩いて来ました。
ガチャッ
扉が開くと当主が苛付いた顔で出てきました、
私に気が付くと表情を見られるのが嫌なのか、顔を隠しました。
私は構わず家まで帰る事を当主に話すと、その事について話し出しました。
『すまないね、今日は用事があって、君を送る事が出来なくなった』
私は当主に道だけでも教えてくれと、せがみましたが、
危険だから一人では無理だと、突っぱねられました。
当主の顔を見ると、嘘を付いているのが分かりました、
私をこの屋敷に閉じ込めて、どうしようと言うのでしょうか。
このままでは埒が明かないので、私は玄関まで外の様子を見に行きました。
玄関を抜け、入口の門を抜け、屋敷の周りを調べてみる事にします。
外に出て気付いた事ですが、外への道が無いのです、
周りは木に囲まれ、何処から入ってきたかも、分からなくなっていました。
でも、道が無いなんてありえない事です、この屋敷は一体・・・
屋敷の裏に回ると、石で出来た階段があります。
階段を登ると、そこには祠がありました、なんの祠かは難しい字で私には分かりません。
何処と無く不気味なその祠は、お札が沢山貼られ、周りの雰囲気から異様な感じを受けました。
私は気味が悪くなり、外の探索はこれで打ち切る事にします。
後は屋敷の中を探索してみます、見つかると怒られそうですが、
なぜか好奇心が沸いてきます、その時はなぜだか分かりませんでした。
後で思ったのですが、私は何かに魅入られていたのかもしれません、
普段ならこんな事はしない筈です、私を誰かが呼んでいる様な気がしたからです。
屋敷に戻り部屋の探索を開始しました、屋敷の部屋は特に施錠されている部屋は無く、
自由に出入りが出来ます、一部屋一部屋、探索を始めました。
なぜかどの部屋も埃を被り、まるで長い間ほったらかしの様な部屋が目立ちます。
実装石も大部屋に固まってる以外、他に何かをする訳じゃありません。
そして一番奥の部屋・・・ここからは何か異様な雰囲気が、
そう私を読んでいる感じは、ここから発していたのです。
私は意を決してこの扉を開きました。
ガチャ・・
中の部屋は他の部屋とは違う、今さっきまで生活していたような臭いを感じます。
『ここは・・他の部屋とは雰囲気が違うわ』
『女の子の部屋みたい、でも誰もいない・・』
部屋の中を探索してみましたが、特に気になる物はありません。
しいて言えば他の部屋とは違い、とてもキレイに掃除はされています。
私は備え付けられている、高級感のあるベッドに腰掛けました。
ベッドに座って私は考えました、直感ですがこの部屋は何かがある、
この部屋だけの独特な造り、当主とお爺様の話、他にも誰かがいる。
そしてその誰かは私を見ているに違いない、この屋敷に来てからの違和感、
それは私に対しての視線なのか、その誰かは私を帰したくないのかも知れません。
私は立ち上がって、誰もいない部屋で話し始めます、誰かがいる事を確信しているかのように。
『見てるんでしょ!あなたは一体誰なの』
『私が気になるんなら、出て来なさいよっ!』
誰かが近づいてくる!一体何処から。
後ろだ!・・後ろの壁から何者かの気配がします。
突然、壁から大きな音が。
ドンッ!・・ドンッ!
ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!
いきなり壁を叩く音が聞こえます、でも音だけで叩いている人は、何処にも見当たりません。
逃げないと・・ここにいたら何かがある。
ガチャ
閉めていた扉が開きました、開けたのはミミです、
ミミはこっちへ来いと言う仕草を見せ、私を呼びました。
『テチャー、みどりちゃんこっちテチ」
ミミの呼びかけに私はこの部屋から出ていきました、出てきた瞬間大きな音はピタリと止みました。
「もう大丈夫テチ」
「ご主人様が怒ったテチ」
あの音がご主人様・・・もう一人の誰かは実装石のご主人様の様です。
私を助けてくれた仔実装のミミは、こっちへ来いと私を誘った。
ついて行くと私が使っている部屋へ、招きいれた。
部屋に入ると実踪石タミが、私が来るのを待っていた。
六畳の広さがある部屋には、小さな机が窓際に置かれている。
実装石の対面に座ると、タミの口が開いた。
「あの部屋に入ったデスね」
私は無言で、コクリと頷いた。
「そうデスか、だったら話は早いデス」
「あの部屋には、私のご主人様がいるデス」
あの音は実装石のご主人だったのか、でも姿が見えないのはなんで・・
『ご主人様って、あの部屋の何処にもいなかったわ』
『音は聞こえたけど、姿は見えなかった』
タミはうつむいてしまった、何か変な事を聞いたのだろうか。
「ご主人様は確かにいるデス」
「みどり様なら見える筈デス」
意味が分からない、私にも見えるなんて。
「みどり様に話しておく事があるデス」
タミは自分が知っている事を私に話した、
話を要約すると、こんな感じです。
ご主人様の名前は、小夜(さよ)と言う女の子で、
意地悪なお爺様に、あの部屋に閉じ込められていると言う。
屋敷にいる子実装達の親は、今は死んでしまっていません、
代わりにタミと他の実装石が、親代わりをしています。
死んだ理由はこの家では、何かある度に実装石を生贄にして、厄除けをする。
親実装は厄除けの生贄になった、ここにいる成体実装も生贄用に飼われています。
タミは元々この家で小夜専用実装石なので、今まで生贄は免れています。
ミミも小夜専用のペットとして、生贄の心配はない。
ここの風習については、当主である小夜の父親に聞いてくれとタミは言います。
タミの話では、父親はけっして悪い人間ではないと言う話だ。
タミは私に、小夜の友達になってくれと言います。
わたしは別に構わないのですが、姿を現さない者にどうやって友達になるのか。
考えていると、今度はミミがあの部屋へ一緒に行こうと、言い出した。
今日は機嫌が悪いから、出て来てくれないからと、明日の朝ミミと会いに行く約束をした。
私はここが現実の世界では無い事を、感じています、
この屋敷に私を閉じ込めて、導いている者がいる。
それならばここを出るには、何かしらの答えが解決になる筈です。
部屋を出ると私は、小夜の父親へ会いに行きました。
父親ならば小夜の事や、生贄の事、そしてお爺様の事を聞き出せる筈。
廊下を歩いて行き、私は父親の部屋の戸をノックしました。
部屋に招きいれた父親は、仕事の途中だったらしく、机の上には本が散乱しています。
部屋の中は当主の部屋らしく、二十畳ほどある洋風の広い部屋で、
大きな本棚には、民話を記した古書や、色んな学術書が置いてある。
壁には今までの当主の、顔写真が飾られています。
父親の写真もありました、そしてが隣がお爺様の写真の様です。
写真のお爺様は頭の半分が禿げ上がり、長い白髪が特徴的で私は良い印象を受けなかった。
『何か用かね、わたしは忙しいのだが』
私は実装石の生贄について、聞いてみました。
父親はこの話に、興味があるのか本棚から一冊の記録書を取り出した。
記録書の内容を見せながら、私でも分かるように丁寧に教えてくれた。
『今ではここも市になっているが、合併する以前ここは村が集まった集落だったんだ。
周りの村からはお祭りがあると、皆ここに集まって来たもんだ。
そして私の家は代々、この集落の庄屋をやっている、今で言う知事みたいなものだ。
ほらここを見てご覧、君の聞きたかった実装石の生贄が、始まった年だ。』
記録書には何と書いてあるのか分かりませんが、指を指した所に贄数二と書いています。
父親は得意そうにこの話を進めている、私に話した所でどうなる物でも無いのですが、事細かく話してくれた。
『段々と生贄の数が増えて来てるだろう、最初は死者を迎える彼岸に親と仔の2匹だったのが、
一番多い時で300匹になっている、本来この集落には生贄なんて風習は無かった』
『ある日、この集落に御遍路の母親と娘の親子がやって来てね、大変だろうとこの屋敷に泊めたんだが、
母親は夜中に屋敷のお金を盗んで、そのまま逃げようとして村人に見つかり捕まった。
子供はまだ小さな女の子で、金を盗んだ母親の命乞いをしたんだが、
親切を踏みにじったと、村人みんなに殴り殺されてしまった、子供は殺さなかったんだが、
母親を殺され生きる希望も無くなったんだろう、翌日この屋敷の林で首を吊って死んでいた』
『村人達も可哀相に思って、丁寧にお墓を作り弔ったんだが、
その年からこの村に不幸な事故が相次いで死人が出た、村人達は親子の祟りじゃないかと噂になった、
皆で寄付を募りこの屋敷の裏に、親子の祠を建てたんだが、一向に事故は収まらない』
『そして誰とも無く生贄が必要だと言い出し、人間に似ている実装石が生贄に選ばれた。
次の年には事故がぴたりと収まり、村人は生贄が効いたんだと思うようになった。
実装石も最初の方こそ、生贄として丁寧に扱われたが、人間の中にある弱い者に対する残虐性が出てしまい、
次第に生贄としてでは無く、ただ拷問をして殺す事を楽しむショーになって行った』
父親はまた本棚から、何か本を取り出した、古くは無い新しい本だ。
『私は以前、東京に住んでいた、この村の雰囲気が好きじゃなくてね、兄が家を継ぐはずだった。
兄は継いだ跡すぐに死んでしまった、私は無理やりこの家に、跡取りとして連れてこられたんだ』
『私が家を継いだ跡は、一切この風習をやめてしまった、父は怒っているが、
生贄で事故が防げている訳じゃない、あの年に偶然、事故が重なっただけだ。
どうしても生贄にしたいんなら、人間がなれば良い、自分達で引き起こした事件だ。』
『つまらないここの暮らしにと、この集落の記録を集め始めて、今では本も何冊か作ったんだ
ほら、君にあげるから持って行きなさい、大人になったら読むと良い』
私は表紙が赤く分厚い本を貰った、今の私じゃ難しくて読めそうに無い。
祠や実装石の謎は解けた、私は父親の娘、小夜について聞いた。
『あの・・娘さんの事ですが』
娘と言う言葉を聞くと、父親の顔が変った。
『わ・・私に娘などおらん!』
『君は何を言い出すんだ・・』
『知らん!知らん!出てい行きなさい!』
父親は私の背中を押すと、無理やり廊下に押し出した。
バタン!
私は廊下に追い出されてしまった、しょうがなく小夜の部屋に足を向けたとたん。
後ろから何かの気配を感じた。
ギシ・・ギシ・・
後ろから誰かが歩いてくる、その気配は立ち尽くしている私を追い抜いた。
気配は父親だった、でもさっきの父親とは違う、薄く透けたその姿は私に気が付く事も無く、
滑る様に小夜の部屋まで歩いて行った。
この姿は昨日私が見た光景と一緒だ、過去の残像が私に何かを訴えている。
その残像は小夜の部屋まで行くと、扉の前で泣いている。
『小夜・・ここを開けておくれ』
『お爺様がここに来たんだろう』
『辛かったろう・・・すまん』
扉の前で父親は小夜に謝っている、すまないと言う顔をして何かを思いつめている。
一体父親は、小夜に何をしたんだろう、お爺様が入って行って、辛かったとはどう意味だろう。
すると私の泊まっている部屋から、ミミが飛び出してきた、
ミミは父親の残像の前で手を広げて、通せんぼをしている。
どうやらミミは、あの部屋のご主人様を守っているらしい。
父親の顔をキッと睨みつけて、ミミは動こうとしない。
すると父親の残像は段々と薄くなり、すーっと消えてしまった。
ミミはほっとした顔をすると、小夜の部屋に入って行った。
気になったので私も、小夜の部屋の扉を開けようとしたが・・・鍵が掛かっている。
ガチャ・・ガチャッ
扉は開かなかった、おかしい・・・この部屋に鍵は掛かっていなかった、
いつの間に誰が鍵を・・中から声が聞こえるミミの声だ。
「ご主人様、合いたかったテチ」
「悪い奴はミミがやっつけたテチ」
『そう・・ありがとうミミ』
小夜の声が聞こえる、この部屋にいるんだ、でも・・何で父親を締め出したのだろう。
「嬉しいテチ、嬉しいテチ」
「ミミの頭をなでなでしテチィ」
『甘えちゃって・・・しょうがない仔ね』
「レチィ」
小夜とミミの話しを扉越しに見ていると、後ろからタミが私を心配そうに見ている。
友達の件を気にしているのか、小夜のいる今がチャンスだわ、私はミミが扉から出て来るのを待った。
30分ほどすると、ミミは仕事があるので、部屋を出ると言い出した。
私はミミが扉から出て来るのを、息を殺して待った。
ガチャ
扉が開いた、私は扉を掴み無理やり中へ入った、足元のミミは驚いて叫び声を上げる。
「テチャァァア」
「ご主人様、逃げてぇぇぇ」
部屋を見回したが小夜はいない、隠れる暇は無い筈だ。
わたしはベッドの下や、鏡台の裏までくまなく捜した。
小夜はいない・・・一体どうして。
やはりあの壁が怪しい、あそこから音がした私は壁を捜した。
手で探ったり壁を叩いたが、何の反応も無い、結局何も見つけられなかった。
いつの間にかタミもこの部屋に来ている、すぐ後ろにはミミが心配そうな顔で私を見つめている。
タミがミミに近寄ると、ミミを説得した。
「ミミ、みどり様に、あの部屋を教えるデス」
「あの扉を、開けて良いのはミミだけデス」
ミミは迷っているのか返事をしない、タミが強く諭した。
「みどり様に会う事が、小夜様の希望デス」
「このままだといつまでも、小夜様はさまようデス」
ミミはタミにコクリと首を振ると、壁に向かって話し出した。
「ご主人様、みどりちゃんは大丈夫テチィ」
「信用できるテチ」
「苛めたりしないテチ」
ミミはベッドと壁の隙間に入っていくと、床の板を一枚剥がした。
剥がした所には、何かの取っ手が付いている。
ミミはその取っ手を回すと、壁からカチリと何かが外れる音がした。
「みどりちゃん、こっちテチ」
「こっちへ来るテチ」
ミミが壁を押すと、壁の一部がガコンと音を立てて外れた。
大きさは子供の私でも、屈んで入らないと入れない程の大きさだ。
「ミミはここで待ってるテチ」
「ここからは、みどりちゃん一人で入るテチ」
私は恐る恐る隠し部屋となっている、小夜のいる部屋に入っていった。
モサ・・モサ・・
隠し部屋は私の考えていた物とは、大分違っている。
隣の部屋とは違い、一面を埃が絨毯の様に敷き詰めている。
歩くたびに埃と、多分カビだろうかモサモサと潰れる感触が、足の裏を靴越しに感じた。
意外と部屋の中は明るい、電気が点いている訳ではないが、
斜面になっている地面越しに、窓が取り付けられており、そこから光りがこの部屋を照らしている。
窓ははめ込み式で、開け閉めが出来なくなっており、針金入りの強固な物だ。
ちょうど半地下のようになっており、外からだとこの窓は、見えにくい仕掛けになっている。
窓から差し込んでくる光りに埃が当たり、部屋中を埃が舞っているのが分かった。
広さは10畳ほどある、意外と広い、左右に広く、前後は狭い長方形の部屋だ。
本棚が入って右側に備え付けてあり、本もぎっしりと置かれている、絵本や童話、
風景や動物の写真集、参考書もある、この部屋の住人は本が好きだった様です。
左側には衣装ダンスが置いてあり、隣に机と椅子が置かれている、ここで住人は本を読んでいたんだろう。
ただ・・小夜がいないミミはこの部屋に小夜がいると言ったが、捜して回ったがいない。
それにこの部屋の環境・・・埃で私の喉もおかしくなりそうだ。
こんな所に長時間はいられる筈が無い、私は一通り部屋を探して回ると。
半地下になっている、窓から外を見上げた。
『祠が見える・・・あの御遍路の親子を祭っている祠だ』
祠の周りを杉の木が囲んでいて、光りが届きにくく暗くじめっと湿った雰囲気に見える。
祠を探索した時は、この窓にも気が付かなかった、小夜はここから私を見ていたんだろうか。
私はふと本棚の置かれている、一番奥を見つめた・・・
いる・・何かいる、陽炎のように空間が歪んだ場所がある。
私がその場所に行くと、陽炎は掻き消すように消えてしまった。
何かのメッセージなんだろうか、私は暫くそこに立っていたが、
足元の床が埃で積もり、不自然に盛り上がっている所を見つけた。
『何だろう・・これ』
埃を手ではらうと、盛り上がっていた物は一冊の日記だった。
『日記だ、小夜の日記かなぁ』
日記の表紙は分厚く素っ気無いデザインの、何処にでもある日記だ、私は表紙をめくってみた。
日記をめくると、中から一枚の色あせた古いカラー写真が落ちてきた。
写真に写る少女は、肩まで掛かる髪の痩せた体で、仔実装を抱えて笑っている。
撮影場所は小夜の部屋で、椅子に腰掛けて微笑む少女は、何処と無く表情に影が見えた。
小夜は薄いブルーの膝まであるワンピースを着ている、よく見ると今私が着ている物と一緒だ。
『写っているのは小夜ね・・・抱えているのはミミだ』
写真の裏を見ると撮影日時が書いてあった、1976年8月・・・30年も前だ。
それにたぶん小夜が書いたのか、あまり上手く無い字で添え書きがあった。
『えーと、わたしはここにいるけど・・・ここにはいない・・』
ここにいるけどいない・・どういう意味だろう考えていると、耳元で誰かが囁いた。
『わたしを見つけて・・・』
振り返ったが誰もそこにはいない、窓から差し込む光りが見えるだけだった。
日記を持って隠し部屋から出ると、タミとミミが心配そうに見つめ聞いてきた。
「小夜様に会えたデスか」
私は首を横に振って答えた。
「そうデスか・・・まだ会う時じゃ無いって事デス」
会っていないと聞いてミミは肩を落としている、小夜に会って欲しかったんだろう。
その日の夜、私は小夜の日記を読んでみた。
日記にはタミが小夜に、懸命に尽くしている事が読み取れた、
小夜もタミには、全幅の信頼を寄せていることが分かる。
父親が訪れた日の、はしゃぎ振りは文面からも、ひしひしと伝わって来て、
なぜ父親は小夜に嫌われたのか、とても気になった。
そしてミミの事は必ず日記に登場するほど、好かれている事が分かった。
ミミとはあの部屋で一緒に生活していたのだろう、毎日の細かい事まで書かれている。
続きが気になったが、半分ほど読むと私は疲れてしまい、眠ってしまった。
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この手の話、書いてみたのですが見直してみると、
整合性に自分でも疑問があります。
1話目で話に無理がある事が分かり、何だか書いていませんでしたが、
最後に全部押し込んだ感じで、難しいですね。
始まりから途中までは説明っぽくなり、だれているなーと感じてしまいました。
