時は江戸、18代将軍徳川家実の世。幕臣 桜田淳衛門が家実に謁見を求めて参上する。 淳衛門にはなんとしても阻止したい議があった。 それは天下に轟いた法令「生類憐れみの令」の再発布であった。 「淳衛門 面を上げい」 ひれ伏す淳衛門は顔を上げ、主君に向けて視線を合わせる。 淳衛門は元近習であり、家実のお気に入りの臣下であった。 未来の老中とするために今は将軍とは離れ、要職を歴任していく予定の男。 今時分に淳衛門が将軍に御目通りを願うなどとは異例と言えた。 「淳衛門よ その方なんの用立てで参ったのだ?」 将軍は足を崩し、畳んだ扇子で指す。 元近習といえど、その距離は手が届かぬほど離れており、張った声でなければ通らぬ。 故に淳衛門は力強く張った声で話す事を心がけた。 「上様、まずはこちらをご覧いただきとうございます」 淳衛門は胸元から葛籠を取り出す、それは掌に収まるほどの大きさであった。 差し出した葛籠を開封する中には緑色の身包みの生き物が寝息を多々て横たわっていた。 「なんだそれは?」 初めて見たその生き物に対して問う家実。 「実装石と申す生き物にございます。城下で今巣食う小鬼の類にございます」 箱が開き、光が差した故か、葛籠の中の実装石は目を覚まし欠伸をかく。 大きく周りを見回すと眼前に将軍。 置かれている状況を察したのか、おあいその仕草をしてみせる。 精一杯の媚びであった。 「この実装石、現在城下にて爆発的に繁殖している生き物」 「発布の法令を実施されますとこの生き物ものその範疇となり申す」 「…そうなろうな」 家実は淳衛門が言わんとしてることを察した、つまりは自分が実施せんする法令を阻止しに参ったわけだ。 「この小鬼がなんだというのだ?愛いではないか?」 家実は近寄り、実装石を手に取った。 「此奴は何を食うのだ?雑穀か、虫か、魚か?」 「悪食故になんなりとも食します、あえて言うなれば好物は金平糖にございます」 淳衛門は紙包をから金平糖を取り出し、実装石に与えた。 奇怪な鳴き声をあげつつ喜び、金平糖と舐め回す。 「ほほう、金平糖が好物か。贅沢な生き物よな」 とはいえ、そのために主君の前にこの生き物を持ち出したわけでもない。 「悪食でなんでも食すとは申しましたが糞や死体、同族の肉すら食い申す」 「この生き物は花粉などで繁殖し数もあっという間に増えまする、今は見廻組が処分しておりますが いずれは江戸中を埋め尽くさんこととなりましょう」 家実はしばらく黙っていたが淳衛門と実装石をみて口を開いた。 「それがどうしたというのだ?」 生類を大切にせよという達しをこれからしようと考える将軍にとってそれが大きな問題には思えなかった。 家実は実装石を手に取り、眺める。 「愛らしい姿をしておるではないか。こやつが繁殖してなんの問題があるのだ?」 将軍は優しく両手で包み込むようにして小鬼に優しい笑みを見せる。 「こういう言った生き物もまた慈しみの心を持って接しなければならぬ」 慈愛の笑みと言葉を理解したのか実装石は恍惚の眼差しで将軍を見つめる。 自分の渾身の媚びが成功したことに安堵し、品性のない笑みを浮かべた。 この先の自分に待ち受けるであろう独りよがりで好都合な境遇に何もかも脱力した。 すると何やら実装石の股から深緑のどろりとした塊が漏れ始めた。 それは鼻が曲がるような臭気を放ち、その場を支配した。 「なんだこれは・・・」 天下の将軍、徳川家実の両手は実装石の糞に塗れた。 「貴様!余を向かって粗相を致すとは!」 実装石は畳に叩きつけられ顔が熟した果肉のように潰れた。 かくして、実装石の活躍により「生類憐れみの令」の再発布は未然に防がれた。 この後、江戸城下では実装石駆除が盛んとなり、多く駆除した者には褒賞が出るようになったと言う。 また捕らえて背腸を外し、洗って新鮮な状態で捌いて食す江戸前実装石なる間食が流行をみせたのは数十年後の話であった。

| 1 Re: Name:匿名石 2023/09/16-22:45:50 No:00007979[申告] |
| お殿様も糞害を直に受ければさすがに考えを改めるよね… |
| 2 Re: Name:匿名石 2023/09/17-02:01:14 No:00007980[申告] |
| 殿、厠蟲として救荒食物にいたしましょう! |
| 3 Re: Name:匿名石 2023/09/25-12:32:26 No:00008022[申告] |
| これにて一件落着でござるな |
| 4 Re: Name:匿名石 2023/11/23-15:12:19 No:00008486[申告] |
| 天下泰平にござる |
| 5 Re: Name:匿名石 2023/11/23-16:21:52 No:00008487[申告] |
| 家実は「いえざね」と読むんだろうけど
実装スクであることを考えると「いえじつ」と読んでしまいそうになるな |