『幸運な実装石』 「オラァ死ねぇ! 糞蟲どもがぁぁぁ!」 「デヒィィーッ!」「デヒャァァァ!?」「た、助けてデスゥゥーッ!」 天井まで積み上げられた小動物用のケージが三方の壁を埋め尽くしている部屋で、目隠しをした男が無数の実装石を蹴り飛ばしていた。 いや、蹴るだけではない。手に持った薪雑棒(まきざっぽう=粗削りな木の棒)で横っ面を殴り、脳天をぶっ叩いてかち割り、 まるでドラ〇ンクエ〇トに出てくる一つ目巨人のように暴れ回る。 この儀式が始まってからもう10分は経っただろうか? 床は赤と緑の血と糞にまみれ、使い捨てのゴム長を履いていなければ一歩も動きたくないほど汚れている。 「よーし、最初の間引きはこんなもんでいいか」 この儀式のために集められた数十匹の野良実装のうち、すでに半数以上が肉片だか糞の塊だかわからないものと化していた。 まだ生き残っている実装石はちょうど十匹。そいつらも手足がもげている者や内臓が飛び出している者が多く、このままでは長くは保たないだろう。 男は目隠しを外して生き残った実装石たちの容態を確認すると、そいつらを足蹴にしながら一か所に集め、一匹ずつ持ち上げて実装活性剤の入ったバケツに沈めていった。 「ムボォォォッ!? ゴボブゴォッ!?」 突然水中に放り込まれ、息ができなくなった実装石がジタバタともがく。しかし足を掴まれて逆さ吊りの状態になっているため、自分ではどうすることもできない。 だんだん意識が遠のいていく。野良実装は数匹の仔らと共に「飼い実装にしてやる」などという甘い言葉に釣られ、この家にやってきたことを激しく後悔していた。 が、本当に意識が途切れかけたそのとき、野良実装はバケツの中から引き上げられた。自分では気づいていないが、その間にボロボロだった体はすっかり元に戻っている。 「ご、ご主人サマ、どうしてこんなことをするデス? ワタシたちは飼い実装にしてもらえたんじゃなかったんデス?」 一匹の実装石がゲホゲホとむせながらも、なんとか男と意思疎通しようと試みる。だが男はその質問には答えず、十匹の実装石たちを次々と大の字のような拘束具に 磔(はりつけ)にしていった。さらに赤い塗料のついた筆を持ち出し、左目にペタペタと塗っていく。 「デゥゥッ!?」 両目が赤く染められたことで、実装石の体が急激に出産モードへと移行する。こうなると己の意志や体調に関係なく、糞袋の細胞が無尽蔵に仔を生産し始めるのだ。 「テッテレ~♪」 独特の産声とともに、立派な体格の仔実装が産み落とされる。強制出産なので肉体的には何の準備もされていなかったが、ちゃんと餌をもらっていたおかげで 栄養状態だけは良かったからだ。 男は生まれた仔をバケツの水でチャプチャプと洗ってやると、そいつを手のひらの上に乗せてじっと凝視した。仔のほうは何が起こっているのか理解していないようだが、 とりあえず目の前に人間がいることに気がつくと、ぺこりを頭を下げて挨拶をした。 「ニンゲンさん、はじめましてテチ。アナタがワタチとママのご主人さまテチ?」 「……よし」 男はそれだけつぶやくと、その仔を壁際に積まれた無数のケージの一つに移した。さらにその間に生まれた四匹の仔も次々に洗って保護粘膜を丁寧に落としていく、 が—————— 「おいドレイニンゲン、今日は世界一カワイイワタチがこの世に生を受けた聖なる日といっても過言ではないテチ。さっさとステーキとコンペイトウを持ってくるテチ!」 「はい不合格っ!」 「チュベッ!?」 一匹の仔が生まれついての糞蟲だと判明した途端、男はそいつを問答無用で叩き潰した。 「そしてお前も不合格ー!」 「デェッ!? エギャァァッッ!」 今度はその親実装が頭をわし掴みにされ、腐ったミカンのように握り潰される。 そんなことが十回くり返された結果、生き残ったのは五匹連続で糞蟲ではない仔を生んだ三匹の実装石だけだった。 「よくぞ生き残った! わが精鋭たちよ!」 三匹の実装石を選別し終えた男はまるで『風雲た〇し城』の司令官みたいな台詞を吐いたが、もちろん実装石たちには何のことだか分からない。 「さて、これが最終選別だ。生き残れたやつは元いた公園に帰してやろう。もちろんタダでとは言わない。きみたちがしばらく食うに困らないだけの食糧もくれてやるっ!」 「デデッ?」 実装石たちは魅力的な男の提案に一瞬喜びかけたが、すぐにその甘い考えを打ち消した。なにせこの男は自分たちを飼い実装にすると言って連れ帰っておきながら このような狂宴に巻き込み、すでに無数の同族を惨殺しているのだ。そんな人間の言葉を鵜呑みにするなど、いくら愚かな野良実装であろうとできるはずもない。 「よし、まずはお前からだ。これにタッチしろ」 そう言って、男は指名した実装石の前に一台のスマホを置いた。その画面には、なんだか時代劇に出てきそうな木の門が表示されている。 「こ、これはなんデス?」 「お前に質問する権利はない。ただ黙ってこれに手を置け」 「デェ……」 最初に選ばれた実装石は、言われるがままスマホの画面に丸い手を当てた。すると画面の中にある門がまばゆいばかりの光とともに開き—————— 『SSR 織田信子』 と書かれた凛々しい女の子の絵が表示された。 「よーーーしよしよし!! よくやったぁ!」 男はいきなり実装石を抱き上げ、頭をわしわしと撫でつけた。まるで最初に彼女を飼い実装にすると言ってこの家に連れてきたときのように。 「だが、まだだ。同じキャラを五枚出さないと完凸にならんからな。さあ、続けて画面にタッチしろ」 「デ、デスッ……!」 なんだかよく分からないが、これと同じことをあと四回続ければいいようだ。実装石は今度は明確な意思を持って、力強く画面をタッチした。すると—————— 『SR 豊臣秀代』 と書かれた、さっきの女の子よりも少し可愛くないキャラクターが表示された。 「なぁぁにをさらしとんじゃこのボケがぁぁーーっ! 十連ガチャ一回分で四千円相当だぞぉ! 分かっとんのかくぉらぁぁぁぁ!!」 「デボォ!?」 男はさっきとはまるで違う鬼のような形相で、実装石の腹にいきなり蹴りを入れてきた。吹っ飛ばされた実装石はケージが置かれていないほうの壁に激突し、 糸が切れた操り人形のようにぐったりする。 が、男の攻撃はそこで止まらなかった。実装石の血と糞まみれの床でも歩けるようにブロックパターンが刻まれたゴム製の靴底で、彼女を何度も踏みつける。 「このアホ! アホ! アホっ! アホウがっ!」 「デベッ! ゴベッ! グベェッ!」 グシャグシャに砕けた全身の骨が体内のあちこちに刺さり、発狂しそうなほどの痛みをもたらす。いや、内臓は最初に踏まれた時点で総排泄孔から糞と一緒に 根こそぎ漏れ出してしまったので、そこに刺さるよりはましだったのかもしれない。 「死ねこの役立たずがぁっ!」 「デブェッハ!?」 男がほとんど肉塊と化した実装石をさらに蹴とばし、さっきそいつが産んだ仔のいるケージに激突させる。それと同時に『パキン』という小さな音がいくつか鳴り響いて、 本人はおろかケージの中にいた五匹のうち三匹が絶命した。おそらく目の前で起こったことを正しく理解してしまったがゆえに、恐怖で偽石が砕けたのだろう。 「はぁ……はぁ……次ィ! お前だぁ!」 「デヒィッ!?」 次に指名された実装石は、恐怖のあまりパンコンしながらすっとんきょうな声を上げた。 「早くしろオラァ!」 「デ、デス……」 男に促され、ぷるぷると震える手で画面にタッチする。すると木の扉が重苦しい音を立てて開き——————『SSR 織田信子』が現れた。 「よっしゃぁぁぁ! よーくやったぁ! いいぞいいぞぉ……あと三枚、お前の命を賭けてタッチしろ」 「は、はいデスゥ……」 そうして実装石は同じことをくり返し、もう二枚『織田信子』を出すことに成功した——————が、最後の最後でハズレを引いた。 「アホかぁぁーーっ! 柴田勝美はもう完凸済みなんじゃぁぁ! 俺が必死こいてイベント周回して貯めた無償石を無駄にすんじゃねぇぇ!」 そうしてその実装石は、さっきハズレを引いた実装石よりも酷い目に遭わされた。なにせ先ほどと同じストンピング地獄に加え、半狂乱になった男は すでに虫の息だった実装石の体から、まるでぬいぐるみでも引き裂くようにあちこちの肉をむしり取ったからだ。 「デェェェーーーーーェ!!! デァァーーーーーーーッッ!!!!!」 『つねる』という行為は、実のところ殴られたり蹴られたりするよりもはるかに痛い。皮膚というのは触覚にあたる神経が張り巡らされているのはもちろん、 手や指先など体の末端に近づくほど通っている神経の数が多く、そのため痛覚も鋭敏になっており、プロレスラーでも泣きを入れるほと痛いのだ。 「デ……!(パキン!)」 痛みに耐えかねた実装石が絶命し、その両目が白濁していく。男はそれを見て冷めきった表情になると、ホラー映画のようにぐるりと首を回して 最後に残った一匹の実装石に目を向けた。 「……お前で最後だ。あと一枚……お前なら俺の目当てのキャラを引けるよな? なにせお前は『幸運な実装石』なんだから」 「デェ……!? な、何が幸運デス? こんなことに巻き込まれて……ワタシは世界一不幸なジッソウデス!」 恐怖のあまりわずかに糞蟲化しかけた最後の一石は、半ばヤケクソになって男に抗議した。どうせ殺されるのなら言いたいことを言ってやろう、という判断である。 「いーや、間違いなく俺が知る限りの中で一番幸運な実装石だよ。なんせ公園にいた無数の野良の中からこの役目に選ばれ、俺が目隠しをした状態で暴れ回って ランダムにぶっ殺す『選別』にも生き残った。しかも最後の最後、あと一枚引き当てれば助かるって状況で自分の番が回ってきたんだ。これはもう運命だよ」 そう、男がここまでやってきたことは、全て『幸運な実装石』を探し出すための行為である。 普通に考えれば、実装石に幸運などというものは訪れない。自らの愚かさや不運のためにあらゆる行為が裏目に出て、最後は必ず不幸になるのが実装石という生物だ。 しかしそんな中、あらゆる不運や理不尽を乗り越えて生き残る実装石がいたとしたらどうだろう? そいつはどんな不運も跳ね返し、逆境になればなるほど幸運を発揮する、 究極のツキを持った存在と言えるのではないだろうか? 男はそう考え、ただでさえ不幸に見舞われることが多い野良実装の中から『どんなに理不尽なことをしても生き延びる個体』を探し出し、ソシャゲのガチャで 目当てのキャラを引き当てるために利用しようとしたのだ。 「大丈夫! できるできる! 君ならできる! だって君は太陽だから!」 どこぞの元テニスプレイヤーが日めくりカレンダーに書いていそうな台詞を吐きながら、男は血走った目で最後の一匹の肩を揺する。彼女はその振動の激しさと あまりの理不尽さに頭がくらくらしそうになりながらも、全てを諦めてスマホにタッチすることにした。 「デゥゥ……もうどうにでもなれデッスァァァァァァ!!!!」 気合一閃、マシュマロのような実装石の手がスマホの画面をぽふりと叩く。そして画面内に表示された木の門が開き、現れたのは——————『SSR 織田信子』だった。 「いぃぃやっほぉぉぉぉい!!!! よくやった! よーくやったぞぉぉぉ!!」 「デデェッ!?」 いきなり男に抱き上げられ、両手を掴んで振り回される実装石。そのまま壁にでも叩きつけられるかと思ったが、男はひとしきり狂喜乱舞した後、彼女を丁重に降ろして 約束どおり元いた公園に親仔ともども解放してくれた。しかも役に立った礼だと言い、防水加工を施された真新しいダンボールハウスと、実装石が使いやすいサイズに 切られた毛布、さらに栄養価の高い実装フードを約三か月分も持たせてくれるという、至れり尽くせりの厚遇ぶりだった。 「けど、本当にいいのか? 俺としてはマジでお前を飼ってやってもいいというか、次のピックアップガチャにもぜひ協力してもらいたいと思ってるんだが……」 「まっぴらゴメンデス! もう二度とワタシたちに関わらないで欲しいデスッ!」 普通の実装石であれば諸手を上げて喜ぶはずの提案だが、この親実装はそれを断固として拒否した。まあ今までに味わった恐怖を考えれば当然の反応である。 「テェ……ワタチたち、ニンゲンさんのおウチで暮らさないテチ?」 「お外はキケンがいっぱいテチ。ニンゲンさんのおウチにいたほうが安全に暮らせるテチ」 「オマエたちは黙ってるデス!」 胎教を施されていなくても本能的に飼い実装への憧れを口にする仔らを一喝し、実装石は男にぺこりと一礼すると公園の奥へと戻っていった。 その日の夜—————— 「デスゥゥゥゥ…………デッスゥゥゥゥ…………」 男の計らいで快適な家と大量の食糧を手に入れ、久しぶりの満腹感を味わった実装石は、精神的な疲れもあってすっかり深い眠りに落ちていた。 普段の彼女であれば、眠るときも周囲への警戒は怠らない。かすかな物音でもすぐに目を覚ますし、ハウスの周囲でおかしな動きをする者がいれば気配で察知できる。 だが、この日の彼女はあまりにもくたびれすぎていた。男の容赦ない拷問によるストレスと、活性剤で無理やり傷を治されたことによる偽石力の消耗、 さらに強制出産によって五匹もの仔を産まされたことなど、体力も精神力もすでに疲弊の極みにあったのだ。 がさり——————ごそり—————— ダンボールハウスの外に、蠢く無数の影があった。このハウスの主である実装石と同じく、以前からここに棲みついている野良実装たちである。 事ここに至っては、もはや詳しく語る必要もないだろう。彼女が命がけのゲームと引き換えに得たものは、嫉妬に狂った野良実装たちに全て奪い尽くされた。 生まれたばかりでまだそれほど小汚くなかった仔らは真っ先に八つ裂きにされ、その場で食われた。 親実装は仔の悲鳴を聞いて飛び起きると同時に大勢に押さえつけられ、実装石同士の争いにおいて力の源ともいえる髪と服を奪われ、なんの抵抗もできなかった。 せっかく手に入れた毛布や食料は根こそぎ略奪され、彼女のもとには一粒のフードすら残されなかった。 ダンボールハウスは四つに引き裂かれ、それぞれを奪い取った実装石たちのハウスを保護する屋根として使われることになった。 そして全てを失った彼女自身も、前日からの疲労と極度のストレスに耐えきれず、偽石を崩壊させて死んだ。 なぜ『幸運な実装石』であったはずの彼女がこのような最期を迎える羽目になったのか。答えは簡単——————男のところで生き残り、多くの物を与えられ、 生きてこの公園に帰ることができた時点で彼女の運は尽きていたのだ。 そして彼女から毛布や食料を奪っていった『幸運な実装石』たちもまた、次の日の朝たまたま公園を訪れた虐待派のヒャッハーたちによって、 奪った食糧をろくに食べないうちに一匹残らず虐殺された。 『禍福は糾える縄の如し』とか『人間万事塞翁が馬』などという慣用句があるが、実装石の一生はやはりバッドエンドにしかならないらしい。 実装石——————それは神にも仏にも愛されず、己の背負った業と運命に翻弄され、好んで寄ってきてくれるのはほぼ虐待派と愛誤派という悲しい生物である。 ———————————————————————————————————————————————————————————— あとがき 久々に実装スク書きました。 まだまだ勘が戻っていないので読みにくいところはご容赦ください。 なんというか……最近ソシャゲにハマってまして(課金はしてないんですが)、無償石でガチャやってるとこういう気分になってくるんですよね。 現実に実装石がいたらこういうことを試して、上手くいかなかったらそいつのせいにしてボコボコにしてやれば仮にガチャで爆死したとしても それほどストレス溜まらないんじゃないかなーと思ってこんなスクを書きました。 『ガチャは人を狂わせる』……ということでw

| 1 Re: Name:匿名石 2023/09/14-15:56:07 No:00007965[申告] |
| いくら実装石と言ってもガチャのために命を弄ぶなんて外道な男だな
まあ実装石だからいいのかもしれない |
| 2 Re: Name:匿名石 2023/09/14-19:21:11 No:00007967[申告] |
| 有償石は実装石よりも重いから…
久々にこれぞ虐待スクって感じで良かった 過去スクも楽しませてもらったから復帰ありがたい |
| 3 Re: Name:匿名石 2023/09/14-21:46:41 No:00007969[申告] |
| >有償石は実装石よりも重い
誰うまw |
| 4 Re: Name:匿名石 2023/09/15-05:33:52 No:00007973[申告] |
| 無償石なんだよなあ…
鬼畜だけど最高レア完凸できるならアリか…? |
| 5 Re: Name:匿名石 2023/09/15-11:13:16 No:00007975[申告] |
| ニンゲンサマの役に立てるなんて実装冥利に尽きるデスー |